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生物学的プロセスの分析
アプリケーションノート 生物学的プロセスの分析 Tecan 社の GCMTM および Thermo Scientific 社製 Nunc Edge プレートを用いた 長期における細胞動態 はじめに 生物学的プロセスを検討する際には、数時間~数日間かけ 養用インキュベーターは大気中の CO2 を一定(3~10%)に維 て細胞シグナル伝達の時間依存解析を行う必要がある。しか 持するセンサー付き CO2 コントロールを備えており、増殖を防 し、一般的なマイクロプレートリーダー内で、真核細胞を用い ぐことができ、細胞死をもたらす原因となる pH の変化を回避 た長期試験では時間が制限される。このテクニカルノートでは、 している(1)。 Tecan 社製インフィニット 200 PRO マルチモードリーダーの装 置内部における CO2 ガス分圧制御能について述べる。特許 最新のマイクロプレートリーダーのほとんどは温度調節が可 出願中の Tecan 社製ガス制御モジュール(GCM)は細胞ベー 能であるが、測定器内の CO2 濃度をコントロールすることはで スの実験のための革新的なソリューションであり、装置内環 きない。そのため、培養およびリアルタイムの動態測定が必 境を厳密にコントロールする。特許出願中のガス制御モジュ 要な長期試験はリーダー内では実施できず、CO2 インキュベ ー ル と 、 蒸 発 を 最 小 限 に す る マ イ ク ロ プ レ ー ト ( Termo ーターからマイクロプレートリーダーまでマイクロプレートを定 Scientific 社製 Nunc Edge プレート等)を組み合わせることに 期的に移す必要がある。 より、細胞の増殖および生存能に有害な影響を及ぼすことな く細胞ベースの長期動態を測定できるようになる。真核細胞 の増殖および生存は、厳密には環境温度および培地条件に よって異なる。細胞培地の pH は、一般的には、大気中の CO2 ガス分圧を正確にコントロールし、緩衝系を安定させる重炭 酸緩衝液系によって保たれる。したがって、一般的な細胞培 1 アプリケーションノート これは特定の自動ロボットシステムを用いれば可能であるが 理想的とはいえず、手動でプレートを移動させると、一晩にギ ャップが生じ、間違ったデータが得られる可能性がある。 インフィニット 200 PRO GCM(図 1)は、プレートリーダー装置 内部の CO2 分圧(0~10%)を調節するために開発された。この 特性と「蒸発調節」機能を備えたマイクロプレートを利用する ことで、培養と測定ステップを交互で行う細胞ベースの長期試 験が可能になる。 Thermo Scientific 社製 Nunc Edge プレート(図 2)は、蒸発を 最小限にする独特のデザインを持つ数少ない市販の 96 ウェ ルのプレートである。このプレートは、マイクロプレートウェル を堀が取り囲むように設計されている(2,3)。この堀を ddH2O または細胞培養用培地等の液体で満たすことで蒸発を最小 図 2 Thermo Scientific 社製 Nunc Edge プレート 材料および方法 限にし、マイクロプレートリーダー内または標準的な細胞イン キュベーター内でプレートを培養する。アガロース等のゲル化 器具 剤を添加することで、性急な手の動きや自動プレート移動に ・ CO2 供給装置を備えたガス制御モジュール(GCM)を含むイ よりリザーバーから液体がこぼれるリスクがなくなる(4)。 ンフィニット M200 PRO Quad4 MonochromatorsTM をベース Tecan 社製 GCM と NuncTMEdgeTM プレートを併用すれば、細 とするマルチモードリーダー 胞の生存および増殖はもはや一般的な CO2 インキュベーター に限定されなくなる。そのため細胞増殖試験等、細胞ベース マイクロプレート の長期解析をリーダー内で実施できるようになる。さらには測 ・ 細胞培養処理した透明な 96 ウェルの Nunc Edge プレート 定が再現可能となり、データのギャップもなくなる。 (Thermo Scientific 社、米国) 試薬 ・ ヒト扁平上皮癌細胞(A431、ATCC#CLR-1555) ・ ダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)(DMEM) ・ 熱不活化ウシ胎児血清(FCS) ・ 高感度緑色蛍光蛋白(EGFP) ・ L-グルタミン ・ ピルビン酸ナトリウム ・ ペニシリン/ストレプトマイシン ・ HEPES ・ トリプシン ・ EDTA 特に記載がなければ、試薬はすべて PAA Laboratories が供 図 1 インフィニット 200 PRO シリーズに適合する Tecan 社の 給した。 特許出願中のガス制御モジュール(GCM)。 2 アプリケーションノート 細胞培養および試験セットアップ EGFP で安定してトランスフェクションしたヒト扁平上皮癌細胞 I GCM プレート 処理 (A431)を、L-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ ストレプトマイシン、HEPES および 5%熱不活化ウシ胎児血清 (FCS)添加(高グルコース)DMEM 中で、37C および 5% CO2 を含む加湿空気(受動的湿度管理装置[Forma Steri-Cycle 371、Thermo]を備えた標準的な CO2 インキュベーター)にてコ ンフルエンスまで増殖した。 トリプシン/EDTA を用いて細胞を採取し、5% FCS を含む新 鮮な増殖培地中で再懸濁し、処理した細胞培養液(充填量 200 μL 中 5000 cell/ウェル)を 96 ウェル Nunc Edge プレー 解析期間 CO2 コントロール (リーダー) 温度(リーダー) 動態(プレート) 測定モード 励起波長 発光波長 ゲイン トに播種し、標準的なマイクロプレート用ふたをかぶせた(図 3)。 能動的 CO2 コントロールを備えた インフィニット M200 PRO リーダー に残ったプレートを培養・測定する 75 時間 5%(GCM 制御下) 37C 76 サイクル(1 時間ごと) 蛍光下方測定における OR 機能 使用 28 フラッシュ(4×7) 485(9)nm 535(20)nm 最高細胞数/ウェル(5×104 cell) 用にあらかじめ最適化し、その後 はマニュアルで設定 表 1 GCM を備えたインフィニット M200 PRO におけるマイクロ ブランク ブランク プレート培養・測定の処理および測定パラメータ 図 3 プレートの配置:FCS 存在下および非存在下で細胞 5000 個を播種した。 標準的な CO2 インキュベーターを用いて一晩培養(~14 時 間)後、培地を交換した(A~D 列には新鮮な 5%FCS 含有 DMEM を、E~H 列には 5%FCS を含まない新鮮な DMEM で充 填)。さらに、Nunc Edge プレートの推奨事項に従い、各プレー トのリザーバーを ddH2O で充填し(2-4)、長時間の増殖試験 中に溶液が蒸発するのを避けた。 GCM ベースの CO2 制御が細胞増殖に及ぼす影響について、 2 つの実験装置を用いて明らかにした。 II. 対照プレート 処理 解析期間 CO2 コントロール (リーダー) 温度(リーダー) 動態(プレート) 測定モード 励起波長 発光波長 ゲイン 能動的 CO2 コントロールを備えた インフィニット M200 PRO リーダー に残ったプレートを培養・測定する 75 時間 該当せず 37C 76 サイクル(1 時間ごと) 蛍光下方測定における OR 機能 使用 28 フラッシュ(4×7) 485(9)nm 535(20)nm 最高細胞数/ウェル(5×104 cell) 用にあらかじめ最適化し、その後 はマニュアルで設定 表 2 GCM を備えていないインフィニット M200 PRO における マイクロプレート培養・測定の処理および測定パラメータ NUN96ft.pdfx プレート定義ファイルを用いてラグタイム 0 μs、 積分時間 20 μs にて全プレートを測定した。初期蛍光シグナ ル(t=0 時間の初期細胞数は、GFP シグナル 100%を表す)と 記録された全蛍光シグナルの強度とを算出した。 3 アプリケーションノート Nunc Edge プレートの各ウェルに残っている液体量について 途にとって重要である。例えば、細胞毒性を誘発する可能性 は、液体をエッペンドルフチューブに分注し、その後、重量を のある化合物を用いて細胞を培養する場合、FCS はこの化 測定して確認した。 合物に非特異的に結合し、細胞による取り込みを一部阻害す るため、通常省略される。 結果および考察 図 4 は、75 時間にわたる培養/測定期間後の Nunc Edge プ 予想どおり、FCS を含まない培地で増殖した細胞は、5%FCS レートにおける全 96 ウェルの蒸発作用を示す。湿度管理装置 含有培地で増殖した細胞に比べて、全増殖率が著明に低か を備えていないリーダー内では、それほど長時間経過した後 った。GCM を備えたインフィニット 200 PRO における細胞増殖 はある程度の周辺効果は視認できる。しかし、大部分のウェ 率は~325%(~1.75×104 個)であった。再度、GCM のないリ ルの残量は 180~200 μL であり、リザーバー内の液体がす ーダーで培養・測定した細胞は、最長 16 時間まで著明な増殖 べて排出され、実験期間が最長に達したことが示された。し は認められず(114%、~5.7×103 個)、その後、~57%(~2.85 かし、これらの結果は、最長 75 時間、マイクロプレートリーダ ×103 個)まで低下した。 ー内部に能動的湿度管理装置は必要ではないことを示して いる。 GCM なし GCM あり 細胞増殖率(%) 残量(%) 時間 図4 Nunc Edge プレートの各ウェルの残量 GCM なし GCM あり ない DMEM(B)中の初期濃度が 5000 cell/ウェルのときに播 種された細胞の増殖曲線を示す。 培養細胞(5% FCS) 細胞増殖率(%) 図 5 は、それぞれ 5% FCS 含有 DMEM(A)および FCS を含ま 図 5A は、5% FSC 含有 DMEM 中で培養された細胞の増殖曲 線を示す。CO2 コントロールを備えたインフィニット M200 PRO で培養・測定された細胞(赤い三角)は、著明な増殖を示した 時間 (最長 75 時間)(~570%、~2.8×104 個)。 図 5 75 時間にわたり A)FCS 含有および B)FCS なしで培養 CO2 コントロールを備えていないマイクロプレートリーダーを用 したときの細胞増殖率 いて培養・測定した細胞(黒丸)は、それほど増殖しなかった (最長 18 時間)(~130%、~6.5×103 個)。この期間が終了す ると、細胞は増殖を停止し、シグナルは実際に~60%まで低 下した(~3×103 個)。 培養細胞(FCS なし) 図 5B は、FCS を含まない DMEM 中で培養された細胞の増殖 曲線を示す。これは培地中の FCS が不利に働くさまざまな用 4 アプリケーションノート 結論 略語一覧 本アプリケーションノートで示された結果により、インフィニット A431 ヒト扁平上皮癌細胞 200 PRO マルチモードリーダーと Tecan 社の新製品ガス制御 ddH2O 再蒸留水 モジュールおよび Thermo Scientific Nunc Edge プレートを組 DMEM ダルベッコ改変イーグル培地 み合わせることにより、数日間にわたる細胞ベースの長期試 EDTA エチレンジアミン四酢酸 験の実施が可能になることは明白である。全 75 時間中、 FCS ウシ胎児血清 GCM を備えたリーダーに残った細胞は、通常の CO2 インキュ GCM ガス制御モジュール ベーター(データなし)に残った細胞と同程度増殖し、CO2 コン HEPES 2-(4-(2-ヒドロキシエチル)-1‐ピペラジニル)-エタン トロールのないリーダーに残った細胞は、数時間後に増殖を スルホン酸ブロス 停止する。GCM を備えたインフィニット M200 PRO を用いて実 施した実験から得られた増殖曲線にはデータポイントの欠測 Thermo Scientific 社製 Nunc Edge プレートの製品情報につい がなく(一晩に生じるギャップなし)、これは長期にわたる多く ては の実験にとって大きな利点である。リーダー内の二酸化炭素 量を正確に調節することで、GCM はより安定した培養環境を 経時的に提供し、生物学的プロセスの実時間解析に理想的 に適合させられるようになる。CO2 ガスコントロールモジュー Thermo Fisher Scientific テクニカルサポートまたはサイトをご確認ください www.thermoscientific.com ルは培地の pH 値を安定させ、細胞増殖を改善するのに役立 つ。 参考文献 1) 2) 3) Austria +43 1 801 40 0 Belgium +32 53 73 42 41 Martin Clynes, Animal Cell Culture Techniques, Springer China +86 21 68654588 Lab Manual, 618 pages, ISBN-10: 3540630082, 1998 Denmark +45 4631 2000 Brochure, Thermo Scientific Nunc Edge 96-well Plate, France +33 2 2803 2180 Ref.No. BRLSPNUNCEDGE 0610 Germany +49 6184 90 6940 Peter Esser, Thermo Scientific Nunc Edge Plate – India +91 22 6716 2200 Technical Information, Intrawell cell Distribution in Micro Italy +39 02 02 95059 or 434-254-375 Well Edge Plates, Thermo Scientific Application Note, 4) Ref.No. TILSPNUNCEDGEAN 1010 Japan +81 3 3816 3355 Peter Esser, Evaporation from Thermo Scientific Nunc Netherlands +31 76 571 4440 Edge Plate with Solid Reservoir, Thermo Scientific Nordic/Baltic countries +358 9 329 100 Application Note, Ref.No. TILSPEDGERSVOIR 0411 North America +1 585-586-8800 Russia/CIS +7 (812) 703 42 15 Spain/Portugal +34 93 223 09 18 South America +1 585 899 7298 Switzerland +41 44 454 12 12 UK/Ireland +44 870 609 9203 Other Asian countries +852 2885 4613 Countries not listed +49 6184 90 6940 or +33 2 2803 2180 5 アプリケーションノート 謝辞 細胞培養と実験にご協力いただいた Dr. Kristjan Plaetzer (Univ.Doz.)、Julia Knaup(MA.rer.nat.)および Verena Lunzer (BSc)(ザルツブルク大学材料科学・物理学部物理・生体物 理科)に感謝申し上げます。 Tecan Group Ltd.では本文書において正確かつ最新の情報をご提供するよう最善の努力を尽くしておりますが、誤謬や脱漏が生じる可能性があります。したが って、Tecan Group Ltd.では明示的または暗示的にかかわらず、本文書における情報の正確性または完全性につき、何らの表明または保証を行うものではあ りません。また、本文書は予告なく変更する場合があります。記載された商標はすべて法律によって保護されています。本文書に記載された仕様書の技術的 詳細および詳しい手順については、テカンの担当者までご連絡ください。本文書で取り上げたアプリケーションおよび製品は一部の市場で入手困難な場合があ りますので、営業担当者にお問い合わせください。 Tecan、Infinite は主要諸国における Tecan Group Ltd.(スイス、Männedorf)の登録商標です。GCM、Quad4 Monochromators は同社の商標です。 Nunc および Edge は米国 Thermo Scientific Corp Inc の登録商標です。 ©2012 Tecan Trading スイス、著作権所有 397050J V.1.0, 03-.2012 Austria +43 62 46 89 33 Belgium +32 15 42 13 19 China +86 10 5869 5936 Denmark +45 70 23 44 50 France +33 4 72 76 04 80 Germany +49 79 51 94 170 Italy +39 02 92 44 790 Japan +81 44 556 73 11 Netherlands +31 18 34 48 174 Portugal +351 21 000 82 16 Singapore +65 644 41 886 Spain +34 93 490 01 74 Sweden +46 31 75 44 000 Switzerland +41 44 922 89 22 UK +44 118 9300 300 USA +1 919 361 5200 Other countries +41 44 922 8125 www.tecan.com 6