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起こった事(事例)を時系列で整理し,何がどのように起こっ たかという

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起こった事(事例)を時系列で整理し,何がどのように起こっ たかという
第Ⅱ部 分析及び改善策の実施
1 分析の方法
一つのヒヤリハット事例が報告された場合,まず,最も関係のある医療的ケア
実施者間で共通理解を図り,危険を回避するための速やかな対処を行うことが大
切です。その後,定期的に開催される医療的ケアに係る校内委員会等で,対策と
処置の評価を行い,必要に応じて追加の改善策を協議します。緊急性のある事例
内容であれば,校内委員会等を臨時に開催する必要があります。
(1)事例の整理
○起こった事(事例)を時系列で整理し,何がどのように起こっ
たかという事実を把握する。
ヒヤリハット事例発生までの経過を明確にします。通常,ヒヤリハット事例が
発生した場合,その事例の防止だけを目的とした対策の検討に目を向けてしまい
がちです。しかし,ヒヤリハット事例は単純な1つのミスや問題点から発生して
いる場合だけではなく,事例発生までの経過の中に多くの問題点が潜んでいる場
合もあることに留意しなければなりません。時系列で事例を整理することが必要
です。
(2)問題点の選択
○個々の事例をよく分析して,問題点を選択する。
(1)で整理した中から,問題点を選択します。例えば,個々の事例の中で,
マニュアルから外れた行為に着目し,該当の箇所があれば,マニュアルの見直し
を含めた改善策を検討する必要があります。
(3)要因の検討
○なぜ,そのような問題が起きたのかという要因を検討する。
選択した問題点に対して,背後に潜んでいる要因を探ることで,問題点がどの
ように誘発されたかを理解することが大切です。問題には必ずそれを誘発させて
いる要因があります。また,要因は一つだけではなく,要因のさらなる要因(背
後要因)というように複数の要因が存在していることもあります。「なぜ」「な
ぜ」を繰り返し,思い付く限りの要因を挙げてください。また,背後要因を逆に
問題点まで戻って,飛躍している箇所がないか,因果関係が成立しているか確認
することも大切です。
4
2 具体的改善策の検討
(1)改善策の立案
○問題点やその要因をなくすための具体的な改善策を考える。
改善策を挙げる際には,実行可能かどうかは気にせずに,思い付く限りの改善
策を考え出します。「気を付けるようにする」などの注意の喚起や人間の意識だ
けに頼る改善策ではなく,「人間は間違いをおかすもの」ということを前提にし
て,ミスを誘発しにくいシステムを構築するという考えで改善策を検討すること
が必要です。
(2)実施する改善策の決定
○実行可能な改善策を選択する。
(1)で挙げられた改善策に対して,「有効性」「即効性」「労力」等の評価
項目から,実施する改善策に優先順位を付け,実行可能な改善策を選択します。
(評価項目は,「事例の内容(緊急性等)」「学校の環境(施設や設備等)」に
より異なります。)
(3)改善策の実施
○改善策について,誰が,いつまでに,何を,どのようにして実施
するかを決め,的確に実施されたかどうかを確認する。
改善策の実施については,「誰が」「いつまでに」「何を」「どのように実施
する」と具体的な内容を明確にすることが大切です。また,改善策の実施状況に
ついて,校内委員会等で定期的に確認することが必要です。
(4)実施した改善策の効果の評価
○実施した改善策に効果があったのか,あるいは新たな問題点は
ないかなどを評価する。
再発防止のための改善策が確実に実施され,効果があったかどうかを確認する
とともに,実施したことによる新たな問題点が発生していないか調査して評価し
ます。
効果の確認については,「定量的評価」と「定性的評価」があります。
5
定量的評価
ヒヤリハット報告件数の増減が評価の対象になります。実施した改
善策に効果があれば,必ず同様のヒヤリハット報告件数は減少して
いるはずです。
定性的評価 ヒヤリハット報告の内容から質的な変化を評価します。
(例)
・事故に至る前に発見された(気付いた)という報告が増えてきた。
・業務改善に関する意見が積極的に出てくるようになった。
・意見交換が活発になった。
3 分析の例
【事例】
教員Bは,教員Aから「この栄養剤の注入準備をして」と言われ,栄養剤の入
ったイルリガートル※を受け取った。教員Bは,生徒1の栄養剤と思い込み,氏
名を確認せずに準備した。看護師が注入を開始しようとしたとき,イルリガート
ルに記載された氏名と違うことに気付き,注入を中止した。
※ 点滴等に用いる医療器具で,薬液,栄養剤等を入れる容器。
(1)事例の整理
○起こった事(事例)を時系列で整理し,何がどのように起こっ
たかという事実を把握する。
看護師
生徒1
教員A(担任)
9:20
生徒1の保護者
が昼食までに栄
養剤を持参する
と連絡を受ける
栄養剤の持参を
忘れる
生徒1が栄養剤
を持参していない
ことに気付き保護
者に持参を依頼
11:55
胃内容物を確認
し,カテーテル先
端部の胃内留置
を確認する
看護師から,カ
テーテル先端の
胃内留置の確認
を受ける
栄養剤を体温程
度に温め,イルリ
ガートルに入れる
12:00
12:05
クレンメを開ける
前にイルリガート
ルの氏名を確認
すると生徒1の
栄養剤でないこ
とに気付く
教員Bから注入
の準備を受ける
注入の中止
6
教員B(副担任)
生徒1の保護者
が昼食までに栄
養剤を持参する
と連絡を受ける
準備と注入開始後の
観察を依頼される
イルリガートルを
スタンドにかけ,
注入開始の準備
をする
(2)問題点の選択
○個々の事例をよく分析して,問題点を選択する。
9:20
看護師
生徒1
教員A(担任)
生徒1の保護者
が昼食までに栄
養剤を持参する
と連絡を受ける
栄養剤の持参を
忘れる
生徒1が栄養剤を
持参していないこ
とに気付き保護者
に持参を依頼
教員B(副担任)
生徒1の保護者
が昼食までに栄
養剤を持参する
と連絡を受ける
+α
○複数の生徒の栄養剤を準備している
○通常は生徒1→生徒2の順に準備している
○この日は生徒1の栄養剤が届かないので,生徒2の栄養剤を先に
準備した
11:55
胃内容物を確認
し,カテーテル先
端部の胃内留置
を確認する
12:00
12:05
看護師から,カ
テーテル先端の
胃内留置の確認
を受ける
栄養剤を体温程
度に温め,イルリ
ガートルに入れる
教員Bから注入
の準備を受ける
クレンメを開ける
前にイルリガート
ルの氏名を確認
すると生徒1の
栄養剤でないこ
とに気付く
準備と注入開始後の
観察を依頼される
×① ×②
イルリガートルを
スタンドにかけ,
注入開始の準備
をする
×③
注入の中止
時系列で整理した事例の中から,不足している情報「+α」を補います。また,
問題と思われる箇所に「×①,×②,×③」を付けます。
不足している情報として,
○ 複数の生徒の栄養剤を準備している
○ 通常は生徒1→生徒2の順に準備している
○ この日は生徒1の栄養剤が届かないので,生徒2の栄養剤を先に準備した
が挙げられます。また,問題点として,
① 教員Aは生徒の氏名を告げずに準備を依頼した
② 教員Bは生徒1の栄養剤の到着を確認していない
③ 教員Bはイルリガートルに記載された氏名を確認せずに準備した
の3点が挙げられます。
7
(3)要因の検討
○なぜ,そのような問題が起きたのかという要因を検討する。
問題点
背後要因
①
教員Aが生徒
の氏名を告げ
ずに準備を依
頼した
氏名を告げ
なくても分
かると思っ
た
生徒1の栄
養剤が届い
たとは伝え
ていないの
で生徒2の
栄養剤だと
分かると思
った
いつも口頭
だけで依頼
していた
ア 今まで
何の問題も
発生してい
なかった
情報伝達の
方法は個人
に任されて
いた
イ 組織とし
て情報伝達の
方法を統一し
ていなかった
昼食までに
届いている
と思った
連絡がない
ので予定通
り届いたと
思った
いつも通り
教員Aが氏
名を告げず
用件だけ伝
えるので準
備の順番に
変更はない
と思った
教員A・Bが
それぞれ勝
手な解釈を
していた
教員Bがイルリ
ガートルに記
載された氏名
を確認せずに
準備した
教員Aがい
つも決まっ
た順で準備
するので氏
名は確認し
たことがな
かった
ウ 昼食前
は同じ業務
が集中して
いた
問題点1
背後要因1-1
②
教員Bが生徒
1の栄養剤の
到着を確認し
ていない
③
背後要因1-2
背後要因1-3
背後要因1-4
問題点に対し,「なぜ」「なぜ」を繰り返して背後要因を探っていくと,
ア 今まで何の問題も発生していなかった
イ 組織として情報伝達の方法を統一していなかった
ウ 昼食前は同じ業務が集中していた
の3点に背後要因が絞られてきます。
8
(4)改善策の立案
○問題点やその要因をなくすための具体的な改善策を考える。
(5)実施する改善策の決定
○実行可能な改善策を選択する。
問題点
背後要因 暗黙のルー
ルを文章化
実施マニュア
ルの見直し
①
教員Aが生徒
の氏名を告げ
ずに準備を依
頼した
氏名を告げ
なくても分
かると思っ
た
生徒1の栄
養剤が届い
たとは伝え
ていないの
で生徒2の
栄養剤だと
分かると思
った
いつも口頭
だけで依頼
していた
ア 今まで
何の問題も
発生してい 情報伝達方
なかった 法の統一
情報伝達の
方法は個人
に任されて
いた
連絡がない
ので予定通
り届いたと
思った
いつも通り
教員Aが氏
名を告げず
用件だけ伝
えるので準
備の順番に
変更はない
と思った
イ 組織とし
て情報伝達の
方法を統一し
ていなかった コミュニケー
ションの重要
性の研修
教員A・Bが
それぞれ勝
手な解釈を
していた
②
教員Bが生徒
1の栄養剤の
到着を確認し
ていない
昼食までに
届いている
と思った
複数の職員
でダブルチェ
ックを実施
③
教員Bがイルリ
ガートルに記
載された氏名
を確認せずに
準備した
問題点1
教員Aがい
つも決まっ
た順で準備
するので氏
名は確認し
たことがな
かった
背後要因1-1
ウ 昼食前
は同じ業務
が集中して
いた
昼食の時間,
場所,介助方
法等の検討
改善策
背後要因1-2
背後要因1-3
背後要因1-4
思い付く限りの改善策を挙げます。その中から「有効性」「即効性」等を検討
して,最も適切と考えられる改善策を決定します。
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(6)改善策の実施
○改善策について,誰が,いつまでに,何を,どのようにして実施
するかを決め,的確に実施されたかどうかを確認する。
次の改善策を実施することとしました。
情報伝達方
法の統一
この改善策は,職員間で業務連絡をする際の曖昧な口頭伝達の問題,職員間の
確認に関する問題から考え出されたものです。
情報伝達は,複数の職員が関わる医療的ケア実施体制において重要な要素であ
り,正確な情報伝達は事故防止の重要なポイントになります。
情報伝達方法の統一は,組織全体で取り組まなければ効果がありません。この
事例に対する改善策として,医療的ケアに係る校内委員会が一週間以内に情報伝
達の基本形を示し,職員に周知するとともに,各教室,電話等の近くに情報伝達
の基本形を掲示することになりました。
情報伝達の基本
話し手は ○「誰に」「誰が」をはっきり言いましょう。
聞き手は ○必ず復唱しましょう。
○自分が理解した伝達内容を言いましょう。
このようにして,常に注意を促す環境づくりに努め,毎月,医療的ケアに係る
校内委員会で実施状況について協議することも決めました。
(7)実施した改善策の効果の評価
○実施した改善策に効果があったのか,あるいは新たな問題点は
ないかなどを評価する。
改善策を実施した後,同様のヒヤリハット報告件数の増減を確認することで,
改善策の効果について評価します。また,報告件数に変化がなくても,報告内容
を詳細に検討して総合的に改善策を評価することが必要です。
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