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新ダスト・ヨウ素モニタの概要(PDF形式 591 キロバイト)

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新ダスト・ヨウ素モニタの概要(PDF形式 591 キロバイト)
新潟県放射線監視センター年報
第6巻
2008
23
新ダスト・ヨウ素モニタの概要
石山
央存・藤巻
広司・丸田
文之*
Outline of Continuous Monitoring Instruments for Radioactive Airborne Dust
and Gaseous Iodine.
Hisanobu Ishiyama, Hiroshi Fujimaki and Fumiyuki Maruta*.
Continuous air monitoring system for measuring floating radioactive particulates (airborne dust) and iodine
isotope (gaseous
131
I) was remodeled with some new equipments and techniques, in March 2008. Both total α and β
radiation could be detected from dust samples on a filter paper during sampling as well as after sampling. Those data
were inspected with time interval analysis (TIA) and ratio calculation of β to α rays to check the existence of
artificial radionuclides. As for Iodine monitoring, some diaphragm pumps (100V) were employed and connected to
the electrical generators, to guarantee the operation even in the case of power failure. Below articles outlines the new
system.
Keywords: radioactive airborne dust, gaseous Iodine, online-monitoring, total beta and alpha activities
and time interval analysis
1
は
じ
め
に
新潟県では,柏崎刈羽原子力発電所周辺環境放射線監視調査年度計画に基づき,空気中浮遊じん放
射能測定装置(ダストモニタ)及び同放射性ヨウ素測定装置(ヨウ素モニタ)による放射能モニタリ
ングを行っている 1, 2).
この調査は,原子力発電所が運転を開始する 2 年前の 1983 年から開始しており,2007 年現在,9 局
のモニタリングポストのうち 3 局に両モニタを設置している.このうちダストモニタについては平常
時から連続モニタリングを行っており,ヨウ素モニタは原子力災害等の緊急時に稼動することとして
いる.発電所からの粒子状/ガス状放射性物質の放出を検知するための重要な手段であり,これまで
実際に発電所由来の人工放射性物質を検出したことはないものの,1986 年のチェルノブイリ事故の際
には,ダストモニタにより,飛来した核分裂生成物に由来する全β放射能の上昇を検知した実績をも
つ 3).また,いずれのモニタも 2004 年の中越大震災,2006 年の北朝鮮による核実験 4)及び 2007 年中
越沖地震
5)
におけるモニタリング強化の際にも活用され,結果として人工放射能は検出されなかった
ものの,住民への安全安心情報の提供という役割を果たした.
2008 年 3 月にはシステム老朽化に伴って 2 度目の更新を行い,3 代目となるシステムの運用を開始
した.今回の更新では,2 度の震災等におけるモニタリング強化活動からの教訓も踏まえ,ダストモ
ニタにおいては集じん中測定や全α線測定の採用,ヨウ素モニタにおいては独立電源の確保やスペク
トルの収集など,それぞれ新機能を追加して監視の強化をはかった.特に,ダストモニタについては
天然由来成分の分離を目的とした,全 β-全 α の時間間隔解析(Time Interval Analysis;TIA)法の
実用化を目指し,専用システムを導入した.以下に新システムの概要について紹介する.
2
* … 原子力安全対策課
機
能
概
要
第6巻
新潟県放射線監視センター年報
2008
24
2. 1 システム構成
Fig. 1 に採取地点図を,Fig. 2 には新ダストモニタ及び
ヨウ素モニタの採取・測定の模式図を示す.本ダスト・
N
ヨウ素モニタは柏崎市街局,刈羽局,西山局の 3 局のモ
西山局
ニタリングポストに設置している.モニタの起動/待機
状態の切替え,ろ紙送りまたは捕集材交換,捕集間隔の
東京電力(株)
柏崎刈羽
原子力発電所
変更,データ収集,解析等は全て放射線監視センターに
刈羽局
設置したテレメータシステムのデータ収集サーバの制御
による.
ダスト・ヨウ素モニタは,それぞれ捕集及び検出を行
標高
0- 50
50-100
100-200
200-
うサンプラと,データの入出力を制御する測定部により
柏崎市街局
放射線監視センター
構成されている.今回の更新では,局舎の外壁に据付け
5km
Fig.1 Monitoring points for radioactive
airborne dust and gaseous Iodine.
た吸気口及び排気口以外の,局舎内部の吸気フランジか
ら排気フランジ間の全設備を更新対象とした.ただし,
吸気口ストレーナ内のフィルタ(金網)は更新した.吸
引口の地上高は 2.0 m であり,ダストモニタとヨウ素モニタで共用となっている.
モニタリングポストと放射線監視センター間は広域イーサネットにより接続しているが,ダスト・
ヨウ素モニタの更新に先立ち,その回線を銅線から光回線に変更する工事を別途実施し,回線速度を
128 kbps から 1 Mbps に上げた.データ収集はテレメータ子局装置を介した専用線により行うが,ダス
トのβ-α時間間隔解析データ及びヨウ素のγ線スペクトルなど,新規に収集する一部のデータは,
子局装置を経由せずに LAN 経由で直接,放射線監視センターのサーバにて収集することとした.
局舎外
局舎内
結
露
防
止
装
置
吸気口
外付けエアブロー
用ボンベ(未実装)
粒子除去
フィルタ
トラップ
検
出
器
検
出
器
排水口
測 定 部
TTL パルス/
無電圧接点
電子記録計
測 定 部
加温
装置
測定部筐体
ステップ
移動
・・・
1ステップ
送り位置
LAN
捕集部
検
出
器
・・・
集じん
位置
時間間隔
解析装置
集塵部
ろ紙送り
リール
ろ紙巻取
リール
除じん
フィルタ
質量
流量計
流量
調節弁
圧力計
パージガス
排出(未実装)
除じん
フィルタ
質量
流量計
制御装置
圧力計
制御装置
ポンプ
ポンプ
ポンプ
ヨウ素サンプラ 筐体
ダストサンプラ筐体
消音器
除じんフィルタ
フランジ
配管
データ/信号
排気口
Fig.2 Schematic diagram of air flowing and measurements.
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2.2
ダストモニタ
(1) 集じん部
当県では,6 時間ごとの間欠集じん・測定方式を採
窓
用している.吸引した空気をリールシステム(ろ紙巻
取り装置)にセットした長尺セルロース・ガラス繊維
ろ紙(ADVANTEC,HE-40T)に通し,ダストを円盤
状に捕集する.吸引流量率及び集じん面積は従来どお
り約 200 L/min,50 mmφとした.集じん時間は通常 6
時間(0~6 時,6~12 時,12~18 時,18~24 時の 1
日 4 回,時間帯は固定)とし,設定時刻にろ紙を 13.0
cm 巻取り,ダスト付着部を 1 ステップ送り位置まで移
動させるとともに,集じん部では新たなろ紙面での捕
集を開始する.ろ紙送りは 1 mm 単位で制御可能であ
り,ろ紙残量長さの表示機能を持たせた.集じん時間
は 6 時間のほか,3,2,1 時間ならびに 30,10 分等に
も可変である.
ポンプ×2
真空ポンプはこれまでのウェット式ロータリーポン
プからドライポンプ(Orion Machinery,KRF 40-V-01)
Fig. 3 An appearance of a dust monitor
に変更した.ろ紙送りの都度,ポンプの運転を停止す
ることとしたが,再起動後の定格吸引流量率への到達時間は短く,初めの 2 分値で定格の約 98 %に達
する(ただし定格到達後,ろ紙の目詰まりにより,流量率は徐々に下がり,6 時間後には 2~7 %程度
低下する).ポンプはサンプラ 1 台につき 2 台設置し,四半期ごとに切替えて使用するほか,稼働中の
1 台が故障した場合にも,手動でもう 1 台に切替えて運転を継続できるようにした.なお,ポンプ収
納部は防音仕様とし,消音装置を追加した.
集じん部は蓋部で覆われた内部にあるが,Fig. 3 に示すようにこの外蓋には透明の窓をつくり,集
じん中のろ紙の様子が視認できるように工夫した.集じん中はろ紙を前後の配管で挟みこむ(Fig. 4
参照)が,この密着性は高く,ろ紙と配管の接触部からの空気の吸引や漏れは無視できる量であるこ
とを確認した.従って,集じん中にこの外蓋を開閉し,集じん済のろ紙を回収することもできる.
(2) 検出部
集じん位置及び 1 ステップ送り位置にそれぞれ ZnS (Ag) 薄膜+プラスチックシンチレータ式検出
器(Ohyo Koken,S-2416S-KF)を配置して,全 α 線及び全 β 線の同時測定方式を採用した.従来は
1 ステップ送り位置のみの測定であったが,今回の更新に伴い,集じん位置での測定も加えて,検出
器を増設した.この目的は,大気中の放射性物質の現況
Oリング
を直ちに把握することである(1 ステップ位置のみの測
ホルダ
ろ紙
定では,集じんの間は結果がわからない).特に緊急時等
プランジャー
の際にはこの必要性が大きく,過去の地震等においても,
常有無の速報が求められていた.また,これまでは全β
φ65
住民へ安全安心情報を提供するにあたり,現時点での異
OUTLET
検出器
測定のみが監視項目であり,全 α 測定は 3 局のうち 1
局(西山局)でのみ試験的に実施していたものを,今回
から 3 局全てで α 線測定を行うこととした(平成 20 年
度の監視調査年度計画から採用).α線測定を行う目的は,
主にβ線の変動を解析するためと位置づけており,その
解析手法については(5),(6)に後述する.
空気の流れ
INLET
Fig. 4 Schematic arrangement for sampling
and measurement of airborne dust.
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Fig. 4 に集じん位置での配管・検出器配置の模式図を示す.検出器の真下から引き込んだ空気を 90°
曲げてろ紙に通しており,ろ紙面と検出器入射窓の距離は約 5 mm である.
α線とβ線の弁別は,更新前の装置(西山局)では,α線とβ線の波高差を利用していたが,この
方式では冬場の落雷に由来するノイズの影響を受けることがあった.そこで新たに,α線とβ線それ
ぞれのシンチレータによる発光波形の違い(立ち上がり時間)を解析する方法を採用した.なお弁別
回路の中には,α線検出後のβ線検出に数百μ秒程度の不感時間を生じるものもあるが,今回導入し
た装置では,そのような症状のないことを確認した.この不感時間については,後述の時間間隔解析
装置により確認した.
全β測定用の校正線源は,従来の U3O8 から
241
36
Cl に変更した.全α校正用には,これまでと同じく
Am 線源とした.これらによる検出効率及び BG 値の一例を Table 1 に示す.これらの値は検出器ご
とのパラメータとしてテレメータにより管理しており,放射能値算出に用いる.また,年 2 回の保守
点検時に再測定し,値を更新することとしている.
Table 1 Typical detection parameters of a dust monitor (Kariwa monitoring post).
検出位置
検出効率/%
total α
25.4
0.4
total β
21.6
16.8
total α
28.8
total β
21.2
集じん位置
1 ステップ送り位置
α source:
241
BG 値/cpm
測定対象
0.07
17.3
36
-
Am (about 5.5 MeV), β source: Cl (β about 0.71 MeV)
(3) 測定部
集じん位置測定及び 1 ステップ送り位置測定のために,各 1 台の測定装置(Ohyo Koken,S-2817)
を配置した.計測値は全 α,全 β 計数並びに吸引流量である.これらは TTL(Transistor-transistor logic)
レベルのパルスにより,また装置の状態については接点信号により,それぞれ既設のテレメータ子局
装置へ出力し,ここから 2 分毎に放射線監視センターへの伝送を行う.放射能値及びβ/α放射能比
については,データ一元管理の観点から,テレメータのサーバ側で一括して算出し,保存することと
した.集じん位置での測定では,放射能(Bq)に換算した後のβ/α比を評価に用いることとし,1
ステップ位置ではこれまでと同様に,6 時間積算流量で除した放射能濃度(Bq/m3)で評価を行うこと
とした.また,伝送した生データ(2 分間計数値)についても保存しており,テレメータ端末からは,
必要に応じて計数値に遡ってデータの再解析を行うことができる.測定装置には,故障による欠測を
避けるためにハードディスクではなく半導体方式のメモリを採用し,2 分値として 8000 個分のデータ
を自動保存できる容量を持たせた.このデータは USB 接続した外部メモリストレージに出力可能であ
る.なお,時刻補正は 1 日 1 回,テレメータ子局装置からの同期信号により行う.
計数及び流量は,テレメータ子局装置への出力と同時に,モニタリングポスト内の電子記録計
(Yokogawa,DX200;テレメータシステム更新事業の際に整備済)へ 1 秒毎にアナログ出力すること
とした.この 1 秒値データは,空間放射線の測定値とともに,最終的に 20 秒ごとの最高値と最低値の
ファイルとして,記録計に接続した外部メモリストレージ(CF カード)に自動保存される.電子記録
計の画面は,LAN 経由で放射線監視センターの端末からもモニタすることができるほか,保存ファイ
ルのダウンロードも可能である.
(4) 測定値の評価(人工放射能の検出)
集じんしたダスト中には,Fig. 5 に示すように,自然放射能である U 系列の 218Po 以降の核種,及び
Th 系列の 216Po 以降の核種が含まれているが,これらは人工放射能検出においては妨害物質となる.
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中でも環境場での測定では,観測される放射線の大部分が U 系列の
(β;T1/2 = 19.9 分)及び
214
214
Pb(β;T1/2 = 26.8 分),
214
Bi
Po(α;T1/2 = 164μ秒)の 3 核種であり,これらの存在下で人工放射能
を弁別して検出するための手段が必要となる.
新潟県では従来,この弁別のために,ダスト中の U 系列核種の減衰を待って,集じん終了から 5 時
間経過後の全β放射能値を用いて評価を行ってきた
2)
.加えて,集じん直後からの,時間減衰する放
射能プロットに指数関数による回帰計算を適用し,1 時間ごとに見かけ上の半減期を算出して,人工
放射性物質混入の有無をチェックしてきた.今回の更新でも,これらの評価手法はそのまま引き継い
でいる.これらに加え,今回導入した集じん中の放射能測定についての評価手法を確立する必要があ
り,β/α比解析及び時間間隔解析(TIA)を導入した.
なお,集じん後のろ紙は,最終的に 1 ヶ月単位で回収し,灰化した後に Ge 半導体検出器により γ
線核種の機器分析に,また半年ごとの 239+240Pu を対象にした放射化学分析に供している 1, 2).
(a) The Uranium-238 decay series.
(b) The Thorium-232 decay series.
Fig. 5 Natural radioactive decay series. (出典:アイソトープ手帳 10 版)
(5) β/α比の算出
原子力発電所の場合,万一の事故時に放出されるおそれのあるものは主としてβ放射体であり,一
方,観測されるα放射能は(事故時にも)自然放射能のままである可能性が高い.また,自然放射能
自体にも変動があるものの,ダスト中の天然β放射体の大部分は
部分は
214
214
Pb 及び
214
Bi,またα放射体の大
Po であり,全β,全αがそれぞれ変動してもβ/α放射能比はほぼ一定,もしくは特有の
傾向を持つと考えられる.従って,β/α放射能比を算出し,平常時の変動幅を把握しておくことに
より,簡易的に人工核種検出の指標とすることができる.特に,集じん中の測定では,集じん後(1
ステップ送り位置)の測定のように減衰を利用した解析が適用できないことから,この手法を用いて
評価を行うことが効果的である.すでにいくつかの県でも実装されており 6, 7),当県でも採用して,集
じん位置での測定の報告値として用いることとした.
(6) 時間間隔解析システム
ZnS (Ag) 薄膜+プラスチックシンチレータ式検出器は,α線とβ線を簡便に同時検出できる利点が
あるものの,詳細なエネルギー情報が得られず,核種情報に乏しい欠点がある.上述のβ/α比解析
の場合でも,あくまでも放射能比からの推定であり,核種を特定しているわけではない.そこで,エ
ネルギーによらず,β線とα線の検出時間間隔を利用して核種を同定する TIA 法の実用化を検討した.
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前述した妨害核種のうち 214Bi については,その壊変生成物である 214Po の半減期が 164 μ 秒と特に
短く,短時間で α 線を放出して 210Pb に変わる.この“β 壊変直後に続く α 壊変”というペア事象
(相関事象)に着目し,β-α の全時間間隔を μ 秒単位で解析することにより,214Bi 及び
214
Po を
半減期の異なる他核種の壊変事象(ランダムまたはバックグラウンド事象)から弁別することが可能
となる.これは,TIA の中でも多重時間間隔解析(Multiple Time interval Analysis;MTA)8-11)と呼ばれ
る手法であり,系を 1000 μ 秒程度の時間内で観察した場合に,214Bi(β)-214Po(α)のみが有意な連
続壊変を示し,これら以外の核種の壊変率は時間変化せずに一定とみなせることに基づいている 10-11).
このことは,以下のような式で表すことができる.n 種類の放射性核種(半減期:Tn)からなる系
があるとき,核種 i のみが極めて短い半減期を持ち,それ以外の核種 k(k = 0 ~ n-1)は i に比べ十
分長い半減期であるとする.t = 0 における核種 n の個数を Nn, 0 とし,系の放射能 A (t) を次のように
表す.
∑
A n (t )
= Ni, 0 λi exp (–λi t) +
n
∑
Nk, 0 λk exp (–λk t)
k
Tk が十分大きい,すなわちλk がごく小さい場合は,右辺第 2 項は Nk, 0λk(一定)とみなせるので,
これらの合計を定数 b とおいて,次のように表す.
= Ni, 0 λi exp (–λi t) + b
… (1)
これは半減期解析の一種であり,右辺の指数関数で表される相関事象の計数が,その壊変定数λi に
即した減衰を示すスペクトル(頻度分布)として,他壊変の計数に由来する定数項(バックグラウン
ドとして扱う)に加算された形で観測されることになる.ここで,全ての β-α パルスについて時間
間隔を計測するということは,β パルス(トリガ)の検出時刻を t = 0 として,以降の α パルスの検
出時刻を再編することに他ならない(Fig. 7).このようにして,
(6 時間という)集じん・測定時間中
に発生する全相関事象を,トリガを起点とした t = 0~10×Ti(注目核種 i の半減期の 10 倍)程度の時
間内に集めることで,式(1)を実現することになる.
今回,この TIA 法を導入するにあたり,TPo214
= 164 μ 秒という短時間壊変に由来するパルス
を精度よく捉える必要があることから,高速パ
β
β1
β2
β3
β4
ルス処理のための専用計測システムを設計・開
発した(Fig. 8).この装置は高速タイマカウン
α
α1
α2
α3
α4
タボード(ZCOSMOS,ZN-HTS2),及び FIFO
α5
メモリつきの PCI/IO ユニットを備えたカスタ
ム PC であり,3 つのチャンネルから入力された
TTL パルスについて,1μ 秒(1 MHz)単位で
入力時間を計測しつつ,同時に全パルスの間隔
Fig. 7 Conceptual expression of time interval analysis.
input interface
CPU side
auto run
ch. B
ch. C
Oscillator
(16 MHz)
Timing digit-up flag
controle IC 1 bit
(HTS-A)
Counter
IC
(HTS-B)
28bit
TTL レベルであればいかなる機器のパルスも処
graphic
PCI I/O
in 32 bits
FIFO
RAM
PCI / DMA
transfer
...
ch. data
3 bits
1st buffer
(ring buffer)
DATA RAM
32 MB
(ZCOSMOS ZN-HTS2)
Fig. 8 Circuit diagram of present TIA system.
システム内部では,1 パルスの検出時刻を 1
データとして扱い,これを 32 ビットで処理する.
Programs
STB
ch. A
計算と TIA スペクトルの表示が可能である 10-12).
DATA RAM
200 MB
理できるため,ダストモニタ測定部からのテレ
メータへの伝送パルスを BNC コネクタ経由で
分岐して導入するだけで解析が可能となる(Fig.
9b).(2)で述べたように,本モニタではα線と
β線が付随した弁別回路により分離され,
別々のラインを通して TIA 測定装置に導入さ
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(a) front
(b) back
Fig. 9 Appearances of the TIA equipment set
in a rack within a monitoring post.
Fig. 10 TIA monitor program.
待機中
カートリッジ
れるため,時間間隔はβ-α間だけを考慮す
ればよいことになる(β-β,α-α,α-
βは計測されないので,バックグラウンドの
低 下 に つ な が る ). 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア は
Windows XP(Hyper threading または dual core
CPU が必要)上で稼動する.ただし,(3)で述べ
たようにハードディスクを持つ機器は使用でき
ないことから,補助記憶装置にはシリコンディ
スク(Serial ATA,SSD 16 GB×2)を採用した.
Fig. 9 に示すように,PC 自体は 3U のラックマ
ウント型に組み込むことで,他の測定部ととも
にモニタリングポスト内の計測ラックに格納し
た.キーボードとマウスは空いた 1U 分のスペ
ースに収納した.ディスプレイは小型引出しタ
イプ(Logitec,LCM-T042AS)を採用した.
この装置を 3 局のモニタリングポストに 1 台
ずつ設置し,集じん位置部での検出パルスを対
象として 24 時間連続で解析を行うこととした.
6 時間の集じんごとにパルス検出時刻ファイル
を作成・保存するとともに,全 β 線-全 α 線
の時間間隔を解析して TIA スペクトルを表示す
る.また,このスペクトルを測定時間内の任意
時間(秒単位)で分割できるようにプログラム
を設計しており,計数トレンドを解析できるよ
うにした.通常は 2 分値でモニタすることとし,
全 β,全 α 及び相関事象の計数率トレンド,
さらにそれらの比を LAN 経由で監視センター
に設置した収集サーバにてモニタするためのプ
ログラムも作成した(Fig. 10).なお,TIA シス
テムについては当面,研究目的の運用とし,人
工放射能検出のための手法確立を目指すことと
した.
Fig. 5 からわかるように,Th 系列中にも 220Rn
(α)-216Po(α:半減期 145 ms)と 212Bi(β)
-212Po(α:半減期 0.299 μs)の 2 つの相関事象
が存在する.しかし,Th 系列自体の濃度が低い
ことに加え,前者はトリガが希ガスのためろ紙
上に捕集できず,また後者は半減期が短すぎる
ために,今回の測定方法では時間間隔を捕捉す
ることは困難である.
2.3
ヨウ素モニタ
(1) 捕集部
ガス状ヨウ素の捕集は,更新前は吸引ポンプ
Fig. 10 An appearance of an Iodine monitor
をダストモニタと共用しており,ヨウ素を捕集
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30
する際は,ダストモニタにて集じん後(HE-40T 通過後,つまり粒子状物質を除去したうえで)の空
気を約 50 L/min で分取し,ヨウ素モニタへ通気していた.しかしこの方式では,停電時などにダスト
モニタが稼動停止した場合,ヨウ素モニタも稼動できなくなるという欠点があった.そこで今回の更
新では,吸引機構をダストモニタから独立させることとし,ダイアフラム式吸引ポンプ(Techno
Takatsuki,HP-60S)を新たに整備した.このポンプは 100V 電源仕様であり,モニタリングポストに
既設の自動起動型自家発電機(Densei-lambda,EMP5205-115-000)に接続して停電時の電源を確保し
た.吸引流量率は従来どおり 50 L/min とした.通常は待機状態であり,定期的な監視調査(通常,四
半期に 1 回)及び発電所から気体状放射性物質の放出が予想される場合等にテレメータによる遠隔操
作で起動する.
また,空気の捕集機構がダストモニタから独立したことで,別途粒子状物質除去のための手段が必
要となり,新たにメンブレンカートリッジフィルタ(Advantec,TCF-020S)を前段に整備した.この
フィルタ通過後のガス状ヨウ素を,TEDA 添着型活性炭カートリッジ(CHC-50)に捕集する.従来は
活性炭カートリッジの前段に粒状活性炭シート(CP-20)を配置し,両者を合わせて専用ホルダに充
填して捕集を行っていたが,この充填作業は人手と時間がかかるため,緊急時に実施するのは現実的
でないことが,過去の地震等において問題点として挙げられていた
5)
.そこで更新に合わせて粒状活
性炭シートとホルダの使用をやめ,カートリッジに直接捕集する方式とした.さらに,カートリッジ
にヨウ素を捕集した際,同時に捕集される可能性のある希ガスを除去するために,外付けの N2 ボンベ
からのパージガスを流すことを想定して,サンプラ内に配管や弁設置のためのスペースを確保した.
カートリッジは 30 個を常時,ヨウ素モニタ内の待機ケース(湿気対策済)にセットし,稼動に備え
ている.捕集済カートリッジは自動で検出部(1 ステップ送り位置)へ送られ,測定後に排出される
が,回収を容易にするために下から順に積み上げられるように工夫した.
捕集時間は任意に設定可能である.従来は四半期に 1 回,10 分間の捕集・測定を実施していたが,
カートリッジが 30 個しか待機できないことも考慮すると,10 分は短いと考えられる.文部科学省マ
ニュアル
13)
には捕集時間は 24 時間以内が推奨されており,実際,過去の地震等でも 1~24 時間で運
用したことから,今後は 10 分より長い時間で運用する予定である(平成 20 年度の監視計画では原則
として 24 時間捕集とする).
(2) ガス状ヨウ素の測定
ヨウ素の測定については,従来どおり,1 ステップ送り位置に NaI(Tl)シンチレーション検出器(Ohyo
Koken,MSP-20S-KF)を配置し,ガス状ヨウ素に由来する γ 線測定を行う方式とした.131I をメイン
ターゲットとし,360 keV±10 %に SCA の ROI を設定する方式もこれまでと同じである.SCA 計数か
ら換算定数(模擬ヨウ素線源による計数効率)により 131I 放射能値に変換する.Table 2 に計数効率と
BG 値の例を示す.
Table 2 Typical detection parameters of an Iodine monitor (Kariwa monitoring post).
検出位置
測定対象
検出効率/%
BG 値/cpm
1 ステップ送り位置
γ (360 keV±10 %)
3.18
37.6
Mock I source: 133Ba + 137Cs
今回の更新では,新たな機能としてエネルギースペクトルを収集することとし,放射能値の上昇を
検知した際に,スペクトルデータも確認できるようにした.伝送はテレメータ子局装置を介しない
LAN によるものとし,収集は空間放射線スペクトルと同じスペクトル収集サーバで行うこととした.
表示・解析ソフトウェアも,データ一元管理の観点から,空間放射線スペクトルと同じ既設プログラ
ム(Canberra Japan,Dose Center)を利用することとした.
第6巻
新潟県放射線監視センター年報
2008
31
データの伝送や電子記録計への保存処理については,ダストモニタと同様とした.
3
ま
と
め
2008 年 3 月にダストモニタ及びヨウ素モニタを更新した.ダストモニタについては 6 時間間欠集じ
ん方式において,集じん中でも異常有無を評価するために,従来の 1 ステップ送り位置に加え,集じ
ん位置にも検出器を配置した二段測定方式とした.さらに,β線変動の解析に利用するために,α線
測定も行うこととし,集じん位置でのβ/α放射能比及びβ-α時間間隔解析を導入した.ヨウ素モ
ニタについては,従来はダスト吸引ポンプと共用であったものを,100 Vで稼動する独自のポンプを導
入し,自動起動型自家発電機に接続することで,停電時にも滞りなく測定を行えるようにした.さら
に核種確認のためにγ線スペクトルも収集した.β-α時間間隔解析やヨウ素ガンマ線スペクトルな
どの新規データについては,LANにより収集することとした.
この新システム導入により,発電所周辺の大気中放射能モニタリングの一層の機能強化が図られた.
謝
辞
ダスト・ヨウ素モニタの更新事業を行なうに際し,システム設計の参考のために福井県原子力環境
監視センター,鹿児島県環境放射線監視センター(順不同)をはじめとする各県のダスト・ヨウ素測
定担当の方々には大変お世話になりました.ここに感謝いたします.また,時間間隔解析システムの
設計・導入にあたり,終始ご指導いただいた橋本哲夫新潟大学名誉教授に感謝いたします.同システ
ムについて,ハード・ソフトウェアの開発から連続モニタリングへの運用に至るまで,
(株)ゼットコ
スモスの伊藤成樹社長には多大なご尽力をいただきました.ここに謝意を表します.
参
考
文
献
1) 新潟県:平成 20 年度柏崎刈羽原子力発電所周辺環境放射線監視調査年度計画書,(2008).
2) 新潟県:平成 19 年度柏崎刈羽原子力発電所周辺環境放射線監視調査結果報告書,(2008).
3) 新潟県:昭和 61 年度柏崎刈羽原子力発電所周辺環境放射線監視調査結果報告書,(1987).
4) 春日俊信,坂上央存,笠原貢,藤巻広司,霜鳥達雄,加藤健二,山﨑興樹,中山久雄,殿内重
政:新潟県放射線監視センター年報,5,35-44 (2007).
5) 山﨑興樹:保健物理,43,112-120(2008).
6) 福井県環境放射能測定技術会議:原子力発電所周辺の環境放射能調査報告
平成 19 年度年報,
(2008).
7) 静岡県環境放射能測定技術会:浜岡原子力発電所周辺環境放射能調査結果
調査期間:平成 19
年 4 月~平成 20 年 3 月,(2008).
8) Hashimoto, T., Uezu, Y., Yamamoto, Y., Washio, H. and Noguchi, M.:J. Radioanal. Nucl. Chem. Articles.
159. 375-387(1992).
9) Hashimoto, T., Sanada, Y. and Uezu, Y.:Anal. Bioanal. Chem.,379,227-233(2004).
10) 八幡崇,坂上央存,伊藤成樹,橋本哲夫:日本原子力学会和文論文誌,5,221-228(2006).
11) Sakaue, H., Fujimaki, H., Tonouchi, S., Itou, S. and Hashimoto, T.:J. Radioanal. Nucl. Chem. 274.
449-445(2007).
12) 橋本哲夫,石山央存,伊藤成樹:Radioisotopes,57,679-694(2008).
13) 文部科学省:放射能測定法シリーズ 4
放射性ヨウ素分析法,(1996)
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