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■発 行 ふみの会広報部 ■発行日 2007 年 6 月 8 日 ■連絡先 藤川博樹 〒 115-0045 東京都北区赤羽 1-48-3-203 tel03-5249-5797 fax03-3901-6090 ■編 集 中井、塚原、藤川、蒲原雅、佐藤、蒲原直 http://www.mdn.ne.jp/ fumi/top.html ふみの会 No.305 ニュース 6 月行事日程 ■ニュース編集 原稿はテキストにして下記へ ワード・一太郎文書も可 [email protected] エッセイ:5 枚(2000 字) 小説:10 枚(4000 字)目安 ■締め切り 2007 年 6 月 20 日(水) ■購読料・年会費 1200 円(年) ( 切手可 80 円× 15 枚 ) 郵便振替:東京 00170-1-18290 WILD COOKING ヤマウド・アミカサタケ・キクラゲ す る こ と に。 し か し、3 日 ほ ど 放 っ て お い た ら ず い ぶ ん 成 長 し て い た。 ■左は山ウドの収穫。つごうで客人の来宅が伸びたので自家用にと採集 足元にアミガサタケとミツバがあったのでこれも収穫。みんな我が家の 周囲にあったもの。■山ウドは捨てるところがない。皮は油味噌で炒め いくらいの風味だ。■アミガサタケと名のつくキノコは日本産が10 種 て酒のさかなに、葉は味噌汁にいれる。やや煮込めばアジタバに負けな 類くらいある。右のアミガサタケは高さが15 センチくらいあって、柄 が太いのでアシブトアミガサタケだと思われる。手で裂いて鍋にいれ少 量の水で煮てスープをとった。味付けは塩だけ。結びミツバを浮かせて 椀に張り、子供たちひとりひとりに味をみてもらったが、3 人とも気に 入ってくれた。キノコそのものもしこしこした歯触りで、噛みすすむと じんわり味がしみ出すようだから子供ながら﹁うまい﹂と感じるようだっ た。次の収穫があったらバターを使った洋風のスープにしてみようかと 思う。このキノコはグロテスクな外観で損をしている。右の写真は偶然 に寄り添うように置いたものだが、これが人間にとって、自然からの贈 り物としてうれしい存在であることを、その外観に関わらず、あらため て感じる。■5 月の連休が終わって、最初の登校日だった。中1 と小4 の子が青田の出入り口でキクラゲをみつけた。グラウンド側の立ち木が 枝枯れして、土手から落下していたのである。基物はエノキらしい。こ のところの雨で水分は足りている。■以前に書いたことだが、わたしは 都 心 の 神 宮 外 苑 で キ ク ラ ゲ を ス ー パ ー の 袋 に 2 杯 採 集 し た こ と が あ る。 このときキクラゲは透んだ飴色をしていた。たぶん高地で伐採された木 が 集 積 さ れ て い て、 事 情 が あ っ て 利 用 さ れ ず 放 置 さ れ て い た の だ ろ う。 キ ク ラ ゲ と ア ラ ゲ キ ク ラ ゲ は 垂 直 的 に 棲 み 分 け る と さ れ て い る け れ ど、 そういう例外もあり、かつまた藤野のような土地では両者は共存してい るというわけである。 ︵2007・5・11 雅︶ 売 ら ぬ と 言 う 九 十 坪 の 土 地を 追 加 さ ゴリ押しというより無茶だった。 (二二)死 病 建てねばならないが、そこは彦一の に 減 っ て い る 。 土 地 を 買 え ば工 場 を に 入 れ 込 んで 、 土 地 代 の 三 分 の 一 位 資 金 は 仕入 れ に 、 交 際 費 に 、 生活 費 工場が借物では、やってゆける訳が 彦 一 は 反 対 だ っ た 。 一 生 の 仕事 に と言う。 土地を探すのは止める」 転資 金 に 廻 す 。そ の 方が 得 だ か ら 、 は工場は借物で済ませ、その金を運 と看護婦に命令した。彦一は吃驚(び 「手術用意ッ!」 の手に 負えな くな って 病院 へ移 さ れ 央が腫れ上がり、高熱が出て町医者 と言う。そう言っている内に腹の中 「二、三日様子を見ましょう」 内田幸彦 せ 、 お ま け に 値 切 っ た 。 挙 句 の果 て 図太さ。《何とかなる》。これが彦一 な い 。 金利 を 思 え ば 三 井 の よ う な 考 っくり ) した。そん な 心算は未だ 無 小説・一人ぽっち に不動産屋の手数料まで負けさせた。 の身上である。何とか工場を建てて え に な る かも 知 れ な い が 、彦 一 は 独 かった。あっけに取られていると、 交渉がうまくいって上手に土地を買 かったのだと割り切る。それだけに、 れが駄目でも運がなかった、縁がな か八かの勝負性があった。たとえそ このお告げがあったのだ。 今度、工場用地を強引に買った時も、 う 天 の 声 が 体 内 か ら 突 き 上 げて く る 。 時、 《行け行けッ、やれやれッ》とい も 知 れ な い 。彦 一 が 何 か を や ら か す り 、 霊 感 と で も い っ たほ う が よ い か 商 品 に 倍 の二 百 万 、 計 四 百 万 円 の 金 て る の に ま た百 万 、 出 来 上 が っ た ら たと す る 。 考 えて み る と 、 工 場 を 建 「判りやすく、土地を百万円で買っ りてしまった。 二人で見て廻ったが、中途で彼は降 約一年 の後、二、三 ヶ 所の候補地を くなるのでは、との発想で探した。 二 軒 隣 に 工 場 を 構 え れ ば 客 も 来や す 用地を探したことがあった。初めは 名 の仲 間 が い て 、 一 時 、 一 緒 に 工 場 同業者に三井という財閥みたいな が火照ってきた。居ても立ってもい し、全身ガタガタ震えだし、熱で体 工 事 完 成 の 間 近 い 或 る 日 、 寒気 が トは燃え盛った。 も 工 場 主 だ 。 日 に 日 に彦 一 の フ ァ イ って自分の城が出来る。金は無くと た。柱を立て、屋根を葺き、壁を張 品倉 庫 二 十 坪 の計 画で 工 事 に か か っ に 工 場 二 十 坪 、 原 料 倉 庫二 十 坪 、 製 後回 し に して 、ま ず 工 場用 地六十 坪 余分 に買 った九十 坪の倉 庫用地 は 然として言葉も出なかった。 な に 大 変 だ っ た の か … … 。彦 一 は 呆 家内がホットした顔で 言った。そ ん 捻転。五日間も意識不明だった、と きない 上 、腹 の傷口 が 痛む。病は 腸 ら ビニ ー ル 管 が 通 さ れ 、 身 動 き が で 意 識 を 取 り戻 すと 、鼻 から 脇腹 か った。 だと 思 っ た瞬 間に 意 識 を 失 って し ま の口 に 白布を 当て た 。ド ギ ツイ臭 い ろから抱きかかえるようにして彦一 を着せられたと思うと、看護婦が後 自 信 が あ っ た か ら だ 。 自 信と い う よ えたのは嬉しかった。生まれて初め が寝ることになる。金利を考えると、 られず、医者に行くと、 信用金庫の理事長が貸してくれた それがなくても、彦一には常に一 て土地を我が物にしたのである。 工 場を 借 り た 方 が 得 だ 。 だ か ら 、 俺 た。こちらの医者は、直ちに、 その無茶が全部通ったのである。 み せ る … … 。 希 望 に 燃 え 、予 算 の 心 自で用地を探し、更に工場を建てよ 有 無 を 言わ さ ず 素 っ 裸 に さ れ 、 白 衣 不 可 能 が 可 能と な っ た 。 そ れ に は 配は霧散してしまった。 うと、動じなかったのである。 ふみの会ニュース(2) 呑 ま れ 、海 水を 飲 ん で 苦 し ん だ り 、 夢にう な され た。山 のような 大波 に 夜 は う つ ら う つ ら と 眠り 続 け 、 悪 の彦 一 も 思わ ず ベ ッ ド の上で 大 き な で の苦 労 ・ 努 力 は 水 の 泡 … … 。 流 石 も取られてしまうに違いない。今ま てもらわないと、工場の土地も建物 桜が 満開の大安の日、彦 一は退院 (二三)方向転換 旦動揺を感じると良いこと は頭に浮 あ り 、 考 え ざ る を 得 な くな っ た 。 一 中から 数 人の美女が 現れ、手招き を こ ん な 夢も あ っ た 。 中 国 の 楼 門 の の境を往来していたに違いない。 えつけられる夢ばかりで、多分生死 は ハ ッ と し た 。 明 日 の 手 形を 連 絡 も 信 用 金 庫か ら 電 話 は な か っ た 。 彦 一 三 月 三 〇 日 に な って も 、 夕 方 ま で 日。あと数日で運命が決まる……。 諦 め も つ く 。 手 形 の 期 日 は 三 月三 一 倒 産 の 憂 き 目 を 見て も 悔 い は な い し 、 分 は 精 一 杯 や っ た の だ か ら 、こ こ で まず、代払いしてもらった手形の だった。 六 十 日 余 り の空 白を 埋 め る の は 大 変 体も順調に恢復し、仕事に出たが、 ……。 も し 死 んで い た ら ? 転から九死に一生を得、フト考えた。 着 か な か っ た 。 死 病 と 言わ れ る 腸 捻 っ た が 、他 人 の 家 へ 来 た よ う に 落 ち し た 。 二 ヶ 月余 り の 入 院 から 家 に 帰 ぶ長 く 苦 しい 太平洋 戦 争。そ れ が 終 ば か り の 日 々 だ っ た 。十 五 年 に も 及 思い 返せば、彦 一 には苦労と 努 力 た?》 。 んでいたら自分の人生は何だっ ップされる。 《あの時、もし運悪く死 か ば ず 、悪 い こ と の み が ク ロ ー ズ ア 張りつめていた気持ちにも限界が 沈む気持になった。 突撃する兵士等の軍靴に踏みにじら 溜息が出た。 する。門前の池には睡蓮が咲き乱れ、 せ ず 不 渡 り に す る 筈 が な い 。有 難 い 支 払 、 買 掛 金 の 支 払 、工 場 の 人 の 給 「 儂 ( わ し ) と お母 さ ん の 生 活 は 、 た。 れ た り 、 吹 き つ け る 木 の葉 に 埋 も れ 思 わ ず 彦 一 は ウ ット リと し た 。 ひ ょ 手 形 は落 と 料 、と 商 売 よ り も 金 の 後 始 末 が 大 変 わった途端に父の死。 父は彦一によく言っていた。 ないので、手形を落として欲しい、 電話した。突然入院して身動きでき の側 の 公 衆電話に行 き 、信用金庫 へ 看 護 婦 の止 め る の も き か ず 、 売 店 金の盥(たらい)回しで、息の詰ま 加 う る に 生 活 費 、 … … 。 最初 か ら 借 建てた工場の建築費、営業諸経費、 い、土地代を信用金庫に返済しつつ、 り 。 金 が 仇 に 思 えて き た 。 無 理 も な れ た 。 以 来 、 二 十 年 近 くも ど ん 底 を 以上 の預 金は切り捨て られ、裸に さ か 、 旧 円と 新 円 の 切 り 替 え で 五 万 円 と な っ た 。 収 入 が 無 くな っ た ば か り 父 の 死 が 外 田 の家 の 没 落 のキ ッ カ ケ 父の計画は二年ともたなかった。 ッ、これで助かった! 退 院 す れ ば 解 決 す る 、と 頼 ん だ 。 貸 りそう な 毎日に、彦 一はうんざり し 這 い 続 け て い る 。 今 の 金 の苦 労 を 三 二、三日してハッとした。手形の 付係は、 た 。 こ んな 苦 し い 日 々 か ら 何 時 か 解 年と 続 けられる人はいない だろう 。 自 っとすると、これが死への入口だっ 急に嬉 し 死ぬまでの準備が出来ているから心 後は 天命、な るようになれ! たのではないか……。 してくれるに違いない! だった。 て し ま っ たり 。 兎 に 角 、何 か に 押 さ 期 日 が 来 る 。 身 動き で き な い 今 、 金 くな り 、 退院 すれ ば 今 まで 以上 に 頑 「 一 度 、 手 形 割 引や 手 貸 し を 調 べ て 放 さ れ る 日 が あ る の だろ う か 。 自 分 それを十八年間も引っ張り続けてい 配いらんよ」と。 みますが、今は何とも言えません」 の 頑 張 り に も 限 界を 感 じ 、 暗 い 淵 に 明けても暮れてもお金の算段ばか 人生って何だ の準備はできない。手形の不渡りは 張るぞ、と闘志が燃えてくるのだっ 後年のことである。 死を意味する。 と事務的な答。手形を何とか落と し ふみの会ニュース(3) った。今までの不幸を取り返してや えると、 ろで はな かったが、 何 かを書いて み 仕事 を止 めよう 。 止 め たら 何と か 楽だ。 っ た 。 同 じ 赤 字 な ら 遊 んで い る 方 が 事をしながらの赤字は我慢できなか いている。《そんな馬鹿な……》。仕 業 しな が ら 年 間 百 万 円 近 い 赤 字 が 続 止めることにした。こ の数年間、営 彦 一 は 最 後 の 仕事 ― ― 貸 ふ と ん 業 を りたいと辞めた。それをキッカケに、 さ ん が 病気 にな り 、 故 郷 の秋 田 へ 帰 絵 も 描 き た い し 、 文 章 も 書 き たい 。 と言うように、彦一も父の血を受け、 〈芋種は盗めても、子種は盗めない〉 と商売を止めてしまった。 りしてなんかいられるか、とサッサ を楽しもう、馬鹿らしくて仕事ばか か ら の 五 年 間 、 生 涯 の思 い 出 に 人 生 が人生の最後の場と考えた。六十歳 で だ 。 そ う な る 五 年 前 、 六十 歳 か ら を 食 べ て も おい し い の は 六 十 五 歳 ま 体が丈夫で、どこへでも行け、何 ヶ 月 目 に工 場 の 借 り 手 が 現 れ た 。 家 彦一のカンは当たった。止めて三 のだった。 な か っ た自 由 へ 、 彦 一 の 胸 は 膨ら む 度は自 分 が楽しむべ き だ。何十年 来 ある。 流れて行きたい。そんな旅が望みで く ま ま 気 の 向 く ま ま 、浮 草 の よ う に たい 。 宿 も 乗 物も 予 約 せ ず 、足 の 向 染んでいるので、日本国中廻ってみ 旅行 は子 供の頃か ら家 族旅行で 馴 思うことになる。 せめてしたい事はやってみよう、と 絵は子供の頃から下手で、犬を描 に生まれてくるかどうかも判らない。 「 そ お 、あ な た が 決 め た の な ら 、 そ たい気があり、駄文を弄していた。 な る 。 二 四 〇 坪 の工 場 が 物 を 言 う に 旅も 好 き だ っ た。 仕 事 の成否 は 兎 も 賃 二 十 万 円 、 遊 んで 食 え る 身 分 に な (つづく) るずると商売を続け、最後には倒 儲かっていた頃の甘い夢が残ってい い たら 牛 に 見 え た り 、 全 く 絵 に 興 味 る 。 こ れ は 人 間 の 生 活 で はな い 。 金 運よ く助かったからいいような も るから だ。彦一にはそれがない。儲 も 関 心 も 無 か っ た の に 、 中 年 にな っ る 。 六 十 一 歳 に な っ て 、彦 一 は そ う の の 、 あ の ま ま 死 ん で い たら 、 あ ま かってよい思いをしたことは一度も て あ っ さ り し た 風 景 画 が 描き た く な 絵と文章を習い始めた。 り に も 自 分 が 可 哀相 す ぎ る 。 俺 に も ないから未練はない。それどころか、 っ た 。 心 境 の 変 化 と はい え 、 全 く 人 産・破 産 の憂目を見 る。要するに 、 人並み の人生があ っていい筈だ。 金 止めてセイセイした。別に当ては無 間なんて判らぬものだ、と彦一は思 の地獄だ。 儲けや仕事ばかりが人生じゃない。 いが、何とかなるだろう。 う。 生 きて い る 今 が 、 男 に 生 ま れ た 今 が れでいいじゃないの。どうせ止めて 絵よりはずっと興味があるから、文 妻 の 道子 に 仕 事 を 止 め る こ と を 伝 貴 重な の だ 。 男 な ら や り たい 事 く ら も止まる人じゃないから……」 生活 に、仕事に追 わ れ 、それど こ いはやってみたいではないか。 章に力を入れてみよう。 違いない。彦一流の生き方だった。 角、永らく頑張ってきたのだから、 今までの苦労を賞(め)でて、今 多くの人は、未練が出て、ツイず 十 年 近 く い て く れ た従 業 員 の 渡 辺 と、冷ややかに言った。 仮に生まれ変わったとしても、人間 俺にだって華はありそうなものだ。 ふみの会ニュース(4) で 、 長 い 通 学 時 間 のメ リ ッ ト 。 こ 今ならたったひとりでも府外にさえ 嬢さんから徐々に脱却できてきた。 ) ( れは実際に経験しなくてもある程度 出かけられるだろう。家族も連れて 周辺でも遊んでみたり、帰りの電車 想 像 が つ く かと 思 う 。 長 い 時 間を か っちゃんの前に立とう、だとか、ラ 傍 か ら 見 れ ば こ の 通 学 時 間 の長 さ 地下鉄に乗ってあらゆる場所に案内 を途中下車してみたり……。そうい は デ メ リ ッ ト で し か な い の だろ う が 、 できるだろう。今までは「お母さん、 クになる方法が自然にわかってくる ついに私も大学生である。長かっ 学はそれなりに楽しいものなのだ。 けて 場 所を移 動アド ベ ンチャ ーな 通 わたしを遊びに連れてって!」状態 うことの繰り返しで世間知らずなお た受験勉強期間は、多少の体力的・ 今の私は、 「これも悪くないかな」と ひ と り で 2 時 間半 も か けて 、 交 通 機 だ っ た の に 。こ れ は 大 変 大 き な 進 歩 のだ。 精神的疲労には悩まされたものの、 いった心境である。最初は確かに苦 関を乗り継ぎ倒して(少し大げさ?) である。今度路線がわからなくて困 ふじみ ちよ 思いのほか楽しかった。理由はいろ 痛で 仕 方 な か っ た 。 各 駅 停 車で 片 道 そして帰りに わたしの大学生活 1 いろとある。何よりも友人たちと励 分という高校時代の穏やかな通学 いて、私の友人は大抵顔をしかめる。 要 す る 。 2 時 間半 ― ― こ の 数 字 を 聞 いっても、通学には片道2時間半を う にと 地 元 の 大 学 を 選 ん だ 。 地 元 と さて、私は自宅からでも通えるよ うに、と意気込んでいる。 きられる大人への橋渡しとできるよ しくはそれ以上)を、胸を張って生 喫しつつ掴んだ輝かしい4年間(も 産である。今の私は、高校生活を満 間に出会えたことは、私の大きな財 た。常に向上心の高いたくさんの仲 の大きな糧となる有意義な時間だっ い つ も 1 両 目 よ り 2 両 目 の車 両 の ほ 2、3週間もすれば要領を得てくる。 な アド ベ ンチャ ーみ たいな通学も 、 ても倒れそうになるほど。でもこん に揺れがひどく、つり革を持ってい が 放 せ な い 。 バ ス は 山 道を 行 く た め 継ぎの 時間があるので 腕時計から 目 ぶ つ か る た め に 気 が 抜け な い 。 乗 り くので、ぼーっとしてるとすぐ人と の量が半端じゃない都会のほうに行 するかなりハードな 3 ステップ。 人 時には悲 惨な通勤ラ ッ シュ時に利 用 鉄 → 地 下 鉄 御 堂 筋 線 →阪 急 バ ス を 、 とはうってかわって、今度は南海電 私が巨大ビルの立ち並ぶ大都会に飛 遠 く に 眺 め た りと い う 程 度 。 そ ん な して、母と買い物をしたり通天閣を いえばせいぜい終点の難波駅で下車 難 波 ま で の 間 だ けで あ っ た 。 遠 出 と の走 る 区 間、すなわ ち 和歌 山市か ら 私の生息地といえば、南海電鉄本線 然と行動範囲が広がる。これまでの 毎日遠い場所まで移動することで自 も ち ろ ん 自 己 満 足 だ けで はな い 。 しいものにするのだと感じる。 る。この小さな自己満足が人生を楽 り 大 人 にな っ た よ う な 気 分 にも な れ たりで き るな んて ! 友達とコーヒーショップに立ち寄っ 学 校 に 行 く な んて ! と、ちょっぴ が始まった。 で邁進していきたい。長い学生生活 りして、持ち前のポジティブハート 方な か っ た 頃 の 気 持 ち を 思 い 出 し た 疲れたときは大学生になりたくて仕 か ら ブ ー イ ン グ の嵐 が 起 こ る か も 。 だから、文句を言おうものなら家族 いだけ。その上自分で選んだ道なん だと固定してしまえば自分がしんど に な る 。 け れ ど 、 大 変な こ と を 大 変 ゃ しな い ! 」 と 言 え ば 完 璧 な 強 が り 言ってもらいたい。 鉄のことならアイツに聞け」などと えて あ げ よ う 。 そ し て い つ か 「 地 下 っている友人を見つけたら丁寧に教 ましあい、切磋琢磨した日々は人生 「1日の5分の1は移動に使ってる うが空いてるからこっちに乗ろう、 び 出 し 、 大 阪 の北 の 端 の 、 し か も 山 「長 時間通学は楽 しい ったらあ り わけ?」と親切にも計算して教えて マンがどっと降りるから、席が空い の上に位置する大学まで行き、その だと か 、 梅 田 ・ 新 大 阪 で は サラ リ ー てないときは座ってるスーツ姿のお が みつ き や 」 と 励 ま され るこ と も し 30 もらったり、 「大変やね~、4年間し ばしば。 ふみの会ニュース(5) 小説 慣れてきて見習い期間の三カ月のう 来 客 を 不 用 心 に 社 内 に 入 れ て はい け 藤川博樹 ち ろ ん 五 時な ん か に 帰 れ な い 。 昨 日 パンドラの箱 ------------------------------------------------- 公 安 調 査 庁な ど の ス パ イ に も 気 を つ な い の だ 。右 翼 だ け で な く 、 警 察 や けるように言われていた。といって うになってきた。だいたいせっかち な社員が多くて、自分が誰だか名乗 常 三 が 受 付 のあ い だ に 右 翼 の 殴 り 込 ち に 声 だ けで 社 員 の 誰 か が わ か る よ んを誘った。もちろん小柄でちょっ らないで 、編 集三課 につないで く れ のことがあるので、常三は今日も誘 と 肉感 的 で も あ る 加 藤 さ ん に 惹 か れ っ た の だが 。 し い て 事 件 と い え ば 、 みも こ れ と い っ た 事 件 は 一 度も な か わないと悪いような気がして加藤さ か ら ホ ー ム へ 投 げ 出 され た 。 昨 日 は なり言う。最初は彼も戸惑 ったが 、 と か 、 営 業 に つ な い で く れと か い き 常 三 が 雑 誌 編 集 部 に 転 属 さ れ たあ と 、 るも の が あ っ たと い う こと は彼も 素 そのうち、 「えーと」と電話の向こう 新人の受付係が二人とも社長の顔を 直 に 認 め た だろ う が 、 同 期 入 社 と し て の 連 帯感 と 、 不 安 な 女 性 の 保 護 者 で相手がためらっているうちに、 「は 今日もいつものように池袋で一緒に なったのだが、混んでいるので乗っ としての義務感もあって、加藤さん たことぐらいだ。その日は、ベテラ て こ な か った。 混ん だ 電車で から だ ンの津田君が休みで、受付はアルバ 社長が通りすぎて社内に入って行っ を聞いた瞬間に相手の顔がぱっと頭 イト 学 生が二 人だ っ た。社長 は 、も 知 ら ず 、二 人 が 呆 然 と し た 目 の 前 を に 浮 か ぶと い う 特 技 が あ っ た の だ が 、 ちろ ん 自分 の会社に 入るのに名乗 っ り 換え る よ う に な っ た 。 常 三 に は 声 それでまあ、どうということにもま そして三カ月のうちに電話番として い 、総 務 に つ な ぎ ま す 」 と 電 話 を 切 受け付けは電話番もかねている。左 だな って いな か っ た の だが 、 今 日 、 その神技の域にまで達したのだが、 いので一人で帰ってとことわられた。 翼系の出版社なので、受け付けは男 が常三を指さして、 「この人おかしい 昼 間 に 営 業 に 顔を 出 す と 、 加 藤 さ ん を誘っ たのだ。しか し、まだ帰れな がや る 。右 翼 の殴 り 込 みがな い と も 社 に 到 着 す ると 受 け 付 け に 座 っ た 。 限らな い からだ。加 藤さんは、次 の 取 っ た り しな い 。 社 長 が あ ま り 堂 々 たり 、 訪 問ノ ート に 名 前を書 き 込 ん としているので、アルバイトの二人 そのことには誰も気づかず、もちろ 電 話 番 は 二 人 一 組 で 、も う 一 人 の の よ 、 一 緒 に 帰 る の 断 っ た ら 変な 顔 電話番 は 津田真 一 だ った。彼はア ル は不審人物として取り押さえもせず、 電車でやってきて、営業の席に着い っ たい 加 藤 さ ん が ど う い う つ も り で 話 し た 。 そ う 言わ れ ると 、 常三 も い あっけにとられて見ていたのだ。あ だりしない し、まして 番号札を受 け 加藤さんは色白の小柄なうつむき バイトであ ったが、受付け電話番 係 と で 、 総 務 部 長 と 次 長 が 社 長 に呼 び ん誰もほめてくれなかった。 が ち な 控 え め な 女性 な の だ が 、 芯 に そ んな こ と を 言 っ た の か 理 解で き な こ と を 教え て く れ た 。 来 客 に は 、 名 としては先輩で、常三にいろいろな す る の 」 と 、隣 の 先 輩 の 男 性 社 員 に は強いものを秘めている。昨日は、 いなが ら 、そ の日以 降 は、加 藤さん つ け ら れ 、こ っ ぴ ど く 叱 ら れ 、 挨 拶 を誘って一緒に帰るのをやめてしま 前を訪問ノートに記してもらって番 と い う こ と の 大 切 さ に つ いて 諄 々 と った。たまたま同期入社で、見習い った。 常三 の受け付 け の 仕事も だん だ ん 社員という同じ境遇なので、誘って 一緒に 帰 った。出版 社 の正社員はも 号 札 を 渡 す 。 会 社 の 防衛 上 、 不 振 な 五時に会社が終わったとき一緒に帰 た。 が触れ る のがいやな のだ。常三は 会 営 業 の 加 藤 逡子 さ ん と 一 緒 だ っ た 。 ------------------------------------------------無家常三は、地下鉄茗荷谷で電車 第一章 津田君の耳に水がたまること ふみの会ニュース(6) た り 、 電話 の 本 数 が 多い と 、 二 人 の 昼間あんまり来客が立て込んでい 説教されたことは言うまでもない。 の津田君でしょう」と電話を回すよ 次から は「それは受 付 のアルバイ ト が変だと思ったことが何度かあり、 れた。編集長は話し始めてどうも話 座り込んでご託を並べてる」向こう 机 運 ん で い る の に 、 部 長 は 机 の上 に た。「津田さんがあんなに一生懸命、 常三の目の前でささやき交わしてい なかった。編集部や総務部の若手は、 積み上げられたままになっているの た ご み 袋が 二 回 の 廊 下 の 隅 に 何 日 も 宴 会 の 生 ゴ ミな ど が ぎ っ し り 詰 ま っ 総 務 部 次 長 の加 世 田 さ ん に い わ れ て 、 で よ く 声 を か けて く れ た 。 常 三 が 、 を、片づけさせられたりしていると うになった。 き、 「なんだ、総務の下請けみたいな 受 付 だ け で 対応 で き な く な る 。 す る を 見 る と 、 青 田 部 長 が 道路 に 出 さ れ ことをやらされているのか」と大き と 、 壁 際 の ブ ザ ー を 押 すと 電 話 の 呼 び出し音が社内に転送されて、だれ た ス チ ー ル の 机 の上 に ど っ か と 座 っ な 声 を か けて く れ た 。 常 三 は 見 習 い て 、こ ん な こ と や っ て ら れ っ かと い う横柄な態度であたりちらしていた。 社員で受付の担当なのに、なぜかゴ みだ。 津田 君は水泳が好 きで 、仕事 の あ 「 青 田 のあ の 態 度 は 今 に 始 ま っ た こ かが電話を取ってくれるという仕組 と 良く都内のプールに水泳に行 った。 部長は憤り、しかし別に手伝っては 常三 に 別 に文 句はな い のだが 、青 田 仕事で お 金をも ら って い る のだか ら ミの片づけと掃除をやらされている。 で 常三 は よ く 将 棋 を や っ た 。 控 室 は くれな か った。常三 の給料 は月に十 青田部長とは、受付の後ろの控室 とでねえよ」と若手の阿部君。 たまっ た。プールの 水が耳に入って ちょっとしたたまり場になっていた。 万 円 を 超 え 、 学 校を 出 た ば か り の 常 っていた。そのせいかよく耳に水が 「 泳 い だあ と き も ち い い か ら 」 と 言 たまったというと、鼓膜に穴があい 2畳ほどの畳の間で、囲碁や将棋の 三 は ず い ぶ ん 大 金を も ら っ た よ う に セット、 「がんばれ元気」全巻や、各 社 の週 刊 誌 な ど が お い て あ っ た 。 週 思った。本とレコード以外に趣味が い。プールでからだを冷やしたせい で 、 鼓 膜 の 内 側 の 中 耳 に 炎症 を 起 こ 刊 サ ン ケ イ の 表 紙 は 白 人 女性 の 水 着 て い る よ う に 聞 こ え る が そ うで は な し、水 が たまるのだ 。津田君は、そ し た 。 右 翼 の襲 撃 に 備 え て 、 五 時 に な い 常三 に は 使い 道がな か ったのだ。 編集長の津田さんは、小柄でまじ 常 三 た ち ア ル バ イ ト の受 付 が 帰 っ た のことが多く、 「サンケイは対米従属 め一方 の固い 男と い う 印象 。常三 は 寝 泊 ま り し た 。 青 田 部 長 はそ の 後 、 あと、若手社員たちが交代で宿直で だ」な ど と 、 常三も 冗 談を 言 っ た り アルバイトの校正者、印刷屋の営業 後 に 雑 誌 編 集 部 に 回 さ れ たあ と 、 編 の 人 柄 のせ い で 友 達 が 多 く 、 出 版 社 部 員な ど と 親 し く 口 を 利 い て い た 。 集 会 議 に も 出 た が 、 津 田 さ ん は冗 談 にやってくるデザイン会社、製本屋、 は腕がいいんだといって、耳鼻科を デザイ ン会社の人が 、あすこ の医 者 を切開して水を出してくれた。もう 紹介 して くれ た。医 者はすぐに鼓 膜 引っ越したとき、津田さんは一生懸 員には信頼されていた。後に会社が 一つい わ ず、会議を すすめ たが 、 部 こ と が あ る 。 若 手 社 員 の 評 判 は悪 か 事で出かけたとき、階段で出会った 常三 が そ の後働いて い た出版 社 の 仕 系列の取り次ぎ会社に配転になって、 っ た が 、 常 三 が 将 棋 の相 手 を し た の 命、机やイスやロッカーを運び、編 集長と い う 偉ぶ ったと ころ は 少しも 君は偶然編集長と同じ名前なので、 友 達 の 電 話 が 何 度 か 編 集長 に つ な が 何回も切っているのだという。津田 ふみの会ニュース(7) 紀 伊 半 島 南 部 ― ― 南 紀 の自 然 は 私 に退任されたばかりだった。それで、 長 の 仕 事 を さ れ 、二 〇 〇 五 年 一二 月 四歳の原さんは八期三十二年間も市 を 通 る 。 潮岬 で は 、 奥 さ ん の 方 が お づ く と 大 島 が 見 え 、 橋 杭 岩 の直 ぐ 側 こ の 間 、 海 岸 線 が 美 しい 。 串 本 が 近 影をして、バスで潮岬へ向かった。 したのだが、途中で通行止めがあり、 一 六 九 号 線で 五 条 か ら 熊 野 市 を 目 指 ん の自 家 用 車 に 乗 せ て も ら い 、 国 道 完 治 夫 妻 の三 人 を 案 内 し た 。 嶋 倉 さ 中井 豊 の故郷といってよい土地である。北 強 行 軍 にな ら ぬ よ う 、 和 歌 山 駅 か ら 大 台 ヶ 原 へ 行 く 道 か ら 小 処温 泉 へ の 南 紀 部以外 は 太平洋に面 し、海 岸線か ら 元気 で 、 展 望 タ ワ ー か ら の 眺 め を 楽 初日は、勝浦に到着して直ぐ、魚 紀伊勝浦駅まで特急列車に乗ること 貝 料 理 の鳥 羽 山 魚 店 で 昼 食 。 口 の 肥 狭 い 平 地が あ る だ け で 、 陸 地 は す ぐ 色 に 澄 んで い て 、 山 は 多 く の 沢 や 広 え た 原 夫 人も 、 こ こ の 鮪 の 刺 身 と ミ 熊 野 市 で は 新 鹿 の地 に 立 ち 寄 り 、 道を 迂 回 。初 めて 雪 を 被 っ た 大 普 賢 大な 原 生 林 に 恵 ま れ た 大台 ヶ原 ・ 大 ンク 鯨 の刺 身 は喜 ん で 下 さ っ た 。 そ 魚問屋・ハマケン水産にて「さんま し ん で おら れ た が 、 原 さ ん は 少 々 疲 峰 山 脈 へと 連 な る 。 い ず れ も 一 五 〇 れ か ら 、勝 浦 港 に 出 、遊 覧 船 に 乗 っ 寿 司」 を 昼 食 に し 、 味 噌 汁 を サ ー ヴ にした。 〇mを超す山々を擁し、八経ヶ岳(一 て 「紀 の松 島 め ぐ り 」 だけ し た 。 島 ィ ス し て も ら い 、 秋 刀 魚 の 干 物な ど わや) 」を眺めた。いずれも「七里御 まざまな思い出がある。 岳 ( 一 七 八 〇 m ) を 望 む こ と がで き 九 一五 m )を 最 高 峰 と す る 。 陸 地 は めぐり の後は、勝浦を少し離れた夏 を買った。ここは天日で乾燥させた れ た 様 子 だ っ た 。 天 候に 恵 ま れ た の 若々 し く 、 現 在も 太 平 洋 プ レ ー ト に 山 (な つ さ ) 温 泉 の 旅 館 ・ も み じ 屋 干物がお目当てであった。そして、 た。この山は何度も登っていて、さ 押し上げられているらしい。そのた で 一 泊 。 こ こ の 温 泉 を 楽 し んで い た 午 後 の 陽 を 受 け な が ら 、私 達 は 木 ノ こ の春 に は 、 松 原 静 司 さ んと 嶋倉 は幸いだった。 め、温泉も豊富だ。 だいた。ここは純粋な天然泉で、泉 昨 年 の 秋 、 南紀 へ 行 っ た 時 は 、 前 本で獅子岩を、有馬で「花の窟(い 岸 和 田 市 長 の原 曻 さ ん 夫 妻 を 案 内 す る旅だった。一九二二年生まれで八 二 日 目 は 、 那 智 の滝 の 前 で 記 念 撮 質は当たりが柔らかい。 に 山 に な る 。 大 海 原 は 果 て しな く 鋼 ふみの会ニュース(8) の同級生で、薬局を経営している。 馳 走 に な っ た 。 中 根 さん は 高 校 時 代 夕 食 は 串 本 の中 根 千 穂 さ ん 宅 で 御 岩 と 海 し か な い 。明 るい 春 の 日 射 し な 露 天 温 泉 だ 。 桟橋 と 脱 衣 場 の 他 は の真下まで海の波が寄せている豪快 ないが、 「らくだ岩」に面した岩風呂 に入った。ここへは渡船でしか行け 翌日は勝浦へ戻り、 「らくだの湯」 晴れ渡っていた。 残っていた。この時も南紀はずっと はできなかったが、山桜はちらほら た。今年 の桜は遅 咲きで 、見るこ と っ た 。 男 ど も は ず っ と 酒 を 呑 んで い 浜」と い う 美 しい海 岸に隣 接する 名 今 回 も 御 主 人 が 新 鮮 な 「 も ち 鰹」 を を 浴 び な が ら 、 熱 め の温 泉 を 楽 し む あると後で知った。次回は三味線の オーストラリアでも演奏したことが を聴かせてくれた。彼女はドイツや 藤好 見 さんがいて 、 す ばら しい 演 奏 中に、琴のお師匠さんをしている佐 る同級生を五人も集めて待っていた。 に呑んだ。実は、勝浦は観光地であ くれるので、男三人は大喜びで大い た。帰路の運転は嶋倉夫人がやって の漬 物と 酒盗 一瓶 は サ ーヴィ スだ っ 刺 身 を 昼 食 に たら ふ く 食 べ た 。 白 菜 か み さ ん と 談 笑 しな が ら 、 鮪 や 鯨 の 温 泉 の 後 、 や は り鳥 羽 山 魚 店で お も 、 ま だ ま だ 発 見 が あ り 、 出 会い が 所だ、と思ってしまう。何度訪れて してしまう。旅するなら南紀に似た に 行 っ て も 、 南 紀 に 通 じ る も のを 探 藤 春 夫 を 思 う 。 鹿 児 島 や 高知 や 伊 豆 …。秋刀魚や柚を手に入れては、佐 干 物 に 、蜜 柑 に 、 め は り寿 司 に 、 … 光に、海に、山に、温泉に、鮮魚に、 を 誘 っ て は 南紀 を 案 内 す る 。あ の 陽 弾き唄いで「地唄」を聴かせてくれ る た め 、 良 心 的 な 店 は 多 くな い の で ある。登山で山深い地域に入ること 勝である。 捌いてどっさり刺身にして下さる。 ことができた。 こ のよ う に 、 若 い 時 分 か ら 私 は 人 これは絶品である。彼女は地元にい ると い う こと だ っ た 。 室宣 行 さん は ある。 ァイオリンを弾いた。そして、室さ 稲田商店で「ヒロメ(ワカメ) 」の出 周参 見で 夫婦 波を 眺 め 、切目駅前 の らすことは出来ないのである。 はあっても、海の見えない土地で暮 和 歌 山 ( 海 南 ) の 銘 酒 「 黒 牛」 を 持 ん の 世 話で 、 朝 日 を 背 に し た橋 杭 岩 来を尋ね、 「とんぼトマト」などを買 帰りは国道四二号線を走り、途中、 を正面から見ることのできる宿に泊 ってから阪和自動車道(高速)に乗 参して歓待してくれた。私たちはヴ まれることになった。 ふみの会ニュース(9) 街中の似顔絵師 (十一) 瀧本 文彦 「こ の ま ま撮ればい い んで すね。 い 道商 店 街 を 歩 き 五 重塔 通 り を 歩 い た 。 道を 歩 い た 。 浅 草 寺 を 左 に 折 れ 西 参 だけ鮮 明 に憶えて い る 。俺 はも っと 『 踊 子 』を 読ん で こ の部 分 の 文 章 ました。…… いカメラですねえ」 間口 の 狭 い商 店や 飲 食 店が 並んで い 浅 草 寺 の 雷 門 に 妙 子 さんと 向 か っ た。休 日 の春うらら 、 大勢の観光 客 「其の ままファインダーを覗いて シ 六 区 ブ ロ ー ド ウ ェ イ を 歩 いて い る で賑わしい。外国人の観光客もちら などが点在している。永井荷風はこ と 二 人 の的 屋 に 出 会 っ た 。 一 人 は 地 刺戟的 な 経験を したぞという訳 だ 。 と 言 っ て 大 提 灯 を バ ック に 僕 と 並 ん の辺の劇場やカフェーに入り浸り べ た に 座 り 、茣 蓙 に 大小 さ ま ざ ま な 何の自慢にもならぬ話であるが。 大提灯に風雷神門とでかく書いてあ だ。僕と妙子 さんが 寄り添 った。僕 『 踊 り 子 』 や 『 勲 章 』を 書 い た の だ 人形を並べていた。指人形で何か口 る 。右 に 折 れ 六 区 ブ ロ ード ウ ェ イ を る。 の腕 に 妙 子 さん が 腕 を 絡 ま せ た 。 僕 ろうかと思いながら 妙子 さんと 歩 き 上を述べていたが何と言っていたか 歩くと大衆演劇場や映画館や遊園地 「僕は風来人門と此のでかちょうち は嬉しくちょっと照れくさい。 な が ら 浅 草 情 緒 を 楽 し ん だ 。『 踊 り 忘 れ た 。 丸 顔 の 日 に 焼け た 禿 げ た 頭 ャッターを押していただければいい ん に 書 き たい な あ 。 フ ー テ ン の寅 さ 「はい、ポーズ」 子』の初めの部分の文章を思い出す。 です。オートにしていますから」 んの風来ですよ。風来坊ってねえ… とおじさんが言ってカメラを構えた。 い ち ょ う ち ん を 妙 子 さん と 仰 ぎ 見 た 。 …」 的屋 香( 具 師とも 言う の) 口上とい え ば 寅 さ ん 、 車 寅 次 郎 の口 上 は 映 画 で 目 の気 の よ さ そ う な 的 屋 さ ん だ っ た 。 のまま 公園に居残 って レビューを や お馴染み。 に鉢巻をしているちょいと二重の出 る芝居小屋をあちらこちら一円でも ― ― 結 構 毛 だら け 猫 灰 だ ら け 。 見 ――わたしは活動小屋で一緒にな ん の 体 温 が 僕 の 腕 に 伝わ り 僕 の 肩 に 給金の多いところ へと渡りあるいて 上 げ た も ん だ よ 屋 根 屋 のフ ン ド シ 。 っていたバンドの連中とともに、そ 頬をつけているように思った。 い た の で す 。舞 台 下 の楽 座 か ら 踊 子 見 下 げて 掘 ら せ る 井 戸 屋 の 後 家 さ ん 。 顔 を つ く り ポ ー ズを と っ た 。 妙 子 さ 「いいですか、はい……」 が何十人と並んで腰をふり脚を蹴上 上 が っ ちゃ い け な い お 米 の 相 場 、 下 僕はちょっぴり緊張しちょっぴり笑 光客の一人にカメラを差し出し、 バシャ! げて 踊 る 、そ の股 ぐ ら を 覗 きな が ら 反応無し。クスッと笑ってくれると 「 済 み ま せ ん 、 シャ ッ タ ー を 押 し て 「ありがとう」 ヴァイオリンをひいているのも、初 思ったのだが。 いただきません」 た。 と お じ さん に妙 子 さ ん が お 礼を 言 っ 和 菓 子 店 、 は っ ぴ 等 を 置いて い る 着 か い 身 空 に は 言 い が たい 刺 戟 が あ り 映 画 の 伴 奏 を す る よ りも 、二 十 の わ め のう ち は ま ん ざ ら 悪 く はな か っ た 。 物 の た と え に も い う だろ う 。 物 の 始 乗ってみろ人には添ってみろってね。 がっちゃこわいよ柳のお化け。馬に 妙 子 さ ん は 目 の 前を 通 り 過 ぎ る 観 「いいで すよ。大提灯を バック に 撮 と 言 い 、 カ メ ラ を 持 ち シャ ッ タ ー の 物 屋 、 和 装 小 物 屋 が ずら り と 並 ぶ 参 りますか?」 場所を確認している。 雷門から仲見世に行った。土産屋、 と頼んだ。初老のおじさんが と 妙 子 さ ん の 顔を ち ら り と 窺 っ た が ほら見られた。雷門のばかでかい赤 ふみの会ニュース(10) しの第一号が熊坂長範。巨根 で(かい 「 紙 風船だけ の店…… お買い下 さい 。 ーモア作家の及ぶところで はない 。 上 に を い て は 、と う て い わ れ わ れ ユ つだ。おもわぬ収穫がある。その口 次るのは誰だ 。)夜店をていねいにの ぞいてみて廻る面白みは、又かくべ 神農ともいう。 (極東三浦連合会機関 を神農道と呼び、神農道の具現者を と 仰い で お り 、 稼 業 に 専 念 す るこ と 農 皇 帝 ( 炎帝 神 農 ) を 稼 業 の 守 護 神 ていけるものではない。我々は、神 柱 か 信 念 で も な い 限 り 、と て も や っ ば な ら な い 。 よ ほ ど 強力 な 精 神 的 支 風吹きすさぶ路傍で商売をしなけれ の の)手本が道鏡なら覗きの元祖は出 っ歯で 知 ら れ た池 田 の亀 さ ん 出 歯 亀 さうして、お家へおかえりになって、 まりが一なら国の始まりは大和 の国。 さん 。 兎を呼んで も 花 札にな ら な い マ ダ ム と 一 緒 に お つ き 下 さい 。 ふ く 四谷赤 坂 麹町 、チャ ラ チャラ 流れ る お千、お千ばかりが女じゃないよ、 光 結構 東 照 宮 、 産で 死 ん だ が 三 島 の 街のカ ブ。憎まれっ子世に憚る、日 す。糸につられてゐる身では、泣き チョコ チョコ 、蟹は横 へと はしり ま いふのじゃありませんよ。」「チョコ そ の 方 が 風 船 だな ん て 、こ れ は 僕 が らます時のあなたの顔。マダムの顔、 の価 値 も 権 利も な い も のだ 。 大 正 時 場」 と い うも のに は 、行 政 的 に は 何 守 す べ き 地 上 の 権 利 で あ っ た 。「 庭 勢 力 争 い は 、 彼 ら の 死活 を か け た 死 的 屋達 の 場 所 取 り 、 庭 場 を め ぐ る 紙『限りなき前進』より) 泥棒の先祖は石川五右衛門なら人殺 に八つぁんお座敷だよと来りゃァ花 が、兄さん寄ってらっしゃいよ、く お茶の水、粋な姐ちゃん立ち小便、 代 に は 庭 場を め ぐ る 縄 張 り 争 い で 流 血 の 惨 事 が 多 く 繰 り 返 され た 。 シ ョ 羅ですまして走ってゐる。ひとつ買 って、ひっくりかえして見たら、身 も 嘆 き も い た し ま せ ぬ 。 赤い 布 の 甲 んに不動の金縛り、捨てる神ありゃ がない。おやじゃ曰く、月夜にとれ バ 庭(場)は彼らの経済基盤そのもの だ 。 他 の 組 に ショ バ を 奪わ れ たら 、 蓄音 機 、 弱 っ たこと に は成田 山 、 ほ 拾わぬ神、月にスッポン提灯じゃ釣 た蟹ですからね」 し(ゃれたおやぢだ 。) 驚き桃 の木山椒 の木 、ブリキに狸 に が 無 え 、 買 っ た買 っ た さ ァ 買 っ た 、 …… 制の基本となるのは、民族宗教的な 香 具 師 の 社 会 的 連 帯 性 や 、 集 団統 への恐怖心と緊張感が彼らを一段と かかわる問題である。そういう生活 かも知れない。彼らにとって生死に ろか、根こそぎ叩き出されてしまう 自分 の組のシェアは へる。それど こ カ ッ タ コ ト 音 が す る の は 若 い 夫婦 の 要な 盃 事 の儀 式に は 、 必 ず 床 の 祭 壇 祖 「 神 農 黄 帝 」で あ る 。香 具 師 の 重 タンスの管だよ。…… 的屋たちと交際していたサトウ・ハ し た 。 新 宿 の通 り に は 、夜 店 が な ら ― ― 夜 にな り ま し た 。灯 が つ き ま ― ― 我 々 の 稼 業 は 過 酷で あ る 。 夏 っとった、厳粛な儀式が行われる。 其 の 前 で 、 古 来 か ら の 格 式作 法 に の に 「 神 農 黄 帝 」 の 掛 け 軸 を 掲 げて 、 はいえ、基本的な性格では同じであ の競争と は表面上 の見え方は違うと いは近代企業である銀行やデパート こ と が 多い 。 此 の シ ョ バ を め ぐ る 争 エスカレートさせ抗争に駆り立てる 夜店のメッカであった浅草を愛し、 チ ロ ー の『 僕 の 東 京 地 図 』 に 次 の よ び ま し た 。 僕 は 、 小 さい 時 か ら 夜 店 は砂ぼこりの炎天下に立ち、冬は寒 うな一節がある。 が好きだ も(のが安いからなァと、弥 ふみの会ニュース(11) る。 (つづく) 中 に 一 人 の 少 女 が い た。 歌 も 演奏 も 後ろにいる彼に気付いて、 蒲原直樹 混 沌 駅 前 のダ ブ ル デ ッ キ は スト リ はよく、長い髪をピン止めして背中 そ れ ほ ど う ま く な か っ た が ル ック ス 歌姫伝説 ー ト ミ ュ ー ジ シ ャ ン のメ ッ カ だ 。 フ だろ?……こっちにおいでよ」 「キミ、ひとみちゃんのファンなん 混沌市凡日録 26 ォ ー ク デ ュオ 『 ゆ ず 』 が こ こ か ら 出 リ ジナ ル を ひ た む き に 歌 う 姿 勢 が 好 を丸め、ギターを抱くようにしてオ した。そこへ純一がやってきた。 「やめろよ、その人に触るな!」 「なにを、この野郎、やる気か」 ましかった。たちまち数人のファン (オレって、なんて意気地がないん った。その後で彼は、 と呼んだが、純一は逃げ出してしま 「なんてこと すんのよ!……警察 呼 て少年を助け起こした。 石の上に倒れた。ひとみは駆け寄っ ひ ょ ろ ひ ょ ろ の 少 年 は 吹 っ 飛 んで 敷 酔 っ 払い は 純 一を 突 き 飛 ば し た 。 ージシャン志望の青年たちが集まっ に小さな輪を作るようになった。 彼 女 は 名 前を 名 乗 ら な か っ たが 、 が つ き 、週 末 の ダ ブ ル デ ッ キ の 一 角 ミュー ジシャ ンのH ITOMIに 似 携帯を出して本当に110を押した。 も、渾沌市はミュージシャンを規制 し 始 め た 。 ア ー チ ス ト 登 録 しな け れ になり 、連日の炎天で 夕方から 演奏 「 も し も し 、 混 沌 駅 のダ ブ ル デ ッ キ そ の 彼 に 転 機 が 訪 れ た 。 夏 の盛 り ひ と み は ジ ー ン ズ のポ ケ ッ ト か ら ぶからね!」 ば歌えない、アンプ類を使ってはな ているというので「ひとみちゃん」 で暴力事件です」 だろう)と後悔するのだった。 らない、駅の構内では演奏しない、 りの酔っ払いがからみだしたのだ。 を始めたひとみに、ビヤガーデン帰 そ の ひ と みを 、グ ル ー プ の 輪 の 外 と呼ばれた。 「 あ 、 歌 え な い で す 。わ た し 、 自 分 て、本当にうれしかった」 「 あ り がと う 、 あ な たが 助 け て く れ いはあわてて逃走した。 ひ と み が そ う 話 し 出 すと 、 酔 っ 払 の歌だけなんですよ」 ってくれよ、欧陽菲菲でもいいや」 喘息もちなので運動部に入れず、特 「いいじゃねえか、 『つぐない』をさ い純一の手を取って、ひとみが話し 「 ね え ちゃ ん よ う 、 テ レ サ・ テ ン 歌 に 本 が 好 き と い う わ けで も な い の に かけた。純一はボーッとして聞いて 混沌第 一高校文芸部 の浦澤純一だ 。 文芸部に所属している彼は学校でも あ、オレ、好きなんだよ」 い た 。 ぽ つ ぽ つ と ひ と みフ ァ ン が 集 か ら 熱 い 目 で 眺 め て い る 少年 が い た 。 ミュージシャンたちはたちまち混 「そんな古い歌、知らないですよ」 ビ ル の 壁面 に 大 画 面 の デ ィ ス プ レ イ 沌 駅 を 敬 遠 す る よ う にな っ た 。 以 前 自宅でも居場所のない少年だった。 「 古 い ?… … テ レ サ ・ テ ン が 古 い っ なに言ってるんだよ、みんな を 褒 め 称 え た 。 そ の 日 か ら 純 一も グ まり、 話を聞い た彼ら は口々 に純 一 ャルを流し始めた。 は毎日演奏していた彼らも、今では す ぐ に 混 沌 駅 の 「ひ と み」 を 好 き に H I T O M I のフ ァ ン だ っ た 彼 は 、 知ってるぜ」 ル ー プ の輪 に 入 る こ と が 出 来 る よ う て? 最初は丁寧に応対していたひとみ にな っ た。ダ ブルデ ッキ の一角に 座 厚 い 近 視 メ ガ ネ に コ ン プ レ ック ス が あり、女の子と話もしたことのない だったが、しつこくからまれて沈黙 なった。しかし痩せて貧相な体と分 そ れ で も 土 曜 に な ると ダ ブ ル デ ッ 彼 は 、 告 白 す るど こ ろ か グ ル ー プ の わ ざ つ ぶ し た 市 当 局 の頭 の 中 身 が 疑 キ のあ ち こ ち で 演 奏 が 始 ま る 。 そ の われる。 腰を打ってなかなか立ち上がれな け に な っ た 。 町 おこ し の 目 玉 を わ ざ 週 末 に 数組 が ほ そ ぼ そと 演奏 す る だ を設置して一日中大音響のコマーシ ん じ が ら め に し た 。 おま け に そ ご う その他の規則を作って若者たちをが て く る よ う にな っ た 。 し か し愚 か に あ る 時 、グ ル ー プ の 一 人 が い つ も 輪の中にすら入れなかった。 り 、 県 内 だ けで な く 、 全 国 か ら ミ ュ て メ ジ ャ ー にな っ た こ と で 有 名 に な ふみの会ニュース(12) と 、 純 一 は 「 生 きて い て よ か っ た 」 い 顔を 眺 め 、 そ の 歌 声 を 聴 い て い る り 込 み 、 一番 近 く か ら ひ と み の 美 し 「まあジュンちゃん、珍しいねえ、 るとひとみは驚いて顔を上げた。 「ひとみちゃん!」純一が呼びかけ るひとみを発見した。 ゃんを守るよ」 だから 。今度からボクらがひと みち 歌っておくれよ、みんな待ってるん くるよ。それでひとみちゃん、また 「 ボ ク んち に ギ タ ー あ る か ら 持 っ て 一は猛烈に腹が立った。 いほど舞い上がった。 通って自宅に帰ったのか思い出せな 入れた純一は、嬉しくてどこをどう の 住 所 ・ 携 帯番 号 ・ メ ル ア ド を 手 に ギターの預り証と一緒に、ひとみ 「そんな、わるいよ」 場所に移動してしばらく続き、純一 のストリート・ライブが目立たない ないかな……」 と心から思えるのだった。 「珍しいじゃないよ、探したんだよ、 こんなところで会うなんて」 遠慮 するひと みを 説き伏せ、純 一 喧騒 の夏が過ぎ、秋風が吹き出す ど う し て 歌 わ な くな っ た の ? … … み は 急い で 帰 宅 し 、 押 入 れ の 中 に 眠 っ それからDー28を持ったひとみ 頃、ひとみがストリートに現れなく 「それがねえ……」 んな心配してるよ」 の幸福 な 時間が 過ぎ た。ダブルデ ッ デッキに集まって「どうしたんだろ キ に 寒 風が 吹 く 頃 に 街頭 ラ イ ブ は 休 なった。ファンたちは主役のいない り 出 し た 。 彼 は 中 身 も 見 な いで そ れ 止 に な り 、 舞 台 は ラ イ ブ ハウ ス に 移 て い た 父 親 の ギ タ ー ケ ー スを 引 っ 張 ているベンチに座った。 を ぶら 下 げ 、 今度は 電車で 丸子 駅 に 二 人 は 駅 前 ロ ータ リ ー に 設 置 さ れ の?」と話していた。それが三週間 「ギターを盗まれた?」 う 」「 風 邪 で も ひ い た ん じ ゃ な い たつ と さ す が に み ん な 本 当 に 心配 し った。純一には月一回に減ったライ 連絡が 取 れな くな っ た。純一は新 春 になり、ひとみは帰省したらしく、 ブ が 待 ち 遠 し か っ た 。年 末 か ら 新 年 ひ と み は恐 る 恐 る そ れ を ベ ン チ の 上 来 た 。そ して 待 って い たひ と みに 、 で開けてみた。 「 は い 」 と ギ タ ー ケ ー スを 渡 し た 。 最後のライブをやった日、荷物を みは沈痛な面持ちで応えた。 片 付 け て い ると い つ の 間 に か ギ タ ー からのライブ復活を期待していたが、 「そうなの……」純一は驚き、ひと が な か っ た 。 家 を 訪 ね る にも 住 所 は 「すごい……」ひとみの目が輝いた。 して、 そ れ は な かな か 始 ま ら な か っ た 。 そ 始めた 。しかし携帯番号もメルア ド も ち ろ ん 正 し い 氏 名 も わ から な い の がケースごとなくなっていたという。 「なんだか、高いギターだって言っ も誰も知らないので連絡のとりよう で は 探 し よう がな い 。 み んな 途 方 に てたけどね。使ってないんだから持 くなっちゃって……」 「それ 以 来、混沌に 行 くこともこ わ 手に入らないほどのレアものだ。 代に作られ、今なら百万円出しても ア ン テ ィ ーク ギ タ ー だ っ た 。 六 ○ 年 純 一 は 歯 噛 み し た 。脅 迫 状 が 女 文 な い け ど 、 次 の ギ タ ーが 買 え る ま で た い 気 が す る わ 。 貰 う わ け に はい か 「このギターとなら、また歌ってみ ルデッ キ の片隅に渋 谷のハチ公のよ それでも毎週土曜日になると、ダブ ァ ン サ ーク ル は 解 散 状 態 に な っ た 。 てもひとみは帰ってこず、ひとみフ 純 一 は 信 じな か っ た が 、 春 に な っ 「そんなバカな!」 きた。 と い う あ ま り嬉 し く な い 噂 が 流 れ て 「ひとみは実家に帰って結婚した」 楽 譜 や 詩 集 ノ ート の 入 っ た 大 事 な 袋 ってたってしょうがないよ」 も 消えてい た。それ だけで はな く 、 手がかりは一つだけ、ひとみが一 『 二 度 と 混 沌 駅 に 来 る な 』と い う カ くれた。 五 ○ 円 のJ R 切 符 を 買 い 、 丸 子 方 面 されていたという。 ミ ソ リ の刃 が 同 封 さ れ た 脅 迫 状 も 残 日 、 自 転車 で 丸 子 駅 方 面 を 探 し に 出 それ はマーチンのDー28とい う た 。 浦 澤 純 一 は そ れ だけ を 頼 り に 休 行き下 り 電車に乗るということ だ っ かけた。渾沌市納戸ヶ谷町から足賀 字だったことを考え合わせると、ひ うに一人でぽつんとひとみを待ち続 「ひどいことするなあ……」 ば丸子 駅 だ。こ の登 り はかな りき つ 使わせてもらうってことで、いいか 沼 沿 い の 農 道を 走 り 、 公 園 坂 を 登 れ い。それでもひとみに会いたい一心 な?」 ける純一の姿があった。 ル ー プ の 犯 行 だろ う 。 そ ん な こ と で 「 そ れ で い い よ 。 親 父も 喜 ぶ ん じ ゃ と み の 人気 を や っ か ん だ 不 良 少 女 グ のべにして七日目、十月の始めに 純一は丸子駅前コンビニから出てく ひ と み に 会 え な く な る な んて 、 と 純 で純一は懸命にペダルをこいだ。 ふみの会ニュース(13) リノの風 タ ロ は き り り と し っぽ を 巻 き 上 げ ② お じ い さん は リ ノ の 返 事 を 待 た な リノは素直に聞きたくなるのだ。 まるでコーチのようだ。そして、 ようにして走るんだ!」 蒲原 ユミ子 あえいでいるが、とても嬉しそうだ。 る 。 リ ノ はこ ん な ふ う に 1 0 0 パ ー リノ はボ ールを 投 げる。タロが 走 リノの目を見て一途に走りよってく セント頼られて見つめられるのは初 る 。 リ ノ は 土 手を 駆 け 上 が る 。タ ロ 「 て ボ ー ル を 拾 い 、こ ん ど は リ ノ に ボ の遠 く に 放 っ た。タ ロ は夢中で 走 っ リノ はボ ールを受 け取ると 、土 手 首筋をたっぷりなでてやった。 ノ に 飛 び つ い た 。 リ ノ は タ ロ の頭 や をち ぎ れ るほど 振って 走りより、 リ 「 れて土手で待っていた。 そ ん な 中 、 お じい さん は リ ノ に 目 ー ル を 返 す 。 リ ノ は 草原 や 土 手 を 走 リノ は走りよった 。タロはしっぽ を と め て い た の か 。 リ ノ は照 れ く さ って場所をあちらこちらと変え、タ お じ い さ ん が ボ ー ル を 投 げて よ こ なほど気持ちよくなる。 した。 「 「ももを意識して、高く振り上げる も ち ろ ん 、 リ レ ー で は走 れ な か っ と、ほめてくれた。 「春の突風のように速く走れたな」 任の秋田先生は、 大きく引き離して1等賞だった。担 百メ ート ル走で は 、リノ は2位 を だった。 それから1週間後が、春の運動会 速く動いていくような気さえする。 か、おじいさんの声に合わせて足が し も い や で はな か っ た 。 そ れ ど こ ろ おじいさんに命令されてリノは少 だ!」 も も を 高 く 、も っ と 高 く 上 げ る ん 「走れ、走れ、もっと速く! おじいさんが叫ぶ。 リノはまたボールを投げて走る。 めてで、夢中でタロの相手をしつづ っていた。おじいさんが声をかけた。 いつ のまにか、夕暮れがしのび よ が ボ ー ル を く わ え て リノ に 走 り よ る 。 タロ、走ってくれる相棒が見つかっ にかなわないのに、タロを追って足 を 駆 け 上 が っ た 。 リ ノ はと て も タ ロ けた。 いで、土手にボールを放った。 い つ も 土 手を 走 って い る おじょ う は走り出していた。 タ ロ は ボ ー ルを 口 で 拾 う と お じ い 「じゃあ、またあした走ろうや」 リ ノ は 驚 い て お じ い さん を 見 た 。 こ と な ど が ど こ か に 吹 っ 飛 んで い た 。 リノ は大きくうな ずい た。体中 ま で ボ ー ルを 受 け 取 る と 、 リ ノ に 投 げ んぞくして、学校であったくやしい た。 さん のところ へ走 り もど った。お じ さんには気がつかなかった。それに、 好きに遊んでいいよ。でも、なるべ い さん は 監 督 の よ う に 慣 れ た 手 つ き こ の 土 手 は 近 く に あ る 大 学や 高 校 の く土手を駆け上がるようにしてごら ばさんが多いので、リノにはおじい お兄さんたちがよくトレーニングに 次 の 日も 、 お じ い さ ん は タ ロ を つ 走っている。おばさんやおじさんも んよ」 い よ う な 恥 ず か しい よ う な 気 持 ち に ロ か ら な る べ く 離 れ て ボ ー ルを 受 け 取るようにした。 タ ロ は ハ ッ ハ ッ ハ ッと べ ろ を 出 し うちのタロと走ってみるかい。タロ も喜ぶし、あんたの足も強くなる」 タ ロ が 満 足 す ると 、 リ ノ も 不 思 議 自信ありそうに言った。 な り 、 ま ご ま ご し た 。 お じい さん が けっこう遊びに来る。 健康のために走っている。子どもも こ の 土 手 は 犬 の散 歩 の お じ さ ん や お だまだ、だ」 さんだね。いい足をしてるけど、ま タロはボールを追って力強く土手 たぞ!」 「 た。 お じ い さん が リ ノ に 話 し か け て き ざかりのようだ。 た 柴 犬 で か し こ そ う 。 ま だわ ん ぱ く ふみの会ニュース(14) いてくれるから。 土手での楽しい時間がリノを待って どうでもよくなっていた。放課後、 た け れ ど 、 リ ノ はも う そ ん な こ と は 「けい古に決まってるじゃない」 「あんたこそ、なによ」 「何してるの、こんなところで」 いた。 アヤだった。アヤは目を見張って聞 な い 。 リ ノ が き ょ ろ き ょ ろ 屋 敷を 見 いて い るが、高すぎて リノ には見 え の中をのぞこうとした。格子窓は開 けがない。リノは伸び上がって道場 も ち ろ ん 、 タ ロ に こ たえ ら れ る わ 「 先 生 、 け い こ を つ けて も ら い た い したけれどすぐ笑顔を作った。 そうに話しているのを見ていやな顔 ヤが出てきた。リノが男の人と親し リノ が驚いて いると 、 道場から ア と 言 う な り 、 アヤ は す ぐ い そ が し そ 「ふうん」 さがしてるとこ」 「あたしはちょっとしりあいの家を ノのほうにやって来る。リノはあわ らい のようで 格好い い 。まっすぐリ は い て いて 、 す ら り と 背 が 高 く さ む した男の人が出てきた。紺色の袴を まわしていると、中からひげを生や 「きみたち、もしかして姉妹かい」 見比べて聞いた。 う 顔を し 、 リ ノ と ア ヤ の 顔を 交 互 に 先生はアヤを見て、 (あれ?)とい んですけど」 土 手 の 緑 が 濃 く深 く な り 、 夏 至 も 待っていたが、二人はなかなか現れ うにすたすたと行ってしまった。リ アヤは仕方なさそうにこたえた。 リノが土手でタロとおじいさんを まもなくというある日のこと。 なかった。 は聞いた。 てて ぺこりとあい さつした。男の 人 「ええ、妹です。あたしたち双子だ しい。リノはアヤの後姿を見送った。 ノ の知 り 合い に は き ょ う み が な い ら れるんです」 けれど、あまり似てないとよく言わ リノは正直に言った。 「おじょうさん、何か用かい」 リノは一人で土手を駆け上がった け て 入 って い っ た 。( あ そ こ が 道 場 ア ヤ は す ぐ 先 の 古 び た 屋 敷 の 門を 開 り、側転したりして遊んでいたが、 どうにもつまらない。 太陽 が遠い 山 の尾 根に近づいて い リノはアヤがめいわくそうにしてい 先生は目を見張って二人を見てる。 ちなんで す。きょう はおじいさん が るので、早いところ病院の場所を聞 「あ た し 、タ ロと お じい さんと 友 だ 土手にやって来ないので心配で来て いて帰ろうと思った。 まもなく、 「ワンワン!」という聞 か)とリノは思った。 きなれた鳴き声が聞こえてきた。 みたんです」 それでも、来ない。今まではこん く。 なことなかった。本物のコーチみた (あれ? タロの鳴き声みたい) 戸をそっと開けてのぞくと、庭の奥 「 お じ ょ う さん か 、 お じい さん の コ た。 人は眉をくもらせて言った。 教えてください」 先生はうれしそうにうなずいた。 日曜 日、リノ はお じい さんがい る 病院へ行こうと準備していた。ちゃ んと マ マ から お見舞 い の花も 用 意 し てもらってある。 さ倒れて、今は病院なんだ」 「わたしもいっしょに行くわ」 てきた。 玄 関 を 出 よ う と す る と 、 アヤ が 出 「えっ!」 「おじいさんは心臓が悪くてね。け 「おじいさんが入院している病院を い に き ち ょ う め んな お じい さん だ っ に犬小 屋がある。リノを見つけ たタ ーチの相手になってくれたのは。お 男の人はほっとやさしい顔になっ リノ は心配で たまらな くな り、 お ロが尻尾をち ぎれんばかりにふった。 っていたのだよ」 じ い さ ん は 張 り 合 い がで き て は り き リノは走った。閉まっている引き じい さ ん の家に行 って みようと 思 っ (おじいさんちは道場だったのか たのに。 た。住 所 は聞いて あ る 。1 丁目の丸 ‥) リノは土手を駆け下り、じゃり道 みた。 リ ノ は こ く ん と う な ずい た 。 男 の 木スーパーの後ろだと言っていた。 リノ は駆けより抱 きついて タロ の 頭やしっぽをなでてやった。 う ろ し て い たら 、ぽ ん と 肩を た た か 「おじいさんはどうしたの?」 タ ロ が 少 し 落 ち 着 いて か ら 聞 い て れ た 。 ふ り 向 くと 胴 着 を 肩 に か け た で、スーパーの後ろにまわってうろ スー パーはすぐ見 つかった。そ れ を走りぬけ、住宅街に入っていった。 ふみの会ニュース(15) と い っ し ょ に 出 か け た い な んて 珍 し リノ はび っくりし た。アヤ がリ ノ は枕もとに近づき、だまっておじい 小さくなってしまったみたい。リノ て い る 。ほ お が げ っ そ り こ け 、 顔 が いのは山々なんじゃが」 「 ざ ま な い な 。わ し も 土 手 に 行 き た お じ い さん は く や し そ う に 言 っ た 。 い 。 お じ い さ ん は ア ヤ と は関 係 な い 「あ た し 、きゅう く つな 胴 着はき ら いなんです」 お じ い さ ん は 力 な く ハ ハ ハと 笑 っ た。 「むりしちゃあだめだよ。病院の先 ぐ笑顔を作って言った。 アヤ が 不 機 嫌 に 眉 を ひ そ め た が 、 す 「ふうむ」 生 の 言 う こ と を よ く 聞 いて ちゃ ん と おじいさんが心配だった。 リノは起き上がるのもつらそうな さんを見守った。 目を開けた。リノはほっとして笑っ なおしてからだよ」 や が て 、 お じい さ ん が う っすら と し 。 け れ ど 、 ア ヤ は ち ゃ ん と かわ い た。おじいさんもリノとわかって笑 先 生 は す ご く 残 念 と い う 顔を し た 。 る 。 自 分で 用 意 し た お 見 舞 い に 違 い い 顔を 作 っ た 。 リ ノ は 口 を と が ら せ 「じゃあ、リノ、あまりおじゃまし 持ってアヤがもどって来た。病室が そこ へ、きれいに さした花びん を アに向かった。 (つづく) た来るね、おじいさん」と言ってド リノはなんか引っかかったが、 「ま ては悪いから帰りましょうよ」 ちょっと明るくなった感じ。 るとは思っていないのだろうか。 お じ い さん は 遠 い 目 を し た 。 な お ある。 てやさしく言った。 「 お じ い さん が 土 手 にい な い と 、 つ お じ い さん は う れ し そ う に 笑 っ た 。 まんないよ」 「すまん」 「リノの姉です。妹がおせわになっ かけた。 うでしょう」 ちゃ ん に タ ロ の散 歩 を たのん だら ど 「お父さんが元気になるまで、リノ 先生が思いついたように言った。 のやることに少しもきょうみがなく い て き た ん だろ う 。 い つ も は あ た し ています」 アヤがぺこりとあいさつして話し て 、 本 読ん だ り 、 パ ソ コ ン し たり し リノの顔がぱっと輝いた。おじい と、大人のようなあいさつをして、 して力が出ないようだった。代わり 起 き 上 がろ う と し た が 、 ぐ っ た り と にも向いているがな」 「 リ ノ ちゃ ん の 足 は す ご い ぞ 。 拳 法 にお父さんらしい口ぶりで言った。 そ れ か ら 、息 子で あ る 道 場 の先 生 さんもうなずいた。 に 先 生 が 受 け 取 っ た 。リ ノ も 花 束 を 「やむを得んな」 わ た そ う と す る と 、 アヤ が 横 か ら 受 お見舞 い のかわ い い 包 みを おじい さ 窓 側 の ベ ッ ド の 側 に 、 こ のあ い だ け取った。 ノをじっと見た。 ん に わ たそ う と し た 。 お じ い さ ん は 会 っ た 道 場 の先 生 が い た 。 き ょ う は 「わたしが花びんにかざってきま しょに道場へ来てみないかい」 「 リ ノ ちゃ ん 、 お ね え ち ゃ ん と い っ 病室 は3 02 号室 。ト ント ンと ノ 練 習 着 で は な く 、 青 い T シャ ツ と ジ す」 ックして入った。 ーンズ姿だ。それも 髭 によく似合 っ と 、 枕 も と にあ っ た 花 瓶と 花 束 を 抱 リノはきっぱり首をふった。 先生はわかっているという顔でリ 先生は二人を見て笑ってうなずいた。 ベッドの中で、おじいさんが眠っ えて病室を出て行った。 てる。なにかのアーチストみたいだ。 空が広い田園地帯にあった。 富 士 見 病 院 に 到 着 し た 。ど ー ん と てるくせに)と、不思議だった。 ( お ね え ち ゃ ん た ら 、 な んで 急 に つ ないけれど、 るで も な か っ た 。 リ ノ は別 に か ま わ と ち ゅ う 、 アヤ は リ ノ に 話 し か け バスで15分。 お じ い さ ん のい る 富 士 見 病 院 ま で な い 。 ア ヤ は 大 人 の よ う な 行 動力 が いリボンをつけた包みまで持ってい ふみの会ニュース(16)