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金融危機の今、アドミ・コストを見直せ

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金融危機の今、アドミ・コストを見直せ
トップインタビュー
平賀 暁氏
マーシュ ブローカー ジャパン 代表取締役
ダボス会議で予言された世界の4大リスク
金融危機の今、アドミ・コストを見直せ
毎年1月にスイス・ジュネーブで開かれるダボス会議は有名だが、そこで世界経済を脅かすグローバルリスク
についての議論がされていることはあまり知られていない。同会議に民間企業として参加しているマーシュ グ
ループの日本法人「マーシュ ブローカー ジャパン」の平賀暁代表取締役は、
「民間企業においても、こうしたグ
ローバルリスクを見据えて対策を講ずるべき」と警鐘を鳴らす。世界経済が100年に1度の危機を迎えている今、
企業は自らの抱えているリスクを早急に見直してみる必要がありそうだ。平賀氏に聞いた。
Q ダボス会議のグローバルリス
ダボス会議の主催団体である世界
システミックリスク②食糧安全保障
ク・ワーキンググループでは主にど
経済フォーラムがまとめたGlobal
③サプライチェーン④エネルギーの
のようなことを議論しているのでし
Risks 2008では、08年の主要なリ
4点については、今後10年間の方向
ょうか?
スク26項目を紹介しています(07
性を根本的に決定づける可能性があ
年は23項目)
。このうち特に①金融
る新たな課題として大きく取り上げ
ています。
特に金融リスクについては、すで
に世界経済が「100年に1度の危機」
とも言われる事態に陥っていること
は周知の通りで、予言は早くも的中
してしまいました。
2つ目の食糧安全保障について
は、世界人口の増加や、農作物のバ
イオ燃料生産への利用、気候変動に
よる生産の不確実性などにより、食
糧価格が今後も上昇していくこと
や、世界の食糧供給が国際危機や自
然災害に対して脆弱になっているこ
とについて注意を促しています。
【プロフィール】
平賀 暁(ひらが・さとる)
=慶大経済卒、アメリカン・グラデュエート・スクール・オブ・インター
ナショナル・マネジメントにてMBA取得、81年第一勧業銀行の企業融資
部門で財務アナリスト、90年ジョンソン・アンド・ビギンズ社(現マー
シュ・ジャパン)入社後ドイツ・デュッセルドルフ支店、米国ニューヨー
ク本社勤務などを経験。02年7月から現職。
70
リスク対策.com 2008/11
3つ目のサプライチェーンについ
残念ながら個々のリスクについて
それは逆です。世界との関係がよ
ては、製造業を中心としたアウトソ
具体的にどうすべきかというような
り密接になっている中、こうしたグ
ーシングが世界経済の発展に大きく
踏み込んだ議論まではされていない
ローバルなリスクを企業にあてはめ
貢献してきた一方で、世界経済をつ
ようです。ただ、レポートでは、こ
てみることは、自社の経営環境を見
なぐサプライチェーンの断絶に対す
うしたリスクへの国家および国際レ
直す上で極めて重要です。
る脆弱性が高まっていることを指摘
ベルでのリスク軽減策として、
しています。例えば、1999年に半
CRO(Country Risk Officer:国家
ようなリスクについては、直接的に
導体の主要な供給地で発生した地震
リスク管理者)を創設すること提案
何か対策が取れるわけではありませ
により、世界の半導体価格がほぼ2
しています。CROは、日本の内閣
んが、例えば、各企業レベルで、株
倍に上昇したことが紹介されていま
府とは少し違い、あらゆる国際的な
価の暴落などにより資産価値が大幅
す。
リスクを分析し、戦略をつくる組織、
に下落しているわけですから、これ
4つ目のエネルギー問題について
例えば米国のFEMA(米国連邦緊
を機に、アドミ・コストの見直しを
は、原油価格の高騰などに象徴され
急事態管理庁)のイメージに近いと
進めるような発想があってもいいと
るように、持続可能なエネルギーの
言えます。もちろん、各企業でもチ
思います。
供給が困難になっていることを強調
ーフ・リスク・オフィサーのような
しています。
危機管理担当者の役割が一層、重要
Q アドミ・コストとはどのような
になってくるでしょう。
ものですか?
もちろん、金融システムの崩壊の
Q こうしたリスクに対する具体的
な改善策について何か提言されてい
Q グローバルリスクを、企業に落
アドミ・コストとは、アドミニス
るのでしょうか?
とし込むことは少し無理があるよう
トレーション・コストの略で、いわ
に思いますが?
ゆる管理部門のコストのことです。
■資産価格の崩壊
■中国経済の鈍化
■石油・ガス価格の高騰
■パンデミック
越境犯罪および 社会インフラの未整備
発展途上国における疾病 不正行為
先進諸国における慢性疾患
■
■
■中東不安
Nat:Cat■サイクロン
■
■熱波と干ばつ
Nat:Cat■地震
■
■賠償責任問題
■米ドルの暴落
国家間紛争および内戦■
■グローバル化の抑制(新興諸国)
■食糧不足
■先進経済諸国の財政危機
■著しい気候変動
■
■ナノテクノロジーの出現
■国家統治の欠如
Nat:Cat 大洪水
10-50
billion
20-250
billion
■グローバル化の抑制(先進諸国)
■国際テロ
■淡水供給の不足
■核兵器不拡散条約の崩壊
2-10
billion
被害想定額(in US$)
250 billion more than
1 trillion
-1 trillion
図表1 26の代表的なグローバルリスク:発生する可能性と経済的な損失による被害想定額(Global Risks 2008)
below 1%
1-5%
5-10%
10-20%
above 20%
発生する可能性
2008/11 リスク対策.com
71
トップインタビュー
可能性もあります。
すでに多くの企業が、営業部門や製
企業としては、エネルギーの節約や
造部門でのコスト削減を進めてきま
二酸化炭素の排出量削減に向け、具
したが、管理部門の見直しは遅れて
体的な努力をしているのかしていな
確かにリスクは連鎖しますが、重
いました。先進的な企業は、資産価
いのか検証をして、その上で、代替
要なことは、結果的なリスクだけを
値の変動が大きい自社ビルから、変
エネルギーの検討や、排出権の購入
見るのではなく、その根源がどこに
動リスクが少ないテナントビルに変
についても考えていく必要があると
あるのかを見極める姿勢です。企業
更したり、総務、管理、財務などの
思います。また、仮に排出権の購入
が倒産するとしたら、その原因が何
業務をできるだけアウトソーシング
ができない場合の対策として、保険
なのか。それはひょっとしたら地震
に切り換えるなどの対策を進めてい
への転嫁なども想定しておいた方が
のようなハザードリスクかもしれな
ますが、私は、改善すべき項目とし
よいでしょう。
いし、人的な被害によるものかもし
サプライチェーンについては、新
れない、あるいは戦略ミスというこ
潟の地震で自動車部品メーカーの被
ともあるでしょう。いずれのケース
日本企業の多くは、保険料を見直
災が自動車産業に与えた影響を見れ
でも根源になるべく近い部分で対策
すという発想がまだ少ないのが現状
ば、対策の必要性を改めて説明する
を打っていくことが求められます。
です。しかし、仮に損害保険に年間
までもありません。
て損害保険があってもいいはずだと
考えています。
各企業のリスクマネジャーや役員
は、グローバルリスクを踏まえなが
10億円を支払っている企業なら、
なぜそれだけの金額が必要なのか、
Q
グローバルリスクを見据えた対
10億円での補償範囲はどこまでな
策を行う上で、既存リスクへの対策
リスクを保有するのか、軽減するの
のか、なぜその保険が適切なのかを
がおろそかになったり、新たな投資
か、あるいは転嫁するのか、判断し
見直してみるべきです。なぜなら、
が生ずるなど別のリスクが発生する
てくことが大切です。
ら、自社のリスクの優先付けを行い、
こうした説明責任は新会社法での取
締役の専権事項にも該当するからで
す。
その上で、例えば十分なリスク評
図表2 企業を取り巻くリスクとリスクのドミノ効果(例)
価や分析を行ってから年間に支払う
保険料を低減させて、その分、事業
継続マネジメントや各種リスクマネ
外的要因
ジメントの導入や実施により、被災
リスクを軽減させることができれ
のです。
Q エネルギー問題などのリスクに
ついてはどうですか?
風評による
顧客離れ
為替レート変動
財務・金融
リスク
ば、年間の支出を抑えながらも企業
価値を向上させることが可能になる
金利変動
流動性悪化
内的要因
資産価値
企
業
存
続
の
危
機
知的財産
信用(格付け)不足
株価変動
事象
汚染
社員の健康と安全
ることのできない問題です。まず、
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リスク対策.com 2008/11
販売チャネル・
ネットワーク
サプライ・チェーン
製品品質
ユーティティ
供給中断
賠償責任
PL事故
ハザード
リスク
労災
社員喪失
会計/経理
管理システム
財物損壊、喪失
テロ
訴訟
人的資本
(流失)
コンプライアンス
酸化炭素の排出量削減の義務付けが
量に使う製造業ではこれは避けて通
ブランド/社会的
信用喪失
業務提携/ジョイント・
ベンチャー
Marketing
契約履行責任
持続可能なエネルギーの供給が危
強化されます。特にエネルギーを大
戦略リスク
キャッシュフロー
地震
ぶまれる一方で、企業レベルでは二
規制・法律の
改正
売上・利益減少
事業中断
オペレーショナル
リスク
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