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地域における効果的自殺予防対策についての 保健所の役割に関する研究

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地域における効果的自殺予防対策についての 保健所の役割に関する研究
20.地域における効果的自殺予防対策についての
保健所の役割に関する研究
○田中由嘉里、宮島里美、伊藤実緒、束原はるか、北澤卓也、佐々木隆一郎
(長野県飯田保健所)
1
はじめに
長 野 県 の 自 殺 率 (2003 年 人 口 動 態 統 計 ) は 人 口 10 万 対 26.4 で 全 国 20 位 で あ る 。 2003
年 の 飯 田 保 健 所 管 内 の 自 殺 率 は 、 人 口 10 万 対 32.7( 男 49.7、 女 17.3) と 長 野 県 内 で は 2
番 目 に 高 い 頻 度 で あ っ た( 図 1 )。ま た 、1996-2000 年 と 2001-2005 年 の 自 殺 者 数 を 比 較 す
る と 、 女 性 で は 大 き な 変 化 は み ら れ な か っ た が 、 男 性 で は 20 代 か ら 60 代 の 自 殺 者 数 が 増
加 し て い た ( 図 2 )。
一般的に疾病の予防は、その関連要因を明らかにできなければ予防のための介入は困難
で あ る 。そ こ で 、飯 田 保 健 所 で は 、2005 年 度 ま で に 入 手 可 能 な 資 料 を 用 い て 関 連 要 因 に つ
いて分析を行った。その結果から、未婚、離婚、死別の男性の自殺率が高いことが示唆さ
れ た ( 図 3 )。
2005 年 度 に 、こ の 分 析 結 果 を 、市 町 村 及 び 地 域 医 師 会 な ど 地 域 関 係 者 と 共 有 し 、地 域 全
体で「男の自殺を減らすための」予防介入に取り組むよう依頼した。
2009 年 度 に こ の 依 頼 の 効 果 を 評 価 す る た め に 、中 間 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、介 入 対 象
と し た 男 で 、 自 殺 者 数 に 若 干 の 改 善 が み ら れ た ( 図 4 )。
そ こ で 、 本 研 究 で は 、 2011 年 に 、 男 の 自 殺 を 減 ら す た め の 予 防 介 入 を 依 頼 し た 2005 年
度以後、地域で具体的にどのような介入が行われたについての調査を実施した。この調査
結 果 を 基 礎 資 料 と し て 、自 殺 予 防 に 効 果 的 で あ っ た 介 入 要 因 に つ い て 抽 出 を 行 う と と も に 、
同時期に飯田保健所が行った自殺予防に係る事業に対する地域からの評価を求め、合わせ
て自殺対策先進地域のベンチマーキングを行い、今後の飯田保健所の役割について検討を
行った。
図 1 保 健 所 別 自 殺 率( 2003 年 長 野 県 衛 生 年 報 )
― 96 ―
図2飯田管内
年 代 別 自 殺 者 の 変 化( 男 )
図3飯田管内
性 別 、婚 姻 別 自 殺 率
図 4 介 入 前 後 の 年 代 別 自 殺 者 数 の 変 化( 男 )
( 人 口 10 万 対 )
2
方法
《 2011 年 調 査 》
調査対象:介入を依頼した関係者全員
市町村担当課長、担当者
14 人
( 回 答 率 100% )
職 員 30 人 以 上 の 職 域 衛 生 管 理 者
101 人
( 回 答 率 63.3% )
医療機関
112 人
( 回 答 率 65.2% )
調査項目:実際に実施した具体的自殺対策内容
保健所の対策事業についての活用状況
調 査 方 法 : ア ン ケ ー ト 調 査 ( 郵 送 法 )、 聞 き 取 り ( 市 町 村 )
調 査 時 期 : 2011 年 8 月 ( 1 か 月 間 )
《ベンチマーキング》
調査場所:秋田県能代保健所、秋田県藤里町、心と命を考える会
調査日
3
: 2011 年 11 月 22 日
結果
《 2011 年 調 査 》
市 町 村 に お け る 自 殺 関 連 事 業 の 取 り 組 み 状 況( 図 5 )を み る と 、
「 広 報 誌 で の 啓 発 」と
「 結 婚 支 援 事 業 を 開 始 し て い る 」、と 回 答 し た 市 町 村 が そ れ ぞ れ 7 市 町 村( 50% )あ っ た
ことがわかった。
図 6 に 医 療 機 関 と 職 域 に お け る 自 殺 対 策 関 連 事 業 の 取 り 組 み 状 況 を 示 し た 。医 療 機 関 、
職域共に、積極的な自殺予防対策は行われていない状況であった。
図7、図8、図9に保健所が行った各種の事業の活用状況についての結果を示した。
医療機関や職域では自殺予防対策のパンフレットの活用がわずかにみられたが、他の事
業 は あ ま り 活 用 さ れ て い な い こ と が 分 か っ た ( 図 7 、 図 8 )。
一 方 、40% か ら 50% の 市 町 村 で は 、保 健 所 が 開 催 し た 自 殺 予 防 研 修 会 や 講 演 会 が 活 用
さ れ て い た ( 図 9 )。 自 殺 予 防 週 間 や 月 間 の 啓 発 を 活 用 し て い る 市 町 村 は 30% 程 度 あ っ
た。
― 97 ―
件 90
市町村数
80
70
60
50
40
30
20
10
0
図5市町村における自殺予防事業実施状況
( 2006 年 度 ~ 2009 年 度 )
職域
実
施
未
実
施
不
明・
検
討
中
図6医療機関、職域における自殺対策
関連事業の取り組み状況
図7医療機関の保健所の自殺予防事業の活用状況
図8
医療機関
職域の保健所自殺予防事業の活用状況
― 98 ―
図9
市町村における保健所の自殺予防事業の活用状況
保健所が担う役割への要望としては、関係機関との連携づくり、自殺予防研修会の実
施、啓発ポスター・パンフレットの配布、市町村で行うゲートキーパー研修会の技術支
援 、 う つ ・ ひ き こ も り の 家 族 会 、 自 死 遺 族 支 援 等 が あ げ ら れ た ( 表 1 )。
表1
保健所への主な要望事項
保健所への主な要望事項
医療機関
○関係者対象とした自殺予防研修会
○啓発ポスター、パンフレットの配布
○関係機関の連携
○気軽に相談できるしくみ
○ 精 神 保 健 相 談 、暮 ら し と 健 康 の 相 談 会 、多 重 債 務 等 の 詳 し
い 日程等がわかるようにしてもらえるとありがたい。
○ メ ン タ ル ヘ ル ス の 面 で の 早 期 発 見 、再 発 防 止 、職 場 復 帰 等
の講演会を今後も企画していただきたい。
○社内で使用できる教育資料等
○ 基 金 を 今 後 も 長 期 的 に 継 続 し て 欲 し い 。講 演 会 の 実 施 も こ
の基金がきっかけとなった。
○うつ、ひきこもりの家族会をやってほしい。
○ マ ン パ ワ ー が な い た め 、ゲ ー ト キ ー パ ー 等 研 修 会 を 手 伝
って欲しい。
○研修会の講師を保健所にやってほしい
○他市町村の取り組み状況知りたい。
○自死遺族支援を実施してほしい。
○
○
○
職域
市町村
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
《ベンチマーキング》
住民参加型の対策を効果的に進めたことで知られる先進地の秋田県藤里町を視察した。
2003 年 に NPO が 中 心 と な り 、 町 の 中 に コ ー ヒ ー サ ロ ン を 開 設 し 「 人 と 関 わ る 場 」 を 作
っ た 。 翌 年 に は 17 年 ぶ り に 自 殺 者 が ゼ ロ に な っ た 。 し か し 、 2007 年 に 男 性 5 人 が 自 殺
― 99 ―
し、男性のための夜の飲み会「あかちょうちん」を開催し、翌年には再び自殺者がゼロ
と効果を上げていた。
4
まとめ
(1)
「医療機関」
「 職 域 」で は 予 防 対 策 実 施 は 少 な か っ た 、一 方 、
「 市 町 村 」で は 、広 報
活動の他、非営利団体等との共催による「婚活」事業が活発化していた。このことか
ら「婚活」事業が飯田地域の男性の自殺者数の減少に寄与している可能性が示唆され
た。
自 殺 と 婚 姻 の 関 係 に つ い て は 、1897 年 に フ ラ ン ス の 社 会 学 者 エ ミ ー ル・デ ュ ル ケ ー
ムの「自殺論」でも指摘がなされている。離婚した男の自殺率は高いこと、結婚生活
は 家 族 の 影 響 と は 別 に 男 の 自 殺 を 1.5 倍 抑 止 し て い る こ と が 記 載 さ れ て い る 。 現 代 社
会においても同様の結果がでており、
「 婚 活 」事 業 は 男 の 自 殺 者 の 減 少 に は 有 効 と 思 わ
れた。
( 2 ) 保 健 所 事 業 の 活 用 状 況 は 、「 市 町 村 」 で は 自 殺 対 策 研 修 会 、 啓 発 事 業 の 活 用 が 高
く、
「 医 療 機 関 」、
「 職 域 」で は 活 用 が 低 く 、事 業 内 容 の 検 討 が 必 要 で あ る こ と が 分 か っ
た。
(3)今回の結果から、自殺対策を行う場合には、地域に誘引となる要因の有無を検討
し、要因を絞った対策が必要であると考えられた。
(4)藤里町のベンチマーキングから、男性にターゲットを絞って地域に受け入れられ
る対策を行っていること、地域関係者と「顔の見える関係づくり」を行い、連携して
いくことの重要性を認識した。
5
謝辞
この研究を実施するにあたり、助成していただきました大同生命厚生事業団、及び調
査、視察に御協力いただいた皆様に深謝いたします。
6
参考文献
1)デ ュ ル ケ ー ム
宮島
喬 訳 : 自 殺 論 、 中 央 公 論 新 社 、 2011。
2)本 橋
豊:自殺が減ったまち
3)本 橋
豊 : STOP! 自 殺 ~ 世 界 と 日 本 の 取 り 組 み ~ 、 海 鳴 社 、 2007。
4)本 橋
豊 、 渡 邊 直 樹 : 自 殺 は 予 防 で き る 、 す ぴ か 書 房 、 2005。
7
秋 田 県 の 挑 戦 、 岩 波 書 店 、 2008。
経費使途内訳
科目
内容
金額
需用費
111,000
役務費
書籍代、研究・調査用紙、封筒、ファイル、記
録メディア、プリンタトナーカートリッジ等
調査用郵便切手代
旅費
調査用旅費
141,500
合計
47,500
300,000
― 100 ―
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