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消費税率引上げ前後の日本経済と株式市場

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消費税率引上げ前後の日本経済と株式市場
ス ト ラテ ジ ス ト の 眼
2012年5月号
「 消 費 税 率 引 上 げ 前 後 の 日 本 経 済 と株 式 市 場 」
2012 年は「選挙の年」といわれ、世界各地
で政治体制に変化が生じる可能性があり、金
融市場を占う上で政治動向に注目が集まって
いる。3月のロシア大統領選(前大統領のプー
チン首相が当選)に続き、4月(第1回投票)・
5月(第2回投票)には仏大統領選挙、11 月
には米国大統領選挙を控える。また、中国で
は、選挙は行われないものの、秋の共産党大
会で習近平を国家主席とする新体制がスター
トする。同様に、日本では、9月に民主党党
首、自民党総裁の任期満了を迎える中、消費
増税関連法案の行方が政局の焦点となってい
る。民主党・野田政権が3月 30 日に国会提出
した消費増税関連法案では、消費税率を 2014
年4月に8%、15 年 10 月に 10%へ段階的に
引き上げ、増税分を社会保障給付に充てるこ
とを明記している。また、自民党は4月9日
に次期衆院選の政権公約(マニフェスト)の
原案を示しており、この中で、「消費税率は
当面 10%」とし、前回参院選の際の政権公約
を踏襲している。この結果、次期衆院選を経
て、仮に政権が民主党から自民党を軸とする
政権へ移行した場合でも、消費税率引き上げ
が白紙になる可能性は低下したといえる。
そこで、以下では、消費増税が行われた 97
年前後を振り返ることで、消費税引き上げが
景気・株式市場動向に与えた影響を考察し、
先行きの市場環境を見渡す上での視座とする。
まず、消費税増税が盛り込まれた税制改革
関連法は 94 年 11 月に成立したが、当時、日
本経済は 93 年 10 月を景気の谷として景気回
復局面にあった。そのため、政府はバブル崩
壊以降、拡大していた政府債務を圧縮すべく、
財政健全化に向けた取組を始めた。この税制
改革には所得税・住民税減税の実施が盛り込
まれ、恒久的な制度減税 3.5 兆円と特別減税
2兆円が 95 年に先行して実施された。そのた
め、消費増税が盛り込まれた 97 年度予算では、
消費税率の引上げによる負担増や、先行的に
実施されていた特別減税の終了に加え、医療
費の自己負担及び保険料引上げの実施を背景
に、家計負担は前年度比9兆円程度増加する
こととなり、景気への下押し圧力が顕在化す
ることとなった。
図1は 94 年以降の実質 GDP 成長率と需要
項目別寄与度の推移であるが、93 年 10 月以降
の景気回復局面期(94~96 年度)では先行的
に実施された減税効果も加わり、実質 GDP 成
長率(前年度比)は1%後半~2%台で推移
1/3
資産運用部: 前田 隆将
している。しかし、消費税率引上げ前後の実
質 GDP 成長率(前期比)は、96 年 10-12 月期
+1.5%、97 年1-3月期+0.7%、4-6月期
-0.9%と大きく変動し、97 年度はマイナス成
長に陥っている。中でも、個人消費の寄与度
(96 年 10-12 月期+0.6%、97 年1-3月期
+1.2%、4-6月期-2.0%)の振れが大きい。
また、住宅投資の寄与度は 95 年 10-12 月期以
降5四半期連続のプラス寄与となった後、97
年以降はマイナス寄与へ転じており、税制改
革に伴う先行的な減税と消費税率引上げの影
響が顕著に現れている。
以上のように、消費税率引上げによる景気
への影響は、税率引き上げに伴う値上げを前
に支出を前倒しする駆け込み需要の発生とそ
の反動減、そして、物価上昇による実質家計
所得の減少とそれに伴う個人消費・住宅投資
への悪影響、に分類できる。前者は異時点間
の代替効果、つまり、支出のタイミングの問
題であり、税率引き上げ前後の一定期間を均
せば、景気への影響は概ね中立的となる。一
方、後者は、内閣府の短期日本経済マクロ計
量モデルによれば、消費税率を3%引上げた
場合、1年目の実質 GDP を 0.4%程度(消費
を 0.6%程度、住宅投資を 0.2%程度)押下げ
ることから、外需や公的需要に依存する日本
経済の重石になることが想定される。
続いて、97 年前後の金融市場を振り返る(図
2)。日本株式は 95 年7月の円高是正策を契
機に底入れしてから消費増税時期が決定する
96 年6月まで、消費増税前の駆け込み需要を
織り込む形で株価は上昇したものの、96 年6
月以降は、駆け込み需要の反動減を嫌気する
形で下落に転じている。また、97 年4月の消
費増税実施後、悪材料出尽くしで一旦落ち着
きを取り戻したかに見えた株式市場であった
が、夏場以降は、国内の金融危機に加え、ア
ジア通貨危機やロシア財政危機により、質へ
の逃避(アジア株安・ドル高)が加速したこ
とから、日本株式は 98 年秋口にかけ一段安の
展開となっている。
以上より、日本株式市場の行方を見渡す際、
短期的には、消費増税による駆け込み需要と
その反動減が株式市場に及ぼす影響を踏まえ、
税負担を平準化する施策に注目するとともに、
中期的には、グローバル金融市場に多大な影
響を及ぼしうる先進国のソブリン問題の帰結
に着目する必要があろう。
(2012 年 4 月 20 日 記)
三菱 UFJ 信託銀行 調査情報
2012年5月号
図1:実質 GDP 成長率と需要項目別寄与度(94~99 年)
【前期比、寄与度】
4.0%
97年4月
消費税引き上げ
3%→5%
96年6月
消費税引き上げ
時期決定
94年11月
税制改革関連法案成立
3.0%
96年末
特別減税終了
95年~
制度減税・特別減税
98年8月
ロシア
財政危機
97年7月~
アジア通貨危機
2.0%
97年11月
国内金融機関破綻
1.0%
0.0%
-1.0%
-2.0%
-3.0%
その他
純輸出
設備投資
住宅投資
個人消費
実質GDP成長率
実質GDP成長率(前年
度比、2000年基準)
94年度 +1.5%
95年度 +2.3%
96年度 +2.9%
97年度 0%
98年度 ▲1.5%
個人消費
住宅投資
【年】
景気後退(97年5月~99年1月)
景気拡大(93年10月~)
-4.0%
94
95
96
97
98
99
出所:INDB、各種資料より三菱 UFJ 信託銀行作成
図2:日本株式・韓国株式とドル円
【ドル円】
【TOPIX、韓国総合株価指数、97年3月末=100】
160
96年6月
消費税引き上げ
時期決定
94年11月
税制改革関連法案成立
150
140
株高
円安・ドル高
95年~
制度減税・特別減税
韓国総合
株価指数
(右軸)
97年11月
国内金融機関
破綻
97年4月
消費税引き上げ
3%→5%
96年末
特別減税
終了
98年8月
ロシア
財政危機
190
180
170
97年7月~
アジア通貨
危機
160
150
140
130
130
120
120
TOPIX(右軸)
110
110
100
90
100
80
70
90
60
95年7月
円高是正策
日米協調介入
ドル円
80
50
40
70
94年1月
景気拡大(93年10月~)
95年1月
景気後退(97年5月~99年1月)
96年1月
97年1月
98年1月
30
99年1月
出所:Bloomberg、各種資料より三菱 UFJ 信託銀行作成
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三菱 UFJ 信託銀行 調査情報
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