Comments
Description
Transcript
ボイラ高温部劣化調査研究
研究レポート ボイラ高温部劣化調査研究 エネルギア総合研究所 発電・材料担当 和田 泰孝※ 1 はじめに 別だが,実機事例の整理・実験データの蓄積により余寿 火力発電設備のボイラは,高温高圧下で長期間使用さ 命計測へ活用が可能になってきた。 組織観察が先行した結果,図1に示すように損傷状態 れる中で腐食,疲労およびクリープ等の損傷を受ける。 当社経年火力発電所のボイラも,長期使用によって上記 を【ø】初期損傷状態,【¿】方向性のあるボイド発生 のような経年劣化が懸念されている。 状態,【¡】ボイドが連結した微小き裂状態,【¬】き裂 現在,クリープ損傷は金属組織観察によって判断する 成長の4つに分類し,各々の状態に対して検査インター 余寿命評価法があるが,検査や評価をメーカに依存して バルや処置が提案され,1980年代前半ドイツ他で規格化 いるのが実情である。 され実用されている。 ユーザとして高い精度で余寿命評価できれば,安全 実機のボイラにおいては,管寄管台継手・Yピース・ 面・運用面での信頼性向上とともに,取り替え周期の適 エルボなどが配管系のシステム応力を受けると,溶接止 正化による保修コストの低減が見込める。 端部にあたるHAZ部(溶接熱影響部)に応力が集中しや このためエネルギア総合研究所では,ボイラにおける すい。クリープ損傷は温度が同じであれば応力の高い場 クリープ余寿命評価について高精度化と自社化を目指し 所が最も進行するので,今回の廃却材調査では溶接部, 取り組んでいる。 とりわけHAZ部に着目して組織観察を行った。(図2参 本研究では,余寿命研究の一環として,廃却材の詳細 照) 調査(実機クリープ損傷の形態把握)と2.25Cr−1Mo 材のクリープマスターカーブ作成を行った。その概要を 紹介する。 溶接金属 2 HAZ粗粒域 クリープ損傷の進行と余寿命計測について クリープ損傷とは高温化で使用される金属材料に発生 する経年劣化の内の一つである。クリープ損傷で破断に いたる過程では,金属組織や炭化物の形態・種類が変化 するとともに,結晶粒径の変化や,ボイドと呼ばれる微 小な空孔が粒界へ発生・増殖してき裂へ成長する。この 母材 HAZ細粒域 ような現象は,材料の種類および使用条件により千差万 図2 溶接部概念図 微小き裂 クリープボイド 【ø】 初期損傷状態 転位のすべり運動により回復が 進むがボイドは検出できない 【¿】ボイド発生 粒界にボイドが発生し, 成長・連結する 【¡】微小き裂発生 ボイドの連結により 微小き裂が発生・成長 微小き裂 【¬】き裂成長 微小き裂の成長による 巨視き裂の発生 図1 クリープ損傷の進行 ※現 ñパワー・エンジニアリング・アンド・トレーニングサービス Page 8 エネルギア総研レビュー No.3 ボイラ高温部劣化調査研究 3 実機廃却材詳細調査結果 ・周溶接HAZ部でType¬損傷およびType¡損傷を受 (1)組織観察 けており,Type¬損傷が主である。また,肉厚内 実機クリープ損傷発生状況の調査のため,主蒸気管Y ピースおよびエルボ廃材の詳細調査を行った。調査手順 部で損傷が激しい。 ・「ボイド連結」や「微視き裂」はないが,ボイド発 は,はじめに各溶接線の外観検査を行い最も損傷が進ん 生個数が多く,寿命終期に近い。 でいる個所を推定した。次に最大損傷個所の断面観察を 行った。 A.福山共同火力4号主蒸気管Yピース メーカが余寿命診断を行った結果,寿命消費率が50 ∼75%,推定余寿命は約25,000Hrと評価され,取り替 えられた廃材である。なお,外観は写真1を,仕様詳 細は表1を参照。 断面観察の結果(写真2参照),母材部および溶接 金属部にはクリープボイドはなかった。しかし,HAZ 細粒域では外表面から肉厚中央付近(深さ35Ÿ)まで 写真1 Yピース外観写真 の範囲にクリープボイドの発生が確認された。特に15 表1 Yピース仕様詳細 Ÿ内部では248個/›と,外表面99個/›の2.5倍で肉厚 内部でより損傷していたと推察された。 名 称 福山共同火力4号主蒸気管Yピース また,HAZ粗粒域では外表面から深さ15Ÿまでの範 使 用 温 度 842K(569℃) 囲でボイドが発生していた。外表面が最も多く,内部 使 用 圧 力 16.6MPa へいくに従い個数が減少する傾向を示した。 累積運転時間 256,551時間 起 動 回 数 108回 材 ASTM A182F22(JIS SFVA F22相当材) これらの結果から,損傷状況は次のように考えられた。 HAZ部の細粒域(外表面) 質 HAZ部の粗粒域(外表面) HAZ部の細粒域(表面から15Ÿ) HAZ部 HAZ部 15 ㎜ 溶接金属 配管 表面細粒部:99個 内部細粒部:248個 HAZ細粒35Ÿ付近まで クリープボイド発生 写真2 断面におけるクリープボイド発生状況 エネルギア総研レビュー No.3 Page 9 研究レポート B.岩国2号主蒸気管エルボ メーカの診断結果は推定余寿命0Hr(き裂貫通 3,700Hr)と,相当厳しい評価を受け,取り替えられ た廃材である。 なお,外観は写真3を,仕様詳細は表2を参照。 腹側長手溶接の断面観察結果,母材部・溶接金属 部・HAZ粗粒域にクリープボイドが観察されたが肉厚 内部では個数が減少した。また連結や微視き裂は観察 されなかった。 HAZ細粒域には多数のボイドが観察され表面から10 Ÿ付近で最も多かった。また,表面でも多数のボイド 写真3 エルボ外観写真 が観察された。(写真4参照) 表2 エルボ仕様詳細 周溶接部の断面観察結果,溶接金属部にはクリープ ボイドは観察されなかった。母材・HAZ粗粒域ではク 名 リープボイドが観察されたものの外表面側を中心に発 使 用 温 度 842K(569℃) 生しており,50㎜以上の肉厚内部では観察されなかっ 使 用 圧 力 19.3MPa(197kgf/fi) 累積運転時間 106,580時間 起 動 回 数 857回 材 A387-D(STPA24相当品) た。また,母材部・溶接金属部・HAZ粗粒域では連結 や微視き裂は観察されなかった。 ① ② ③ ④ AHAZ細粒(表面より20Ÿ) ⑤HAZ細粒(表面より60Ÿ) BHAZ細粒(表面より2Ÿ) ③HAZ細粒(表面より10Ÿ) 写真4 長手溶接部 断面観察結果 Page 10 質 岩国発電所2号主蒸気管エルボ ① ② ③ ④ AHAZ細粒(表面) ⑤ ⑤ ④HAZ細粒(表面より20Ÿ) 称 ④HAZ細粒(表面より20Ÿ) ⑤HAZ細粒(表面より40Ÿ) BHAZ細粒(表面より2Ÿ) ③HAZ細粒(表面より10Ÿ) 写真5 周溶接部 断面観察結果 エネルギア総研レビュー No.3 ボイラ高温部劣化調査研究 HAZ細粒域では外表面に多数のボイドが観察され, A.岩国2号主蒸気管エルボ 溶接くびれ部よりやや下側(表面から10Ÿ,20Ÿ地点) でもボイドが多数観察された。 (写真5参照) 腹側長手溶接部から試験片を切り出して,その残寿 命を確認した。(図3参照) これらの結果から損傷状況は次のように考えられた。 まず切り出した試験片表面の観察を行い,非破壊的 ・腹側長手溶接部および周溶接部はともにHAZ細粒 にボイド個数密度法で余寿命評価を行った。(写真6 域で損傷が進んでいた。 参照) その結果,クリープ寿命消費率t/tr=0.92となり ・腹側長手溶接部の肉厚内部の溶接くびれ部HAZ細 粒域でボイドが多数発生していた。これは福山共 寿命末期と考えられた。 次にクリープラプチャー試験を,試験温度610℃, 同火力4号YピースにおけるTypeⅣ損傷と同様 の傾向であった。 ・母材部・溶接金属部・HAZ粗粒域にもボイドは発 試験応力68.6MPaで行った。その結果,85.1Hrで破断 し,クリープ寿命消費率t/tr=0.96と確認できた。 生していたが,肉厚内部では個数が減少し,管内 これは非破壊的な余寿命評価法の推定t/tr=0.92よ 表面側では観察されなかった。 りも損傷度が高いが,ほぼ一致していた。 (2)破壊試験 廃材のクリープ残寿命を確認するため,溶接部から試 験片を切り出し,クリープラプチャー試験を行った。 これらのことから,岩国2B主蒸気管エルボ腹側長 手溶接部の外表面から肉厚内部約30㎜までの範囲の材 料は,クリープ寿命がほぼ消費されていたことが確認 できた。 4 ま と め これらの調査結果から,下記のことが確認できた。 ・主蒸気管部品では大きな熱応力がかかる溶接線の HAZ細粒部でType¬損傷が発生している。 ・溶接くびれ部下部周辺にボイドが多数発生し,肉厚 内部で損傷が進行していたこと。 ・外表面にもボイドという損傷の兆候が発生している ことから,「有限要素法解析による断面における最 大劣化部位の特定」と「外表面の組織観察」の併用 によれば,非破壊的な余寿命評価も可能である。 5 図3 クリープラプチャー試験片採取要領 あとがき 今後,本研究の知見および他のボイラ関係余寿命研究 の成果を活用してボイラ部品の高精度な余寿命評価を実 現し,保修コストの低減のため活用していきたい。 写真6 クリープラプチャー試験片表面組織 エネルギア総研レビュー No.3 Page 11