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ビジネス航空の乗客と運航者の契約 2008/08/04
旅客と運航者との運送契約 2008/8/5 中溪正樹 はじめに 一頃まで旅客と言えば航空会社による定期便、或いはチャーター便の乗客をイメージすれ ば十分だったのですが、近年ではビジネス航空の発達に伴い小型機による個別チャーター 運航の旅客や、オーナーによる無償運航の乗客など、定義が多岐に及んできました。 そうした様々な旅客・乗客と運航者との運送契約はどのようになっているかを以下に解説 します。(ここでは有償の場合を旅客、無償の場合を乗客と区別します) A. 国際定期航空会社の場合 国際定期航空会社の場合は国際条約に則った会社の運送約款(国際)が旅客と航空運送事 業者間で結ばれる運送契約です。 ここで国際条約とは「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」通称:モン トリオール条約を指しますが、これは原型であるワルソー条約から、その改正版であるハ ーグ条約を経て 2000 年 11 月に発効したもので、わが国も批准しています。 わが国の場合、航空法第百条の許可を受けた航空運送事業者は、第百六条において運送約 款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならないとされており、又これを受けて航 空法施行規則第二百十八条で運送約款に定める事項は以下の6項目とされています 1 運賃及び料金の収受及び払戻しに関する事項 2 搭乗切符に関する事項 3 貨物の種類及び範囲 4 貨物の受取、引渡し及び保管に関する事項 5 損害賠償その他責任に関する事項 6 その他運送約款の内容として必要な事項 このうち 5項については、旅客の 死亡又は負傷その他の身体の障害に係わる損害賠償請 求も対象となりますので、その場合の限度額が重要な要素となりますが、モントリオール 条約では以下のように定められています。 1 賠償額 10 万 SDR〔約 1,650 万円〕までは運送者が無過失責任を負う、但し運送事業 は抗弁権を留保する(旅客側に責めある場合等に対する) 2 運送事業者側に過失が推定される場合、賠償額に限度は無い。(過失推定)但し運送事 業者は抗弁権を留保する 然しながら近年の国際航空運送をめぐる情勢にあわせ、米国、カナダ、欧州(ロシアを除 く)、日本、韓国、シンガポール、マレーシア、タイなどアジアの一部、オセアニアの航空 会社の運送約款では下記のように限度額を設けていません。 1. 賠償額が 10 万 SDR〔約 1,650 万円〕までの場合は運送者が無過失責任を負い、且つ運 送者は抗弁権を援用しない。 2. 賠償額が 10 万 SDR〔約 1,650 万円〕を越える場合も運送者が無過失責任を負う、但し 運送者は抗弁権を留保する。 一方今でも、その他の国たとえばロシア、中国、香港(一部)、台湾(一部)などでは 140 万円、280 万円などワルソー条約、ハーグ条約並みの限度額を定めていますので、利用する 場合にはその会社の運送約款を調べる必要があります。 B. 国内定期航空会社の場合 国際定期航空会社の場合は運送約款(国内)が旅客と航空運送事業者間で結ばれる運送契 約です。 国内の場合は、国際協定に縛られることはありませんが、わが国の航空会社の場合、旅客 2の死亡又は負傷その他の身体の障害に係わる損害賠償請求には限度額を設けていません。 一方外国の国内定期航空会社に関しては、欧米を除いては運送約款(当該国内)の 賠償限 度額を確認しておく必要があります。 C. 個別チャーター運航 の場合 わが国の場合、有償で行われる個別チャーター運航を行うには定期航空会社と同じく航空 法第百条の許可が必要ですので、この場合も運送約款が旅客と航空運送事業者間で結ばれ る運送契約です。 外国においても同様に個別チャーター運送事業者は国による Operational Certificate を取 得する必要があり、事情は同様です。 従って損害賠償やその限度額については当該運送 事業者の運送約款に記載されます。 定期航空運送の場合でも国より大きな違いがありますので、個別チャーター運送において も然りであり、利用に際しては事前に確認しておく必要があります。 D. 自家用機運航の場合 近年ではビジネス航空の発達に伴いオーナーによる自家用機の運航に同乗する乗客も増加 しています。 オーナーといっても個人の場合もあれば、コーポレート・ジェットの場合の様に法人の場 合もありますし、米国ではフラクショナル・オーナーの場合もありますが、何れも有償で はないので、オーナーと乗客との間に契約と言う概念が存在しません。 自動車で例えると他人が所有し、所有者又はお抱え運転手が運転する自家用車に同乗する のと全く同じです。 乗客の死亡又は負傷その他の身体の障害に係わる損害はオーナーが加入している航空保険 の範囲で賄われることになりますので、本来は事前にオーナーと乗客はその具体的条件に ついて確認しておく必要があります。 特にフラクショナル運航は複数のオーナーが分割所有する航空機をプログラム・マネージ ャーと称する専門の運航会社に運航と整備を委託する形態をとっていますので、乗客に対 する責任の所在を明確にしておく必要があります。この見地で近年フラクショナル運航に ついてはそのための運航ルールが設定され(FAR Part91 Subpart K),その中で以下が明確 化されました。 1. 運航責任はフラクショナル・オーナーとプログラム・マネージャーが等しく分担する。 そのことをフラクショナル・オーナーとプログラム・マネージャーとの契約において、 FAR の要件に従い明確化すること。 2. プログラム・マネージャーは Management Specification を設定し、FAA の認可を受け ることで FAA の監督下におかれること。 3. 離陸に先立って機長は乗客に当該飛行の運航責任を負うオーナー及びプログラム・マネ ージャーの名前をブリーフィングすること。 即ち利用者(乗客)側からは、フラクショナル・オーナーとプログラム・マネージャ ーが一体となって個別チャーター運送事業者に見えるような取り決めになっています。 E. ビジネス航空と旅行業の関係 自らは航空運送事業者ではないが報酬を得て、利用者(旅客)に利用の便宜を提供するサ ービスは、わが国においては旅行業法に基いて行われますが、典型的なものとして以下が 挙げられます。 1. 代理人 代理人は航空運送事業者(国内又は、及び海外)から航空運送契約締結の代理権を授与さ れており、利用者に契約条件を提示の上、金銭の授受、及び締結の承諾を取り付けるまでの サービスを提供します。運送契約は航空運送事業者と利用者の間で締結され、それに伴う 権利及び義務はこの2者の間で発生します。 2. 媒介人 媒介人は利用者から航空運送事業者(国内又は、及び海外)を紹介するよう委託を受けて、 適切な航空運送事業者を紹介する有料サービスを提供します。 金銭の授受、及び航空運送 契約の締結は航空運送事業者と利用者(乗客)の間で行われます。 このような代理人或いは媒介人としてのサービスを日本国内で提供すには、個人であれば 国籍の如何に拘わらず、法人であれば設立準拠法の如何に拘わらず、旅行業務に関する登 録(国土交通大臣又は都道府県知事)を受けている必要があります。 又自家用機運航に関してはこのような報酬を伴う合法的サービスが存在しないことは言う までも在りません。 まとめ ビジネス航空サービスの提供者(自家用機を含む)は、責任及びその限度を利用者にあら かじめ説明する必要があり、利用者も又納得しておく必要があります。 すべてにおいて定期航空会社と同じ条件であるとは限りません。 添付表: 日本乗り入れ航空会社の損害賠償の範囲(旅客の死亡又は傷害の時)平成15年9 月26日各航空会社の運送約款による(国土交通省調べ)。 モントリオール条約の発効に合わせ各航空会社が運送約款を改正することによ り、内容が変更されることがある。 日本乗り入れ航空会社の損害賠償の範囲(旅客の死亡又は傷害の時) (H15.9.26現在) 地域 会社名 アメリカン航空 コンチネンタル航空 コンチネンタルミクロネシア航空 北 デルタ航空 米 ノースウエスト航空 ユナイテッド航空 エアカナダ 英国航空 ヴァージンアトランティック エアフランス エアカレドニア エアタヒチヌイ アリタリア航空 イベリア航空 KLMオランダ航空 ルフトハンザドイツ航空 欧 州 スイス航空 オーストリア航空 フィンエアー スカンジナビア航空 アエロフロート航空 ダリアビア サハリン航空 ウラジオストック航空 ウズベキスタン航空 日本航空 全日本空輸 中国国際航空公司 中国南方航空公司 中国東方航空公司 キャセイパシフィック航空 香港ドラゴン航空 中華航空公司 エバー航空 大韓航空 アシアナ航空 ガルーダインドネシア航空 ア マレーシア航空 ジ フィリピン航空 ア シンガポール航空 タイ国際航空 ベトナム航空 エアーインディア ビーマンバングラデシュ航空 モンゴル航空 パキスタン航空 ロイヤルネパール航空 スリランカ航空 エミレーツ航空 イラン航空 トルコ航空 カンタス航空 オ オーストラリアン航空 セ ア ニュージーランド航空 ニ エアパシフィック ア ニューギニア航空 アフリカ エジプト航空 南米 ヴァリグブラジル航空 国名 米国 米国 米国 米国 米国 米国 カナダ 英国 英国 フランス フランス フランス イタリア スペイン オランダ ドイツ スイス オーストリア フィンランド スカンジナビア三国 ロシア ロシア ロシア ロシア ウズベキスタン 日本 日本 中国 中国 中国 香港 香港 台湾 台湾 韓国 韓国 インドネシア マレーシア フィリピン シンガポール タイ ベトナム インド バングラデシュ モンゴル パキスタン ネパール スリランカ アラブ首長国連邦 イラン トルコ オーストラリア オーストラリア ニュージーランド フィジー ニューギニア エジプト ブラジル 限度額なし 10万SDR(約1,650万円) までは厳格責任 アメリカ路線 7万5千$(約900万円) (厳格責任) その他の路線 12.5万金フラン(約140万円) 又は 25万金フラン(約280万円) (過失推定) その他 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 10万SDRまで(過失推定) ○ ○ ○ ○ 10万SDRまで(過失推定) ○ 7万5千米$まで(過失推定) ○ ○ ○ 10万SDRまで(過失推定) ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 37 ○ 17 4 (注)1.各航空会社の運送約款による(国土交通省調べ H15.9.26)。 2.今後モントリオール条約の発効に合わせ各航空会社が運送約款を改正することにより、上記内容が変更されることがある。