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検査の立場から HIV 海外研修に参加して
検査の立場から HIV 海外研修に参加して 臨床検査科 植田 萌 2014 年 2 月 13 日から 2 月 28 日の約 2 週間サンフランシスコ HIV 海外研修に参加した。 私は臨床検査技師の立場でサンフランシスコの様々な施設見学する機会を得たので、アメ リカと日本での検査の違いについて学んだことを報告する。 1. 検査室の様子について 検査室の見学は San Francisco General Hospital(SFGH)で行った。検査室は血液検査室、 輸血検査室、生化学検査室、微生物検査室の4室にわかれていた。病理検査室は全く別の 建物にあり、また生理検査は臨床検査技師が担っているのではなく、専門の看護師など別 の職種が検査しているとの事だった。外来の採血も臨床検査技師ではなく専門の採血技師 が担っており、アメリカでの臨床検査技師は日本での衛生検査技師にあたると思われた。 また、日本には通常ない薬物検査室が別の場所に設置されており、アメリカでは薬物濫用 者が非常に多いという社会的背景から、独立して薬物検査室が必要であるということだっ た。 検査室の外観の様子は日本と大差はなかったが、輸血検査室においては、日本では有効 期限の問題からオーダ後の取り寄せとなる血小板製剤が常備保管されていた。また、微生 物検査室の中には結核専用の検査室が設けてあった。日本でも検査センターなどでは結核 専用の検査室を設けているところもあるが、検査技師への不要な暴露を抑えるためにも当 病院でも積極的な導入が望まれる。 2. HIV 検査における違い SFGH と当院での HIV 検査の流れを説明する(図 1)。SFGH ではまずスクリーニング検 査としてイムノクロマト法(IC 法)を実施する。この IC 法で偽陽性だったときのみ酵素抗体 法(EIA 法)でもう一度検査を実施する。この EIA 法の試薬は 3 世代の抗体検出試薬を使 用していた。 ここで偽陽性のときのみウェスタンブロット法(WB 法)で確認検査を実施する。 一方、当院では化学発光酵素免疫測定法(CLIA 法)でスクリーニング検査を実施し、4 世代 の抗体抗原検出試薬を使用している。そして、陽性または判定保留の検体に関しては WB 法および核酸増幅検出法(PCR 法)で確認検査を必ず実施している。すなわち、サンフラン シスコでは当院より感度の低い検査法で検査されていた。また、日本ではスクリーニング 検査で陽性となったときは必ず WB 法または PCR で確認検査を実施するが、サンフランシ スコでは WB 法や PCR 法はほとんど実施されていない点も興味深かった。 図 1:SFGH と大阪医療センターの HIV 検査の流れ HIV 検査の流れを踏まえて、SFGH と当院における HIV 検査の比較をした(図 2)。施設 見学をする前、検査法は日本と同等の試薬を使用していて大差はないだろうと思っていた。 ところが日本より感度の低い検査法が主流であった。日本で 3 世代の EIA 法や IC 法が使 われている施設のほとんどは中小規模の施設で、大規模病院でこの検査法が使われている ことに驚いた。この背景には、SFGH ではプライマリケアで HIV 陽性と診断された患者さ んが来られるため、日本より感度の低い検査法で十分であるということであった。また、 患者さんはホームレスが多くコストの問題から安い検査法のほうが良いとのことであった。 また、陽性時にはすぐに患者さんのケアできるように検査室から専門チーム「PHAST」の 看護師へ連絡されるシステムがあった。 図 2:SFGH と大阪医療センターの HIV 検査の比較 3. 病理検査について AIDS 関連悪性腫瘍の一つに悪性リンパ腫が挙げられるが、細胞診検体での悪性リンパ腫 の診断は非常に難しく困難である。そこで SFGH では診断にするにあたってどのようにし ているか尋ねてみた。様々な検体で提出されるが、今回は FNA (Fine Needle Aspiration: 穿刺吸引細胞診) 検体での回答であった。穿刺時に 10%ホルマリン溶液に細胞を出しセル ブロック標本を作製し、免疫染色まで実施し組織型の診断まで細胞診検体で行っていた。 感染症のある検体でも直ちにホルマリンへ入れるので、感染性リスクの問題もクリアでき るとのことであった。 次に当院でも導入が検討されている液状細胞診(LBC:Liquid Based Cytology)について 報告する。SFGH では日本で主流になっている Sure Path と ThinPrep の両方が導入され ていた。使い分けされていて、婦人科検体は Sure Path でその他の材料は ThinPrep だっ た。SFGH の細胞検査士によると産婦人科医師からの要望やコスト、検鏡時の細胞像から Sure Path の方が良いとのことであった。しかし、Sure Path は処理に時間と手間が掛かる ので SFGH では使い分けをしていた。この点は今後、当院での環境ではどこの製品が良い か考えていくにあたって大変参考になった。 4. 肛門細胞診について HIV 感染症患者の肛門癌の罹患率が高いことが知られており、その Follow-up として肛 門細胞診がされていた。婦人科検体と同様、判定はベセスダシステムでされていた。HPV の高リスク型、低リスク型の判定はあまり積極的にされておらず、治験で行われる程度と のことだった。日本で肛門細胞診はほとんどされていないので、今後実施される可能性を 考えて、情報収集が必要である。 5. 研修を終えて 検査室の見学をさせていただき臨床検査の分野でも大変勉強になったが、それ以外にも 普段、患者さんにあまり接することのない私にとってはとても有意義な時間であった。患 者さんには暮らす家がない、精神疾患など様々な背景をもっており、これらの問題をまず 解決することで HIV の治療に入っていけるということ。その為に、長期療養施設や様々な サポートチームがあり、それぞれの職種が専門性を活かしてケアにあたっていた。これら のことはとても勉強になり、日本ではこの様な体制作りがまだ不十分だと感じた。現在、 日本では HIV 感染者数が増加傾向にあり、日本での社会的背景を考慮しながらこの様な体 制作りが必要であると感じた。 謝辞 最後になりましたが、この様な貴重な研修を与えていただいた大阪医療センターの皆様 に深く感謝致します。また、現地コーディネーターの小林まさみさん、ディブさん、シン ディーさんに深くお礼申し上げます。