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樋口邦史さん

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樋口邦史さん
CSR(企業の社会的責任)
10 2015.7.30 渚の風 5号
■新遠野物語 2年目の挑戦「イタリアンな午後」
富士ゼロックス 営業計画部復興推進室長
樋口邦史さん
遠野のマーケットは
世界中にある
ひ ぐちくに し
おもしろくなってきたんですよ…。樋口邦史さんは、力
を込めて言い放った。大阪・梅田の和食のお店。昨春、開
校した「遠野みらい創りカレッジ」
(岩手県遠野市)が、
グローバルに、野心的に活動の幅を広げているというのだ。
震災復興の流れの中で、富士ゼロックスと遠野市が手を結
んでスタートしたプロジェクトは、新たなステージに立ち
始めた。
プロのホルニスト(中央)といっしょに演奏する
遠野中学校吹奏楽部の生徒たち
(渚の風取材班)
イタリアのカンパニア州にある人口 13
万人の都市・サレルノ。州都ナポリから南
産業交流も、と。遠野カレッジで、その
いくかですね。わさび農家を活性化する
花が咲こうとしているんです」
のにはどうするのか、トマトはどうしよう
東約 46㌔に位置した、ティレニア海に面
樋口さんは、山形の銘酒「くどき上手」
した港湾都市だ。
まぶしい太 陽と碧く澄んだ海。1050
か…。ぼくは、関係性構築のプロデュー
で杯を重ねながら、
「夢を現実にする」計
サーですから、いろんな関係性を創って
画を語り始めた。
いかなけ れ ば ならない。 近く、 企 業 の
年に設立された欧州で最古の医学校・サ
──サレルノとの新しいステージ、面白
方と遠 野市の職員と私とで、サレルノに
レルノ大学がある。
そうですね
行ってきます。サレルノでは(遠野の産品
遠 野市は 1984(昭和 59)年8月8日
「カレッジで行ってきた昨年度の異業種
に、サレルノ市と姉妹都市になった。きっ
交流の中から、サレルノと貿易したいとい
でもやりたいですね(笑)
」
を持って行って)
『ジャポネーズな午後 』
カンツォーネを歌うソプラノ歌手
かけは、1982(昭和 57)年 10 月にサレ
う企業が現れたんです。アジアに『日本
──昨年度のカレッジには、なかった動
にやりたいことを支援する。それで新しい
ルノ市で行われた、第 35 回イタリア・サ
酒文化』を輸出したりしている日本企業
きですね
産業ができれば、富士ゼロックスのモチ
レルノ国際映画祭で、
映画「遠野物語」
(村
です。遠野の食文化全体を、イタリアに
「できなかったことが、でき始めた。昨
ベーションがあがります。サレルノのケー
野鐵太郎監督)がグランプリを受賞した
輸出できないかと…。たとえば、わさびや
年度は、目標の2倍に当たる約 4000 人
スも、単純に『商社がやりとりする』とい
ことだ。映画を観た当時のサレルノ市長
お酒など。そしてサレルノからは、レモン
にカレッジを利用していただきましたが、
う図式ではなくて、ふるにコーディネート
が、村野監督に姉妹都市提携の親書を託
などを輸入する」
一方的にイベントをやって終わりでした。
力を発揮して進めています」
し、両市が交渉を重ねて1年 10 か月後に、
──いきなり、グローバルですね
新しい技術と新しい顧客を生み出すまで
──社会貢献活動が企業の価値にもな
る、CSV(共通価値の創造)ですね
「はい。6月下旬に『カレッジ発 イタ
には、至らなかった。でも、今 年度は、
「昨年、30 周年を迎えたんですが、市
リアンな午後』と銘打ったプログラムを
具体的な解決策を出していく。地元と企
「ものすごく排他的だったところを、み
民の世代も変わっているので、もう一度
行いました。新宿で、イタリアンレストラ
業と、あるいは大学の人々が結びついて、
んなで交流できるようにする技術が、カ
両市の新しい関係を創っていこうと…今ま
ベルギー
ンをやっているシェフを招いて…。マチャ
遠野の課題である『6次産業』をもっと
レッジの活動を通じて富士ゼロックスに備
アキ(堺正明)の『厨房ですよ』にも『巨
推進していこうと思っています」
わってきた。それは、どこにもない力で
匠 』として出たことがある。彼にきても
──その目玉の一つがサレルノプロジェ
す。これが我々の利点であり、これがサー
らって、
遠野牛を使ったイタリア料理を創っ
クトですね
ビスとしてモデル化されれば、商品として
姉妹都市提携の調印式にこぎつけた。
ベラルーシ
オランダ
ポーランド
ドイツ
では人的交流、伝統文化の交流でしたが、
チェコ
スロバキア
オーストリア
スイス
ハンガリー
スロベニア
ウクライナ
てもらった…それから、イタリアで活動し
「はい。私たちは、
『みんなの未来共創
売ることもできます。ねらいはそこにもあ
ているピアニスト、ホルニストも、そして
プログラム』と呼んでいますが、大学や
りますが、CSV という言葉にとらわれな
ソプラノ歌手。遠野中学校の吹奏楽部の
企業と地元をマッチング、6次産業を生
いでやっていくことが重要です。遠野のた
40 人もきてくれて、みんなでイタリアのカ
産者から創り上げていこう、という動きで
めになることが、一番大事です。遠野の
ンツォーネを歌いました。テーマは、
『ふ
す」
欲している課題を解決していく。人口減
れあうようにイタリア音楽を学ぶ』
。大き
トルコ
──富士ゼロックスの役割は
少問題や産業の振興…それをやりながら、
「ぼくらの役割は、産業創造ですね。我々
我々の価値もあがっていく。私たちは、遠
──今後の展開は
がカレッジで創り上げてきた『関係性』を
野のマーケットは世界中にある、と思って
オープンに出して、ほかの企業さんが独自
います」
ルーマニア
フランス
クロアチア
ボスニア
ヘルツェゴビナ
イタリア
ローマ
ナポリ
サレルノ
ティレニア海
セルビア
モンテネグロ
ブルガリア
マケドニア
アルバニア
ギリシャ
な関係性ができたと思っています」
アルジェリア
「どういうふうに生 産 者を巻き込んで
チュニジア
京都遠野2都物語
リビア
地域の未来をひらく福祉を「超えた」社会
エジプト
や文化のあり方』を学ぶ。京都は遠野
く-遠野・京都二都をつなぐ物語』と
んな答えが返ってきました」
を頻繁に行き来している。なぜか。イ
から『したたかに生き抜く力』を学ぶ。
なります」
──本当ですか
ンタビューで、聞いた。
どちらが先というわけではありません。
──それで、京都と遠野を行ったり来
──遠野・京都文化資本研究会という
京都は今、観光都市のイメージだけで
たりですね
のがあるそうですね
樋口邦史さんは今、遠野市と京都市
「本当ですよ。
『私は長生きしていて
よかった』という環境を、みんなで創
しょ。でも西陣織をはじめ、いろいろ
「先生たちの1年間の研究で、遠野に
り上げているんですね。おじいさん、
「カレッジの今年度のプログラムで、
な伝統産業、文化がある。その産業や
は『福祉を超えた社会がある』という
おばあさんを頂点にした地域社会の形
『6次産業化』
の中心が遠野とサレルノ、
文化は、どうなったのか。1年間研究
ことがわかりました」
成ができている。見守りは家族。一族
『研究分野』の中心が遠野と京都です。
したことを下敷きにして、京都と遠野
──えっ、福祉を超えたですか
その基盤になっているのが、研究者の
の特別な文化資本をまとめようと…」
皆さんと進めてきた『遠野・京都文化
──本も出版されるとか
資本研究会』です」
「私も編集委員の一人として、主に遠
「はい。学者さんが、85 歳以上の超
高齢者を遠野でインタビューしました。
『1人暮らしをしているけど満足してい
郎党が組み合わさって、助け合いの構
図ができている。行政がおしつける仕
組みではないんです。まさに福祉を超
えている。そんな社会が遠野にはある
──遠野・京都どちらが中心なのですか
野と企業のくだりを書くことになりま
る』
『大きな広い農家で1人暮らしだが、
んです。あの『遠野物語』につながる
「遠野は京都から『安全で快適な都市
した。タイトルは『地域の未来をひら
決してさみしい想いをしていない』。こ
ような…」
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