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全編(報告書全文) - 駿河台メディアサービス

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全編(報告書全文) - 駿河台メディアサービス
2008 年度
明治大学新領域創成型研究費
中国における日本と諸外国への留学生
送出し要因の比較研究
∼IDP 方式の将来予測∼
平成 21 年 3 月
研究代表者
横田 雅弘 (国際日本学部)
序
留学の世界的潮流は、受入れ国、送出し国、受入れライバル国の社会的・経済的・政治
的・教育的な側面のダイナミックな関係の中で決まってくる。その観点から、日本の留学
生 30 万人計画を具体的に策定するためには、(1)先進的な留学生受入れ諸国の政策と戦略を
調査して日本と比較検討する。(2)日本の留学生受入れ機関(大学等)の受入れ認識と現実問題
を把握する。(3)留学生送出し国(特に中国等のアジア諸国)の現地の状況(高校や語学学校、
留学斡旋業者、政府、地方行政などの機関、並びに留学希望者個人)を把握する必要がある。
これまで、本研究グループでは、(1)の観点から「日米豪の留学交流戦略の実態分析と中
国の動向−来るべき日本の留学交流戦略の構築−」(平成 15、16、17 年度科研)を、(2)の観
点から「留学生交流の将来予測に関する調査研究」(平成 18 年度)と「年間を通した外国人
学生受入れの実態調査」(平成 19 年度)と題する 2 つの文部科学省委託研究を行ってきた。
これに続く本研究は、平成 20 年度明治大学新領域創成型研究費の助成を受けて実施され
たものであり、(3)の観点から、中国における他国への留学と日本への留学の国別誘因がど
う把握されているかを現地調査し、豪州の IDP(留学調査・学生リクルート機関)が行った分
析手法を適用して日本と他の受入れ諸国の誘因比較を行った。今回の調査は、中国だけを
取り上げたパイロット的なものではあるが、これら(1)∼(3)の調査を完成させることによっ
て、留学生受入れ 30 万人計画の実現可能性とその障壁を総合的に検討することが可能にな
る。
調査方法はヒアリング、質問紙調査、資料分析であり、全員の検討により進められたが、
主な役割分担は以下の通りである。
・統括責任者(研究代表者):横田雅弘(明治大学国際日本学部教授)
・統括責任者補助:小林明(明治大学国際日本学部特任教授)
・統計分析(多変量解析等):新田功(明治大学政治経済学部教授)
・質問紙調査:坪井健(駒沢大学文学部教授)
・ヒアリング調査:杉村美紀(上智大学総合人間科学部准教授)
・先行研究分析・ヒアリング調査:太田浩(一橋大学国際戦略本部准教授)
・中国調査コーディネーションと質問紙基本統計算出:(財)アジア学生文化協会
報告書の作成については、基本的にすべての章について全員が議論に加わって作成した。
たたき台作成の中心となった執筆陣は以下の通りである。
第 1 部の質問紙調査では、第 1 章第 1 節と第 2 章第 1 節のたたき台を坪井が作成した。
第 2 章第 2 節は坪井、杉村、太田がたたき台を作成した。第 2 章第 3 節は主に新田がまと
めた。第 2 部のヒアリング調査は、中国調査に加わった太田、坪井、新田、横田がまとめ
た。
また、本来は全体を通した分析を掲載するのであるが、現在本調査の枠組みと質問票を
用いて、マレーシアとタイでも調査を進めており、これらの結果を待って、比較できる形
で総合的な分析を行いたいと考えている。このため、本報告書では、個々の章での分析の
みを掲載した。
なお、ヒアリング調査の中国語通訳は、この分野で専門的な蓄積のある熊本学園大学の切
通しのぶ氏が完璧な仕事をしてくださった。また、瀋陽では現東京大学大学院の李天舒氏、
北京においては調査メンバーの教え子である元一橋大学の黄恂恂氏(中国国営放送日本語
部)と元明治大学大学院の鞠維燕氏(新潟市北京事務所)にもたいへん助けられた。北京の質
問紙調査では、東京アジア教育研究所副所長の王錫宏教授にコーディネーションをお願い
し、配布と回収をお引き受けいただいた。また、各訪問機関においては、多くの方々に丁
寧にご対応いただいた。この場をかりて皆様に心より感謝申し上げたい。
最後に、この調査は、平成 20 年度明治大学新領域創成型研究費の助成を受けて実施され
たものであり、研究の遂行にあたっては、明治大学研究知財事務室の手厚いサポートをい
ただいた。心より感謝申し上げる次第である。
2009 年 3 月
研究代表者 横田 雅弘
目
次
序
第1部
第1章
学生アンケート調査
学生アンケート調査の概要
第1節
調査の概要
第2節
調査対象者の属性
第2章
アンケート調査の分析結果
第1節
集計結果の比較分析
第2節
留学魅力度5ヵ国比較
第3節
留学動機の分析
第2部
1
10
ヒアリング調査
1
東北育才教育集団
65
2
東北育才外国語学校
69
3
大連外国語学院
77
4
大連外国語学院留学服務中心
82
5
教育部学位与研究生教育発展中心
86
6
教育部留学服務中心
91
7
嘉華世達国際教育交流有限公司
94
8
北京師範大学教育学院国際與比較教育研究所
付
アンケート調査票
(日本語版・中国語版)
102
2008 年 9 月 3 日∼9 月 10 日
中
国 調
査
第 1 部 学生アンケート調査
第1章
学生アンケート調査の概要
第1節
調査の概要
1.調査の目的とその背景
平成 20 年(2008 年)7 月文科省は「留学生受入れ 30 万人計画」を正式に発表した。2020
年までに在日留学生数を 2008 年の約 2.5 倍にする新しい数値目標である。昭和 58 年(1983
年)発表の「留学生受入れ 10 万人計画」との主な違いは、①企業のグローバル戦略と連携
した「高度人材受入れ策」の一環であること。②それ故に受身的な留学生受け入れ政策と
いうよりも、戦略的に「優秀な留学生を獲得」する戦略である点である。
その実現可能性を探る戦略的研究計画の一環として、在日留学生の約 6 割を占める中国
人留学生の将来動向を探る目的で中国学生アンケート調査を実施した。
本調査(学生アンケート調査)の主な目的は、中国学生が日本留学に関する魅力度と具
体的な障害をどのように認知しているかを日本と競合する留学相手国との比較において、
相対的にどのように認知しているかという主観的イメージを探るものである。
学生が海外留学を行動に移す場合、①教育投資への経済的コストの大きさ、すなわち留
学相手国の大学の知名度や学位の価値、高等教育の質に関する国際的競争力、キャリアア
ップに対する当該国の高等教育の職業的優位性、②生活関連コストの大きさ、すなわち生
活費の安さ、安全、言語的負担や社会資本の整備、大衆文化の充実などの生活のしやすさ、
③具体的な入国や入学しやすさ、④その他親類縁者の有無なども具体的な行動選択を規定
する。
本調査は、具体的な留学決定に至るまでの過程にある留学相手国の留学環境の主観的認
知から、各国の留学魅力度を競争国と対比しつつ探るものである。
こうした調査手法の基本的枠組は、オーストラリアの NPO の大学が中心になって組織さ
れた NPO である IDP オーストラリアが留学生の将来予測をする際に使用した分析手法で
あり、今回はその理論的フレームを参考にして行った。
IDP オーストラリアは、2003 年の報告書で、2025 年までの世界の留学移動を予測する
のに、留学生=消費者という考え方を前提に、マーケッティング手法を用いて留学生の将
来予測を行っている。詳細は、以下の報告書を参照のこと。
IDP オーストラリアは、文献レビューによって留学生が留学相手国を選択する要因を6
つの誘因にまとめ、それぞれの国の留学魅力度を 1997 年時点で、6つの誘因毎に 10 段階
で評価している。しかし、その具体的な評価の仕方はインターネットでのアンケートによ
るとされ、必ずしも信頼性の高いものとは言えない。
今回我々が行った方法は、留学魅力度のフレームワーク等は IDP の分析手法に倣いつつ、
具体的に留学生送り出し国の消費者=学生のマーケッティング調査を実施し、留学相手国
の魅力度を競争相手国と比較するものである。今回は、中国一国の学生調査であるので、
1
適応範囲は狭いが具体的な評価データの信頼性は数段高いものになるだろう。
2.調査項目と調査内容
本調査の調査票は、現地での取り扱いや輸送の利便性を考慮して、A4版用紙 1 枚両面
印刷で行ったので、実質A4版用紙2枚分の調査内容である。大学生を主たる対象にした
が、高校生その他の学生も回答可能なように配慮して作った。
調査全体は、Q1からQ12の 12 項目であるが、大きく分けると、
①基本的属性項目、Q1からQ3まで。Q1。性別・年齢、Q2.出身地、Q3.大学、専門
分野、所属課程、学年など。
②一般質問項目、Q4からQ10 までと Q12。
Q4.学業成績、Q5.勉強意欲、Q6.卒業後の進路、Q7.海外経験の有無、経験
地域、Q8.留学希望、留学理由(複数回答)、留学理由(最大理由)、経費支弁の見通し、
Q9.留学希望地域名(第1位、第2位、第3位)
、Q10.外国語の習熟度(英語、ドイ
ツ語、フランス語、日本語、朝鮮語、ロシア語)
、Q12.日本留学希望理由(複数回答)、
日本留学希望理由(最大理由)など。但し、Q12は日本留学希望者のみに回答を求めたも
のである。
③留学魅力度評価項目、Q11。
Q11の留学魅力度評価は、A∼Mまでの 13 評価項目について米国・英国・豪州・日本・
韓国の 5 ヵ国毎に、
「5.最も評価する」
「4.少し評価する」
「3.どちらとも言えない」
「2.
あまり評価しない」「1.全く評価しない」の 5 件法で尋ねたものである。
その他として評価困難な場合に「0.わからない」を選択出来るように選択肢を用意し
たので、全体では6つの選択肢を用意した。
<6 項目の留学魅力度>
留学相手国を選ぶ主要な誘因を IDP の6項目(教育の質、雇用の展望、コスト、個人の
安全、ライフスタイル、入学しやすさ)の中身を独自に検討して、更に詳細な質問項目に
ブレイクダウンし、調査可能な現実性も考慮して A~M までの 13 項目の質問を設定した。
まず、
①「教育の質」として、我々は以下のような質問項目を用意した。
A.大学の知名度や学位:
その国の大学の知名度や学位をどの程度高く評価しますか。
B.教育の質の高さ:
その国の大学教育の内容や方法をどの程度高く評価しますか。
②「雇用の展望」として、我々は以下のような質問項目を用意した。
C.雇用の展望(就職が有利になるほど高評価)
その国で教育を受けることが、どの程度就職に有利になりますか。
2
③「コスト」として、我々は以下のような質問項目を用意した。
D.授業料の安さ(安い方が高評価)
その国の授業料の安さをどの程度高く評価しますか。
E.奨学金の充実の程度
その国の奨学金の充実度をどの程度高く評価しますか。
F.生活しやすさ
生活費の安さやアルバイトのしやすさなど、生活のしやすさをどの程度高く評価し
ますか。
④「個人の安全」として、我々は以下のような質問項目を用意した。
G.生活の安全
その国の治安や生活上の安心感をどの程度高く評価しますか。
⑤「ライフスタイル」として、我々は以下のような質問項目を用意した。
H.成熟した経済社会への魅力
その国の経済発展や成熟した社会への魅力をどの程度高く評価しますか。
I.大衆文化への魅力
その国の生活様式や大衆文化などへの魅力をどの程度高く評価しますか。
J.言語的負担(負担が少ない方が高評価)
その国で勉学や生活する際に必要とする言語的負担はとの程度ですか。
⑥「入国のしやすさ」として、我々は以下のような質問項目を用意した。
K.入国ビザの取得しやすさ(取得しやすい方が高評価)
その国に留学するためのビザがどの程度簡単に取得できますか。
L.入学しやすさ(入学しやすい方が高評価)
留学に関する情報入手や入学申請しやすさ、手続きのしやすさなど、入学のしやす
さを、どの程度高く評価しますか。
M.親族・知人の人脈の有無(人脈がある方が高評価)
留学に際して、あなたがその国に持っている人脈(親族・知人・友人など)は、ど
の程度ありますか
IDP の全評価項目は、我々の質問紙では、具体的に 13 の質問項目として設定し直された。
我々の 13 の質問項目も大きく分類すると、
「大学評価」に関するAからEの5項目、
「生活
評価」に関するFからJの 5 項目、
「入国評価」に関する K からMの 3 項目に3区分できる。
基本的には、第2節では 13 項目の魅力度を 5 ヵ国で比較している。更に詳細な分析は引き
続き第3節で行い、多角的な分析を行うことになる。
3
第2節
調査対象の属性
1.北京一般学生と日本語専攻学生のサンプル比較
表1−1 調査対象大学とサンプル数
大学名
サンプル数
%
1.北京大学
46
9.4
2.清華大学
41
8.4
3.人民大学
47
9.6
一般学生
4.北京理工大学
51
10.4
5.北京科技大学
46
9.4
6.北京師範大学
78
15.9
7.吉林師範大学
111
22.6
日本語専攻
8.大連外国語大学
71
14.5
区分
合 計
100
図1−1.調査対象の大学別サンプル数
数
111
78
46
41
51
47
71
46
8
.大 連 外 国 語 大
学
7
.吉 林 師 範 大 学
一般学生
6 .北 京 師 範 大 学
5 .北 京 科 技 大 学
4 .北 京 理 工 大 学
3 .人 民 大 学
2 .清 華 大 学
1 .北 京 大 学
120
100
80
60
40
20
0
491
日本語専攻
本調査(学生アンケート調査)対象は、一般学生と日本語専攻学生を分けて別々に対象
者を選定した。一般学生は北京の著名な 6 大学で実施し、日本語専攻学生は東北地方(吉
林省・遼寧省)にある2つの日本語専攻を有する大学で実施した。北京 6 大学の調査は、
北京師範大学を除いてサンプル数を均一化する配慮をしたために、各大学共に 40∼50 票前
後になっている。北京師範大学につついては別に調査依頼したために他の大学より多いサ
ンプル数になっている。東北の日本語専攻学生の場合は、調査依頼者の調査可能数に規定
されたために、2 大学のサンプル数は同一ではない。
一般学生と日本語専攻学生の両者を含む有効サンプル数の全体は 491 票であり、その内
訳は上記の表1−1、図1−1の通りである。
北京の一般学生と東北の日本語専攻学生は、学生の専門課程の基本的性格が異なるため
に個別に集計し、以下「一般学生」(309 票)
「日本語専攻学生」
(182 票)を対比して考察
する。
以下、基本的調査項目についてその概略を紹介する。
4
2.性別構成
表1−2.性別構成(一般・日語比較%)
一般学生
日本語専攻
合
計
男性
115(37.3%)
25(13.7%)
140(28.5%)
女性
192(62.1%)
157(86.3%)
349(71.1%)
NA
2(0.6%)
0(0.0%)
2(0.4%)
計
309(100.0%)
182(100.0%)
491(100.0%)
性別構成は、表1−2、図1−2a、図1−2b の通りである。一般学生、日本語専攻学
生共に、男性より女性の方が多いが、日本語専攻学生に至っては、男性 14%、女性 86%と
圧倒的に女性が多くなっている。日本語専攻学生の調査のほとんどは教室における集合調
査であり、元々の授業受講者の日本語専攻学生の比率に偏りがあり、母集団の偏りが反映
されたものと思われる。一般学生においても男性 37%女性 62%と女性比率が3分の2近く
を占め男性を圧倒している。一般学生の調査方法の大半は、個別面接法や配票調査法によ
る任意のサンブル調査であり、こうした任意のアンケート調査では女性の方に協力的な傾
向があり、それがこの調査結果に反映され、女性比率が高くなったのかもしれない。
3.年齢別構成
表1−3.年齢構成(一般/日語の比較)
一般学生
日本語学生
合計
20歳以下
173(58.5)
89(48.6)
262(54.5)
21-22歳
107(35.9)
88(48.1)
258(53.6)
5
23歳以上
合計
18(6) 298(100.0%)
6(3.3) 183(100.0%)
282(58.6) 481(100.0%)
調査サンプルの年齢構成は、表1−3、図1−3a、図1−3bの通りである。20 歳以
下の学生数の%が最も多く、一般学生の 58%、日本語専攻学生の 49%を占めている。20
歳から 22 歳までの年齢層は一般学生 36%、日本語専攻学生 48%を占めている。23 歳以上
の年齢層については、一般学生が6%、日本語専攻学生3%である。一般学生の方が 20 歳
未満と 23 歳以上が日本語専攻学生より多く年齢のバラツキが大きいが、全体的に見ると一
般学生と日本語専攻学生の年齢構成に大差は見られないといってよいだろう。
4.出身地の構成
図 1−4.出 身地の 構成(一般/ 日語の 比較)
実数
120
101
一般学生
100
日本語学生
80
49
60
40
34
21
17
17
16
16
13
13
11
10
10
5
9
1
9
1
9
8
7
6
6
1
5
54
43
4
4
4
4
4
4
7
13
1
そ の他
宇 夏 回 族 自 治 区
西 蔵 自 治 区
安 徽 省
青 海 省
陜 西 省
甘 粛 省
浙 江 省
山 西 省
広 東 省
雲 南 省
重 慶 市
江 蘇 省
貴 州 省
河 北 省
湖 北 省
新 疆 ウ イ グ ル族
江 西 省
山 東 省
黒 竜 江 省
広 西 壮 族 自 治 区
河 南 省
内 蒙 古 自 治 区
2
遼 寧 省
1
吉 林 省
1
福 建 省
湖 南 省
北 京 市
0
19
四 川 省
20
N
A
一般学生と日本語専攻学生の出身地別のサンプル構成を比較した図表が図1−4である。
北京の一般学生に関しては、北京市が最も多いものの湖南省、四川省、河南省なと 28 省
(特別市・自治区を含む)にまたがっており、全国各地から比較的まんべんなく北京の大
学に来ていることがわかる。東北の日本語専攻学生の場合は、大学が所在する吉林省、遼
寧省にほぼ集約されて折り、地方大学の色彩が強いことがわかる。
従って、この一般学生と日本語専攻学生の比較は、北京の全国クラスの大学群と東北の
地方大学の比較にもなっている。現実に日本留学学生は東北地方出身者が最も多く、東北
の日本語専攻生の動向から日本留学傾向を知るためには、最も妥当なサンプルだと言うこ
6
ともできる。
5.専攻分野
図1−5b.専攻分野<日語>
1.経済・経済管理
1% 2%
13%
1%
2.法律・公共管理・政
治
5.言語
14.その他(文系)
n=182
未回答
無効回答
83%
表1−5a、図 1−5a に見られる通り、一般学生の専攻分野は多岐に亘っている。
「4.
7
教育・心理」が 68 サンプルで最も多かったが、「3.文学・歴史・地理」の 52 サンプル、
次いで「14.その他(文系)」41 サンプルと続いているが、
「6.物理・生物・化学」32 サ
ンプル、
「8.工学」32 サンプルと理工系のサンプルも多い。
「1.経済・経済管理」22 サ
ンプル、
「2.法律・公共管理・政治」12 サンブルで社会科学系サンプルが少ないのは、北
京大学や清華大学などの総合大学や理工大学や科技大学などの理工系大学は調査対象にな
っていたが、社会科学系の専門大学を調査対象としていなかったためと思われる。
日本語専攻学生の専門は、当然日本語専攻であるが、図1−5bをご覧いただくと、「言
語」83%の他に、13%が「経済・経済管理」となっている。主専攻「言語」の中で副専攻
で「経済・経済管理」分野を専攻している学生もいるので、そうした学生による回答と思
われる。なお、この場合の専攻分野で「言語」という回答は日本語専攻学生を対象にした
調査なので日本語専攻ということになる。
6.学年構成
表1−6 学年構成(一般/日語比較)
一般学生
日本語学生
1年
9(3)
1(1)
2年
145(45)
112(62)
3年
67(22)
48(26)
4年
79(25)
19(10)
実数(%)
NA
9(5)
2(1)
合計
309(100)
182(100)
表1−6、図 1−6a、図 1−6は、学年構成を示している。中国の新学期 9 月-10 月にか
けての調査であり、新入生は1%程度でほとんど調査対象外になっている。その代わりに 2
年生の比率が高く、一般学生の 45%、日本語専攻学生の 62%に達する。3 年生、4年生が
それに続き、一般学生では 3 年生 22%、4 年生 25%である。日本語専攻学生は 3 年生 26%、
4年生 10%で日本語専攻生の 4 年生の比率が少ない分、2 年生が多くなっている。つまり、
一般学生より日本語専攻学生の方が平均的学年構成は低学年に偏っていることを示してお
り、そうしたサンプルの偏りも分析の際には注意しておく必要があろう。
8
7.学業成績
表1−7 学業成績(一般/日語比較)
(単位:人)
最上位(10%) 上位(40%まで) 中位(60%まで) 下位(90%まで) 最下位(90%まで)
一般学生
日本語学生
44
16
112
64
118
66
27
27
5
5
合計
306
178
図1−7学業成績(一般/日語比較)
日本語学生
16
一般学生
64
44
0%
66
112
20%
27
118
40%
60%
最上位(10%)
上位(40%まで)
下位(90%まで)
最下位(90%まで)
5
27 5
80%
100%
中位(60%まで)
本調査では、別の項目との関連を調べるために調査対象者の学業成績も尋ねている。表
1−7、図1−7がそれである。
質問形式は、成績を5段階に区分してどのランクに該当するかという簡単な方法である。
母集団のバラツキを考えると、単独質問の回答結果はほとんど意味をなさないが、回答者
の回答分布の概要を把握するために記載しておきたい。
回答選択肢は「最上位」「上位」「中位」「下位」「最下位」の5ランクであるが、そ
れぞれ順位数を上位 10%まで、40%まで、60%まで、90%まで、90%以下と具体的に定め
て尋ねている。自己申告であるので回答者が自分の成績順位を正しく回答しているかどう
かは、判断できない。
結果を見ると、一般学生に「最上位(10%以内)」の回答者が 14.4%であり、少し多め
である。日本語専攻学生は「最上位(10%以内)」が 9.0%で概ね妥当な回答数である。次
の「上位(40%まで)」は、一般学生、日本語専攻学生いずれも 36%台である。しかし、
「中位(60%まで)」は、一般学生 38.6%、日本語専攻学生 37.1%とほぼ同じである。
中位までの合計は、本来は成績上位者の 60%までであるが、回答者の数を見ると一般学
生では 89.6%、日本語専攻学生 82.1%が上位者 60%までと答えている。いずれも自己好意
的に評価を示す結果であるが、その傾向は一般学生により強い。より競争的な社会環境に
ある首都北京の一般大学生と地方都市である東北地方の大学生の違いを示しているのかも
しれない。
9
第 2 章 アンケート調査の分析結果
第1節 集計結果の比較分析
1.Q5 (勉強意欲)
表2−1−1 Q5.勉強意欲
日学
日学
一般
36
20%
56
87
48%
168
51
28%
71
6
3%
12
2
1%
1
0
0%
1
182
100%
309
1.強い
2.やや強い
3.やや弱い
4.弱い
5.未回答
無効回答
総計
0%
10%
図2-1-1
20%
Q5勉強意欲
30%
40%
50%
60%
20%
18%
1.強い
48%
2.やや強い
3.やや弱い
23%
28%
54%
日学
一般
3%
4%
4.弱い
5.未回答
一般
18%
54%
23%
4%
0%
0%
100%
1%
0%
Q5 では、中国学生の勉強意欲の程度を尋ねた。回答形式は、「あなた自身、大学の勉強に対
する意欲は、どの程度だと思いますか」という単純に勉強の意欲度を尋ねるものである。回答形式
は「強い」「やや強い」「やや弱い」「弱い」の4件法で回答してもらっている。
結果は表 2-1-1、図 2-1-1 の通りである。北京の一般学生で最も多いのは「2.やや強い」(54%)
であり、過半数に達する。次いで「3.やや弱い」(23%)である。しかし、「1.強い」(18%)「2.やや強
い」合わせた勉強意欲の「強い」グループは、72%に達し、「3.やや弱い」「4.弱い」(4%)を合わせ
た 27%とは圧倒的な差が見られることから、北京の一般学生は総じて勉強意欲の強い人たちが多
いということが出来る。
しかし、東北地方の日本語専攻学生も最も多いのは「2.やや強い」(48%)であり、半数近くに達
する。次いで「3.やや弱い」(28%)であるが、「1.強い」(20%)と「やや強い」を併せた勉強意欲の強
いグループは 68%であり、72%の北京の一般学生ほどではないにしても、東北地方の日本語専攻
学生も勉強意欲の強い人たちが圧倒的に多いことがわかる。
詳細に比較すると「1.強い」と回答した割合は日本語専攻学生が 20%であり、一般学生の 18%
10
を2ポイント上回っているが、必ずしも有意な差と見なすことは出来ない。
また、日本語専攻学生は「やや弱い」(28%)でも一般学生の 23%を5ポイント上回っている。従
って、勉強意欲は、全体としては一般学生と日本語専攻学生との間に平均ではあまり差は見られ
ないが、日本語専攻学生の方が、一般学生よりバラツキは若干大きいといえる。
2.Q6 (卒業後の進路)
表2−1−2 Q6.卒業後の進路
日学
日学
一般
1.中国私企業
3
2%
12
2.政府機関・国営企業
20
11%
58
3.外国系企業
95
52%
66
4.学校教師(小中高校)
3
2%
13
5.大学教師・研究者
19
10%
83
6.自営企業の経営
15
8%
32
7.その他
7
4%
12
8.まだ考えていない
9
5%
12
未回答
0
0%
3
無効回答
11
6%
18
総計
182
100%
309
一般
4%
19%
21%
4%
27%
10%
4%
4%
1%
6%
100%
図2-1-2 Q6卒業後の進路
0%
1.中国私企業
10%
2%
20%
11%
3.外国系企業
10%
8%
6.自営企業の経営
52%
27%
日学
一般
10%
4%
4%
5%
4%
7.その他
8.まだ考えていない
無効回答
60%
4%
5.大学教師・研究者
未回答
50%
19%
21%
2%
40%
4%
2.政府機関・国営企業
4.学校教師(小中高校)
30%
0%
1%
6%
6%
Q6 では、中国学生が卒業後に希望する職業を尋ねた。回答形式は、卒業後に希望する職業を、
「1.私営中国企業に就職する」「2.政府機関や国営企業に就職する」「3.外国系企業に就職する」
「4.小中高などの学校教師になる」「5.大学教師や研究者になる」「6.自分で会社を経営をする」「7.
その他(具体的に:)」「8.まだ具体的に考えていない」の 8 つの選択肢の中から 1 つ選ぶというもの
である。
結果は表 2-1-2、図 2-1-2 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答されたのは、「3.外国
11
系企業に就職する」(52%)であり、過半数を超えている。本調査では、その中身を詳細に尋ねてい
ないが、具体的には、この「外資系企業」は日本関連企業とみなしてよいであろう。
一般学生で最も多く回答されたのは、「5.大学教師や研究者になる」(27%)であり、次いで「3.外
国系企業に就職する」(21%)、「2.政府機関や国営企業に就職する」(19%)が続いている。北京の一
般学生の調査は、北京大学や清華大学などの一流大学(重点大学)の学生が多く、それだけに第
1 希望として「大学教師や研究者になる」という研究者志向が強く現れたものと思われる。日本語専
攻学生の「研究者志向」は 10%であり、7ポイント差である。また、52%過半数の日本語専攻学生
が外国系企業への就職を望んでいるのに対し、一般学生のそれは 21%と比較的少なく大差があ
る。外国系企業への就職に対する意識が両者の間でかなり違うことがわかる。その代わり「政府機
関・国営企業」を希望する学生は、日本語専攻学生の 11%に対して一般学生は 19%と、8ポイント
差がありかなり多くの学生が国家公務員を志望している。それも北京のエリート学生の所以であろ
う。
いずれにしても、日本語専攻学生の外国系企業への就職を希望する意見が目立つ結果となっ
ている。このことは日系企業における高度日本語人材として活躍することを期待して日本語を学ん
でいる学生が過半数であるということを示している。
3.Q7 (海外経験)
1.経験なし
2.経験あり
未回答
無効回答
総計
表2-1-3 Q7.海外経験有無
日学
日学
その他
178
98%
270
4
2%
35
0
0%
4
0
0%
0
182
100%
309
図2-1-3
0%
20%
Q7海外経験有無
40%
60%
1.経験なし
2.経験あり
未回答
無効回答
その他
87%
11%
1%
0%
100%
80%
100%
87%
2%
11%
98%
日学
0%
1%
一般
0%
0%
Q7 では、自身の海外経験の有無を尋ねた。回答形式は、選択肢「1.経験なし」と「2.経験あり」で
海外経験の有無をまず尋ね、「2.経験あり」の回答者に、行ったことのある国を以下の選択肢から
すべて答えてもらうものである。国・地域の選択肢は、「1.アメリカ合衆国」「2.カナダ」「3.イギリス」「4.
フランス」「5.ドイツ」「6.ロシア」「7.日本」「8.韓国」「9.中国(香港)」「10.台湾」「11.タイ」「12.シンガポ
12
ール」「13.マレーシア」「14.オーストラリア」「15.ニュージーランド」「16.その他(具体的に:)」の 16 ヵ
国と地域である。
結果は表 2-1-3、図 2-1-3 の通りである。日本語専攻学生・一般学生共に、最も多く回答された
のは、「1.経験なし」(日本語専攻学生 98%、一般学生 87%)だった。この結果から中国学生の多くは
海外経験が無いことがわかる。中国人の海外渡航は近年都市在住の富裕層を中心に盛んになっ
て来たとはいえ、まだ一般的とは言えず、こうした結果は当然かもしれない。しかし、北京の学生を
対象にした一般学生は 11%が「海外経験あり」と答えているのは大変多い数であり、海外経験の内
容を尋ねてはいないので中身は不明であるが、エリート学生の家族的背景を想像させるに十分な
結果である。
海外経験のある地域の結果は、表 2-1-3-1、図 2-1-3-1 の通りである。非常に少ない海外経験
地域を複数回答で答えてもらった結果であるが、一般学生では、「9.中国(香港)」(15 人)の回答
が他国・地域に比べて目立って多い数字になっている。その他では米国(7人)、韓国(7人)、仏国
(6人)日本(6人)、独国(5人)、台湾(5人)、シンガポール(5人)が続いており、欧米・アジアの間
で特別な偏りは見られない。これに対し日本語専攻学生の海外経験者全体が 8 人と更に少ないの
であるが、中国(香港)が3人で最も多く、タイ、シンガポール、マレーシア、豪州が各1人であり、ア
ジア地域に回答が集中する傾向があるが、残念ながら日本経験者はいなかった。
表2-1-3-1 Q7.海外経験地域 (MA)
日学
日学
一般
1.米国
0
0%
7
2.カナダ
0
0%
1
3.英国
0
0%
4
4.仏国
0
0%
6
5.独国
0
0%
5
6.露国
1
1%
4
7.日本
0
0%
6
8.韓国
0
0%
7
9.中国(香港)
3
2%
15
10.台湾
0
0%
5
11.タイ
1
1%
3
12.シンガポール
1
1%
5
13.マレーシア
1
1%
2
14.豪州
1
1%
2
15.ニュージーランド
0
0%
3
16.その他
0
0%
0
未回答
0
0%
0
無効回答
0
0%
0
総 計
8
−
75
13
一般
2%
0%
1%
2%
2%
1%
2%
2%
5%
2%
1%
2%
1%
1%
1%
0%
0%
0%
−
図2-1-3-1
0%
1%
1.米国
0%
2.カナダ
3.英国
0%
0%
0%
4.仏国
0%
5.独国
0%
Q7海外経験地域 (MA)
2%
3%
4%
5%
6%
2%
1%
2%
2%
1%
1%
6.露国
7.日本
0%
2%
8.韓国
0%
2%
2%
9.中国(香港)
0%
10.台湾
5%
日学
2%
1%
1%
1%
11.タイ
12.シンガポール
一般
2%
1%
1%
1%
1%
13.マレーシア
14.豪州
15.ニュージーランド
0%
16.その他
0%
0%
0%
0%
未回答
1%
4.Q8 (海外留学希望)
表2−1−4 Q8.海外留学希望
日学
日学
一般
1.大いに望む
88
48%
61
2.少し望む
77
42%
136
3.あまり望まない
14
8%
81
4.全く望まない
2
1%
26
未回答
1
1%
5
無効回答
0
0%
0
総計
182
100%
309
一般
20%
44%
26%
8%
2%
0%
100%
図2−1−4 Q8.海外留学希望
0%
10%
1.大いに望む
20%
30%
無効回答
60%
48%
42%
44%
8%
3.あまり望まない
未回答
50%
20%
2.少し望む
4.全く望まない
40%
1%
26%
8%
日学
一般
1%
2%
0%
0%
14
Q8 では、将来海外留学を望むか否か尋ねている。回答形式は、自身が海外留学をどの程度希
望しているかを、「1.大いに望む」「2.少し望む」「3.あまり望まない」「4.全く望まない」の 4 段階尺度
で回答してもらうものである。
結果は表 2-1-4、図 2-1-4 の通りである。総じて、一般学生より日本語専攻学生の方が海外留
学希望を強く望んでいる傾向がハッキリ読み取れる。日本語専攻学生で最も多く回答されたのは
「1.大いに望む」48%であり、半数近くの日本語専攻学生が海外留学を強く希望している。一般学生
の「1.大いに望む」20%であるから、その差は 28 ポイント差で日本語専攻学生の海外留学希望の大
きさがわかる。また日本語専攻学生の場合は「2.少し望む」42%と合わせた「海外留学を望む」全
体グループは 90%に達していることから、日本語専攻学生のほとんどは海外留学を望んでいること
になる。それに対して一般学生の「2.少し望む」44%と合わせた「海外留学を望む」全体グループ
は 64%である。これも決して海外留学希望比率として少ない数字ではないが、日本語専攻学生の
90%とは 26 ポイント少ない数字であり大差がある。
そして当然、日本語専攻学生の大半は日本留学希望者と見なすことができるので、こうした結果
は日本語専攻学生が潜在的渡日留学生であり、日本留学予備軍になることを示している。逆に言
うと、日本語専攻学生を増やすことが、日本留学希望者を増やす道になることを示している。
一般学生の海外留学希望者の場合、「2.少し望む」が最も多かったのであるが、次いで多いの
は「3.あまり望まない」26%である。日本語専攻学生の場合、最も多いのは「大いに望む」であり、第2
位は「2.少し望む」であり、「3.あまり望まない」は 8%でしかない。従って、「3.あまり望まない」「4.
全く望まない」の「望まない」グループ全体でも、日本語専攻学生は8%しかないのに、一般学生は
26%+8%で 34%に達している。いずれにしても日本語専攻学生全体の海外留学希望度の強さ
が読み取れる結果である。
ただし、日本でこのような調査をした場合、どれ程の学生が海外留学を望むと回答するかを考え
ると、一般学生の 20%が「大いに望む」と回答し、「少し望む」を合わせて「望む」者が 64%に達す
るという中国の一般学生の数字は、決して少ないものとは言えないだろう。
15
5-1.Q8-SQ1 (留学理由:MA)
表2−1−5−1 Q8-SQ1留学理由:MA
日学
83
142
108
57
11
35
115
38
72
7
5
0
0
673
1.高度な技術・知識の修得
2.外国語の修得
3.有利な就職のため
4.現状からの脱出のため
5.家族・知人の勧め
6.金を稼ぐため
7.国際的視野の拡大のた
め
8.高い学位取得のため
9.国際的仕事に就くため
10.海外に家族がいる
11.その他の理由
未回答
無効回答
総 計
日学
46%
78%
59%
31%
6%
19%
63%
21%
40%
4%
3%
0%
0%
一般
115
83
73
45
8
38
149
37
60
3
2
5
0
618
一般
37%
27%
24%
15%
3%
12%
48%
12%
19%
1%
1%
2%
0%
図2−1−5-1 Q8-SQ1.留学理由:MA
0%
10%
20%
30%
40%
1.高度な技術・知識の修得
37%
50%
60%
70%
78%
59%
24%
31%
15%
5.家族・知人の勧め
90%
46%
27%
3.有利な就職のため
80%
3% 6%
12%
19%
日学
7.国際的視野の拡大のため
48%
12%
9.国際的仕事に就くため
63%
21%
40%
19%
1% 4%
11.その他の理由
1%3%
0%2%
Q8-SQ1 では、先の Q8 で「留学」のための海外渡航を、「1.大いに望む」「2.少し望む」に○印を
付けた回答者のみを対象に、留学を希望する理由について尋ねた。回答形式は、留学を希望す
る理由を、以下の選択肢からすべて回答してもらう複数回答である。
選択肢は、「1.高度な知識や技術をマスターするため」「2.外国語をマスターするため」「3.有利な
就職のため」「4.自己の現状から脱出するため」「5.家族・知人が勧めるから」「6.金を稼ぐため」「7.
国際的視野の拡大」「8.学位取得のため」「9.国際的な仕事につくため」「10. 家族・親族・知人が外
国にいるから」「11.その他(具体的に:)」の 11 個である。
結果は表 2-1-5-1、図 2-1-5-1 の通りである。日本語専攻学生で留学希望理由として最も多く
16
一般
選択されたものは「2.外国語の習得」(78%)である。次いで「7.国際的視野拡大のため」(63%)、「3.有
利な就職のため」(59%)が続いている。全体的に日本語専攻学生は、国際的視野拡大ももちろん
であるが、外国語の習得や有利な就職のような実際的な面から留学を望んでおり、留学理由が具
体的で明確な特徴が見られる。
それに比べて一般学生の場合は、海外留学希望度が日本語専攻学生に比べて弱いことも関係
して、回答選択数が少なく、その比率が日本語専攻学生を上回った選択肢はない。一般学生で最
も多く回答されたのは「7.国際的視野拡大のため」(48%)であり、次いで「1.高度な技術・知識の習
得」(37%)が続いている。他の項目はすべて 3 割を下回っており、一般学生の海外留学志望理由
が日本語専攻学生ほど具体的で明確でないことを示している。
日本語専攻学生の回答率第三位であった「13.有利な就職」59%は、一般学生では 24%しかなく、
35 ポイントも差がある。こうしたことを加味すると、一般学生は漠然と海外留学を国際的視野拡大や
教養・学習の面から望んでいると言えるだろう。それは実際的な面から海外留学を望んでいる日本
語専攻学生とは対照的な結果である。
5-2.Q8-SQ2 (留学理由:SA)
表2−1−5−2 Q8-SQ2.留学理由:SA
1.高度な技術・知識の修得
2.外国語の修得
3.有利な就職のため
4.現状からの脱出のため
5.家族・知人の勧め
6.金を稼ぐため
7.国際的視野の拡大のため
8.高い学位取得のため
9.国際的仕事に就くため
10.海外に家族がいる
11.その他の理由
未回答
無効回答
総 計
日学
10
44
38
11
1
8
33
2
16
0
1
17
1
182
17
日学
5%
24%
21%
6%
1%
4%
18%
1%
9%
0%
1%
9%
1%
100%
一般
36
4
26
9
1
10
73
7
16
0
2
122
3
309
一般
12%
1%
8%
3%
0%
3%
24%
2%
5%
0%
1%
39%
1%
100%
図2−1−5−2 Q8-SQ2.留学理由:SA
0%
5%
5%
1.高度な技術・知識の修得
2.外国語の修得
10%
40%
45%
6%
1%
0%
4%
3%
18%
日学
24%
一般
1%
2%
9.国際的仕事に就くため
5%
9%
0%
0%
1%
1%
9%
未回答
無効回答
35%
24%
3%
6.金を稼ぐため
11.その他の理由
30%
21%
7.国際的視野の拡大のため
10.海外に家族がいる
25%
12%
8%
4.現状からの脱出のため
8.高い学位取得のため
20%
1%
3.有利な就職のため
5.家族・知人の勧め
15%
39%
1%
1%
Q8-SQ2 では、留学を希望する理由の中で最も大きいものは何かを尋ねた。回答形式は、先の
Q8-SQ1 の選択肢の中から、留学を希望する第一の理由を 1 つだけ回答してもらう単一回答形式
であり、先の複数回答形式とは異なっている。
結果は表 2-1-5-2、図 2-1-5-2 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答されたのは、「2.
外国語の習得」(24%)で、次いで「3.有利な就職のため」(21%)、「7.国際的視野拡大のため」(18%)
が続いている。上の複数回答形式で尋ねたときと同様に、外国語の習得、有利な就職、国際的視
野の拡大に回答が集まる結果となった。この設問からも、日本語専攻学生は海外留学を望む理由
として実際的なものを選びやすいことがわかる。
未回答を別にすると、一般学生で最も多く回答されたのは、「7.国際的視野の拡大」(24%)であり、
複数回答形式と同様の結果となっている。一般学生の他の選択肢の回答率はいずれも 2 割を下
回っており、これらの理由で海外留学を望んでいる一般学生は少ないようである。
日本語専攻学生で回答率の高かった「2.外国語の習得」、「3.有利な就職のため」の、一般学生
の回答率は 1 割台と低く、ここからも日本語専攻学生と一般学生で留学を望む理由の違いが現れ
ている。「7.国際的視野の拡大」(日学 24%、一般 18%)のみが、日本語専攻学生・一般学生の両者
共に海外留学の理由として高い回答率が出ている点で特徴的である。いずれにしても複数回答の
結果で見られた傾向は、単一回答でも同じ傾向であった。すなわち、実際的で具体的な理由を持
つ日本語専攻学生と抽象的で一般的な理由に留まる一般学生に区別できる。
18
5-3.Q8-SQ3 (経費支弁の見通し)
表2−1−5−3 Q8-SQ3 経費支弁の見通し
日学
30
100
29
8
15
0
182
1.十分ある
2.少しある
3.あまりない
4.全くない
未回答
無効回答
総 計
日学
16%
55%
16%
4%
8%
0%
100%
一般
22
92
65
20
110
0
309
一般
7%
30%
21%
6%
36%
0%
100%
図2−1−5−3 Q8-SQ3.経費支弁の見通し
0%
10%
1.十分ある
7%
20%
30%
16%
4%
4.全くない
21%
日学
一般
6%
8%
未回答
60%
55%
30%
3.あまりない
50%
16%
2.少しある
無効回答
40%
36%
0%
0%
Q8-SQ3 では、海外留学をするとして、費用支弁の見通しはあるか尋ねた。回答形式は、留学費
用支弁の見通しがどの程度あるか、「1.十分ある」「2.少しある」「3.あまりない」「4.全くない」の 4 段
階尺度で回答するというものである。この経費支弁の見通しは、留学希望の現実的可能性を調べ
る測度である。
結果は表 2-1-5-3、図 2-1-5-3 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答されたのは、「2.
少しある」(55%)であり、次いで「1.十分ある」と「3.あまりない」が共に 16%で続いている。「2.少しあ
る」「1.十分ある」の 2 つを合わせた「費用支弁の見通しがある」グループは、71%であり、日本語
専攻学生の多くに費用支弁の現実的可能性があることがわかる。
未回答を別にして、一般学生で最も多く回答されたのは、「2.少しある」(30%)であり、次いで「3.
あまりない」(21%)が続いている。一般学生の「2.少しある」と「1.十分ある」(7%)とを合わせた「費
19
用支弁の見通しがある」グループは、37%であり、一般学生の比率は日本語専攻学生 71%と比較
すると、34 ポイントも少ない。約半分であり、費用支弁の面から見て見一般学生の海外留学の現実
的可能性は低い値である。逆に言うと、日本語専攻学生の留学希望者は、その希望の程度の強さ、
理由学理由の具体性、経費支弁の見通し現実的可能性、いずれの面から見ても、潜在的留学生
としての現実性を持った存在であると言うことができる。
6.Q9 (留学希望地域)
留学希望国:第一希望
表2−1−6−1 Q9 留学希望国:第一希望
1.米国
2.カナダ
3.英国
4.仏国
5.独国
6.露国
7.日本
8.韓国
9.中国(香港)
10.台湾
11.タイ
12.シンガポール
13.マレーシア
14.豪州
15.ニュージーランド
16.その他
17.希望しない
未回答
無効回答
総計
日学
8
2
3
3
2
0
158
1
0
0
0
2
0
2
0
0
1
0
0
182
日学
4%
1%
2%
2%
1%
0%
87%
1%
0%
0%
0%
1%
0%
1%
0%
0%
1%
0%
0%
100%
20
一般
167
9
37
21
13
1
18
12
4
0
1
7
1
5
2
4
2
5
0
309
一般
54%
3%
12%
7%
4%
0%
6%
4%
1%
0%
0%
2%
0%
2%
1%
1%
1%
2%
0%
100%
図2−1−6−1 Q9.留学希望国:第一希望
0%
20%
4%
1.米国
3.英国
1%
3%
2%
4.仏国
2%
2.カナダ
5.独国
6.露国
1%
8.韓国
10.台湾
11.タイ
12.シンガポール
13.マレーシア
14.豪州
15.ニュージーランド
16.その他
17.希望しない
未回答
無効回答
60%
80%
100%
54%
12%
7%
4%
0%
0%
7.日本
9.中国(香港)
40%
87%
6%
1% 4%
0%
1%
0%
0%
0%
0%
日学
一般
1%
2%
0%
0%
1%
2%
0%
1%
0%
1%
1%
1%
0%
2%
0%
0%
Q9 では、留学を希望する地域を尋ねた。回答形式は、以下の選択肢から留学を希望する国(地
域)を、第1希望から第三希望までそれぞれ回答してもらうものである。選択肢は「1.アメリカ合衆
国」「2.カナダ」「3.イギリス」「4.フランス」「5.ドイツ」「6.ロシア」「7.日本」「8.韓国」「9.中国(香港)」
「10.台湾」「11.タイ」「12.シンガポール」「13.マレーシア」「14.オーストラリア」「15.ニュージーランド」
「16.その他(具体的に:)」「17.希望しない」の 17 ヵ国(地域)である。
第1希望の結果は、表 2-1-6-1、図 2-1-6-1 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答され
たのは「7.日本」(87%)であり、ほとんどの日本語専攻学生が留学先の第一希望国として日本を挙
げていることがわかる。一方、一般学生で最も多く回答されたのは「1.アメリカ合衆国」(54%)であり、
過半数を超えた。次いで「3.イギリス」(12%)、「4.フランス」(7%)が続いている。「7.日本」(6%)は第4
位の留学希望国(地域)ということになる。
大半の日本語専攻学生、つまり 87%の日本語専攻学生は最も希望する留学先として日本を選
び、一般学生は過半数の 54%が米国を選んでいる。つまり、一般に中国人学生に希望留学先とし
てあげられる国(地域)は、米国又は英語圏(米国 54%、英国 12%、カナダ3%、豪州2%、ニュー
ジーランド1%など、計 72%)であるが、日本語専攻学生に関しては、それよりも多い 87%が日本
留学を希望しており、米国でさえ4%しかいない。日本語専攻学生に関しては、英語圏全体(米国
4%の他は英国2%、カナダ、豪州各1%で、ニュージーランド0%)でも8%でしかない。一般学生
では希望留学先として英語圏に及ばない日本(6%)も日本語専攻学生の間では圧倒的な希望留
学先(87%)となる。この結果は今後の在日留学生獲得の主戦略として活かすべきであろう。
21
留学希望国:第二希望
表2−1−6−2 Q9.留学希望国:第二希望
日学
51
10
17
23
7
1
16
15
4
3
0
2
0
20
1
2
0
10
0
182
1.米国
2.カナダ
3.英国
4.仏国
5.独国
6.露国
7.日本
8.韓国
9.中国(香港)
10.台湾
11.タイ
12.シンガポール
13.マレーシア
14.豪州
15.ニュージーランド
16.その他
17.希望しない
未回答
無効回答
総 計
日学
28%
5%
9%
13%
4%
1%
9%
8%
2%
2%
0%
1%
0%
11%
1%
1%
0%
5%
0%
100%
一般
44
30
67
30
13
6
29
8
20
0
1
13
1
25
8
3
1
10
0
309
一般
14%
10%
22%
10%
4%
2%
9%
3%
6%
0%
0%
4%
0%
8%
3%
1%
0%
3%
0%
100%
図2−1−6−2 Q9.留学希望国:第二希望
0%
5%
10%
15%
1.米国
9%
3.英国
7.日本
2%
2%
9.中国(香港)
11.タイ
0%
0%
0%
13.マレーシア
0%
0%
15.ニュージーラ…
17.希望しない
0%
0%
無効回答
0%
0%
3%
28%
13%
22%
9%
9%
6%
1%
1%
1%
1%
8%
30%
10%
10%
4%
4%
1% 2%
25%
14%
5%
5.独国
20%
日学
4%
一般
8%
11%
3%
3%
5%
第2希望の結果は、表 2-1-6-2、図 2-1-6-2 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答され
たのは「1.アメリカ合衆国」(28%)であり、次いで「4.フランス」(13%)「14.オーストラリア」(11%)が続い
22
ている。一般学生では、最も多く回答されたのは「3.イギリス」(22%)であり、次いで「1.アメリカ合衆
国」(14%)、「4.フランス」(10%)が続いている。
第2希望でも日本は第4位の希望留学先である。いずれにしても日本は希望留学先の第1位に
なっていない。英語圏を除けばフランスが希望留学先の第2位であり、日本は言語的順位で言え
ば、一般学生には、英語圏、フランス、日本というように第3位の希望留学先に過ぎないと見なすこ
とができる。
留学希望国:第三希望
表2−1−6−3 Q9 留学希望国:第三希望
1.米国
2.カナダ
3.英国
4.仏国
5.独国
6.露国
7.日本
8.韓国
9.中国(香港)
10.台湾
11.タイ
12.シンガポール
13.マレーシア
14.豪州
15.ニュージーランド
16.その他
17.希望しない
未回答
無効回答
総 計
日学
18
16
20
35
10
2
9
5
7
1
0
16
0
22
4
3
0
14
0
182
日学
10%
9%
11%
19%
5%
1%
5%
3%
4%
1%
0%
9%
0%
12%
2%
2%
0%
8%
0%
100%
23
一般
21
17
47
34
23
7
31
15
24
4
1
23
4
26
1
4
3
24
0
309
一般
7%
6%
15%
11%
7%
2%
10%
5%
8%
1%
0%
7%
1%
8%
0%
1%
1%
8%
0%
100%
図2−1−6−3 Q9.留学希望国:第三希望
0%
5%
10%
1.米国
3.英国
11%
4.仏国
11%
5%
1%
6.露国
3%
日学
一般
9%
7%
0%
1%
8%
1%
0%
12%
2%
0%
16.その他
2%
1%
8%
8%
未回答
無効回答
8%
0%
0%
14.豪州
17.希望しない
5%
1%
1%
12.シンガポール
15.ニュージーランド
10%
4%
9.中国(香港)
13.マレーシア
19%
7%
5%
8.韓国
11.タイ
15%
2%
7.日本
10.台湾
25%
9%
6%
5.独国
20%
10%
7%
2.カナダ
15%
0%
0%
第3希望の結果は、表 2-1-6-3、図 2-1-6-3 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答され
たのは「4.フランス」(19%)であり、次いで「14.オーストラリア」(12%)、「3.イギリス」(11%)が続いている。
一般学生の場合、最も多く回答されたのは「3.イギリス」(15%)であり、次いで「4.フランス」(11%)、「7.
日本」(10%)と続いており、日本は第3希望の留学先でも第3位であり、一位にはならない。
第1希望、第2希望の留学先の希望順位の傾向は第3希望で見てもハッキリしている。中国の一
般学生の希望留学先は、英語圏(米国・英国・カナダ・豪州・ニュージーランドなど)、フランス、そし
て日本の順序である。日本語専攻学生の場合も第2留学希望国(地域)の第1位は米国であった
が、第3留学希望国(地域)の第1位はフランスであり、英語圏、フランスの希望順位は、日本を除
けば一般学生同じである。希望留学先が英語圏希望から日本希望へ、フランス希望から日本希望
へ希望留学先を移行するとは容易ではない。こうした留学希望先は強固である。こうした結果を踏
まえた上で日本留学希望者を増やすには、高等教育段階での日本語教育機会の充実すること、
具体的には日本語専攻学生の育成を基盤にして日本留学希望者を増やすことが肝要と考えられ
る。
24
7.Q10(外国語習熟度)
A.英語
表2−1−7 Q10.外国語習熟度
A.英語
日学 一般
4.よく出来る
2%
6%
3.出来る
48%
61%
2.少し出来る
48%
29%
1.全く出来ない 0%
1%
未回答
2%
4%
無効回答
0%
0%
総 計
182
309
B.ドイツ語
日学 一般
0%
0%
0%
0%
3%
4%
81%
70%
16%
27%
0%
0%
182
309
C.フランス語
日学 一般
0%
0%
0%
1%
3%
5%
81%
67%
16%
27%
0%
0%
182
309
D.日本語
日学 一般
3%
0%
46%
2%
51%
15%
1%
59%
0%
24%
0%
0%
182
309
E.朝鮮語
日学 一般
0%
1%
0%
1%
15%
9%
69%
64%
15%
25%
0%
0%
182
309
F.ロシア語
日学 一般
0%
0%
0%
1%
3%
3%
81%
69%
16%
27%
0%
0%
182
309
Q10 では、本人自身の外国語能力について尋ねた。回答形式は、英語、ドイツ語、フランス語、
日本語、朝鮮語、ロシア語の 6 つの言語それぞれの習得度を、「1.全く出来ない」「2.少し出来る」
「3.出来る」「4.よく出来る」の 4 件法によって回答するものである。
英語の結果は表 2-1-7、図 2-1-7-A の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答されたのは、
「3.出来る」「2.少し出来る」(共に 48%)の 2 つだった。「3.出来る」と「4.よく出来る」(2%)を合わせた「出
来る」グループはちょうど 50%になり、日本語専攻学生の半数が英語能力を「出来る」と考えており、
英語力に自信を持っていることが伺える。
一般学生で最も多く回答されたのは、「3.出来る」(61%)であり、次いで「2.少し出来る」(29%)が続
いている。「3.出来る」と「4.よく出来る」(6%)を合わせた「出来る」グループは 66%であり、日本語専
攻学生(50%)よりも一般学生の方が、自分の英語能力に自信を持っている者が多いことがわか
る。
25
B.ドイツ語
ドイツ語の結果は表 2-1-7、図 2-1-7-B の通りである。日本語専攻学生・一般学生ともに「1.全
く出来ない」が大半を占め(日学:81%、一般:70%)、残りの回答の多くが未回答であることから、ドイ
ツ語を習得している者はほとんどいないことがわかる。
C.フランス語
フランス語の結果は表 2-1-7、図 2-1-7-C の通りである。日本語専攻学生・一般学生ともに「1.
全く出来ない」が最も多い(日学:81%、一般:67%)。その回答率に日本語専攻学生と一般学生でや
や差があるものの、双方とも残りの回答の多くが未回答であり、ドイツ語と同様にフランス語を習得
している者はほとんどいないことがわかる。
26
D.日本語
日本語の結果は表 2-1-7、図 2-1-7-D の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答されたの
は、「2.少し出来る」(51%)であり、次いで「3.出来る」(46%)が続いている。「3.出来る」と「4.よく出来
る」(3%)を合わせた「出来る」グループは 49%になり、日本語専攻学生の約半数が自身の日本語能
力に自信を持っていることがわかる。
一般学生で最も多く回答されたのは、「1.全く出来ない」(59%)であり、次いで「2.少し出来る」
(15%)が続いている。一般学生の回答は「1.全く出来ない」と未回答を合わせると 8 割を超えており、
日本語専攻学生とは対照的に一般学生の大半は日本語を習得していないことがわかる。
E.朝鮮語
朝鮮語の結果は表 2-1-7、図 2-1-7-E の通りである。日本語専攻学生・一般学生ともに「1.全く
出来ない」が最も多く回答されており(日学:69%、一般:64%)、残りの回答の多くが未回答である。
「2.少し出来る」の回答率がややあるものの(日学:15%、一般:9%)、ドイツ語、フランス語の結果と同
様に、一般学生、日本語専攻学生共に朝鮮語の習得度は低いことがわかる。
27
F.ロシア語
ロシア語の結果は表 2-1-7、図 2-1-7-F の通りである。これも、独語、仏語、朝鮮語と同じく、日
本語専攻学生、一般学生ともに「1.全く出来ない」が最も多く回答されており(日学:81%、一般:
69%)、残りの回答も未回答がほとんどであることから、ロシア語を習得している者はほとんどいない
ことがわかる。
8.Q12 (日本留学希望理由:MA)
表2−1−8 Q12.日本留学希望理由(MA)
1.高度な学問や技術
2.経済経営の先進性
3.文化の魅力・興味
4.地理的近さ
5.言語文化の近さ
6.親戚知人の存在
7.アルバイトの可能性
8.生活安全・治安の良さ
9.希望の就職に有利
10.奨学金の得やすさ
11.その他
未回答
無効回答
総 計
日学
88
91
117
43
99
17
49
51
126
10
5
0
0
696
日学
48%
50%
64%
24%
54%
9%
27%
28%
69%
5%
3%
0%
0%
28
一般
107
91
96
109
87
11
41
23
39
14
21
0
0
639
一般
35%
29%
31%
35%
28%
4%
13%
7%
13%
5%
7%
0%
0%
図2−1−8 Q12.日本留学希望理由(MA)
0%
10%
20%
30%
40%
1.高度な学問や技術
35%
2.経済経営の先進性
5.言語文化の近さ
4%
54%
日学
13%
8.生活安全・治安の良さ
27%
一般
28%
7%
9.希望の就職に有利
69%
13%
5%
5%
3%
7%
10.奨学金の得やすさ
11.その他
無効回答
35%
9%
7.アルバイトの可能性
80%
64%
28%
6.親戚知人の存在
70%
48%
31%
24%
4.地理的近さ
未回答
60%
50%
29%
3.文化の魅力・興味
50%
0%
0%
0%
0%
Q12 では、日本留学を希望する者だけを対象に、その留学希望理由を尋ねている。回答形式は、
以下の選択肢の中から、自身の希望理由と合致するものをすべて選ぶ複数回答形式の質問であ
る。選択肢は「1.高度な学問や技術」「2.経済経営の先進性」「3.文化の魅力・興味」「4.地理的近
さ」「5.言語文化の近さ」「6.親戚知人の存在」「7.アルバイトの可能性」「8.生活安全・治安の良さ」「9.
希望の就職に有利」「10.奨学金の得やすさ」「11.その他(具体的に:)」の 11 の選択肢である。
結果は表 2-1-8、図 2-1-8 の通りである。当然のことながら全体に日本語専攻学生の回答率が
高く、選択肢の多くで一般学生の回答率を上回っている。日本語専攻学生で最も回答率が高かっ
たのは「9.希望の就職に有利」(69%)であり、日本語専攻学生にとって就職時の有効性が日本留学
を望む大きな理由になっていることが、この結果にも現れている。次は「3.文化の魅力・興味」(64%)、
「2.言語文化の近さ」(54%)が続いており、日本の留学生活に何を期待しているか、留学生活に関
連する理由の回答率が高い。
一般学生で最も多く回答されたのは、「1.高度な学問や技術」「4.地理的近さ」(共に 35%)だった。
この結果に加え、「3.文化の魅力・興味」(31%)、「2.経済経営の先進性」(29%)が回答率第2位、3
位で続いていることから、一般学生は日本留学を考える際に「日本留学で学べるものは何か」を重
視していると言えるだろう。
また、日本語専攻学生が他の理由に比べ回答率の低い「4.地理的な近さ」が、一般学生の回答
率が高いことも見逃せない。日本語専攻学生があまり考慮していない母国との地理的な距離を、
一般学生は考慮しているが、日本語専攻学生に多かった理由「2.言語文化の近さ」(54%)は、一
般学生にとっては 28%しか選択がなく、言語文化の近さは必ずしも魅力になっていない。
日本語専攻学生、一般学生ともに、留学で学べるものや留学時の生活に関連する理由の回答
29
率は高いが、「9.希望の就職に有利」のように、日本語専攻学生の回答率が高く、一般学生の回答
率が低い理由があることに注意したい。「9.希望の就職に有利」の一般学生の回答率は 13%と低く、
日本留学がもたらす就職時の有効性についての、双方の意識の違いが顕著に現れた結果となっ
ている。その意識の差が日本留学の魅力度の差になっているとも考えられる。
9.Q12-SQ1
(日本留学希望理由:SA)
表2−1−9 Q12-SQ1.日本留学希望理由(SA)
日学
13
22
42
1
13
1
2
5
68
1
1
11
2
1.高度な学問や技術
2.経済経営の先進性
3.文化の魅力・興味
4.地理的近さ
5.言語文化の近さ
6.親戚知人の存在
7.アルバイトの可能性
8.生活安全・治安の良さ
9.希望の就職に有利
10.奨学金の得やすさ
11.その他
未回答
無効回答
日学
7%
12%
23%
1%
7%
1%
1%
3%
37%
1%
1%
6%
1%
一般
46
29
54
46
26
3
3
5
13
4
6
71
3
一般
15%
9%
17%
15%
8%
1%
1%
2%
4%
1%
2%
23%
1%
図2−1−9 Q12-SQ1日本留学希望理由(SA)
0%
10%
7%
1.高度な学問や技術
2.経済経営の先進性
9%
7.アルバイトの可能性
8.生活安全・治安の…
1%
11.その他
15%
1%
1%
1%
1%
日学
一般
3%
2%
37%
4%
1%
1%
1%
2%
6%
未回答
無効回答
23%
7%
8%
9.希望の就職に有利
10.奨学金の得やすさ
40%
12%
17%
5.言語文化の近さ
6.親戚知人の存在
30%
15%
3.文化の魅力・興味
4.地理的近さ
20%
23%
1%
1%
30
Q12-SQ1 では、日本留学を望む理由の中で最も重要なものは何か尋ねた。回答形式は、最も
重要とする理由を一つだけ回答する、単一選択式の回答である。先の質問が複数回答形式だっ
たものを、ここでは単一回答形式で尋ね直したものである。
結果は表 2-1-9、図 2-1-9 の通りである。日本語専攻学生で最も多く回答されたのは、「9.希望
の就職に有利」であり、複数回答形式の結果と同様、日本語専攻学生にとって就職時の有効性は
日本留学を希望する理由として大きいようである。また、この理由が一般学生の回答率が低い(4%)
ことも、複数回答時と同様である。「9.希望の就職に有利」の回答率が日本語専攻学生と一般学生
とで大きく違うのは、双方の希望する職業の違いが関係していることが考えられる。
先に見た「2.Q6 卒業後の進路」の結果では、日本語専攻学生の過半数が外国系企業への就
職を希望しており、一般学生のその数は 21%に過ぎなかった。外国語能力や他文化圏での適応
力が有効な外国系企業において、海外留学経験は大きなアドバンテージとなるはずである。外国
系企業への就職希望者が多い日本語専攻学生が、留学理由として「希望の就職に有利」を挙げる
のは自然なことであろう。
未回答を別にして、一般学生に最も多く回答されたのは「3.文化の魅力・興味」(17%)だった。こ
れは日本語専攻学生の回答でも第2位(23%)であり、一般学生、日本語専攻学生共に、中国学生
にとって日本留学の魅力は、日本文化であることが伺える。次ぎは「1.高度な学問や技術」「2.地理
的近さ」(共に 15%)が同率で続いている。日本語専攻学生にとって「2.地理的近さ」は 1%と、ほとん
ど理由として選択されておらず、一般学生のみがこの理由を重視しているのは、複数回答形式と同
様である。日本語専攻学生にとっては「地理的近さ」という漠然とした理由より「就職」という実利的
理由のほうが現実性を持っているということかもしれない。
31
第2節
留学魅力度 5 ヵ国比較
1.5ヵ国の魅力度の加重平均による比較∼一般学生と日本語専攻学生の項目毎の比較∼
設問
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
表2−2−1 一般学生
米国
英国
豪州
大学の知名度
4.8
4.4
3.5
教育の質
4.6
4.3
3.4
雇用の展望
4.4
3.9
3.5
授業料の安さ
3.1
2.9
3.2
奨学金の充実
4.2
3.6
3.6
生活しやすさ
3.5
3.3
3.4
生活の安全
3.1
3.5
3.6
成熟した経済社会
4.4
4.1
3.8
大衆文化
4.2
4.0
3.5
言語的負担少
4.1
4.0
3.7
入国ビザの取得
3.4
3.2
3.4
入学しやすさ
3.3
3.2
3.3
親族・知人の人脈
2.4
2.2
2.2
32
日本
3.3
3.4
3.2
3.0
3.2
3.0
3.1
3.7
3.6
3.2
3.2
3.1
2.2
韓国
2.7
2.8
2.9
3.1
2.9
3.0
3.1
3.2
3.4
3.0
3.1
3.0
1.9
設問
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
米国
4.7
4.4
4.2
2.2
4.2
3.3
2.7
4.5
4.2
4.2
3.0
2.9
1.8
表2−2−2 日本語専攻
英国
豪州
4.5
3.5
4.3
3.5
4.0
3.5
2.2
2.8
4.0
3.6
3.0
2.9
3.5
3.5
4.4
4.0
4.0
3.4
4.1
3.9
2.9
3.4
2.8
3.3
1.6
1.7
日本
4.1
4.2
4.3
2.9
3.8
3.8
3.9
4.5
4.1
3.6
3.4
3.5
2.3
韓国
2.6
3.0
3.0
3.1
3.0
2.7
3.1
3.2
3.6
3.3
3.4
3.3
1.7
本節では、中国人学生からみた米国、英国、豪州、日本、韓国 5 カ国の留学先魅力度と
しての違いを比較検討する。調査は、中国人の一般学生と日本語専攻学生に分けておこな
33
った。上記図表2−2−1が一般学生の調査結果であり、図表2−2−2が日本語専攻学
生(日学)の調査結果である。数値は 5 件法による評価尺度の平均得点である。点数は 1
∼5 になっており 5 点に近い方が評価は高い。
A.
大学の知名度や学位
一般学生の「A.大学の知名度や学位」で最も評価が高いのは、米国 4.8 である。次いで
英国 4.4、豪州 3.5、日本 3.3、韓国 2.7 と続く。ポイント差を比較すると、米国と英国の差
は 0.4 であるが、英国と豪州の差は 0.9、豪州と日本の差は 0.2、日本と韓国の差は 0.6 で
ある。最も高く評価されている米国(4 点台後半)
、次いで高い評価の英国(4 点台中盤)
、
中評価の豪州と日本のグループ(3 点台)、それに低評価の韓国(2 点台)と大きく4つの
グループに分けられる。一般学生の評価で、日本の評価が米国と英国には及ばないとして
も、豪州と近接していることは注目してよい。
日本語専攻学生の「A.大学の知名度や学位」でも、最も評価が高いのは米国 4.7 である
が、2 番目の英国 4.5 との差(0.2 差)が一般学生(0.4 差)に比べると小さい。その後、日
本 4.1、豪州 3.5、韓国 2.6 と続いている。日本語専攻学生も米国と英国を高く評価してい
るが、
それに続いて日本の大学の知名度を評価している点で(米国から日本までは 4 点台)、
一般学生の順位と異なっている。日本語専攻学生であるから当然とも言えるが、豪州より
0.6 ポイント高く日本を評価している。韓国については日本語専攻学生においても最も低い
評価である。
B.
教育の質の高さ
一般学生の「B.教育の質の高さ」では、最も評価が高いのは、米国 4.6 である。次いで
英国 4.3 、豪州 3.4、日本 3.4、韓国 2.8 と続く。ポイント差を比較すると、米国と英国の
差は 0.3 であるが、英国と豪州の差は 0.9 と大きく、豪州と日本は同じ、日本と韓国の差は
0.6 と比較的大きい。
「大学の知名度や学位」と同じく、米国の最高評価に変わりはなく、
英国は米国との差(0.3 差)が「知名度・学位」の項目(0.4 差)とほぼ同じで高評価(4
点台)である。豪州と日本が中評価(3 点台)で、低評価(2 点台)の韓国と 3 つのグルー
プに分けられる。教育の質の評価に関して、中国の一般学生から見ると、日本の教育は豪
州と同程度ととらえられており、米国や英国ほど高くはないが、決して低くはないと言う
ことがいえよう。
日本語専攻学生の図表で「B.教育の質の高さ」の項目を見ると、最も評価が高いのは、
米国 4.4 であるが、2 番目の英国 4.3 との差(0.1 差)が一般学生(0.3 差)に比べると小さ
い。次いで、日本の 4.2(英国との差が 0.1)
、豪州 3.5、韓国 3.0 と続く。
「大学の知名度や
学位」と同様、
「教育の質の高さ」においても、日本語専攻学生は米国と英国を高く評価し
ているが、それに続いて日本の教育の質を高く(ほぼ同等に)評価している点で(米国か
ら日本までは 4 点台)
、一般学生の順位と異なっている。特に日本と豪州のポイント差は 0.7
34
と比較的大きく、豪州と韓国の差は 0.5 である。
一方、韓国については、近年、特に中国との経済的関係の緊密化から、中韓間の留学生
交流が活発化しているといわれるが、上記の通り「大学の知名度や学位」や「教育の質の
高さ」の点では、中国人学生からみて韓国の大学の評価は低く、韓国留学への動きが必ず
しも韓国の大学教育に魅かれてのものではないことが読み取れる。
C.
雇用の展望
次に、
「C.雇用の展望」の評価項目を見てみよう。まず、一般学生で最も評価が高いの
は米国 4.4 であり、次いで英国 3.9、豪州 3.5、日本 3.2、韓国 2.9 と続いている。米国と英
国のポイント差は 0.5、英国と豪州のは 0.4、豪州と日本の差は 0.3、日本と韓国の差も 0.3
である。大学卒業後、つまり学業を修めた結果として、雇用機会を求めるのが一般的であ
ることを考えれば、雇用の展望に対する評価と大学の知名度や教育の質の評価が一致する
のは、ある意味当然といえる(特に一般学生について)
。
日本語専攻学生に「C.雇用の展望」の評価を聞くと、最も評価するのは日本 4.3 であり、
次いで米国 4.2、そして英国 4.0、豪州 3.5、韓国 3.0 と続いている。ポイント差は、日本と
米国で 0.1 とほとんど差がなく、米国と英国の差も 0.2 で小さい。この 3 カ国が接近して上
位(4 点台)を占めている。英国と豪州のポイント差は 0.5、豪州と韓国の差も 0.5 である。
日本語を専攻(修得)することが、就職の面で有利になるという意識を持っていると思わ
れるので、この結果は当然でもあるが、それと同程度の高い評価を米国と英国への留学に
対してもしていることがわかる。
D.
授業料の安さ
次に「D.授業料の安さ」の評価を一般学生で見てみたい。5 カ国と中国との経済格差を
反映して、全体的に評価が低い(4 点台がない)。最も評価が高いのは豪州 3.2 であり、次
に米国 3.1、韓国 3.1 と続き、日本 3.0、英国 2.9 である。これまでの「大学の知名度や学
位」
「教育の質の高さ」「雇用の展望」と明らかに評価順位が異なっている。しかし、最も
評価の高い豪州 3.2 と最も評価の低い英国 2.9 のポイント差は 0.3 しかなく、5 カ国間にほ
とんど差がないことに注目しておく必要がある。豪州が「授業料の安さ」で最も高い評価
を受けているが、これが客観的事実を正確に反映しているかどうかは別にして、為替レー
ト等の影響も含め、そうした印象で受け止められていることはわかる。また、豪州の大学
や留学関係機関が、豪州留学キャンペーンの一環として、同じ英語圏の米国や英国よりも
授業料が安いことを比較広告的に強調していることの効果が出ているという見方もできる
であろう。
日本語専攻学生の「D.授業料の安さ」に関する評価も全体的に低く、最も評価が高いの
は韓国 3.1 であり、次いで日本 2.9、豪州 2.8、米国と英国が 2.2 で並んでいる。日本語専
攻学生の場合、最高評価の韓国と最低評価の米国及び英国のポイント差は 0.9 で、一般学生
35
の 0.3 より大きく開いている。この 5 カ国の順位は実際の各国の平均的な授業料の順位と一
致している。3 番目の豪州と 4 番目の米国及び英国の差がある程度開いていることも為替レ
ートを考慮すれば、実態を反映しているといえる。これらのことから、日本語専攻学生の
ほうが一般学生に比べ、海外志向が強く、授業料をはじめ海外の大学に関する情報や為替
レートについて正確な知識をもっているのではないだろうか。
また、見方を変えると、この「授業料の安さ」については次のように指摘することもで
きよう。従来、日本留学の障壁の一つとして、費用の高さがあげられることが多かった。
しかしながら、本調査によれば、中国人学生は米国や英国も、日本と同等か、あるいはそ
れ以上に費用の点では高いという評価をしていることがわかる。すなわち、費用面ではあ
まり違いを感じていないにもかかわらず、米国や英国に比べて日本への留学が全体的には
下位に位置づけられている点は留意すべきであろう。
E.
奨学金の充実の程度
一般学生の「E.奨学金の充実の程度」に関する評価は、最も高いのが米国 4.2 であり、
次いで英国と豪州が並んで 3.6、そして日本 3.2、韓国 2.9 と続いている。ポイント差を見
ると、米国と英国及び豪州の差は 0.6 と比較的大きく、英国及び豪州と日本の差は 0.4、日
本と韓国の差は 0.3 と差が小さくなってきている。ここでも、米国が最も高く評価されてお
り(唯一 4 点台)
、中評価の英国、豪州、日本(3 点台)、それに低評価の韓国(2点台)と
3つのグループに分けられる。
日本語専攻学生に「E.奨学金の充実の程度」に関する評価を聞くと、最も高い評価を得
たのが米国 4.2 であり、次いで英国 4.0、そして日本 3.8、豪州 3.6、韓国 3.0 と続いている。
ポイント差は、米国と英国、英国と日本、日本と豪州がそれぞれ 0.2 差で等間隔になってい
るが、豪州と韓国の差は 0.6 と比較的大きい。一般学生と日本語専攻学生を比較すると、米
国が最も評価されている点は同じであるが(共に 4.2)
、日本に対する評価は一般学生が 3.2、
日本語専攻学生は 3.8 と 0.6 ポイントの差がある。米国が最も評価されている要因としては、
大学院においてアシスタントシップが充実していることが、中国においても広く知れ渡っ
ているからであろう。
こうした「奨学金の充実の程度」をめぐる評価については、あらかじめ日本留学に関す
る情報が留学希望者の側に十分伝わっているかどうかという点が問題といえる。5 カ国中、
国費留学生の割合が最も高いのは日本であり、留学生のための授業料減免制度も充実して
いるという事実がありながら、日本の評価が日本語専攻学生も含めて高くないことは憂慮
すべきである。
「授業料の安さ」や、「奨学金の充実」といった主観的評価は、インプット
された情報量によって決定される側面が多いということを考えると、奨学金制度そのもの
充実はもとより、日本からの留学生向け奨学金情報等、留学生支援情報の提供にさらに注
力する必要がある。
36
F.
生活しやすさ
一般学生の「F.生活しやすさ」に対する評価は、最も高いのが米国 3.5 であり、次いで
豪州 3.4、英国 3.3、日本と韓国が並んで 3.0 と続いている。ポイント差を見ると、米国と
豪州の差と豪州と英国の差が共に 0.1、英国と日本及び韓国の差が 0.3 である。以上のこと
から、一般学生は「生活しやすさ」に関して、米国を最も評価しているものの、その他の
国との間に大きな差はなく(最も高い評価の米国 3.5 と最も低い評価の日本と韓国 3.0 のポ
イント差は 0.5 しかなく)
、全体的には中程度の評価(5 カ国すべてが 3 点台)であること
が読み取れる。日本の評価が高くないのは、日本における外国人(中国人)差別に関する
マスメディア等の報道の影響があるのかもしれない。
日本語専攻学生に「F.生活しやすさ」の評価を聞くと、最も評価するのは日本の 3.8 で
あり、次いで米国 3.3、英国 3.0、豪州 2.9、韓国 2.7 と続いている。ポイント差は、日本と
米国の差が 0.5、米国と英国が 0.3、英国と豪州が 0.1、英国と韓国が 0.2 差となっており、
日本と日本以外の国の差が比較的大きい(最も高い評価の日本 3.8 と最も低い評価の韓国
2.7 のポイント差は 1.1 であり、一般学生の 0.5 の倍以上)。日本語専攻学生は、日本語を修
得していることや専攻での学習を通して、日本の生活や文化について理解が深まっている
ことから、「生活しやすさ」という点で日本を高く評価するのは当然であろう。
G.
生活の安全
次に、
「G.生活の安全」の評価項目を見てみよう。まず、一般学生の評価で最も高いの
は豪州 3.6 であり、次いで英国 3.5、そして米国、日本、韓国が並んで 3.1 と続いている。
ポイント差を見ると、豪州と英国の差は 0.1、英国と米国、日本、韓国の 3 カ国との差が
0.4 となっている。一般学生は「生活の安全」に関して、豪州(3.6)を最も評価している
が、最も評価の低い 3 国(3.1)とのポイント差は 0.5 であり全体的に大きな差はなく、総
じて中程度の評価(3 点台)となっている。ここでは特に、一般学生にとって日本が米国や
韓国と並んで評価が低いことに注目したい。すなわち、従来、日本留学は、生活費は高い
ものの生活環境は安全であるという点が長所と考えられてきたが、中国の一般学生の間で
は、そのような評価がされていないことがわかる。犯罪に関する国際的な比較データを見
れば、いかに日本が他の国々より安全であるかは一目瞭然であるが、その情報が海外にき
ちんと伝わっていない(情報発信力不足)ために、米国や韓国と共に低い評価しか得られ
なかったと思われる。逆に、豪州の「安全」を売りにした豪州留学キャンペーンは大きな
成果を収めているといえる。
日本語専攻学生に「G.生活の安全」の評価を聞くと、最も評価するのは日本 3.9 であり、
次いで英国と豪州が並んで 3.5、そして韓国 3.1、米国 2.7 と続いている。ポイント差は、
日本と英国及び豪州が 0.4、英国及び豪州と韓国が 0.4、韓国と米国が 0.5 差となっている。
最も高い評価の日本 3.9 と最も低い評価の米国 2.7 のポイント差は 1.2 と大きく、一般学生
の評価と比べると大きな違いが見て取れる。また、一般学生の日本への評価(3.1)と日本
37
語専攻学生の日本への評価(3.9)を比べると、その差は 0.8 ポイントとやや大きく、その
他の国々に対する一般学生と日本語専攻学生間の評価の差が小さい(最大でも米国の 0.4
差)ことからも、日本語専攻学生の日本での生活の安全に関する評価の高さが顕著である。
これも前述の「生活のしゃすさ」と同様に、日本語専攻学生は専攻での学習を通して、日
本の生活に関する情報を多く得ていることが要因であろう。
H.
成熟した経済社会への魅力
一般学生の「H.成熟した経済社会への魅力」に対する評価は、最も高いのが米国 4.4 で
あり、次いで英国 4.1、豪州 3.8、日本 3.7、韓国 3.2 と続いている。ポイント差を見ると、
米国と英国が 0.3、英国と豪州が 0.3、豪州と日本が 0.1、日本と韓国が 0.5 差となっている。
最も高い評価を得ている米国と次いで高い英国(4 点台)
、中程度の豪州と日本(3 点台後
半)、低い評価の韓国(3 点台前半)の 3 つのグループに分けられる。
日本語専攻学生の「H.成熟した経済社会」の評価を見ると、最も高いのは米国と日本で
共に 4.5 であり、次いで英国 4.4、豪州 4.0、韓国 3.2 と続いている。ポイント差は、米国
及び日本と英国の差が 0.1 と僅かであり、英国と豪州が 0.4、豪州と韓国が 0.8 と比較的大
きくなっている。最も評価の高い米国及び日本と僅差の英国(4 点台中盤)
、中程度の豪州、
評価の低い韓国(3 点台)の 3 つのグループに分けられる。一般学生と比較すると、日本へ
の評価に違いが大きく(0.8 差)
、米国と同じく最も高い評価をしている(英国や豪州より
も高い)
。日本語専攻学生は一般学生に比べると、専攻の学習等を通じて、日本の経済社会
への魅力をより強く感じているのであろう。
I.
大衆文化への魅力
一般学生の「I.大衆文化への魅力」に対する評価を見ると、最も高いのが米国 4.2 であ
り、次いで英国 4.0、日本 3.6、豪州 3.5、韓国 3.4 と続いている。ポイント差を見ると、米
国と英国が 0.2、英国と日本が 0.4、日本と豪州、豪州と韓国がそれぞれ 0.1 差となってい
る。最も評価の高い米国と次いで高い英国(4 点台)
、中程度の評価の豪州、日本、韓国(3
点台)と 2 つのグループに分けられる。
日本語専攻学生の「I.大衆文化への魅力」の評価を見ると、最も評価するのは米国で 4.2、
次いで日本の 4.1 であり、英国 4.0、韓国 3.6、豪州 3.4 と続いている。ポイント差は、米
国と日本、日本と英国の差がそれぞれ 0.1 であり、英国と韓国が 0.4、韓国と豪州が 0.2 と
なっている。最も評価の高い米国と僅差の日本と英国(4 点台)
、中程度の評価の韓国と豪
州(3 点台中盤)の 2 つに分けられる。一般学生、日本語専攻学生ともに「大衆文化への魅
力」を最も評価するのは米国であるが、日本語専攻学生の評価では、英国よりも日本、豪
州よりも韓国の評価が高く、一般学生よりもアジア圏の国の大衆文化への魅力を強く感じ
ていることが見て取れる。
38
J.
言語的負担の少なさ
一般学生の「J.言語的負担の少なさ」に対する評価を見ると、最も高いのが米国 4.1 で
あり、次いで英国 4.0、豪州 3.7、日本 3.2、韓国 3.0 と続いている。ポイント差を見ると、
米国と英国が 0.1、英国と豪州が 0.3、豪州と日本が 0.5、日本と韓国が 0.2 となっている。
最も評価の高い米国と僅差の英国(4 点台)、中程度の評価の豪州(3 点台中盤)
、評価の低
い日本と韓国(3 点台前半)と大きく分けて3つのグループに分けられる。同じ英語圏でも、
米国と英国はわずか 0.1 ポイント差であるのに対して、豪州は米国とは 0.4 ポイント、英国
とは 0.3 ポイントの差がある。これは中国における英語教育で米語教育が優勢であること、
そして豪州の英語に対して、アクセントへの意識があることの反映であろう。
日本語専攻学生の「言語的負担の少なさ」の評価を見ると、最も評価するのは米国で 4.2、
次いで英国の 4.1 であり、豪州の 3.9、日本の 3.6、韓国の 3.3 と続いている。ポイント差
をみると、米国と英国の差は 0.1 であり、英国と豪州が 0.2、豪州と日本、日本と韓国がそ
れぞれ 0.3 となっている。日本語専攻学生であっても、
「言語的負担の少なさ」としては英
語圏の国々が高い評価を得ており、一般学生の日本(語)への評価(3.2)と日本語専攻学
生の日本(語)への評価(3.6)を比較しても、差は大きくない(0.4 差)
。中国の学生にと
って、言語的負担が少ないのは早くから学習している英語であり、日本語を専攻している
学生であっても、日本語の言語的負担は一般学生と期待していたほど大きな違いは見られ
ない。ここには、中国における根強い英語重視の動向が反映されていると考えられる。
K.
入国ビザの取得しやすさ
一般学生の「K.入国ビザの取得しやすさ」に対する評価を見ると、最も高いのが米国と
豪州で共に 3.4 であり、次いで英国と日本が並んで 3.2、韓国が 3.1 と続いている。ポイン
ト差を見ると、米国及び豪州と英国及び日本が 0.2、英国及び日本と韓国が 0.1 差となって
いる。最も高く評価されている米国及び豪州と最も評価が低い韓国のポイント差は 0.3 と差
が小さく、一般学生の入国ビザの取得しやすさに対する評価は、5 カ国に大きな差はないと
いえる。中国において、外国へ入国するためのビザ取得は、全体として容易ではないとい
う意識が強いことを反映していると思われる。また、2001 年の同時多発テロ以降、米国の
ビザ発給が制限されたことの影響がまだ残っており、米国の評価は低いと思っていたが、
最近の急速なビザ緩和政策(政策転換)が功を奏してか、米国の評価は予想外に高かった。
日本語専攻学生の「K.入国ビザの取得しやすさ」の評価を見ると、最も高いのが豪州、
日本、韓国の 3 カ国で共に 3.4、次いで米国の 3.0 であり、英国が 2.9 と続いている。ポイ
ントの差を見ると、上位 3 カ国(豪州・日本・韓国)と米国は 0.4、米国と英国は 0.1 とな
っている。一般学生と比較してみると、豪州以外の国々の評価の順位が大きく違うことが
見て取れる。一般学生が最も評価するのは米国と豪州であるのに対し、日本語専攻学生が
最も評価するのは豪州、日本、韓国となっており、一般学生が日本と同程度に評価した英
国は、日本語専攻学生では最も評価が低く(2.9)
、日本(3.4)との差は 0.5 ポイントであ
39
る。全体的に一般学生は英語圏の国々に対して、日本語専攻学生はアジア圏の国々に対し
てビザの取得が容易であるという意識を持っていることがうかがえる。
L.
入学しやすさ
一般学生の「L.入学しやすさ」に関する評価を見ると、最も高いのが米国と豪州の 3.3
であり、次いで英国 3.2、日本 3.1、韓国 3.0 と続いている。ポイント差を見ると、米国及
び豪州と英国、英国と日本、日本と韓国がそれぞれ 0.1 となっている。米国及び豪州が最も
高く評価されているものの、最上位と最下位の差がわずか 0.3 ポイントであることから、一
般学生の 5 カ国に対する「入学しやすさ」の評価に大きな違いはない。中国の著名大学の
学生は、激しい受験競争を勝ち抜いてきており、学力や知識の高さには自信を持っていて、
海外の大学への学力審査に対しても不安感が少ないのではないかと思われる。
日本語専攻学生の「L.入学しやすさ」の評価を見ると、最も高いのは日本で 3.5、次い
で豪州及び韓国の 3.3 であり、米国 2.9、英国 2.8 と続いている。ポイント差は、日本と豪
州及び韓国は 0.2、豪州及び韓国と米国は 0.4、米国と英国は 0.1 となっている。一般学生
と比較すると、日本語専攻学生が日本の大学への入学しやすさを高く評価することは当然
のことと考えられるが、それ以外の国々とのポイント差が大きくないことは一考に値する。
日本のほとんどの大学における留学生入学審査が大学で実施される入試の受験を前提とし
ていること(母国にいながらにして出願し、書類審査による合否判定を受けられない)が
影響していると思われる。また、ここでも前項の「入国ビザの取得しやすさ」と同様に、
全体として、一般学生は英語圏の国々を高く評価する(入学しやすいという意識を持つ)
傾向があり、日本語専攻学生はアジア圏の国々を高く評価する傾向がある。
M.
親族・知人の人脈の有無
最後に、「M.親族・知人の人脈の有無」の評価項目を見てみよう。まず、一般学生の評
価を見ると、最も高いのは米国 2.4 であり、次いで英国、豪州、日本の 3 カ国が 2.2、そし
て韓国 1.9 と続いている。ポイント差を見ると、米国と英国、豪州、日本が 0.2、3 カ国と
韓国が 0.3 となっている。5 カ国とも 2 点台と低く、全般的に中国人学生で留学に関する親
族や知人の人脈を持っているものは少ないといえる。
日本語専攻学生の「M.親族・知人の人脈の有無」の評価を見ると、最も高く評価するの
は日本で 2.3、次いで米国の 1.8、韓国及び豪州の 1.7、英国の 1.6 となっている。ポイント
差を見ると、日本と米国は 0.5、米国と韓国及び豪州は 0.1、韓国・豪州と英国は 0.1 とな
っている。日本語専攻学生の留学に関する親族・知人の人脈の有無については、全体的に
低い(日本以外は 1 点台)が、その中でも日本の評価が高い(2.3)。日本語を専攻するとい
う決断をした時点で日本に関する親族・知人からの何らかの影響があったというものが、
ある程度いたのではないかと思われる。
40
2.日本留学魅力度に関する加重平均の比較
∼一般学生と日本語専攻学生の項目毎の比較∼
表2−2−3 一般学生と日本語専攻学生の比較
設問
一般学生
日本語専攻
A
大学の知名度
3.3
4.1
B
教育の質
3.4
4.2
C
雇用の展望
3.2
4.3
D
授業料の安さ
3.0
2.9
E
奨学金の充実
3.2
3.8
F
生活しやすさ
3.0
3.8
G
生活の安全
3.1
3.9
H
成熟した経済社会
3.7
4.5
I
大衆文化
3.6
4.1
J
言語的負担少
3.2
3.6
K
入国ビザの取得
3.2
3.4
L
入学しやすさ
3.1
3.5
M
親族・知人の人脈
2.2
2.3
41
前項で述べた海外留学先を選ぶ際の要因となるであろう 13 項目に関する 5 カ国の評価を
特に日本に絞って、一般学生と日本語専攻学生間の評価を比較してみたのが、表 2−2−3
および図 2−2−3 である。全体的な傾向としては、いずれの項目についても、一般学生よ
りも日本語専攻学生のほうが、日本について高い評価を示していることがわかる。
まず、
「A.大学の知名度や学位」を見ると、一般学生は 3.3、日本語専攻学生は 4.1 とな
っており、その差は 0.8 ポイントで日本語専攻学生の評価が高い。「B.教育の質の高さ」
を見ると、一般学生は 3.4、日本語専攻学生は 4.2 となっており、その差は 0.8 ポイントで、
日本語専攻学生の評価が高い。
「大学の知名度や学位」と「教育の質の高さ」に対する評価
は、ともに日本語専攻学生のほうが一般学生より同程度(0.8)高くなっている。
「C.雇用
の展望」を見てみると一般学生は 3.2、日本語専攻学生は 4.3 となっており、その差は 1.1
ポイントで日本語専攻学生の評価が高い。日本語専攻学生は日本語を修得することで日系
企業での就職が有利になるという意識を持っていると推測できる。次に、13 項目の中で唯
一、日本語専攻学生が一般学生よりも高く評価しなかった「D.授業料の安さ」について見
てみたい。一般学生は 3.0、日本語専攻学生は 2.9 となっており、その差はわずか 0.1 ポイ
ントながら、一般学生のほうの評価が高い。つまり、日本語専攻の学生であっても日本の
大学の授業料についての評価が低いということは注目すべき点であろう。日本の大学は
75%が私立大学であり、中国で積極的に留学生リクルーティングを行っているのも私立大
学がほとんどであり、それらの大学の授業料に関する情報が影響しているのかもしれない。
「E.奨学金の充実の程度」を見ると、一般学生は 3.2、日本語専攻学生は 3.8 となってお
り、その差は 0.6 ポイントであり、ポイント差は期待したほど大きくない。前述のとおり、
日本は他の先進国に比べて、国費留学生の割合が高いだけでなく、学習奨励費や学費減免
制度などのほかにも、各大学が独自に留学生に対する様々な学費減免措置や奨学金を提供
するなどの策を講じている。しかしながら、それら経済的支援に関する情報がきちんと海
外に(最大の日本への留学生供給国である中国でさえ)伝わっていないことが、
「授業料の
安さ」に対する低い評価と共に、
「奨学金の充実の程度」が高く評価されていない結果に影
響しているのであろう。また、日本の奨学金のほとんどが大学に入学してからでなければ、
申請できないことも、このような結果に反映していると思われる。
「F.生活しやすさ」を
見ると、一般学生は 3.0、日本語専攻学生は 3.8 となっており、その差は 0.8 ポイントと比
較的大きい。前述の通り、日本語専攻学生は専攻での学習を通して、日本の生活や文化に
ついて理解がより深まっていることが予測され、
「生活しやすさ」という点で日本を高く評
価するのは当然であろう。
「G.生活の安全」を見ると、一般学生は 3.1、日本語専攻学生は
3.9 となっており、その差は 0.8 ポイントとなっており、先の「生活しやすさ」と同じポイ
ント差である。
「生活のしやすさ」
「生活の安全」の両方とも、授業料や奨学金に対する評
価と同様に、海外での情報提供を積極的に行うことで、日本の評価を高めることは可能で
あると思われる。
「H.成熟した経済社会への魅力」を見ると、一般学生は 3.7、日本語専攻
学生は 4.5 となっており、その差は 0.8 ポイントとなっている。ポイント差は他の項目と大
42
きな違いはないが、項目別に比較してみると一般学生、日本語専攻学生ともに日本の経済
社会の魅力を最も高く評価していることが読み取れる(日本の経済社会の成熟度に関する
情報は中国にもよく伝わっているといえる)
。「I.大衆文化への魅力」を見ると、一般学生
は 3.6、日本語専攻学生は 4.1 となっており、その差は 0.5 ポイントとなっている。
「成熟し
た経済社会の魅力」と同様、日本語専攻学生だけではなく、一般学生も日本の「大衆文化
への魅力」を比較的高く評価している。日本のポップカルチャーが中国でも浸透している
ことがうかがえる。
「J.言語的負担の少なさ」を見ると、一般学生は 3.2、日本語専攻学生
は 3.6 となっており、その差は 0.4 ポイントとなっている。ポイント差は期待していたほど
大きくなく、一般学生にとっても日本語専攻学生にとっても、日本へ留学する際の言語的
負担にそれほど大きな差はないということは興味深い点である。中等教育から高等教育に
かけて、入学や卒業試験を含め英語が重視されていることの反映といえる。
「K.入国ビザ
の取得しやすさ」を見ると、一般学生は 3.2、日本語専攻学生は 3.4 となっており、その差
は 0.2 ポイントと僅かであり、ともに評価は高くない。一般学生、日本語専攻学生ともに、
日本入国ビザの取得の困難さは同程度の評価といえる。英語圏を中心に中国人学生に対し
てのビザ発給率が高くなってきている状況があり、日本も入管政策を見直し(特にビザ申
請手続きの簡素化と審査基準の明確化)
、発給率を上げる方向で対処しなければ、さらに評
価は低くなると思われる。
「L.入学しやすさ」を見ると、一般学生は 3.1、日本語専攻学生
は 3.5 となっており、その差は 0.4 ポイントである。この差は必ずしも大きいとは言えず、
日本語専攻学生を含めて日本の大学への入学に関する十分な情報やサービスが提供されて
いない実態を反映しているのではないだろうか。前述のとおり、留学生受入れ先進国では、
留学希望者が母国にいながら出願し、書類審査のみによる合否判定を受けるのが一般的で
あるにもかかわらず、日本の場合は大学で実施される入学試験を受けることが前提となっ
ていることが影響しているといえる。渡日前入学許可の推進が求められる。
「M.親族・知
人の人脈の有無」を見ると、一般学生は 2.2、日本語専攻学生は 2.3 となっており、その差
は 0.1 ポイントとしかなく、ともに評価は低い(13 項目中最も低い評価)
。日本語専攻学生
を含めて、全般的に中国人学生で海外留学に活用できるような親族や知人の人脈を持って
いるものは少ないといえる。
以上のとおり、日本留学に関する魅力度の評価は、日本語専攻学生と一般学生の間とで
13 項目中 8 項目(A から C と E から I)で、0.5 ポイント以上の差が見られる。日本語専
攻学生の間では特に「大学の知名度や学位」
「教育の質」
「雇用の展望」
「成熟した経済社会」
「大衆文化」の点で高い評価を得ている(4点台)
。日本語専攻として、日本語だけでなく
日本の社会、文化、経済等を勉強していることで、日本に対する情報を多く得たり、日本
の大学や学問について深く知るようになったりすることを通して、日本留学の動機づけが
高まることが期待される。このことから、中国人留学生のリクルーティングについては、
以下の点が指摘される。まず第 1 に、日本語専攻学生については、日本留学に関するある
程度の意識と知識を有していることが前提となり、日本語能力が高いものや日本の社会、
43
文化、歴史、経済等についての理解が高い留学希望者については、日本の大学が受け入れ
る際にもその点を積極的に評価することが重要であろう。その意味では、第 2 点目として、
日本語専攻の学生とそれ以外の学生とでは、受入れにあたってのシステムや準備教育に関
し、必ずしも同じものを適用するのではなく、それぞれの特性や経験にあった制度(たと
えば、編入学や推薦入学制度)や日本国内での対応を図る必要があると考える。さらに、
第 3 点目として、今後は、そうした日本語・日本文化や日本に関する学問に興味を持つ中
国人学生たちの中国国内での教育に関する需要に的確かつ柔軟に対応することが、従来以
上に重要になる。欧米各国の文化・留学振興機関はもとより、今日、アジアでも、中国が
国家プロジェクトとして展開している孔子学院、韓国の世宗学院のように、一方では、留
学生を積極的に送出しながら、自国の言語や文化の海外での普及を図り、魅力度を向上さ
せようとする施策がとられている。こうした他国の動向もふまえつつ、日本もその魅力度
を含め日本留学の誘因となるような情報発信を積極的に行うことが必要だと考える。
<文責:太田
44
浩、杉村 美紀>
第 3 節 留学動機の分析
本節では、留学希望がどのような要因と結びついているかという観点から、アンケート
調査の結果をさらに詳細に分析する。具体的には、設問 8 の留学希望の強さと他の設問項
目との関係をとらえるためにクロス集計を行い、この集計値から計算した比率を中心に比
較検討し、留学希望の強い学生がどのような特性をもっているかを明らかにする。また、
日本への留学希望理由に関しては数量化理論Ⅰ類によって因果分析を試みる。
本節の構成は以下とおりである。最初に、日本語専攻学生と一般学生との間に、留学希
望の比率に統計的に有意な差があるかどうかを検証する。もし、2 つの集団の間で留学希望
の比率に有意な差がなければ、2 つの集団のデータを一括して分析を行うことが妥当であり、
両者に有意な差がある場合には、それぞれの集団ごとに分析を行うことが妥当であると判
断されるからである。
次に、設問 8 の留学希望に対する回答と以下の設問に対する回答のクロス集計を行う。
設問 8 とクロス集計するのは、設問 4 の学業成績、設問 5 の勉学意欲、設問 6 の将来希望
する職業、設問 8SQ1 の留学理由(複数回答)、設問 8SQ2 の最も大きな留学理由、設問
8SQ3 の留学経費支弁の見通し、設問 10 の外国語能力のうちの英語、日本語、朝鮮語の能
力、および設問 12 の日本への留学希望(複数回答)、設問 12SQ1 の最も大きな日本への
留学希望理由である。クロス集計表によって、留学希望の程度とこれらの要因との関係を
調べる。
一方、海外への渡航経験に関する設問 7、希望する留学先に関する設問 9、設問 10 のフ
ランス語、ドイツ語、ロシア語の習熟度、および設問 11 の留学先としての各国の魅力度を
本節で取り上げないのはそれぞれ以下の理由による。まず、設問 7 に関しては本章第 1 節
において明らかになったように、外国への渡航経験を有する学生の比率が日本語専攻学生
では 2%にすぎず、また一般学生についても渡航経験者の比率は 11%と低いうえに、渡航先
で最も多いのが香港という状況であるため、この設問の回答と留学希望の程度(以下、留
学希望度と略す)との関係について調べても意味のある結果が得られないと判断するため
である。設問 9 の希望する留学先についての分析をこれ以上進めないのは、日本語専攻学
生の間では日本への留学希望が 87%とその大部分を占め、他方、一般学生についてはアメ
リカとイギリスの 2 国に希望が集中し(それぞれ 54%、12%)、他の国々への留学希望の
比率は相対的に低い水準にとどまっており、この設問については本章第 1 節の考察で十分
であると考えるからである。また、設問 10 に関しては、この設問で取り上げた 6 カ国語の
うち、ドイツ語、フランス語、ロシア語に関しては「少し出来る」という回答が数%ある
だけで残りは「全く出来ない」という状況であり、これらの言語の語学力と留学希望度と
の関係を調べようとしても有意義な結果を得ることが困難だからである。さらに、設問 11
については本章第 2 節で詳細に検討したので、屋上屋を重ねることを避けるためにここで
は取り上げない。
45
本節の最後に、留学希望度と日本への留学理由の関係の分析を行う。分析には、クロス
集計表に加えて数量化理論Ⅰ類も援用する。
なお、設問によっては、第 1 節、第 2 節で掲げた数値と異なる場合があるが、その理由
は、データを集計する際の欠損値や重複回答などの取り扱いが第 1 節、第 2 節とは異なる
ケースが存在するためである。
1
日本語専攻学生と一般学生の留学希望比率の差の検定
留学の希望の程度を問う設問 8 の選択肢は「大いに望む」、「少し望む」、「あまり望
まない」、「全く望まない」の4つであるが、ここでは「大いに望む」と「少し望む」を
「留学を望む」グループに分類し、他方、「あまり望まない」と「全く望まない」を「留
学を望まない」グループに分類して分析を行う。この再分類によって得られたのが表 2-3-1
である。
表 2-3-1 留学希望の 2×2 分割表(単位は回答数)
学生の種別
日本語専攻
一 般
留学を
留学を望
望む
まない
165
16
197
107
合計
181
304
この表から日本語専攻学生で留学を望む学生の比率として p1=161÷181=0.912 が、他方、
一般学生の中で留学を望む学生の比率として p2=197÷304=0.648 が求められる。日本語学
生の集団と一般学生の集団の間に留学希望の比率に関して有意な差があるかどうかを確か
めるために、帰無仮説 H0 を p1=p2、対立仮説 H1を p1>p2 として仮説検定を行う。上記の
表から検定統計量χ2 の値を計算すると、次のような結果を得る。
2
485 165 107 197 16
362 123 181 304
2
41.6
この値は自由度 1 のχ2 の 1%点 6.64 よりも大きいので、帰無仮説を棄却し、対立仮説を採
択する。つまり、日本語専攻学生と一般学生の留学希望の比率には統計的に有意な差があ
り、留学希望という点に関しては 2 つの集団を異質な集団とみなした方が良いことが明ら
かとなった。そこで以下においてはそれぞれの集団ごとに分析を行うことにする。
2
留学希望度と学業成績、勉学意欲、将来希望する職業との関係
2.1 留学希望度と学業成績の関係
留学希望度と学業成績の関係を明らかにするために作成したクロス集計表のうち、日本
語専攻学生に関する結果を表したのが表 2-3-2a であり、一般学生に関する結果を表したの
46
が表 2-3-2b である。まず、前者の表から見ていくことにすると、日本語専攻学生の場合、
成績最上位と成績上位の学生の 6 割強が留学を強く望んでいることが読み取れる。また、
学業成績のどのランクでも留学希望のある学生が 8 割を超えていることも読み取れる。ち
なみに、日本語専攻学生の学業成績と留学希望度との相関係数を求めたところ、r=+
0.269(有意水準1%で有意)であった。つまり、留学希望の強さと学業成績の高さの間に
は弱い正の相関しかないということになる。これは学業成績がよい学生ほど留学希望が強
表 2-3-2a 日本語専攻学生の留学希望度と学業成績の関係
表 2-3-2b 一般学生の留学希望度と学業成績の関係
47
いという傾向が見られるものの、その傾向は決して強くないことを意味する。
次に、表 2-3-2b に示した一般学生の留学希望度と学業成績の関係を見ていくことにした
い。この表から次の 2 点を指摘できる。第 1 に、一般学生では留学を「少し望む」という
回答の比率が最も高く、他方、留学を「大いに望む」という回答の比率は「あまり望まな
い」という回答の比率を下回っている。第 2 に、全体的な傾向として、学業成績の良い学
生の方が学業成績の悪い学生よりも留学希望度が若干強いのではないかと予想される。そ
こで一般学生についても学業成績と留学希望度の相関係数を算出すると、r=+0.189(有
意水準1%で有意)という結果しか得られなかった。これは、一般学生については学業成
績と留学希望度との間に、日本語専攻学生の場合よりもさらに弱い関係しかないことを示
唆している。
2.2 留学希望度と勉学意欲の関係
日本語専攻学生の留学希望度と勉学意欲の関係を示した表 2-3-3a から、留学希望度の強
い学生の方が勉学意欲が強い傾向にあると推測される。そこで日本語学生の留学希望度と
勉学意欲との間の相関係数を求めたところ、r=+0.292(有意水準1%で有意)と低い正
の相関しか得られなかった。つまり、日本語専攻学生においては留学希望度と勉学意欲の
間には弱い関係しか見られないということになる。
表 2-3-3a 日本語専攻学生の留学希望度と勉学意欲の関係
一般学生の留学希望度と勉学意欲との関係を示した表 2-3-3b からは、両者の間に明確な
関係は読み取れない。そこで両者の相関係数を求めたところ、r=+0.201(有意水準1%
で有意)と、日本語学生よりも低い正の相関が得られた。このことから、一般学生におい
ては、日本語専攻学生に比べると、留学希望度と勉学意欲の間には一層弱い関係しかない
ことが推測される。
48
表 2-3-3b 一般学生の留学希望度と勉学意欲の関係
2.3 留学希望度と将来希望する職業の関係
留学希望度と将来希望する職業の関係を、日本語専攻学生について表したのが表 2-3-4a
である。本章第 1 節で指摘したように、外国系企業(具体的には日本企業)への就職希望
が際だって多いことが日本語専攻学生の著しい特徴となっているが、このことは留学希望
の強弱とかかわりなく、日本語専攻学生全体に共通する特徴であることが同表から明らか
である。また、10%前後と比率は低いものの、政府機関・国営企業と大学教師・研究者を
表 2-3-4a 日本語専攻学生の留学希望度と将来希望する職業の関係
49
希望する学生が存在する一方、中国私企業への就職希望が極端に少ないことも注目に値す
る。
続いて表 2-3-4b に示した一般学生の留学希望度と将来希望する職業との関係を見ていく
ことにする。一般学生の回答を全体的に見ると、将来希望する職業の第 1 位は大学教師・
研究者であるが、これは回答者が北京大学、精華大学、北京師範大学など、中国でトップ
クラスのエリート養成大学の学生であることに起因していることは想像に難くない。将来
希望する職業の第 2 位は外国系企業である。留学希望度との関係を見ていくと、留学を「大
いに望む」グループの中では希望する職業の第 1 位が外国系企業に逆転していることが注
目される。一般学生の間でも、外国系企業への就職を視野に入れているがゆえに留学を希
望するという構図が存在することが推察できる。興味深いことは、留学を「あまり望まな
い」と回答した学生のグループにおいても外国系企業への就職希望が第 1 位となっている
ことである。また、一般学生の間でも中国私企業の人気が極端に低いことが読み取れる。
表 2-3-4b 一般学生の留学希望度と将来希望する職業の関係
2.4 留学希望度と留学理由の関係
設問 8 の SQ1、SQ2、SQ3 はいずれも、設問 8 の「将来海外留学をどの程度望みますか」
という問いに対して「大いに望む」、「少し望む」のいずれかを選択した者のみを対象と
する設問である。それにもかかわらず、留学を「あまり望まない」、「全く望まない」の
50
いずれかを選んだ回答者の中に、若干名ではあるものの SQ1∼SQ3 に回答したケースが見
られた。こうした回答はこの項では無効回答として処理した。また、留学を望む理由を複
数尋ねている SQ1と、最も大きな留学理由を尋ねている SQ2 に関して、回答者の中には
SQ2 にのみ回答し、SQ1 は無回答というケースが散見された。こうしたケースに対しては、
SQ2 と同じ番号を SQ1 でも選んだはずであるとの観点から、SQ1 の回答を処理した。さら
に、「その他」の理由はここでは省略した(「その他」という回答は日本語専攻学生で 1
件、一般学生で 2 件であった)。こうした処理を行ったために、設問 8SQ1∼SQ3 の回答
数の一部が本章第 1 節で掲げた数値と異なる結果となっている。
なお、
表 2-3-5a と表 2-3-5b
にはそれぞれ 2 つの表を掲げてあるが、左側の表の最下段の回答者数の欄に記入してある
数字は設問 8 の回答数と同一の数字である。また、各欄の左下の%の数字は最下段の回答者
数に対する各選択肢の回答の比率を表したものである。
まず、表 2-3-5a の左側の表に示した日本語専攻学生の留学希望度と留学理由(複数回答)
との関係から見ていくと、以下のことが明らかである。留学を「大いに望む」グループに
おいて最も多く選ばれたのが「外国語の修得」であり、この回答者グループの約 9 割がこ
表 2-3-5 a 日本語専攻学生の留学希望度と留学理由(複数回答)および留学理由第 1 位との関係
<留学理由第 1 位>
<留学理由(複数回答)>
51
の選択肢を選んでいる。次いで多いのが「国際的視野の拡大のため」の 75.0%であり、こ
れに「有利な就職のため」が 63.6%で続く。この他に回答の比率が 50%を上回ったのは、
「高度な学問や技術の修得」、「国際的仕事につくため」でいずれも 52.3%であった。留
学を「少し望む」グループが選んだ理由も、留学を「大いに望む」グループが選んだ理由
と類似している。すなわち、選択された比率の高い順に留学理由を列挙すると、「外国語
の修得」81.8%、「有利な就職のため」68.8%、「国際的視野の拡大のため」62.3%、「高
度な学問や技術の修得」48.1%であった。両回答グループ間の違いとして、比率上位の 2 位
と 3 位が入れ替わっていること、
「国際的視野の拡大のため」や「国際的仕事につくため」、
「現状からの脱出のため」、「高い学位取得のため」を理由として選ぶ比率が、留学を「大
いに望む」グループに比べると、留学を「少し望む」グループの方が低いこと、の 2 点を
指摘できる。
続いて表 2-3-5a の右側の表を検討することにしよう。留学を「大いに希望する」グルー
プでは、留学希望理由第 1 位として最も多く選ばれたのは「国際的視野の拡大のため」
(22.7%)であり、これに僅差で「外国語の修得」(21.6%)が続き、「有利な就職のため」
(19.3%)は 3 番目に多かった。他方、留学を「少し望む」グループにおいて最も多く選ば
れた回答は「外国語の修得」(34.2%)であり、「有利な就職のため」(28.8%)が 2 番目
に多かった。
次に、一般学生のうち、留学を「大いに望む」、「少し望む」と回答した学生はどのよ
うな留学理由を重視しているのかを表 2-3-5b で調べていくことにしよう。同表の左側の表
から見ていくと、留学を「大いに望む」グループでは「国際的視野の拡大のため」が 72.1%
で最も多く、これに「高度な学問や技術の修得」の 65.6%が続き、さらに「外国語の修得」
の 42.6%、「国際的仕事につくため」の 37.7%、「有利な就職のため」の 34.4%の順に続
いた。留学を「少し望む」グループもほぼ同様の回答パターンを示した。すなわち、「国
際的視野の拡大のため」72.1%、
「高度な学問や技術の修得」54.4%、
「外国語の修得」39.0%、
「有利な就職のため」34.4%の順であった。留学を「大いに望む」グループとの違いは、「国
際的仕事につくため」を選択した回答者が 26.5%と低かったことである。
この項の最後に、留学を望む一般学生が留学理由として何を最も重視しているかを、表
2-3-5b の右側の表で見ていくことにする。留学を「大いに望む」グループにおいては、最
も多く選ばれたのは「国際的視野の拡大のため」の 32.1%であり、2 番目に多かったのが「高
度な学問や技術の修得」の 22.6%、3 番目が「国際的仕事につくため」18.9%の順であった。
他方、留学を「少し望む」グループでは「国際的視野の拡大のため」が 41.3%と、留学を
「大いに望む」グループよりも高い水準となっている。2 番目に多く選ばれたのは、「高度
な学問や技術の修得」であり、この順位は「大いに望む」グループと変わらないが、留学
を「少し望む」グループでは「有利な就職のため」が 3 番目に多く選ばれ、他方、「国際
的仕事につくため」が有効回答の 5.0%にすぎなかった。
52
表 2-3-5b 一般学生の留学希望度と留学理由(複数回答)および留学理由第 1 位との関係
<留学理由第 1 位>
<留学理由(複数回答)>
留学理由に関する以上の考察から、日本語専攻学生も一般学生もともに「国際的視野の
拡大のため」を重視していることがわかった。一般学生の場合、このことは一層顕著であ
り、留学理由第 1 位でも「国際的視野の拡大のため」が最多の回答率となっている。
2.5 留学希望度と経費支弁の見通しの関係
前述のように、経費支弁の見通しに関する設問も、前項の設問同様に、留学を「大いに
希望する」ないし「少し希望する」学生のみが回答することになっている。それにもかか
わらず、誤って回答を寄せた事例が複数見られた。表 2-3-6a と表 2-3-6b にはこうした無効
回答を除いて集計した結果を掲げた。
まず、表 2-3-6a に示した日本語専攻学生の留学希望度と経費支弁の見通しとの関係から
見ていくと、留学を「大いに望む」グループのうち、実に 83%が経費支弁の見通しが「十
分ある」あるいは「少しある」と回答した。また、留学を「少し望む」グループでも 72.7%
の回答者が「十分ある」あるいは「少しある」と回答している。中国の現段階の 1 人当た
り国民所得水準を考慮するならば、率直に言って、これは驚くべき数字である。
53
表 2-3-6a 日本語専攻学生の留学希望度と経費支弁の見通しとの関係
次いで、一般学生の留学希望度と経費支弁の見通しの関係を示した表 2-3-6b を見ると、
日本語専攻学生には及ばないものの、留学を「大いに望む」グループのうち約 3 分の 2 に
あたる 65.5%が経費支弁の見通しが「十分ある」ないし「少しある」と回答している。同
様に、留学を「少し望む」グループでも過半数の 57%が経費支弁の見通しが「十分ある」
ないし「少しある」との回答を寄せている。このことから、日本語専攻学生ほどではない
ものの、一般学生の中にも留学が経済的に可能であると考えている者が、われわれが想像
する以上に多くいることが推測される。
表 2-3-6b 一般学生の留学希望度と経費支弁の見通しとの関係
2.5 留学希望度と語学力との関係
留学希望者は、留学したい国の言語をマスターすることに時間を費やすであろうが、実
際に、留学を希望する者ほど語学力が高いのであろうか。それとも、語学力があっても諸
事情により留学が困難な学生が多数存在するのであろうか。この項では英語、日本語、朝
鮮語について、留学希望度と語学力の関係を調べていくことにする。
54
表 2-3-7 日本語専攻学生の留学希望度と語学力の関係
55
表 2-3-7 は日本語専攻学生の留学希望度と語学力との関係を英語、日本語、朝鮮語の順に
示したものである。日本語専攻学生は集団全体で見ると、英語と日本語に関しては「よく
出来る」と「出来る」の合計が約 50%に達し、他方、「全く出来ない」はほぼ皆無であっ
た。対照的に、朝鮮語に関しては「よく出来る」ないし「出来る」という回答は皆無であ
った。留学希望度と語学力との間の関係の強さを調べるために、両者の相関を言語ごとに
求めた。その結果を示したのが表 2-3-8 である。この表から、留学希望度と英語力の相関は
r=+0.156(有意水準 5%で有意)、留学希望度と日本語力の相関は r=+0.115、留学希望度
と朝鮮語力の相関は r=+0.094 となり、無視しうる程度の相関しか観察できなかった。ま
た、言語間の語学力の相関を求めると、英語力と日本語力の相関が r=+0.318(有意水準
1%で有意)となったものの、英語力と朝鮮語力、日本語力と朝鮮語力の相関はそれぞれ r=
+0.117、r=+0.112 と極めて低かった。
表 2-3-8 日本語専攻学生の留学希望度と語学力の相関行列
次に、一般学生の調査結果を示した次頁の表 2-3-10 に目を転じると、英語に関しては「よ
く出来る」と「出来る」の合計は一般学生全体の 68.6%に達し、とくに留学を「大いに望
む」グループではこの割合は 79.7%にも及んでいる。日本語に関しては一般学生のうち
77.9%が「全く出来ない」と回答しているが、たとえ 22.1%にすぎないにしても、日本語が
少しでも出来る学生がいることはわが国の留学生受入政策にとっては朗報だと思われる。
また、朝鮮語に関して、一般学生の中のほんの一握りであるものの、「よく出来る」ない
し「出来る」と回答した学生がいることも興味深い。
日本語学生の場合と同様に、一般学生についても、留学希望度と語学力の相関を求めた。
その結果を示したのが表 2-3-9 である。この表に示されているように、留学希望度と英語力
の間には r=+0.084 という、無視しうる程度の相関しかなく、日本語力、朝鮮語力との間
でもそれぞれ r=+227、r=+0.149 と、低い相関しかなかった。ただし、日本語力と朝鮮語
の間の相関は r=+0.376 であり、他の相関よりも若干高かった。
表 2-3-9 一般学生の留学希望度と語学力の相関行列
56
表 2-3-10 一般学生の留学希望度と語学力の関係
57
以上の結果から、日本語専攻学生、一般学生の両集団ともに、留学希望度と語学力の間
には低い相関しか見られないと結論できるであろう。つまり、語学力の高い学生ほど留学
希望度が高いという傾向が若干見られるにすぎないということである。
2.6 留学希望度と日本への留学希望理由との関係
この項の課題は、日本への留学を希望する学生だけに回答を求めた設問 12 を対象に、留
学希望度と日本への留学理由の関係について考察することにある。このために、最初に、
留学希望度と日本への留学希望理由(複数回答)のクロス集計を行った。その結果を示し
たのが表 2-3-11a と表 2-3-11b である。この 2 つの表に示された結果を用いて、日本への留
学理由に関してどのような特徴が見られるかを考察する。なお、設問 12 は、本来は、日本
への留学を希望する学生だけが回答することになっていたが、日本への留学を希望しない
学生からの回答が多数寄せられた。そこで、以下の分析では、日本への留学の希望の有無
にかかわらず、11 個の理由のうち「その他」を除く 10 個の理由に対する回答をすべて有効
回答として扱った。また、表 2-3-11a と表 2-3-11b の回答者数の欄の数字には、設問 12 の
SQ1 に対する回答総数を記入した。
まず、日本語専攻学生からの回答をまとめた表 2-3-11a から見ていくことにする。この表
から次のことを指摘できる。第 1 に、留学を「大いに望む」グループに関しては、回答比
率上位 3 位は「希望の就職に有利」(81.9%)、「文化の魅力・興味」(74.7%)、「高度
な学問や技術」(68.7%)であり、僅差の 4 位には「経済経営の先進性」(67.5%)が続い
た。他方、「アルバイトの可能性」については 27.7%しか日本への留学理由に挙げていな
い。第 2 に、留学を「少し望む」グループに関しては、回答比率上位 3 位は「就職に有利」
(67.1%)、「文化の魅力・興味」(61.6%)、「言語文化の近さ」(57.5%)の順となり、
このグループでも「アルバイトの可能性」の比率は 27.4%と低い。また、留学を「大いに
望む」グループと比較すると、「高度な学問や技術」と「経済経営の先進性」を留学理由
に挙げる回答者の比率が低くなっていることも、このグループの特徴である。第 3 に、留
学を「あまり望まない」グループでは「将来の就職に有利」と「文化の魅力・興味」が 72.7%
の同率で最多の回答があり、これに「地理的近さ」と「アルバイトの可能性」がやはり同
率の 54.5%で続いた。なお、留学を「全く望まない」という回答はこの設問では 1 件だけ
だったのでこの回答については論評を避けることにする。
次に、一般学生に関する結果を表した表 2-3-11b から以下の知見を得た。第 1 に、留学
を「大いに望む」グループに関して、設問 12 では回答比率の 1 位が「高度な学問や技術」
(57.8%)、2 位が「文化の魅力・興味」(55.6%)、3 位が「地理的近さ」(48.9%)であ
った。日本語学生の場合と同様に「アルバイトの可能性」の比率が著しく低いことがこの
グループの特徴といえる。第 2 に、留学を「少し望む」グループに関しては、「地理的近
さ」(44.2%)、「高度な学問や技術」(41.6%)、「経済経営の先進性」(38.9%)が上
位 3 位を占めた。第 3 に、留学を「あまり望まない」グループに関しては、回答比率上位 3
58
表 2-3-11a 日本語専攻学生の留学希望度と日本への留学希望理由(複数回答)の関係
表 2-3-11b 一般学生の留学希望度と日本への留学希望理由(複数回答)の関係
59
位は「地理的近さ」(51.9%)、「高度な学問や技術」(48.1%)、「経済経営の先進性」
(40.0%)であった。第 4 に、留学を「全く希望しない」グループでは「文化の魅力・興味」
(50.0%)が第 1 位を占め、これに「地理的近さ」(45.0%)が続いた。一般学生の日本へ
の留学理由における顕著な特徴は、「希望の就職に有利」という回答の比率が日本語専攻
学生に比べて著しく低いことである。
続いて、留学希望度と日本への留学理由第 1 位との関係について検討する。両者の関係
を把握するために作成したのが表 2-3-12a と表 2-3-12b である(これらの表の最下段の「計」
の欄の数字には、選択肢「その他」に対する回答は含まれていない)。まず、表 2-3-12a
から以下のことを指摘できる。第 1 に、日本語専攻学生については、留学を「大いに望む」
グループでも、「少し望む」グループでも、また、留学を「あまり望まない」グループで
も、「将来の就職に有利」が日本への留学理由の第 1 位として最も多い回答となっている
ことである。このことは日本への留学が実利的な動機と結びついていることを示唆してい
る。第 2 に、2 番目に多かったのが「文化の魅力・興味」だったことである。第 3 に、留学
希望度のどのグループでも、この上位 2 つの選択肢に日本への留学理由第 1 位の回答の 6
割以上が集中していることである。
次に、一般学生に関する表 2-3-12b からは次のことがいえる。留学を「大いに望む」グル
ープの挙げた上位 3 位が「文化の魅力・興味」(27.9%)、「経済経営の先進性」(18.6%)、
表 2-3-12a 日本語専攻学生の留学希望度と日本への留学理由第 1 位の関係
60
「高度な学問や技術」(15.3%)の順であるのに対し、留学を「少し望む」グループでは上
位 3 位は「文化の魅力・興味」(23.6%)、「高度な学問や技術」(22.7%)、「地理的近
さ」(21.8%)の順であった。また、留学を「あまり望まない」グループでは上位 3 位は「地
理的近さ」(22.2%)、「高度な学問や技術」(20.4%)、「文化の魅力・興味」(18.5%)
の順であり、さらに、留学を「全く望まない」グループでは上位から「文化の魅力・興味」
(31.6%)、「地理的近さ」(15.8%)および「高度な学問や技術」(15.8%)の順となっ
た。すでに表 2-3-11b に関して、一般学生においては「将来の就職に有利」という実利的理
由を挙げる者が著しく少ないことを指摘したが、このことは一般学生のどの留学希望度の
グループにも共通する特徴であることが再確認された。
表 2-3-12b 一般学生の留学希望度と日本への留学理由第 1 位の関係
2.7 留学希望度と日本への留学希望理由(複数選択)に関する数量化理論Ⅰ類による分析
本節の最後の課題として、留学希望度と日本への留学希望理由(複数回答)との関係に
ついて多変量解析を行う。使用するモデルは数量化理論Ⅰ類であり、外的基準(従属変数)
を留学希望度、要因アイテム(独立変数)を設問 12 の日本への留学理由とする。各要因ア
イテムのカテゴリーは 1 と 0 の 2 つである(その要因が選択されていれば 1、選択されてい
なければ 0 の値をとる)。
61
分析に先立って、日本語専攻学生の留学希望度と日本への留学希望理由(複数回答)の
相関行列を表 2-3-13 に示す。この相関行列から、10 個の要因アイテムのうち、留学希望度
との間の相関係数の絶対値が 0.2 を上回ったのは「高度な学問や技術」、「経済経営の先進
性」、「生活安全・治安の良さ」の 3 つにすぎないこと、また、要因アイテム間の相関も
全体的に低く、絶対値が 0.3 を上回る相関係数は皆無であったことが明らかである。
表 2-3-13 日本語専攻学生の留学希望度と日本への留学理由の相関行列
この日本語専攻学生のデータを対象として、留学希望度を外的基準、日本への留学理由
(「その他」を除く 10 個の理由)を要因アイテムとする分析を数量化理論Ⅰ類によって行
った。その結果を示したのが表 2-3-14 である。p 値の欄の値から、10 個の要因アイテムの
うち有意水準 5%で統計的に有意なものは「高度な学問や技術」、「経済経営の先進性」、
「地理的近さ」、「生活安全・治安の良さ」の 4 つであることがわかる。また、偏相関係
数の欄から、0.2 を上回る値を示したのは「経済経営の先進性」と「地理的近さ」の 2 要因
アイテムのみであることが明らかである。このことは、この 2 つの要因アイテム(留学理
由)は 10 個の要因アイテム(留学理由)の中では留学希望度に影響を与える可能性をもっ
ているが、その影響の程度は大きくないことを意味する。推定結果を見るかぎり、モデル
のあてはまりは良いとはいえない。というのは、決定係数が R2=0.209 と低く、原データの
変動の 20%しか説明していないからである。このような結果に帰着した原因は、モデルそ
のものの統計理論的な性質にあるのではなく、日本への留学意欲に決定的な影響を及ぼす
ような要因が存在しないことに求めるべきであろう。
62
表 2-3-14 日本語専攻学生の留学希望度と日本への留学理由の数量化理論Ⅰ類による分析
次に、一般学生に関する分析結果を検討する。ここでも最初に留学希望度と日本への留
学理由の相関行列を掲げておく。表 2-3-15 に示した相関行列から、留学希望度との間の相
関係数が絶対値で 0.1 を超える理由が 1 つもないことが明らかである。また、留学理由相互
間の相関をみても、相関係数が 0.2 を上回るものが 1 つもないことがわかる。したがって、
表 2-3-15 一般学生の留学希望度と日本への留学理由の相関行列
63
数量化理論Ⅰ類による分析を行う前から、分析を進めても、説明力のあるモデルは得られ
る見込が少ないことが予想される。
表 2-3-16 一般学生の留学希望度と日本への留学理由の数量化理論Ⅰ類による分析
実際に一般学生のデータを対象にして数量化理論Ⅰ類を適用して分析してみると、分析
結果を示した表 2-3-16 の p 値の欄の値から明らかなように、5%未満の有意水準で統計的に
有意な要因アイテム(留学理由)は 1 つも存在しなかった。また、偏相関係数も 0.1 未満の
値ばかりである。その結果、数量化理論Ⅰ類の決定係数は R2=0.026 となり、ほとんど説明
力を持たない。
以上の分析結果から、とくに一般学生に関しては、日本への留学を促進するような決定
的な要因が存在しないことが推測された。
<文責 新田
64
功>
2008 年 9 月 3 日∼9 月 10 日
中
国 調
査
第 2 部 ヒアリング調査
1. 東北育才教育集団
Northeast Yucai Education Group
実施日:2008 年 9 月 4 日
所:中国遼寧省瀋陽市沢南新区・東北育才教育集団南校区 (110179)
場
協力者:東北育才教育集団 高 琛
校長
同
邢 长艳 副校長
同
岳 强
公务办公室主任
同
宋
教諭(日本語担当・通訳兼務)
同
高等部卒業生 5名
東北育才教育集団の概要:
1949 年 5 月 1 日に創立された東北育才教育集団は、幼稚園、 小学部 、中学部、高等部、
教育実験部、 理科部 、国際部、外国語学校、コンピュータ学校等を擁する、公立と私立
の混在する、中国東北地方最大の教育集団である。遼寧省の重点学校であり、遼寧省政府
指定の模範学校である同校は、瀋陽市に 3 つのキャンパスをもち、全体で 7,000 名の生徒
と約 600 名の教員がいる1。学校の先進的な教育施設、質の高い教育、科学的な管理方法は
東北地方のみならず、中国全体でも高く評価されている。中国における最も先進的な教育
実験学校として、国外でも知名度は高い。
東北育才教育集団のサイト:http://www.study-in-china.org/jp/school/nyeg/index.asp
インタビューの目的:
日本語教育を中心にした同校での教育の実情、過去の留学実績、日本と他の留学先との
比較、日本に優秀な留学生を送るための方策等について、同校の関係者から意見を聴取す
ることを主要な目的とした。
1. 東北育才教育集団と日本との結びつき2
東北育才学校は 1949 年 5 月に創立されたが、その母体は、瀋陽が旧日本の支配下にあ
って奉天と呼ばれた時代の日本人学校、千代田小学校である3。千代田小学校では多数の
日本人が学び、1985 年の時点で同小学校卒業者のうち 1,000 名以上が存命であった。そ
の 1 人、わらべや日洋株式会社の創業者大友太郎氏が、日本の大学の学部に入学する者
に対する奨学金制度を 1991 年に創設した(新規受給者 3 名、入学一時金 50 万円、月額
1
この数字には次のインタビュー先である東北育才外国語学校の数字も含まれている。
東北育才学校の歴史については同校で 1985 年 3 月から 2002 年 9 月まで 21 年間校長を務め、大きな足
跡を残した東北育才学国語学校長葛朝鼎先生から詳しく説明していただいた。
3 千代田小学校の正式名称は満州教育専門学校千代田付属小学校であり、1928 年の開校である。
2
65
8 万円、支給期間 2 年半で 2009 年まではアジア学生文化協会により委託運営、現在は同
協会独自事業として受入れ)
。また、大友氏の援助によって、同じく 1991 年に育才学校
内に瀋陽日本語中心が創設された。これは 20 数名の高校 1 年生を対象として、国で定め
られた高校の教科以外に英語と日本語を学ばせるものであり、全員が日本語能力 1 級を
取得した。1993 年からは中学 1 年から日本語クラスの募集をし、実験クラスを設けた。
この実験クラスの生徒たちは中学 3 年で日本語能力試験 1 級を受験し、高校修了後、全
員日本留学した。その後、1993 年から今日まで 15 回卒業生を輩出し、現在までに 400
名以上が日本に留学した実績を有する。
インタビュー中、正面の邢副校長(右から3人目)
高校長(4 人目)宋教諭(5人目)岳主任(6人目)
インタビューの行われた校舎(右側)
2. 東北育才教育集団における教育内容
今回、われわれのインタビューに対応した高琛校長は、前任者が瀋陽市の教育委員会
に転出したために、最近同校の校長に就任したばかりであった。高琛校長は、同校の教
育の目標が「世界の有名校になること」にあり、勉強だけでなく、将来のリーダーを育
てることを目標にしていると言う。そして、同校の特徴が次の 3 点にあると述べた。
第 1 に、現在、幼稚園から高校までを擁する中国東北地方最大の教育集団である(東
北育才教育集団の構成とその所在地については次ページの図を参照されたい)
。
第 2 に、英才教育を施している。遼寧省全体から学生を集めている。中高一貫教育で、
基本的に全寮制である。1 日の授業時間は、40 分授業を午前中に 5 コマ、午後 4 コマ受
講する。夜 6 時から 10 時までは自習時間である。生徒は土日の終末は家族のもとで過ご
す。日本語クラスの生徒は、国で定められた教科時間以外に、中学 3 年から高校 3 年ま
で、週 8 時間日本語を学び、さらに英語も国の規定よりも多く学ぶ。日本語クラス以外
に、英語クラス、フランス語のクラス(2004 年から)がある。
第 3 に、国際交流を実施している。6 カ国の学校と交流がある。日本に関しては富山県
立富山中部高校との間に交換留学プログラムがあり、毎年 10 名の生徒を 1 年間日本に留
学させている。また、サークル活動「世界遺産を保護する会」は、寺院の保存に尽力し、
四川省の地震の際の活躍でユネスコから評価されている。このように生徒はキャンパス
66
外でも活動しており、学業だけでなく国際的に一流の活躍ができるような人材も育てて
いる。
東北育才教育集団の構成とその所在地
3. 留学について
2008 年の約 400 名の高校卒業者の進路について言えば、全体の 4 分の 3 にあたる約
300 名が中国国内の大学に進学したが、その大多数は重点大学に進学し(うち 37 名は北
京大学と精華大学に進学した)
、残りの約 100 名が外国に留学した。最も多いのが日本で
37 名、次が香港で 21 名である。
67
欧米の大学による留学生募集について、高琛校長は次の3点を指摘した。
東北育才教育集団には、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリアの大学が PR
のために来訪した。これらの国の大学は北京、上海、広州等で華やかな説明会を実施し
ている。これに対して日本の大学の PR は少ない。
欧米の大学は高額の奨学金を提供してくれるケースがあるだけでなく、奨学金支給を
入学前に約束をしてくれるので留学先として魅力がある。一例として、イギリスは 3 万
9,000 ポンドの奨学金で世界中から 10 名の留学生を募った。最終的に奨学生に採用され
た 10 名中 2 名が中国人であった。また、イェール大学も 4 万ドル∼5 万ドルの奨学金を
留学生に支給する制度をもっている。東北育才教育集団の高等部の今年度の日本語クラ
ス卒業者のうち 2 名がイェール大学に進学するが、1 名はこの高額の奨学金が支給される
ことが決まっている。なお、このイェール大学奨学生を含む日本語クラスの同期生の 6
名が高等部在学中に 1 年間日本に留学した。
欧米の大学が留学生を選抜する方法は、TOEFL と SATⅠ・Ⅱが中心である。日本が留
学希望者の渡日を求めるのに対して、欧米の大学は書類のみで選考するので、志願しや
すい。また、奨学金の採用についても、たとえばイェール大学の場合、北京でイェール
大学卒業生が行うというように、柔軟である。
4. 日本語クラスと日本留学について
日本語クラスは、ここ 3 年間で言えば人気は高い。日本語教師 3 人で運営する日本語
クラスの 4 分の 3 は日本に留学する。日本語教師の中には日本人も含まれる。過密スケ
ジュールとも言える学習内容に耐えることで、苦しさに耐える訓練がなされることがメ
リットになっている。
高校長からは、最後に、日本の大学についてのイメージがわかない、どの学部でどん
な学問を学ぶかがイメージできないとの指摘がなされた。
5. 日本留学中の高等部卒業生の意見
校長、副校長が所用のため退席した後、学校側が招集してくれた同校高等部卒業生で
日本留学中の学生 3 名から、日本留学に関する意見を聴取した。以下に、その要点を箇
条書きにする。
○一般論として、中国の学生は日本の生活文化に触れる機会が少ない。他方、欧米文化
にあこがれをもっている。そうした中で、日本語クラスの生徒は日本文化に触れる機会
が多い。
○欧米の大学は留学フェアを頻繁に行っている。これに対して日本の大学は PR が少ない。
このため、先輩からの日本の大学に関する情報が、重要な情報源である。
○留学希望者に対して、日本に留学すればどういう未来があるかを示してほしい。
○日本留学試験を中国国内で受験できないのが残念である。
68
6. 留学生の進学先の文科系と理科系の割合
インタビュー終了後、日本語担当の宋先生と岳主任に、育才を卒業して留学した生徒
の進学した大学・学部の文科系、理科系の割合を尋ねたところ、4 分の 3 が理科系、残り
の 4 分の 1 が文科系との回答を得た。
このような割合になる理由をさらに尋ねたところ、
理科系の科目は高校まで日本と中国は共通であるため、理科系の大学・学部は留学しや
すい、他方、文科系の場合、新たに社会(日本史、世界史等)を学ばなければならない
ため負担であるとのことであった。
7. まとめ
校舎の正門脇には、高等部新卒者の進学先、留学先がずらりと並んだ一覧表が掲げら
れている。キャンパスはその広さと施設の充実ぶりで、日本の中規模大学にも匹敵する
ような印象を受けた。また、中国でもトップレベルの進学校の 1 つとしての自負を、教
職員および面談した卒業生たちから感じ取った。日本留学という点に関しては、わが国
の大学の PR 不足、留学ための便宜が不足していること(日本留学試験の中国国内での受
験を認めること、書類審査のみで入学許可をすることの必要性)
、日本語教育の支援の必
要性、を痛感した。
<文責:新田
69
功>
2. 東北育才外国語学校
Northeast Yucai Foreign Language School
実施日:2008 年 9 月 4 日
所:中国遼寧省瀋陽市沢南新区高栄路・東北育才外国語学校 (110179)
場
協力者:東北育才外国語学校
同
葛 朝鼎
校長
白
副校長(学校側通訳兼務)
景时
東京大学大学院経済学研究科修士課程 李 天舒(日本側通訳)
東北育才外国語学校の概要:
東北育才学校の日本語習得コースが拡大・独立し、①ハイレベルな人材養成、②日中の
架け橋となること、③国際的な交流の促進、という 3 つの理念を掲げて、1998 年 9 月に開
校した。開校にあたり、資金は京都にある日本語教育機関、関西語言学院が提供し、教員
は東北育才学校が提供した。
当初は高等部のみで出発したが、2002 年に中高一貫コースを設け、中学部の募集を開始
した。中学校 1 年∼高校 3 年まで計 24 クラスあり、学生数は約 1,000 名、教員数は 105 名
である。キャンパスは瀋陽市にあり、生徒は同市の都市部から集めている。競争率は 8 倍
である。
インタビューの目的:
日本語のエリート教育をしていることで高名な同校の教育および留学の実態を知ること
を目的として、インタビューを行い、さらに教育施設等の見学を行った。インタビューの
もう一つの目的は、日本の教育の実態に明るく、また、多数の優秀な留学生を主に日本に
送り出してきた同校の葛朝鼎校長の留学生にかかわる識見に触れることにあった。
東北育才外国語学校正門
東北育才外国語学校が関西語言学院の支援によっ
て設立されたことを表す記念碑
70
1.
東北育才外国語学校における教育の概要
同校は全寮制で、兄弟校である東北育才教育集団と同様に、平日は毎日、40 分授業を
午前中 5 コマ、午後4コマ、自習を午後 6 時から 10 時まで行っている。当校では自習は、
教室で、教員の監督の下に行われる。また、土曜の午前中も授業が行われる。こうした
密度の濃い授業をしているので、当校の生徒は、高等部卒業時に、大学4級(学部卒業
レベル)から6級(大学院生レベル)の学力水準に到達する。
日本語の授業は、高等部のみの時代には高2から、中高一貫教育になってからは中学 3
年から、通常の科目に加えて、週 8 コマの日本語の授業が追加される。英語は週 6 コマ
学習している。中国の一般的な大学の授業料が年間 4,000 元であるのに対して、当校の
授業料は 1 万 2,000 元と高額である(寮費は別)。
高等部3年進級時には、留学先別クラス編成を行い、留学先を二股かけることを認め
ていない。
現在の在学生は過去7期の卒業生よりもレベルが高い。それは中高一貫性になったため
である。高等部のみの募集の場合、よい生徒は学費の安い公立に行ってしまう難点があ
った。
東北育才外国語学校寄宿舎 昼食後の昼寝の時間がある
2.
留学生送り出し実績
第 1 期生が卒業した 2001 年から 2007 年までの 7 年間で 1,600 名の卒業生を送り出し
たが、そのうちの 81%、約 1,400 名が日本に留学し、12%が中国国内の大学に進学し、
残りの 7%が欧米に留学した。日本への留学者は大部分が国立大に進学し、3 分の1弱の
31%が日本の上位 10 大学に入学した。
第 1 期生の追跡調査をしたところ、215 名が日本の学部に留学し、そのうち 127 名が
大学院まで進学した(東大の大学院には 14 名)
。
71
2008 年の中高一貫コースの卒業生のうち、53 名が日本へ留学、32 名がアメリカに留
学、そのうち 24 名は世界トップ 100 大学に入学した。また、37 名が中国国内の大学に
進学した。中国国内の大学に進学した学生の 70%が国家重点大学に入学し、省レベルの
大学に入学したのは 2 名だけだった。日本語以外に英語も授業数が多く、密度の濃い学
習をしているので、簡単にアメリカ留学ができる。ここ 2,3 年アメリカ留学が容易にな
って、日本留学が少し減っている。
留学生の文科系と理科系の割合であるが、留学生の 8 分の 7 が理科系の大学・学部に、
残りの 8 分の 1 だけが文科系の大学・学部に進学した。
高等部を卒業後、日本の大学に入学する準備期間に、京都の関西語言学院で日本語を
学ぶケースが圧倒的に多い。同校からの進学結果は良好である。
東北育才外国語学校の葛校長(右から3人目)と
白副校長(左端)と共に記念写真
3.
同校が日本留学に力を入れる理由と日本語教育の特色
この点に関して、葛校長は次の 3 点を指摘した。
第 1 に、日本との歴史的なつながりがある4。
第 2 に、大学生レベルの教材を選んで日本語教育を行っている5。
第 3 に、他の学校でも日本語の授業を開設しているものの、内容は簡単なものである。
また、そうした学校では英語を教えない。これに対して、当校では英語も全員勉強して
いる。
4
葛校長は明言しなかったが、旧満州以来の歴史的つながりのことを指すものと想像する。
同校では、日本語の教科書として、
『みんなの日本語』
『日本語中級 301』
『日本語上級 301』を使用して
いるとのことである。
5
72
4.
日本への留学生のもつメリット
葛校長は、日本への留学のもつメリットとして、以下の 4 点を挙げた。第 1 に、大学
のレベルが高い6。第2に、欧米の大学に比べて学費が安いことである。第3に、アルバ
イトが認められているので、経済的に有利である。第4に、学部生でも奨学金が受給で
きることである。第5に、瀋陽が日本に地理的に近いことである。
5.
アメリカ・イギリス・オーストラリアへ留学する中国人学生が多い理由について
一般論として、アメリカ・イギリス・オーストラリアへ留学する中国人学生が多い理由
を尋ねたところ、葛校長は、第1に政治的理由を、第2に言葉の壁・情報不足の2点を挙
げた。第1の政治的理由とは、小泉首相時代の日中間のマイナスの関係のことを言い、
小泉首相の靖国参拝は、中国国民の感情から言うと抵抗感が強い。とくに、教養の低い
普通の家庭にそうした傾向が見られる。第2の、言葉の壁・情報不足とは、日本語を開
設している学校の数が少なく、開設していても履修している生徒の数が少ないこと、メ
ディアが日本の大学の宣伝をしておらず、日本の大学の様子が伝わりづらいことを指す。
6.
日本の大学への留学生を増やす長期的視点に立った方法
この質問に葛校長から次の3点の回答をいただいた。
第1に、中学校、高等学校に日本語教育を普及すること。方法としては、経済的支援に
よって日本語の授業を開設するのがよいと思う。
第2に、中日関係の正しい理解を促進すること。具体的には、日本の経済力、科学技術、
留学についての情報を普及させることである。
第3に、日本の高等教育の水準が高いことを告知すること。留学生の将来にとっても役
立つこともあわせて宣伝する。
第4に、中国の学生に、対日関係をどう作っていくかを教えること。昔のことにこだわ
ってばかりではいけない。長期的には対話的・友好的でなければならない。それによっ
て正しい歴史観が構築されるだろう。
7.
日本への留学生を増やすための対策
第1に、日本への留学に関する情報が知られていない。4 において指摘した日本への留
学のメリットが、中国全体で知られていない。とくに一般家庭で知られていない。日本
企業が中国人採用を増やしている。これも一般家庭に知られていない。したがって、日
本に関する正しい情報をとくに一般家庭にも伝えることが重要である。
第2に、日本へ留学するための前提条件が厳しすぎる。日本の大学・学部は日本留
学試験を留学希望者に課しているが、他の国には留学生受入にあたってこのような試
6
確認しなかったが、これまでの留学実績を考えると、日本の理科系の大学・学部のことを指すものと思
われる。
73
験はない。つまり、日本留学試験のあり方も改善すべきである。
第3に、日本に行って試験を受けないと留学が決まらない。日本以外の国は、当該国
まで行かなくとも入学が可能である。したがって、この点も改善すべきである。
第4に、日本語を普及させるための環境を整えることが必要である。日本語の参考書
や副教材が足りない7。教科書の推薦、紹介をしてほしい。日本からボランティアの日本
語教師を増やしたらどうか(ただし、政治的宣伝は行ってはだめ)。また、孔子学院の日
本語版を創ったらどうか。
8.
中国東北地区と日本との関係
最近、北京・上海出身者の日本への留学が激減したのに対して、中国東北地方出身者
の日本留学が目立つようになったことについて、葛校長に意見を求めた。この点に関し
て、同校長は、旧満州時代の日本と中国との関係について言及し、華北や黒竜江省に比
べると遼寧省などの東北部は被害が少なかったこと、また、日本語のできる年配の人た
ちがいたことが、日本との関係にプラスに働いているのではないかと語った。
9.
留学生の送り出し国と受入れ国のメリット、中国人留学生帰国促進について
留学生を送り出す国と受け入れる国にはそれぞれどのようなメリットがあるのかとい
う質問を葛校長したところ、送り出し国にとっては人材交流のメリットがあり、他方、
受け入れ国にとっては、人材を集める、学費を徴収するというメリットがあるとの回答
があった。
次に、中国人留学生が留学終了後も留学先の国に留まることが多いことに関連して、
中国人留学生の帰国促進について意見を求めたところ、帰国促進は時期尚早との返事で
あった。その理由を尋ねると、中国にはまだ仕事の場がなく、留学生自身も十分なスキ
ルを身につけていないかもしれない、とのことであった。
この質問に関連して、葛校長は、東北育才外国語留日交流会を最近設立したことに言
及した。この交流会は日本にいる同校の OB たちが組織する会で、総会と分会(関東、
関西、北海道、九州)からなる。会では政治、宗教、営利にかかわる話題は禁止されて
いる。この会を通じて、先輩が後輩に就職の世話をするケースもあるという。
10. 日本・日本語に対する中国側の認識の低さ
葛校長は、インタビューの中で、繰り返し、日本の(政府および高等教育機関の)宣
伝が少ないことを指摘した。また、日本に対する認識が低いこと、正しい認識がなされ
ていないことにも繰り返し触れた。こうした認識の低さも原因となって、葛校長が十数
7
インタビュー終了後、同校の図書室を案内していただいた。雑誌類は充実しているように見受けたが、
事典、辞典、辞書類は古色蒼然としていたし、日本語の一般図書も数が限られ、最近のものは少ないよう
に感じられた。
74
校の高校に対して日本語クラスの開設を働きかけてきたが、働きかけはうまくいかなか
ったとのことである。
このような日本に対する認識の低さは、東北育才外国語学校のように、日本への留学
に特化した学校においてさえ、生徒の間に反映している。同校で、中 3 から第 2 外国語
を学ばせるにあたり、2クラス計 80 名からなる外国語実験クラスを設けたところ、英語
クラスに希望が集中した。そこで英語教師にくじ引きさせ、40 名の英語クラスの生徒を
選ばせた。他方、最初から日本語を学びたいのは十数名に過ぎなかったとのことである。
このように日本および日本語に対する認識の低さにもかかわらず、葛校長は、なによ
りもまず、日本での進学実績を作り、日本語学習および日本留学を促進してきたと述べ
た。
11.
まとめ
今回の中国での訪問インタビューの皮切りが、この東北育才外国語学校であった。瀋
陽市の中心部からは多少離れているものの、比較的近時に開発された、区画整理の見事
な地域の一角を占める同校のキャンパスも、兄弟校の東北育才教育集団のキャンパス同
様、中学高校というよりも、日本の中規模大学レベルのものであった。
キャンパスの見事さ以上に感銘を受けたのが、同校の葛校長先生の対応であった。東
北育才学校および東北育才外国語学校の2校においてあわせて四半世紀以上にわたって
校長を勤め、日本語クラスの設置、日本(およびその他の国)への留学生送り出しのシ
ステムを構築し、中国全体でもこの点に関してはトップレベルの実績を残してきた葛校
長には、大きな仕事を成し遂げた人のもつ落ち着きと自信が感じられた。
中国から日本への留学生の送り出しに関する情報収集力・分析力、そして適切な戦略
に基づいた政策の立案と実施、そのいずれにおいても葛校長は頭抜けた実力を備えてい
る。
葛校長が繰り返し指摘したのは、日本側(日本政府と大学)の PR 不足である。適切な
情報を中国側に提示してこなかったことが、留学希望者だけでなく一般市民にも日本の
正確な姿が伝わっていない根本原因である。この点に関して、政府というマクロレベル
でも、また、個々の大学・大学院というミクロレベルでも今後継続的な努力の必要があ
ることを痛感した。極言かもしれないが、すでに企業努力を行っている大学を除くわが
国の大部分の大学は、
「殿様商売」から「顧客第一主義」へと発想を転換することが一層
求められていると言えよう。
今回の中国調査の発端は、われわれの研究グループが 2006 年度に文部科学省の委託研
究を実施した際にオーストラリアの IDP の報告書の1つにおいて、留学生受入主要国の
要因比較がなされていることを知ったことにある。IDP の報告書の報告書では英語を母
国語とする 5 カ国のみが比較研究に取り上げられていたが、いったい、わが国の大学(お
よび大学院)は留学生の主要送り出し国の留学希望者からどのようにとらえられている
75
かを、現地の専門家・関係者の訪問インタビューと一般大学生に対するンケート調査を
通じて明らかにすることがこの中国調査の主な目的であった。この目的に関して、葛校
長から多くの含蓄ある意見を頂戴した。
IDP の報告書が留学生の受入を規定する要因として取り上げたのは、①教育の質、②
雇用の展望、③コスト(=学費を含む留学費用)、④個人の安全、⑤ライフスタイル、⑥
入学のしやすさ、の 6 つである。
葛校長とのインタビューだけでなく、今回インタビューに協力していただいた方々は、
いずれも、④の個人の安全と、⑤のライフスタイルにはまったく言及しなかった。これ
は中国の留学希望者にとっても、この2点に関する日本の評価は高いことを暗に前提と
していたと解釈すべきであろう。③のコストに関しては、少なくとも葛校長は、英語圏
の先進国よりも、日本の学費が安く、アルバイトも可能であることから、日本の大学の
方が比較優位に立っているとの判断を下していた。また、日本の大学に進学した場合の
雇用の展望については、明確な意見を聞くチャンスを逃してしまったが、中国の東北地
方への日本企業の進出の実態、および東北育才外国語学校の卒業生の就職状況から、葛
校長はプラスに評価しているのではないかと推測する。
しかし、①の教育の質と⑥の入学のしやすさに関しては、日本の大学は英語圏の先進
国に対して比較劣位にあると判断される。たしかに、葛校長は 4 において、日本の高等
教育の質が高いと言っているが、これはあくまでも、中国国内の大学と比較した場合に、
日本の理科系の大学、学部、大学院にのみ当てはまると解釈すべきであろう。
最後に、⑥の入学のしやすさに関しては、諸手続の煩わしさという点から、また、中
国の高校を卒業しても学年歴の相違のために、直ちに大学に入学できないという点から、
比較劣位に位置づけられているものと判断される。
<文責 新田
76
功>
3. 大連外国語学院
Dalian University of Foreign Languages
実施日:2008 年 9 月 5 日
場 所:中国遼寧省大連市中山区延安路 94 号 (116002)
協力者:大連外国語学院日本語学院副院長
出国留学人員培訓部 副主任
宮 偉
准教授
(通訳なし、日本語によるインタビュー)
大連外国語学院の概要:
大連外国語学院は、中国の代表的外国語大学の一つであり、東北地方唯一の外国語大学で
ある。1964 年周恩来首相の承認により「大連日本語専科学校」として設立され、その後、
「遼
寧外国語専科学校」に改名し、1978 年から現在の校名になっている。現在は英語学院、漢
学院、ソフトウエア学院など 9 つの学部があり、約1万2千人の学生が在籍し約 900 名以上
の留学生が在籍している。日本企業の進出著しい大連における日本語教育の拠点であり、日
本の多くの大学と交流協定を結び、学部や大学院の留学生を日本に多数送り出す実績を積ん
でいる。
大連外国語学院のサイト:http://www.dlufl.edu.cn/
インタビューの目的:
大連外国語学院の日本語学院(学部)における日本語教育の実情をお聞きし、日本の大学
との留学交流への取り組みについて尋ねることを目的として、今回インタビュー調査を実施
した。対応してくれた宮先生は、大変日本語の堪能な方だったので、通訳なしで日本語のイ
ンタビューに応じて頂いた。
1.
大連外国語学院の日本語学院
日本語学院には、毎年約 800 名の新入生を迎えており、87 人の日本語専任教員が日本
語教育に当たり卒業生は既に 3000 人を越えている。
日本語教育機関としては世界一の規模を誇り、入学試験の難易度は、大連では大連理
工大学に次いで高く、東北3省以外からの入学希望者も多いが、全体としては東北 3 省
からの入学者が 80%を占めている。授業料も 8,000 元/年と通常の大学の2倍の高額で
あるにも関わらず、日本語学院の入学希望者は年々増大している。
日本語学院は、日本語専攻(600 名)の他に経済(30 名)、経営(30 名)
、金融(30
名)の3専攻があり、これら3専攻では日本語はもちろん個別に経済、経営、金融の専
門科目を履修している。また、日本語専攻には、言語文化、ビジネス、観光、日英2語、
77
日韓2語のコースがあり、日本語だけを学んでいる訳ではない。
学生の日本語能力は、入学後 2 年間勉強した後の 3 年生前半の日本語能力試験の受験
結果1級の合格率は 67%であり、4 年生の卒業時には 95∼96%が1級に合格している。
日本語学院の学生は、その他 JETRO 実用日本語検定(J.TEST)なども受験している。
授業は 1 年次には、日本語と中国語半々で講義を受講するが、2年次以降はほとんど日
本語での講義を受講する。日本人教員も毎年募集一年ごとに更新し現在 14 名が在籍して
いる。
日本語の授業は、日本語学院のみならず、ソフトウエア学院(学部)でも専門のソフ
トウエアの学習の他に日本語履修している学生が 3,000 人(3分1)いる。中国の日系
企業等への就職の際に有利になるので、日本語履修希望者は毎年多くいるようである。
2.
日本語学習者の傾向
日本のドラマやアニメは、中国のテレビでも放映されているし、日本のマンガも中国
の若者によく読まれている。そうした日本の POP カルチャーの流入を背景として日本語
の学習を希望する学生も増えてきているという。もちろん、日本語修得学生の就職時の
初任給は一般と比べて高く、日本語学院の就職率がいいことも日本語を学ぶ大きな理由
である。
中国の大学卒の就職率が 70%台で 3 割が就職できないという状況の中で、日本語学院
の就職指導部には日系企業からの求人が多く来ているし、日系ソフトウエア産業からの
求人も多い。そのため日本語学院の第一次就職率(7月卒業時点)は毎年 100%を誇って
いる。
日本語学院への入学希望者が多い背景には、100%という就職率の高さや初任給の高さ
もさることながら日本のアニメ文化おマンガ文化に親しんだ世代が日本語学習の敷居を
低くしていることも背景になっているという事情が読み取れる。
3.
日本の大学との留学交流の実情
日本の大学との交流協定校数は 30 校以上にのぼるが、協定の内容は学生交流、学術交
流、大学院交流など様々である。
学生交流では、2+2のツイニング・プログラム(二重学位協定)を実施している大
学が武蔵野大学、桜美林大学、亜細亜大学、青山学院大学、城西国際大学、岡山商科大
学、北陸大学、立命館大学の8大学にのぼるが、具体的には、中国と日本の学年歴の違
いによって、2.5(中国)+2(日本)や2(中国)+2.5(日本)となっている。2+2
の学生交流協定校を含めれば 10 校になり、本科生 200 人がこの協定によって日本留学を
果たしている。また、立命館大学経済学部とは 3.5(中国)+0.5(日本:12 単位)+2
(大学院)の交流協定も始めているが、その他にも3(中国)+1(日本)のプログラ
ムもあり、留学交流プログラムは多彩である。
78
また、日本の大学への「大学院推薦入学制度」も岡山商科大学、亜細亜大学、県立広
島大学など5、6の大学との間で協定を結び、経済、経営、情報分野に学生を送り出し
ている。
日本語学院の学生で日本留学への希望者は非常に多く、学生はインターネットで日本
の大学情報を収集することもあるが、日本語学院では、毎年日本留学のための各大学の
説明会を行い、学生がそれぞれ日本の希望大学を協定校の中から選択する。北陸大学か
らは 98 年から毎年2+2のプレゼンに来ているし、立命館大学の経済学部・経営学部か
らも先生が大学の説明に来ている。これらの大学の入学者選抜は、大学の先生が大連に
来て筆記と面接による選抜試験をしている。
4.
留学交流の問題点
協定校への日本留学希望者は、どうしても学生の希望が首都圏に偏る傾向があり、毎
年 10 名を受け入れている国士舘大学には 10 倍の希望者が集まるという。
2+2のジョイント・プログラムでは毎年 200 名を日本の各大学に送り出しているが、
日本側の大学との緊密な連携が不足すると学生管理が不行き届きになる場合があり問題
である。20 名以上を受け入れてもらっている大学には本学から教員1名を派遣している
が、半分程度は相手校任せになっている。本学からの派遣教師は毎年不定期ではあるが 1
年間の予定で毎年5∼6名派遣している。
本学での日本人に対するイメージは相対的に良く、真面目で細かく世話をしてくれ、
日本の大学でゼミに参加して真面目に勉強する学生もいるが、日本の大学は中国の大学
と違って自由過ぎるという問題もある。
日本の大学の学費は概ね 70∼80 万円/年であり、学生宿舎は大学が用意してくれてい
る。大半の本学学生は、親から 1 年分の学費の支援を受けているが、中にはアルバイト
に精を出しすぎ勉強がおろそかになる学生がいて日本語能力も高まらないという問題が
ある。
さらに本学では、日本での卒業後の就職先等行き先が十分つかめていないという問題
がある。最近2+2の学生のその後の動向を調査したところ、3分の1が中国に戻り3
分の1が日本で大学院に進学し、残りの3分の1が日本で就職をしていたことがわかっ
た。
大学レベルの問題ではないが、留学ビザ取得では、日本の入管政策に一貫性がなく、
同一内容の申請書類を提出してもある入管ではパスしても別の入管ではパスしない場合
がある。特に東京の入管が厳しいので東京の日本語学校には行きたがらないという傾向
もあるという。
79
大連外国語学院、大連市内キャンパス
5.
宮日本語学院副院長(右端)と共に
留学交流の可能性(まとめ)
大連日本語学院は、東北地方の日本語教育で著名な外国語大学として日本国内でもよ
く知られた大学であるが、今回訪れて我々は中国の日系企業への日本語のできる高度人
材の送り出し機関として重要な機能を果たしている大学だという認識を新たにした。
この大学が単に毎年 700 名余の日本語習得学生を毎年輩出しているだけではなく、①
学生の日本語レベルの高さ(日本語能力試験合格率1級 95%以上)
、②経済、経営、金融
等の専門科目修得やソフトウエア学院(学部)での日本語習得など、日本語能力を持つ
幅広い実用的人材を育成していること、③さらにこうした日本語のできる高度人材をさ
らにレベルアップするために日本の大学、大学院に留学生として送り出していること。
こうした高度人材育成に対するたゆまぬ努力をしている大連外国語学院の姿勢に敬服し
たというのが偽らざる感想である。
しかし、同時に日本側の我々の構えに疑問が呼び起こされたのは、ツイニング・プロ
グラムにしろ、大学院優先入学制度にせよ、協定を結んで積極的に高度人材を育成しよ
うとしている日本の大学に、主要大学がほとんど見られないことである。
その理由も短刀直入にお聞きした。宮先生が言われるには、日本の主要大学は優秀な
人材をわざわざ中国まで足を伸ばして獲得する必要がないからだろうという感想を述べ
られた。その後訪れた北京の中国教育部留学服務中心では、欧米諸国の有名大学や国家
機関が積極的に中国国内でリクルートしているという話を伺った。
宮先生の言われるように、日本の大学が国内だけで優秀な人材を確保できる状況にな
いのは日本の大学人なら周知の事実である。にもかかわらず、欧米の大学並みに海外リ
クルートに熱心でない日本の大学は、グローバルな高度人材の育成に踏み出していない、
つまり、人材育成の鎖国状態をいまだに堅持していると言わざるを得ない。
中国の東北地方は、中国国内でも最も親日的で日本留学熱の盛んな地域である。そん
な地域にある最大の日本語教育機関、大連外国語学院が日中経済や日本経済の発展に貢
献できる高度人材育成のジョイント・プログラムを日本の主要大学と持てないのは、偏
に日本側の見識のなさ、努力不足の結果と言わざるを得ない。
80
日本留学への送り出し要因(日本側の誘因)を探る今回の調査目的から見ても、大連
の日本語学院学生の日本留学願望は強く、概ね条件が整っている。日本語習熟をベース
として①教育の質(日本の大学教育)、②雇用の展望(日本、中国での雇用展望)、③コ
スト(学費)
、④個人の安全(生活の安心)、⑤ライフスタイル(日本文化への親しみ)、
いずれも中国の若者は評価している。しかし、残念ながら唯一⑥「入学のしやすさ」(主
要大学への留学しやすさ)だけが彼らにとってネックになっている。
こうした実情を背景にして考えれば、日本語能力試験1級レベルの能力を持ち、専門
分野での高度な教育研究を希望している優秀な中国人学生の受け皿として、日本の大学
は一刻も早く積極的に門戸を開きグローバルな高度人材の育成に踏み出すべきであろう。
<文責:坪井
81
健>
4. 大連外国語学院留学服務中心
Service Center for Studying Abroad, Dalian University of Foreign
Languages
実施日:2008 年 9 月6日
場 所:中国遼寧省大連市中山区延安路 94 号(116002)
大連外国語学院留学服務中心楼 114 室
協力者:大連外国語学院留学服務中心 日本五部 劉 景業 部長
同
日本五部女性職員 通訳
大連外国語学院留学服務中心の概要:
大連外国語学院の関連する留学斡旋機関であり、大連外国語学院生の留学斡旋が全体の
半分を占めるが、それだけでなく日本留学を中心に幅広く海外留学を希望する学生に対す
る留学仲介業務を行っている。大連市内に 26 ほどある留学斡旋機関の中では日本関係の
斡旋業では最も大きい。日本留学関係は4部に分かれ、年間 400 人ほどの日本留学希望者
の斡旋業務を 30 名ほどの職員で扱っている。
大連外国語学院留学服務中心のサイト:http://www.duflstudy.com/
インタビューの目的:
日本留学希望者の斡旋業務を直接担当しているエージェントの声を聞くのが目的であ
る。留学斡旋業者の実際的な業務内容や日本留学希望者の最近の動向や変化、問題点や希
望などを聴取するのが主要な目的である。なお、このインタビュー調査は結果的に事前ア
ポなしの飛び込みのインタビュー調査になったが、担当者は仕事中にもかかわらず、非常
に協力的であり通訳を交えて 1 時間余りこちらの質問に丁寧に答えていただいた。
1.
大連外国語学院留学服務中心訪問の目的
大連外国語学院留学服務中心(センター)は大連外国語学院の敷地に隣接しており、
大連外国語学院の付属施設のようにも見えるが、必ずしも大学の一部門ではなく大連外
国語学院と相互に緊密な関係にある別組織のようであった。
我々は、同服務中心の第5部劉部長から同じ第五部女性職員の通訳を入れて、1時間
以上、日本留学斡旋業務に関する詳細なお話をお聞きした。劉部長は、50 代後半か 60
代前半と思われる方で、この仕事に 12 年間携わっているという。
日本五部の部屋の壁一面に留学斡旋の成果を誇示するかのように張られた「在留資格
認定証明書」のおびただしいコピーを見て、居合わせた職員に撮影許可を求めた。下に
82
掲載した写真はその一部である。
大連外国語学院留学服務中心の入口
2.
壁一面の「在留資格認定証明書」コピー
大連外国語学院留学服務中心の概要
この留学服務中心は、大連市内に 26 ほどある留学斡旋業者の中では、日本留学関係で
は最も大きな留学斡旋業者である。日本留学関係は4部(5部はあるが4部はない)に
分かれており、年間 400 人ほどの日本留学希望者の斡旋業務を扱い、200 人は大連外国
語学院の学生であり、その半分は2+2の本科生、大学院留学、その他の専科生の留学
を扱っている。日本留学担当職員は全体で30人ほどいるが、劉部長の日本五部は6人
のスタッフがいる。内2名はビザ担当である。1 部2部3部の具体的業務区分の詳細は不
明だが、日本の各協定校(大学等)への留学斡旋を専門に担当する部署のようである。
例えば、第1部は岡山商科大学のポスターがドアに張られており、こうした協定校への
留学斡旋を行っている専門部署のようであった。日本以外では、韓国、アメリカ、イギ
リスの留学斡旋も行っており、それぞれ 70∼80 人程度取り扱っている。
学生や親からの留学に関するあらゆる相談業務は全て無料で行っている。実際に日本
の日本語学校や大学への入学条件が整い、それらの学校からの入学許可が降り、各種の
留学に必要な手続きを行って、最終的に留学に必要な「在留資格認定証明書」の交付を
受けてから手数料に関する全ての費用を受け取ることになる。留学斡旋手数料は協定で 8
千元(12 万円)から 1 万元(15 万円)に決められている。この業者も斡旋手数料は1万
元とのことである。
3.
留学希望者への斡旋業務と日本留学理由
日本留学斡旋業の中心は、日本語学校への仲介業務になるが、日本の一流大学へ進学
できるかどうかは、90%は学生の希望に合った良い日本語学校を紹介できるかどうかに
かかっているという。
劉部長は、留学希望者が自分の希望に合った日本語学校を選択できるよう仲介斡旋す
る仕事は、学生の人生を左右する重要な仕事であると自信を持って語った。また、留学
斡旋に関する仕事は、留学希望の学生本人だけでなく、両親にも日本での学生生活の実
83
情や留学費用などのことをしっかり説明し理解してもらうことが大切である。従って、
本人だけでなく両親も一緒に来てもらって、子どもを安心して日本へ送り出してもらえ
るよう一緒に相談するようにしていることを強調し、本人のみならず両親に安心しても
らうことを大切にしている様子が伺えた。
日本留学に適した学生は、単に勉強ができるというだけでなく人格面、経済状況、学
生の頑張る力、適応力などが大切であるという。自分の会社から日本留学を斡旋した学
生には一人の不法者も出していないと劉部長は胸を張った。
また、最近の学生気質の変化については、以前はアルバイト志向が強い学生が多かっ
たが、最近では遊び志向の学生が多くなったという。そんな学生気質の変化も語ってく
れた。
また、なぜ日本留学を希望するのか、我々の調査目的に関連して日本留学の魅力につ
いて、学生達がどのように考えているかを尋ねた。劉部長は次のような考えを披露して
くれた。
①中国と比べて日本の大学教育のレベルは高い。日本の大学院進学への道も期待して
いる。
②今、中国では一人っ子政策の影響で、自立心の弱い若者が多くなっている。親は自
分の子どもを自立した人間、高い能力を持った人間にしたいと期待している。そん
な親の希望が、地理的に近い日本に留学を勧める背景にある。
③実際、北京や上海の日本の会社で働くことも大いに期待しており、大連でも日本企
業や日本人に対する信用は高いという。そんな理由を披露してくれた。
日本留学希望の学生は、学部では文系 10 対理系1の割合で文系が多く、文系では経営
や経済が多い。大学院は理系 10 対文系1の割合で理系が多く、最近は大学院留学が増え
ているようである。
4.
日本留学に関する問題
日本側への要望として、日本語学校とは接触できるが、留学斡旋業者は日本の大学と
直接接触する機会がなく、日本の大学授業や生活内容の詳細がわからないのでインター
ネットでも流してもらいたい。できれば中国語のサイトがあればという要望も受けた。
ビザ発給に関しては、2004 年以来の日本入管当局の厳しいビザ交付状況は、最も厳し
い時期だったと思うが、過去の苦難についてあまり詳細を聞くことはできなかった。し
かし、最近はビザ交付率が良くなっており留学希望者も増加していると語ってくれた。
入管当局の留学経費書類の条件が中国の実情を無視しており現実的でないこと。多くの
中国人は過去 3 年間の資金歴を十分に証明できる資料を持っていないこと。それにも関
わらず入管当局が 3 年分の預金証書等の資金歴を示す書類を要求する、その理不尽さに
ついて言及した。また、彼は、入管当局はビザ発給の条件として非現実的な資金歴の形
式的要件でなく、学生自身の学業成績を重視した方が良いという考え方を披露してくれ
84
た。
いずれにしても、こうした形式的書類審査を過度に重視すると、偽装業者をはびこら
せますます内実の伴わない偽装工作とイタチごっこをすることになりかねない。そんな
議論は日本国内でも多く耳にするが、同じような話を大連の留学斡旋業者から聞くこと
になり、我々も思わずうなずき同感せざるを得なかった。
取材終了後、日本五部で、劉部長(後列中央)
、通訳して
くれた日本五部職員(後列左端)との記念写真
<文責:坪井
85
健>
5. 教育部学位与研究生教育発展中心
China Academic Degrees & Graduate Education Development Center
(CDGDC)
実施日:2008 年 9 月 8 日
場 所:北京市海淀区王庄路 1 号同方科技大厦 B 座 18 屋(100083)
協力者:教育学位与研究生教育発展中心 李 屏 所長
同
曹 紅波 副所長
同
橋 文君 副所長
同
白 芳
CDGDC の概要:
CDGDC は中国教育部と国務院学位委員会の管理下にある独立法人資格を有する非営
利団体である。2003 年 7 月 2 日に設立されたが、その前身は清華大学に付属する中国学
位及び大学院生教育発展センターである。2000 年に学位、卒業、成績に関する証書や証
明書を対象として、その真偽に関する鑑定と資格段階の認証についてデータベースを活
用した形で開始した(ただし、高中(高校)に関するものは 2006 年に開始)
。この認証
と真偽の鑑定結果は、主として中国の高等教育機関で学んだ者の移民、就職、留学、進
学、就職等で活用されている。
CDGDC のサイト:http://www.cdgdc.edu.cn/xwweben/
出典:アジア学生文化協会(2007)「日本語学校向け中国高校卒業試験および大学入
学統一試験の認証制度がスタート」
『アジアの友』、1 月号(第 62 号)
(http://www.abk.or.jp/asia/pdf/20070125a.pdf)
インタビューの目的:
中国における学歴・成績等評価のシステムと実態を探る。特に中国人の留学志願者増
に伴って、海外の大学から彼らの提出した学位証書や各種証明書に関する多くの問い合
わせが来ていると推測される。よって、実際にそれをどのように認証8しているのか、ま
たその認証において、海外の FCE 機関あるいは政府機関等とどのような連携がなされて
いるのかを明らかにする。
8
Credential evaluation の和訳としては、資格評価が一般的であるが、中国では Qualifications
verification と英語で表記され、漢字も認証にあたるものが使われているため、ここでも「認証」を使用す
る。
86
1.
CDGDC の主たる機能(業務)
:
中国の学位証書と関連する資料(成績、在学、就学、卒業、学歴等の証明書)の認証、
真偽の鑑定、学位等に関する情報提供の業務を行う。具体的には、中国大陸(香港、マ
カオ、台湾は除く)の大学で授与された学位(博士、修士、学士)及び卒業と成績に関
する証明書並びに大専(短大)、中専(専門学校)、高中(高校)の卒業証書及び成績に
関する証明書の認証を行うと共に、それら証書、証明書の真偽の鑑定をする。また、「高
考9」(大学統一入試試験)と「会考10」(高校卒業試験)の成績及び合格証に関する認証
も行う。さらに、中国の学位と外国の学位に関する同等性等の研究及び学位の相互承認
について協議、情報提供を行う11。
2.
認証部門のスタッフと運営
認証部門のスタッフは 20 名程度。政府からの予算で運営しているというよりも、認証
業務に関する料金を徴収し、その収入で運営している(独立採算に近い)
。
3.
学歴・成績等の認証の意義
当該個人の持つ学位、資格、そして成績などの学歴に関する事項をきちんと認証する
ことによって、その人が進学、留学、就職、移民を申請する際の質の確保に寄与するこ
とになる(留学先や移民先での人材の質の確保を担保する)
。中国で学んだ留学生が母国
あるいは第 3 国で就職や進学する際に、中国で取得した学位、資格、そして成績などの
学歴に関する認証を行うことにより、彼らの人材としての質の担保(中国の教育の質保
証)を図る。認証依頼者にはその認証が必要な理由を問わず、また認証結果をどう活用
するかについても問わない。認証の結果は依頼者本人が受け取ることも出来るし、依頼
者の意向に応じて、大学等の受入れ機関、入国管理局等に送付することもできる。
4.
認証依頼の傾向
全般的には、欧米の大学への留学に関連する学歴等の認証依頼が多いが、最近は、各
国の入国・移民管理局との連携で中国人移民希望者に関する学歴・資格認証を行うケー
スも多くなってきている。移民希望者やビザ取得希望者の認証依頼に基づき、認証の結
果を各国の移民局に直接送付する。また、欧州やオセアニアからは、大学、移民局等機
関からの依頼が多く(機関委託の制度を採っているところもある)、中国国内からの認証
依頼は個人(留学や就職の志願者)からの場合が多い。北米最大の FCE 機関である WES
9
中国の「全国高等院校招生統一考試」 (全国高等教育学校学生募集統一試験)の略称で、日本のセンター
試験にあたる、大学統一入試試験のこと。
10 高校卒業認定統一合同試験のこと。
11 認証関係以外の機能(業務)としては、教育部と国務院学位委員会の委託を受け、学位及び大学院教育
の評価及び審査を行ったり、大学院と同等の学歴を有する者に対し、修士(博士)学位授与のための審査を行
ったりしている(日本の大学評価学位授与機構と同じような機能を果たしている)
。
87
(World Education Services)は、中国の学位、卒業、成績に関する証書や証明書について
は、CDGDC に認証を依頼することが多い(WES でできないものがある。または CDGDC
のほうが確実という認識からであろう)
。
5.
認証件数と割合
中国で発行された学歴、資格、成績に関する証明書の認証依頼は、2007 年に全世界か
ら年間に 3 万数千件あり、そのうち 8 千件程度が日本からのものである。認証依頼件数
の年度による増減は、世界各国の留学生政策・移民政策に左右されることが大きい。大
学に関しては、学士課程の学位及び成績に関する証明書の認証が 80%を占め、それに次
ぐのが修士課程の学位及び成績に関する認証で 17%、
そして博士課程に関する認証が 3%
であった。高中(高校)レベルについては、高考(大学統一入試試験)の成績に関する
認証が 46%、次いで会考(高校卒業試験)の成績が 37%、そして会考の合格証に関する
認証が 17%であった。
6.
認証の手続きと料金
認証手続きの流れは、まず申請者がオンラインで認証の申請を行い、あわせて認証し
てもらいたい証明書や証書を CDGDC に郵送する。そして銀行を通して料金を支払う。
20 日間以内で認証審査は完了し、認証結果(報告書)は申請者の依頼に応じて、CDGDC
から大学や移民局等に直接郵送することも可能であるが(この場合、別途郵送料がかか
る)
、本人が認証結果(報告書)を受け取ることも出来る。認証結果は中国語と英語で作
成されている。その料金は中国語の場合1件につき 210 元、英語で作成する場合 260 元
である。
7.
認証に関するデータベースについて
CDGDC のデータベースには、1949 年(中華人民共和国成立以後)以後の中国の大学
における学士、修士、博士課程の学位、卒業、成績、在学等に関するデータが蓄積され
ている。ただし、学位に関する認証は、学位制度そのものが 1949 年から 1980 年まで停
止されていたので、1980 年以後(学位制度が復活してから)についてのみ可能となって
いる。データベースの構築に当たっては、CDGDC の総合信息処(総合情報部)が各省
教育庁や大学等高等教育機関との連携・協力により、必要な情報を収集している。具体
的には、高中(高校)の卒業及び成績に関しては、各省の教育庁に基礎となるデータベ
ースがあるので、そこから情報を収集し、大学に関する各種情報は各大学から取り寄せ
ている。
8.
日本語教育振興協会との連携を含む日本からの認証依頼
(財)日本語教育振興協会との提携の下、その傘下にある日本語学校(361 校)への志
88
願者に関する高考と会考の成績、高校の卒業試験の合格証、学位・学歴に関する証明書、
成績証明書について認証を行っている(証明書の真偽やその制度的レベルについての認
証を含む)
。また、早稲田大学と慶應義塾大学からも留学生入学選考に伴う学歴や成績に
関する証明書の認証依頼を受けている。具体的には、早稲田大学から中国人志願者の名
簿が CDGDC に届き、その後中国人志願者(早大ではなく)が CDGDC へ彼らの提出し
た証明書等に関する認証を依頼する。そして、評価結果は早稲田大学に直接通知される
という流れである。
9.
海外の大学や学校関係団体との連携
海外の大学や学校関係団体(大学協会等大学のアンブレラ組織)と CDGDC の連携に
よる中国の資格・成績に関する認証には、次のような利点がある。まず、まとまって認
証依頼が来るので、効率的に認証業務を行うことができる。また、海外の高等教育機関
の移転、新設、名称変更または学部学科の新設、改廃等の情報が入手できるということ
が挙げられる(認証結果を確実に送付できる)
。
10. CHESICC との違い
全国高等学校学生信息諮詢与就業指導中心(CHESICC: China Higher Education
Student Information and Career Center)も大学生の就職支援という立場から、学歴(卒
業)証明に関する認証を行っているが、学位証明(学位証書)の認証は行っていない12。
また、CHESICC は社会人学生に関する学歴等のデータを持っているが、CDGDC はそ
れを持っていない。また、双方でデータベースを共有するというようなことは行われて
いない。
11. まとめ
先進国の研究型大学が、インドと並んで優秀な学生の宝庫とみなしている中国に関し
て、これまでたびたび大きな問題として指摘してきたのが、学歴認証(証明)であった。
しかしながら今回の調査で、それはすでに過去の問題となっていることがわかった。
CDGDC は米国の WES を始めとする各国の FCE 機関や移民局とも連携して、中国人の
海外留学希望者、移民希望者の学歴、学位、成績の認証を制度的に行っていることがわ
かり、中国教育部傘下の機関としてだけでなく、認証業務の実績で世界の信頼を得てい
ると感じられた。その意味でも、日本語教育振興協会が既に提携を結び、中国人志願者
の高考と会考の成績等について認証を受けていることは特筆すべきであろう。また、中
国は日本より先んじて、学歴、資格、成績に関する証明書の認証システムを 2 つの観点
から整備しているということについて、日本の大学と政府関係機関は真摯に受け止める
12
中国では、大学での卒業において卒業証明書と学位証書(学位記)の2つが存在する。卒業はしたが学
位は取得できなかったというケースがある。
89
べきである。2つの観点とは、一つ目が CDGDC で行っている中国で発行された学位、
卒業、成績に関する証書や証明書に対する認証であり、もう一つは中国留学服務中心が
行っている中国人が海外で取得した学歴に関する証明書に対する認証である。
<文責:太田
90
浩>
6. 教育部留学服務中心
Chinese Service Center for Scholarly Exchange (CSCSE), Ministry of
Education, P.R. China
実施日:2008 年 9 月 9 日
場
所:北京市海淀区学院路 15 号(100083)
協力者:国際合作処 (International Cooperation and Exchange Office)
同
Che Weimin 処長
同
Yu Liqun
プログラム オフィサー
Yun Ma
国(境)外学歴学位認証中心
Chivast Education International Yin Kai(印 凱)副社長
中国教育部留学服務中心の概要:
日本の JASSO と似た機関である。留学したい中国人と海外からの外国人留学生への
サポートを行う。
1960 年代に設立。当初の名称は「出国人員培訓」であり、留学したい中国人へのサポー
トが中心で、当時のソ連と東欧を中心にサービスを開始した。しかし、1989 年天安門事件
で中国に戻りにくくなった海外の留学生を如何に中国に呼び戻すかという仕事も担当す
ることになった。
中国教育部留学服務中心のサイト:http://www.cscse.edu.cn/publish/portal4/tab542/
インタビューの目的:
教育部における留学関係組織の中核であり、その概要を知ることが基本的な目的である
が、特にこの組織が主に中国の帰国学生のために、海外で彼らが取得した学位等の認証評
価を行っているので、それについて詳しく知ることが特に重要な目的である。
1.
中国教育部留学服務中心の主たる業務
中国教育部留学服務中心の主たる業務は、中国人学生に対するサービス業務と在中国
の外国人留学生に対するサービスである。
2.
留学を希望する中国人学生に関する業務
①公費留学生の出国前の教育、ビザ、チケット等に関する業務で、年間 1 万人以上に
対応している。
②私費留学の学生に学校を紹介するサービスや、仲介斡旋業者からの情報が正しいも
のであるかどうかに答えている。たとえば、「国際司」と協力して、認証評価を受け
91
た海外の大学のリストをインターネットに公開している。あるいは、自分の行きた
い大学の学位が、中国で認められる学位であるかどうかを判定している。また、毎
年 1 回 3 月頃に、北京他全国 7 か所で「中国国際教育展覧会」を開催している。こ
こには世界から 400 校以上の大学が参加し、来場者は数十万人が参加するが、日本
からの参加は非常に少なく、前回は 2 校のみであった。
ちなみに、留学前の語学教育を行う語学教育センターは、北京外国語大学、広州外
国語大学、上海外国語大学、西安外国語大学の 4 大学にある。
3.
私費留学の仲介業との連携
留学仲介業は 2002 年に始まった。留学の約 70%は仲介業者を経由している。中国政府
は、現在 400 程度の留学斡旋業者を認可している。しかし、実際には認可を受けていな
い業者も多く、競争は厳しい。印凱(Yin Kai)氏の Chivast Education International
は
最初に認定した第1号の仲介業者である。
4.
帰国した留学経験者に関する業務
帰国した中国人学生の就職支援を行っている。最近では留学しても必ずしも良い就職
先があるわけではない。また、帰国して北京のような大都市の戸籍を取得したいという
希望が大きく、その戸籍取得の支援なども行っている。博士課程修了者については、研
究基金の申請支援も行っている。
5.
海外で取得した学位の認証評価
帰国した中国人が取得した海外の学位の認証評価を行っている。認証は、帰国した学
生の就職において必要になる。数的には、1 番がイギリス、2 番が日本、3 番が米国であ
る。昨年の認証総数は 37,000 人に上った。世界中の高等教育機関の学位を認証評価する
ので、この仕事に 30 名以上が従事している。情報は各大学から得るだけでなく、NARIC
や大使館からも得ている。
ディグリーミルの問題は中国でも問題となっている。そもそも、学位の意味や価値が
わかっていない個人や機関が多い。日本から帰国した学生の証明書が偽造であるという
ケースは少ないが、日本には認証評価機関がないので、そのような機関を通して情報を
確認することができない。それで、直接大学に問い合わせることが多い。大使館にも尋
ねている。
教育レベルについては、博士取得者と4年制大学卒業者が多い。米国と比較すると、
日本で就職することが難しいので、中国に戻る人が多いのではないかと思われる。
経費は申請者が支払う。ユネスコのガイドラインにしたがって決めており、1 ヶ所の
認定に 360 元である。
92
6.
日本留学に関する広報の問題点 (大学の個別説明会と留学フェア)
日本は JASSO を通して中国留学説明会を開催しているが、大学が個別に来て説明会
を開くようなことは少ない。今年は、豪州から 20 大学くらい、英国からは 50 大学くら
い、ニュージーランドからも 8 大学が説明会に来た。3 年前から米国のビザは厳しくなり、
説明会に来る大学も少なかったが、最近緩和されて増え始めている。
日本留学については、JASSO との協力で留学フェアを実施しているが、中国が実施し
ている教育展への参加は少ない。教育展への参加を呼びかけてほしいが、JASSO は日本
の各大学にそれほど強い影響力をもっていないのではないか。これと比較して、中国の
ブリティッシュ・カウンシルには 100 人のスタッフがおり、30 人のプロモーション・チ
ームが教育展で Education UK を広報している。大きな違いがある。
韓国、タイ、シンガポールなども、年間に何回かの教育フェアを開催しており、学生
だけでなく保護者にも広報している。大学紹介だけでなく、日本という国を紹介する必
要がある。現在でも、日本への留学は実際には多いが、日本語教育も含めてもっと広報
活動をしないと、質の悪い学生が集まってしまうということも懸念される。
なお、日本留学をした学生は中国で仕事をする者が比較的多い。博士号などを取得し
ても日本ではなかなか仕事を見つけられないためではないかと思われる。
7.
外国人留学生に関する業務
外国人留学生に関する業務は、海外の大学訪問団の組織化とホームページ Study in
China の運営が主なものである。
大学訪問団の組織化は、1 年に 1 回、中国の 30∼50 の大学を組織して、日本や韓国な
どをまわり、学生募集を行うものである。ホームページ Study in China は、中国語の他、
英語、韓国語、日本語、フランス語、ロシア語、ベトナム語で発信している。
ただし、URL(http://www.study-in-china.org/jp/)をみると、いくつかの大学のバ
ナーなどが掲載されてリンクされており、日本的感覚からすれば、中国教育部という政
府関係組織のHPというよりも、民間の営業ベースのもののように感じられる。
8.
中国に留学してくる日本人留学生
昨年は全体で 19 万人の外国人留学生を受入れた。日本からの学生は 2 番目に多く、
約 18,000 人で、毎年比較的安定した数である。
9.
中国の高等教育の現状
約 1,000 万人の学生が日本のセンター試験に相当する全国統一大学入学試験を受けて
おり、そのうち約 500 万人が進学しているが、これは高校卒業生の 23%にすぎない。国
内の大学も、2002 年頃から定員を急増させており、70 万人から 500 万人に拡大したが、
まだまだ進学できない人が多い。
93
一方で、卒業しても就職が難しいという問題が出てきている。そのため、海外留学し
たいという人も増えている。その背景には、家庭の経済状況が良くなっていることや、
英語力、基礎学力が大幅に向上したということもある。この現状について、日本はよく
理解していないのではないかと思われる。
10.
留学服務中心の現在の課題
現在、中国留学服務中心が課題としているのは、第一に、複数の国で学ぶ者が増加し
ている中で、この多様な学歴をどう認定するかがまだ定まっていないことである。
第二は、中国にある海外の大学等の学位をどう認定するかが定まっていないことであ
る。留学服務中心は、評価機関ではないので、海外のフランチャイズのプログラムで得
た学位とその国に実際に行って取得した学位との比較評価はできない。しかし、社会で
の評価は実際には違うというのが現実である。
<文責:横田 雅弘>
94
7. 嘉華世達国際教育交流有限公司
Chivast Education International
実施日
2008 年 9 月 8 日
場
中国北京市崇文区崇文門外大街・嘉華世達国際教育交流有限公司会議室 (100062)
所
協力者
中国留学服務中心・嘉華世達国際教育交流有限公司
馬
玉娥
総経理
同
印
凱
副総経理
同
李
朋娜(日本留学担当)
嘉華世達国際教育交流有限公司の概要:
嘉華世達国際教育交流有限公司は中国政府教育部によって留学仲介機関の第 1 号として
2000 年に認定された。同社は(チベットと内モンゴルを除く)中国全土に 54 カ所の事務
所をもつ。2008 年 9 月の段階で中国には留学仲介機関が同有限公司を含めて計 398 社ある
が、年間の成約件数約 2,500 件を誇る同有限公司は取り扱い件数で群を抜いている。斡旋
している留学先は 25 カ国に及ぶ。送り出し数の多い国名を挙げると、アメリカ、イギリス、
オーストラリア、オランダ、フランス、韓国、日本である。
嘉華世達国際教育交流有限公司のサイト:http://www.chivast.com/
インタビューの目的:
中国教育部(日本の文部科学省に相当)直轄の海外への留学生送り出しの仲介業者であ
る嘉華世達国際教育交流有限公司を訪問インタビューの対象とした理由は、同社が中国国
内で最大の留学生仲介業者であり、中国から外国へ留学する学生たちの実情をもっともよ
く知りうる立場にあるからである。訪問インタビューのポイントは、同社を経て留学する
学生たちがどのようにして留学先を選び、また、どのような留学先に落ち着いたか、等に
ついて最新の情報を入手することにある。その場合、日本への留学の状況がどのようにな
っているかということが、われわれの関心事であることは言うまでもない。
1.
同社の日本への留学生送り出しの実態について
2000 年に民間の留学仲介業の民間業務が認められるようになったのは、2000 年を境と
して中国で留学熱が急速に高まったためである。たしかに、中国から外国に留学する学
生数は 1999 年が 3 万 8,000 人、2000 年が 8 万 5,000 人、2001 年が 11 万 8,000 人と急
増し、それ以降も毎年 10 万人を上回っている。
同社の女性社長である馬総経理は、同社が年間でアメリカに送り出す留学生が 1,000
人であるのに対して、韓国へ送り出すのが 200 人、日本へは韓国の半分の 100 人前後を
送り出しているにすぎない、少なくとも、北京在住の留学希望者にとって、日本は魅力
95
的ではないと回答した。
このように日本が留学先として人気が低い要因として、馬総経理は、以下の 3 点を指
摘した。
第1に、日本政府の中国に対する認識が低い(日本政府は中国の現状を把握していな
い)。
第2に、入管政策(ビザ発給)に安定性がない。
第3に、日本政府による高等教育の宣伝が足りない。
第2点に関して、印副総経理は、次の表に示すような、主要留学先のビザ発給率の数字
を挙げた。ちなみに、アメリカについては、2001 年の 9.11 テロ以降、ビザ取得が著しく
困難になったが、2005 年以降は中国留学生を大量に受け入れるようになった。最近時に
おける、中国全体で見た場合のアメリカ留学ビザ発給率は 85%とのことである。
国 名
アメリカ
イギリス
オーストラリア
オランダ
韓 国
日 本
2.
嘉華世達国際教育交流仲
介の場合のビザ発給率
95%
97%
98∼99%
100%
98%
50%
中国の私費留学生およびその家庭の実情と留学資金
日本が留学先として人気がない要因として馬総経理が前項で指摘した第1点について、
同総経理に詳しい説明を求めたところ、それが具体的には、同社の顧客である私費留学
希望者およびその家族について、日本政府(実は日本の大学もそうだと思う)が正確に
認識していないことを指していることがわかった。
馬総経理は、私費留学希望者の家庭について次のように語った。私費留学希望者の親
は改革・解放の成功者であり、国際感覚を持つと同時に大局的な物の見方ができる。両親
ともに海外留学経験者であるケースも少なくない。親は改革・解放が始まったばかりの
1980 年代の中国を知っており、これからの中国を考えて子供を留学させたいと思ってい
る。
私費留学生の家庭は中国の中でも上層に属する。その所得水準は中国の中では極めて
高い。たとえば、アメリカやイギリスの学部に4年間留学させるためには人民元で 80 万
元から 100 万元が必要である(両国の年間の学費はそれほど変わらない。イギリスの場
合だと年間1万ポンド)。他方、イギリス以外のヨーロッパの国に留学する場合は、年間
10∼12 万元の費用で済む。アルバイトが可能な国では留学費用はさらに安く済む。
それでは、いったいどれくらいの年収がある家庭ならば、私費留学させることが可能
かと馬総経理に質問したところ、年収が 10 万元から 15 万元あり、さらに少なくとも数
96
年間預金をしている家庭とのことであった。しかし、同総経理は、年収だけでは実態が
把握しきれないと言う。さらに厄介なことに、中国の中間層の所得構造そのものが複雑
であると言う。
まず、年収だけでは実態が把握しきれないということの意味は、中国では、両親だけ
でなく、多くの場合祖父母が留学の援助をするし、さらには親類縁者を頼って費用を捻
出することが少なくないということである。日本でも、
「シックスポケット」という言葉
が流布しているが、一人っ子政策の浸透した中国ではなおさらシックスポケットはあり
ふれたこととなっていることが容易に想像される。
次に、中間層の所得構造が複雑であるということの意味は、従来は、住宅が勤務先か
ら支給されていた(現物給付だった)ので、住宅を購入する必要がなく、住宅の費用が
かからない分だけ実質所得が高く、貯蓄も余分にできたということである。しかし、近
年では若い層は住宅を自分で購入せざるを得なくなり、しかも、住宅価格が高額である
と言う。ちなみに、印副総経理によれば、北京市内に関して言えば、第4環状線の内側
のマンションの価格は、1平米1万 7,000 元以上であり、100 平米のマンションだとその
価格は 170 万元(日本円で 2,700 万円)以上に達しているとのことである。
このように中国の給与体系が外国人にとってわかりづらいのは、福利厚生の複雑さが
要因となっている。
北京市中心部と環状道路の概要
3.
日本への留学に関して日本サイドの PR が足りないということに関して
馬総経理が 1 で指摘した、日本への留学についての日本サイドの PR 不足の内容を尋ね
た。この点に関して同総経理は、一言で言うと日本留学のことが知られていない、と述
97
べた。さらに、政府そのものが積極的に留学生の勧誘にかかわっていないとも言う。た
とえば、中国人留学生を日本の約2倍受け入れている韓国は、在北京韓国大使館が留学
生招致の働きかけをしているし、韓国政府は在ソウル中国大使館と留学生受け入れに関
して連絡を取り合っている。イギリスやフランスは、留学生フェアに大使が直接参加し
てその国の宣伝をするのが当たり前になっている。さらに、2006 年にはイギリス大使自
らが、仲介業者である同社に挨拶に来た。これに対して日本は政府や大使館が留学生招
致のアピールをすることが少ない。また、仲介業者の役割も理解していない、と総経理
は述べた。
この点に関連して、インタビューに参加したわれわれの研究メンバーから、北京には
日本の大学の事務所が 36 ある(主に国立大学)が、留学仲介機関が接触を持とうとして
も連絡もとれないという補足的な発言があった。その発言を裏付けるかのように、印副
総経理と李女史は、日本の大学の中で同社を訪問したことがあるのは立命館、同志社、
亜細亜、北陸などの一部の大学に過ぎないと付言した。
4.
仲介によって送り出した留学生の留学先について
馬総経理は約1時間のインタビューの後、別件の約束があるために中座し、それ以後
は印副総経理と李女史がインタビューに応じた。両者とも日本語が堪能であるため、通
訳を介さずに日本語でのやりとりとなった。両氏には、最初に、同社の仲介で海外留学
する学生の留学先についての詳細を尋ね、次に、日本に留学する学生の特性と日本留学
の問題点を指摘してもらい、最後に、日本への留学生を増やす方法について意見を求め
た。この項では第1点について言及する。
年間 2500 件の仲介は私費留学生を対象にして行っている。学部への留学と大学院への
留学はほぼ 50%ずつである。日本の場合、学部希望者は全体の 3 分の1である。理科系
と文科系の内訳であるが、学部では 58%が文科系に、大学院は 58%が理科系に留学する。
アメリカの大学に留学する学生のうち 20%は有名大学に入学する。オーストラリアに
ついては、仲介する留学生の 30%がクイーンズランド大学をはじめとする上位1位∼8
位の大学に入学する。イギリスもほぼ同様である。韓国についてはソウル大学や慶煕(キ
ョンヒ)大学などが主要な留学先である。
仲介にあたって、日本以外の国に関しては大学と直接交渉をしているが、日本の場合
のみ語学学校とやりとりをしている。この点で日本への留学仲介は特殊である。
5.
日本に留学する学生の特性と日本留学の問題点
中国の地域別に見ると次のような傾向があると言う、日本への留学は、東北地方出身
者が一番多く、他に、河北省、雲南省、安徽省などからも日本に留学する。日本への留
学生の多寡は、留学生の出身地への日本企業の進出の有無によって、また、親戚が日本
にいるかどうかによって左右されているようである。
98
日本留学の問題点として、第1に、日本の私立大学の評判が芳しくないことである。
一般的に中国から留学する学生たちは熱心に勉強する。このような熱心な学生からみた
場合、日本の私立大学は評価が低い。
第2に、日本の情報が極端に少ないことである。インターネットで大学・大学院につ
いての情報を調べようとするが、それでもわからないことが多い。
第 3 に、入学試験を受けるために日本に行かなければならない。日本の一部の大学は、
中国に関係者を派遣して選抜試験を行っているようであるが、一般的ではない。
第 4 に、日本のどの都市の語学学校に入学申請するかで、ビザ発給率に差があること
である。東京の入管はビザ発給が最も厳格であり、他の都市ではそれほどでもない。
6.
日本への留学生を増加させる方策について
前項で、日本の私立大学の評判が芳しくないことに触れたが、印・李両氏によれば、
日本の高等教育のレベルは低くないことが中国で知られているとのことである。それは
日本に留学経験のある国費留学生、博士号取得者、技師・科学者たちに負うところが大
きい。印副総経理は、かつては中国からの留学先は日本かシンガポールしか選べなかっ
たので、優秀な人材が日本に多数留学したことも、こうした声価と関係があるのではな
いかと言う。
このように日本留学にはプラスのイメージがあるにもかかわらず、嘉華世達国際教育
交流有限公司において斡旋件数が少ないだけでなく、中国全体で見ても日本留学熱が冷
めている要因として、印・李両氏は以下の点を指摘する。
第1に、これまでの繰り返しになるが、また、馬総経理も強調したように、日本留学
について中国人・中国人留学希望者の理解を深める努力をすべきである。前述のように、
留学生主要受け入れ国は大使自らが留学生獲得に奔走している。日本政府も個々の大学
もこうした努力を通じて、日本および日本留学に関する情報を提供し、中国人の理解を
深めるべきである。
第2に、中国の最近の実情をふまえて、日本政府の留学手続きの簡素化を図るべきで
ある。日本に行きたい層の幅は広い。しかも、最近の中国における所得の急上昇でアル
バイトにもそれほど頼らずに留学生活が送れる学生が増えた。日本への留学には預金残
高証明が必要であるが、2 で触れたように、中国の給与体系は複雑であり、しかも親類縁
者からの資金調達もあるので、必ずしも所得証明や預金残高が資金力のすべてとは言え
ない。オランダやオーストラリアは銀行のローンで留学資金を組んでもビザを発給して
いる。日本もそのようにしたらどうだろうか。
第3に、単に日本への留学を勧誘するだけでなく、将来の可能性も示して欲しい。就
職先等の将来の見通しがつかなければ、留学先に滞在し続けるのか、それとも中国に戻
るのかも予定が立たない。たとえば、主要な留学生受入れ国について次のような情報が
流布している。アメリカの場合、移住できる可能性がある。他方、オーストラリアは移
99
住のハードルが高い。また、イギリスは、卒業後2年間は滞在延長を認めているが、実
際には2年間で定職をみつけることは難しい。さらに、イギリスでは1年間で大学院の
修士課程を修了するプログラムもあるが、学位を取得できても英語がほとんどしゃべれ
ないために使い物にならないケースがある。こうした情報が主要な留学生受け入れ国に
あるのに対して、日本の場合、大学・大学院にどんな専攻があるかさえも不明である。
第 4 に、ビザの発給を安定して行うことである。入管政策によって中国人に対するビ
ザの発給率が大きく変動していることは前述の通りである。福建省出身者が日本で重大
犯罪を起こしてから現在に至るまで、福建省在住者には日本への留学ビザがまったく下
りない。このことをふまえ、同社では福建省在住者から電話で日本留学の問い合わせが
あっても、現時点では留学は事実上不可能であると回答せざるを得ないと述べている。
日本にも諸事情はあるかもしれないが、留学ビザの発給率を高水準で安定させることが
日本への留学促進につながるであろう。
7.
まとめ
最初、われわれ研究チームは、印副総経理に案内されて北京語言大学内の中国留学服
務中心内にある嘉華世達国際教育交流有限公司のオフィスを訪れた。たしかに馬総経理
の説明通り、同社は政府機関である中国留学服務中心と一体となって留学仲介業務を行
っていた。服務中心の通路は、順番待ちの学生や、子供のために申し込み手続きに来て
いる母親、留学の説明の順番を待っている親子などでごった返していた。1つの窓口の
受付リストには 50 名以上の名があった。
このオフィスから、崇文区崇文門外大街にある近代的な高層ビルのワンフロアーを占
有するメインオフィスに移動し、キャリアウーマンを地でいく馬総経理、北海道教育大
学の大学院修士課程で高等教育について研究した経験を有する印副総経理、日本留学コ
ーナーの責任者となっている李女史の 3 人から、留学仲介業務についてのお話を伺った。
インタビュー終了後、印・李両氏の案内でオフィスの全体を見学させていただいた。オ
フィスのメイン部分は、留学先別にパーティションで仕切られ、取扱件数に応じた面積
を割り当てられていた。日本留学担当には3つのデスクが割り当てられているものの、
担当職員は現在 2 人とのことである。日本の倍の留学生が向かう韓国担当には 4 つのデ
スク、最も留学希望者の多いアメリカには 10 のデスク、また、英語圏全体で約 20 のデ
スクが割り当てられていた。このデスクの配分がそのまま留学先の人気・不人気を物語
っていることを痛感した。
同じフロアーには、それほど大きくないスペースとはいえ、スペイン語、フランス語
などを含め、留学準備のための語学教室が設けられていた。
今回の調査旅行の中で、繰り返し、日本の政府は(日本の大学も)最近の中国の実情
を知らない、過去 5 年間に中国は中国人自身が驚くほど変わった、という発言を耳にし
てきた。ここ嘉華世達国際教育交流有限公司においても同じ主旨のことを耳にした。要
100
するに、われわれ日本サイドは、政府も大学も、中国の現実を正しく認識し、それと同
時に、日本と日本の大学についての多様な情報を常に発信し続けていくことが急務であ
る。
<文責 新田 功>
101
8. 北京師範大学教育学院国際與比較教育研究所
Comparative Education Research Center, Beijing Normal University
実施日:2008 年 9 月 9 日
場 所:北京市海淀区新街口外大街 19 号(100875)
協力者:教育学院国際與比較教育研究所 高 益民 副教授
北京師範大学の概要:
1902 年に創設された中国初の師範大学である北京師範大学は、中国で最も著名な師範
大学で、教員養成の重要な拠点となっている。北京師範大学には教育学院、教師研修学
院、漢語文化学院、心理学院など 15 の学院があり、48 余りの本科専攻学科が設置され
ている。教育学、心理学、幼児教育において中国では名高い存在である。教職員が 2,500
人近く、在学生が 20,000 人余りで、そのうち全日制の本科生が約 7,000 人、留学生は約
1,500 人である。ここ数年、北京師範大学は師範系の学科を発展させると同時に、非師範
系の教育も進めている。教育管理資源の優位性を生かし、多くの在職教員と幹部向けの
研修を行っている。
北京師範大学のサイト:http://www.bnu.edu.cn/bnueng/index.html
出典:中国国際放送局、「CRI Online (中国百科)」より引用
(http://japanese.cri.cn/chinaabc/chapter8/chapter80405.htm)
インタビューの目的:
国際與比較教育研究所の高益民先生にインタビューすることにより、中国の高等教育
に関する最新の事情や知見を得るとともに、中国での海外留学の動向や傾向を把握する。
また、日本留学への需要及び海外留学を終えて帰国した者が中国でどう活用されている
かについても、その動向を探る。
1.
北京師範大学の現況
北京師範大学には学部生 10,000 人、
大学院生 10,000 人が在学している。
留学生は 1,500
人在学しているが、大半は中国語を学ぶための語学留学者である。
2.
中国の大学の状況
中国には現在、民弁大学(私立大学)を含め 1,000 ほどの大学があるが、その上位校
と下位校の質的な格差は大きい。例えば、北京師範大学は珠海市に附属の独立学院(学
士課程)を持っている。北京本校の学士号と独立学院の学士号は、同じ学士号でも学生
の質(学生のレベル)が異なる。重点大学(トップ大学)を頂点としたヒエラルキーが
102
できており、それは「高考13」
(大学統一入試試験)の結果により、成績上位者をレベル
の高い重点大学から順に入学させていくというシステムによって維持されている。よっ
て、中国の大学のランク、質(教育、研究力を含め)に関する情報を海外に向けて発信
する必要があるのではないかという議論がある(その情報に対する海外からの需要、特
に国際学生市場のニーズは大きいであろう。ただし、既存の市場型評価[ランキング]との
住み分けをどうするかという問題がある)
。
中国の大学の中で重点大学は授業料が安く、学生の質が高い。一方、民弁(私立)大
学は授業料が高く、学生の質が低い。個人の経済力が大学進学へのアクセスに影響する
ことは良くないという意識が、中国国内では強いといえる。個人の経済力が重点大学へ
のアクセスに影響を及ぼしかねないという問題については、まだ顕在化する段階には至
っていないといえる。
北京にある重点大学が、北京とその近郊の優秀な高校生ばかりを入学させることはで
きない。全国からバランスよく学生を入学させなければならない(北京とその近郊では、
中学、高校の教育のレベルが高いため優秀な学生が多い)。
中国の大学における理工系のレベルはまだそれほど高くはないという認識が大学関係
者には強く、THE-QS のランキングで中国の大学が上位にあることについて、疑問を持
つ者も多い。
中国の大学の国際化、高等教育の質は、大衆の需要に応えていないという不満があり、
それが海外留学の需要増につながっていると言っても過言ではない。
1998 年からの高等教育の拡大政策により、大学進学率は 3%から 25%へと上昇した。
中国政府は、教員一人当たりの学生数を 18 名が妥当と考えているが、それは重点大学で
なければ達成できない基準であろう。実際、その他の大学では、学生数が非常に多くな
っている。
海外の大学の分校やオフショア・プログラムについて、中国での認識はまだあまり高
くない。
3.
中国における海外留学の動向と中国政府の対応
中国のトップ大学に入学できなかった者で経済力がある者は、海外へ私費留学する傾
向が強くなり量的にも拡大している(Push Factor)。このことが、豪州を始めとする海
外の大学の強力な留学生受入れ政策(Pull Factor)と合致して、中国人の海外留学を促
進している。特にニュージーランドの大学の留学生政策・リクルーティングは、移民政
策とリンクしており(卒業後移民できることを強調しており)
、それに魅力を感じている
中国人も多い(ニュージーランドのほうが、中国のような競争社会ではなく、生活の質
が高いという印象がある)。また、全般的に理工系分野への海外留学の需要は高い(中国
13
中国の「全国高等院校招生統一考試」 (全国高等教育学校学生募集統一試験)の略称で、日本のセンター
試験にあたる、大学統一入試試験のこと。
103
の大学における理工系分野がまだ弱いという認識の裏返し)
。
中国のトップ大学に進学できなかった場合、経済力がある者は、海外留学を通して、
外国語の取得を始めとした中国国内では得られない能力を身につけることにより、帰国
後よりよい仕事、生活を持ちたいと考えている。しかし、中国政府は彼らが(国内進学
者に比して)能力的にそれほど優秀ではないという認識を持っており、海外留学の後に
帰国した場合、彼らを労働力として、どう活かすかについて悩んでいる。
海外留学からの帰国者の評価が低くなる傾向がある(上述のとおり、そもそも能力の
高い人が留学しているかどうかという疑問があるため)
。帰国者が逆カルチャー・ショッ
クで中国になじめなくなるケースもよく耳にする。また、就職口が昔より、全体的に少
なくなっているという問題があり、海外留学をしたからといって、就職できるとは限ら
ない。加えて、海外留学が一般化することにより、社会が海外留学者をエリートとして
は見なくなってきた。
中国政府は、基本的に私費で海外留学したものを有為な人材としてみない傾向がある。
よって、中国国家留学基金管理委員会の実施する「国家建設高水平大学公派研究生項目」
は、
「人口大国」から「人材強国」への転換を図りたいという中国政府の人材育成プラン
の一つであり、それに基づき将来の人材確保に関する計画を各政府機関が行っている。
中国政府教育部は、毎年経営状況や教育の質が悪い海外の学校や大学に関する情報を
警告文として発表し、国民に注意を促している(悪徳学校の排除)。
4.
中国留学服務中心の FCE(外国成績・資格認証)
中国留学服務中心による海外の学位(卒業)、成績に関する認証は限定的、恣意的な面
があるといわれている。たとえば、シンガポールの私立中等後教育機関や私立大学(海
外の大学のオフショア・プログラムを含む)の卒業証書を、留学服務中心は大学として
認証していない(国立大学のみ認証している)
。留学服務中心で認証されない海外の大学
を卒業した者は、中国の政府系機関、公的機関への就職(公務員試験)に応募できない
(大学卒としての資格があると認められないため)
。中国政府(留学服務中心)が独自に
認証する海外(日本を含む)の大学リストが存在する。
5.
日本留学へのニーズ
日本のマンガやアニメ等ポップカルチャーに対する中国の若者の興味は強く、それら
を通した日本への興味や憧れはある。特に、上海ではその傾向が強くなっている。ただ
し、それが直ちに日本留学に結びつくとはいえない。また、移民の多い省(福建省等)
の若者は留学=移民の機会と捉える傾向が強いため、日本のような移民の受入れが進ん
でいない国に対して、どれだけ魅力を感じるかは疑問。日系企業の進出している地域は、
一般的に日本留学希望者が多い可能性が高い。特に中国の東北部では日本企業に対する
イメージが良く、それが日本留学への誘因となっているといえる(一般的に韓国企業、
104
台湾企業よりも日本企業のイメージのほうがよい)
。
日本留学については、まず日本に留学したいという意志が固まって、その後大学を選
ぶ傾向が強い(日本の大学の情報は少なく、イメージがすぐにわかないため)
。
日本留学から帰国した者の中国における影響力は、それほど大きくない。これは一般
的に日本に留学する中国人の質や能力が欧米諸国に留学する者より高くはないことによ
るといわれている。
6.
香港の大学のリクルーティング
最近、香港の大学は中国大陸での学生リクルーティングを強化している。大陸中国の
若者は香港の大学の学部課程を卒業後、欧米の大学院へ留学したいと考えているものが
多い(香港の大学を欧米の大学院留学へのゲートウェイとみなす傾向が強い)
。
7.
中国政府の留学仲介業者への対応
中国政府は最近留学仲介業者への規制や指導を強めている。また、仲介業者の社員研
修を重視しており、その実施を義務付けている。大学の教員も研修の講師として招かれ
るケースがある。これには、留学経験のある大学教員から留学した国のどの大学が良い
かなどの情報を得たいという仲介業者の思惑もある。
8.
まとめ
中国の高等教育事情、政府の人材育成計画、そして日本留学を含む海外留学事情につ
いて幅広い話を聞くことができた。特に中国留学服務中心における帰国者に対する FCE
(外国成績・資格認証)については、留学先の国で大学として認可されているかどうか
に係わらず、独自の基準による限定的、恣意的な認証が行われている(中国政府の立場
から大学として認証する海外高等教育機関のリストが作成されている)ことがわかった
意義は大きい。ただ、これは何も中国に限ったことではなく、東南アジアを始めとして
多くの国々で、学歴及び教育的証明書における正当性の認証に関するリスボン・コンベ
ンション14(1997 年)に含まれる原則や方針に従っていないケースが見られる。特に公
務員試験、政府系機関への就職試験において、海外留学者の受験資格が認められないこ
14
正式名称は、The Council of Europe/UNESCO Recognition Convention of Lisbon。この協定の中核は、
FCE に関して公正の原則と認証手続きの透明性の原則を強調すべきであり、相違の認知については、違い
が相当なもの(根本的なもの)であると見なされるものでない限り、容認されるべきであるという方針を
示しているところにある。FCE において使用される審査基準と従うべき手続きの透明性は、この協定の基
幹であり、どの国(地域)も当該国の教育システム、資格証明(認定、付与)
、教育機関に関する適切な情
報を提供しなければならないとしている (UNESCO 1997)。具体的には、外国で取得された学業成績・資
格証明書は、完全な認定を第一の目標として認証されなければならない(一部認定、条件付認定は補助的
な手段として考慮されるべき)という前提条件を示している。そのうえで、外国の教育制度・プログラム
及びそこでの「学びの成果」である卒業等の証明書に関して、証明書を受入れる国において制度上対応す
るものとの相違は、融通性を伴った視点から審査されるべきであると述べている。ゆえに、実質的な違い
が両者間に存在する場合に限り、FCE は部分的認定や非認定という評価結果に行き着くべきとしている。
105
とが多い。例えば、特定の国への留学でなければ認められないケース、または大卒とし
て認証されるための高等教育機関が一部のトップ大学に限られているケースなどである。
立命館アジア太平洋大学では、留学生が卒業後に帰国した場合、就職で不利な扱いを受
けることがないようにするため、世界各国での認証状況を調査し、大学として認証され
てないことがわかった場合には、認証大学のリストに掲載されるよう働きかけをしてい
る。しかし、これは本来政府が高等教育・留学生政策の一環として、日本の高等教育機
関の質保証、日本留学者の権利保護といった観点から取り組むべきことであろう。日本
に FCE を担う機関がないために、この種の取り組みが遅れているともいえる。世界各国
の FCE 関係機関のネットワーク(ENIC-NARIC.net が代表的)に加盟するなどして、各国
との相互認証を推進していかなければ、日本留学で取得した学位の価値が諸外国に比べ
て不当に低く評価されてしまう(不当に低く評価されている現状を放置してしまう)可
能性があることを認識すべきであろう。
<文責:太田
106
浩>
2008 年 9 月 3 日∼9 月 10 日
中
国 調
査
アンケート調査票
●中国学生調査 08/08/22
2008 年
学生の留学意向調査
海外留学意向調査
<お願い>
私たちは、学生の海外留学意向について研究しているグループです。この度、皆様の海外留学についての意向をお尋ねするこ
とになりました。調査は無記名ですし、結果は表やグラフにまとめますので、あなた個人のお答えが他人に知られることは決し
てございません。あなたの現在のお気持ちを率直にお答えいただき、この調査研究にご協力下さいますようお願い申しあげます。
Q1.まず、あなた自身のことについてお聞きします。
A)性別は? → 1.男性
2.女性
/ B)年齢は? → (
)歳
Q2.あなたの出身地(戸籍の所在地)を教えてください。 (北京市以外は、省名又は都市名でお答え下さい。
)
1.北京市
2.北京市以外→(
)省・自治区・市
Q3.あなたの大学・学校は?
A)大学名・学校名をお書き下さい。
(
)大学
/ 学校名(
)
B)
【大学生だけお答え下さい。
】あなたの専攻は何ですか。主な専攻を下記の中から、一つだけお選び下さい。
1.経済・経済管理 2.法律・公共管理・政治
3.文学・歴史・地理
4.教育・心理
5.言語
6.物理・生物・科学
7.医学・薬学
8.工学
9.コンピュータ
10.新聞・報道
11.体育
12.農林・水産
13.その他(理系) 14.その他(文系)
C)
【大学生だけお答え下さい。
】大学の所属課程は?
1.専科生 2.本科生 3.大学院修士 4.大学院博士 5.その他(具体的に:
)
D)
【皆さんにお尋ねします】学年は?
1.一年生
2.二年生
3.三年生
4.四年生
5.五年生
6.六年生以上
Q4.
【以下、皆さんにお尋ねします】あなたの学業成績は、次の5つのランクに分けると、凡そどのランクに属しますか。
1.最上位(10%以上) 2.上位(40%まで) 3.中位(60%まで) 4.下位(90%まで) 5.最下位(90%以下)
Q5.あなた自身、大学の勉強に対する意欲は、どの程度だと思いますか。
1.強い
2.やや強い
3.やや弱い
4.弱い
Q6.あなたは卒業後、将来的に(大学生は 5−10 年後に/その他の学生は 10−15 年後に)
どんな職業に就くことを望んでいますか。一つだけ選んでレ印をつけてください。
1.中国私企業
2.政府機関・国営企業 3.外国系企業
4.学校教師(小中高校)
5.大学教師・研究者 6.自営企業の経営
7.その他(具体的に:
)
8.まだ考えていない
Q7.あなたはこれまでに海外に行った経験がありますか。
1.経験なし
2.経験あり →(該当の地域全てを○印で囲んでください。
)
1.米国
2.カナダ
3.英国
4.仏国
5.独国
6.露国
7.日本
8.韓国
9.中国(香港) 10.台湾
11.タイ
12.シンガポール
13.マレーシア
14.豪州
15.ニュージーランド
16.その他(具体的に:
)
Q8.あなたは、将来海外留学をどの程度望みますか。
1.大いに望む
2.少し望む
3.あまり望まない
4.全く望まない
SQ1.海外留学を「大いに望む」
「少し望む」と回答された方だけにお聞きします。
あなたが留学を望む理由は何ですか。該当する番号全てを○印で囲んでください。
1.高度な技術・知識の修得
2.外国語の修得
3.有利な就職のため
4.現状からの脱出のため
5.家族・知人の勧め
6.金を稼ぐため
7.国際的視野の拡大のため
8.高い学位取得のため
9.国際的仕事に就くため
10.海外に親族がいるため
11.その他の理由(
)
SQ2.その中で最も大きな理由は何ですか? 一つだけ選んで番号をお書き下さい。→(
SQ3.海外留学をする場合、今、その経費支弁についてどの程度見通しがありますか。
1.十分ある
2.少しある
3.あまりない
4.全くない
Q9.
【皆さんにお尋ねします】もし、留学するとすれば、あなたはどこに行きたいですか。
下記の中から、希望する国(地域)の番号を選んでお書き下さい。
第 1 希望(
)番
第2希望(
)番
第3希望(
1.米国
2.カナダ
8.韓国
14.豪州
3.英国
)番
)番
4.仏国
5.独国
6.露国
9.中国(香港)
10.台湾
11.タイ
12.シンガポール 13.マレーシア
15.ニュージーランド
16.その他(具体的に:
1
7.日本
)
17.希望しない
Q10.あなたは次の外国語をどの程度出来ますか。該当する程度の番号にレ印を付けてください。
よく出来る
出来る
少し出来る
全く出来ない
A.英語
………………………→
4―――――3―――――2―――――1
B.ドイツ語
………………………→
4―――――3―――――2―――――1
C.フランス語
………………………→
4―――――3―――――2―――――1
D.日本語
………………………→
4―――――3―――――2―――――1
E.朝鮮語
………………………→
4―――――3―――――2―――――1
F.ロシア語
………………………→
4―――――3―――――2―――――1
Q11.下記のA∼Mの各項目毎に、各国の留学先としての魅力の程度を、次の5∼1の5段階で評価して下さい。
あなたの個人的印象での回答で結構ですが、評価出来ない、わからない場合は、0をご記入ください。
最も評価する
少し評価する どちらとも言えない あまり評価しない 全く評価しない
5―――――――4――――――――3――――――――2――――――――1
わからない
0
右の5つの国の欄、全てに上記のいずれかの番号をご記入ください。
米国
英国
豪州
日本
韓国
A.大学の知名度や学位
その国の大学の知名度や学位をどの程度高く評価しますか
→
B.教育の質の高さ
その国の大学教育の内容や方法をどの程度高く評価しますか
→
C.雇用の展望(就職が有利になるほど高評価)
その国で教育を受けることが、どの程度就職に有利になりますか
→
D.授業料の安さ(安い方が高評価)
その国の授業料の安さをどの程度高く評価しますか
→
E.奨学金の充実の程度
その国の奨学金の充実度をどの程度高く評価しますか
→
F.生活しやすさ
生活費の安さやアルバイトのしやすさなど、生活のしやすさを
どの程度高く評価しますか
→
G.生活の安全
その国の治安や生活上の安心感をどの程度高く評価しますか
→
H.成熟した経済社会への魅力
その国の経済発展や成熟した社会への魅力をどの程度高く評価しますか→
I.大衆文化への魅力
その国の生活様式や大衆文化などへの魅力をどの程度高く評価しますか→
J.言語的負担(負担が少ない方が高評価)
その国で勉学や生活する際に必要とする言語的負担はとの程度ですか →
K.入国ビザの取得しやすさ(取得しやすい方が高評価)
その国に留学するためのビザがどの程度簡単に取得できますか
→
L.入学しやすさ(入学しやすい方が高評価)
留学に関する情報入手や入学申請しやすさ、手続きのしやすさなど、
入学のしやすさを、どの程度高く評価しますか
→
M.親族・知人の人脈の有無(人脈がある方が高評価)
留学に際して、あなたがその国に持っている人脈
→
(親族・知人・友人など)は、どの程度ありますか
【以下の質問は、日本への留学希望者だけにお尋ねします】
Q12.あなたが日本留学を希望する理由は何ですか。次の中から該当する番号全てを○印で囲んでください。
1.高度な学問や技術
2.経済経営の先進性
3.文化の魅力・興味
4.地理的近さ
5.言語文化の近さ
6.親戚知人の存在
7.アルバイトの可能性
8.生活安全・治安の良さ
9.希望の就職に有利
10.奨学金の得やすさ
11.その他(具体的に:
SQ1.その中で、最も重要な理由を一つだけ選んで、その番号をご記入ください。 →(
∼ご協力ありがとうございました。記入漏れを確かめてご提出ください。∼
2
)
)番
2008 年
学生的留学意向调查
海外留学意向调查
我们是从事学生的海外留学意向调查研究的团体。这次是一个关于大家海外留学意向的调查。调查采取不记名方式进行,结果将用图表方式反映
出来。所以,您的回答不会被他人所知晓。希望您能依自己的想法来回答。我们对您的支持和帮助表示深深的感谢。
Q1.首先,是关于您自己的情况
A)性别 → 1.男性
2.女性
/ B)年龄 → (
)岁
Q2.请问您的出身地(户口所在地)
(
)省・自治区・直轄市
Q3.关于您的大学・学校
A)请填写大学名・学校名(
)大学
/ 学校名(
)
B)
【此项只请大学生回答】 您的专业是什么?请从下列选项中选择一项回答。
1.经济・经济管理 2.法律・公共管理・政治
3.哲学・文学・历史・地理
4.教育・心理
5.语言
6.物理・生物・科学
7.医学・药学
8.工学
9.计算机
10.新闻・报道
11.体育
12.农业・林业・水产业
13.其它(理科) 14.其他(文科)
C)
【此项只请大学生回答】您在大学就读的课程是?
1.专科生 2.本科生 3.研究生 4.博士生 5.其他(请具体填写:
)
D)
【此项请所有人填写】您的学年是?
1.一年级
2.二年级
3.三年级
4.四年级
5.五年级 6.六年级以上
Q4.
【以下请所有人填写】如果按照下列 5 个层次来区分您的学习成绩,您大约属于哪个层次?
1.最前面(前 10%) 2.前面(前 40%) 3.中间(前 60%) 4.后面(前 90%) 5.最后面(90%以后)
Q5.您认为自己在大学的学习意欲到达何种程度?
1.很强
2.稍强
3.稍弱
4.很弱
Q6.毕业以后, 将来(大学生 5-10 年以后/其他学生 10-15 年以后) 您希望从事哪种工作? 请选择一项并用√标示出来。
1.中国民营企业
2.政府机关・国营企业 3.外资企业
4.学校教师(小学・中学・高中)
5.大学教师・研究人员 6.自己开办公司
7.其他(请具体填写:
)
8.还没考虑过
Q7.您到目前为止有过去海外的经历么?
1.没有
2.有 →(请用○把去过的地区全部圈出)
1.美国
7.日本
2.加拿大
3.英国
8.韩国
9.中国 (香港)
13.马来西亚
14.澳大利亚
4. 法国
10.中国 (台湾)
15.新西兰
5.德国
11.泰国
6. 俄罗斯
12.新加坡
16.其他(请具体填写:
)
Q8.您对将来海外留学的期望度有多大?
1.非常期望
2.有些期望
3.不是很期望
4.完全不期望
SQ1.选择「非常期望」和「有些期望」的学生请回答(SQ1∼SQ3)的问题。
您期望留学的理由是什么?请用○圈出所有答案号码。
1.学习高度的技术・知识
2.学习外语
3.对就职有利
4.想改变现状
5.家人・朋友的简建议
6.为了赚钱
7.拓宽国际化的视野
8.为了取得高学历
9.为了能从事国际性的工作
10.有亲戚在海外
11.其他的理由(
SQ2.上述中最大的理由是什么? 选择一项并填写号码→(
)号。
SQ3.现阶段,您对去海外留学时所需费用的支付能力为?
1.能全部支付
2.只能支付部分
3.几乎不能支付
Q9.
【此项请所有人填写】如果去留学,您会选择去哪里?
从下列选项中选择并在括号里填写希望国家(地区)的号码。
第一希望(
)号
第二希望(
)号
第三希望(
4.完全不能支付
)号
1.美国
2.加拿大
4.法国
5.德国
6.俄罗斯
7.日本
8.韩国
9.中国(香港) 10.中国(台湾)
11.泰国
12.新加坡
13.马来西亚
14.澳大利亚
3.英国
)
15.新西兰
16.其他(请具体填写:
1
)
17.不希望
Q10.下列的外语,您到达哪种程度? 请选择到达的程度并用√标记出来。
A.英语
B.德语
C.法语
D.日语
E.朝鲜语
F.俄语
………………………→
………………………→
………………………→
………………………→
………………………→
………………………→
精通
掌握
会一些
完全不会
4―――――3―――――2―――――1
4―――――3―――――2―――――1
4―――――3―――――2―――――1
4―――――3―――――2―――――1
4―――――3―――――2―――――1
4―――――3―――――2―――――1
Q11.下面A∼M的各项都请按5∼1的 5个级别对各个国家作为留学国家的魅力程度给予评价。
根据您个人的印象进行回答。倘若不能作出评价,或者不知道的情况, 请填写0
给予很高的评价
给予一般的评价
不好说
不怎么给予评价
完全不给予评价
不知道
5―――――――4――――――――3――――――――2――――――――1
0
请在上面数字中任选一个分别填写在下面图表中5个国家的选栏里。
美国
英国
澳洲
日本
韩国
A.大学的知名度及学位
对这个国家的大学的知名度及学位作何程度的评价。
B.教育质量
对那个国家的教育内容及方法作何程度的评价。
C.就业的前景(对于就业越有利请给予越高的评价)
在这个国家接受教育,对就业产生多大程度的帮助。
D.学费水平(越低廉请给予越高的评价)
对那个国家的学费水平作何程度的评价。
E.奖学金的充实度
对这个国家奖学金的充实度作何程度的评价。
F.生活的容易度
对生活费的低廉度及打工机会的多少等生活的容易度作何程度的评价。
G.生活的安全
对这个国家的治安及生活的安心感作何程度的评价。
H.作为已成熟经济社会的魅力
对这个国家的经济发展及成熟社会的魅力作何程度的评价。
I.流行文化的魅力
对这个国家的生活样式及大众文化等的魅力作何程度的评价。
J.语言学习的难易度比较(越简单请给予越高的评价)
对在这个国家学习生活的时候所必要的语言上的负担作何程度的评价。
K.高签证取得率(取得率越高请给予越高的评价)
对这个国家的留学签证取得的容易程度作何评价。
L.入学的难易度(入学越容易请给予越高的评价)
取得留学情报及入学申请的难易度,手续的难易度等,对入学的难易度作何程度的评价。
M.有无亲戚・朋友的人际关系(若有人际关系请给与高评价)
在前往的留学国家所拥有的人际关系(亲戚,朋友,熟人等)作何程度的评价。
Q12.您希望去日本留学的理由是什么.从下面的选项中选择并全部用○把号码标示出来
1.高水平的学问及技术
6.有亲戚朋友在
2.经济经营的先进性
7.可以打工
11.其他(请具体填写:
3.文化的魅力・兴趣
8.生活安全・治安良好
4.地理位置接近
9.对希望岗位的就业有利
)
SQ1.请在上述理由之中,选择一个最为重要的理由并用○圈出号码。 →(
)号
∼非常感谢您的合作・请核对有无漏填之后提交∼
2
5.语言文化的接近
10.获得奖学金的难易度
2008 年度
明治大学新領域創生型研究費
中国における日本と諸外国への留学生送出し要因の比較研究
∼IDP 方式の将来予測∼
発行日
研究代表者
2009 年 3 月
横田 雅弘 (明治大学国際日本学部)
168-8555 東京都杉並区永福 1-9-1
03-5300-1394
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