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『夢の実現』

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『夢の実現』
『夢の実現』
特任教授
北井
宏昌
小学校の卒業式で、子どもたちに向かって、その時々の問題意識を取り上げて
具体的に話したうえで、毎年のように、「将来の夢を持ち、夢の実現に向かって
一生懸命努力しよう」との励ましの言葉を繰り返した。小学生の将来の夢とは、
あこがれの人物像であり、夢見る職業である。プロ野球の選手、大工さん、デザ
イナー、お医者さん、パテシエであり、学校の先生もいる。
今、学生生活最後の年、就職活動真っ只中の学生たちを指導するとき、彼等の
緊張感や悩み、不安を肌で感じることがある。特にこの時期、教職をめざす者は、
人生の岐路に立つ物語の主人公として、自己の生き方を切実に考えるのである。
昨年、3年生時の秋学期に履修する『教育実習事前指導』の授業に、家村君が
いた。彼は、体育の教師をめざして本学『人間健康学部』に入学した。筋肉質の
頑丈な体と向こう気の強そうな表情、正義感に満ちた話し振りは、まさに理想と
する中学校の体育の先生である。いい仲間にも恵まれているのか、充実した学生
生活を満喫している様子であった。
正月明けに会うと、彼は変わってきていた。どこか浮ついていた。人の話を聞
く態度も上の空である。しかりつけたこともあった。三月、図書館で会った彼は、
仲間と一緒に就職準備の勉強をしていた。教職ではなく、他の職業に就くための
勉強であることが分かり、私は落胆した。この時、彼は、自分の将来を見据え、
現実に迫ってくる進路選択に悩んでいたのである。
先日、彼が飛び込んできた。真っ黒に日焼けした顔と体。子どものように輝く
眼差しで、「先生、やっぱり教師になる」と言い切った。聞くと、出身中学校で
の教育実習を通して、体育の授業だけではなく、ホームルームやクラブ活動、休
憩時、放課後等生徒との対話や様々な関わりを経験する中で、子どもたちを教育
する喜びを味わい、やりがいを全身で感じ取り、本来抱いていた自分の夢である
教師の職を取り戻したのである。次から次へと興奮気味に話す体験談から、彼と
生徒のやり取りが眼前に浮かんできた。身体を通して学んだからこそ、できる話
である。
職業を選択し決定するとき、人生を如何に生きていくかの岐路に立っている。
だから、人は大いに悩むのである。悩み悩んでこそ、納得のできる決断ができる。
私は、教師の良さは、日々の教育活動において問題があろうがなかろうが、常に
自分の生き方を問われていること、自己の生き方が仕事と直接結びついて一体で
あること、だからこそ、悩むことが多い分納得のできる人生になることを話した。
私たちは、「教師は、生涯をかけるええ仕事である」と、熱く語り合った。
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