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計量短信 Vol. 51 2014-12-24 国際度量衡総会
計量短信 Vol. 51 2014-12-24 国際度量衡総会(CGPM)が 11 月 20 日(木)に終了し、その翌日には国際度 量衡局(BIPM)のホームページ http://www.bipm.org/en/cgpm-2014/に決議全文 が掲載されました。注目された「国際単位系(SI)の将来の改定について」は Resolution 1 としておおむね下記の通り決議されています。 決議1 ・2011 年の第 24 回 CGPM で採択した方針のとおり、質量はプランク定数 h で、 物質量の単位モルはアボガドロ定数 NA で、電流の単位アンペアは電気素量 e で、 熱力学温度ケルビンはボルツマン定数 k に基づきそれぞれ再定義する。 ・2018 年に予定される第 26 回 CGPM で、新定義に移行出来るよう必要な作業を 関係機関(BIPM、各国 NMI、等)完遂するよう奨励する。 (原決議案は更に詳細に、これまでの経緯を述べています) これは、前回 CGPM 以降、実験的なデータが順調に報告されていること、定義案 に対して有力な対案が現れていないことから、前回の方向性を追認したことに なります。さらに定義改定前後で測定値の不連続が生じない事が実験的に明ら かにされた段階で定義の改定に踏み切る、その具体的なゴールを 2018 年に置く、 というものです。 これによって SI 基本 7 単位の定義は、全て科学的に不変と考えられる定数や 特性値で下記のように変わることが予想されます。7 つの基本単位のうち、4 つ を同時に改定するという大がかりなものになります。 現行 改定後 質量 国際原器(器物) h(プランク定数) 長さ ← 光度 C(光速) μ0(真空の透磁率) Kcd(視感効率) 時間 133Cs ← 温度 H2O(水の三重点) 電流 物質量 hfs(セシウムの物質定数) 12C(炭素 12 の物質定数) e(電気素量) ← k(ボルツマン定数) NA(アボガドロ定数) 表1.基本単位を定義づける要因 ここで、キログラム原器という最後に残った器物による定義が変わる、とい う事がクローズアップされがちですが、この決議は「力学量、電磁気量、熱力 学量が、真の意味で SI の元に整合する」というより大きな意味を持ちます。整 合に至る個々の技術論は別項[1-5]に譲りますが、大まかに言うなら各量目が決 文責:臼田孝 本文章は個人の見解であり筆者が属する如何なる組織を代弁するものでもありま せん。引用明記のない写真・図版は筆者または産業技術総合研究所に帰属します。 計量短信 Vol. 51 2014-12-24 定づけられる対象を、それ以上分割できない要素(量子)に分解し、その要素 が持つ量目を不変の定数を基準に表す、ということになります。すなわち、質 量は光子という粒子(波動でもある)とエネルギーを関係づけるプランク定数 で、電流は単電子という電流の最小単位がもつ電気素量で、熱力学温度は気体 分子の運動エネルギーと絶対温度を関係づけるボルツマン定数で表す。そして これらの定数が満足な精度(不確かさ)で決定出来たとき、これまで測定の対 象であった物理定数が逆に基準(定義)となる訳です。 具体的な定義式は、例えば質量の場合はプランク定数 h を用いてのようにな ります。(但し、xxx 部分は今後の測定精度の向上により決定される。またプラ ンク定数の単位は kgm2s-1)つまり、現在の 1 kg というスケールに比べると、 桁違いに小さいレベルの定数を用いて表現することになります。 実はこの定義案については、前回の CGPM 以降いくつか異論が出されていまし た。特に質量については定義改定前後の値にジャンプが生じる不安がある、プ ランク定数による間接的な表現で判りにくい、等の声があがり、事業者団体で ある CECIP(欧州はかり工業会)からは見直しを求める書面が質量標準関係者に 提出されていました[6]。このため、CECIP の有力な会員企業が所在する欧州の 一部の国などは、定義の修正に動くのではと目されたときもありました。この 様な経緯がありながら今回定義案が追認された背景には、その後実験値の精度 が上がり、また関係する CC(技術諮問委員会)が改定に必要な具体的な条件や 工程を明示したことなどから、関係者の不安が解かれ、理解が得られてきたこ とが上げられます。 また、また、判りにくいという批判は依然として存在するものの、基本単位 の定義はできる限り普遍的表現であるべきだ、という教訓があることも忘れる 訳にいきません。というのも例えば、1960 年代にレーザの安定化が進むにつれ、 波長安定化レーザによる長さ(メートル)の定義が検討されたのですが、将来 より安定度の良い高精度のレーザ波長漂準ができる可能性が十分あり得ること などを考慮し、特定の安定化レーザではなく光の速さによる定義(1983 年)に 至ったのです。この普遍的定義は今日、光周波数コムのようにレーザ周波数を 直接測る技術が出現しても破綻せず、一次標準の改良が続いています。一方で、 1967 年に採択された時間(秒)の定義は、セシウム原子から発せられる電磁波 を元にしていますが、より波長の短い(時間分解能の高い)光時計が今日開発 されながら、この定義のためにセシウム原子時計以上の正確さで周波数を決定 することが原理的に出来ないという事態に陥っています。今回の改定案はこれ 文責:臼田孝 本文章は個人の見解であり筆者が属する如何なる組織を代弁するものでもありま せん。引用明記のない写真・図版は筆者または産業技術総合研究所に帰属します。 計量短信 Vol. 51 2014-12-24 ら先例を踏まえ十分検討され、今後の技術的発展に耐えうるものと考えられて います。 なお、今後定義の改定に踏み切るかどうかは、定義改定前後の整合性が実験 的に示される事を条件としています。そしてその判断は、CODATA(Committee on Data for Science and Technology・科学技術データ委員会)と呼ばれる、実験 データなどから基礎物理定数の推奨値を決定する国際委員会からの報告値が所 定の不確かさに達したかどうかによる、としています。CODATA は CGPM とは別の 独立した組織で有り、科学的に中立な判断が下ることになります。また、それ に向けたタイムテーブルも BIPM も HP に下記の通り掲載されています。 http://www.bipm.org/en/news/full-stories/si-roadmap.html すなわち、CODATA が 2018 年に調整値を決定するためのデータは 2017 年 7 月 までのものとする、という言わばデッドラインが定められています。各研究機 関は、2018 年定義改定というゴールに向けて、まずそのまえのハードルである 2017 年 7 月のデータ報告に向けて、歩みを加速することになります。 [1] 臼田孝:国際単位系(SI)の体系紹介と最新動向(概論), 計測と制御, 53-1, 74/79(2014) [2] 藤井賢一:質量標準の現状とキログラム(kg)の定義改定をめぐる最新動向, 計測と制御, 53-2, 144/149(2014) [3] 金子晋久:電流(A)についての基礎解説と最新動向, 計測と制御, 53-3, 249/253(2014) [4] 倉本直樹:物質量(mol)についての基礎解説と最新動向, 計測と制御, 53-4, 368/373(2014) [5] 山田善郎:温度(K)についての基礎解説と最新動向,計測と制御, 53-8, 758/764(2014) [6]CECIP Position on possible future revision of the International System of Units-SI(May 15, 2012), http://www.bipm.org/ws/CCM/MeP_2012/Allowed/November_2012/06A_CECIP_position_on_SI _15_05_2012.pdf 文責:臼田孝 本文章は個人の見解であり筆者が属する如何なる組織を代弁するものでもありま せん。引用明記のない写真・図版は筆者または産業技術総合研究所に帰属します。