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屋上緑化システムに関する基礎研究
研究レポート 屋上緑化システムに関する基礎研究 エネルギア総合研究所 環境技術担当 江木 和泉 1 3 まえがき 研究成果 屋上緑化は,夏場に受ける太陽熱を植栽が吸収し, 建物の温度上昇を抑え冷房効率をあげることから,建 物の省エネルギー効果や都市部におけるヒートアイラ ンド現象の緩和など,環境問題の有効な改善策として (1)屋上緑化システムに適した植物の選定 水耕栽培による屋上緑化システムに適した植物種を 選定するにあたり,ヘデラ・カナリエンシス,カロラ イナジャスミン等の一般的な8種類のつる性植物につ 大きく注目されている。このため,大都市では屋上緑 化が法制化され,他の自治体においても法制化される いて生育試験を実施した。また,国内でグランドカバ ープランツとして流通している108種類の植物種の生 気運が高まりつつある。 しかし,ビルの屋上には,空調設備や変電設備,貯 育特性について調べ,データベースとしてまとめた。 つる性植物の生育試験結果およびグランドカバープ 水槽等の設備が設置されている場合が多く,緑化でき ランツの生育特性のデータベースに基づき,屋上緑化 る場所が制限される。また,潅水された水分が屋内へ 漏水することへの対策が必要などの問題がある。 に必要な耐暑耐寒性があり,生育速度の速いつる植物 として,テイカカズラ,ヘデラ・カナリエンシス,ヘ デラ・へリックスの3種類を選定した(図2) 。 2 概 要 本研究では,屋上緑化に適した植物の選定や培地, 培養液など栽培システムの仕様について基礎試験を実 施したので,その概要について報告する。 今回取り組んだ屋上緑化方法は,屋上に複数の支柱 を立て,支柱間に骨粗材を組み,その上につる性植物 を植生・繁茂させて屋上全体を覆う緑化方法であり, 空調設備等が設置された屋上の緑化が可能となる。ま た,植生管理を生育制御と自動潅水が可能な循環式水 耕栽培とすることで,シンプルでメンテナンスが容易 なシステム構成とし,漏水も防止している。 図2 水耕栽培に適した植物(ヘデラ・へリックス) 屋上緑化前 (2)培地の種類が生育に及ぼす影響 生育に適した植栽基盤を選定するために,改良土お よび人工軽量土(表1)について供試植物の伸長量を 草種毎に比較した。 屋上緑化後 その結果,改良土ではテイカカズラの伸長量が高く, 人工軽量土ではヘデラ・カナリエンシスの伸長量が高 くなった。 培土にはそれぞれに排水性や保肥力などの特徴があ るため,緑化に用いる植物種にあわせて,培地を選択 することが必要であることがわかった(図3) 。 図1 屋上緑化システムのイメージ Page 6 エネルギア総研レビュー No.11 屋上緑化システムに関する基礎研究 表1 各培地の特徴 培地の種類 特 徴 天然骨材と天然の有機物に 改 より構成される人工土壌。 良 人工軽量土に比べると土に 土 近く保肥力が高い。 重量は通常の土壌の約半分。 図4 底面流水方式 珪藻土を高温で焼成したセ ラミックスの人工土壌。水 持ちがよく,通気性,排水 性にも優れている。 改良土 カナリエンシス 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 -2 改良土 へリックス 改良土 テイカカズラ 人工軽量土 カナリエンシス 図5 上面散水方式 人工軽量土 へリックス 人工軽量土 テイカカズラ 20 8 4 0 -4 20 05 .1 1 20 05 .1 2 20 06 .1 20 06 .2 (3)培養液の供給方法の違いが生育に及ぼす影響 供試草種の生育に適した培養液の供給方式を選定す 底面流水 カナリエンシス 底面流水 へリックス 底面流水 テイカカズラ 上面散水 カナリエンシス 上面散水 へリックス 上面散水 テイカカズラ 12 20 05 .7 20 05 .8 20 05 .9 20 05 .1 0 図3 培地の種類の違いによる伸長量の推移 伸長量(cm) 16 20 05 .7 20 05 .8 20 05 .9 20 05 .1 0 20 05 .1 1 20 05 .1 2 20 06 .1 20 06 .2 伸長量(cm) 人 工 軽 量 土 るために,底面流水方式,上面散水方式等について供 試植物の伸長量を草種毎に比較した。 底面流水方式は,植栽培地の下部に空間を設け,そ の空間に培養液を連続して通水する方式である(図4) 。 上面散水方式は,植栽培地の上から,毎日一定時間, (4)培養液濃度の違いが生育に及ぼす影響 培養液濃度をEC(電気伝導度)0.6mS/cm, 培養液を点滴方式で供給し,植栽培地の下に設けたパ 1.2mS/cmの試験区を設定し,供試草種の生育に適し ーライト層に培養液を貯水する方式である(図5) 。 試験の結果,草種によって伸長量が異なるだけでな く,上面散水方式により培養液が供給された試験区の 伸長量が流水方式に比べて高くなり,培養液の供給方 た肥料濃度について供試植物の積算伸長量を草種毎に 比較した。 その結果,EC値が増加するのに比例して伸長量が 増大したことから,つる性植物の生育は,培養液の濃 式による伸長量の差異が明らかとなった(図6) 。 度に大きく依存することがわかった(図7) 。 エネルギア総研レビュー No.11 図6 培養液の供給方式の違いによる伸長量の推移 Page 7 伸長量(cm) 研究レポート 140 水性,排水性が良いゼオライト培地を用いて,上面か 120 ら散水し,底面より排水する方式とした。 排水については,栽培槽の下流側底面に排水口を開 け,勾配に沿って余剰水を排出するとともに,槽の底 面に周囲を不織布で覆った有孔管を配置して,底面に 100 80 0.6mS/cm 1.2mS/cm 60 40 開けた排水口とつないだ。 20 20 06 /6 20 06 / 20 7 06 /8 20 06 20 /9 06 /1 20 0 06 / 20 11 06 /1 20 2 07 /1 0 なお,排水口から排出された培養液を,ストレーナ を介して培養液タンクに回収し,給水ポンプで循環し て用いることとした(図10,11) 。 図7 培養液濃度の違いによる積算伸長量の推移 (5)育苗方法の検討 土耕栽培で生育した植物は,水耕栽培に移植した際 に根が適応できず,新しい根が出てくるまで生長が長 期間停滞することから,スムーズに移行できる育苗方 法について検討した。 その結果,つる性植物は挿し木で増やすことができ ることから,育苗の段階から水耕栽培で管理すること により,定植後の根の活着が速やかになることがわか 図9 サイクルポートを利用した試験装置のフレーム った(図8) 。 図10 栽培システム仕様 図8 水耕栽培による育苗 (6)栽培システム仕様検討および実証試験装置の製作 基礎試験から得られた知見を基に実証試験装置を試 作した。 架台については,コストダウンを図るために,既製 品のサイクルポートの屋根材をポリカーボネイト板か らSUS製のワイヤーメッシュに付け替えたものをフレ ームとした(図9) 。 栽培システムについては,人工軽量土と同様に,保 Page 8 図11 栽培槽の内部 エネルギア総研レビュー No.11 屋上緑化システムに関する基礎研究 (7)実証試験装置によるつる性植物の生育調査 培養液の給水方式や気象条件が,つる性植物の生育 量にどのような影響を及ぼすのかを定量化するため に,実証試験装置において供試植物の生育量を定期的 に計測した(図12) 。 7月下旬の定植後は緩慢だった生育も,秋季に入り, 1カ月の伸長量が20cm程度に増加した。10∼11月に かけて伸長量が最も高くなったが,12月に入るとつ るの伸長は停止した。比較的暖冬傾向であったにも関 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 図13 基礎研究終了時の栽培システムの状況 (2007年3月) 2007/1 2006/12 2006/11 2006/10 2006/9 2006/8 南面 北面 2006/7 伸長量(cm) わらず,つるの伸長が停止した時期は,前年の基礎試 験とほとんど変わらなかった。 このことから日最低気温が5℃以下になると,つる 性植物は生育を止めてしまうのではないかと考えられ る。 図12 実証試験装置における積算伸長量の推移 図14 春季の栽培システムの状況(2007年5月) 4 あとがき 屋上緑化に適した植物の選定や,培養液の供給方法 および培地の種類など,基礎試験で得られた知見を実 証試験装置に十分反映することができた。また,実証 試験では,定植後の栽培期間が短く,3月末までに植 物が装置全体を十分に繁茂することはできなかった が,つる性植物の夏季・冬季における耐久性,および 管理方法等について確認することができた。 2003年の工場立地法の改正により,工場の屋上部 分も新たに緑化面積に加えられるようになり,工場緑 化面積を屋上緑化で増やすことが可能となったことか ら,この緑化システムの工場等の折板屋根緑化への応 用について検討する予定である。 エネルギア総研レビュー No.11 図15 夏季の栽培システムの状況(2007年9月) Page 9