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院内結核感染の予防と対策
茨城県医療安全研修会 2011/02/06 院内結核感染の予防と対策 結核研究所 森 亨 <院内結核感染とは?> 産院での乳児結核集団発生 結核病院での多剤耐性結核の集団発生 老人病院での集団発生 ・患者→患者 よりも 患者→病院職員 の感染が多かった ・職員→患者 の例も ・結核病院よりも一般病院が多い:未発見患者の危険性 <いまなぜ結核?> 日本は結核中進国:結核はまだある! なお高い患者発生:米国の5倍、40 年までの状況 重症化する患者:発生患者の 7%がそのまま結核で死亡 集団感染の増加 「結核=亡国病」の影を引きずる結核感染:高齢者、余病のある人、生活困 窮者(健康管理弱者) 「結核はなくなった」の錯覚が問題の原因(医療と行政の油断) Ⅰ 結核の感染と発病 1.感染 1) 感染の経路:-飛沫核感染/空気感染 ・結核:麻疹、水痘(接触、飛沫感染も) ・事故としての接種感染(中耳結核など) ・飛沫核はガーゼマスクを素通り、N95 マスクの必要性 2) 感染の起こりやすい条件は; ①すべての患者が感染源となるわけではない 塗抹陽性(大量排菌)患者/呼吸器症状のある間 ②接触の程度:同居家族>親友>同僚・同級生-ただし実態は? ③環境(密閉/空調) ●気道操作(気管支内視鏡、挿管、吸引、採痰、吸入) ●未診断の患者がもっとも危険( 「肺炎かと思ったら結核!」 ) 3) どのくらい起こっているか ・既に感染を受けた人は:国民全体で 20% ・若者はほとんど未感染(20 歳で 1%) 、ただし中高齢者ではかなり広範に蔓 延(60 歳で 30%、70 歳以上では 50%超) ●医療従事者では2倍以上のリスク 4) 感染の診断:ツベルクリン反応からクォンティフェロン・ゴールドへ 2.発病 1) 感染後全員が発病するわけではない 2) 発病までの2つのルート ① 初感染結核:感染に引き続き発病、小児型 ・胸膜炎、粟粒結核、初期浸潤、肺門リンパ節結核 ② 内因性再燃:感染後不定の時期に、成人型、空洞. .. . ③ 外来性再感染:エイズその他の強度の免疫抑制状態で。院内感染では 重要なことも。 ・感染後生涯の発病リスクは最大 30%程度 3) 発病を促す要因:リスク要因 ①既往歴:感染~発病、化学予防の経験 ②接触歴:家族・親戚・友人が結核になった? ③ツベルクリン反応の強さ:BCG 接種との関係 ④胸部X線所見:治癒巣がある? ⑤感染からの期間:最初の1年が危険 ⑥免疫抑制状態にある人:糖尿病、副腎皮質ホルモン剤. . . ⑦社会経済要因(健康管理の機会に恵まれない人) :零細企業、生活 保護、外国人労働者、連続検診未受診 ●「長引く咳は赤信号」中高年の呼吸器症状の患者 4) 結核の診断:臨床の場で 80%が発見される ・意識:結核はまだある! ・結核の疑い:症状、年齢、既往・接触歴、他のリスク要因 ・X線撮影・細菌学的検査(塗抹・培養は必須) ・健康診断のみなおし:ハイリスク集団と接触者検診の強化 5) 結核の治療 ・進む治療技術:治療・入院の短期化 ・意外に悪い治療成績 -発見の遅れ -合併症 -脱落・治療失敗 6) 発病の防止 ・BCG 接種 -発病を 1/4 に抑制、とくに初感染型に有効 -成人も効果はあり(例.英国では 14 歳に接種) -ただし有効期間は 15 年間 -再接種は無効(?) -未接種の医療職員には接種も(結核病学会見解) ・化学予防 -感染後間もない時期に(小児・若者) -発病リスクの大きい人にも(成人・高齢者) :準備中 -ヒドラジド(INH)を6~12 ヶ月投与 Ⅱ 施設・院内感染への対応 1.発生増加の背景要因:医療職員の感染・発病のリスクは漸増中 ・職員の結核未感染者が増加 ・結核診断の後れ・診断困難の結核患者が増加 ・診断の遅れ、医原病的症例の増加 (免疫抑制状態患者の増加:外来性再感染発病も?) 3.管理的予防 ・職員の結核、院内感染に関する教育 ・院内感染防止基準・マニュアルの策定 ・診療体制 ① トリアージ(選別診療) :外来、入院 ② 隔離病室の設置:結核患者収容モデル事業 ③ 菌陽性患者発生時の連絡体制(検査室など) ・健康管理体制 ① 採用・転勤時のクォンティフェロン検査、化学予防 ② 患者発生時:ツ反・クォンティフェロン検査(50〜60 歳未満?) 感染疑い者には予防投薬、追跡体制も ③ 体系的対応:院内感染対策委員会、保健所との提携 4.工学的予防(病院環境) ・医療法上の「結核病床」の考え方: 独立した看護単位=病棟 ・今後の方向: 「結核病室」(モデル事業) -患者の往来の遮断(食堂、浴室等) -独立した空調 -HEPA フィルター -課題:危険空間(気道操作)の空調は? -患者の動線(エレベーターなど) 5.個人的予防(吸入感染対策) ・患者への指導、ガーゼ(外科用も)マスク着用 ・職員等は「レスピレーター」 (気密、密着性) :特に気道操作の場面で 6.早期発見の重要性 ・有症状患者の選別診療、疑い患者の個室隔離 ・「結核はまだある!」の意識 参考:厚生労働省資料 1.空気感染隔離予防策 1.1 結核、麻疹、水痘が診断されたか、または疑いのある患者には、空気感染隔離予 防策を実施する。(ⅡA) 1.2 患者配置 1.2.1 患者は、以下の条件を備えた個室管理とする。 (ⅡA) 1.2.1.1 1部屋は陰圧室とする。陰圧室は、扉を閉めて毎日陰圧室の視覚的なモ ニタリング(スモークテストまたはペーパーテストなど)を実施。 (ⅢA) 1.2.1.2 1時間に少なくとも 12 回の換気を行う。 (ⅢA) 1.2.1.3 空気は独立換気とする。空気を再循環させる場合は、排気側に HEPA フ ィルターを設置する。(ⅢA) 1.2.1.4 入退室時以外は、部屋の扉を閉めておく。(ⅢA) 1.2.1.5 空気感染隔離予防策の必要な患者が多数発生し、陰圧室が不足した場合 は、感染対策チームに相談する。(ⅢA) 1.3 医療従事者の感染防止対策 1.3.1 肺結核、喉頭結核、漏出する結核皮膚病変を有している患者の部屋に入室する時 には、N95 マスクを装着する。 (皿 A) 1.4 病院内における患者移送 1.4.1 治療上必要な時以外は患者移送を制限する。 (ⅢA) 1.4.2 患者が病宰外に出る場合は、サージカルマスクを装着させる。 (ⅢA) 1.4.3 患者移送を行う医療従事者は、サージカルマスクを着用する。(ⅢA) 2 飛抹感染予防策 2.1 乳幼児のアデノウイルス感染症、インフルエンザ、咽頭ジフテリア、インフエン ザ菌性髄膜炎、髄膜菌炎牲髄膜炎、アデノウイルス性肺炎、マ イコプラズマ肺炎、乳幼児 の A 群溶連菌感染症、百日咳が診断されるか、または疑われる場合は、飛抹感染予防策を 実施する。 (ⅢA) 2.2 患者配置 2.2.1 個室管理とする。 (ⅢA) 2,2.2 個室が不足する場合は、病原体ごとにコホート隔離する。 (ⅢA)2.2.3 コホー ト隔離をする場合は、患者間は 1m 以上あけ、伝播を最小限にするためカーテンで仕切る。 (ⅢA) 2.3 医療従事者の感室出動上対策 2.3,1 患者と 1m 以内で接する時には、サージカルマスクを着用する。 (ⅢA) 2.4 病院内における患者移送 2.4.1 必要時以外患者移送を制関する。 (ⅢA) 2.4.2 患者が病室外に出るときには、サージカルマスクを装着させる。 (ⅢA) 2.4.3 患者移送を行う医療従事者は、マスク着用の必要はない。 (ⅢA)