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細胞表層の機能を発揮する バイオマテリアルの創製
北陸先端科学技術大学院大学 研究室レポート Materials Science マテリアルサイエンス研究科 三浦 研究室 細胞表層の機能を発揮する バ イオ マ テリア ル の 創 製 科学技術のフロンティアを拓く 北陸先端科学技術大学院大学 Japan Advanced Institute of Science and Technology Announcement of Researchers 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 三浦 研究室 ● ● ● 細胞表層の機能を発揮する バイオマテリアルの創製。 疾病の検出キットや特効薬の開発を目指して。 糖鎖やペプチドなどバイオシグナル分子を活用し、 社会で役立つ高機能マテリアルを創製。 School of Materials Science 生物の原理に学ぶ、 バイオマテリアル Miura わたしたちの体を構成する細胞。その表 Laboratory ウイルスあるいは他の細胞との相互作用 面を覆う糖鎖やペプチドは、 タンパク質や で生物のシグナルとなっている。細胞表 面のバイオシグナル物質を合成し、生物 の機能を持つような材料を創製する研究 である。 病気の早期発見と特効 薬の開発に貢献 複数の糖が文字通り鎖のように連なった 三浦准教授は、 これまでにO157が作り出 糖鎖は、核酸(DNA)、 タンパク質に次ぐ すベロ毒素、アルツハイマーペプチドのセ 第三の生命鎖とも言われており、人間の ンシング材料の開発に成功している。現 に力を注いでいるのが三浦佳子准教授 健康に深く関わっている。糖鎖の役割の 在は糖鎖とタンパク質の相互作用を調べ ひとつに、アンテナとしての機能がある。 るための糖鎖チップの開発を進めるとともに、 Faculty Profile このアンテナから出るシグナルは、細胞 オリゴ糖やオリゴペプチドなどの生体ユニ 同士の連絡にも使われる一方、病原体を ットを高分子合成によって再構成し、医薬、 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 引き寄せるという特性もあるという。イン 環境応答性材料の開発に取り組んでいる。 フルエンザウイルスや大腸菌O157が作 特に2005年にJAISTに着任してからは、 り出すベロ毒素は、 それぞれ自分にとって センシングと阻害剤の両面からアルツハ 親和性のあるシグナルを認識し集まり、 イマーにアプローチし、内外から期待を集 感染する。いわゆる“病気にかかった”とは、 めている。 准教授 三浦 佳子 Associate Professor Yoshiko Miura <学位> 京都大学工学士(1995) 京都大学工学修士(1997) 京都大学工学博士(2000) <職歴> 米国ペンシルバニア大学 化学科博士研究員(2000) 名古屋大学大学院工学研究科助手(2001) 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助教授(2005) 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 助教授(2006) 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 准教授(2007-) こうした状態を指す。 この機構を模倣し、病原体に反応する糖 鎖を人工的に作れば、疾病機構の解析 グリーンケミストリーを 意識 に役立つとともに、遺伝子や抗体を用い 糖鎖の機能とともに、糖が天然資源である ない新しいバイオセンサーとして利用する ことに着目している三浦准教授。その研究 ことができる。また病原体の進入を抑制 活動のバックボーンにあるのは、 グリーンケ する特効薬の開発も可能である。 ミストリーの観点である。近年は、合成化 学の分野でも環境化学、 グリーンケミストリ ーの観点が重要視されてきている。 「資源の枯渇、環境問題の悪化に伴い、 貴重なバイオ資源の重要性が増していま すが、 従来行われてきた糖鎖の化学合成は、 「私の研究の目的は、直接的な意味では、 複雑で環境負荷が高くなりがち」という 糖鎖やペプチドの化学を明らかにして医 さらには産業界にとってもその展開の可能 性は魅力的なものである。 三浦准教授は、 これまでに酵素を用いた 薬や診断薬の開発につなげること。そし より簡単で穏和な反応プロセスの研究に て間接的ですが重要なことは、生物と化 身体を外敵から守るという重要な働きを担 成功。高機能材料の開発をミッションとし 学の原理を応用して高度な材料を創製 っている糖鎖であるが、 その機能について ながらも、出きるかぎり環境に調和した化 するというサイエンス自体を活発にしてい はまだまだ未知の点が多く、研究対象とし 学を目指している。 くことです」。 ての魅力は大きい。 生物の原理を用いることによって優れた材 “ 生物の機能ユニットを活かした機能材 「糖という非常に面白いものを、いかに高 料を作り出すこと。そして環境化学と機能 料の創生”という現在の研究テーマを選 機能に、社会に役立つものに変えていくか。 材料化学を両立させていくこと。三浦准教 んだのは、化学と生物の両方を扱う分野で 糖の機能や性質に、高分子、酵素工学、 授のオリジナルな挑戦に注目が寄せられ あり、今後の研究の広がりが最も期待でき ナノテクノロジーといった異なる分野の最 ている。 る分野だと直感したからだという。その直 先端の力を融合させ、優れたものづくりを 感に間違いはなく、准教授自身にとっても、 進めていきたいと考えています」。 研究としての広がりと 社会貢献 「実験ばかりしていた」という学生時代を 経て米国ペンシルバニア大学に留学。 世界のトップ研究者の365日休むことの ない研究生活を目の当たりにし、研究者 としての楽しさ、厳しさを実感したという三 浦准教授。その中で学問としての面白さ を優先するのではなく、 その先にある社会 貢献を見据えて学問を進展させていくと いうことが自分の役割なのだと気づかさ れたという。 三浦研究室の扉を叩いた学生にとっても、 Research Interests 北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 三浦 研究室 ● ● ● 主 な 研 究 テ ー マ 細胞の表面には多くの生理活性糖鎖があり、生命の認識信号として働いている。例えば、 インフルエンザウイルスや大腸菌O157の細胞感染、 肝臓細胞や脳神経の進展などに関わっている。この糖鎖を人工的に合成して高分子や薄膜にすることによって生理活性糖鎖の機能を材料 へと応用する研究を行っている。 1)糖鎖を用いたバイオセンサーの開発 糖鎖薄膜を用いた病原体毒素の検出 多くの病原体は細胞表層の生理活性糖鎖を認識信号として細胞を認 識し、感染したり、発病したりする。病原体の生体認識能が高いことを 鑑みて、糖鎖を素子とした病原体の検出方法を検討している。糖鎖を 基板や各種の電気化学測定装置、ナノ材料と融合させることで、糖鎖 と病原体の結合を感知する方法を確立できれば、多くの病原体の鋭 敏検出が可能になる。これまでに、糖鎖を素子として水晶発振子を用 いることで、病原性大腸菌O157の迅速検出に成功している。現在は 糖鎖を素子としたアルツハイマー脳症の検出方法を検討している。 2)糖鎖高分子を用いた生体機能材料の開発 細胞表面の生理活性糖鎖は多くの生命現象を司っているが、 その相 互作用は一般にあまり強くない。実際の細胞表面では効率的にタンパ ク質―糖鎖の相互作用を起こさせるために密集した状態で糖鎖は存 在している。そこで、高分子の側鎖に糖鎖を配置させた“糖鎖高分子” という材料を合成して、人工的に糖鎖の密集構造を作成し、 これを用 いて効率的な相互作用を起こさせ、高分子医薬や細胞培養材料とし て応用することができる。これまでに大腸菌O157を中和したり、細胞 糖鎖を用いたセンシング材料 培養材料に用いることのできる糖鎖高分子の開発に成功している。 左:水晶発振子と糖鎖の複合体 右:糖鎖固定化金ナノ粒子 3)環境調和型の糖鎖機能材料 こうした糖鎖化合物を合成する有機化学手法は非常に重要であるが、 一般に糖鎖は多官能性化合物であるため、 その合成は煩雑で環境負 荷が高い。一方で糖鎖は植物や海洋生物に大量に含まれる生物資 源の側面を持つため、 これを環境に優しい方法で材料化することは重 要な課題である。酵素を用いた合成法やイオン性液体の利用による 新しい合成法を探索し、環境に優しい糖鎖材料の開発を行っている。 また、糖鎖の自己組織性を活かすことで、環境に優しいナノ材料生成 プロセスの開発にも成功している。 細胞膜の模式図。中央に糖脂質の集積構造がある。 使用装置 核磁気共鳴装置、質量分析装置、紫外分光測定装置、赤外分光測定装置、蛍光分光測定装置、電気化学アナライザー キーワード 生体高分子、糖鎖高分子 産学連携に 関する お問い合せ 三浦研究室 先端科学技術研究調査センター 学術協力課 連携推進室 産学連携係 TEL:0761-51-1070 FAX:0761-51-1944 TEL:0761-51-1906 FAX:0761-51-1919 E-mail:[email protected] HPアドレス:http://www.jaist.ac.jp/ricenter/index.html E-mail:[email protected] マテリアルサイエンス研究科棟 I 4F TEL:0761-51-1641 FAX:0761-51-1645 http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/miura/ E-mail:[email protected]