Improvement of the Power Supplies for the γ-Jump Magnets at
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Improvement of the Power Supplies for theγ-Jump Magnets at the KEK-PS K.Marutsuka High Energy Accelerator Research Organization ガンマジャンプ電源の増強 1.はじめに 高エネルギー加速器研究機構の12GeV陽子シンクロトロン(KEK−PS)のメインリングでは、前 段の加速器であるブースターから500MeVのエネルギーで入射された陽子ビームをトップエネルギー である12GeVまで加速し、その後メインリングから取り出して実験ホールへ供給している。 この加速過程において、ガンマトランジション(γT)と呼ばれるエネルギー領域(トランジションエネ ルギー)が存在し、加速とともに高くなるビームのエネルギーがこの領域を通過する時にビームのロス(損 失)が生じる。このビームロスを最小限に抑えるためにガンマジャンプ四極電磁石が用いられる。 ガンマジャンプ電源はこの電磁石を励磁するための専用の電源である。この電源システムは電磁石ととも に1979年に製造されたものであるが、KEK−PSのビーム強度増強の1つの柱として、1998年1 月より最大励磁電流をおよそ2倍に増強した新システムが稼動している。電磁石は旧来のものをそのまま使 用している。 本報告では粒子加速途中のガンマトランジションと呼ばれる領域でのビームロスとその抑止に必要な電 流波形を得るための電源の基本的回路構成、および運転の現状について述べる。 2.ガンマトランジション KEK−PSでは陽子は高周波電場(RF)により加速される。通常、加速器中の粒子の運動量が増加す ると速度が増し、リング内を周回する周期が短くなる。加速の早い段階では高周波電場の周波数を粒子の回 転周期に合せて変化させ、粒子がキャビティ(高周波加速空洞)内で感じる電場の位相が常に同じになるよ うにし安定した加速を行っ ている。粒子の持つ運動量は すべてが一様ではなくばら つきがあるので常に同じ位 相の電場を感じるとは限ら ない。図1左図のAを基準に 考えると運動量の大きい粒 子(ア:Aより位相が進む) は弱い電場を感じ、逆に運動 量の小さい粒子(イ:Aより 図1 シンクロトロン振動の安定領域(グラフ上影の部分) 位相が遅れる)は強い電場を 左図はトランジション前。右図は後。 感じることになる。従って次 V(t)はRF電圧。 に周回してきた時にはアの位相は遅れ、イの位相は進むことになり全体としてAを中心に振動を繰り返すこ とになる。この振動領域をシンクロトロン振動の位相安定領域と呼ぶ。 しかし相対性理論によれば粒子の速度が光速に近づくにつれ速度の増加率は減少する。また加速による運 動量の増加で粒子がより外側を周回するようになるため軌道の全長も増加するが、これは粒子のリング回転 周期が長くなることを意味する。速度が増えなくなり、軌道長が増えると加速された(運動量を与えられた) 粒子はリング上の一定点における観測では見かけ上減速した(周回により多くの時間を要した)ように見え るという奇妙な現象が起こる。 位相安定領域で加速され続けてきた粒子にはある条件を境にこの現象が現れる。加速された粒子がより強 い電場で加速され位相安定領域から次第に外れてくる。位相安定領域にあった粒子の一群がその領域の前後 に広がりはじめビームロスとなって行く。ある条件とは速度の増加で回転周期が短くなる効果と軌道長の増 加で回転周期が長くなる効果が均衡する場合であり、この条件を満たしている時の加速エネルギーをトラン ジションエネルギーと呼んでいる。このエネルギーより高い領域でビームを加速するとき、位相安定領域は 図1の右図のように遷移する。トランジションエネルギーは加速器のデザインによって決まるパラメータで ある。 ビームロスは粒子のエネルギーがトランジションエネルギー近傍にある時に激しく起こる。粒子のエネル ギーは加速とともに増加し、やがてトランジションエネルギーを上回るが、この時できるだけ短い時間でト ランジションエネルギーを越えられればビームロスを最小限に抑えることができる。トランジションでロス が起こるより早く越えさせてしまえば良い。KEK−PSでは陽子がトランジションエネルギーを越える瞬 間にのみガンマジャンプ用四極電磁石を励磁している。先に述べたように、トランジションエネルギーは加 速器によってそれぞれ異なっている。中にはそれが無いものもある。ガンマジャンプ電磁石を励磁すること は加速器の電磁石等の配列の中に新たなエレメントを加えることであり、それは一時的にトランジションエ ネルギーの異なる別の加速器を作り出すことになる。そしてガンマジャンプ電磁石の電流をうまくコントロ ールすれば、それに伴って時間的にトランジションエネルギーを変化させることができる。加速中の陽子が 本来(ガンマジャンプ電磁石を励磁しない時)のトランジションエネルギーを越える時に、ガンマジャンプ 電磁石によってリングのトランジションエネルギーを陽子のもつエネルギーより高く保っておき、トランジ ションを越える瞬間に急速に陽子のエネルギーより低くなるよう変化させれば、陽子は短時間にトランジシ ョンエネルギーを越えたのと同じ効果が得られる。 ガンマジャンプ電源の増強によりトランジションエネルギーを変化させる幅を大きくとることができ、加 速中の陽子をトランジションエネルギーからより遠ざけることができる。これにより加速中不安定になる陽 子を大幅に減少させることができ、ビームロスを抑えることができる。 3.新電源システム 新電源システムは旧電源の回路構成を踏襲しつつ最大ピーク電 流の増強を主眼において設計された。励磁電流波形を図2に示す。 この電源は両極性パルス電源で画面の両端はグランドレベルを示 している。電流が流れ始めてから30m秒でピーク電流に達し、 ガンマトランジションのタイミング(中央の不連続部分)では、 500μ秒で電流をプラスの最大値からマイナスの最大値へ瞬時 に反転させるという特殊なスペックを持つ。また両最大値の絶対 図2 電源の電流波形(10ms/div) 値はほぼ等しくなっている。ジャンプ後の立ち下がりは電源のコンデンサと負荷のコイルで決まる時定数 に従って減衰する。周期は加速器運転モードにより2.2∼4.0秒の間で、外部トリガーによりパルスを 発生させる。電流の増強以外では仕様の大きな変更点としてあとに述べる遠隔制御システムの更新が挙げら れる。また電源筐体は旧来の充電電源部とパルス発生部の分離型を改め、1つの筐体内で両部分を一体化し た。 次に回路構成について述べる。新旧両電源の基本回路図を図3に示す。 図3 旧電源(左)と新電源(右)の基本回路図 旧電源の回路ではパルスの発生にはサイリスタを用いている。まず十分に容量の大きいコンデンサC1 (容量1F)を放電させるためサイリスタSCR1をONにする。負荷に流れる電流が最大になったところ でSCR2をONし電流を転流させる。この時C2(22μF)はC1に比べてはるかに容量が小さいため 電流は急速に0になり、共振により負荷には逆向きの電流が流れはじめる。SCR3は逆向きの電流が順方 向抵抗の大きいダイオードに流れて急速に減少するのを防ぐよう、負荷とSCR3との間にループを作るた めのものである。このSCR3は改造により後から設けられたものである。[1] 新電源の回路では旧電源で用いたサイリスタ をIGBTに置き換えている。この電源ではピ ーク電流を最大1500Aまでとれるよう、充 電部の主コンデンサC1には2Fの容量をとっ ている。IGBT1をONし負荷に流れる電流 が最大になったところ(IGBT1のONから 30m秒後)でIGBT2をONする。ここで は旧電源回路のSCR2によって転流させる過 程に当たるものは無く、IGBT2のONによ り直接、負荷に流れる電流を反転させている。 従ってC2の容量(0.7F)は旧電源のC2 に比べかなり大きくとってある。 最大励磁電流の増加により電力ケーブルも更 新した。これは旧電源のパルス発生部がメイン 図4 新電源の電源盤前面操作パネル リング室脇に設置されていたため負荷までの距 離が近く、新電源から配線するにはケーブル長が不足することからも必要であった。ケーブルは「3300 Vカドデュプレックス型架橋ポリエチレン絶縁ノンハロゲン難燃性ポリエチレンシースケーブル」という特 殊ではあるが既製品である。カドデュプレックスとは4本の独立した単芯線を捩って1本のように束ねたも ので、4芯線ではない。ここでは4本を正極負極それぞれ2本ずつで使用している。また電流波形からも推 測できるように、電流が反転する瞬間には最大で1.7kVの高電圧が発生するためケーブルの絶縁には3 300V仕様のものを用いた。 新電源は2台あり、それぞれが2台ずつのガン マジャンプ電磁石を直列で励磁する。これら電源 はそれぞれメインリング補助電源室A41とA 43に設置され、中央コントロール室(CCR) からの操作には専用の遠隔制御盤を用いる。制御 盤と電源にはそれぞれシーケンサーが組込まれ ておりシーケンサー間の通信は光ケーブルで行 っている。またトリガー信号の受け渡しも独立し た光ケーブルで行っている。CCRからは各電源 ごとに起動/停止、最大電流値(100A単位) の設定を行うことができ、電源側からは内部/外 部インターロック、起動状態、コンデンサーへの 充電電圧に関する情報が送信される。またインタ ーロックが動作し電源が停止した場合はトリガー による異常の場合を除いて補助電源室の電源を直 図5 CCRに設置の遠隔制御盤 2台の電源を一括して遠隔操作できる。 接リセットしない限りCCRからは再起動できな いしくみになっている。これはインターロック動作の原因を必ず現場で確認するようにしむける措置である。 4.運転状況 1998年1月の導入以来、新電源は安定に稼動している。現在、ピーク電流は800Aで運転されてい る。これは旧電源使用時のおよそ2倍である。[2] 最近ではメインリングのビーム強度がおよそ 4. 0×10E12ppp を越えるとトランジション付近で相当量のビームロスが発生していたが、ガンマジ ャンプ電源の増強によりビーム強度 4.7∼5.0×10E12ppp に於いても際立ったロスを伴う ことなく安定したビーム加速が実現している。 [3] 参考文献 ・ 木原元央、亀井亨 丸善 「加速器科学」 ・ 町田慎二 OHO’96 高エネルギー加速器セミナー ラティス、空間電荷効果 [1]家入孝夫、春日俊夫、高崎栄一 ΑSN-207 jump 実験−パルサーの改造− [2]佐藤皓 グループ内メモ ‘86/10/29 ガンマジャンプ電磁石について [3]KEK Annual Report 1997