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地域生活インフラを支える流通のあり方 研究会報告書
地域生活インフラを支える流通のあり方 研究会報告書 ∼地域社会とともに生きる流通∼ 平成22年5月 地域生活インフラを支える流通のあり方研究会 【委員】 (50 音順) 荒井 良雄 東京大学大学院総合文化研究科教授 ◎上原 征彦 明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授 梅嶋 真樹 慶應義塾大学政策・メディア研究科特別研究講師 小田切 徳美 明治大学農学部教授 中井 検裕 東京工業大学大学院社会理工学研究科教授 西山 孝夫 千葉市保健福祉局高齢障害部長 信時 正人 横浜市地球温暖化対策事業本部長 長谷川 好孝 島根県中山間地域研究センター所長 古沢 由紀子 読売新聞東京本社編集局生活情報部次長 松尾 晋次 高知県産業振興推進部地域づくり支援課長 大和 裕幸 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 ◎は座長 【オブザーバー】 (民間企業) 青竹 豊 日本生活協同組合連合会渉外広報本部本部長 有澤 寛 住友商事(株)リテイル&ウェルネス事業部副部長 上田 真 (株)マルエツ営業企画本部本部長 大島 学 イオン(株)秘書部長 納村 哲二 フェリカポケットマーケティング(株)代表取締役社長 木村 成樹 (株)セブン-イレブン・ジャパン企画室企画部総括マネージャー 佐藤 英明 ヤマト運輸(株)クロネコメンバーズ戦略部部長 (関係省庁) 瀬戸 比呂志 髙橋 直人 原田 淳志 吉井 巧 坂本 修 山口 勝弘 新田 慎二 経済産業省商務流通審議官 経済産業省商務流通グループ流通政策課長 総務省地域力創造グループ地域自立応援課長 農林水産省総合食料局流通課長 農林水産省農村振興局農村政策部農村計画課長 国土交通省総合政策局交通計画課長 国土交通省大臣官房参事官(自動車交通局) (※役職・肩書きは委員会発足時 2009 年 11 月時点のもの) 目 次 はじめに ........................................................................ 7 第1章 流通と社会について 1. 流通と社会の歴史について 1) 流通の役割............................................................ 11 2) 社会の変化............................................................ 11 2. 流通の柔軟性について 1) 流通の柔軟性.......................................................... 13 2) 新たな変化への対応.................................................... 13 3. 地域社会における流通の役割への期待 1) 流通の役割の現状...................................................... 15 2) 流通業への期待........................................................ 16 3) 流通業の社会的的責任.................................................. 16 4) 中小小売店と大型店との関係 ......................................... 18 4. 民間企業と公共について 1) 官民の役割分担........................................................ 20 2) 見直しの動き.......................................................... 20 3) 進み始める流通業の取組................................................ 21 5. 新たな取組についての分野ごとの姿勢 1) ビジネスチャンスとして捉えられる分野.................................. 30 2) 地域社会の一員としての取組と捉えられる分野............................ 31 第2章 流通による社会課題への対応1:買い物環境の改善について 1. 現状について 1) 弱る流通機能.......................................................... 32 2) 今後予想される撤退.................................................... 37 3) 新しい市場としての買い物支援.......................................... 38 4) 地方自治体の役割...................................................... 39 2. 対応の方向性 1) 新たな流通形態........................................................ 40 2) 宅配サービス:商品のみを顧客に届ける(形態1) ........................ 41 3) 移動販売:商品を店舗ごと顧客に届ける(形態2) ........................ 52 4) 店への移動手段の提供:顧客を店舗まで連れてくる(形態3) .............. 56 4 5) 近隣型小規模店舗:顧客の近くに店をつくる(形態4) .................... 65 3. 課題の解決に向けて 1) 地域類型と買い物支援サービス.......................................... 71 2) 買い物支援サービスの将来性............................................ 71 3) 公的主体の関与........................................................ 72 4) 消費喚起策としての捉え方.............................................. 72 5) 買い物の楽しみと手段の組み合わせ...................................... 72 第3章 流通による社会課題への対応2:流通の外部効果の活用について 1. 流通の地域社会への影響(外部効果) 1) 流通が地域社会にもたらす影響.......................................... 78 2) 流通のリソース活用の可能性............................................ 78 3) ボランティアベースの取組とビジネスベースの取組 ........................ 80 2. 取組の方向性 1) 事業類型による区分について............................................ 83 2) 防犯・防災への貢献.................................................... 83 3) 地域コミュニティの活性化.............................................. 87 4) 医療・介護・福祉との連携.............................................. 91 5) 行政サービスとの連携.................................................. 94 3. 今後の更なる発展に向けて 1) 取組分野と対応姿勢.................................................... 95 2) 新市場育成のための適正な委託料の設定.................................. 95 第4章 地域生活インフラの再構成について 1. これまでの議論の整理と地域生活インフラの未来について 1) これまでの議論の整理.................................................. 97 2) 予想される地域生活インフラの弱体化と方向性............................ 97 3) 流通の役割の変化...................................................... 98 2. 地域生活インフラの再構築について 1) 平均的な地域の設定について............................................ 99 2) 平均的な地域での地域生活インフラの現状................................ 99 3) 典型的な過疎地での地域生活インフラの現状............................. 101 3. 流通機能を含んだ新たな地域生活インフラの在り方について 1) 新しい業態の可能性について........................................... 103 2) 単独主体での「統合型」 (形態1)...................................... 103 3) 複数主体による「連携型」(形態2).................................... 104 5 4) 行政やNPOの非営利主体での実施(形態3)........................... 104 5) 今後でてくる可能性のある取組......................................... 105 第5章 「民による公共」を実現するための環境整備について 1. 解決策としての「民による公共」 1) 政府財政の現状....................................................... 108 2) 「民による公共」の登場............................................... 108 3) 「民による公共」の実現に当たっての環境整備........................... 108 2. 「民による公共」を阻む意識上の障壁について 1) 連携に当たっての意識・ノウハウ上の課題............................... 109 2) 意識面での改善....................................................... 109 3) セクショナリズムの克服............................................... 109 4) コミュニケーションの円滑化........................................... 110 3. 「民による公共」を阻む制度上の障壁について 1) 新たな事業展開に当たっての制度面での課題............................. 113 2) 具体的な分野......................................................... 113 4. 「民による公共」の将来上の課題について ................................... 115 第6章 地域生活インフラを発展させていくための本研究会における提言について 1. 今までの議論について 1) 連携への期待の高まり................................................. 117 2) 行政の役割の転換..................................................... 117 3) 「民による公共」の環境の整備......................................... 117 2. 本研究会における提言について 1) 国に対して........................................................... 119 2) 地方自治体に対して................................................... 122 3) 民間事業者に対して................................................... 124 4) 地域のネットワーク: 地縁団体やNPO、そして住民に対して ........... 126 6 ○はじめに ∼「変わらずに生き残るためには、自ら変わらなければならない」∼ (ルキーノ・ヴィスコンティ監督映画「山猫」より) 【地域生活インフラを支える流通】 我が国は「ものづくり大国」であると言われる。 しかしながら、各種の統計を見ると、流通・サービス業もまた中心的な役割を果 たしていることがわかる。産業としての流通業はいまや日本のGDPの13.8% を占め、1,066万人(就業者の17%)を雇用している大きな存在である(図 表1)。 社会的な富の創造、市場に対する影響力、労働者の雇用による寄与など、今後の 日本経済のあり方を考えるに当たって流通業の姿を無視することはできない。 図表 1:流通業の全産業に占める比率 また我々の生活は流通業があることによってより便利で快適なものになってい る。身近なスーパーマーケットやコンビニエンスストアで買い物をできなくなった 生活を想像するならば、流通業が我々の生活を支えていることを実感できるのでは ないだろうか。 さらに、一部の流通事業者は、単に商品を流通させるのみならず、災害時の物資 提供といった防災への貢献、女性の駆け込み場所としての防犯機能や地域コミュニ ティの強化など、従来流通業には余り期待されてこなかった機能を提供している。 こうした意味において、流通業は域生活インフラの重要な一部を構成している1。 1 本報告書において、地域生活インフラとは、「ある地域での快適な生活を営むに際し ての最低限の基盤を形成する要素」として、衣食住や医療・金融等の機能を幅広く含む 7 【地域生活インフラをめぐる課題】 このように単に生活に必要なものを提供するに留まらず、我々の生活を便利かつ 快適で豊かなものにしてくれる流通であるが、社会が変わっていく中で、今後以下 のような変化に対応していくことが求められる。 ①少子高齢化・人口減少 一つは、我が国の少子高齢化・人口減少が今後も続き、総需要が減少していくこ とで従来の流通モデルが成立しなくなりかねないことである。 我が国の総人口は 2004 年の約 1 億 2,780 万人をピークに減少局面に入り、今後 本格的な人口減少社会を迎える。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計による と、日本の人口は 2050 年には約 9,515 万人になると見込まれる。総人口に占める 65歳以上の高齢者の割合についても、2005 年には 20%程度であったが、2020 年 には 30%弱、2030 年には 30%強、2050 年には 40%弱まで上昇すると予測される。 図表 2:我が国総人口の推移 図表 3:老年(65歳以上)人口割合の推移 出所:国立社会保障・人口問題研究所 ものとして定義する。 8 具体的な現象としては、単身世帯の増加、子供の減少、高齢者の増加、人口の都 市集中の加速、市場の縮小、年金生活者の増加等が生じてくる。そうした現象に伴 い、下の図表 4 に示すように国内小売の市場規模も相当なペースで減少していく と予想される。 図表 4:国内小売の市場規模推移 出所:経済産業省「商業統計調査/商業販売統計調査」をもとに、みずほコーポレート銀行 産業調査部推計・予測 (注)自動車・燃料小売額を除く。消費税引き上げの影響は含まず。 このような人口減少社会には、これまでの郊外型のモータリゼーションを前提に した流通モデルでは必ずしも対応できないと考えられる。今後は、既存の商圏・業 態にとらわれず、消費者の新たな需要に対応し、潜在的な消費者を掘り起こしてい くとともに、低コストで効率的な流通のあり方を追求していくことの重要性が高ま ると予想される。 ②「民による公共」 もう一つの変化は、 「公共」の機能を行政だけでは十分に担えなくなるおそれが あることである。日本の政府財政は、中央・地方ともにかつてのような余裕は無く、 社会保障や医療のような直ちに人命に直結する課題などに注力していかざるを得 ない現実がある。こうした中、市町村合併の進展により、特に周辺部にある地域で は住民の求める公共サービスを行政が十分に提供することが徐々に難しくなり始 めている。 こうした状況を改善するためには、公共サービスは必ずしも全て行政が提供する ということを前提とするのではなく、地域のリソースを眺めた上で、必要な地域生 活インフラを「誰がどのように担っていくことが効率的か」という視点で今後の地 域のあり方を、当該地域にかかわる者それぞれが考えていくことが必要である。 9 【本報告書の構成】 以上の問題意識の下、本研究会では、買い物に不便を感じている人々の役に立ち ながら潜在的な消費を掘り起こしていく取組について整理するとともに、近年盛ん になっている流通事業者と地域の関係者とが一体となり地域生活インフラを支え ていく新たな取組のあり方について検討を行った。本報告書の構成は以下のとおり である。 まず、第一章では歴史を振り返りながら流通と社会の関わり合いを整理した上で、 新たな流通の役割について取り上げる。 第二章と第三章では、様々な社会課題の解決に向けていかに流通業が地域生活イ ンフラとして寄与していくかを、買い物支援(第二章)と流通事業者が存在するこ とによって社会に及ぼす影響(第三章)に分けて検討していく。 第四章では、実際の地域生活インフラを概観しながら流通機能を核とした地域に おける連携のあり方を具体的に考える。 第五章では、前章までにとりあげた多様な主体の連携による新たな「民による公 共」の取組を実現するに当たっての課題とその解決の方向性について検討を行う。 第六章では、それまでの議論をまとめた上で、地域生活インフラを担う多様な主 体への提言をとりまとめた。 10 ○第一章 流通と社会について ∼「富を成す根源は何かといえば、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続 することができぬ。」∼ (渋沢栄一「論語と算盤」より) 1.流通と社会の歴史について 1)流通の役割 流通とは、商品を生産者から消費者へ供給するに際しての物・貨幣・情報の流れ を意味する。有史以来、人間社会のあるところ、流通は商行為や交易という形で常 に存在してきた。生活に必要な物資の全てを、自分の力だけで生産することは困難 かつ非効率的である。そのため、人間は交換によって流通をつくりだし、時代が進 むにつれて、我々は高度な流通機構を組織し、互いに面識がない他者同士の間であ っても間接的な交換を成立させる工夫を生み出した。そうすることによって、各自 が比較優位性を持つ仕事に携わることで生計を立てられる仕組みを確立した。つま るところ、流通機能の高度化が豊かな社会を成り立たせてきたといえる。 2)社会の変化 こうした流通機能は、常に社会の状況や時代の要請に応じる形で変化してきた。 その要因としては、概ね以下の三つの点に整理される。 ①技術 まず、技術の発達が挙げられる。運送(運搬)手段だけに注目しても、時代によ って、牛馬から鉄道や自動車、帆船からタンカーや航空機等へと大きく変化してき た。同時に、手段の進化は担い手を変化させてきた。個人事業者が多かった流通の 担い手も、流通ネットワークが広がり、運送(運搬)手段の確保に大規模な投資が 必要とされていくにつれ、より大規模な法人組織が担うことが多くなってきた。さ らに、近年ではIT技術の進歩により、インターネットを活用した無店舗販売やネ ットオークションのようなCtoC取引2なども拡大している。 ②消費者 消費者の交通手段や生活スタイルの変化もまた大きな影響を与えている。 例えば、時代や地域によって何が中心に売れるかは変化する。時代が進むにつれ 消費者が豊かになってくると、流通を経由する商品の数も種類も膨大になってくる。 それは、バザールから百貨店・スーパーマーケットへといった流通の新しい形態が 2 C to C(Consumer to Consumer)取引とは、一般消費者(consumer)間で行われる取引 のこと。 11 登場してくることにつながる。 また、鉄道の登場により街道沿いから駅前商店街へ、モータリゼーション3によ り郊外ショッピングモールへ、単身世帯や深夜生活者の増加により近隣型コンビニ へと商業の主役が移り変わってきた変遷は、消費者の交通手段や生活スタイルの変 化なしには語り得ない。 ③政策 そして、流通は振興政策や規制によっても大きく影響を受けてきた。戦後だけに 限定してみても、近代化を迅速に進めるため、商業に対しては多くの政策や規制が 実施されてきた。主だったものだけでも、公設市場の整備、独占禁止法の制定、百 貨店法・大規模小売店法・大規模小売店舗立地法への変遷、都市計画法の強化、中 小小売商業振興法・地域商店街活性化法の制定等が行われてきた。流通は、そうし た振興政策と規制のフレームワークの中で、発展を遂げてきた。 以上のように、流通は、長年の外部環境の変化や政策・規制の変遷に晒され、多 くの影響を受けながら発達してきた。こうした変化に取り残された企業は滅び、柔 軟に対応できた企業は成長することにより、流通は時代ごとに自らの形を変え続け ながら進化してきたのである。 3 モータリゼーションとは、自動車交通の発達のことをいう。 (出典:日本大百科全書) 12 2.流通の柔軟性について 1)流通の柔軟性 上記で示してきたように、流通は社会・時代の変化に即応し、常にカメレオンの ように変幻自在に自らの形を変えて適応してきた。これは、以下の二点の要因に示 されるように、流通事業者が激しい競争に晒されてきたことによると考えられる。 ①参入障壁の低さ 一つは、医薬品等の一部の分野を除き、流通業の参入障壁が比較的低いことであ る。例えば、小売店舗を開業するには、店舗となる場と商品の調達ルートを確保す れば十分である。特に、我が国の消費財の流通においては、中間流通を担う卸売業 者が非常に発達しており、調達ルートの確保は卸に頼れば、比較的容易である。そ うした誰もが始められる手軽さがあるため、流通業は新陳代謝が活発であり、時代 の変化に適応しやすい。 ②イノベーターの存在化 もう一つは、流通業には、全く新しい小売業態・サービス提供に挑戦する事業者 (イノベーター)が絶えず出現してきたことである。例えば、近代以降に限定して も、流通には正札販売4を導入した百貨店、セルフサービス5を導入したスーパー、 深夜営業を始めたコンビニ、膨大な商品群を提供可能にしたネット通販等の新しい 形態のイノベーターが続々と登場し、それぞれの時代を席巻してきた。 流通業はこうした特性を今後も発揮して新たな変化に対応しつつ、社会を豊かに していくだろう。 2)新たな変化への対応 「はじめに」で指摘したように、少子高齢化による需要の変化や公共分野におけ る民間事業者の役割の増大等、今後の我が国には大きな社会的・経済的変化が予想 される。流通事業者には今までと同様にこうした変化に対応し、その姿を変えてい くことが期待される。 人口減少の中で既存の商圏人口は減っていくと考えられるため、図表 5 にあるよ うに、より消費者に近づいて幅広く需要を集める一方で、多様なサービスを提供す ること等により地域の潜在的な需要を発掘していくことが予想される。 4 正しい値段を書いて商品につけた札を正札といい、正札を用いて商品を販売すること を正札販売という。(出典:日本大百科全書) 5 セルフサービスとは、食堂・マーケットなどで、客が自分自身で商品を選んで運ぶな ど、店員の仕事を客が負担して、代金の受領だけを店員が行う方式。(出典:大辞泉) 13 図表 5: 【概念図】店舗の成立要件の変化への対応 現在の商圏人口カーブ 将来の商圏人口カーブ 出所:野村総合研究所資料を基に作成 (概念図の説明) 店舗の商圏設定と顧客の需要の大きさ(売上)に着目して、人口減少による店舗 の成立要件の変化について整理を行った。 店舗の成立要件は、店舗が維持・存続可能な売上高を確保することである。売上 高=購入客数×顧客一人当たり売上とすれば、購入客数を増やすか、顧客一人当た り売上を拡大する必要がある。商圏人口が減少する中(図中の商圏人口の下方シフ ト)で購入客数を維持・増加させるためには、例えばネット通販により遠方の客を 引きつける等、商圏を広げることで購入可能性のある客数(来店客数)を維持・増 加させる必要がある(①の「商圏を広くする」という右向きの矢印)。また、顧客 一人当たり売上を増やすためには、多様なサービスを提供することで客の潜在的な 需要を喚起する必要がある(②の「多様なサービスを提供&顧客層の拡大」という 上向きの矢印) 。 14 3.地域社会における流通の役割への期待 1)流通の役割の現状 「安く良質のものを消費者に供給すること、雇用の場を提供することが流通事業 者の最大の地域・社会貢献」と言われることがある。 本研究会のための委託調査として日本総合研究所が 2010 年に実施した WEB アン ケート6の結果(図表 -1、6-2)を見てみると、流通業の地域貢献への満足度は高 く(流通業は地域に対して充分に貢献していると「思う」と「やや思う」で 45%) 、 流通業の地域への貢献のあり方として「良いものを安い値段で提供」が 77%で最 も大きい。 図表 6-1:流通業は地域に対して充分に貢献していると思いますか。 図表 6-2:流通業は地域に対してどのようなことで貢献していくべきだと思いますか 出所:日本総合研究所WEBアンケート 6 日本総合研究所のWEBアンケートは、以下のステータスで実施。 ・アンケート調査数:1,000 人(中心部 34%、住宅部 33%、農山間部 33%) ・アンケート実施期間:2010 年 1 月 30 日∼2 月 2 日 ・アンケート調査の方式:インターネット調査方式 ※年齢、性別、地域属性等を調整 15 2)流通業への期待 しかしながら、 「安く良質のものを提供し、雇用の場を提供することのみでは地 域・社会貢献が必要十分になされているとは必ずしも言えないのではないか」 、と いう意見もある7。 安全・安心な地域社会が成り立っていくためには、犯罪や災害への備えやボラン ティア活動によって支えられるコミュニティ機能も不可欠であり、地域で大きな存 在となっている流通事業者がそういった問題に無関心であって良いのかという課 題はある。 実際、上記アンケートにおいても 2 位の「高齢者や障害者が買物しやすい環境づ くり」 (59%)や 3 位の「災害時の物品・情報の提供」 (54%)などは過半の数の支 持を集めている。 3) 流通業の社会的責任 また、本報告書では詳細には扱わないが、企業の社会的責任として法令を遵守す ることはもちろんのこと、流通事業者の行為が地域社会に及ぼす影響に配慮するこ とも必要である。流通事業者にとって採算性を重視すべきことは言うまでもないが、 地域社会との関係を採算性の観点からだけで割り切ってしまうことは望ましくな い。 例えば、ある地域から店舗が撤退するという状況を想定した際には、その店舗を 運営する流通事業者は後継テナントの確保や従業員の再就職先のあっせん等が求 められる。こうした協力への期待は、以下に要約したような「大規模小売店舗を設 置する者が配慮すべき事項に関する指針」 (平成19年2月1日経済産業省告示第 16号)や各業界団体の地域貢献ガイドライン8においても、述べられている。 7 例えば、流通の研究者である関西学院大学教授石原武政氏は、「企業の側からは社会 貢献・地域貢献を行っているつもりでも、それがその地域の求めているものと合致して いないとすれば、地域は改めて貢献を強く求めることは十分にあり得る」 「地域が求め ているのは、地域の一員となり、もっと長く地域社会の中に生きることなのである」と 述べている(「流通情報 41」 (財団法人流通経済研究所/2010 年 1 月) 「小売業の地域 貢献を考える視点」) 8 中心市街地の活性化に関する法律第六条「事業者の責務」に基づき、日本チェーンス トア協会、日本百貨店協会、日本ショッピングセンター協会、日本フランチャイズチェ ーン協会が地域貢献ガイドラインを平成 18 年から 19 年にかけて策定し、フォローアッ プも実施している。 16 大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針9(抜粋) 平成19年2月1日経済産業省告示16号 大型店の社会的責任の観点では、平成17年12 月の産業構造審議会流通部 会・中小企業政策審議会合同会議の中間報告「コンパクトでにぎわいあふれるまち づくりを目指して」において、大型店の社会的責任の一環として、大型店がまちづ くりに自ら積極的に対応すべきとされ、さらに事業者による中心市街地の活性化へ の取組について、 「中心市街地の活性化に関する法律」第6条に責務規定が定めら れた。このような動きを踏まえ、関係業界団体において、地域経済団体等の活動へ の積極的な協力、地域の防災・防犯への対応、退店時における早期の情報提供等、 まちづくりへの貢献に関する自主ガイドラインの策定に取り組んできたところで あるが、個々の事業者においても自主的な取組を積極的に行うことが強く期待され る。 このうえで、 「コンパクトでにぎわいあふれるまちづくり」を目指し、大型店だ けでなく、大規模小売店舗立地法の運用に当たる都道府県・政令指定都市、立地市 町村、地域の住民等その他の関係者が連携し、それぞれの立場から積極的な貢献を 行い、まちづくりのための多面的、総合的、継続的な取組が推進されることを強く 期待する。 地域商業者等との連携・協働のためのガイドライン10(抜粋) 平成18年6月20日 日本チェーンストア協会 当協会としては、今後も地域商業者等との連携・協働に係る活動の実効性を高め ていくため、検討体制を改めて構築するとともに、会員社の各店舗において既に取 組んでいる事項や取組みを予定している事項を具体的活動の事例として掲げ、これ を参考に実態を確認しつつ適宜適切に対応していくための道標として本ガイドラ インを作成することとした。 実効性を高めるための具体的行動事例 (1)地域経済団体等の活動への積極的な協力及び参画 (2)地域経済団体等の活動に対する助言、大型店として有する経験・知識・人 脈などに関する情報の提供 (3)地域のタウン・マネジメント活動等「まちづくり」への協力 (4)地域のイベント、地域の美観・景観等生活環境推進への協力及び参画 (5)地域の防犯・防災、未成年者非行防止、環境保全等への対応 (6)地元商工会議所、商店会等への加入についての協力 (7)地域商業活動からの撤退(退店)に係る早期情報開示等 9 10 http://www.meti.go.jp/policy/distribution/data/sisin_saikaitei.pdf http://www.jcsa.gr.jp/public/data/060620_chiiki.pdf 17 4)中小小売店と大型店との関係 買い物の不便な地域の出現についての議論をすると、 「大手のチェーンストアの 進出により地場の中小小売業者が廃業に追い込まれている」と指摘される場合があ る。 具体的には、地域の中小小売業者が需要減少により衰退し始めていたところに、 当該地域を商圏に含む大手のチェーンストアが進出して衰退が加速したという構 図が描かれる。 しかしながら、小売店舗間の競争は常にゼロサムゲーム11であるわけではなく、 むしろコラム No.1 にあるように大型店の進出が好影響を与えるという研究もある。 いずれにせよ、地域の課題や複雑化・多様化する住民のニーズに向き合い対処し ていく上で、中小小売店と大型店とが連携・補完していくことは重要である。 11 ゼロサムゲームとは、全員の利得の総和が常にゼロになる状況を言う。 18 コラム No.1 ~ 大型店が中小小売商店に与える影響 ~ 2000 年に廃止された大店法は、中小商店等の比較的小規模な小売店の事業機会 を適正に確保できるように配慮するための調整を図ることを意図されたものであ ったが、慶應義塾大学専任講師の松浦氏らの研究では、「大型店の参入が中小商店 に与える影響は極めて限定的である」ことが指摘されている。 2000 年前後における事業所数の変化として、住宅地背景型の商業集積地で小売 店(中小規模店舗中心)が減少している一方で、ロードサイド型の小売店(大型店 中心)は増加していることから、小売店の減少と大規模化は、立地が中心市街地か ら郊外にシフトしたことの影響があると指摘されている。さらに、データ分析によ って「大規模店の存在」が「中小小売店」の販売額に大きく正の影響を及ぼしてい ることが示されている。 ともすれば、大型店の市街地への進出は中小商店から顧客を奪うようなことを想 起されやすいが、松浦氏らの研究(※)から、「大型店の参入が中小商店に与える 負の影響は極めて限定的である」という事実が検証されている。 大規模店の存在 大規模店の存在 相関 中小小売店の販売額 中小小売店の販売額 大型店の郊外シフト 大型店の郊外シフト 影響 中心市街地の空洞化 (中小商店の減少) ※http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/09100011.html 19 4.民間企業と公共について 1)官民の役割分担 近代においては、企業(民)は市場において自己利益の追求を行い、行政(官) は民から集めた税収入により市場とは隔絶された公共財を提供する公共サービス を独占的に担うという厳密な役割分担が前提とされてきた12。 しかしながら、今後の我が国の厳しい状況を鑑みるならば、そうした厳密な役割 分担を維持することは難しく、公共サービスとされてきた分野であっても民が得意 とする分野については、官は民の役割をより積極的に認め、評価していくことが望 ましいのではないかと考えられる。 歴史を振り返るならば、官と民との区別が厳密につけられ、国家が公共サービス を独占するようになるのは近代以後である。また、近年では、NPOや企業のCS Rのような民間主体による公共を積極的に担っていこうとする活動も盛んに見ら れてきたところである。 2)見直しの動き このような「公共サービスは官のみならず多様な民間主体が担う」という考え方 は、例えば、平成22年1月の鳩山内閣総理大臣の施政方針演説における「新しい 」にお 公共」13の概念や平成20年7月に策定された「国土形成計画(全国計画) ける「新たな公」14という概念で位置づけられているように、我が国の公共サービ ス提供の基本的な考え方として定着し始めている。 公共サービスを民間主体が担う分野として、国土形成計画では次のような三領域 12 公共財とは、非排除性あるいは非競合性の少なくとも一方を有する財として定義され る。非排除性とは、価格づけによって対価を支払わない者を便益享受から排除できない という性質であり、非競合性とは、消費者あるいは利用者が増えても追加的な費用が伴 わないという性質である。 13 「 (「新しい公共」によって支えられる日本) 人の幸福や地域の豊かさは、企業によ る社会的な貢献や政治の力だけで実現できるものではありません。今、市民やNPOが、 教育や子育て、街づくり、介護や福祉など身近な課題を解決するために活躍しています。 昨年の所信表明演説でご紹介したチョーク工場の事例が多くの方々の共感を呼んだよ うに、人を支えること、人の役に立つことは、それ自体が歓びとなり、生きがいともな ります。こうした人々の力を、私たちは「新しい公共」と呼び、この力を支援すること によって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域の絆を再生するととも に、肥大化した「官」をスリムにすることにつなげていきたいと考えます。 」 (平成21 年1月29日。鳩山内閣総理大臣施政方針演説) 14 「国土形成計画(全国計画) 」 (平成20年7月閣議決定)において、地域の課題を解 決する「新たな公」として、次のような考え方が示されている。「従来、主として行政 が担ってきた公に対して、担い手となる主体を拡充し、これら多様な主体の協働によっ て、サービス内容の充実を図る、いわば「新たな公」を基軸とする地域経営システムや 地域課題の解決システムの構築を目指す。 」 20 を挙げて官民の役割分担の多様化を指摘している。 <「国土形成計画(全国計画)」p28> 「新たな公」による地域づくりは、例えば、高齢者福祉、子育て支援、防犯・防 災対策、居住環境整備、環境保全、国土基盤のマネジメント、地域交通の確保など 地域における広汎な課題に妥当するものであるが、その活動分野をこれまでの公及 び私の領域の関係を下に整理すれば、 ア.従来の公の領域で行政が担ってきた活動分野を、民間主体が主体的に担うも の(例:自治会や企業が行う道路清掃等の管理) イ.行政も民間主体も担ってこなかった分野であるが、時代の変化の中で新たな 需要が生じてきたことにより、対応が必要となってきたもの(例:地域住民が 主体となって参画するコミュニティバスの運行や、公共交通のない地域でNP O法人等が行う自家用自動車を使用した運送サービス) ウ.従来の私の領域で民間主体が担う活動分野であるが、同時に、公共的価値を 含むもの(例:空き店舗を活用した中心市街地の活性化) となる。 なお、このように「民が公的な役割を担うことへの期待か高まる」といっても、 公共を支えるという政府の責任が減じるわけではないため、公共分野の全てを民間 企業が担うべきというわけではないことには注意が必要である。 社会からの期待に応え、ボランティア活動又はビジネスとして取り組んでいこう とする民を、官はしっかり評価・支援していくことが大事である。そうした民の取 組に官が社会的位置づけを与え、支えていくという流れが今後ますます本格化して いくものと考えられる。 3) 進み始める流通業の取組 以下で述べるように、社会的なニーズに対応して、流通業は民間事業者として既 に多くの役割を担っている。 例えば、上記の「国土形成計画(全国計画)」での分類を流通業に当てはめるの であれば、既にア.∼ウ.のそれぞれのパターンにおいて多様な公共サービスを提供 し、また、それを拡大する可能性を持っていることがわかる。 アの例①:コンビニでの住民票の写し等の発行(コラム No.2) (株)セブン-イレブン・ジャパンでは、高機能コピー機を用いて、行政に代わ って住民票の写し・印鑑登録証明書を発行するサービスを、渋谷区、三鷹市、 市川市の住民基本台帳カードを持つ顧客に対して行っている。これにより、地 21 方自治体はコスト削減のメリット、住民は利便性向上、セブン-イレブン・ジャ パンは集客効果と、三者にメリットがある仕組みとなっている。 アの例②:コンビニでのアンテナショップの運営(コラム No.3) (株)ローソンでは、店舗内にスペースを設け、地方自治体との包括業務提携に 基づく協働事業の一環として、当該自治体のアンテナショップのコーナーをコ ンビニ内に設置し、地域産品を販売する新たなサービスを行っている。この結 果、ローソンの売上にも寄与するとともに、アンテナショップを都心に抱える と人件費・家賃などの負担が大きいアンテナショップ側のコスト減もつながり、 また、消費者も手軽に地域産品に触れることができるなど、三者にメリットを 生む構造となっている。 イの例①:消費者による新しい寄付の仕組みの提供(コラム No.4・5) イオン(株)では、毎月 11 日、レシートを専用ボックスに投函することで、地 域のボランティア団体等に物品を寄付することができる「幸せの黄色いレシー トキャンペーン」を行っている。消費者は買物を通じて地域貢献できる一方、 イオンは地域貢献を行うだけではなく、消費者に選択肢を示すことで、消費者 毎の地域貢献ニーズに対応し、顧客満足度を上げることができる。 また、全国のWAON加盟店で利用した際に、その売上金の一部をイオンか ら石見銀山基金に寄付する「石見銀山WAON」を発行しており、消費者が日 常生活の中で気軽に行える新たな仕組みとして注目されている。 イの例②:過疎地のショッピングセンターによる高齢者等の送迎バスの運行(コ ラム No.6) 鹿児島県阿久根市に本社を置く(株)マキオが運営する「A-Z スーパーセンタ ー」では、片道 100 円(遠距離の場合は 150 円)という安価で送迎する「買い 物バス」を運行しており、電話予約すれば 1 人暮らしの高齢者や、移動手段を 持たない住民も来店することを可能にする取組を行っている。これにより、ス ーパー側の商圏も拡大し、リピーター率向上にも寄与しているという。 ウの例①:電子マネー15の地域通貨化 神奈川県の久里浜商店会協同組合では、近くにあるイオン(株)の店舗と連携 して、同組合の店舗へのイオン(株)の電子マネーである「WAON」の導入拡 大を進めている。商店街での「WAON」の導入を通じた地域商店街との連携 15 電子マネーとは、情報通信技術を活用した決済サービスのこと。日本では非接触型 IC チップ通信技術 Felica を採用したものが多い。 22 を図り、地域住民の利便性向上に取り組んでいる。消費者の利便性向上ととも に、イオンと一体の商圏となることで商店街は活性化し、地域貢献を行いたい イオン側にもメリットがある。 ウの例②:ネットスーパーの事業展開16(コラム No.7) スーパーマーケット各社では、インターネットで注文を受け、近くの店舗か ら配達する宅配サービスを開始している。この仕組みをうまく活用することで、 仕事があったり子育てが忙しかったりで、昼間買い物に行きたくても行けない 主婦や高齢者等の交通弱者にも買物が可能になり、スーパー側も消費者ニーズ に対応することができる。 16 ネットスーパーとは、既存のスーパーマーケットや店舗を持たない宅配専門の業者が インターネットで注文を受け付けて、既存店舗から主に個人宅まで注文商品を即日配達 する宅配サービスのこと。 23 コラム No.2 ~コンビニでの住民票の写し等の発行 ~ 株式会社セブン-イレブン・ジャパンは2010 年2月2日より、東京都渋谷区、三鷹市、 千葉県市川市のセブン-イレブン7店舗で、店内に設置の新型マルチコピー機に住民基 本台帳カード(住基カード)をかざすと『住民票の写し』『印鑑登録証明書』を発行する サービスを開始した。これら以外の各種証明書発行についても検討・準備を進めている。 1 枚当たり 200 円∼500 円かかる交付費用のうち 120 円がコンビニ側の収入となる。 セブン-イレブンでの印鑑証明、住民票の発行には各地方自治体との情報共有が重要 であり、総合行政ネットワーク「LGWAN」(総務省管轄の地方自治情報センターLASDEC が運 用)にセブン-イレブンのホストコンピュータを接続することによって対応している。サ ービスを希望する自治体が LGWAN に接続することでセブン-イレブンでの発行が可能と なる。 また、住民票の発行にはセキュリティ面が課題であるが、①コピーの際「複写」けん制 文字の表示、②スクランブル画像で証明書データを暗号化、③偽造防止の画像印刷、と いった対策がとられている。 こうした制度については 2008 年春より、総務省や地方自治体等と検討を重ねてきた ものであり、店内設置の端末利用による本格的な行政サービスは、コンビニエンススト ア初の取組となる。コンビニ事業者についても参加準備が整えば参加可能であり、それ により更なる住民サービス向上が期待される。 今後導入の流れ ◆ 2 月2 日 選考参加自治体の東京都渋谷区、三鷹市、 千葉県市川市内の7 店舗にて試験的にサービス開始 ◆ 3 月1日 利用可能店舗を首都圏近郊に順次拡大 ◆ 5 月末 利用可能店舗を全国に順次拡大 利用時間:6 時 30 分∼23 時〔年末年始(12/29∼1/3)を除く〕 ※住基カードを持っている方が対象 24 コラム No.3 ~ コンビニでのアンテナショップの運営 ~ 2009 年 3 月 24 日に、徳島県と(株)ローソンは、東京都港区にあるローソン虎ノ門巴町 店内に、 「徳島アンテナショップ」を開設した。都道府県アンテナショップがコンビニに設 置された初めてのケース。徳島県コーナーだけで 1 日に 10 万円近く売上げのある日もあり、 予想の2∼3割増しで好調に推移しているという。なお、この事業に関する徳島県の支出 額は年間 453 万円(平成 21 年度)である。 地元産品販売・観光 PR 施設を求めていた自治体と、地産外消を推進するコンビニの思い が一致することで始まった取組であり、他の店舗でも埼玉県・長野県・沖縄県の専用コー ナーも設置されるなど、コンビニ店内で自治体のアンテナショップを開設する動きが広が り始めている。 <DATA> (体制)既存のローソン虎ノ門巴町店(東京都港区虎ノ 門3-11-15)を改装し、店舗内に徳島県の特産品コー ナーを設置。 (内容)ローソン店舗内に「徳島アンテナショップ」のス ペースを設置(300cm×90cm 上下2段の専用陳列棚を 新設)。徳島県産品を使ったお菓子や、ちくわ類、半田素 麺、たらいうどん、祖谷そば、徳島ラーメン等 を販売。 (意義)平成18年12月に徳島県とローソンの間で締結さ れた包括業務提携に基づく協働事業の一環。徳島県産 品の販路拡大と情報発信が目的。 25 コラム No.4 ~ 消費者による新しい寄付の仕組みの提供① ~ イオン(株)が 2001 年より実施している「イオン 幸せの黄色いレシートキャンペー ン」は、地域で活躍するボランティア団体を消費者とともに応援する活動である。毎月 11 日の「イオン・デー」に、消費者に渡すレシートを店内の専用 BOX に投函してもら い、そのレシート合計金額の 1%分を各ボランティア団体の希望する品物で寄贈するシ ステムである。 登録団体は福祉の増進、環境保全、まちづくりの推進、文化芸術、子供の健康と安全 といった 5 つの分野にわたり、登録数は半数が福祉の増進を図る活動、4 分の 1 が子供 の育成を目的とした団体(ボーイスカウト、スポーツ少年団、子ども会)、次に環境団 体が多い。 2008 年度の実施店舗は、グループの 15 社 1355 店舗に拡大し、26509 団体に総額 2 億 7216 万円相当の品物が贈呈された。2009 年 2 月までの累計では 95790 団体へ総額 8 億 1869 万円相当の品物を寄贈している。 26 コラム No.5 ~ 消費者による新しい寄付の仕組みの提供② ~ 石見銀山遺跡は、環境に配慮し“自然と共生”した鉱山遺跡であるとして評価された ことにより、2000年にアジアで初の産業遺産として世界遺産に登録された。イオン (株)は植樹等の環境保全活動に積極的に取り組んでおり、この活動の一環として200 9年4月に国内で初めて、世界遺産とタイアップさせた電子マネー「石見銀山 WAON」 を発行した。 「石見銀山 WAON」の導入により、遺跡周辺の「世界遺跡センター」などの有料施設 やおみやげ処での電子マネーによるスムーズな支払いやカードの提示による石見銀山 地域の観光施設の利用割引サービスというような観光客の周遊性を高めることが可能 となり、9ヶ月で1万8千枚を発行した。また、 「石見銀山 WAON」が全国の WAON 加盟 店で利用された場合には、売上金の一部を「石見銀山基金」に寄付するという仕組みに もなっている。 大田市観光協会とイオン(株)は、 「石見銀山WAON」を通じて、地域と企業との共 生、環境保全と観光振興の両立を行っている。 <DATA> ○概要 (体制)カード販売所 :中国地方のジャスコやサティ、全国のジャスベル店舗 世界遺産センター、大田市観光協会など (対象)銀山周辺加盟店:下記9つの観光施設等で導入 公共施設・・・世界遺産センター、龍源寺間歩、熊谷家住宅、旧河島家 民間施設・・・大森代官所跡(石見銀山資料館)、五百羅漢(羅漢寺)、勝源寺 物販施設・・・おみやげ処(大田市観光協会) そ の 他 ・・・ベロタクシー (内容)遺跡周辺の「世界遺産センター」などの有料施設において電子マネーの決済の導入。 カードの提示による施設利用時の割引などの特典サービスを実施。 全国のWAON加盟店での支払いに使用時は、売上金の一部を「石見銀山基金」に寄付。 27 コラム No.6 ~ 過疎地のショッピングセンターによる送迎バスの運行 ~ 鹿児島県阿久根市にある(株)マキオが運営する AZ あくねは、敷地面積は東京ドー ム 3.6 個分の 17 万平方㍍、売り場面積は 1 万 8000 平方㍍の大型スーパーである。食 料品、生活雑貨、衣料はもちろん、家電、書籍、医薬品、釣具に神仏具から小型自動 車まで取り揃え、商品点数は 35 万点と品揃え豊富で生活必需品はほとんど揃うと言 っても良い。立地は交通の不便な土地であるが、営業時間は 24 時間 365 日年中無休 で開店している。 また、AZ では車の運転ができないお年寄りのため、前日までの電話予約で家まで 送迎する「買い物バス」を片道基本 100 円、遠方でも 150 円で運行している。さらに 60 歳以上と身体障害者の顧客にはサービスカウンターで購入金額の 5%がキャッシ ュバックされる、「AZ カード」を発行するなど、高齢者へのサービスに力を入れてい る。 このようなサービスを徹底して追求した結果、同店は地域住民からの支持を受けて おり、商圏は予想よりはるかに拡大してきている。 28 コラム No.7 ~ ネットスーパーの事業展開 ~ 都市部では大手流通業によるネットスーパーが急速に展開されつつある。ネットス ーパーとは、顧客が自らスーパー店舗に出掛け、商品を選んで購入し、買い物袋に詰 めて、自宅に持ち帰るという、一連の買い物のプロセスを事業者が代行するものであ る。ネットスーパー事業は、国内流通サービスの成長分野と見られているため、市場 が大きく拡大する前に早くも競争が激化し、事業者間にて配送料の無料化等の競争が 繰り広げられている(各社のネットスーパー事業については p41∼43 を参照)。 ネットスーパーは宅配も行うため、従来の店舗販売に比べ、付加価値が高いと評価 できる。しかし、日本の小売市場は、不況下で特に消費者が価格に敏感になり、また 伝統的に配送などの付随サービスへの対価支払いにも抵抗感が強い。そのため、ネッ トスーパーの商品価格は店舗価格とほぼ同等に設定されており、配送費用なども顧客 に転嫁しにくい状態にある。 そのような環境下で、事業規模拡大により相対的なコスト低減をはかるため、各店 舗の従業員が店舗にある商品を選んで詰める作業を行う「店舗利用型」ではなく、専 用の生鮮加工・配送拠点を設ける「センター出荷型」事業者も出てきた。 例えば、住友商事グループの「サミットネットスーパー」では、独自商品の品揃え や不在時の商品留め置きなどの付加サービスも提供している。「センター出荷型」の 特徴を活かし、カタログ販売や在庫状況の即時反映も実施している。同社は、首都圏 での事業拡大を目指しており、2010 年 3 月からは東京都の世帯数の 50%超をカバーす るエリア展開をしている。2010 年度には、専用の配送拠点を複数増設することによ り、従来店舗を有していなかった地域への事業拡大も進めていく計画であるという。 ネットスーパーは、ある程度注文量がまとまらないと配送料を割安にできず、食事 の量が少ないシニア層は、注文量がまとまらないためにサービスを受けにくい状況に ある。また、数人分の注文をまとめて配送しようとする場合には近隣に配送拠点を設 ける必要も生じる。今後、ネットスーパーが普及して住民サービスを向上させていく 上で、配送拠点の確保や宅配ボックスの設置につき地域住民の協力を得ながら展開す ることが鍵となってくるだろう。 【パッキング作業風景】 【サミットネットスーパーの対応地域】 29 5. 新たな取組についての分野ごとの姿勢 1)ビジネスチャンスとして捉えられる分野 上述した行政サービスの代行や高齢者対策のような「地域社会に貢献する公共的 な活動を流通事業者が行う」という議論は、ともすれば、流通事業者の側に大きな 負担が一方的にかけられてしまうと誤解されることがある。 しかしながら、逆に、適切な料金設定さえできれば分野によっては公共的な色彩 を持つ活動も新たなビジネスチャンスにもなり、流通事業者の新たな収益源の一つ にもなる可能性があると見ることもできる。 具体的には、いまだ顕在化していない高齢者や買い物に困難を覚える人々への買 い物支援の対応(第二章)や、医療・介護・福祉分野への進出及び行政サービスの 一部提供(第三章の一部)などは対価が期待できるため、ビジネスとしての可能性 が期待できる。こうした分野は、潜在的な消費者ニーズを満たすという意味におい て、新たな販売先・収益源の獲得、企業の成長戦略の側面からも論じることができ る分野であると考えられる。 例えば、買い物支援サービスへの期待は大きく、日本総合研究所のWEBアンケ ート(図表 7)では、移動販売について現在利用できる環境にないが利用を希望す る者は 57.7%も存在しており、潜在的な成長力は大きい。また、下記(図表 8)の 食料市場の将来推計のグラフを見るならば、高齢者の食料市場だけは他の世代の市 場が縮小していく中で成長していくと予想されている。 ただ、そうした基本的にビジネスベースでの取組を期待される分野であっても、 地域や取組内容によっては採算性をとることが期待しにくい場合もある。そうした 場合、取組の効果や内容によっては、行政からの支援や補助を得ていくことも一つ の手段であると考えられる。 図表 7:移動販売車・移動スーパーについて 出所:日本総合研究所WEBアンケート 30 図表 8:食料市場の世帯タイプ別将来推計 2007 年と 2015 年 で高齢者世帯の 食料支出額は増 加が見込まれて いる。 2)地域社会の一員としての取組と捉えられる分野 一方、流通事業者に期待される公共的な活動には、ボランティアベースで自主的 に担っていくべきと考えられる活動もある。 具体的には、防犯・防災や地域コミュニティの活性化(第三章)などは、基本的 に大きな対価を期待できない分野であるため、流通事業者の持つ既存の物流インフ ラやネットワークを活かしながら、できる範囲でボランティア活動として行ってい くことが望ましいと考えられる。 〔第一章の要点〕 流通業は技術・消費者の生活スタイル・政策の変化に柔軟に対応して進化して きた。流通事業者には、現在進行しつつある少子高齢化によって予想される様々 な変化に柔軟に対応していくことが期待されている。アンケート結果でも、地域 における流通業への期待として、「高齢者・障害者が買い物しやすい環境づくり」 や「災害時の物品・情報の提供」などが挙げられている。 そのような期待がある中、流通業においては、コンビニでの住民票発行やスー パーによる高齢者向けの送迎バス運行などの取組が進んでおり、政府も、公共サ ービスを民間主体が担うという「新しい公共」の概念を掲げている。流通業に期 待される公共サービスには、ビジネスと捉えられる買い物支援サービス、医療・ 介護・福祉分野への進出や地域社会の一員としての取組と捉えられる防犯・防災 や地域コミュニティの活性化などが考えられる。これらについては第二章以降で 詳しく分析していく。 31 ○第二章 流通による社会課題への対応1:買い物環境の改善につ いて ∼「人はパンのみに生くるものに非ず、されどまたパンなくして人は生くるものに非ず」∼ (河上肇「貧乏物語」より) 1.現状について 1)弱る流通機能 第一章で確認したように、流通の機能は、第一に、安く良質のものを生産者から 消費者へ効率的に供給する橋渡しを行うことである。流通事業者は、市場メカニズ ムを通じて、消費者の手元に生活に必要な物品を供給することによって社会に寄与 してきた。 次のページの図表 9 の全国の高齢者を対象にした調査で示されるように、流通機 能や交通の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている 「買い物に困難」というと、 人々( 「買い物弱者17」という)が増加し始めている。 医療や介護などと比べて生命に直結する深刻な課題と捉えにくいが、地域によって は深刻度が増しており、また、医療や介護のような公的な制度が整備されていない ことも踏まえ、社会的な課題として対応していくことが必要になってきていると評 価できる。買い物弱者の総数を計測することは困難であるが、図表 9 の調査で「日 常の買物に不便を感じている」と回答した 60 歳以上の高齢者が 16.6%であり、全 国の高齢者数18を掛け合わせるとおよそ600万人程度となる。 特に、地域毎に行われた調査を見てみると、農村部(図表 10)と都市郊外(図 表 11)の二類型の地域で問題が深刻化している場合が多い。ただし、その二つで は状況が若干異なる。 ②農村部の状況 まず、農村部では、過疎化がかなりの程度まで進展しているため、近隣型の商店 17 報道等では「買い物難民」と呼ばれることが多いが、 「難民」は「(政治的・宗教的事 情から)ある土地を離れて避難する人々」を指すことが多いため、当報告書ではより広 義に困難な状況にある人を意味する「弱者」を用いている。近年、海外でも、「food access」問題として各種の論文発表や報道がなされているところ。 18 全国の 60 歳以上の高齢者数は、人口推計(総務省)によると、図表 9 の調査を行っ た 17 年度で 3422 万人、21 年度で 3,717 万人となっている。前者で計算すると 548 万 人、後者で計算すると 617 万人となる。また、今回実施した(株)日本総合研究所の WEB アンケートの回答(p35 参考図表 1)から推計しても、約 500∼600 万人が買い物弱者状 態に置かれていると推測できる。 32 が成り立つ商圏人口を確保できなくなってしまったという例が多い。年齢構成とし て高齢者が多数を占めているため食料の消費量が少ないことに加え、車を運転でき る若い人は郊外のスーパーまで買い出しにでかけるため、商店が成り立つだけの需 要を確保することはなおさら難しい状況が生じている19。国土交通省が平成 20 年 度に過疎集落の住民を対象に行った調査(図表 10)でも、医療に次いで買い物に 困っている住民が多いことがわかる。 今後、人口減少が進むにつれて、限界集落化20する地域が増えると考えられるた め、需要動向はより厳しくなっていくと予想される。 ②都市郊外の状況 都市郊外の団地やかつてのニュータウンでは、同世代の住民が集中して居住して いることが多い。そのため、団塊の世代が退職していくに連れて、高齢化や人口減 少が急激に生じている。こうした地域では高齢化の進展が急であるだけに、対策が 十分にとられていないことが多く、坂の多い地域に造成された例や付随するスーパ ーが撤退してしまった団地等は既に深刻な問題が生じつつある。平成 21 年度に東 京都東村山市が郵送で実施した調査(図表 11)を見ても、商業に関する項目が上 位に来ている。 こうした地域の高齢化が進むにつれ、従来は容易であった店舗にアクセスするこ とが困難になる者の数が急速に増大するため、これを補っていく方策が早急に求め られる。 なお、こうした問題の解決策としては、「商品をどう提供するか」という流通面 に着目したもののみならず、住宅供給のあり方や公共交通のあり方など、広範な視 点から別途検討していくことが必要となる。 19 国土交通省の「人口減少・高齢化の進んだ集落等を対象とした日常生活に関するアン ケート調査」 (p36 参考図表 2)からも、 「食品・日用品の買い物先まで」1時間以上か かると回答した人が2割を超えており、かなり深刻な状況が生じていることが伺える。 20 限界集落とは、過疎化などで人口の 50%が 65 歳以上の高齢者になり、冠婚葬祭など 社会的共同生活の維持が困難になった集落のこと。 33 図表 9:全国の高齢者が生活環境において不便に感じる点 図表 10:生活の上で困っていること 34 図表 11:現在住んでいる地域の主な問題点 【参考図表1】「買い物難民」、「買い物弱者」等の状態にあると思いますか。 出所:日本総合研究所WEBアンケート 35 【参考図表2】外出先別の片道の移動時間。 出所:「人口減少・高齢化の進んだ集落等を対象とした日常生活に関するアンケート調査」 (平成 20 年度/国土交通省) 36 2)今後予想される撤退 農村部や都市郊外の一部の地域でも買い物に困る人々が増えつつある一方で、日 本の小売業全般で見ると売場が拡大している。直近 20 年の推移(図表 12-1)を見 ると、小売店の売上はさほど増加していないにもかかわらず、売場面積は大幅に増 加しており、面積当たりの売上高(売場効率)はかなり悪化している21。こうした 状態が続くと、競争力の劣る小売店は淘汰され、閉店が増えることが予想される。 図表 12-1:主要小売業の売上高・売場面積・売場効率の推移 実際、下記の商業統計が示しているように、中小小売業者を中心として、小売店 の閉店・撤退は始まっている。今後、少子高齢化・人口減少を背景に、日本の小売 業の売上は中長期的に減少していくと考えられ、撤退・閉店が一層増加する可能性 がある。 21 例えば、スーパーの売場効率は、1990 年から 2007 年までの 17 年間で約半分になっ ている。 37 図表 12-2:小売業の事業所推移(千ヵ所) 小売店の撤退・閉店が続けば、社会の高齢化の進展と相まって、買い物に困難を 覚える人々の問題は更に悪化していくのではないかと懸念される。 そのため、そうした人々の買い物需要を満たす新たな対応策への期待が高まって いる。 3)新しい市場としての買い物支援 現時点では、買い物弱者が多い地域はまだ一部に留まっている。しかしながら、 日本全体の高齢化・人口減少が急速に進展する中で、こうした地域は今後ますます 増えていくと懸念される。既に買い物に困っている人々が多い地域は、ある意味で は将来を先取りしている地域と言える。 買い物弱者が多く分布している地域は、余りビジネスには適さない地域であると 考えるのが通常である。しかしながら、逆から見れば、こうした地域には満たされ ることがない潜在的な需要が確実に広がっていることを意味する。 こうした潜在的な需要を新たなフロンティアととらえ、そうした需要に光を当て ることで、新たな事業につなげていく可能性もあるのではないか。また、そうした 地域で先進的なモデルを確立することにより、日本全体が少子高齢化していった際 に、大きなビジネスチャンスを手にすることができるのではないか。日本総合研究 所のWEBアンケート(図表 13)でも、 「自分が高齢者になったとき」には値段よ りも利便性や宅配などのサービスを重視するようになるだろうと回答する人が多 い。流通事業者は改めてそういった需要に注目し直すべきだろう。 38 図表 13:日常の食料品・日用品を買うとき、重要視している・ 高齢者になったときに重要視するだろう項目 高齢化に伴って、 「近 くて便利」、「宅配な どのサービス」、「商 品が選びやすい」な どがより重視される ように。 出所:日本総合研究所WEBアンケート 4)地方自治体の役割 買い物支援の取組は、基本的にはビジネスベースの取組で対応されることが望ま しい。しかしながら、人口が少ないなど、ビジネスとして行うことが著しく困難な 地域も存在する。 こうした地域については、民間の流通機能を補完すべく、地方自治体が積極的に 支援・協力していくべきである。 また、地方自治体が支援・協力を行う際にも、問題が深刻化するのを待つよりは、 むしろ比較的低コストで流通機能を支援できる初期の段階から積極的に関与し、連 携の素地をつくっておくことが望ましい22。 22 なお、後述するように(p73∼74)、一部の自治体では、買い物環境の改善に積極的に 取り組む動きが出始めている。 39 2.対応の方向性 1)新たな流通形態 図表 12-1 で売場面積の拡大を示したように、近年は、郊外に大規模な店舗を構 え、広範な周辺地域から自家用車による来店を期待する大型店舗の小売業が伸張し た時代であった。 しかしながら、少子高齢化や景気の悪化が進む中、郊外型の大型小売店舗の売上 も落ち込んでおり、こうした形態のみに頼っていくことの限界が見え始めてきた。 従来型の流通システムで対応できない買い物弱者という問題を考えるにあたって は、新たな状況に対応できる新しいシステムが登場してしかるべきであると期待さ れる。 今後の経営の方向性としては、もっと消費者に自ら近づき、消費者の潜在需要を 積極的に掘り起こしていく取組が図られるべきである。 その萌芽として、我々は以下の4つの形態に注目している。 ①宅配サービス(商品を顧客に届ける) ②移動販売(商品を積載した店舗ごと顧客まで移動する) ③店への移動手段の提供(バスの運行等により顧客が店まで移動するのを促す) ④便利な店舗立地(顧客の近くに商品のある店をつくる) 図表 14: 「新しいシステムの萌芽と成り得る4つの形態」のイメージ図 40 2)宅配サービス:商品を顧客に届ける(形態1) 買い物に不便を感じている人々に対するサービスとして、まずは宅配サービスが 挙げられる。図表 13 においても、現在宅配サービスを必要としていない人々でも、 高齢者になった際には重要視するだろう人が多くなっている。 郵便や宅配便に代表されるように、我が国では過疎地も含めて物流網が隅々まで 整備されており、その物流網をうまく活用することで買い物弱者を含めた地域住民 の利便性向上に資することができると考えられる。 また、ネットスーパーや生活協同組合による個配23など、新しい取組も徐々に拡 大しており、注目を集めている。 ①現状 ∼食品宅配市場の規模∼ 図表 15 で示されるように、食品宅配市場は、過去 5 年間市場の成長が続き、2009 年度では約1兆 6000 億円の市場規模を誇っている。 今後も、晩婚化による単身世帯の増加、更なる核家族化の進展による高齢者人口 の増加、といった背景を踏まえると、宅配サービスへの需要は更に高まっていくも のと予想される。 中でも、個配だけでも 8,467 億円(2009 年)と圧倒的な存在感を誇り様々な取 組を進める生活協同組合(コラム No.8 に生協の宅配サービスの取組を紹介)と、 前年比 25%増(2009 年)と成長著しいネットスーパーには注目すべきものがある。 図表 15:食品宅配の市場規模推移及び予測 23 生活協同組合による個配事業は商品を少量の注文からでも玄関先まで届けるサービ スである。 41 ∼食品宅配市場の概要∼ 食品宅配サービスの特徴の一つに、非常に多様な業態が発展・展開して市場を形 成していることがあげられる。 例えば、従来型の「出前」や「御用聞き」に加え、「ネットスーパー」や「有機 食材配送サービス」など新しい形態の宅配サービスが広がっている。運営主体も地 域の中小小売や生活協同組合から、スーパーやコンビニ、百貨店、産地の有志団体、 地方自治体など非常に多様である。 ∼ネットスーパーについて∼ 昨今、既存の流通事業者を中心に、ネットスーパー事業への参入が数多く見られ る。消費者から見れば同様のサービスに見られがちだが、事業者による在庫・シス テム投資などのリスク負担、事業者と消費者とのコスト負担といった点において、 各社各様のビジネスモデルを構築している(図表 16 に代表的なものの一覧表を掲 載している)。 それぞれのビジネスモデルを、a.店舗型、b.センター(物流倉庫)型、c.システ ム・アウトソース型、d.御用聞き型と分類した上で、各モデルの特徴を示す。 a.店舗型 既存の流通事業者がネットスーパー事業に参入する際に最も多い形態であり、 (株)イトーヨーカ堂、イオン(株)、合同会社西友などの代表的なネットスーパー企 業もこの形態である。 消費者からインターネットなどで受注を受けると、自社システムを経由し、該当 エリアの店舗に発注が飛ぶ。店舗人員が店頭在庫から該当商品をピッキングし、消 費者まで配送する。 各社ともに配送範囲を店舗の周辺数㎞としていることが多く、店舗数が少ない場 足、対応エリアは限定的になる。また、店舗在庫を活用するため、余分な在庫リス クを負担する必要がない一方、品切れによる機会損失リスクを負う。さらには、店 舗人員がピッキング及び配送作業を兼務していることも多く、店舗人員のマンパワ ーにより受注件数に上限を設けざるを得ない状況もある。 b.センター(物流倉庫)型 店舗とは別にネットスーパーのための物流倉庫(センター)を設置する形態であ り、店舗型の制約条件を解消できるとして注目される。また、フランスのカルフー ルなど海外の大手流通事業者もこの形態でネットスーパーを展開している。サミッ ト(東京) 、オレンジライフ(福岡県)、フレスタ(広島県)などが手がける。 42 消費者からインターネットなどで注文を受けると、自社システムを経由し、セン ターに発注が飛ぶ。センターの専用人員がセンター在庫から該当商品をピッキング し、消費者まで配送する。このため、配送範囲はセンターを起点に店舗型よりは広 範囲をカバーできる点や、店舗の授業員の業務負担がかからないなどのメリットが ある一方で、センター設置による初期投資負担が大きく、在庫リスクもセンターが 負っているケースが多いように、ネットスーパー事業が店舗での販売とは別にそれ なりの販売量を確保する必要がある。 c. システム・アウトソース型 既存の店舗展開をしている流通事業者で、システム投資負担を軽減したい事業者 が外部の事業者にネットスーパー事業のうちのホームページ作成・運営や商品の配 送などをアウトソースする形態であり、紀伊国屋、マルエツ、東急ストアなどが参 入している(a.店舗型の一部をアウトソースする形態と言える) 。 消費者からインターネットなどで受注を受けると、外部事業者のシステムを経由 し、該当エリアの店舗に発注が飛ぶ。該当店舗人員が店頭在庫から商品をピッキン グし、消費者まで配送する。アウトソースを受ける事業者として、楽天の子会社で あるネッツパートナーズなどの IT 系企業のほか、最近は、運輸業からの参入も見 られる(コラム No.9) 。 システムを外注することから、初期のシステム投資負担が僅少となるが、流通事 業者の利幅が小さくなるという側面もある。また、ピッキングは各店舗で行うこと から、完全なアウトソースはできていない点も特徴的である。 d.御用聞き型 御用聞き型とは、御用聞きサービス提供者が定期的に消費者を訪れて注文を請け 負い、小売店舗に商品をピッキングに行き、消費者まで配送を行う類型のことであ る。しかしながら、サービス提供者がビジネスを継続できるだけのビジネスモデル は築くことは難しい。 大手商社の子会社が東京を中心にサービスを開始したことがあるが、採算が合わ ず 2 年弱で撤退した。そうした中、三重県のスーパーサンシは、高齢者に限定して ではあるが「安心クラブ」という定期的に会員に御用聞きを行う取組を行っており、 注目に値する(コラム No.10) 。 43 図表 16:主なネットスーパーの取組状況の一覧表 イトーヨーカドー イオン (イオンリテール 運営のもののみ) 西友 イトーヨーカドーネット イオンネットスーパー 西友ネットスーパー スーパー 名称 マルエツ マルエツネットスー パー サミット サミットネットスー パー ユニー アピタネットスーパー 形態 (店舗型/配送セン ター型) 店舗型 店舗型 店舗型 アウトソース型 センター型 店舗型 ネットスーパー 開始年月日 2001年3月 2008年4月9日 2000年5月 2003年3月 2007年4月 2007年8月 サービスエリア 北海道、東北、関東、 中部、近畿、中国エリ ア(23都道府県) 東北、関東、中部、近 畿、中国、四国エリア (19都府県) 展開店舗数 124店舗 80店舗 47店舗 2店舗 ― 4店舗 取扱商品数 約3万点 約6,000点 約4,000点 約4,000点 約4,000点 約13,000点 通常配送料 東京都ほぼ全域、埼玉 東京都、神奈川県の一 東京都の一部地域 県、神奈川県、千葉県 部地域 の一部地域(4都県) ■購入金額5,000円未 315円 満 (一部店舗では購入額 ・当日∼3日先:525円 により525円、315円の ・4日先∼8日先:315 105円(購入金額5,000 525円(購入金額5,000 二段階) 円 円以上(税込)無料) 円以上(税込)無料) ■購入金額5,000円以 (一定額(店舗毎に異 上 なる)以上購入で送料 ・当日∼3日先:315円 無料となるキャンペー ・4日先∼8日先:無料 ン実施中) ■通常 ・購入金額5,000円以 上:105円 ・購入金額5,000円未 満:315円 ※ナイト便は+315円 ■前日24時までの予 約の場合(お得便) ・購入金額5,000円以 上:無料 ・購入金額3,000円以 上:105円 ・購入金額3,000円未 満:315円 名古屋市の一部地域 315円(購入金額3,000 円以上:無料) 配達指定 翌日まで 翌日まで 翌日まで 8日先まで 1週間先まで 翌日まで 買物金額(税込)の 下限・上限指定 なし 下限:1,200円 上限:10万円 上限:3万円 上限:29,999円 なし ー 一日の便数 3∼5便 (店舗によって異な る) 3∼5便 (店舗によって異な る) 4便 かまた店:4便 長津田店:5便 3便 +翌日配送便 4便 最短配達時間 3時間 3時間 3時間 かまた店:6時間 長津田店:3時間 5時間 3時間 PC ○ ○ ○ ○ ○ ○ TEL × × × × 電話会員(月額315 円)のみ 注文方法 ○ × (2010 年 4 月時点での情報をベースに株式会社日本総合研究所作成) 44 ∼高齢者向け宅配サービスの登場∼ 近年、買い物に困難を覚える高齢者等が増加していることを受け、地方自治体の 中には、商店街やボランティアが行う買い物支援サービスに対して補助金を出して 支援するケースが見られ始めている。p74∼75 に地方自治体の買い物支援の取組 をまとめたが、宅配を行うものが多い。 国としても、例えば厚生労働省が「安心生活創造事業」において千葉市や横浜市 のような都市部の自治体から飯豊町(山形県)や小菅村(山梨県)のような人口の 少ない地域に及ぶ52市町村を選定し、高齢者等の「買い物」と「見守り」を確保 する取組を行っており、持続可能な先導的モデルを創出することを目指している24。 ②今後の課題 このように多様な形態を持つ食品宅配サービスであるが、今後のビジネスとして の更なる発展と地域住民の利便性向上のためには、以下のような課題が存在する。 Ⅰ.高齢者等の買い物適応力が低い人々への対応 住民の年齢や特徴(ITリテラシー25の不足等)によっては、既存の食品宅配 サービスを十分に活用できていない場合がある。例えば、ネットスーパーのよう に注文をインターネット上で注文・決済等を行うことが必要な場合、パソコンの 操作ができない高齢者が自力で注文することは難しい。 また、サービスの種類によっては、価格や配達料等が高価で誰もが気軽に利用 できるわけではないものもある。 こうした課題の解決のためには、IT機器の操作が苦手な高齢者の代わりに遠 方に住む家族がネットを介して注文したり、高齢者でも使いやすいプッシュホン やタッチパネル等での注文システムを導入したりしていくことが求められる。 24 安心生活創造事業とは、厚生労働省が選定する地域福祉推進市町村が実施する一人暮 らし世帯等の見守りと生活必需品などの買い物支援事業を推進するモデル事業である。 詳細は以下のページを参照。 http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/anshin-seikatu.html また、見守りについては第三章で別途扱う。 25 ITリテラシーとは、情報技術を使いこなす能力のこと。 45 Ⅱ.宅配対応エリアと所要時間のトレードオフ26 食品宅配サービスは多様であるが、それぞれ長所と短所を有している。例えば、 即日配送のネットスーパーは、注文から配送までにかかる所要時間は短いという 長所があるが、対応できるエリアは狭いという短所がある。 一方、生協や自然派食品等の定期配送型の宅配サービスは、週に一回程度の配 達となり注文から配達までの所要時間も長いが、対応エリアは広い傾向にある。 すなわち、宅配の対応エリアと所要時間はトレードオフの関係にある。 消費者としてはこうした多様な食品宅配サービスを状況によって使い分けて いくことが期待されるとともに、事業者側のイノベーションによりトレードオフ の関係をある程度解決していくことも引き続き求められる。例えば、宅配便業者 との提携により、当日配送と広域配送を両立させた例などは注目に値する(コラ ム No.9) 。 図表 17: 【概念図】食品宅配サービスの発展可能性 <概要図の説明> 食品宅配サービスの宅配対応エリアと所要時間に着目して、今後の発展可能性 について整理を行った。 26 トレードオフとは、両立し得ない関係性のことであり、一方をとると他方を失うこと を指す。 46 ネットスーパーについては、即配が可能であるというメリットがあるという一 方、注文を行うのに一定の IT リテラシーが必要であり、対応地域も都市部に限 定されがちであるというデメリットがある。①注文を IT に慣れていない層でも 利用できるような、注文の簡素化などの工夫はできないか、②事業者間連携(大 企業のみならず商店街やNPO等とも)や官民連携によるコスト削減により、今 後の需要拡大に向けたサービスのエリア拡大ができないか、といった方向性が考 えられる。 生協、有機食材配送などの定期配送については、簡単に誰でも注文でき、対応 地域も広いというメリットがある一方、届くのに時間がかかることが多いという デメリットがあることが多い。③事業者間連携(大企業のみならず商店街やNP O等とも)や官民連携によるコスト削減により、配送頻度の改善ができないか、 といった方向性が考えられる。 Ⅲ.宅配等にかかるコストの負担 食品宅配サービスの運営に際しては、受発注処理のための業務コストや、宅配 のための物流コスト、即日配送を可能とする場合には在庫コストなどが必要とな る。 しかしながら、 「サービスは無料」と考えがちな消費者が多いことや、ネット スーパー事業者間の競争が激しいことなどから必ずしもコストを価格に転嫁で きない場合も多い。下記の日本総合研究所のアンケート(図表 18)27でも、宅配 料のあり方が利用の障壁になっていることがうかがえる。 また、地方自治体等から補助金等を得て宅配サービスを行っている事業者につ いても、同じように宅配コストを価格に転嫁できず、補助金の終了とともに事業 の継続が困難になってしまう事例も多い28。 食品宅配サービスの事業継続と更なるビジネスとしての発展のためには、適正 な費用については料金を徴収できるようにする仕組みをつくっていくとともに、 宅配に要するコストを更に削減していくような工夫が求められている。 このような工夫の方法としては、複数の事業者が連携・協力していくことが考 えられる。事業者間で連携・協力を行っていくことで、システムの開発コストや 配達料などの物流コスト負担の軽減、あるいはノウハウの活用が期待できる。 27 この調査では、インターネットを使いこなせる(IT リテラシーが高い)者のみを対 象としたWEBアンケートであるため「インターネットを使うことができない」等のI Tリテラシーを課題とする回答は非常に低くなる。 28 2009/10/15 東京新聞朝刊 11 面「地方に“買い物難民” 過疎高齢化、地元商店街の 衰退」 47 また、連携・協力の形についても民間事業者間だけでなく、商店街やNPOな どの団体、あるいは官民連携など、多様な主体間の結びつきが考えられる。 図表 18:インターネットスーパーを利用しない理由 出所:日本総合研究所WEBアンケート 48 コラム No.8 ~ 買い物弱者を支える多様なサービスを提供 生協 ~ 生協の宅配事業は、食料品を中心として日常生活のための商品を幅広く取扱い、各都 道府県のほぼ全域に対してサービスを提供している。そのため、山間僻地・離島を始め として、多くの地域で買い物に不便を感じている人々の生活を支えている。 滋賀県の「コープしが」では各世帯に直接訪問する生協の個配事業の特性を生かし、 宅配時に安否確認を実施している。具体的には、高齢者等へ配達をした際に、離れた場 所に住む家族(高齢者の代わりにネットで注文)へと安否をメールにて連絡する仕組み をつくっている。 生協では買い物弱者の生活を支える多様な取組を進めている。「コープかごしま」で は、中山間地域及び県内 25 の離島すべてに配達事業を実施しており、生協の配達が生 活を支えている地域も多い。「コープぎふ」では、組合員による配達拠点の提供等で効 率化を図るなど生協ならではの取組も行われている。その他、「コープやまぐち」では 高齢者向け福祉サービス夕食(お弁当)宅配を行っていたり、「コープさっぽろ」のよ うに店舗へ買い物バスの運行をする生協もある。 各地域生協での取組 こうち生協:高知県・高知県民生委員児童委員協議会連合会と「地域見守り活 動に関する協定」を締結。 みやぎ生協:宅配車両にAEDを搭載(現在12台、将来的には全社配備を目指す) 配達員全員が救急救命講座を受講。 コープしが:遠隔地の家族が、高齢者に代わってPCで発注可能。 定例配達日の夜、指定さ れたEメールアドレス宛 に配信。配信内容は 『配 達○○時頃 お会いでき ました。』 、『配達○○頃 お会いできませんでし た。』の二種類 49 コラム No.9 ~ 物流事業者とネットスーパーの連携 ヤマト運輸 ~ 地域の中小スーパーがネットスーパー事業を開始する際には、注文管理のシステム や物流網の整備への投資が必要であり敷居が高い。ヤマト運輸(株)では自社の物流網 を生かした配送サービスと、ネットスーパーの運営のためのシステムをパッケージ化 し、サービスを提供している。 このサービスを活用することにより、自社での設備投資を低減し、地元スーパーで も容易にネットスーパー事業を開始できる。また、ヤマト運輸のネットワークにより 中山間地域や買物が不便な地域への配達が可能になる。 例えば、福島県福島市周辺で店舗展開している地域密着型の食品スーパー「いちい」 がそのサービスを利用し、福島県内でも同社の店舗がなかった地域からの注文が入る 等の成果が出始めている。 また、ヤマト運輸(株)では宅配便の伝票を発行する端末を活用し、パソコンを使用 できない高齢者にも気軽に注文可能な端末を開発している。集会所等の各地域の拠点 に設置することにより、遠くのスーパーに出向くことに比べ小さな負担で買い物を可 能にしている。 ネットスーパーサポートサービス × 宅急便ネットワーク ネットス−パー運営システム(ASP) eネコネットスーパーと、お買い物便ASPを組み合わせることにより、 自社でシステム構築を行う必要がなく、いち早く、スムーズな運用開始が実現できます。 [注文情報] [ピッキングリスト] IT・FT [受付]・[運用] e-ネコネットスーパー ヤマトダイアログ &メディア エリアダイアログサービス Internet 代行入力 購 入 者 お買い物便ASP ヤマトコンタクトサービス コールセンター 買 配送 IT 買物代行(店員) 物 エントリ⇒伝票発行⇒ 出荷準備 [受注情報] 来店購入 50 集荷 LT・FT ヤマト運輸 ヤマトフィナンシャル コラム No.10 ~ 宅配事業 スーパーサンシ ~ 近年、多くの企業がネットスーパーへ参入するものの赤字で苦しむ中、黒字化して いるケースとして、宅配事業を行うスーパーサンシ(株)がある。 自社での配送業務の実現、店舗と宅配拠点の統合、宅配車両のカバー範囲を 15∼20 分とする高密度配送、ロッカーの設置による再配達の手間の回避など様々な取組を行 っている。 スーパーサンシは、30 年以上地域 1 番店を維持している店が 3 店舗あり、また、宅 配事業を 24 年間続けている。こうした企業の知名度、長年の実績に裏づけられた地 域からの信頼が、宅配事業を後押ししており、リピーター会員による売上が、宅配事 業の 7 割以上に上っている。 60 歳以上の高齢者には、対象にした宅配事業「安心クラブ」というサービスを行っ ている。これは、会員が希望する時間に担当者が電話をかける「御用聞き」サービス である。安否確認も兼ねており、利用者からの支持・信頼を高めている。 また、グループ会社のフレッシュシステムズ(株)を通じて、蓄積したネットスーパ ー事業でのノウハウを他地域の中小スーパーにも提供している。 <Data> ○概要 (体制)スーパーサンシ13店舗中7店舗で宅配事業実施(*) (桑名店、いくわ店、こもの繁盛店、日永カヨー店、鈴鹿ハンター店 亀山エコー店、河芸店) (対象)三重県のいくつかの地域(商圏世帯数45万) (内容)宅配カタログを年2回作成、4500品目を掲載 電話・インターネットの両方で注文可能 クリーニング、写真プリントや資源ごみ回収も実施。 高齢者を対象とした御用聞きサービス「安心クラブ」を展開。 (宅配会員数) 1.3万世帯、内アクティブ会員は9700世帯 (宅配実績) 7店舗合計平均注文件数 3500件/日 *7店舗で営業エリアをすべてカバーできるため、全店舗では実施していない 51 3)移動販売:商品を積載した店舗ごと顧客まで移動する(形態2) トラックなどで食料品や日用雑貨を販売する移動販売が、中山間地などの過疎 化の進んだ地域を中心に行われている。消費者が実際に商品を見て購買できるこ とから、高齢者等の活力や健康の維持にも資すると考えられる。 移動販売の形態としては、青果など単一商品群を販売する移動商店が中心であ るが、鮮魚・精肉・青果等の生鮮3品を中心に多様な商品群を販売する移動スー パーもある。店舗が周辺にない地域での利便性向上を考えれば、移動スーパーの ような生活必需品を一通り揃えることのできる移動販売の仕組みには期待が大 きい。 ①現状 ∼移動販売市場の概要∼ 移動スーパーの販売車両台数の把握は困難であるが、現在の移動スーパー車両 の稼働台数は 150∼200 台程度であると考えられる29。ただ、近年は景気悪化を受 け、新規事業者の数は低迷していると考えられる30。こうした状況を受けて、地 域における移動スーパーの役割を評価する幾つかの地方自治体では、車体購入や 事業維持への補助等を実施する動きが起こっている31。 一方、最近では都内の団地を専用トラックで巡回し、それぞれ毎週決まった曜 日・時間に開業する都市型の移動販売の取組も始まっていることも注目される。 ∼担い手の現状∼ 移動販売の担い手は、把握は困難であるが、小回りのきく個人事業主が圧倒的 に多いと考えられる。近年は、リヤカーによる引売りよりも、改造した軽トラッ クで移動販売する業態の方が主流になっている。 過疎化や高齢化の進展と共に移動販売の売上も減少しているため、地域商店や 個人事業主の移動販売事業からの撤退は増加傾向にあると思われる。世代交代も 起こり難いため、担い手自身の高齢化も深刻となっていると予想される。 地域によっては、地場スーパーや農業協同組合が行っている場合もある。しか しながら、採算の厳しさという面では同じ課題を抱えており、撤退の事例も生じ ている。 29 業種別審査辞典[第 11 次](金融財政事情研究会編)参照 移動販売用車両生産大手の「(株)テクノクラフト」によると、1988 年には年間 50 台 を超えた移動販売車両の販売も近年は毎年1桁台にまで落ちているという。 31 コラム No.11 で高知県の事例を紹介している。 30 52 ②今後の課題 現在経営的に厳しい状況にあると考えられる移動販売であるが、この苦境を乗 り越え、今後のビジネスとしての更なる発展と地域住民の利便性向上のためには、 以下のような課題が存在する。 Ⅰ.商圏居住人口の減少の中での採算性の確保 過疎化や高齢化が更に進む中で、商圏人口の減少が今後も続くため、ビジネス モデルの転換なくしては事業の維持がますます困難になると予想される。 移動販売の利用者を増加させるためには、例えば新鮮な商品や密なコミュニケ ーションといった付加価値をつけることで、現在は移動販売を利用していない類 型の地域住民の需要を掘り起こし、利用してもらう努力も必要なのではないか。 また、コラム No.11 で紹介する高知県の(株)サンプラザのように、毎回移動販 売を利用していた高齢者が来店しないときに民生委員に連絡するという高齢者 の安否確認に力を入れることで、行政から補助金を受け取った例もある。移動販 売について地方自治体が支援するための条件整理・支援の有効性評価などを行っ ていくことも e ビジネスとしての更なる発展を目指していく上で効果的である と考えられる。 Ⅱ.販売コストの軽減策 日本総合研究所のアンケート(図表 19)でも、移動販売者・移動スーパーを 利用しない理由として商品価格や利便性への不満が多い。 しかしながら、一方では、移動販売の運営・事業の維持には、人件費や車体購 入費、ガソリン代など、多大なコストが必要であり、単に価格を下げたりサービ スを拡充したりすることも難しい。 そうした課題の解決のためには、図表 20 のように共同仕入れで事業者が連携 したり、自治会等から集会所等の拠点となる場所の提供を受けることで経費節減 が可能かどうかの検討などコスト軽減に対する取組が必要である。 53 図表 19:移動販売車・移動スーパーを利用しない理由 出所:日本総合研究所WEBアンケート 図表 20: 【概念図】移動販売の発展可能性 <概念図の説明> 移動販売サービスの売上と経費に着目して、今後の発展可能性について整 理を行った。 移動販売サービスの事業の維持・存続のためには、売上増加と経費削減が重 要になる。売上増加を目指し、①の矢印のように「潜在的顧客の掘り起こし」 の方向性に取り組むことや、経費削減を目指し、②の矢印のように「他事業者 との連携」といった方向性に撮る組むこと等が考えられる。 また、中山間地域や一部の団地などにおいては、地域の生活を支える公共性 を明らかにした上で、③地方自治体の支援を得る、という方向性も考えられる。 54 コラム No.11 ~ 移動販売車 ハッピーライナー ~ 高知県の中山間地域に散在する集落においては、高齢化 ・人口減少による商店の撤退が 相次いでおり、買い物に苦労する住民が増加する傾向にある。 (株)サンプラザでは、十数年前から移動販売車事業に参入し、現在は高知県佐川町、土 佐市、高知市の過疎化の進む山間部や福祉施設等を対象に移動販売スーパー「ハッピーラ イナー」の運営を行っている。豊富な商品群を用意するだけでなく、雑貨等の買い物代行 サービスも行うことで、住民に総合的な購買機会を提供している。買い物に来る高齢者に 異変があればサンプラザ側が民生委員に連絡をするなど、社会貢献活動にもつなげている。 収益が悪化する中、事業停止を検討したが、2009 年 10 月に県の補助を受けることが決 まり、5 年間の継続を決定。高知県では、県職員を市町村に常駐させる「地域支援企画員」 制度を平成 15 年にスタートし、ハッピーライナー等の移動販売への期待が大きい」ことを 的確に把握していた。 <Data> ○概要 (体制)6台の車両で、日曜日を除く毎日、一日に30箇所程度ずつを巡回している。 (対象)高知県佐川町、土佐市、高知市の過疎化の進む山間部や福祉施設等。 買物をするのが不便な山村部や農村部の各集落を中心に実施。 (内容)販売商品は、店頭商品と同様で、価格も同様。 品揃えは、肉類・魚・果物・野菜などの生鮮食品をはじめ、米や調味料、パン、お菓子、 飲料水、洗剤、電池、石けん、ペットの餌など。量は少ないものの種類は豊富。 ○備考 ・㈱サンプラザによると、ハッピーライナーの車両のリース代や人件費を差し引くと利益はほとん ど残らないとのことである。背景には、人口減少に伴う顧客減と高齢化 による客単価の減少が ある。 ・収益面をも踏まえた、継続的な事業実施に向けた対応、更なる高齢化・人口減少等の社会環 境変化への対応が課題。 移動販売車は、近隣にスーパーがない中山間部などの地域住民からの期待が高い。しか しながら、全国で稼働している移動販売車は150台程度と少数にとどまっており、民間 事業者から見た場合、魅力的な事業ではないのが現実のようである。冷蔵設備を有した車 両設備、商品ロスなどの初期投資やコスト面の問題、商品アイテム数が少ないことによる 収益面の制約、といった点が要因と考えられる。 移動販売車事業へ新規参入を考えている事業者のために、具体的な収支事例を紹介した い。サンプラザの資料によると、2008 年度ハッピーライナー事業(高知市近隣を販売エリ アとし、車両6台で販売した場合)の年間売上高は 194 百万円、1 台当たり年間売上高は 32 百万円程度、平均日販は 10 万円程度となる。営業利益では 1 百万円程度の赤字となっ ている。主なコストは、商品仕入、車両費、人件費、その他雑費である。サンプラザの場 合は店舗販売も行っているため、商品仕入コストは移動販売車のみを行うよりは安価とな っている可能性があるが、重い車両費負担を吸収できていない状況といえる。ハッピーラ イナー事業の収支実績、将来収支の見通しから検証したところ、年間 3∼5 百万円の補助金 を受けられれば、安定的な事業継続が可能になるのではないかと考えられる。 55 4)店への移動手段の提供(形態3) 買い物弱者の問題は、交通問題としてもとらえられる。 店舗への移動について、自家用車を持っていない地域住民は、鉄道、バス、タ クシー等の公共交通機関を利用する。周辺に小売店舗が皆無であったとしても、 公共交通のアクセスがきちんと確保されていれば問題の解決につながるからで ある。 また、公共交通機関以外にも、地域や路線は限られるものの、ボランティアに よる送迎サービスや小売店舗が送迎バスを出す例も多い。 なお、買い物は「生活必需品の調達作業」としてのみ据えるべきものではなく、 むしろ、様々な商品を自ら選んで歩いたり、店員とのコミュニケーションをする ことは買い物の楽しみと言えるだろう。この点において、店舗での買い物は、商 品の宅配や移動販売では十分に満たされない消費者の欲求に応えるものであり、 その意味において、店舗への移動手段の提供は重要である。 ①現状 ∼地方公共交通の現状∼ 地域全体の活力が低下する中で、地域公共交通機関の撤退が増加している(図 表 21)。 過疎部でもタクシーであれば利用できることは多い。しかしながら、行き先が 自由に選べるという利点がある一方、 料金が高いため日常の買い物のためだけで は利用をしにくい。逆に、バスや鉄道等は料金が安いという利点があるが、路線 自体は残っていても必ずしも行きたいところに路線が届いていなかったり、停留 所・駅がないことも多い。 そうしたギャップを埋めるため、近年、コミュニティバス(図表 21) 、デマン ドバス・乗合タクシー等による乗合旅客運送、市町村運営有償運送、過疎地有償 運送などの自家用有償運送による住民が安価でかつ便利に利用できる仕組みが 制度的に整備されており、多くの注目を集めている(図表 22、図表 23) 。 56 図表 21:乗合バス輸送人員とコミュニティバス導入件数推移 図表 22:地域公共交通の概念図 <概念図の説明> 「店への移動手段」の行き先の柔軟性と利用料金に着目して、今後の発展可能性 について整理を行った。 バス・電車については、①デマンド化によって、利用料金を低額に押さえつつ、 行き先の柔軟性を確保できないか、といった方向性が考えられる。 タクシーについては、②乗合タクシーとすることで、行き先の柔軟性を確保しつ 57 つ、利用料金の低額化を図れないか、といった方向性が考えられる。 店舗送迎、ボランティア移送などのその他の送迎サービスについては、③事業者 間の連携、過疎地有償運送などの制度の活用によって、行き先の柔軟化を図りつつ、 利用料金の低額化を図れないか、といった方向性が考えられる。 ∼移動支援の概要∼ 一般的な移動支援としては、バスや鉄道等の既存の地方公共交通機関に補助金 を出している事例が多い。その他、地方自治体等の補助により独自の移送サービ スを行っている例(コラム No.12・13・14)や、過疎地有償運送等の仕組みを使 うことでボランティアが移送サービスの一環として行う例もある。 また、小売店舗等が独自の送迎バスという形で行うこともある。駅と小売店舗 だけを結ぶ路線のみとすることが多い中で、コラム No.6 で紹介したように、予 約すれば自宅まで迎えに来てくれる送迎バスを運営しているA−Zの事例は注 目に値する。またコラム No.15 の(株)ダイエーのように、住民が店舗以外のとこ ろに行く際にも利用できる工夫を行っているところもある。小売業以外でも、自 動車教習所のバスを高齢者の移動手段として活用するなどの取組が地域におい て検討されている。 さらに、海外では、郵便集配車で地域住民を運送する「ポストバス32」や高齢 者に優しい店舗づくり(コラム No.17)店内移動を支援するショップモビリティ (コラム No.18)が大々的に導入されている地域もある。 なお、国土交通省では、地域公共交通の活性化や地域住民の移動手段の確保な どを目的として、コミュニティバスや乗合タクシーの導入、地域の公共交通機関 の再編などの取組を支援する地域公共交通活性化・再生総合事業を行っている。 この事業では、市町村を中心として、交通事業者や商工会、住民団体等の利害関 係者が集まって組織する法定協議会の活動を支援している。具体的には、バス等 の実証運行・バス車両等の購入、利用促進事業など、法定協議会が行う事業に対 して、全国250件以上の支援を行っている。現状では、この法定協議会の利害 関係者として、流通事業者が参加することはあまりないが、地域の生活者にとっ て買い物は通勤・通学と並んで公共交通機関を使う機会であることを踏まえると、 流通事業者の積極的な参加が望まれる。 32 イギリスでは、郵便集配車が、高齢者や障害者を乗せて、集落と地方都市との間を輸 送するポストバスというサービスがある。郵便集配と住民輸送という2つのサービスを 1台のバスで一度に提供している。 http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/soukou/ppg/ppg1/ppg1-2.html 58 図表 23:地域の生活交通システムの特徴 出所:「生活交通ハンドブック」(青森県企画政策部) ②今後の課題 このように新たな制度も導入されている「店への移動手段の提供」であるが、今 後のビジネスとしての更なる発展と地域住民の利便性向上のためには、以下のよう な課題が存在する。 Ⅰ.利便性の向上による利用の増加 路線バスは地域住民の足である。しかしながら、地域によってはバス停が設置さ れてから長い年月が経ち、ルートやダイヤが地域住民ニーズから離れてしまい不便 になってしまっていることが多い。 また、コミュニティバスや小売店舗が行う買い物送迎バスについても、特定の用 途以外には使いにくいこともある。 こうした地域では利用者の減少がバスの経営を圧迫し、このことが利用者の利便 性を損なう合理化策をバス会社にとらせ、その結果として一層利用者を減少させる といった悪循環を生み出している。この悪循環を断ち切るためにも、住民の利便性 を向上させるとともに、利用者の増加を計っていく工夫を、バス会社、利用者を含 む関係者が一緒になって検討していくことが求められる。 例えば、地域のニーズにあわせてルートを見直す等、住民がより使いやすくする という発想から既存のバス路線を再構成する取組を行うことも有効であると考え られる。 Ⅱ.事業開始手続きの煩雑さの解消 コミュニティバスや過疎地有償運送のように新規の運送サービスを始める際、あ るいは路線の変更等の際には、許可等の様々な手続きが必要となる。特に、前例が ない分野の場合には手続きに多くの時間を要することが多い。しかしながら、地方 59 では申請のノウハウを持った事業者も少なく、手続きが煩雑であればあるほど取組 を辞めてしまう可能性が高い。 これについては、地域で無償のボランティアによる輸送(ただしガソリン代など の実費を受け取る場合は、無償と解する。 )として行う場合には、道路運送法の規 制にかからず、こうした手続きは不要となるため、行政が車両を無償で自治会・住 民に貸し付けて、ボランティアが運行しているケースもある。 このように、地方自治体の制度・支援のあり方について、地域の実情に照らしな がら検討を進めることが必要である。 Ⅲ.流通事業者の関与 国・地方自治体による商業活性化の取組としては、アーケードの設置や空き店舗 対策のような商店街のハード事業への補助金を通じて行われることが今までは多 かった。しかしながら、2009 年に地域商店街活性化法制定や 2010 年の過疎地域自 立促進特別措置法の延長を受け、イベントやポイントカードのようなソフト事業も 支援対象になりつつある33。 こうした動きに鑑みれば、これからは単に商店街の領域に留まらず公共交通機関 と店舗の連携により、地域住民の利便性とバス運営の採算性をともに向上させる方 策も考えられる。例えば、両者が連携することにより、買い物ポイントでバスを利 用することを可能にしたり、公共交通機関利用者への割引等を行っていくことが考 えられる。 大手小売業や商店街も、集客は地域で協働しながら行うものという発想から、積 極的に地域公共交通会議等の地域の協議の場に参画していくべきであると考えら れる。その際には、妥当と認められる範囲内で費用負担等を行っていくことも期待 される34。 33 いずれも今まで事業対象がハード事業に限定されていたが、法制度改正でソフト事業 も支援対象となった。 34 日本最大のコーペラティブチェーンであるCGCグループの加盟企業に対するアンケ ートによると、61.9%の企業が買い物弱者を対象に「何らかの取組を行うことを考えて いる」と回答している。 60 コラム No.12 ~ 予約制のオンデマンドバスの可能性 ~ 交通が不便な地域での足としてこれまでコミュニティバスが多く導入されてきた。し かし、コミュニティバスは決められた時間に、一定のルートを走るため、その時々の住 民の需要を反映できず、利用者を確保できないといった課題がある。特に住民の少ない 地域においては無駄が多く発生し、採算が取れないことも多い。 柏市で実証試験が行われているオンデマンド交通システムは予約制の乗り合いバス であり、乗客の予約状況によって運行時間、運行ルートを決定するため、路線バス・コ ミュニティバスに比べ効率的である。また、特定のルートを走行しないために、利用者 の自宅前など多数のバス停を設置できるためバス停への便が良いといった特徴がある。 これまでのデマンド交通システムでは、予約管理や経路設定をオペレーターが実施し ており、土地勘や高度な経路設定能力が必要 であった。また、運行ルートが変わるために 所要時間の予測が難しく、遅延の発生につい ても課題となっていた。 柏市でのオンデマンドバスの実証実験では 東京大学大和教授らの作成したシステムを用 いてオペレーションを自動化し、高効率化を 試み、約束した時間を遵守する等の活動に 取り組んでいる。 病院に行きたい。 路線バス 決まった時刻に 決まった経路を移動 コンビニに行きたい。 61 オンデマンド交通 乗客の希望に 合わせて移動 コラム No.13 ~ NPO によるバス事業の運営 ~ 三重県四日市市では、平成 14 年 5 月にバス路線が廃止されることになった。当時の 住民アンケートの結果では「買い物・病院へのアクセス手段がなくなるのは困る」とい う意見が圧倒的であった。そこで、当時自治会の副会長であった西脇氏が、バス存続要 請を行ったがかなわず、有志と新たな公共交通機関の立ち上げに乗り出した。平成 14 年 9 月に「生活バス四日市運営協議会」を発足し、平成 15 年に有料の本格運行を開始。 NPO 生活バスよっかいちは、利用者の運賃、沿線の協賛事業者からの賛助金、市から の補助金により運営されている。当事業では、利用者目線に立ち、回数券、200∼300m 間隔の停留所、医療機関等を経由等の様々な仕組みづくりに注力している。 <DATA> 補助 ○概要 四日市市 NPO (生活バスよっかいち) (体制)バス種類:29人乗りバス 1台 運行主体:NPO法人生活バス四日市 車両・停留所への広告 運行経費 (内容)運賃:100円/回(回数券・“応援券”)あり 運行区間:路線距離:8.4km. 停留所数:21箇所 運行時間:本巣:午前11時∼午後6時台 2時間間隔(5.5往復/日) 運行形態:三重交通㈱と委託契約(道路運送法上の「21条許可」) バス事業者 (三重交通) 協賛金 運行ルート 地域住民 等の協議 のNPO参 加 検討 スポンサー (スーパー・病院等) 住民の足を確保 買物・地域振興 利用者(地域住民) (利用者数)100人/日 コラム No.14 ~ 住民主導によるコミュニティバスの運営 ~ 千葉県千葉市の青葉台地区は路線バスの路線から外れており、平成 3 年からバス路線 開設についての要望が出ていた。要望を出すうちに、住民自身の力で実現しようという 機運が高まっていった。 また、行政でも同時期に住民の意識を「要望型」から「提案型」に変える取組を行っ ていた。具体的には、平成 11 年ごろから 2 年程度かけて、毎月地域に出向き話し合い を行い、住民主導により地域づくりを行っていくという住民の意識変革に取り組んだ。 そうした努力の結果、平成 17 年 4 月に、地域町内会の会員が主体となりコミュニテ ィバス運営委員会を発足し、同年 11 月にはコミュニティバス「あおばす」の運行を開 始した。地域住民が主体となって、バスのニーズの掘り起こし、運行ルートの作成、運 賃の設定等を行い、地域の「マイバス」としての機能を実現した。 <DATA> ○ 概要 (体制)車両 :小型バス(32 人乗り)一台 運行主体:青葉台コミュニティバス運営協議会 (対象)青葉台地区住民(世帯数約1千世帯、人口約3千人) (内容)姉崎駅から帝京大学ちば総合医療センター間を運行 運賃 :路線バスに準じる(大人 100∼210 円) (年間利用者数) 平成 17 29,092 人 平成 18 83,862 人 平成 19 91,468 人 (11 月から運行) (4 月から土曜日の運行開始) 62 コラム No.15 ~ 大手小売事業者による無料送迎バスの運用 ~ (株)ダイエーでは、北海道の一部店舗で集客のための買い物無料送迎バスを運行し ている。 地域との共生を目指しており、地域住民が市役所や中学校等の公共施設や病院に行 く際にも使用できるようにルートを組んでおり、例えば上磯店では、利用者数も運行 開始時の 70 名/日から 150 名/日へと順調に増加している。 ダイエー上磯店 ダイエー岩見沢店 コラム No.16 ~ コミュニティバスを活用した中心市街地活性化 ~ 土浦市では、バス利用不便地域の緩和と公共交通利用の促進、そして中心市街地の 活性化を目的に、NPO法人まちづくり活性化バス土浦がコミュニティバスの「キラ ラちゃんバス」を運行している。 商業関係者が中心となって実施計画を策定し、運営設定やルート選定の設立を行っ た。中心市街地の協賛店で 1,000 円以上の買い物をすると「地域通貨圏 100 キララ」 がもらえ、帰りの運賃が無料になるシステムを導入。これは中心市街地の活性化を目 的としたもので、消費者も商業者も両方得をしようという試みである。 「市民が支えるバス」という呼びかけに、市民をはじめ地域の商業者のサポーター (賛助会員)等の協賛も得ている。その他にも車内広告(ポスター、チラシ等)を掲 載し、お互いにメリットが出る形を追求している。 63 コラム No.17 ~ 米国スーパーBloom 消費者に優しい店舗づくり ~ アメリカバージニア州を中心に展開するスーパー「Bloom」は、全米有数のスーパー マーケットチェーン Food Lion が消費者の買い物行動の変化に対応するため、2 年の期 間をかけリサーチを行った結果開発した新しいタイプのスーパーマーケットである。 大型化の進む現在のスーパーマーケットは、利用者にとっては欲しいものが見つから ず消費者にとって好ましい場所ではない、というリサーチ結果に基づき開発された店舗 モデルは、手間がかからず買い物をするための様々な仕組みで構成されている。 店内に入るとまず牛乳や卵など毎日必要なものや惣菜がまとめられ、そこで会計もで きる「テーブルトップサークル」と呼ばれる売場があり、短時間に買い物を済ませたい 人たちはもとより、高齢者や障害者にとっても広い店内を歩き回らずに買い物をするこ とができるというメリットも提供している。 【Bloom 【Bloom企業概要】 企業概要】 創業 :2004 創業 :2004年 年 親会社 1200店舗を展開す Lion LLC. LLC.(アメリカ東海岸を中心に約 (アメリカ東海岸を中心に約1200 店舗を展開す 親会社 :Food :FoodLion るスーパーマーケットチェーン) るスーパーマーケットチェーン) 店舗数 店舗数 :68 :68 店舗(2009 店舗(2009年 年22月) 月) 店舗面積:30,000∼40,000 店舗面積:30,000∼40,000スクエアフィート スクエアフィート コラム No.18 ~ イギリスにおけるショップモビリティ ~ 日本と同様高齢化が進むイギリスでは、1990 年頃から高齢者や障害者を対象にした 「ショップモビリティ」という買い物支援サービスが広がっている。 1980 年代後半に始まったこの活動は、現在イギリスの約 400 箇所で展開されている。 サービスの内容は、高齢者や障害者に対し、買い物のための電動もしくは手動の車椅子 やスクーターを貸し出すというものであり、地域の商店街やショッピングセンターなど での買い物のための移動を助けている。イギリスには NFSUK(national Federation of Shopmobility UK)という全国的な組織があり、ここが中心となって普及や教育・啓蒙活 動を行っている。 【ロンドン市内カムデン地区事務所の例】 【ロンドン市内カムデン地区事務所の例】 貸し出し台数:5 台の手動車椅子。 台のスクーター、2台の電動車椅子、5 台の電動車椅子、5台の手動車椅子。 貸し出し台数:5台のスクーター、2 利用時間 :9:30∼16:30(日曜を除く) 。 利用時間 :9:30∼16:30(日曜を除く) 。 利用料 :初期登録費として 600円)。 利用料 :初期登録費として44ポンド(約 ポンド(約600 円)。実際には徴収コスト 実際には徴収コスト のほうがかかるため、無料。 のほうがかかるため、無料。 利用エリア 利用エリア :カムデンにある事務所で機器を貸し出すが、 :カムデンにある事務所で機器を貸し出すが、貸し出されたス 貸し出されたス クーターを利用できるエリアに制限は設けていない。 クーターを利用できるエリアに制限は設けていない。 会員数 :350 50名程度。会員以外も 会員数 :350名。うちアクティブメンバーは 名。うちアクティブメンバーは50 名程度。会員以外も 登録により利用可能なため、 ロンドンへの旅行者の利用もあ 登録により利用可能なため、 ロンドンへの旅行者の利用もあ る。 る。 利用者数 :夏は平均 6∼10名(1 利用者数 :夏は平均6∼10 名(1日当り) 日当り) 従業員 :1 名(機器の管理・利用者への貸し出し・説明等を行う) 従業員 :1 名(機器の管理・利用者への貸し出し・説明等を行う) 64 5)近隣型小規模店舗:顧客の近くに商品のある店をつくる(形態4) 高齢化・人口減少が進む中で、近隣に小売店舗の存在しない地域が増加しつつあ る。とりわけ、地価の高い都市部や、高齢化・人口減少が著しい過疎部や一部の郊 外団地では深刻な問題となっている。こうした問題への対応として先述したような 「遠方の店舗から商品を運んだり、顧客をそこへ移送する」という形態に加え、顧 客の近くに小売の店舗を設置することの可能性について、以下で議論する。 ①現状 ∼近隣型小売店舗の現状∼ 地域属性や人口構成により、近隣型小売店舗のあり方は多様である。 都市部では、近隣型店舗としては長らくコンビニエンスストアが中心的な役割 を果たしてきた。最近では、大手流通事業者による生鮮品をも扱う小型スーパー の出店が進められている。例えば、イオンリテール(株)の「まいばすけっと」や (株)マルエツの「マルエツプチ」のような都市型の小型店は今後も需要の拡大が 予想される。 同じ都市部でも、高齢化が進んでいる郊外の団地では、自治会が中心となって 生活必需品を調達し、小分けして販売する取組が行われている地域もある35。 過疎地や農村部等では、農協の購買部門である「A コープ」などがスーパーマ ーケット機能を担ってきた。また、小規模ながら日用品や食料品など幅広い商品 を取扱っている「よろずや」のような個人商店の存在価値も大きい。しかしなが ら、両者ともに需要の低迷により撤退する事例が近年は少なくない。 担い手の高齢化についても深刻で、採算性が低いため、世代交代も起こりにくい ことが課題である。 ただ、中には、コラム No.19 で紹介する(株)セイコーマーやコラム No.20 の山 崎製パン(株)のように、独自の工夫や連携を行いながら過疎地でも店舗展開を進 めていこうとするチェーンも存在する。また、新たな取組としては、近年、コラ ム No.21 のノーソン(大分県の農村部の共同店舗)のように、撤退店の跡地を引 き継ぎ、地域住民の有志が出資し、地域コミュニティが共同で運営する代替店舗 をつくる例が広がっている36。 35 例えば、横浜市栄区にある公田町団地では、住民の高齢化が進む中で、団地内の店舗 の閉鎖に対応して、自治会を中心とするボランティアによる青空市場の開設などに取り 組んでいる。1964 年に入居が始まったこの団地は住民の 3 割が 65 歳以上と高齢化が進 んでおり、かつ、傾斜地にあるために団地の外のスーパーマーケットへの往復が高齢者 にとって困難になっている。これに対応するため、ボランティアが毎週火曜日の 10∼ 14 時に団地内で青空市を開催し、さらに、買ったものを家まで届けるサービスも行っ ている。 36 沖縄では、共同店舗は長い歴史を持つ。町内会の役職に共同店舗の店長がある等、地 65 ②今後の課題 このように地域によって多様な形態がある近隣型小規模店舗であるが、今後のビ ジネスとしての更なる発展と地域住民の利便性向上のためには、以下のような課題 が存在する。 Ⅰ.商圏居住人口の減少への対応 地域の過疎化・高齢化がさらに進行し、我が国では人口減少がますます進展する と予測されている。そのため、人口が少ない地域では、近隣型の店舗を成り立たせ るのに十分な商圏人口を確保できず、既存の店舗モデルでは運営が成り立たなくな っていくことが考えられる。 そのため、流通事業者には、冷凍食品の活用や過疎地でも成り立つ新しい店舗フ ォーマットの開発に向けた努力が期待される。 また、ビジネスベースでは成り立たない地域については、地域の住民や行政によ る運営が期待される。しかしながら、地域の住民や行政には小売のノウハウはなく、 店舗の立ち上げから仕入れまで全て独自に行うことには限界がある。そのため、既 存の小売業が側面からそうした地域をサポートしていくことが望まれる。例えば、 そういった地域の自治会や行政を共同仕入れや店舗運営の面から小売や卸が関わ っていく連携策が考えられる。 Ⅱ.多様な収益源の確保 商圏内人口の減少による売上減をカバーするには、幅広い顧客ニーズを獲得する ことが必要である。近隣型の店舗が成立するために求められる関係者の取組は何か 検討し、地域の実情にあった仕組みを導入することが求められる37。 例えば、小売店舗で行政サービスや異業種のサービスを一緒に提供することで、 多様な収益源を獲得していくという方法があると考えられる。 また、とりわけ農村部においては農業との連携が親和的だとも考えられる。共同 売店等を利用して直売に近い形で農作物を販売する取組や産地直送取引38も広が りを見せており、単に農作物を販売するだけではなく、コラム No.21 のノーソンの ように地域の農協や農家と連携しながら農作物流通にも関与していくという方向 性も考えられる。こうした取組については、小売業側は良質の商品を仕入れること ができるというメリットも享受できると思われる。 域に根ざした活動が行われている。しかしながら、人口減少とコンビニ等の他の小売業 態との競争の激化により徐々に減少しているという。 37 多様な収益源を確保しながら地域の実情にあった流通を形成していくあり方につい ては第四章で詳細に検討する。 38 産地直送取引とは、農産物や海産物の産地から直接小売店ないしは消費者に届けるよ うな取引のこと。 66 Ⅲ.利用者の積極的な関与 近隣の店舗を存続させるためには、特に人口の少ない地域においては、住民によ る買い支えが重要である。近隣に店舗があることを当然と思わず、多少の価格差で あれば近隣の店舗を積極的に利用するなど店舗存続のための努力を住民も行って いくことが求められる。 また、近年増えている住民出資型の共同店舗への参加を行うといった、購買だけ でなく経営にも関与していくことも期待される。 67 コラム No.19 ~ 過疎地におけるコンビニの店舗展開 ~ 北海道において、本州系大手コンビニは主に札幌周辺に展開している一方で、(株) セイコーマートは、離島などの過疎地を含めて道内全域に展開している。 過疎地におけるコンビニの運営の成功の鍵は「商品の一環供給体制」、 「過疎地型店 舗の機能」の2つである。 「商品の一環供給体制」については、牛乳公社、農場/農業法人に出資、自社で物 流システムを構築しており、調達・製造・流通・販売という一連の流れのシステムで ある。このシステムにより、ローコストオペレーションを実現し、過疎地店舗への物 流を支える仕組みや 1000 種類を超える RB 商品(リージョナル・ブランド:他社のプ ライベート・ブランドに相当)による価格競争力の維持を実現している。 「過疎地型店舗の機能」については、失われてきた街の機能を補う形でコンビニを 展開して、地域住民に対して利便性を提供していることである。例えば、店舗内調理 を行うことによる食堂機能の代替等がある。 <Data> ○概要 (事業主体)北海道札幌市に本社を置く北海道最大のコンビニエンス・ストア・チェーン (事業内容)地域の実情(顧客ニーズ)に合わせた事業展開と持続可能な仕組みの追 求(総合流通業)。 道内を中心に店舗展開する北海道最大のコンビニエンス・ストア・チェーン (2009年12月末現在1,070店舗を展開)。 利尻島・礼文島・奥尻島等の離島を始めとして、過疎地にも店舗を有する。 関係者の連携図 68 小商圏型コンビニを展開するセイコーマートの店舗 コラム No.20 ~ 製品供給力と物流網を活用した店舗展開 ~ 山崎製パン(株)では、全国に張り巡らせている自社の製品供給能力と物流網を活 用し、様々な小売店舗形態を生み出している。コンビニ型のデイリーヤマザキやボ ランタリーチェーンの仕組みを活用した地域密着型のヤマザキショップに加え、地 域密着を基本にしながらもコンビニに近いシステム機器や商品供給を備えたヤマ ザキスペシャルパートナーショップなども生み出し、加盟店の多様なニーズに応え ている。 広島県の豊島では、JA広島と連携することにより、離島にもヤマザキショップ を開設している。従来型の小売店にチェーン店のノウハウや商品仕入れ能力を導入 することで、地域に密着しながら住民に利便性を提供している。また、通常のコン ビニ商品に加え、店舗ごと、地域ごとの強みをいかせる、商品構成、地域特産品の 導入や各種販促等が可能となっている。更に同社では、全国各地で地元の名産品を 使ったオリジナル商品を開発し、地産地消の促進にも寄与している。 JA広島ゆたか豊島店 69 コラム No.21 ~ 過疎地における住民出資の共同売店 ~ 大分県の耶馬渓町では、雑貨・日用品が買える唯一のお店が閉店したことにより、 地域の活力が低下した。そこで、地域の危機を救うべく有志が NPO を立ち上げ、入 会金 1000 円・年会費 2000 円の運営参画を募ると 60 人が集まり、住民たちの協力に よるお店「ノーソン」はオープンした。 「ノーソン」の大きな特徴としては、地域住民自ら店舗運営母体の NPO 法人に出 資して積極的に店舗運営に参加していることである。このため「ノーソン」は、た だの「生活必需品の購買の場」だけでなく、 「地域のコミュニケーションの場」や「元 気な村づくりの活動の拠点」として機能している。店舗でのコミュニケーションに よって、休耕していた畑の活用を促すような事例も出てきている。また、他地区の スーパーと連携し、そのスーパーの産直コーナーへ農産物を出荷するために、地域 の農家から農産物を集荷し、その販売を取次ぐような委託販売の連携の仕組みを提 供することにより、村の経済の活性化を支援する活動を行っている。 <Data> ○概要 (事業主体)「NPO法人耶馬渓ノーソンくらぶ」 (事業内容)旧耶馬渓町の中山間地にある津民集落(約200世帯、500人)に約20坪の共同店。 食料品、調味料、衣料品等の約300品目の品揃え。商品販売の他、野菜の集荷や受託販売にも取組み (データ)年間収入:700万円(2008年度)、店舗の売上:1.5万円/日 店の販売収入:385万円(約55%)、委託販売収入:284万円(約41%)。 NP O 法人の集会風景 関係者の連携図 70 3.課題の解決に向けて 1)地域類型と買い物支援サービス 買い物環境のための取組の各類型にはそれぞれの利点があるが、難点も抱えて いる。今までの分析を鑑みると、各地域類型ごとに例えば以下のような適合的な 取組を地域の実情に照らして検討していくべきと考えられる。 ①(過疎地を除く)郊外・周辺地域等 郊外・周辺地域のような一定の人口集積がある地域においては、買い物支援サ ービスを行った際も一定の需要を集めることを比較的容易に見込みやすい。そ のため、全ての類型のサービスの進出を見込むことができる。 ②過疎地・中山間部(人口の 8.3%、国土の 54.0%) 過疎地・中山間部のような人口密度が低い地域においては、買い物支援サービ スを行う際にも何らかの工夫を行わなければ一定の需要を確保できない。その ため、個人毎にきめ細やかな対応を必要とする個人向けの宅配や移送サービス よりは、住民に拠点まで足を運んでもらえる移動販売や小型店舗が適合的であ る。また、小型店舗をつくる際にも、人件費や店舗維持費を抑えることが可能 な非営利主体による共同店舗がより適合的であると考えられる。買い支え等を 通じた住民の積極的な関与も期待されるところ。 2)買い物支援サービスの採算性 買い物支援サービスを新しく提供し、持続させていく上での最大の課題は採算 性である。しかし、これまでの4つのサービス形態の可能性を論じてきてわかる ように、規模の拡大や技術の発達、新たな収益源、低コスト運営ノウハウなどに よって徐々に改善していくものもあると考えられる。 地域の地方自治体、民間事業者、住民、自治会・NPO等が連携し、試行錯誤 を行いながら収益性を確保できるモデルをつくり上げ、 そうした取組を地域が一 体となって支えていくことが期待される(例えば、コラム No.22 や No.23) 。実 際、日本総合研究所のアンケート(図表 24)でも、小売業を含む様々な業種で の連携による取組への期待が大きいことがわかる。 71 図表 24: 「買い物弱者」の不便を解消するには、どのような方法が望ましいか。 出所:日本総合研究所WEBアンケート 3)公的主体の関与 買い物を含む生活支援分野のサービス提供は、まずは民間事業者の活動や自 助・共助で行うのが原則である。地域での連携や協働によって効率化することで 対応可能となる地域も多いと考えられる。 しかしながら、特に過疎の程度が激しい地域では、民間事業者のネットワーク 活用等による効率化にも限界があることも多い。 そうした地域では、 最終的には、 「そのエリアで生活必需品提供等の地域生活インフラを提供する追加コストを 公的に負担する」という問題に帰着しうると考えられる。 公的な負担については、 民間事業者や地域住民と連携することでなるべく低コ ストなものにする努力を続けると同時に、中心・基幹集落への機能の統合・再編 成などを含めた効率的な支出のあり方が望まれる。 4) 消費喚起策としての捉え方 また、 「消費者への買い物機会の提供」というサプライサイドの流通業の本来 の機能の発揮を促していくことは、ディマンドサイドから見れば有効活用されず に蓄積されている貯蓄を消費に結びつけるということでもある。 消費者の満たされない潜在的な買い物需要を満たす取組を促していくことは、 経済全体の観点からすれば総需要の増加をもたらす効果を持つと評価できる。 5)買い物の楽しみ提供と消費の喚起としての買い物支援 買い物自体が楽しみであるという意見や買い物に来て人と話をするのが楽し 72 いという人も多い。日本総合研究所のWEBアンケート(図表 25)でも、7割 近くの人が買い物は「楽しい」又は「どちらかといえば楽しい」と回答している。 また、その内訳を見ると(図表 26) 、新しい商品を見たり気分転換の機会とでき ることに楽しみを覚えている。 これまでの議論では、買い物支援サービスについて価格や利便性を重視して整 理を行ってきたが、地方自治体や民間事業者等が実際の取組を進めて行く上では 楽しみとしての買い物という要素も大事にしていく必要がある。 また、買い物支援サービスを利用する地域住民としても、複数の手段を組み合 わせ、日時や目的に応じて用いるサービスを使い分けていく工夫が望まれる。 図表 25:日常の食料品や日用品を買うことは、楽しいですか 図表 26:買い物の際に何をするのが楽しいですか ( 「楽しい」 「どちらかといえば楽しい」と回答した人の理由) 出所:日本総合研究所WEBアンケート 73 【参考】自治体による買い物支援策の一例 分 類 宅配 地方自治体 概 要 山 形 県 庄 内 庄内町のまちづくり会社・イグゼあまるめの宅配サービス事 町 業「イグゼ便利便」が平成21年10月1日から開始。イグ ゼ便利便は、 「交通手段がない」 「育児が忙しい」など高齢者・ 主婦層のニーズに応え、3セクのイグゼあまるめが町の委託 を受け実施。国のふるさと雇用特別基金事業を活用。 宅配 茨 城 県 常 陸 高齢者のみの世帯に、宅配・買い物代行サービスを利用する 太田市 際、宅配1回につき100円を助成、週3回を限度。宅配サ ービス事業ができる事業者は商工会会員で市の承認を受け たもの。 平成18年8月から実施。 移 動 販 売 福井県 高齢者が多く、移動販売が行われていない地域を対象にモデ 支援 ル事業として、食料品などの移動販売業者を支援。平成22 年度予算664万円を計上。車両購入費の3分の2を補助 し、移動販売運転手の人件費を負担。 移動販売 佐 賀 県 吉 野 吉野ヶ里町社会福祉協議会は、平成22年2月から、商店か ヶ里町 ら遠い地域を軽トラックで販売する「食品・雑貨お届け事業」 (通称・移動コンビニ)事業開始。2ヶ月間の試行期間を経 て平成22年4月から本格施行。 買 い 物 送 北 海 道 喜 茂 札幌などの都市圏の若者10人を非常勤職員として採用し、 迎等 別町 集落に住む高齢者の買い物の送迎など生活を手助けする (地 域おこし協力隊)事業に乗り出す。任期2年間、月 16 万 5 千円、平成22年度予算に3640万円計上。 買 い 物 代 栃 木 県 大 田 高齢者の買い物代行など生活支援する 「黒羽見守り助け合い 行等 原 市 、 鹿 沼 隊」を平成22年3月18日発足。厚生労働省の安心生活創 市 造事業のモデル事業として補助を受け実施。 高 齢 者 優 さいたま市 平成22年秋めどに、高齢者が地元で買い物をする際、商品 遇店舗 の割引等が受けられる「シルバー元気応援ショップ」制度を 開始させる。市の高齢福祉課は「要介護者ら向けに日用品の 無料宅配など、様々な特典内容を店に提案したい。」と説明。 買 い 物 支 秋田県 農村部の高齢者の買い物支援や一人暮らしのお年寄りの安 援新サー 否情報の提供など、新サービスに参入する企業に経費補助 ビス (成熟型社会対応サービス産業推進事業) 。上限100万円。 74 平成22年度予算に関連事業費463万円を計上。 買 い 物 不 佐 賀 県 佐 賀 買い物難民対策として、 食料品店のない地区に生鮮食品店を 便地域対 市 試験開店及びアンケートを実施。今後アンケートの分析や効 策 果的な販売方法を探り、平成22年度に取組を本格化させる 予定。 出所:各種報道等より経済産業省作成 〔第二章の要点〕 最近、買い物に困難を感じる「買い物弱者」が高齢者を中心に増加し始めてお り、過疎化が進んだ農村部とかつてのニュータウン等がある都市郊外の二種類の 地域に買い物弱者は存在している。日本の小売店は近年減少傾向にあり、この傾 向が続くと、高齢化の進展の影響と相まって、買い物弱者の問題は更に悪化して いくと懸念される。 従来の大型小売店舗では対応の難しい買い物弱者という問題に対しては、消費 者の潜在需要を積極的に掘り起こしていくようなシステムでの対応が必要であ る。その対応の方向性として、①宅配サービス②移動販売③店への移動手段の提 供④便利な店舗立地という4つの形態が考えられる。それぞれ課題があるが、地 域の実情に合わせた取組形態の選択や異業種連携等によって解決していくことが 重要である。 75 コラム No.22 ~ 共同物流による過疎地個人商店へのサポート ~ 有限会社ディ・シィ・ディは、主として島根県を営業エリアとする日用品を取り 扱う卸売業及び製造業が結束して商品の共同配送事業を行い、加盟企業の生産性の 向上や経営の合理化を図るために設立された共同出資の物流会社である。 従来は、地方の中小卸売事業者が各社毎に別々に配送ルートを有し、過疎地の個 人商店への配送コストが割高になり、それら個人商店への商品供給力が弱まってい た。 そこで、平成 13 年地域中小企業物流効率化推進事業として補助金交付を受けるこ とにより、 『実験的事業・運営事業』中山間地域(津和野、六日市・美郷町、邑南町) で共同配送を開始した。配送ルートは中山間地域を含み 7 ルートあり、使用トラッ ク(現在は全車営業トラック)は 4 トン車を中心とした 2∼4 トン車である。 ボランタリーチェーンの仕組みを活用し、中山間地域の中小小売店・食堂・病院 へ共同で配送することで商品安定供給のサポートを卸売会社や日販品製造販売会社 が行い、当該地区に住む高齢者への商品販売の安定化、社会インフラの強化に貢献 している。 日販品製造販売会社・卸売業 会員企業 15 社 受注商品納入 (有) ディ・シィ・ディ 配送センター (各店向けに荷合せ) 個別に各社へ発注 商品代金支払い 中山間地を含む食品小売店へ (毎日) 自動引き落としあり 共同物流インフラ提供 中山間地含む食品小売店・食堂 7 ルートで各店舗に 病院・その他 400 店舗 配送(毎日) 76 コラム No.23 ~ 英国における過疎地店舗 ~ 英国には、地域住民が出資したコミュニティコープ・ヴィレッジショップと呼ばれる組織があ る。英国全体で 227 のコミュニティコープがあるといわれ、昨年だけで 35 店舗が開業した。 コミュニティコープは最低 20∼30 人の組合員により出資・運営され、過疎地での店舗として 貴重な存在となっている。 採算を確保するため、小売業務だけでなく、郵便業務・旅行代理店業務・保険代理店業 務を請け負い、これらの委託料と料金収入で採算を確保している。 コミュニティコープは過疎化・高齢化などにより個人商店が閉店し、店舗がなくなってしまっ た地域にできることが多い。このような小規模な店舗は、独自の商品発注・配送は困難なた め、全国組織である The Co-operative Group が商品や配送など提供している。The Co-operative Group は、コミュニティコープに商品を 10%引きで卸すことで経営を支援して いる。 77 第三章 流通による社会課題への対応2:流通の外部効果の活用に ついて ∼「マチのほっとステーション」∼ ((株)ローソンの標語より) 1.流通の地域社会への影響(外部効果) 1)流通が地域社会にもたらす影響 流通事業者は、地域社会の中で事業活動を行っており、また、住民生活に欠かせ ない拠点となっているため、地域社会と多くの接点を持っている。そうした接点の 中には、地域社会に好影響を与えているものもある(こうした影響は、経済学でい う「外部効果」ととらえられる)。 例えば、夜中でも営業しているコンビニエンスストアは緊急時の駆け込み場所と しての機能を有しうる。コンビニ各社は、コラム No.22 にあるようにそうした機能 を地域の安全安心の拠点「セーフティステーション」活動と明確に位置づけ、地域 社会からも高く評価されている。 2)流通のリソース活用の可能性 流通事業者は、既に多数の店舗と広範な物流ネットワーク、及び信頼性の高い情 報システムを有している。こうしたリソースを活用することで、地域から望まれる サービスを提供したり、行政サービスの一部を担っていく能力を有していると考え られる。生活者からは、図表 27 にあるように、 「災害時の物品・情報の提供」や「地 域住民のふれあいの場の提供」等、本業の外での役割も期待されている。コストの 負担についても考慮しながら、そうした新領域に流通業のリソースの活用の可能性 について検討する。 図表 27:流通業は地域に対してどのようなことで貢献していくべきか 出所:日本総合研究所WEBアンケート 78 コラム No.24 ~ コンビニのセーフティステーション活動 ~ コンビニ業界のセーフティステーション活動は、2000 年 7 月、犯罪の増加等を受け、 警察庁の要請により開始された。2005 年には全国展開され、現在まで活動は継続してい る。本活動は、(社)日本フランチャイズチェーン協会が「地域社会への安心・安全に貢献 するお店作り」を目指し進める業界全体での自主的な取組であり、カバー範囲も非常に 広く、様々な実績をあげている。 2008 年に日本フランチャイズチェーン協会が実施した全国展開しているコンビニ店 舗約 42,248 店を対象としたアンケート結果報告(内有効回答数 34,746 店)によると、 「女性の駆け込み等への対応」で全店舗の約 30%にあたる 10,571 店が実際に対応、 「子 供の駆け込み等への対応」では 5,511 店、 「高齢者保護の対応」では 11,140 店が実際に 対応と、 「まちの安全・安心の拠点」として地域に貢献する活動となっているといえよう。 ○概要 (体制)全国のコンビニエンスストア12社約4万2,000店が拠点として参加 (対象)地域住民 (内容)セーフティステーション活動の具体的な内容は以下のとおり ・防犯拠点:地元警察署の防犯協議会等の防犯組織に加入。地域の防犯対策として警察署主導の防犯訓練等を実施。 ・女性の駆け込み拠点:ストーカー、急病・怪我、痴漢等による女性の駆け込み拠点になっている。 ・高齢者保護の対応:徘徊、急病・怪我、事故等による高齢者を対応、通報する。警察署とも連携している。 ・子供の駆け込み拠点:迷子、急病・怪我、暴力等による子供の駆け込み拠点になっている。子供110番活動、見守り 活動等を実施している。 ・地域との交流:自治会役員、PTA役員、防犯・防災ボランティア、商店街役員、青少年補導員、交通指導員等の役割 を担って、地域と連携している (意義) ・社会的責任の一環として、セーフティステーション活動により地域社会に貢献する。 79 4)ボランティアベースの取組とビジネスベースの取組 流通業の有する地域社会へのプラスの外部効果を強化する取組としては、不採算 を覚悟してボランティアベースで行う場合と採算を狙ってビジネスベースで行う 場合の2つがあると考えられる。 ①ボランティアベースの取組 一つの方向性として、ボランティアベースでの社会貢献の仕組みへの関与があり、 各企業や各店舗単位ではボランティアを組織化して地域の清掃を実施したり、店の 片隅に近所の人との交流スペースを設けたりしている例は多い。この方向性の取組 だけであってもニーズは大きく、流通事業者は大きなネットワークを持つだけに社 会的にも非常に意義のあることだと考えられる。 例えば、コンビニでは、図表 28 のように、 「地震などの災害時に、帰宅困難者へ トイレ・水道水・情報を提供する」 、 「ストーカー等から身の危険を感じた際の駆け 込み者の保護・受け入れ」など、多くの取組が行われており、これに対する評価は 全般に高い。一方で、こうした多くの取組については、十分に認知されているとは 言えない。 図表 28:コンビニの社会的貢献についての一般消費者の認知度 各種取り組みの認知度 各種取り組みに対する評価 あなたは以下のような取り組みを行っているコ ンビニエンスストアがあることをご存知ですか。 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 9.1 6.7 0% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 1.配送車を環境にやさしい車に切り替える 80% 2.環境にやさしい冷蔵庫・ショーケースを使う 70.3 77.5 5.商品の包装を簡単にする 20.8 69.5 6.防犯カメラの映像を、事件発生時に限り警察に提供する 50.0 9.7 76.5 7.制服警察官の買い物を奨励し、店舗における犯罪を未然に防ぐ 68.4 8.ストーカー等から身の危険を感じた際の駆け込み者の保護・受け入れ 27.5 86.7 9.酒類やたばこの購入時に、年齢を確認する 47.5 58.6 10.地震などの災害時に、帰宅困難者へトイレ・水道水・情報を提供する 26.3 90.7 11.地震などの災害時に、被災地に、食品・飲料などの救援物資を提供する 27.7 76.7 13.食品のアレルギー物質を表示する 15.9 68.9 14.地域の農産物や特産品を活用した弁当・惣菜を開発し販売する 13.5 8.9 18.2 90.6 12.添加物の少ない食品を開発・販売する 14.8 100% 62.4 4.期限切れの食品を肥料や家畜の餌として再利用する 25.6 90% 72.5 3.エコバック、リサイクル商品など、環境にやさしい商品を開発・販売する 16.7 N=2,000 複数回答可 知っている取り組みの中で、あなたが好感を持っている取り組み や、評価している取り組みがあれば、すべてお知らせください。 72.1 15.小中学生の職業体験・短期インターンシップを受け入れる 6.6 16.地域の行事や祭事に参加している 6.3 17.地域の行事や祭事に店のスペースや商品を提供している 5.6 18.地域の清掃活動など、地域のためにボランティア活動をしている 73.6 72.0 19.あてはまるものはない 65.1 80.2 23.6 複数回答可 出所:野村総合研究所「コンビニエンスストアの社会的貢献に関するアンケート(平成 21 年) また、流通事業者が有するツールやネットワークを使って、従来のボランティア 活動ではなかなか対応できなかった住民ニーズにも対応していくことが重要であ る。例えば、現金での募金を行う人が少ないという日本人の特徴に対応するため、 コラム No.4・5 で紹介したイオン(株)が石見銀山WAON募金や黄色いレシート等 80 の間接的な募金スキームを発達させていることは注目に値する。 なお、2010年4月現在、政府税制調査会では、NPO活動の活性化のため、 寄付についての税制度改正が検討されており、寄付額に応じた一定割合を所得税か ら直接差し引く「税額控除」の導入を盛り込み、NPOを支援する方針を打ち出し ている。こうしたNPO活動の発展が見込まれる中、流通事業者が地域のNPOの 支援に一層力を入れていくことが期待される。 ②ビジネスベースの取組 もう一つの方向性として、行政からの委託料や利用者からの料金徴収を前提に、 採算性を確保しながらビジネスとして地域住民・地域社会の利便性を向上させる方 策を進めていくものがある。実際のところ、そうした取組も徐々に増えてきている。 例えば、(株)ファミリーマートを始めとするコンビニエンスストアの一部での図書 館図書の貸出・返却(コラム No.25)や、(株)セブン-イレブン・ジャパンでの住 基カードを使った住民票の写しの発行代行(コラム No.2)などの例がある。 これらの取組は、従来型の行政からの委託とは異なり、民間主体が既に持ってい る既存の資源を最大限有効活用することで行政が行うよりも格段に低コストかつ 効率的に公共的なサービスを提供できる39という特性を有している。今後は医療・ 介護や年金等の様々な公共サービス分野にもっと射程が広がっていくことが期待 される40。 39 ある自治体では、住民票の写しを一枚発行(手数料は 400 円∼500 円程度の自治体が 多い)するために、窓口職員の人件費等で約 1,000∼1100 円程度のコストがかかるとい う(各地方自治体の行政コスト計算書より)。 40 (株)セブンイレブンジャパンのお食事宅配サービスである「セブンミール」や医療 生協、郵便局での新たな動きなど、先進的な役割を期待できそうな主体はいくつかある と考えられる。 81 コラム No.25 ~ コンビニでの図書館蔵書の受取・返却 ~ 2005 年 6 月から(株)ファミリーマートは、所沢市内にあるファミリーマート店舗 において、所沢市立所沢図書館の図書取次事業を開始した。この事業は、図書館の開 館時間内に利用が困難な勤労者や学生の方への図書館サービスの向上を目指す所沢図 書館の意向と、地域社会に貢献するための新しいコンビニエンスストアの機能として の親和性と店舗オペレーション等を検証したいというファミリーマートの意向が合致 することにより実施された。 コンビニ利用者とっては 24 時間本の受取・返却が可能となり、利便性が向上する。 ファミリーマート側にとっては新たな顧客の開拓や本の受取・返却により入店客数の 増加につながる。 なお、所沢図書館の利用者数は、当サービス開始前の 2004 年度が 53 万 7378 人であ ったが、2008 年度は 57 万 5108 人(内、コンビニ図書取次による利用者 5 万 9258 人) へと増加している。 <DATA> (体制)所沢に所在するファミリーマート4店舗で実施(2010年2月末現在) (対象)開館時間内に図書館を利用することが困難な勤労者、学生、主婦、高齢者等 (内容) ①ファミリーマート、もしくは図書館にて本の予約をする。その際、受け取り場所を決定する。 ②予約した本が指定した受け取り場所に届くと、利用者は連絡を受ける。 ③受け取り場所では7日間取り置きしているため、期間内に本を取りにいく。 ④返却の際には、専用袋に入れて、ファミリーマート、もしくは図書館に返却する。 (意義)図書館利用の利便性の向上。コンビニの新たなチャネルの開発。 ※ファミリーマートは横須賀市立図書館でも同様の事業を実施。また、神戸市立図書館については、 返却業務のみ実施。 82 2.取組の方向性 1)事業類型による区分について すでに行われている種々の取組について、 「防犯・防災への貢献」 「地域コミュニ ティの活性化」 「医療・介護・福祉との連携」「行政サービスとの連携」に分類し、 更なる流通事業者の取組の深化と拡大の可能性を秘めているそれぞれの分野につ き検討を行う。 2)防犯・防災への貢献 流通事業者は全国で広範な物流・情報ネットワークを有しているが、そうしたネ ットワークは災害時には物資の調達や災害情報の提供にも活用することができる。 また、コンビニやスーパー等の夜中も営業している小売店舗は不審者に追われる 等により身の危険を感じた女性や子供の駆け込み先としても有効である。 実際、図表 28 で確認したようにコンビニが行っている様々な社会貢献の取組の 中で、消費者から最も高い評価を受けているのは防犯・防災関係となっているとい う調査もある。 ①現状 ∼災害時の支援∼ 流通事業者は店頭や倉庫に生活必需品を大量に保有している上、災害時に大量の 物資を被災地に届けることのできる物流・調達網も保有している。小売店舗を運営 する各企業では、地方自治体と災害時における物資の調達に関する協定を結び41、 図表 29 のように被災地へ水やおにぎり等の供給を有償・無償で行っている例が見 られる。 また、食料以外にも、地方自治体との協定に基づき、災害時の徒歩帰宅者の支援 行う店舗を「災害時帰宅支援ステーション」として位置づけ、水道水や周辺情報の 提供、トイレの貸出し等を行なっている事例もある。 41 コラム No.26 では(株) セブン&アイホールディングスの例を紹介するが、小売各社 がそれぞれ地方自治体との包括連携協定には力を入れている。 83 図表 29:災害時におけるコンビニの支援事例 ∼まちの防犯拠点∼ 小売業は数多くの店舗網を活かして、避難場所の提供や情報発信に取り組んでい る。特に、コンビニでは、防犯に取り組むセーフティステーション活動を実施して いる。具体的には、女性・子ども等の駆け込み対応、振り込め詐欺の防止、徘徊老 人の保護、青少年のたむろ防止活動などに寄与しており、年間約1万件42の女性の 駆け込み対応を行っている。 ②取組の方向性 これらの防犯・防災時に対応可能な体制を整える取組を広めるとともに、体制の 充実を図るため、今後は以下のような方向性が考えられる。 Ⅰ.災害時の支援活動における地方自治体との更なる連携 方向性の一つとして、地方自治体との協調・連携を更に深化させていくことが考 えられる。現在の物資の調達や情報の提供などの協力をより多くの地域で進めるこ とが望ましい。 特に、流通の店舗網や情報網を活かし、行政と連携をとりながら、将来的には周 辺の被災情報(水道やガス・電気の状態等)を集約し、情報発信するなど、情報の 単なる伝達に留まらない役割を担っていくことが今後期待されている。また、災害 時には被災者が情報を得る手段が限定されるため、小売店舗を拠点として、道路の 42 平成 20 年 3 月 1 日∼平成 21 年 2 月末日で、10,389 件。 (社)日本フランチャイズチ ェーン協会調べ。 84 陥没状況や災害情報を積極的に提供していくことも考えられる。 Ⅱ.業界としての協働 防犯や防災への対応等については、消費者から見て、同様の業態の場合はどの企 業でも同様の取組が実施されていることが期待される。 こうした分野については、犯罪時の連絡体制の整備や災害時の物品調達を連携し て行っていくことが期待されるとともに、業界全体での広報活動の強化等を行って いくことが効果的であると考えられる。 例えば、 (社)日本フランチャイズチェーン協会では、2009年5月に「社会 インフラとしてのコンビニエンスストア宣言」を発表し、業界共通の取組目標を取 りまとめた。取組目標の一つとして、 「わたしたちは、 『まちの安全・安心』に貢献 します」と掲げており、具体的には、コラム No.22 に記載の「まちの安全・安心の 生活拠点」セーフティステーション活動への取組の一環として防犯体制を一層強化 するための防犯訓練の参加率を 2011 年度 50%(2008 年度 37%)以上に引き上げや、 たばこ・お酒販売時の身分証提示による年齢確認のための業界ルールの整備、災害 時帰宅困難者支援協定等の自治体との協力の推進を挙げている。 85 コラム No.26 ~ コンビニと地方自治体の連携 ~ 株式会社セブン&アイホールディングスは2009年のCSRレポートにおいて、 自らを「地域における社会的インフラ」と位置づけ(p48「日本各地に店舗を展開する セブン&アイ HLDGS.は「地域における社会的インフラ」という店舗の役割を自覚して、 地域社会との連携を進めています。 」) 、地域社会との連携を強めるため、地方自治体と の連携を進めている。その一環として、自治体との包括連携協定や災害時の支援協定 の締結を推進しており、2009 年 12 月時点で1道1府22県7市と地域包括提携を実施 している。協定では、 「地産地消」 ・「食育」 ・ 「防犯・防災」についての取組が主に規定 されている。その他にも、地方自治体と協力した地産の食材を利用したオリジナル商 品の開発、小中高生を対象にした職場体験の実施、地域のキャラクターを使ったイベ ントなど、多岐にわたる取組を行っている。 「防犯・防災」分野の事例としては、自治体と(株)セブン-イレブン・ジャパンの間 で締結される災害時支援協定がある。この協定では、災害時帰宅困難者の支援・各地 区事務所への衛星携帯電話の設置・配送車両へのデジタル無線の搭載など、グループ ネットワークを活用した支援体制の整備を定めている。 【自治体とセブン-イレブンの災害時支援協定の概要】 (例)セブンイレブンと栃木県との協定締結内容 (体制)市内各店舗、共同配送センター、配送車両 (内容)必要物資の配送 災害時帰宅困難者への支援 通常時より物資の安定供給のため配送車両へのデジタル無線の 搭載、各地区事務所への衛星携帯電話の設置を行っている。 災害時への対応として、交通網が寸断されてしまった際のヘリコ プター運行会社との緊急時の協定の締結等により、災害時でも 物資をスムーズに供給できるよう備えている。 (意義)セブン-イレブンでは災害等の非常事態においても通常通り店 舗を営業するよう努めることが地域インフラとしての役割であり、 地域住民のためであると考えている。 ※上記のような備えを行っているため、災害時支援協定を結んでい ない自治体においても有事の際には対応する方針。 86 ■「地域活性化包括連携協定」締結内容 ①地産地消および栃木県オリジナル商品の販売・キャンペーン の実施に関すること ②県産の農林産物、加工物、工芸品の販売・活用に関すること ③健康増進・食育に関すること ④高齢者支援に関すること ⑤子供・青少年育成に関すること ⑥観光および観光情報・振興に関すること ⑦環境問題対策に関すること ⑧地域・暮らしの安全・安心に関すること ⑨災害対策に関すること ⑩その他、地域社会の活性化・住民サービス向上に関すること ■「地域活性化包括連携協定」に基づき締結された「災害時等 における生活物資の供給協力に関する協定」 内容:大規模地震等の災害発生時に、県の要請に応じて食 料品、飲料水等の物資を配送 3)地域コミュニティの活性化 流通事業者は、多くの場合、まちづくりや地域コミュニティと密接な関係にある。 歴史的には全国展開を行う大手の小売店は地域の商店街と顧客獲得競争などから これらと対立関係にあるケースもあったという実態があるが、近年は一体となって 地域をともにに良くしていこうという活動が広く行われ始めている。 ①現状 ∼地域のコミュニティ活動の現状∼ 内閣府「社会意識に関する意識調査」 (内閣府、平成 19 年 1 月)43によると、62.6% が「社会のために役立ちたいと思っている」というように、我が国における地域活 性化や環境保全・ボランティア活動への参加意欲は長期的に高まりつつある傾向に ある。 その一方で、時間やきっかけがないこともあり、NPOやボランティア活動への 参加は、10.1%のみが「現在参加している」という状況であり、実際の活動そのも のは低迷している。 また、寄付についても低調で、制度や文化による大きな隔たりはあるものの、三 井トラストホールディングス(2004 年調査)44によると、米国の個人寄付額が 2,077 億ドルあるのに対して、日本の個人寄付額は 252 億円に過ぎないという結果もでて いる。 ∼流通の先進的な取組∼ 上記のような状況の中、大手の流通事業者が中心となった地域コミュニティの強 化の取組も盛んに行われている。 例えば、130 万人を雇用するコンビニでは、アルバイトのスキル認定制度の構築 や小中学生職場体験プログラム等の人材育成を推進している。また、地方自治体と 包括協定を結び、地産地消の推進のため地域の農業生産者や加工業者との連携強化 している例も数多く見られる。更に、地域によっては、小売店舗が最も人々の集ま る場所になっており、サロン的な機能を有している場合もある。その他にも、個人 参加レベルでの取組であることが多いが、清掃活動など地域のためのボランティア 活動を行っている事例も多い。コラム No.27 で紹介するように、ICカードを使っ て地域と企業をつなげていく試みもなされている。 また、イオン(株)では、電子マネー利用金額の一部が世界遺産の保全のため寄付 される石見銀山WAONカードの発行や、買い物客が黄色いレシートを応援したい 地域のボランティア団体名の投函 BOX へ投入すると購入金額の 1%相当が物品で寄 43 44 http://www8.cao.go.jp/survey/h18/h18-shakai/index.html http://www.chuomitsui.jp/invest/pdf/repo0509_3.pdf 87 贈される幸せの黄色いレシートキャンペーン等の、先進的な取組を行っている(コ ラム No.4・5)。 ②取組の方向性 こうした取組がますます色んな様々な地域で実施されていくためには、以下のよ うな方向性が考えられる。 Ⅰ.地域団体や地方自治体との更なる協力 流通事業者は地域住民でもある消費者に最も近いところで活動しているため、今 後ますます地域コミュニティの活性化の一翼を担うことが期待されている。 これまでは地場の商店街が中心となって清掃運動や植林活動、中小企業団体への 加盟など既に様々な活動が行われてきた。しかし、今後はそれに留まらず、大手の 流通事業者とも連携しながらNPOや地方自治体・商店街が一体となって、地域コ ミュニティにおける活動に参加・支援していくことが望ましい。 そのためには、地域の実情を踏まえ、役割分担や費用分担を明確にしながら、各 プレイヤーの強みを活かして事業展開していくことが重要である。 Ⅱ.本部・本社のバックアップ 流通事業者は数多くの従業員や利害関係者を抱えているが、それらの一人一人は 同時に地域で生活を送る市民でもある。 流通事業者が関与する地域コミュニティ活性化の取組の中には、清掃や啓発行動 のように店長や職員の個人的なレベルで取り組まれている場合も多い。そうした一 地域市民としての取組を本社や本部の側としても支援していく体制をつくってい くことが望ましい。 例えば、休暇の取得支援の一貫として推進したり、人事評価に反映させる等の取 組を行うことが考えられる。 Ⅲ.事業継続性の確保 地域コミュニティにかかわる活動は、大きなハード施設が残るわけではないので、 継続的に行っていくことが非常に重要である。しかしながら、ボランティアベース の活動である場合には、属人的な活動にとどまり、人事異動等があると持続しなく なってしまう可能性が高い。 そのため、活動への参加による企業イメージ等の向上や収益源の確保も含め、株 主や社内に対して経営的にも好影響を及ぼすという説明を積極的に行っていくこ とが重要である。 88 また、企業により得意とする分野は自ずと異なってくるため、必ずしも定量的な 数字だけによって企業の取組を判断しない地域の側の姿勢も重要である。 コラム No.27 ~ ICカードを活用した地域活性化 ~ ソニーの子会社であるフェリカポケットマーケティング(株)では、クーポンや 会員証などのサービスを 1 枚のカードに集約できる汎用アプリケーションフォー マットである「FeliCa ポケット」を活用し、地域活性化や住民の利便性向上に取 り組んでいる。 例えば、四国中央市の 5 つの小学校で採用されている「登下校管理システム」 では、小学生に専用カードを配布し、登下校時に専用の端末にタッチすると、事 前に登録された保護者にメールが配布されるサービスが行われている。 また、地域や団体と提携することで、四国地方( 「めぐりん」)や長野県(「nagat」)、 横浜(「よこはまポケット」 )等で限定のカードをつくっている。 例えば、日本観光協会と提携した「YOKOSO! Japan Card」では、日本への外国 人旅行者の利便性向上と傾向把握を目的としたもので、旅行者の動線を、国・年 代・性別ごとに分析することを可能としている。旅行中のケガや病気をした際に 母国語による医療機関の紹介や一定金額の見舞金を支払う保険サービスも付帯さ れており、旅行者とって便利で楽しく、しかも安心なサービスを提供している。 89 コラム No.28 ~ 社会インフラとしてのコンビニエンスストアのあり方研究会 「ものを買うお店」を大きく越えて、国民生活に欠かせない社会インフラ(防犯、 防災、金融、物流、行政などの機能も含めて)となったコンビニエンスストアが、新 たに直面する課題を越えて、地域社会や経済、そして消費者に貢献できるようにする ための方策を総合的に検討することを目的に、経済産業省では「社会インフラとして のコンビニエンスストアのあり方研究会」を2008年度に実施した。 研究会の委員として、コンビニ経営者(大手5社の社長又は会長)、学識経験者、地 域商業関係者等を迎え、環境問題、安全・安心など、コンビニの社会的役割に関する 幅広いテーマを扱った。研究会は2008年12月より5回実施し、その検討結果を 取りまとめた。概要は以下のとおりである。 ・様々な機能を持ち社会インフラになりつつあるコンビニにおいて、活動拡大ととも に「負の外部性」として捉えられる社会的問題も生じている(深夜営業によるCO 2排出量の増加や治安への悪影響、大量の食品廃棄物に対する負の印象など) 。 ・このような現状にコンビニ業界が対応するには、4つの課題(1.環境問題への対応、 2.安全・安心への貢献、3.地域経済活性化、4.消費者の利便性向上)がある。 ・その課題に取り組むためには、3つの視点(1.本部・加盟店間での持続的な発展の ための関係構築、2.コンビニ各社の競争する分野と業界として協働する分野の明確 化、3.行政機能の一部を担うコンビニによる行政との役割分担の明確化・連携推進) が必要である。 本研究会の検討内容を受けて、 地域社会、経済、消費者に貢献し ていくためのコンビニ業界共通の コンビニに期待される地球温暖化対策への取組 太陽光パネルの設置(サークルKサンクスの例) 太陽光パネルの設置( (株)サークル K サンクス) 太陽光発電モニターの設置 太陽光発電モニターの 設置(シャープ(株)) カーボンフットプリントの記載 カーボンフットプリント (ファミリーマートの例) の記載((株) ファミリーマート) 数値目標を含んだ取組目標を「社 会インフラとしてのコンビニエン スストア宣言」として、社団法人 日本フランチャイズチェーン協会 (シャープ(株)) LEDLED照明の導入(ローソンの例) 照明の導入((株)ローソン) が2009年5月に発表した。現 電気自動車の急速充電器の設置 電気自動車急速充電機の 設置(東京電力(株)) 在、コンビニ業界では、宣言に添 った取組が進んでおり、同協会の 協力の下、フォローアップも行わ れる予定である。 (東京電力(株)) 90 4)医療・介護・福祉との連携 今後の高齢社会の進展を考えれば、社会に占める医療・介護・福祉の重要性が増 大していくと予想される。こうした分野は、基本的には公的な負担や保険制度によ って賄われていく分野であるが、特に生活支援分野を中心に流通事業者も関与して いくことが期待される。 ①現状 ∼医療・介護への参入∼ ドラッグストアや生活協同組合の一部では、本格的に地域の医療・介護・福祉に 係るニーズに対応したサービスを展開しようとしている取組が始まっている。 例えば、コラム No.29 で紹介するようにスギメディカル(株)は、訪問看護事業を 行う子会社を通じ、訪問介護ステーションを展開している。そこでは、看護師が患 者を往訪し、医師や薬剤師と連携することにより、総合的な医療サービスを提供し ている。別のドラッグストアでは、店頭に血圧計等の検査機器を置き、消費者が健 康管理に利用できるように取り組んでいる。 また、他にも、生協では、家事援助である「くらしの助け合い活動」に、1980 年代から取り組んでいる。この活動は、高齢者、障がい者、子育て・病気・怪我で 困っている人に、お買い物代行、外出同行(買い物、通院、散歩) 、家事、話し相 手、お食事・配食などを行うものである。全国の 65 生協で、2 万 8000 人が参加・ 利用しており、その活動時間をトータルすると、年間 120 万時間になるという。 ∼見守りサービス∼ 生活必需品の配送を通じて子供の見守りや独居高齢者の安否確認を行い、地方自 治体に情報提供している事業者がある。例えば、ヤマト運輸(株)では、愛知県豊橋 市で、小学校の児童の下校時に、PTAで結成されている「お迎え隊」と協力して、 下校時の児童に声かけを行いながら安全を見まもる活動を行っている45。他にも、 新聞や牛乳の配達を行う事業者が、地域の単身高齢者の異変(新聞が溜まっている こと等から察知)を自治体に連絡するといった協力を行っている事例がある。 ②取組の方向性 こうした取組が盛んに行われるとともに、新しいサービス分野が登場してくるた めには、以下のような取組が求められている。 Ⅰ.標準化・ルールづくり 医療・介護・福祉分野においては、配食や見守りのような法令による規制がかか 45 http://www.yamato-hd.co.jp/csr/yg_csr/2009/pdf_ytc/2009-43-syakai-tiiki.pdf 91 っていない分野であっても、人々の生命・安全に関わる分野であるだけに、細心の 注意を払いながら業務を行っていくことが求められる。 その際に、何をどこまでどういった方法で行えば安全と言えるのか一企業で個別 に判断することには限界があるため、公的主体が基準となるものを定めていくこと が期待されている。例えば、医師法で医師以外の者が行ってはならないとされる診 断等の「医行為」の範囲が曖昧であるため、ドラッグストアにいる薬剤師が法令違 反(「診断を行っている」と判断されること)を恐れて、来客の健康相談にのった り、健康状態を踏まえた服薬のアドバイスを行うことに躊躇することがあると言わ れている。 Ⅱ.規制面の改善 医療・介護・福祉分野においては、様々な制度・規制が存在している。これらの 制度は、我が国の社会保障における安全性・経済性を担保するために不可欠なもの である。しかしながら、制度の一部には、運用が厳し過ぎたり規定が曖昧であるた め、制度利用者に負担がかかったり、必要以上に民間企業の新たな取組を阻害して いるものがある。 例えば、在宅介護については、制度の中で買い物代行等が十分に認められておら ず、買い物に行くことが利用者の大きな負担になっているという声がある46。 行政は、安全性と経済性を十分に考慮しながらも、制度利用者のニーズという観 点から制度の運用基準の明確化を図る等の改善に取り組むことが期待される。 46 2010/04/06 日本経済新聞夕刊 9 ページ 92 コラム No.29 ~ 小売業と医療・介護・福祉との連携~ 高齢化に対応して、小売業は物販だけでなく商圏内の成長が期待される医療・介護・ 福祉関係のサービス需要を取り込む動きを見せている。 この一事例として、スギホールディングス(株)では訪問介護事業を行う子会社スギ メディカル(株)を通じ、訪問介護ステーションを展開している。看護師が患者を往訪 し、医師・薬剤師と連携することで総合的医療サービスを提供している。例えば、看 護師が往訪した患者にスギ薬局で扱っている商品を購入したいというニーズがある場 合、情報をグループで共有し、宅配サービスを行ったりしている。 しかし、医療・介護・福祉の分野では、介護についてのルール(在宅介護の中で介 護士がネットスーパー等のお買い物代行ができない)、ドラッグストアでのサービスに ついてのルール(薬剤師が健康相談等を受けにくい)、医薬品販売のルール(配送につ いての規制)など様々な規制があるなかで、どうクリアし連携していくかが課題とな っている。 【事例】訪問看護事業(スギメディカル:スギ薬局の子会社) 93 5)行政サービスとの連携 政府の財政が窮乏していく中で、行政サービスの一部を民間事業者に委託するこ とで低コスト化を図るという方策が注目されている。 ①現状 コンビニ等に行政サービス(住民票の写し、印鑑登録証明書の発行等)を望む声 は大きく、流通事業者にとっては、新たな顧客獲得につながることも予想される。 また、地方自治体の財政は悪化する一方であり、行政サービスの提供が新たなサ ービスの展開や従来展開してきたサービス水準の維持が徐々に困難になってきて いる地域が増加している。地方自治体のコスト削減の流れの中でパブリックサポ ートサービス47の活用は今後も進んでいくと考えられる。 こうした取組は、従来型の指定管理者制度に留まらず、民間主体の既存の資源 を最大限に活用することで、行政が独自のシステムを構築するよりも格段に低コ ストかつ効率的に公共サービスを提供できる。 例えば、(株)セブン-イレブン・ジャパンでは、コピー機で住民票の写しを取得 できるサービスを始めている(コラム No.2)。また、所沢市では、コンビニを使 って図書館の本の貸し出し・返却ができる仕組みをつくっている(コラム No.25) 。 ②取組の方向性 こうした取組がますます拡大するためには、以下のような方向性が考えられる。 Ⅰ.採算性の確保 民間事業者が行う事業は、事業継続性を確保するためにあくまで採算を確保す ることが前提となっている。流通業という本業から近いところで既存のインフラ を活かしつつ、適正な手数料を徴収できる仕組みづくりを行っていくことが求め られる。このため、具体的な手数料については、同様の事業の前例や類似サービ スを参考にしつつ、行政と民間事業者が柔軟に設定していくべきである。 Ⅱ.標準化・ルールづくり 民間企業が行政から委託を受ける際、同様のサービスであっても、地域によって その仕様が大きくこととなるため、なかなか対応できないことが多い。民間委託の 需要が大きいサービスについては、民間委託のための標準化・共通基盤整備を進め ていくことが必要であると考えられる(詳細には第5章で扱う)。 47 地方自治体の事務事業を民間にアウトソーシングすることで発生する市場のこと。野 村総合研究所によると、 2007 年度では約 4.6 兆円と推計される市場は毎年増加を続け、 2012 年度には約 5.4 兆円に達すると見込まれている。 94 3.今後の更なる発展に向けて 1)取組分野と対応姿勢 流通事業者の持つ地域社会への影響(外部効果)の強化の取組の各類型にはそれ ぞれの特性がある。今までの分析を鑑みると、概ねボランティアベースで行うべき 取組とビジネスベースで行うべき取組として以下のように分類できると考えられ る。 ①ボランティアベースで当面行っていくべきもの 防犯・防災や地域コミュニティの活性化といった分野については、間接的な集 客効果や売上増を除き、基本的には直接の対価を望みにくい分野である。そのた め、取組による宣伝効果や地域社会に対するCSR48の一貫として取り組んでい くことが望まれる。 →防犯・防災、地域コミュニティの活性化 ②ビジネスベースで事業として行える可能性が高いもの 医療・介護・福祉や行政サービスとの連携といった分野については、規制や行 政の動向に左右されるものの、基本的にはサービス提供に対する対価を期待でき る。そのため、採算性を確保するための環境整備を行った上で、ビジネスベース での取組が進んでいくことが期待できる (環境整備については第五章で詳細に扱 う) 。 →医療・介護・福祉との連携、行政サービスとの連携 2)新市場育成のための適正な料金の設定 こうした地域社会との接点を生かした取組は本業から遠ざかっていけば遠ざか るほど追加コストが必要となる。しかしながら、流通事業者は営利企業でもあるの で、採算性にも一定の考慮を払わなければならない点に注意が必要である。 本業から近いところで既存のインフラを活かしつつ、適正な料金を徴収できる仕 組みづくりを構築していくことが求められる。 委託料等の料金から適当な利潤を得ることにより、新たな市場開拓につながるこ とも期待できるという視点も出てくると期待される。 48 CSRとは、Corporate Social Responsibility の略で、企業が、事業活動において 利益を優先するだけでなく、顧客、株主、従業員、取引先、地域社会などの様々なステ ークホルダーとの関係を重視しながら果たす社会的責任。 95 〔第三章の要点〕 流通事業者は地域社会の中で事業活動を行っており、深夜のコンビニエンスス トアが緊急時の駆け込み場所としての機能を有するなど、地域社会に好影響を与 える外部効果を持つような場合もある。例えば、流通事業者は多くの店舗、広範 な物流ネットワーク、信頼性の高い情報システムを有しており、こうしたリソー スを活用して、地域から望まれるサービスを提供できる可能性がある。 流通業が外部性を持つような事業類型としては、①防犯・防災への貢献、②地 域コミュニティの活性化、③医療・介護・福祉との連携、④行政サービスとの連 携などの取組が挙げられる。①②については対価を望みにくい分野であるため宣 伝やCSRの一貫として行うボランティアベースで行うのが適当な取組であり、③ ④については対価が期待できる分野であるため採算性を確保するための環境整 備をしてビジネスベースで行うのが適当な取組である。このように採算性と地域 社会における役割を考慮して取組を進めていくことで、外部性を持つ事業を発展 させていくことができると考えられる。 96 第四章 地域生活インフラの再構成を支える新たな事業の可能性に ついて ∼「未来を予言する一番簡単な方法は、自分で未来を創造することだ」∼ (パーソナル・コンピューターの発明者、アラン・ケイの言葉) 1.これまでの議論の整理と地域生活インフラの未来について 1)これまでの議論の整理 今後の流通業の方向性としては、少子高齢化が一層進展し、需要が縮小する中で、 ITの活用や事業者間連携・官民連携等によってなるべく広い範囲の多様な顧客層を 獲得できる事業モデルを構築すると同時に、資源を共有・相互利用することで効率性 を上げていくこと(「規模の経済性」の向上)が重要となってくると考えられる。 なお、そのうち必ずしもビジネスベースで採算が合わない地域については、ある程 度は採算性から離れてサービスを提供することが可能な行政や非営利主体と連携す ることが必要となってくる。 2)予想される地域生活インフラの弱体化と方向性 人口密度の低い地域の状況を見ていった際、買い物を不便だと感じている人々が多 いことが見受けられる。例えば、島根県の商工会連合会が行った調査(図表 30)で 見ると、商工会のある比較的人口密度の低い地域では「買い物の場所がなくなり不便 を感じている」との問いに対し、「食料品・日用品」について 27.4%の者が、「衣料 品等」について 29.4%の者が、 「そう思う」と答えている。 図表 30: 「買い物の場所がなくなり不便を感じている」消費者の比率 97 こうしたことを前提にすると、今後の過疎地域への流通のあり方を考える際には、 「食料品・日用品」と同様に、その他の財やサービスの需要も考えていくことが適当 である。 つまり、地域の店舗において特定の種類のモノだけを売るだけでなく、高齢者支援 など需要増が見込まれる様々なモノやサービスをワンストップサービス49で提供して いくことで収益源を多様化し、拠点や人件費等を賄う採算性を高めていくという発想 (「範囲の経済性」の向上)も重要だと考えられる。 例えば食料を中心とした小売店で医薬品や金融機能を提供するといった工夫によ って、ある程度の過疎地であっても地域住民に流通機能を提供できる仕組みをつくっ ていくことができるのではないと期待される50。 3)流通の役割の変化 こうした「規模の経済性」と「範囲の経済性」を追求していくためには、既存の流 通の業態を超えた発想が必要になってくると考えられる。 地域生活インフラの具体的な状況をもう少しつぶさに見ながら検討を進めてみる こととしたい。 49 ワンストップサービスとは、1 か所のみで用事が足りるようにすること。 そうした取組の一つがコミュニティコープであり、小売業務だけでなく、郵便業務・ 旅行代理店業務・保険代理店業務を行い、これらの委託料と料金収入で採算を確保して いる(コラム No.23) 。また、日本でも、島根県のきらめき広場のように行政・民間サ ービスをまとめて提供しようという試みは始まっている。コラム No.30 にあるように、 国交省の国土審議会でも「小さな拠点」としてこのような動きに注目している。 50 98 2.地域生活インフラの再構築について 1)平均的な地域の設定について 我が国には、過疎地に至るまで様々な種類の地域生活インフラが存在している。こ うした様々な業種・業態の地域のリソースをうまく活用・連携・集約していくことで、 地域生活インフラの再構成・再構築を行っていくことが期待される。 なお、まず我が国の地域生活インフラの全体像のイメージを把握するため、一つの 中学校がある地区を生活圏(以下、中学校区)と仮定し、中学校区ごとの平均値を参 考として記載する。 2)平均的な地域生活インフラの現状 代表的な地域生活インフラとしては、下記のものが挙げられる。また、それぞれ の一中学校区の平均値も合わせて示す。 ①物理的拠点 ・コンビニの店舗(全国:4万4千カ所、一中学校区当たり :4.0カ所) ・郵便局(全国:2万5千カ所、一中学校区当たり:2.2カ所) ・農協の店舗(全国:2万カ所、一中学校区当たり:1.8カ所) ・銀行(全国:1万4千カ所、一中学校区当たり:1.2カ所) ・役所・役場・支所(全国:8千カ所、一中学校区当たり:0.7カ所) ・公民館(全国:1万6千ヶ所、一中学校区当たり:1.5カ所) ・訪問介護(全国:2万1千カ所、一中学校区当たり:1.9カ所) ②通信・物流網 ・インターネット(ブロードバンド世帯カバー率94%) ・携帯電話(人口カバー率100%) ・宅配便(離島を含め全国各地への宅配に対応) ・鉄道駅 (全国:1万カ所、一中学校区当たり:1カ所) ・バス (全国:5万8千台、一中学校区当たり:5.3台) ・生協の食品宅配網(全都道府県で。トラック2万台) ③専門人材、団体 ・医師(全国:29万人、一中学校区当たり:26.1人) ・薬剤師(全国:27万人、一中学校区当たり:24.4人) ・ケアマネージャー(全国:7万8千人、一中学校区当たり:7.1人) ・ヘルパー(全国:51万人、一中学校区当たり:46.4人) 99 ・ボランティア(全国:740万人、一中学校区当たり:672人) ・NPO法人(全国:2万9千人、一中学校区当たり:2.6団体) ・自治会・町内会(全国:18万団体、一中学校区当たり:16∼17団体) 図表 31:代表的な地域インフラの担い手イメージ図 上の中学校区について、当然ながら過疎地においては非常に広いエリアとなるため、 上記の拠点は相当散在することになる。 例えば、金融サービスの提供場所が一つの中学校区に 1.2 カ所しかない銀行だけだ と利用者は遠くまで移動することが必要となるが、実際には、銀行以外の金融機関(郵 便局、農協・漁協、信用金庫・信用組合など)が存在している上に、近年はコンビニ エンスストアで現金の預け入れ・引き出しや公共料金の支払いなどの金融サービスが 受けられるようになってきている。さらに、2010 年 4 月に施行された「資金決済に 関する法律」を受けて、銀行以外の事業者が送金業の登録を受けた上で、送金等を行 うことができるようになったことを踏まえると、将来的には、より多くの事業者が低 コストで金融サービスを提供するようになることが期待される。その提供場所として 100 は、新しい拠点を作るのではなく、既に住民が頻繁に利用する一般のスーパーや商店、 駅などの拠点に、金融サービス機能を付加していくことになろう。 同様に、物販や医療・健康、行政など生活を支える様々なサービスが業種・業態を 越えて地域の拠点でワンストップで提供される方向で今後進むことが予想される51。 3)典型的な過疎地での地域生活インフラの現状 前節では、平均値を見ることで、日本全体での地域生活インフラの現状を示した が、典型的な過疎地の具体的な事例を用いて、各種地域生活インフラの活用・連携・ 集約の可能性を探る。 中山間地域等では、一般に過疎化や財政難から、民間事業者や市町村にとって事 業継続が困難な地域が多く存在している。その例として、島根県飯石郡飯南町(2中 学校区)を例として取り上げたい。ここは、総人口5,487人、高齢化率38.8% と上記2)の中学校区平均値よりも厳しい値であるが、スーパー・コンビニ、郵便局、 公民館・集会所等ともに6ヶ所あり、地域生活インフラは点在しているものの、存在 している。 特に、高齢化・過疎化の進んでいる地区が同町西部の谷地区であり、人口253 人、高齢化率は47%である。この地域には、商店が無いものの、中心部の集落に郵 便局と集会所があり、そこを起点とした町営バスも運行している。町営バスを使えば、 東に12km離れた赤名地区にある商店まで、移動することができる。ただし、バス は月曜のみの電話予約での運行である。また、最寄りのタクシー事業者はさらに先の 17km離れた地区にあるため、往復に高いコストがかかってしまう。 このように、こうした地域でも様々な小売・物流事業者が流通ネットワークを構築 しているが、単体の事業者が活用するネットワークとなっているため、必ずしもフル に効果を発揮するような形で活用されている状況にはない。住民による買い支え等の 地域社会の積極的な協力等と組み合わせた上で、こうしたネットワークを事業者間の 連携や相互利用することでより効果的に活用し、社会全体としての効用を上げていく 余地は大きいと考えられる52。 51 こうした地域生活インフラを支える新たなサービス提供主体については、3.で議 論する 52 こうした地域のネットワークや拠点の活用についてはコラム No.30 の「小さな拠 点」に関する議論を参照 101 図表 32:島根県飯石郡飯南町における地域インフラ 出所:各種資料より、経済産業省作成 コラム No.30 ~ 「小さな拠点」に関する議論 ~ 国土交通省国土審議会政策部会の集落課題検討委員会では、「高齢化が進む過疎集 落の機能維持・経済基盤の再構築等のために講ずべき施策のあり方」について検討さ れており、その対応策の一つとして“「小さな拠点」とアクセス手段の確保”が提示 されている。 「小さな拠点」とは、医療や食料品・日用品の買い物、金融等の基礎的な生活サー ビスの提供機能を有する複合的な拠点のこと。診療所や介護施設、食料品・日用品等 を扱う小売店、金融機関、集会所、図書館、郵便局等の多様な施設が、徒歩圏内に集 約して立地させることを目指す。 例えば、岡山県新見市(旧哲西町)の「きらめき広場・哲西」では、市庁舎や図書 館、診療所などを一体化した施設を旧町の中心部に設置し、道の駅や農産加工施設な どが隣接している。施設全体は行政が運営し、図書館の運営などは特定非営利活動法 人が運営している。旧町内を運行するバスはすべてこの施設を経由し、周辺集落から の利用を可能にしており、交通網を含めて拠点の再集約が行われている。 102 3.流通機能を含んだ新たな地域生活インフラのあり方について 1)新しい業態の可能性について これまでの流通業の環境変化への対応は、 「百貨店」、「総合スーパー」、 「コンビ ニエンスストア」等の「流通業の業態」の変化と位置づけられることが多かった。 しかしながら、今後は、流通業という業のフレームワークを越えた新たなビジネ ス・企業体の出現を意味することになるのではないか。 例えば、郵便局とコンビニエンスストアが共同で店舗を運営したり、コンビニエ ンスストアが銀行サービスや行政サービスを提供していくのは、こうした新しい動 きを先取りしたものであると考えられる。 地域において不可欠なワンストップサービスを、従来の発想では不可能であった 形で提供するという意味で、こうした新しい業態も「民による公共」の一端を担っ ていると考えられる。 明確に分類することは困難であるが、新しい地域生活インフラビジネスの実施主 体に関しては、事業に携わる主体間の関係の観点から3つの類型がある。どの類型 が適当かについては、規模と地域の特性のバランスが重要となってくる。 2)単独主体での「統合型」 (形態1) 小売事業者等が新しいサービスを提供すること(自社の業務として行う又は、他 社の業務を受託)を通じ、一つの事業体としてそれぞれ持つ経営資源を統合・融合 させる場合が考えられる。 とりわけ業務の近接性がある分野や小売業だけでは採算が成立しない地域にお いては、一つの拠点で複数のサービスを提供することにより、「範囲の経済」を活 かして低コストで様々なサービスを提供することが効果的である。例えば、一つの 店舗で行政・銀行・郵便・旅行代理店・小売等のサービスを提供することができる ようにすること等が考えられる。 この形態をとる場合には、既存の業種の概念を超えた柔軟な発想で業務を再構築 するとともに、異なる業種の仕事を一手に引き受ける窓口職員へ効率的に教育を行 う方法を綿密に検討する必要がある。また、実務上は分野ごとの規則やルールによ って規制を受けていることが多く、そうした障壁を乗り越えていくことも肝心であ る。 Ex. a.コンビニでの現金引き出しや住民票の写しの交付(コラム No.2) b.宅配サービス事業者が独居老人の安否確認 103 3)複数主体による「連携型」 (形態2) 地域に多くの事業者や流通業態がある場合には、むしろ共同配送や宅配での協力 など、同業種内・異業種間での開放的で緩やかな連携を通じ、複数の事業者の独立 性を保ちながら経営資源の相互活用を促す場合が考えられる。大手小売業はその連 携主体の一員として、既存のネットワークをうまく活かしながら消費者へのサービ スを行っていくことを期待される。 例えば、商店街と総合スーパーが一緒に買い物バスを運営したり、契約に基づい て商店街の人達が総合スーパーの商品も一緒に宅配する等の取組が考えられる。こ れらは規模の利益が働く分野で、一定の積載効率が満たされなければ成り立たない。 宅配頻度についても規模が大きければ大きいほど細かく設定できる等、双方にとっ てメリットがあると考えられる。 この形態をとる場合には、複数の事業体が関わるということで、多少の不便は被 る可能性があるものの、提携自体がお互いにメリットをもたらし、地域住民にも利 便性の向上をもたらすプラスサムゲーム53であるということを強く意識しながら、 マイナス面よりもむしろプラス面を見据えて前向きに取り組んでいくことが必要 である。 Ex. a.商店街とスーパーが共同で買い物用バスを運営(コラム No.16) b.地元のタクシーが空き時間に商店街の商品を宅配54 4)行政やNPOの非営利主体での実施(形態3) また、民間企業の採算が成り立たず、参入が期待できないほど地域の総需要が小 さいと予想される地域において、行政やNPOが中心になって地域生活インフラを 支えていく場合も想定できる。 ただ、そうしたケースにおいても、流通事業者が重要な役割を果たすと考えられ る。流通には独特の経営ノウハウがあり、仕入れ・卸の面、店舗経営全般といった 面で可能な限り流通事業者の協力を得ていくことが望ましいからである。 また、過疎債55の使途や社会資本整備総合交付金56の対象がソフト事業にも拡大 53 プラスサムゲームとは、参加しているプレイヤーの利得の合計がプラスになる状態。 熊本県の健軍商店街では、地元のタクシー会社と協力し、タクシーで自宅まで荷物を 運ぶサービスを有料(300円、うち100円分を商店街が補助)で実施している( 「新・ 商店街 77 選」p141-142、 http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/shinshoutengai77sen/download/shin7 7sen_all.pdf) 55 過疎債とは過疎対策事業債の略で、過疎地域自立促進特別措置法第 6 条に規定する過 疎地域自立促進市町村計画 6 条に規定する過疎地域自立促進市町村計画に基づいて実 施する公共施設や情報通信基盤等整備する事業を対象とする債券。過疎債は返済額の7 割が地方交付税で支給され、自治体は3割の負担で事業が可能。同法の対象は776市 町村で、ソフト事業の発行枠は1市町村につき最低3500万円分を確保。過疎対策事 54 104 されたことにより、行政が取り組んで行く際の資金面の確保が今後より容易になっ ていくのではないかと期待されている。 Ex.a 住民出資型の共同売店が地元のスーパーと協力しながら、会員に農作 物出荷ルートを確保する仕組みを提供(コラム No.19) 5)今後出てくる可能性のある取組 今後の規制改革の進展等に依ることがあるものの、例えば以下のようなビジネス モデルが生まれてくる可能性があるのではないか。 ①物販だけでなくサービスも提供する「移動コンビニ」 ・コンビニで行っているような公共料金の納付や、ATMで行っているような預金 の出し入れ、クリーニング業、宅配便受付などの様々なサービス業が可能な移動 販売車。 ・来客の安否確認や簡易な健康指導サービスを行うドラッグストア型の移動販売車。 ②現代版「御用聞き」 ・宅配ドライバーが戸口で顧客に携帯モニターで商品カタログを見せて、携帯端末 で注文を行うことにより、高齢者が気軽にインターネット通販ができるようにサ ポートする。 ③地域の物流と交通の相乗り ・郵便局や宅配便の配達車両で人の移送をも行う。(英国等の「ポストバス」) ・バス事業者がインターネット通販事業者と連携し、バス停で注文品を渡して決済 するサービス(宅配便よりも手数料を安く設定する等)を行う。 ④ラストワンマイル物流を集約事業者 ・過疎地など商業拠点が少ないエリアにおいて、拠点から顧客の自宅までの物流イ ンフラは「社会的なインフラ」と位置づけられ、郵便、新聞配達や牛乳配達等の 既存の物流網を活用して他の荷物も配達する。地域によっては、行政の関与や支 援を受けながら物流網の集約・維持を行っていく57。 業債(過疎債)2700億円中、地域医療や生活交通充実などの「ソフト事業」用の発 行枠を最大660億円となっている。 56 社会資本整備総合交付金とは、国土交通省所管の地方公共団体向け個別補助金を一つ の交付金に原則一括し、地方公共団体にとって自由度が高く、創意工夫を生かせる総合 的な交付金として創設されたもの。詳しくは、 http://www.mlit.go.jp/common/000109905.pdf を参照。 57 関連する取組として、生協は過疎地などの一部地域で、組合員が自分の注文した商品 105 図表 33: 【概念図】地域の事業者間の連携、物理的拠点・物流網の利活用 <概念図の説明> 地域の事業者間の連携について、物理的拠点と物流網に着目して、今後の発展可 能性について整理を行った。 物理的拠点については、コンビニ、郵便局、農協など多数の商品・サービス供給 拠点が存在しているが、人口減少が進むと、一事業から得られる収益だけでは物理 的拠点の維持コストを賄えず、撤退せざるを得ないことが想定される。 地域の事業者間の連携により、①物販やサービス提供等の複数の事業を一つの 「小さな拠点」に集約し物理的拠点の維持コストを引き下げる、②健康支援などの 新たな価値を提供することで物理的拠点を維持可能な収益を確保する、といった方 向性が考えられる。また、 「小さな拠点」では複数の商品・サービスをワンストッ プで提供可能となるため、地域住民の利便性も高まる可能性がある。 物流網については、郵便、宅配便、新聞・牛乳などの配達など多数の物流網が存 在しているが、人口減少が進むと、一事業から得られる収益だけでは物流網の維持 コストを賄えず、撤退せざるを得ないことが想定される。 地域の事業者間の連携により、①複数の物流を「共同配送」することで物流網の 維持コストを引き下げる(ラストワンマイルの集約)、②見守り、決済などの新た な価値を提供することで物流網を維持可能な収益を確保する、といった方向性が考 えられる。 に加えて、近所の組合員の注文品を受け取り、個別配送を行う仕組み「ジョイントサポ ートシステム」を導入している。これは、配送車が過疎地で個別配送すると物流コスト が高くなり、サービスが維持できなくなるのを組合員の協力を得て、物流コストを抑え ることで持続可能な事業とする工夫と評価できる。 106 〔第四章の要点〕 人口密度が低い地域では、買い物が不便だと感じる人が多く、「医薬品・化粧 品」や「銀行」といった「食料品・日用品」以外の財・サービスについても不足 している傾向がある。このため、今後の過疎地域への流通のあり方としては、 「食 料品・日用品」を売るだけでなく、高齢者支援などの需要増が見込まれる財・サ ービスをワンストップで提供して収益源を多様化し、採算性を高めていく発想も 重要である。 また、我が国には過疎地においても、スーパー、コンビニ、郵便局、公民館・ 集会所など様々な地域インフラが存在しており、地域インフラを起点に各事業者 が流通ネットワークを構築している。ただ、各事業者の流通ネットワークがうま く活用・連携されていないので、相互利用等を進めて地域インフラを効果的に活 用できる可能性がある。これらの地域インフラを活かした新しい業態として、① 単独主体で様々なサービスを提供する「統合型」②複数主体が共同配送などで連 携して経営資源を活用する「連携型」③行政やNPOが中心となって地域生活イン フラを支える類型という3つの類型の中で、様々な取組が存在している。今後、 制度改正等の進展があれば他にも様々なビジネスモデルが考えられ、地域生活を 支えていく一つの解決策になりうる。 107 第五章 「民による公共」を実現するための環境整備について ∼「すべての幸福な家庭は互いに似ている。不幸な家庭はそれぞれの仕方で不幸である。 」∼ (レフ・トルストイ 「アンナ・カレーニナ」より) 1.解決策としての「民による公共」 1)政府財政の現状 中央政府と地方政府の債務残高の合計は 820 兆円を超えている。これは世界的に も突出して大きく、我が国の 2010 年度の一般会計支出に占める国債費の割合は約 23%である。行政における財政的な制約は高まる一方である。 一方、少子高齢化・人口減少がますます進展する中、買い物支援や見守りといっ た今までは自助や共助によって担われてきた分野が社会的な課題として大きく取 り上げられ、公共サービスとして行政の関与が求められるようになっている。前章 までに触れたように、こうした課題の内容や程度は、地域毎に大きく異なっており、 それぞれの地域の実情に合った形で、地方自治体や地域住民が取り組んでいく必要 がある。 2)「民による公共」の登場 そうした中、かつて公的なサービスを提供するのは全て行政の役割であるとされ た時代もあった。 しかしながら、もはや地域で新しく生じつつある課題に、行政の限られたノウハ ウやネットワーク、資金だけで対処することは困難である。むしろ、ここで発想を 転換し、民間事業者との連携により原則としてビジネスベースで持続することがで きる公共サービスのあり方を考えることが必要である。 そうした公共サービスの新たな担い手としては、地縁団体やNPO等の非営利組 織にとともに、企業が営利を目的とする事業の一環として、或いは、CSRや社会 貢献活動の一環として実施していくことも期待される。 3) 「民による公共」の実現に当たっての環境整備 このように、 「民による公共」の取組は今後ますます広まっていくと期待される。 しかしながら、社会には様々な連携を阻害する意識面での障壁や新規分野の開拓 を阻む制度的障壁が存在する。流通事業者が「民による公共」を積極的に担ってい くにあたっては、そうした環境が整備されていることが必要である。 逆に、担い手としての環境が整備され、自らに期待される役割が明確になれば、 地域社会の一員としての企業側の自覚も自然と形成されると期待される。 108 2.連携の進展を阻む障壁について 1)連携に当たっての意識・ノウハウ上の課題 流通事業者と他事業者や地方自治体との連携にあたっての障壁として、意識面での 課題が考えられる。流通事業者と地方自治体・他事業者との間には、過去の対立の歴 史58や、行政には中立性確保が求められること59、費用分担の事前予測が困難なこと 等により、連携がなかなか進んでいかないという実情がある。 2)意識面での改善 こうした信頼を形成していくためには、連携の必要性が関係者の間で強く認識され ていなければならない。 地域の置かれた未来に真剣に向き合った際に、人口も総需要も減少していく中で、 営業上競争している流通事業者間でも、協力するところは協力しながら地域で一体と なって互いの信頼をつちかっていく仕組みづくりが求められていることへの認識が 必要となってくる60。具体的なデータや予測を用いながら、地域の将来像をどうとら えていくべきかを真摯に話し合う機会をまずは地域毎に設けていくことが望ましい。 また、行政にも、今まで民間企業だけによって提供されてきた機能が、これからも 維持できるとは限らないとの認識が共有される必要がある。例えば、地域の生活に必 要な流通機能が民間で提供できないのであれば、そうした生活を支えるために行政が 乗り出していかざるを得ない。 そうした認識を前提にして、積極的な流通事業者と他事業者や地方自治体との連携 が進んでいくことを期待する。研究会の場においても、委員から「行政の施設にどの ような地域住民が集まるか等の情報を移動販売事業者等に伝える」 、 「行政の施設を食 品配送サービスの拠点とする」などの意見が出されたが、行政がこのようなアイデア による民間事業者との連携を積極的に検討していくことが重要である。 3)行政のセクショナリズムの克服 具体的な事例を見ていくと、行政のセクショナリズムも大きな阻害要因となって 58 過去、「大規模小売店舗法」が存在していた時代には、商店街と大型店が出店を巡っ て対立することが多く、自治体からは大型店の進出は必ずしも歓迎されたわけではない。 59 行政には特定の民間事業者に便宜を図ることを避けるよう求められるが、地域の重要 なプレイヤーとしての民間事業者と頻繁な接触を持つこと自体は望ましいことである。 しかしながら、行政の中立性を過度に気にする余り、民間事業者との接触自体を避けよ うとする自治体もあるのは残念なことである。 60 例えば、高松市の兵庫町商店街振興組で大手小売と共同で電子マネーを導入したが、 この取組を推進した同組合の理事長は「従来は郊外店と対抗していたが、今回の取組で 郊外店との共存共栄を目指したい」と話している(2009/11/07 日本経済新聞 地方経 済面 四国 12 ページ) 。また、コラム No.31 で紹介するように鹿児島でも連携の成果 は出始めている。 109 うまくいかなかった事例も多く見られる。 行政は専門性を追求するため、特定分野の仕事に長く携わることが多い。しかし ながら、余りにも長く同じ分野に携わってしまうと、どうしても立場によって同じ 事象の評価が変わってきてしまうようになる傾向が強い。 そうした弊害を避けるためには、専門性を活かしながらも過度に自らが専門とす る立場からの観点だけに囚われないようにする仕組みづくりを行っていくことが必 要である。具体的には、地域生活インフラ上の課題に取り組む上で、関係する部局 は、福祉担当部局の他に、商業担当部局や公共交通担当部局等、多岐に渡る。地方 自治体等の行政機関内で、こうした部署間の壁を超えて協力していけるための組 織・人事上の工夫や、窓口の一元化、首長や地方自治体幹部のリーダーシップ等が 求められる。 過疎地の住民とともに生活することで住民のニーズを直接感じ取り、行政主体で はなく住民主体に行政を考える機会をつくるという、コラム No.11 の中で紹介した 高知県の地域支援企画員制度はそうした試みの好例であると言える。 4)コミュニケーションの円滑化 また、連携を成功させるためには、協働の必要性を認識すると同時に、関係者間の 調整を行っていく場を整備していく主体の存在が重要である。 そうした調整を行うのが、コーディネーターの役割である。コーディネーターに決 まった定義はなく、その所属は、大学の研究者の場合や、国や地方自治体の職員・外 郭団体の職員の場合、商店街の有志である場合、郵便局のような公共性の高い民間事 業者である場合など、非常に多様である。関係者から信頼を得た上で、一つの方向性 に向かわせるのがコーディネーターの役割である。 実施したい事業の方向性が決まっていれば、こうしたコーディネーターがいること でコミュニケーションが円滑に進むことが多いため、国や地方自治体の行っているア ドバイザー派遣事業を活用するのも一つの手段である。 また、明確に何らかの事業を行うことが決まっていない場合であっても、民間事業 者と行政とが定期的にコミュニケーションをとっていくことは重要である。地域のプ レイヤーが積極的に自分のできることを互いに提示し合って意見交換を行っていく 場をつくっていくことが将来的な連携の実現に結びついていくと期待される。 さらに、地方自治体や多様な民間事業者等が参加するセミナーを開催し、先進的 な事例の具体的なプロセスや事業化に当たっての論点を広く紹介することは、類似 の取組を促すに当たって効果的であると考えられる。 110 コラム No.31 ~ 鹿児島 中小商店と大型店の新たな関係~ 鹿児島市中心市街地である天文館では平成 10 年から平成 18 年の間で土日の歩行者が 22.8 万人/日から 12.5 万人に半減する(「H20 鹿児島市中心市街地活性化基本計画」 )と いう中心市街地という地域生活インフラが弱体化する状況に直面している。 そこで 2007 年には流通大型店・中小商店、更には地元自治体や地元金融機関が連携 して WeLove 天文館協議会という協働組織を立ち上げ、公共交通機関の無料化や各種イ ベントなどの取り組みを続けてきた。 現在、慶應義塾大学 SFC 研究所地域情報化研究コンソーシアムが協働設計のコーディ ネーターとして参画することで地域内だけではなく地域外事業者が協働に参画する仕 組みを設計している。具体的には、IT を用いて様々な地域や事業者をつなぎ、共同学 習を通して相互交流を深め、従来は敵対するとされていた郊外型ショッピングセンター という外部事業者のパワーも地域内に取り込み、中心市街地という地域生活インフラを WeLove 天文館協議会が大人も子供も楽しめる街へと成長させる試みを続けている。 ※関連事業者を集めたテレビ会議を 用いた勉強会(平成 21 年 6 月∼8 月) 111 【参考】「買い物弱者を支える地域生活インフラ」研究セミナーについて 「地域生活インフラを支える流通のあり方研究会」の主催により、研究会で検討さ れた内容や課題、あるいは今後の展開等について、広く社会に周知するために、3 月 上旬から中旬にかけて、全国 3 ヶ所(大阪、福岡及び東京)で一般公募形式の無料セ ミナーを開催した。それぞれ、地方自治体の企業の関係者 100 名前後の参加者を得る ことができた。 (1)【大阪セミナー】 平成 22 年 3 月 5 日(金) 参加者: 57 名 (2)【福岡セミナー】 平成 22 年 3 月 9 日(火) 参加者:115 名 (3)【東京セミナー】 平成 22 年 3 月 15 日(月) 参加者: 87 名 112 3.「民による公共」を阻む制度上の障壁について 1)新たな事業展開に当たっての制度面での課題 民間事業者が公共サービスの提供を行うという「民による公共」を実現するにあた っての障壁としては、実際に新規の事業を進めるに当たっての既存の規制や制度面で の課題が挙げられる。 規制や制度はそれぞれの時代の要請に基づいてつくられるものである。しかしなが ら、時間が経つにつれ、合理性を欠くようになってしまった規制や、運用が過度に厳 格になってしまうこともある。また、制度の不備が民間事業者のサービス提供を阻ん でいることも多い。 こうした規制については、現場のニーズや運用の状況を鑑みながら適宜見直しを行 っていくことが求められる。 2)具体的な分野 民間事業者が地域生活インフラへの支援を行う上で出てくる具体的な制度上の課 題として、今回の調査の中で得られた意見としては以下のものがある。 ①個人情報保護ルール ・地方自治体が保有している「災害時における要援護者情報」等の住民情報につ いては、個人情報保護の観点から、その目的以外に使用する際には、本人の承 諾を得ることが必要となっている。このため、地方自治体がこうした住民を対 象に買い物支援や見守り等の生活支援の事業を行うために、保有する住民情報 をリスト化して事業を委託する民間事業者と共有することができず、民間事業 者によるサービス提供が進みにくい。 ②官民連携ルール ・訪問介護、デイサービス及び福祉用具貸与の3つの業務に関して、提供総数の 90%以上のサービスを1つの事業者から受けると介護報酬の減額を受けること が参入の障壁になっている。 ・公共施設を民間企業が利用する際に制限がかけられていることもある61。地域の 自主性を尊重していくことを前提に、具体的な事例に基づきながら民間企業が施 61 例えば、社会教育法第 23 条第 1 項において、公民館の営利目的使用(もっぱら営利 を目的として事業を行い、特定の営利事業に公民館の名称を利用させその他営利事業を 援助すること)が禁止されている。ただし、文部省生涯学習局長通知(平成七年九月二 二日/委生第一五号)では、一定の要件のもとであれば民間営利社会教育事業者に公民 館施設の使用を認めて差し支えない旨が示されている。 113 設を利用する際に公平性を担保した上で適正化するルールづくりが望ましい。 ・分野によっては、行政からの委託について業務範囲や委託先と委託元の関係につ いて詳細なルールが決まっておらず、文言が曖昧だったり、地域によって全く異 なる運用がなされていたりすることがある。図表 34 で示す(株)三菱総合研究所 の調査でも、民間主体への委託・連携が進まない理由として「委託に関するガイ ドライン等が整備されていない」が 60.3%で最多となっている。主要な分野に ついては、モデル契約書やガイドラインのようなルールづくりを進めていくこと が期待される。 図表 34:地域企業・NPO等への委託・連携に当たっての行政サイドの課題 ③事業に関するルール ・銀行代理店の兼業には金融庁の承認が必要とされているが、その承認審査が厳格 であるため、郵便局で職員が物販等の他のサービスを提供することが難しくなっ ている。 ・医者のみが行う「医行為」の範囲が曖昧であるため、薬剤師や看護師等が地域住 民の健康改善のための簡易な健康チェックや受診勧奨を行うことが困難な場合 がある62。 62 コラム No.32 に示すように、薬剤師の権限が強い英国などの諸外国では薬剤師が幅広 く医療関係業務に従事している。 114 4.「民による公共」の将来上の課題について 民間事業者が地域の重要な公共サービスを担う場合や更にはそのサービス供給 が独占的に行われる場合においては、その活動を経済原理に任せることができない という判断から、エネルギー供給事業や通信事業においては公益事業として、ある 種の「サービス供給責任」を前提とした事業規制を行っている。 この研究会で議論した新たな生活支援サービスを「地域生活インフラ」と位置づ けるなら、同じようなフレームワークをつくるべきではないかとの議論が出てくる ことが想定される。 しかしながら、現在はまだ公共サービスのうち簡易なものを部分的に民間事業者 が担っていこうとする萌芽的な段階であり、事業規模や競争状態を見る限り、その ような必要性があるとまでは言えない。こうした議論は、将来的な課題としておく のが適当であると考えられる。 コラム No.32 ~ 英国における薬剤師による医療サービス提供 ~ 英国では数年前に薬事法が改正され、薬剤師の権限が大幅に強化されている。採 血や注射、簡易医療相談等を薬剤師が行えるようにすることで、医者をもっと高度 な業務に専念させる仕組みに変わった。薬剤師は処方監査に専念、供給と調剤はテ クニシャンと呼ばれる下位資格者が行うことが一般的であり、薬剤師はスクリーニ ング(処方監査) 、調剤業務の管理、リピート処方箋の管理などの業務に専念してい る。Independent prescriber と呼ばれる一定のトレーニングを受けた後、薬剤師の 専門分野・能力の範囲内であれば、薬剤師の裁量で処方することもできる資格も設 けられ、薬剤師の高度化も図られている。 一方、薬剤師の下位資格としてスーパーバイザーとアドバイザーを設置し、医薬 品の販売や簡易なアドバイスを薬剤師以外の者も行えるなど、薬剤師の資格や業務 範囲が幅広いものとなっている。 一般的に可能な限り小包装のままで販売(調剤)されているなど、調剤ミスが起こ りにくい販売方法が中心であることも、薬剤師ではないテクニシャンが処方箋に基 づいた薬の販売に携わることができる背景のひとつである。 英国の大手ドラッグストアチェーンの Boots では、薬剤師の他に薬の販売に関わ る独自の社内資格制度を設け、薬剤販売の効率化を進めている。この資格制度によ る業務内容の振り分けにより、薬剤師は高度な医療アドバイスを提供するなど、地 域医療の一翼も担うようになっているようである。 115 〔第五章の要点〕 少子高齢化・人口減少がますます進展する中、買い物支援等の問題は社会的な 課題として大きく取り上げられており、これらに対応する公共サービスの担い手 として、行政だけでなく、民間事業者も期待される。 ただし、この「民による公共」を実現するためには、流通事業者の連携や新規 分野の開拓を阻害している様々な障壁を取り除く必要がある。連携を阻む障壁と しては、官民の連携に消極的な姿勢や行政のセクショナリズム等の意識面の課題 や、個人情報保護の規制や民間事業者の公的施設の活用に対する制度上の課題な どがある。 これらの意識面での改革やルールの柔軟化などにより、「民による公共」を実 現することが可能となり、これもまた地域生活を支えていく一つの解決策になり うると考えられる。 116 第六章 地域生活インフラを発展させていくための提言について ∼「長期的には我々は皆死んでいる。嵐の最中にあって、経済学者にいえることが、ただ、嵐が 遠く過ぎ去れば波はまた静まるであろう、ということだけならば、彼らの仕事は他愛なく無 用である。 」∼ (経済学者、ジョン・メイナード・ケインズの言葉) 1.今までの議論について 1)連携への期待の高まり 今後見込まれる人口減少により、我が国では、食料品を中心とした小売の総需要 は減少していくと考えられる。そうした中、地域住民の生活を支える流通機能を支 えるには、今は全く別々の事業者により運用されている地域生活インフラを多様な 事業者が連携しながら共有・相互利用することで効率化を図ることが重要である。 また、高齢化のような大きな社会問題への対応についても、例えば高齢者にも使 いやすい機器やシステムの開発のうち基盤的な要素が強いものについては、各事業 者が個別に行うよりも複数の事業者が協力して行っていくことが効率的であると 考えられる。 地域の住民へのサービス提供を考えた場合、技術の発達や産業の多角化に伴い、 業種という概念は徐々に崩れてきている。既存の業種という考え方にとらわれず、 業種を超えた新たな連携のあり方が今後ますます進んでいくものと期待される。 こうした背景を踏まえて、行政及び民間事業者、そして地域住民等の関係者が新 たな取組に踏み出すことを求められている。 2)行政の役割の転換 社会が変わっていく中で、行政の役割にも発想の転換が求められている。 行政の役割は、法令に基づいた制度を運用することや、民間サービスと区別され る公共サービスを提供することであった。 しかしながら、少子高齢化・人口減少が進み、行政の財政負担が増大し、民間サ ービスの撤退が進んでいくと予想される中で、特に地方自治体を中心とした行政の 役割も変わらざるを得ない。すなわち、行政も民間と密接に協力・連携しながら公 共サービスにかかる行政コストを抑制することが求められる。こうした取組の過程 において、民間主体とともに地域住民の新たなニーズに対応していくことも可能に なると考えられる。 3)「民による公共」の環境の整備 民間事業者が地域生活インフラを支えていくためには、同業種・異業種での連携 に当たっての意識面での障壁や新しい事業の展開を阻む制度上の障壁がある。 117 こうした「民による公共」を実現していくためには、地方自治体、流通事業者、 交通事業者、個人商店主、NPO、地域住民等の業種横断的なプレイヤー間の役割 分担をきちんと行いながら、それぞれの主体の強みを活かしていける仕組みをつく っていくことが重要である。 118 2.本研究会における提言について 1)国に対して 民間事業者と連携した地域生活インフラの構築については、住民に近い立場にあ る地方自治体が主体となることが多いが、全国的な課題であることを踏まえて、国 も①全国共通の制度整備や、②各地域の成功例の展開などの関与が必要であると考 えられる。 ①全国共通の制度整備 民間事業者が公益に資する取組を行う上で、民間事業者の営利性を問題とする法 令等による制限が障害となる事例がある。例えば、公民館などの公共施設を近所の 高齢者の買い物拠点として活用することについては、関係法令との抵触のおそれか ら、難しいと考えられている。しかしながら、地域の高齢者の生活に必要不可欠な 拠点を整備していく上で、民間事業者のノウハウ・ネットワークを活用しない手は ないだろう。例えば、ネットスーパーの注文やオンデマンドバスの予約に使用でき るタッチパネル端末を公共施設に設置するなどの民間事業者による拠点整備は、特 定企業の営利活動を支援しないような配慮(公正な入札や適正な利用料の徴収など) を行いつつ、事業者に一定の役割を担わせることについては、それが住民の生活の 向上につながるものであれば、積極的に推進すべきと考えるべきである。 このように法運用主体が法令や通達を過度に厳格に解釈することにより、結果的 に、地域住民に必要とされる事業を民間事業者が実施できなくなることもある。政 府の地方主権改革の一貫として設置される見込みの「国と地方の協議の場」や構造 改革特区制度等をも利用しつつ、地域から要望のあった事項については、法令の本 来の目的に照らして問題とならないものは、可能な限り前向きに対応を検討してい くことが重要である。 地域住民のニーズを踏まえたルール整備の事例としては、過疎地の住民のための 自家用自動車を使用した運送サービス(自家用有償旅客運送)の運用主体の拡大の 例がある。これまでは、自家用有償旅客運送の運営主体はNPO法人等に限定され、 町内会等の地縁団体が運営することができなかったが、本年2月に国土交通省が道 路運送法施行規則を改正し、市町村の認可を受けた地縁団体も運営主体となること ができるようになった。 国は、社会や経済の変化を踏まえ、地域の住民のニーズに応えるような制度整備 に取り組む不断の努力が求められている。 119 ②各地域の成功事例の展開 地域生活インフラを強化する取組は、それぞれの地域の実情に即した形で各地に おいて行われている(第2章・第3章参照)。こうした各地の先進的な事例の課題・ 解決策等を収集・分析し、新たな取組を行おうとする事業者の参考としてもらうた め広く周知していくことは極めて有意義である。 この際、関係省庁が地域生活インフラの支援のためにそれぞれ実施している取組 (下の枠内参照)を連携させることにより、効果的な支援が期待できる。また、新 たに事業を起こそうとする人の参考となるような先進的な取組事例や関係省庁によ る支援の事例を具体的なデータや数字の入った形でまとめたガイドラインを作成す ることが望ましい。 120 <政府で実施している地域生活インフラ支援に関係する取組例> ○総務省 :定住自立圏構想の推進 5∼10 万人規模の市を中心とする「定住自立圏」を指定し、生 活に必要な都市機能を一通り確保できるようにする施策を実 施。 過疎地域対策 過疎地域の自立促進・活性化を目指した実施。本年、過疎地域 自立促進特別措置法が改正され、ソフト事業での過疎債発行も 認められるようになった。 ○文部科学省 :公民館の活用 公民館の多様な活用を推進。全国各地の公民館関係者の有志が、 地域と連携して課題解決支援サービスを行う「図書館・公民館海 援隊」事業を実施。 ○厚生労働省 :地域の見守り・買い物支援の推進 誰もが安心して暮らせる社会を目指した施策を行っている。52 の地域福祉推進市町村の見守りや買い物支援の取組を支援する 安心生活創造事業を実施(p45 も参照)。 ○農林水産省 :農村コミュニティの活性化 農村の周辺集落や都市との連携共生による新たな農村コミュニ ティの形成により、暮らしの利便性の確保と地域資源の管理保全 を適切に図る施策を実施。 ○経済産業省 :地域の生活拠点としての商店街活性化 商業の活性化や賑わい溢れるまちづくりを目指し、頑張る商店街 への支援を実施。 ○国土交通省 :地域の公共交通の支援 地域公共交通の活性化及び再生の推進を目指した施策を行って いる。コミュニティバスや乗合タクシー等の地域交通の導入に向 けた取組を行う法定協議会への支援等を実施。 国土づくり 国土の利用、整備及び保全を推進する施策を行っている。審議会 や研究会において、 「小さな拠点」や「新たな公」といった長期 的な視点から時代を先取りする概念を提示。 121 2)地方自治体に対して 地域住民に近い位置にいることを活かして様々な社会的課題に対応することが求 められている。そのやり方については、①住民のニーズ等についての情報交換の促進、 ②補助制度等による支援、などが考えられる。 ①住民のニーズ等についての情報交換の促進 民間事業者と地方自治体との連携を進めるためには、住民ニーズや事業者の役割に ついて緊密な情報交換を行える環境を整えていくことが重要である。こうした環境整 備として、個々の地方自治体の職員が日常業務の中で意識して情報交換に努める方法 もあれば、そのための専門のポストを設置する方法もある。後者の例としては、コラ ム No.11 で紹介したように高知県では、地域住民の生活のニーズを把握し、県政に反 映させるため、県職員を市町村に常駐させる「地域支援企画員」制度を平成15年か らスタートさせている。 また、地方自治体によっては、流通や公共交通の実態に精通する人材が少ない地域 も多い(介護事業や障害者福祉事業と比べると行政の関与が少ないのである意味当然 と言えよう)という現状を踏まえると、民間事業者との連携を推進する上で、そうい った人材を意識的に育成していく仕組みづくりも求められている。例えば、官民間で の人事交流などがその仕組みづくりの一例となるだろう(実際に、あるコンビニエン スストアチェーンでは地方自治体との人事交流を通じて、地方自治体との連携協定な どを通じた関係強化に取り組んでいる)。 さらに、地方自治体は、定期的な民間事業者との情報交換の場作り等を通じて住民 のニーズを事業者に積極的に発信していくことが求められる。その際には、首長のリ ーダーシップにより、部署や担当の壁を越えて新たな取組を応援できる体制を整えて いくことが重要である。 なお、地域住民の漠然とした需要を適切に把握し、実際の事業に結びつけるために は、そうした潜在的な需要を組織的に吸い上げて積極的に発信していく仕組みづくり が必要である。地域住民に近い立場で活動する地方自治体だからこそサイレントマジ ョリティの意見をうまく拾って政策に活かしていくことが期待される。 ②補助制度等による支援 p74∼75 に示したように、多くの地方自治体が、情報交換の促進に加え、地域生 活インフラの支援のための補助金などによる積極的な支援を行っている。 もちろん、こうした連携を促進する上で金銭的な支援(補助金等)は重要であるが、 こうした事業をいかに効果的かつ効率的に執行していくかということが重要である。 例えば、中小商店の商品配送への地方自治体の補助金事業など地域生活インフラ支援 122 事業の中には、補助金が打ち切りになった途端に中止されてしまう事業が多いのも現 実である。そうした事態を避けるためには、民間事業者の力をうまく引き出して効率 的な事業運営体制を構築するとともに、非営利団体などの協力を得ていくなどの工夫 を行うことが重要である。 また、補助金や公共施設使用などについて、過度に厳しい運用がなされている制度 については制度を実際に利用する地域住民や民間事業者の立場を鑑み、地方自治体で 対応可能な範囲内で柔軟化も図っていくべきである。特に、民間事業者が公益に資す る取組を行う上で、民間事業者の営利性を問題にする法令等による制限が障害となる 事例がある。例えば、地域のスーパーが運行する移動販売車両や図書館業務を代行す るコンビニエンスストアへの補助金を地方自治体が決定するプロセスの中で、行政内 部や議会から「営利事業者の支援に税金を使うのか?」という強い批判があったとい う。こうした議論を地方自治体内において活発にやっていくことは重要であるが、杓 子定規に「営利事業者への補助」を否定すると、公的サービスの提供に民間事業者の ノウハウやネットワークを活用することができなくなってしまう。 現時点において、地方自治体における地域生活インフラ支援のための営利事業者と の連携の事例がそれほど多くないこともあり、依然、地方自治体側の障壁が高いとい え、この点については、他の地域での先進的な事例を参考にしつつ、取り組んでいく 必要があるだろう。 123 3)民間事業者に対して 流通事業者を始めとする民間事業者には、今後ますます、地域生活インフラを支え る役割が強く期待されている。 ①地域生活インフラを支える新しいビジネスの開拓 民間事業者に求められるのは、何も企業の社会貢献の一環としての役割だけではな く、むしろ、 「人口減少や高齢化の中で幅広い層の顧客を獲得するために、現時点で は生活上の不便を感じていない人にも新しいサービスの価値(便利さ、安さ、見守り 等)を提供していく」という新しいビジネスモデルの構築である。特に、流通業は、 サプライチェーンにおける消費者と生産者の結節点として、消費者に最も近い存在で ある。消費者の行動変化、社会環境の変化を把握し、店舗に顧客を呼び込むための魅 力的な商品を揃えるだけでなく、第二章で見たように地域によっては、来客の足とし て公共交通と連携したり、或いは、逆に「顧客に近付いていく」という方向性で、移 動販売事業を行ったり、ネットスーパーのような宅配事業を行ったり、様々な取組が 考えられる。 この際、ITの活用もいまだ大きな可能性を秘めている。使いやすいITシステム への高齢者の需要は大きい。高齢者等でも簡単に機器を操作できる仕組みをつくり、 誰もが気軽に活用できる環境を整備することが重要だと考えられる。そのためには、 複数企業が協力してシステムの標準化や共通化を行っていく必要がある。 ②地方自治体や異業種事業者との積極的な連携 住民ニーズに対応した新しいビジネスモデルを構築する上で、地方自治体や異業種 事業者等との連携の場を積極的に活用していくことが重要となってくる。住民ニーズ や事業者の役割について地方自治体や異業種事業者と緊密な情報交換を行える場が あった場合、積極的に参加することが望まれる。特に、地域公共交通会議や商工会議 所等も住民ニーズの受け皿となりつつ、事業者間の協働・連携の場として機能してい くことが期待される。 また、需要が限られている地域や分野については、運営上の一定の不便を許容しつ つも、大企業に限定することなく商店街やNPO等を含んだ形での民間主体間での連 携を進め、運営の低コスト化ひいては事業継続性の確保を実現することが求められる。 なお、民間事業者の中でも、その公共的性質から、一般の株式会社と異なる由来や 組織形態を持つものがある。例えば、生協や農協は、元々、地域生活インフラを形成 することを目的としたコミュニティが発展したものである。また、郵便局は全国に郵 便を届けるというインフラ機能を構築してきた強力なネットワーク(2万5千拠点) であり、山間地や離島などにおいても、地域の生活のインフラとしての機能発揮が望 124 まれている。こうした公共性の高い民間企業については、特に積極的な取組が期待さ れる。 125 4)地域のネットワーク: 地縁団体やNPO、そして住民に対して 第1章で述べたように、地域の人口の減少と総需要が減少することは不可避であり、 それに伴って商業拠点が減少する地域が増加することが見込まれる。経済が成長して いる時代とは異なり、スーパーやコンビニエンスストアのような新しい店舗が次々に 近所に出店することが期待できなくなっている。地域住民はそのことをしっかり意識 すべきであり、また、場合によってはこの問題の解決に積極的に関わっていく必要が ある。 その関わり方としては、①地域住民のニーズを民間事業者や行政に発信していくこ とと、②地域で組織を作り、例えば「高齢者の買い物を支援するボランティア活動」 などの形で直接この課題の解決に取り組むこと、との2通りがある。 ①地域のニーズの発信 買い物環境等の地域生活インフラの低下は、それまで民間事業者が提供してきたも のであればなおさら行政の課題として捉えにくいものである。したがって、地域住民 がこの課題を話し合い、必要な情報を把握して行政に伝え、行政を動かしていくこと が望まれる。 コラム No.13 で紹介した三重県四日市市でのコミュニティバスのきっかけとなっ たのは、自治会が公共交通について行ったアンケートであり、このような形で地域の ニーズや課題を行政に伝えていくことが重要である。 さらに、地域の生活関連サービスへの需要を把握し、例えば、「スーパーマーケッ トが閉店したが、地域の住民の多くが徒歩圏で買い物をするので、生鮮食品を扱う小 型商店や移動販売車があれば、これだけの消費が見込まれる」というような形で、民 間事業者に伝えていくということも有効な方法であると考えられる。 ②住民主体の地域生活インフラ支援活動 特に過疎地などでは、民間事業者がIT活用や他事業者との連携などによる効率化 の工夫をしてもビジネスベースでサービスを提供することが難しいところも多い。ま た、財政的な制約の下で行政の支援にも限界がある。したがって、こうした地域にお いては、地域住民が地縁団体やNPOなど営利を目的としない組織を作り、対応して いくことが必要となってくる。例えば、横浜市の公田町団地63では、地域のNPOが 主導となって青空市を定期的に開催している。 このように、住民が自ら問題を解決していくことが求められており、住民が行政や 民間事業者と役割分担しつつ、取り組んでいくことも重要である。この公田町団地の 事例についても、この活動を受け、行政側が団地内の施設建設の費用を補助すること 63 P63 の注を参照。 126 につながっている。 どのような形を取るにせよ、ビジネスベースで維持できないサービスについては、 住民の関与が鍵となってくる。意欲ある民間事業者や地域のNPOやリーダー等によ る活動を持続させていくためには、ボランティアとしてサービスを供給する側の努力 だけでなく、サービスを受ける側の住民も積極的な買い支えや活動への評価等を通じ て、関わっていくことが必要となってくる。換言すれば、社会の公共サービスとは外 部から提供されるものではなく、自ら公共を担っていくものであるという発想の転換 が求められているということだろう。 〔第六章の要点〕 今までの議論を踏まえ、地域生活インフラを発展させていくために、本研究会 から各主体各々に2点ずつ提言する。 まず、国に対しては、①地域住民の求める民間事業者の事業が法令等により阻 害されないように制度整備を行うこと②先進的な取組事例や各省庁の支援の事例 を周知するため、それらの事例をまとめたガイドラインを作成することを提言す る。 続いて、地方自治体に対しては、①地域住民に近い立場を活かし、住民のニー ズ等についての情報交換の促進すること②補助制度を柔軟かつ効率的に運用し、 民間事業者の力をうまく引き出すことを提言する。 そして、民間事業者に対しては、①消費者に近い位置から消費者ニーズを素早 く把握し、地域生活インフラを支える新しいビジネスを積極的に開拓すること② 新しいビジネスモデルを構築する上で、地方自治体や異業種事業者との連携を積 極的に進めることを提言する。 最後に、地縁団体・NPO・住民といった地域のネットワークに対しては、①地域 住民のニーズを民間事業者や行政に積極的に発信していくこと②ビジネスベース でのサービス提供が難しい地域では、地域住民自らが公共を担っていくという意 識を持って、商店の買い支えやボランティア活動に取り組む。 127 【資料編】 1.買い物環境についての調査 ○買い物環境に関するアンケート調査(平成 22 年 3 月、秋田市) 市内の65歳以上の市民に対して、 「最寄りの食料品店までは徒歩でどのくらいか かるか」 、 「買い物の際に困っていることは何か」 、 「買い物環境の改善に必要なことは 何か」などの買い物環境に関する実態調査をとりまとめたもの。 http://www.city.akita.akita.jp/city/in/cm/kaimonotyosakeka.pdf ○人口減少・高齢化の進んだ集落等を対象とした「日常生活に関するアンケート調査」 の集計結果(平成 20 年 12 月 国土交通省国土計画局総合計画課) 65歳以上の高齢者人口が50%以上の集落を含む一定の地区を、全国から20地 区選定し、平成20年度8月から9月にかけて各地区の世帯主等を対象にした「日常 生活に関するアンケート調査」をまとめたもの http://www.mlit.go.jp/report/press/kokudo03_hh_000011.html ○島根県商工会連合会 商勢圏実態調査(お買物調査)結果(平成19年調査、平成 16年調査 島根県商工会連合会) 商勢圏実態調査は平成 54 年より 3 年ごとに実施しており、消費者行動を買物出向 比率の面から調査しているもの。 http://www.shoko-shimane.or.jp/?p=35 ○高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査(平成 18 年、内閣府政策統括官(共生 社会政策担当)付高齢社会対策担当) 今後、高齢者が、住み慣れた地域において、高齢者が必要とする様々な社会機能や 安心して不自由なく外出、買物などができる環境の整備が必要であることから、高齢 者の住宅と生活環境に関する意識等を調査とりまとめたもの。 http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h17_sougou/index.html 2.流通業についての調査 ○小売店舗等に関する世論調査(平成 17 年 5 月、内閣府大臣官房政府広報室) 「大型店と中小小売店での買い物について」、 「買い物の環境について」等、小売店 舗等に対する国民の意識調査をとりまとめたもの。 http://www8.cao.go.jp/survey/h17/h17-kouri/index.html 128 ○小売店舗等に関する世論調査(平成 9 年 6 月、総理府広報室) 「買物の便利さについての意識」、「買物に行く際の自家用車の利用について」等、 小売店舗等に対する国民の意識調査をとりまとめたもの。 http://www8.cao.go.jp/survey/h09/kouri.html ○大規模店参入が中小小売業のパフォーマンスに及ぼす影響(2009 年 10 月独立行政 法人経済産業研究所ディスカッションペーパー 松浦 寿幸 (慶應義塾大学)、菅野 早紀 (東京大学)) 大店法廃止前後(1997∼2004 年)を対象に、大規模小売店の参入・撤退が、中心市 街地における中小小売店の売上高・従業者数、生産性に及ぼす影響に関する分析。 http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/09100011.html ○社会インフラとしてのコンビニエンスストアのあり方研究会報告書(競争と協働の 中で社会と共に進化するコンビニ) (平成21年4月 経済産業省) コンビニエンスストアが様々な課題に対応し、持続的に国民に便利なサービスを提 供することで、社会に貢献していくための方策を検討するため、環境や安全・安心、 地域活性化、消費者の利便性向上などについての検討結果をとりまとめたもの。 http://www.meti.go.jp/press/20090420007/20090420007-3.pdf ○中小企業政策審議会中小企業経営支援分科会商業部会報告書(地域コミュニティの 担い手)としての商店街を目指して)(平成 21 年1月 30 日 経済産業省) 「地域コミュニティの担い手」としての商店街の取組を促すに当たり、商店街をめ ぐる現状と課題、取組の具体的内容、商店街をめぐる多様な主体との支援・協働関係 の構築、行政の施策のあり方などの審議結果をまとめたもの。 http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/2009/download/090210ChiikiComm unity.pdf 3.まちづくり関係 ○国土形成計画(全国計画) (平成20年7月 国土交通省国土計画局総合計画課) 本計画は、新しい国土像として、多様な広域ブロックが自立的に発展する国土を構 築するとともに、美しく、暮らしやすい国土の形成を図ることとし、その実現のため の戦略的目標、各分野別施策の基本的方向等を定めたもの。 http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/kokudokeikaku_fr3_000003.html 129 ○第 1 回東村山駅周辺まちづくりアンケート調査結果(平成21年 東京都東村山市) 東村山駅や踏切の利用実態、駅周辺の現状の問題点、駅周辺のまちづくりの方向性 についての調査をまとめたもの。 http://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/~kakukaweb/039200/higashimurayam a/questionnaire/h_questionnaire01result.pdf 4.交通関係 ○自治体バス(コミュニティバス)の実態と評価に関する調査(平成 21 年6月4日 平成21年地域公共交通コーディネーター会議 財団法人豊田都市交通研究所研究 部主席研究員 山崎基浩) 全国のコミュニティバスの実態を把握しながら、平成19年に愛知県内で実施した 評価に関する調査を全国自治体に展開。PDCAへの意識や運行内容の見直し、持続 可能なバス運行のあり方検討と課題整理を行ったもの。 http://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/tsukuro/joho/coordinaor/pdf/02-5siryo.pdf ○コミュニティバス等に関する実態調査結果報告書(平成 21 年 財団法人山梨総合 研究所 ) 山梨県内のコミュニティバス等の実態を把握整理したもの。市町村における計画の 策定や運行の見直しの際に活用を期待。 http://www.yafo.or.jp/self/self5/community_bus.pdf ○特集 地域の新しい「生活の足」 (月刊地域づくり(第 248 号)) (平成 22 年2月 財 団法人 地域活性化センター) 地域の先進的な交通の取組事例や地域交通の今後の課題や方向性などのレポート を特集したもの。 http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/book/monthly/1002/index.htm ○多摩地域におけるコミュニティバスおよび路線バス支援策に関する実態調査報告 書(平成21年3月財団法人東京市町村自治調査会) 多摩地域を中心とするコミュニティバス等の交通システムの実態と、デマンドバス やNPO法人バス等、様々な先進事例をとりまとめたもの。 http://www.tama-100.or.jp/pdf/communitybus2008.pdf ○生活交通ハンドブック(平成19年2月 青森県) 「生活交通ユニバーサルサービス構築モデル推進委員会」を設置し、2年間の事業 130 の成果や課題を整理し、市町村や地域住民等が新たな生活交通システムの導入を検討 する際の参考としてまとめたもの。 http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kikaku/shinko/files/HPhandbook-zenpe n.pdf 5.通信販売 ○2014 年度までの IT 主要市場の規模とトレンドを展望(平成 21 年 12 月 21 日 (株) 野村総合研究所) 2014 年度までの国内を中心とする IT 主要 5 市場(ネットビジネス、モバイル、ハ ード、ブロードバンド関連、放送メディア)の分析と規模の予測。 http://www.nri.co.jp/news/2009/091221_2.html ○平成20年度電子商取引に関する市場調査 (平成21年10月 経済産業省) 我が国電子商取引市場の実態並びに本、米国、欧州主要各国、アジア主要各国にお けるインターネットビジネスの実態について分析結果をとりまとめたもの。 http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/ie_outlook.htm ○インターネット小売の現状と今後(Mizuho Industry Focus Vol.82) (平成 22 年 3月3日 みずほコーポレート銀行産業調査部) インターネット小売市場の現状、小売事業者の課題及び小売事業者によるインター ネット小売事業の戦略の方向性についてまとめたもの。 http://www.mizuhocbk.co.jp/fin_info/industry/sangyou/pdf/mif_82.pdf ○2009 年版 食品宅配市場の展望と戦略(平成 21 年 4 月 30 日 (株)矢野経済研究所) 食品宅配市場参入企業における食品宅配事業の方向性と各社の企業戦略を調査・分 析したもの。 http://www.yano.co.jp/market_reports/C51201600 6.その他統計 ○商業統計(経済産業省経済産業政策局調査統計部産業統計室) 商業を営む事業所について、業種別、従業者規模別、地域別等に事業所数、従業者 数、年間商品販売額等の統計資料。 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/index.html 131 ○平成 21 年版 我が国の商業(平成 21 年 12 月 22 日 経済産業省経済産業政策局調 査統計部) 「平成 19 年商業統計調査」のデータを主として用い、我が国商業の全体像ととも に、多様化する商業の販売形態等について、グラフや表を用いて分析し、取りまとめ たもの。特に、今回は「都道府県別にみる商業」として独立の章(第 2 部第 2 章)を 設け、事業所数、就業者数、年間商品販売額等について 47 都道府県別に詳細な記述。 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/dms/2009/index.html ○商業販売統計(経済産業省経済産業政策局調査統計部産業統計室) 全国の商業を営む事業所及び企業の販売活動の統計資料。 http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/kakuho_2.html ○百貨店売上高概況(日本百貨店協会) 月次、年次で百貨店業界(協会会員)の売上動向を調査。 http://www.depart.or.jp/common_press_release/list/0 ○チェーンストア販売統計(日本チェーンストア協会) 月次、年次でチェーンストア業界(協会会員)の売上動向を調査。 http://www.jcsa.gr.jp/figures/index.html ○コンビニエンスストア統計調査((社)日本フランチャイズチェーン協会) 月次、年次でコンビニエンスストア業界の売上動向を調査。 http://jfa.jfa-fc.or.jp/tokei.html ○ショッピングセンター販売統計((社)日本ショッピングセンター協会) 月次、年次でショッピングセンター業界の売上動向を調査。 http://www.jcsc.or.jp/data/report_selling/2010/201003.html ○外食産業規模推計値( (財)食の安全・安心財団 外食産業の市場規模を推計。 http://www.anan-zaidan.or.jp/data/index.html 132 外食産業総合調査研究センター)