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HSV感染症の病態 初発型と再発型の違い

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HSV感染症の病態 初発型と再発型の違い
Session 2
VZV・HSV感染症の病態
HSV感染症の病態
初発型と再発型の違い
渡辺 大輔
先生 愛知医科大学医学部 皮膚科 教授
するわけではなく、初感染のおよそ9割は不顕性感染と言われている。
HSVの構造と生活環
不顕性感染後に感冒、紫外線曝露、手術、
月経、性行為などの誘因
によりHSVが再活性化し臨床症状が初めて出現した状態を非初感染
初発型と言う。初感染初発型は、非初感染初発型や再発型と比べて
HSVは図1のような生活環で感染・増殖する1)。
まず、表皮や粘膜の
局所の皮膚症状が強く、病変は広範囲に及ぶ。再発時は皮疹出現の
細胞にHSVが吸着・侵入する際、
ウイルス粒子内のテグメント蛋白である
数日前から違和感やそう痒感、軽度の痛みなどの前駆症状が出現する
VP16、
UL41などが細胞質へ放出され、
ウイルスが効率的に感染するよう
ことが多い。
なお、再発頻度には個人差がある。
に作用すると考えられる。
カプシドからHSVのDNAが核内に放出されると、
VP16によってα遺伝子の転写が活性化され、
α蛋白が合成される。
この
γ
α蛋白がトランス活性化因子としてβ蛋白や 蛋白の発現を活性化させる。
表1
HSV感染症の病態
β蛋白はウイルスDNAの合成・複製に関与する。
ウイルスDNAが合成
γ蛋白が合成されてカプシドが生成される。
されると、
そして、
ウイルス
DNAがカプシド内にパッケージングされ、核膜を通過し、細胞質内で
テグメント、エンベロープを獲得して細胞外へ放出される。放出された
一部のHSVは知覚神経に侵入して、三叉神経節や脊髄後根神経節
HSV-1
HSV-2
主な潜伏部位
三叉神経節
脊髄後根神経節
主な感染経路
接触感染
性行為感染
性器ヘルペス
ヘルペス性歯肉口内炎
ヘルペス性ひょう疽
カポジ水痘様発疹症
性器ヘルペス
ヘルペス性ひょう疽
口唇ヘルペス
カポジ水痘様発疹症
性器ヘルペス
臀部ヘルペス
に潜伏する。潜伏中、HSVは潜伏関連転写物(latency associated
主な疾患
transcript:LAT)
だけを発現している状態で存在し、何らかの刺激を
受けると再活性化され、同じ神経支配領域に皮膚病変や粘膜病変を
形成する。
HSVの生活環
図1
LAT
14 潜伏
末梢神経
4 α蛋白の生成
宿主
mRNA
の分解
8 カプシドの生成
細胞質
核
3 ウイルス
DNA の核への
注入と環状化
6
(図2)。所属リンパ節が腫脹し、
口腔内の痛みにより、摂食・飲水が困難
12 エンベロープ獲得
2
カプシドの
核への運搬
と口腔内粘膜や舌、
口唇などに白苔を付着したびらん・潰瘍が多発する
TGN
γ遺伝子
発現の
活性化
α遺伝子の
転写の
活性化
HSV-1の初感染により発症し、主に6ヵ月∼6歳頃までの小児にみられ
るが、
成人でも発症することがある。
感染から2∼7日の潜伏期を経て、
発熱
5 β蛋白の生成
β遺伝子発現
の活性化
● ヘルペス性歯肉口内炎
13 出芽
7 γ蛋白の生成
1 吸着・侵入
UL41
【 非初感染
初発型 【
HSV感染症の病型
15 再活性化
VP16
【
【再発型】
三叉神経節又は
脊髄後根神経節
HSV DNA
【
初感染
初発型
ウイルス
DNA の
複製
となり入院する症例もある。
● 口唇ヘルペス・顔面ヘルペス
11 テグメント獲得
皮膚粘膜に生じるHSV感染症で最も多く、
そのほとんどが再発型である。
主にHSV-1の再活性化により発症する。
口唇ヘルペスは口唇と皮膚の
10 核膜通過
9 ウイルス DNA の
境界部に好発する。典型例では、数日前から前駆症状が出て、
その後
パッケージング
水疱が出現する
(図3)
。
顔面ヘルペスは、
眼部近傍に病変があると角膜
ヘルペスを呈することがある。
図2 ヘルペス性歯肉口内炎
川口寧. 生化学. 84
(5)343(2012)
図3 口唇ヘルペス
(再発型)
HSV感染症の病態
HSV感染症は、HSV-1とHSV-2で型特異的な病態を呈す
(表1)。
また、初感染(初発)
と再発によっても病態は異なる。初発型とは初めて
症状が出現したものを指し、初感染初発型は初めてのHSVの感染により
2歳5ヵ月、男児
症状が出現したものを指す。
しかし、必ずしも初感染時に症状が出現
9
46歳、女性
● ヘルペス性ひょう疽
HSV感染症の再発頻度を決める因子
指尖の傷口などからHSVが感染して発症する。初感染で発症すること
が多いが、
口腔内のHSVから感染することもあり、
指しゃぶりをする乳幼児
などに好発する。主にHSV-1により発症するが、性行為が原因と考えら
● ウイルスの型と再発頻度
れるHSV- 2による発症もある。症状は指尖・爪囲、手掌にもみられ、痛み
性器ヘルペスの再発は、HSV-1に比べてHSV- 2によるものが圧倒的
が強く、
ときにリンパ管炎を起こすこともある。
に多く、
HSVのLATの型が再発に深くかかわると言われている。
モルモット
にHSV-2野生株を経膣感染させて、42日間の累積再発回数を検討
● カポジ水痘様発疹症
した報告では、累積再発回数は経時的に増加した。一方、HSV-2野生
アトピー性皮膚炎
(AD)
やダリエー病、
熱傷患者などの皮膚バリア機能
株のLAT遺伝子を、HSV-1由来のLATのExon1(LAT-E1)
に組み
障害がある患者にみられる。HSVによる播種状で広範囲な皮膚感染症
替えると、HSV-2であっても再発頻度が低くなることが判明した。
さらに、
と定義される。主にHSV-1の初感染によることが多いが、再活性化による
HSV-2野生株のLAT- E1をレスキューすると、再発頻度はHSV-2野生
ものや何度も繰り返す症例も存在する。近年、成人のAD増加に伴い、
株と同程度に戻ることが判明した 3)。以上より、性器ヘルペスの再発頻度
再発型口唇・顔面ヘルペスからカポジ水痘様発疹症に移行する症例
にはLATの型が関与することが示唆された。HSVの型を把握しておく
が増加している。
発熱やリンパ節腫脹などの前駆症状とともに顔面、
頸部を
ことは、
その後の再発頻度の予測や再発予防のために重要である。
中心に多発性の小水疱が出現し、
播種状に拡大し膿疱やびらんとなった
痂皮を形成する
(図4)。
後、
びらん病変は黄色ブドウ球菌などによる二次
● 初感染での潜伏感染ウイルス量と宿主免疫応答
感染を生じ、
伝染性膿痂疹との鑑別が必要な場合もある。
初感染初発型
急性期にHSV-2抗体陰性であった初感染初発型性器ヘルペス患者
の場合は全身症状が強く、
びらん形成による局所の痛みが強い傾向が
457名の前向きコホート観察研究では、初感染の重症度(治癒までの
ある。再発型の場合は、一般的に初感染初発型と比べ軽症となる。
期間)
と再発頻度は相関することが報告された 4)。
また、
ラットを用いた
実験で、HSVの潜伏感染の維持には宿主の免疫応答が関与し、特に
● 性器ヘルペス
潜伏神経節に浸潤しているCD8陽性T細胞の数が関与しているという
本邦では初感染はHSV-1によるものが多い。
また、HSV-2によるものは
報告がある5)。
よって、初感染での潜伏感染ウイルス量や宿主免疫応答
HSV-1によるものに比べて再発頻度が高い。
再発型よりも初感染初発型で
がその後の再発頻度を決定する可能性が高いと考えられる。
症状が強い。
また、男性よりも女性の方が症状が強い傾向がある。高齢
の患者では、再発を繰り返すうちに病変が臀部や下肢に移動して臀部
ヘルペスとなり、帯状疱疹との鑑別が必要な場合もある。外陰部に痛み
を伴う水疱やびらんが生じ、排尿障害を伴うことがある。図 5は初感染
HSVの無症候性排泄
初発型で、
びらん、潰瘍が多発し、痛みと腫脹が強く、排尿障害を伴い、
導尿管理をした症例である。
図4 カポジ水痘様発疹症
図5 性器ヘルペス
HSV感染症の症状が認められない時期でも、口腔内、性器やその
(初感染初発型)
周辺部にウイルスが排泄されている状態を無症候性排泄という。
自覚
症状が全くないため、特に性器ヘルペスでは感染源となり問題となる。
健康人の70%で月1回以上、
口腔内でのHSV-1の無症候性排泄が起
こっており6)、パートナーへの性器ヘルペスの感染の約7割は無症候性
排泄時に起こっていると報告されている7)。
また、性器ヘルペスの既往の
有無にかかわらず、HSV-2抗体陽性の男女498名を対象として約2ヵ月
間性器周囲の拭い液をサンプリングし、PCR法でウイルスDNAを検出
したところ、PCR陽性日数は、既往ありでは20.1%、既往なしでは10.8%で
14歳、男児 アトピー性皮膚炎
あった 8)。
したがって、不顕性感染患者でも比較的頻回にウイルス排泄
19歳、女性
が起こっている可能性がある。
まとめ
HSV感染症の病態に影響を与える因子
HSV感染症はウイルスの型(HSV-1、2)
や感染経路により多彩な
● 皮膚バリア機能の破綻
病態を持つ。皮膚バリア機能や全身の免疫能が病態に関与し、
その
HSVの感染が成立するにはHSVが細胞膜へ吸着することが必須で
再発頻度はウイルスの型や潜伏感染ウイルス量、宿主免疫応答に
ある2)。HSVは主に接触により感染し、バリア機能が低い粘膜からキスや
よって決定されると考えられる。
また、無症候性ウイルス排泄は不顕性
性行為により感染する。一方、皮膚は角質というバリアがあるため、単純に
感染でも頻回に起こっており、臨床上の問題となる。
接触しただけでは感染は成立しないが、皮膚バリア機能が破綻した
部位から感染することがある。例えば、皮膚バリア機能が健全な健康人
1)川口寧. 生化学. 84(5)343(2012)
2)Sedy JR et al. Nat Rev Immunol. 8(11)861(2008)
3)Bertke AS et al. J Virol. 83(19)10007(2009)
4)Benedetti J et al. Ann Intern Med. 121(11)847(1994)
5)Hoshino Y et al. J Virol. 81(15)8157(2007)
6)Miller CS et al. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral
Radiol Endod. 105(1)43(2008)
7)Mertz GJ et al. Ann Intern Med. 116(3)197(1992)
8)Tronstein E et al. JAMA. 305(14)1441(2011)
がエステでケミカルピーリングを行った後に、
再活性化したHSVが播種状
に拡がり、
カポジ水痘様発疹症を発症した症例があった。
その他、
口唇
ヘルペスを発症しているときに髭剃りをしてヘルペス性毛瘡を発症した
症例もあった。
● 免疫不全
免疫不全者の場合、免疫正常な単純ヘルペスの患者と比べて経過
が長く難治性で、
個疹が大きく、
深い潰瘍を形成することがある。
また、
病変
は限局せず多発する傾向がある。
10
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