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線形代数の教授内容の関連性と指導のポイントに関する考察 An
2011年度日本認知科学会第28回大会 線形代数の教授内容の関連性と指導のポイントに関する考察 An analysis for linear algebra learning process and its instructional implication 川添 充 † ,岡本 真彦 ‡ ,高橋 哲也 † , Mitsuru Kawazoe, Masahiko Okamoto, Tetsuya Takahashi † † 大 阪 府 立 大 学 高 等 教 育 推 進 機 構, ‡ 大 阪 府 立 大 学 人 間 社 会 学 部 Faculty of Liberal Arts and Sciences, Osaka Prefecture University, ‡ School of Humanities and Social Sciences, Osaka Prefecture University [email protected], [email protected], [email protected] 表 1 の よ う に な る .こ れ は ,標 準 的 な 理 系 の カ リ キュラ ム の も と で の 線 形 代 数 の 内 容 で あ る . Abstract The purpose of this study is to reveal expertise models for a course of linear algebra in university. We carried out to sixteen tests for 118 university students from 2009 to 2010. These test contained 43 problems which covered from basic procedural computations to complex conceptual problems solving in the linear algebra domain. The results from our analysis show that there are some different expertise models for linear algebra. First is a non-learning model. They can not learn the computational skills in linear algebra. Second is a rote learning model. They learn procedural computational skills, but do not learn the meanings of the procedure. Third is a meaningful learning model. They learn both the procedural skills and the conceptual understanding in abstract vector space. Two instructional implications are obtained from this study. One is that learning basic computational procedures based on conceptual understandings reduces the failure in learning abstract vector spaces. The other is that in learning Gram-Schmidt orthogonalization, understanding the procedure in Euclidean space leads understanding it in polynomial space. Keywords — Learning process, Linear algebra, Mathematical education 1. 表 1 線形代数における学習内容一覧 学期 前期 後期 線形代数の学習過程 数 学 は ,理 系 分 野 の 学 問 の 基 礎 と な る だ け で な く, 近 年 で は 文 系 分 野 で も そ の 重 要 性 が 認 め ら れ つ つ あ る .理 系 の 学 生 の 場 合 ,大 学 1 年 次 か ら 数 学 の 基 礎 科 目 を 複 数 履 修 す る こ と に な り,2 年 次 までの間に多くの数学的概念や計算手続きの理 解・習 得 が 求 め ら れ る .学 生 の つ ま ず き が 多 く み ら れ る 線 形 代 数 (通 常 の カ リ キュラ ム で は 1 年 次 に 行 わ れ る 数 学 科 目) で は ,1 年 間 に 非 常 に 多 く の 抽 象 概 念 や 計 算 手 続 き を 学 ぶ こ と に な る .た と え ば ,大 阪 府 内 の あ る 公 立 大 学 の 工 学 部 で の カ リ キュラムを分析し,習得すべき内容をまとめると, 328 項 目 番号 L1 L2 L3 L4 L5 L6 L7 種別 内容 概念 概念 計算 計算 概念 計算 概念 L8 計算 L9 概念 L10 L11 L12 計算 概念 概念 L13 L14 計算 計算 L15 L16 L17 L18 L19 L20 L21 L22 L23 L24 概念 概念 計算 計算 概念 計算 計算 計算 計算 計算 L25 計算 L26 計算 L27 L28 L29 L30 L31 L32 計算 計算 概念 計算 概念 計算 基本変形と基本行列との積の対応を理解する. 基本変形でできる操作とできない操作を見分けられる. 掃き出しを実行できる. 階 段 行 列 へ の 変 形 を 実 行 で き ,階 数 を 求 め ら れ る . 階段行列かどうかの判別ができる. 正則性判定と逆行列の計算が実行できる. 正則性判定と逆行列の計算での基本変形の意味を理解 する. 連立1次方程式を拡大係数行列の変形で解くことがで きる. 拡大係数行列の変形が連立1次方程式の同値変形であ ることを理解する. 行列式を基本変形を用いて計算できる. 行 列 式 の 性 質 (多 重 線 形 性 や 交 代 性 ) を 理 解 す る . 部 分 空 間 の 定 義 を 理 解 し ,部 分 空 間 と 非 部 分 空 間 を 区 別できる. 連立1次方程式の解空間の基底と次元を求められる. 行列の列ベクトルで生成される部分空間の基底と次元 を求められる. 基底と次元の計算における基本変形の意味を理解する. 1次写像とそうでない写像を区別できる. 1次写像の線形性を利用した計算ができる. 1次写像の像と核の基底と次元を求められる. 1次写像の像と核の基底と次元 座 標 (数 ベ ク ト ル 空 間) を 求 め ら れ る . 表 現 行 列 (数 ベ ク ト ル 空 間 の 1 次 写 像) を 求 め ら れ る . 座 標 (多 項 式 空 間) を 求 め ら れ る . 表 現 行 列 (多 項 式 空 間 の 1 次 写 像 ) を 求 め ら れ る . 実 数 ベ ク ト ル 空 間 の 内 積 が 計 算 で き ,長 さ の 計 算 ,直 交 性の判定ができる. 複 素 数 ベ ク ト ル 空 間 の 内 積 が 計 算 で き ,長 さ の 計 算 ,直 交性の判定ができる. 多 項 式 空 間 の 内 積 が 計 算 で き ,長 さ の 計 算 ,直 交 性 の 判 定ができる. 数 ベ ク ト ル 空 間 で シュミット の 直 交 化 法 を 運 用 で き る . 多 項 式 空 間 で シュミット の 直 交 化 法 を 運 用 で き る . 直交補空間かどうかを区別できる. 数ベクトル空間での直交補空間を求められる. 固有値と固有ベクトルの定義を理解する. 行列の対角化を実行できる. 表 1 に お け る 32 項 目 を ,そ こ で 必 要 と さ れ る 概 念的関連性に基づいて結合したモデルを図2に示 す.こ の モ デ ル は ,あ く ま で 教 授 す る 側 の 視 点 に 基 づ い て 作 成 さ れ た も の で あ り,モ デ ル に 示 さ れ て い る 関 連 性 に 従って 学 習 が 行 わ れ て い る か ど う か ,ま た ,こ の よ う な モ デ ル に も と づ い た 順 序 で 授 業 を 行 う こ と が よ い か ど う か ,な ど に つ い て の 検証が必要である. 2. 先行研究の概観と本研究の目的 大 学 で の 数 学 の 学 習 に お い て は ,多 く の 大 学 生 が そ の 習 得 に つ ま ず い て い る .と く に ,線 形 代 数 に お い て は ,1 年 間 に 多 く の 数 学 的 概 念 や 計 算 手 続 き を 学 び ,そ の 正 し い 理 解 と 定 着 の た め に は 計 算手続きとその概念的意味を含んだ理解のレベル に 到 達 す る 必 要 が あ る が ,概 念 や 計 算 手 続 き の 混 P1-35 L1 大 学 で の 数 学 の 理 解 度 に つ い て は ,線 形 代 数 の 授業内容の理解度に関する Dorier [3] があるが,計 算 手 続 き の 習 得 に つ い て ,単 な る 暗 記 に よ る 習 得 と ,概 念 理 解 に 基 づ く 習 得 と を 区 別 し た 分 析 ま で は 踏 み 込 ん で い な い .線 形 代 数 に つ い て は ,抽 象 ベ ク ト ル 空 間 に お け る 種々の 計 算 手 続 き は 概 念 理 解 が 伴 わ な け れ ば 習 得・定 着 が 難 し く,計 算 手 続 き 暗 記 型 の 学 習 者 が 多 数 存 在 す る こ と が ,線 形 代 数 の 授 業 で の つ ま ず き の 原 因 に なって い る と 考 え ら れ て い る .こ れ を 検 証 す る た め に は ,計 算 手 続 きの習得と概念理解との関連性について分析する 必 要 が あ る .そ こ で ,本 研 究 で は ,線 形 代 数 の 学 習 に つ い て ,計 算 手 続 き の 習 得 と そ の 背 後 に あ る 数学的概念の理解度に関する調査を行い, (a) 計 算 手 続 き の 意 味 を 理 解 せ ず,形 式 的 な 手 続 きだけを暗記する暗記型の学習者の存在と 実態, (b) 抽 象 ベ ク ト ル 空 間 に お け る 種々の 計 算 手 続 き の習得と概念理解との関連性 L2 L3 L9 L5 L8 L7 L4 L6 L15 L20 L10 L13 L14 L11 L19 L18 L21 L22 L12 L17 L31 L23 L30 L32 L16 L29 L24 L25 L26 L27 L28 図 1 線形代数の学習内容の間の関連性 同 が 観 察 さ れ る な ど ,大 学 で の 数 学 教 育 が 効 果 的 に 行 わ れ て い る と は い え な い [1].こ の 原 因 と し て は, 大 学 生 が 高 校 ま で の 学 習 を 通 し て ,公 式 や 計 算 手 続 き の 背 後 に あ る 数 学 的 概 念 を 理 解 せ ず, 公 式や計算手続きを暗記的に学習するような受動的 な 学 習 傾 向 を 獲 得 し て い る こ と と ,大 学 の 数 学 教 員の教え方が合致していないことにあるのではな い か と 考 え ら れ る .こ の よ う な 状 況 が ,大 学 生 の 学 力 低 下 に 起 因 す る の か ,そ れ と も 大 学 教 員 の 教 授 法 の ま ず さ に 起 因 す る の か を ,断 定 で き る 実 証 的 な デ ー タ は 存 在 し な い が ,少 な く と も 現 代 の 大 学 生 に 対 し て ,こ れ ま で 通 り の 学 習 内 容 を ,こ れ ま で 通 り,一 方 的 に 教 員 が 説 明 す る と い う 授 業 形 式 で 教 え る こ と が ,大 学 生 の 数 学 力 向 上 に 十 分 に 寄 与 し て い る と は い え な い .こ の 点 に つ い て ,市 原 と 芝 野 [2] が ,ゼ ミ 形 式 の 指 導 の 中 で ,学 生 と 教 員がお互いの理解をすり合わせるようにしながら 学生の数学的理解を導く過程を報告しているが, 一 斉 授 業 方 式 の 授 業 で は ,学 生 の 分 かって い な い 感 覚 を 教 師 が 捉 え に く く,そ の た め に 効 果 的 な 指 導が行えていないという側面があるのではないか と 考 え ら れ る .こ の よ う な 大 学 数 学 の 授 業 の 問 題 点 を 解 消 す る た め に は ,高 等 数 学 で 扱 う 抽 象 的 な 数 学 的 概 念 が ど の よ う に 理 解 さ れ ,あ る い は ,ど のようにつまずくのかという認知過程を明らかに することが必要である. 329 についての分析・解明を行う.これにより,大学初 年次の学生の数学的概念理解のつまずき箇所や, 計算手続きが正しく習得できない学生の誤り原因 を明らかにして学習者の理解過程を解明するとと も に ,そ の 結 果 か ら 教 育 的 示 唆 を 得 る こ と が 本 研 究の目的である. 以 下 で は ,調 査 の 概 要 を 述 べ た 後 ,調 査 デ ー タ に 対 し て 行った 分 析 結 果 に つ い て 報 告 す る .本 調 査 デ ー タ の 分 析 に つ い て は ,今 回 行った 分 析 以 外 に ,す で に 筆 者 ら に よって 2010 年 度 の 日 本 数 学 教 育学会第 43 回数学教育論文発表会で発表された分 析 2 つ を 含 め て 報 告 す る [4].今 回 は こ れ ら 3 つ の 分 析 結 果 を あ わ せ て 考 察 を 行 う た め ,分 析 結 果 の 節では,[4] の結果についてもその概要を示してお く.最 後 に ,3 つ の 分 析 を ま と め た 考 察 を 示 す. 3. 調査の概要 大阪 府 内の 公 立大 学 の 工学 部 1年 次 配当 の 線形 代 数 (前 後 期 と も 週 1 コ マ) の 授 業 ク ラ ス で ,全 授 業 期 間 に わ たって 授 業 内 容 の 理 解 度 に 関 す る 調 査 を 行った . 3.1 調査時期と対象者 調査は,まず,学習パターンの分析のためのデー タ 収 集 を 目 的 と し て ,平 成 21 年 4 月 か ら 平 成 22 年 2 月 ま で の 期 間 に ,大 阪 府 内 の 公 立 大 学 の 工 学 部 1年次向けの線形代数(前期1コマ・後期1コマ) の 授 業 を 対 象 に 行 わ れ た .さ ら に ,問 題 間 の 関 連 分 析 の た め ,22 年 度 に も ,大 阪 府 内 の 公 立 大 学 の 工 学 部 1 年 次 向 け の 線 形 代 数( 前 期 1 コ マ・後 期 2011年度日本認知科学会第28回大会 1 コ マ )を 対 象 に 追 加 調 査 が 行 わ れ た .授 業 ク ラ ス 数・履 修 者 数 は そ れ ぞ れ ,平 成 21 年 度 が ,授 業 者 の 異 な る 2 ク ラ ス で 履 修 者 計 154 名 ,平 成 22 年 度 が ,1 ク ラ ス で 履 修 者 数 81 名 で あった . P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P14 P10 P13 P12 P9 P11 3.2 P23 調査内容と方法 P28 P18 P15 表 1 に 基 づ き ,大 学 1 年 次 の 線 形 代 数 で 1 年 間 に 学 ぶ 主 要 な 数 学 的 概 念, 計 算 手 続 き に つ い て , そ の 理 解 度 を 測 る た め の 調 査 問 題 を 作 成 し ,当 該 概念や手続きを学習した次の回の授業の冒頭で 10 分 間 程 度 の 小 テ ス ト と し て 実 施 し た .調 査 問 題 と し て ,計 算 手 続 き を 正 し く 理 解 で き て い る か を 調 べ る た め の 計 算 問 題 と ,数 学 的 概 念 や 計 算 手 続 き の意味を理解できているかを調べるための概念問 題 の 2 種 類 の 問 題 を 作 成 し ,記 述 式 の テ ス ト と し て 実 施 し た .各 学 期 の 最 初 の 授 業 で も プ レ テ ス ト と し て 小 テ ス ト を 実 施 し た .調 査 試 験 の 実 施 回 数 は 各 学 期 の 第 1 回 目 に 行った プ レ テ ス ト を 含 め て 全 1 6 回 ,調 査 問 題 の 個 数 は 全 43 問 で あった .プ レテストも含めた各調査問題の内容および授業内 容・学習目標 (表 1) との対応を表 2 に示す.また,小 テ ス ト に 含 ま れ る 43 問の 問 題 を ,そこ で 必 要 と さ れ る 概 念 的 関 連 性 に 基 づ い て ,図 1 に な らって 結 合 し た モ デ ル を 図 2 に 示 す. P21 P27 前期 授業 (回) 1 7 8 9 10 11 後期 1 2 4 6 7 8 9 10 11 12 問題 番号 P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9 P10 P11 P12 P13 P14 P15 P16 P17 P18 P19 P20 P21 P22 P23 P24 P25 P26 P27 P28 P29 問題 種別 概念 概念 計算 計算 概念 概念 概念 計算 計算 概念 計算 概念 計算 概念 計算 計算 概念 計算 計算 概念 計算 計算 概念 概念 計算 計算 概念 計算 計算 学習 目標 – – – – L1 L1 L2 L3 L4 L5 L6 L7 L8 L9 L10 L10 L11 – – L12 L13 L14 L15 L16 L17 L18 L19 L20 L21 P30 P31 P32 P33 P34 P35 P36 計算 計算 計算 計算 計算 計算 計算 L22 L23 L24 L25 L26 L27 L28 P37 計算 L27 P38 P39 P40 P41 P42 P43 概念 計算 概念 概念 概念 計算 L29 L30 L31 L31 L31 L32 P17 P19 P30 P40 P41 P20 P25 P42 P31 P39 P43 P24 P38 P32 P33 P34 P35 P36 P37 図 2 線形代数の理解過程のモデル 表 3 反応カテゴリー 反応カテゴリー 正答 不十分な解答 概念的誤り 計算間違い 未完了 内容 プ レ テ ス ト:平 面 ベ ク ト ル プ レ テ ス ト:平 面 ベ ク ト ル プ レ テ ス ト:連 立 1 次 方 程 式 プ レ テ ス ト:連 立 1 次 方 程 式 基本行列と基本変形 基本行列と基本変形 基本変形 掃き出し 階 段 行 列 と 階 数 (ラ ン ク) 階 段 行 列 と 階 数 (ラ ン ク) 正則性判定と逆行列 正則性判定と逆行列 連立1次方程式 連立1次方程式 行列式 行列式 行列式 プ レ テ ス ト:連 立 1 次 方 程 式 プ レ テ ス ト:行 列 式 部分空間 基底と次元 基底と次元 基底と次元 1次写像 1次写像 1次写像の像と核の基底と次元 1次写像の像と核の基底と次元 座 標 (数 ベ ク ト ル 空 間 ) 表 現 行 列 (数 ベ ク ト ル 空 間 の 1 次 写 像) 座 標 (多 項 式 空 間 ) 表 現 行 列 (多 項 式 空 間 の 1 次 写 像) 実数ベクトル空間の内積 複素数ベクトル空間の内積 多項式空間の内積 数ベクトル空間の正規直交基底 多 項 式 空 間 で の シュミット の 直 交 化法 数 ベ ク ト ル 空 間 で の シュミット の 直交化法 直交補空間 数ベクトル空間での直交補空間 固有値と固有ベクトル 固有値と固有ベクトル 固有値と固有ベクトル 行列の対角化 P16 P26 P29 表 2 調査試験内容一覧 学期 P22 4. 定義 正解している 解答の表現方法や論述に不備があ る ,あ る い は ,非 効 率 な 解 法 を 選 択 概念的な誤りを含んでいる 計算間違いをしている 無解答もしくは解答に至らず 分析 本 節 で は ,調 査 デ ー タ に 対 す る 3 つ の 分 析 結 果 を 示 す.な お ,は じ め の 2 つ は ,第 43 回 日 本 数 学 教育学会数学教育論文発表会で発表した内容であ る の で ,概 要 だ け 示 す.詳 し く は ,[4] を 参 照 さ れ たい. 4.1 分析 (1) 平 成 21 年 度 の 調 査 対 象 154 名 の う ち ,全 16 回 の 調 査 試 験 を 一 度 も 欠 席 し な かった 77 名 の デ ー タ の み を 分 析 の 対 象 と し て ,小 テ ス ト に 含 ま れ る 各 問 題 へ の 反 応 パ タ ー ン の ク ラ ス タ ー 分 析 を 行った . 表 3 に 示 し た 5 つ の カ テ ゴ リ ー に つ い て ,該 当 す る 場 合 を「 1 」,該 当 し な い 場 合 を「 0 」と し て , 77 名の対象者ごと に,問題数 43 ×反応 カテ ゴリー 5 の 215 個の1もしくは0の2値をもつデータを作 成 し ,77 行 × 215 列 の デ ー タ を ク ラ ス タ ー 分 析 の ローデータとした. 330 P1-35 & & & P1 P2 P3 P4 P5 P7 逆行列の計算 連立一次方程式 & P6 P8 P14 の解法 P10 P13 P12 P9 P11 P23 P28 P18 P15 図 3 クラスター分析結果 P21 P22 P27 P16 P17 行列式の計算 P26 クラスター分析の結果を,図 3 に示した.このデ ンド ログラ ムから は,27 名を含む C1,19 名を含む C2,18 名を含む C3,そして,13 名を含む C4 の4つ の ク ラ ス タ ー が 存 在 す る こ と が 明 ら か に なった . まず,プレテストへの反応から,C1 と C2 が既有 知 識 が 高 い ク ラ ス タ ー ,C3 と C4 が 既 有 知 識 が 低 いクラスターと考えられた. さらに詳しく各クラスターをみてみると,C1 は 全体的に正答率が高く,概念的誤りも少ないため, 計算手続きの背後にある数学的理論や概念も理解 できていると考えられる. C2 は ,前 期 に つ い て は ,正 答 率 が C1 と 同 程 度 に 高 く,概 念 的 誤 り 率 も C1 と 同 様 に 低 い が ,後 期 の抽象ベクトル空間を扱う問題では正答率が下が り,概 念 的 誤 り 率 が 上 が る 傾 向 に あ る た め ,行 列 に関する基礎的な計算手続きは十分習得できてい る が ,抽 象 的 な ベ ク ト ル 空 間 の 概 念 理 解 が 不 十 分 であると考えられる. C3 は,標準的な問題についての正答率は一定レ ベ ル に 達 し て い る が ,計 算 手 続 き の 背 後 に あ る 数 学的理論や概念に対する理解が不十分であると考 えられる. C4 は 全 体 的 に 正 答 率 が 低 く,概 念 理 解 が 不 十 分 で ,基 礎 的 な 計 算 手 続 き の 習 得 も 困 難 な ク ラ ス ターと考えられる. 以 上 の 分 析 か ら ,線 形 代 数 の 習 熟 の パ タ ー ン に は, ( i ) 基 礎 的 な 計 算 手 続 き の 習 得 で つ ま ず く, (ii) 計 算 手 続 き は あ る 程 度 習 得 で き る が ,計 算 手 続きの背後にある数学的概念の理解が伴わ ない, (iii) 計 算 手 続 き を そ の 背 後 に あ る 数 学 的 理 論 や 概 念 も 含 め て 理 解・習 得 す る の3つのパターンがあるといえる. 4.2 分析 (2) 図 2 に お い て ,近 接 す る 2 つ の 問 題 間 の 正 答 誤 答パターンが類似しているかどうかを分析する P29 P19 P30 P40 P41 P20 P25 P42 P31 P39 P43 P24 P38 シュミットの直交化法 P32 P33 P34 P35 P36 P37 図 4 線形代数の理解過程モデルにおける関連性 こ と に よって ,ど の 理 解 ル ー ト が 困 難 で あ る の か の 分析 を 行った .ま ず,図 2 で 結 合 づ け ら れ た 2 問 の 正 答・誤 答 に 関 連 性 が あ る か ど う か を McNemar 検 定 を 用 い て 調 べ た .図 4 で は ,2 つ の 問 題 間 に McNemar 検 定 で 有 意 な 関 連 性 が 示 さ れ た も の を 実 線 矢 印 で 示 し て い る .こ れ ら の 関 連 性 の あ る 問 題 系 列 を み る と ,本 研 究 で 対 象 と し た 線 形 代 数 の 学 習 内 容 の 中 に は ,図 4 に 示 し た よ う に , 「逆行列 の 計 算 手 続 き に つ い て の ル ー ト 」「 行 列 式 の 計 算 を 中 心 と し て 行 列 の 対 角 化 へ 至 る ル ー ト 」「 連 立 1次方程式の解法を中心として1次写像の像と核 の基底と次元に至るルート」 「内積とシュミットの 直 交 化 法 に つ い て の ル ー ト 」の 4 つ の 理 解 ル ー ト が 存 在 す る こ と が 分 かった . 表 4 は ,分 析 (1) の C1∼C4 に つ い て ,連 立 1 次 方 程式の理解ルート上の4問を連続して解くことが できた人の割合を示したものである.C1 は半数が 最後まで正答を続けられたのに対して,C2 は基底 などの抽象的概念に関する問題のところでつまず く 人 が 多 く,C3, C4 は 前 期 の 連 立 1 次 方 程 式 の 段 階 で つ ま ず く 人 が 多 い こ と が 分 か る .こ の こ と か ら ,線 形 代 数 の つ ま ず き 方 に は , (ア) 基 礎 的 な の 計 算 手 続 き の 習 得 で つ ま ず く, (イ) ベクトル空間の抽象的概念の習得でつまずく, 331 2011年度日本認知科学会第28回大会 表 4 理解ルート上での連続正答率 C1 C2 C3 C4 P4 96.3 100 94.4 92.3 P13 63.0 59.7 33.3 46.2 P22 59.3 31.6 27.8 30.8 P26 55.6 5.3 22.2 7.7 A の2つのタイプがあるといえる. 4.3 分析 (3) B (d) 基本行 単純計算 掃き出し 列・線形 法 性 P9 P1 P11 P5 P13 P6 P18 P19 P39 P25 (c) 332 P4 1次結合 P21 P8 P10 P23 P15 P28 P16 P29 P22 P30 P32 P31 分 析 (1), (2) で は ,学 習 者 を 分 類 す る こ と に よっ て,そこから間接的に理解過程を推察したが,必ず しも学習者の実際の理解過程と一致しているとは 言 え な い .学 習 者 の 理 解 過 程 を 解 明 し 教 育 的 示 唆 を 得 る た め に は ,問 題 に 対 す る 学 習 者 の 反 応 デ ー タ か ら ,問 題 間 の 関 係 を と ら え 直 し た 上 で ,分 析 (1), (2) の結 果 と合わせて考察する必要がある.そ こで,分析 (3) として,問題への学習者の反応デー タ か ら ,問 題 に 対 す る ク ラ ス タ ー 分 析 を 行った . 調 査 デ ー タ と し て は ,平 成 21 年 度 と 22 年 度 の 調 査結 果データ を用いた.平成 21 年度と 22 年度を合 わ せ た 履 修 者 数 は 合 計 235 名 で あ り,こ の う ち 全 16 回 の 調 査 試 験 を 一 度 も 欠 席 し な かった 118 名 の データを分析対象とした. ク ラ ス タ ー 分 析 に お い て は ,調 査 問 題 43 問 の そ れ ぞ れ に 対 す る 調 査 対 象 者 118 名 の 正 誤 パ タ ー ン (正解 1,不正解 0)のデータとしての,43 行× 118 列 のデータをクラスター分析のローデータとした. ク ラ ス タ ー 分 析 の 結 果 ,図 5 に 示 し た よ う に ,43 問 の 問 題 は ,ク ラ ス A と ク ラ ス B の 2 つ に 大 き く わ か れ ,さ ら に A, B が そ れ ぞ れ 4 つ の サ ブ ク ラ ス a, b, c, d と e, f, g, h に 分 か れ る こ と が 見 出 さ れ た . こ れ ら の ク ラ ス タ ー に つ い て 考 察 し た 結 果 ,次 のような特徴が見出された. ク ラ ス A は ,高 度 な 概 念 を 含 ま ず 単 純 な 計 算 手 続きの習得のみで正答できる問題を中心としたク ラ ス で あ り,ク ラ ス B は ,高 度 な 抽 象 的 概 念 の 理 解を必要とする計算問題や計算手続きの意味を正 しく述べられるかを問う概念問題を中心としたク ラ ス で あ る .ク ラ ス A に は ,掃 き 出 し 法 に よ る 連 立 1 次 方 程 式 の 解 法 や 逆 行 列 の 計 算 ,行 列 式 の 計 算 な ど ,一 般 に 比 較 的 習 得 が 容 易 と さ れ て い る 問 題が多く含まれている.一方,クラス B には,1次 写 像 の 像 や 核 の 基 底 と 次 元 を 求 め る 問 題 や ,シュ ミット の 直 交 化 法 ,行 列 の 対 角 化 な ど ,一 般 に 習 得 困 難 と さ れ る 問 題 が 多 く 含 ま れ て い る .実 際 , 表 5 を み る と ,ク ラ ス A が ク ラ ス B に 比 べ て ,正 答 (e) (b) (a) P35 抽象概念 (f) (g) に基づく ベクトル 基本変形 計算 や基本的 に関する P20 手続きの 概念理解 P26 概念理解 P12 P33 P2 P14 P34 P3 P17 P36 P7 P27 P37 P24 P38 (h) 固有値と 固有ベク トルの概 念理解 P40 P41 P42 P43 図 5 クラスター分析結果 表 5 クラスごとの反応率 ク ラ ス サ ブ ク ラ ス 問 題 番 号 正 答 率 概 念 誤 り 率 計 算 誤 り 率 未 完 了 率 A a P9 P11 P13 P18 P39 P1 P5 P6 P19 P25 P31 P21 P23 P28 P29 P30 P4 P8 P10 P15 P16 P22 P32 P35 P20 P26 P33 P34 P36 P37 P43 P2 P3 P7 P24 P12 P14 P17 P27 P38 P40 P41 P42 0.66 0.58 0.61 0.71 0.63 0.74 0.62 0.75 0.64 0.71 0.67 0.66 0.53 0.58 0.74 0.64 0.94 0.82 0.79 0.86 0.81 0.84 0.88 0.81 0.32 0.51 0.31 0.32 0.31 0.44 0.39 0.40 0.50 0.34 0.53 0.13 0.09 0.24 0.07 0.11 0.54 0.56 0.44 0.16 0.12 0.19 0.41 0.24 0.23 0.35 0.20 0.18 0.17 0.09 0.19 0.00 0.31 0.15 0.18 0.01 0.12 0.14 0.08 0.15 0.14 0.05 0.14 0.64 0.36 0.54 0.44 0.42 0.26 0.43 0.52 0.25 0.25 0.45 0.18 0.14 0.35 0.60 0.89 0.23 0.28 0.08 0.16 0.31 0.20 0.10 0.08 0.00 0.00 0.00 0.09 0.06 0.09 0.08 0.46 0.05 0.08 0.03 0.02 0.06 0.03 0.06 0.01 0.01 0.05 0.00 0.00 0.14 0.15 0.20 0.16 0.27 0.15 0.00 0.02 0.00 0.00 0.00 0.00 0.01 0.00 0.00 0.00 0.00 0.37 0.04 0.00 0.01 0.00 0.06 0.03 0.03 0.07 0.11 0.06 0.18 0.13 0.00 0.06 0.03 0.15 0.02 0.01 0.08 0.01 0.03 0.03 0.03 0.05 0.00 0.05 0.08 0.21 0.11 0.03 0.15 0.15 0.03 0.13 0.00 0.00 0.05 0.08 0.00 0.01 0.04 0.05 0.12 b c d B e f g h 不出 十現 分率 な 解 答 0.00 0.04 0.19 0.10 0.00 0.11 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.02 0.00 0.00 0.00 0.03 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.08 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.33 0.21 0.29 0.10 0.69 0.82 0.36 0.00 0.03 0.54 0.43 0.35 P1-35 率 が 非 常 に 高 く なって い る こ と が 見 て 取 れ る .こ の こ と か ら ,単 純 な 計 算 手 続 き は 比 較 的 習 得 で き て い る が ,高 度 な 抽 象 概 念 の 理 解 を 必 要 と す る 計 算手続きの習得や計算の意味理解の習得は十分で ないことがわかる.また,クラス B については,計 算 問 題 に つ い て も 概 念 誤 り 率 が 高 い 傾 向 に あ り, 概念習得の難しさが習得を困難にしていることが みてとれる. ク ラ ス A は ,単 純 な 計 算 手 続 き を 中 心 と し た ク ラ ス の た め 正 答 率 が 非 常 に 高 く なって い る と は い え ,そ の 習 得 の 実 態 は ,概 念 理 解 を 伴った も の と はいえないことがサブクラスをみることで浮かび 上がってくる.クラス A のサブクラス a に含まれる 計算手続きの意味理解に関する問題がクラスBサ ブ ク ラ ス g に 含 ま れ て い る と い う 関 係 に なって お り,計 算 手 続 き の 習 得 と そ の 計 算 の 意 味 理 解 に 関 連性がみられないという結果となっている.実際, 表 5 をみると,サブクラス a の計算問題の正答率に 比 べ ,そ の 意 味 理 解 を 問 う サ ブ ク ラ ス g の 問 題 の 正 答 率 は 非 常 に 低 く なって い る .こ の こ と は ,計 算 手 続 き を 習 得 で き て い て も ,意 味 を 理 解 せ ず に 手 続 き の 暗 記 だ け に 頼って い る 学 習 者 が 多 く 存 在 す る こ と を 示 唆 し て い る .実 際 ,サ ブ ク ラ ス a で は ,概 念 誤 り や 未 完 了 の 率 が 上 がって い る こ と も 表 5 の デ ー タ か ら も み て と れ ,手 続 き の 意 味 を 理 解 し て い な い た め に 習 得 が 困 難 と なって い る 学 習 者の存在も示唆される. ク ラ ス B の サ ブ ク ラ ス e は ,線 形 代 数 の 後 期 の 授 業 範 囲 に 属 す る ,重 要 な 抽 象 概 念 の 理 解 を 必 要 とする計算手続きに関する問題を多く含んでいる が ,こ れ ら の 概 念 理 解 に 関 す る 問 題 は 同 じ ク ラ ス B のサブクラス g, h に属している.このことは,サ ブ ク ラ ス e の 問 題 に 関 し て は ,概 念 理 解 と 計 算 手 続きの習得とが連動していることを示している. し た がって ,こ れ ら の 問 題 に 関 し て 概 念 理 解 の つ まずきが計算手続きの習得を困難にしていること を示唆している. クラス B のサブクラス e からは次のような示唆も 得 ら れ る .サ ブ ク ラ ス e に は ,数 ベ ク ト ル 空 間 に お け る シュミット の 直 交 化 法 と 多 項 式 空 間 に お け る シュミット の 直 交 化 法 が 含 ま れ て い る が ,こ れ らが同じサブクラスに属しているということは, どちらか一つを習得できればもう一方も習得でき る こ と を 示 唆 し て い る .一 般 に ,多 項 式 空 間 は ベ ク ト ル 空 間 と し て の 抽 象 度 が 高 く,そ の 習 得 難 易 度において数ベクトル空間と大きな差があると考 え ら れ て い る が ,シュミット の 直 交 化 法 に つ い て は,実際,表 5 のデータから,数ベクトル空間と多 項 式 空 間 と で 習 得 難 易 度 に 差 は な く,数 ベ ク ト ル 空間での理解習得が多項式空間での理解習得につ ながることが示唆される. 5. 総合的考察 分 析 (1) か ら, 線 形 代 数 の 習 熟 に は , ( i ) 基 礎 的 な 計 算 手 続 き の 習 得 で つ ま ず く, (ii) 計 算 手 続 き は あ る 程 度 習 得 で き る が ,概 念 理 解が伴わない, (iii) 計 算 手 続 き を そ の 背 後 に あ る 数 学 的 理 論 や 概 念 も 含 め て 理 解・習 得 す る の 3 つ の タ イ プ が あ る こ と が 明 ら か に さ れ ,さ ら に ,分 析 (2) と 合 わ せ た 分 析 に よ り,線 形 代 数 の つ まずき方には, (ア) 基 礎 的 な の 計 算 手 続 き の 習 得 で つ ま ず く, (イ) ベクトル空間の抽象的概念の習得でつまずく, 333 の2つのタイプがあるという考察が導かれた. 概 念理解を伴わない計算手続きの習得のみ にと ど ま る ,(ii) の タ イ プ が 存 在 す る こ と に つ い て は , 分析 (3) からも,連立1次方程式の解法,逆行列の 計 算 ,行 列 式 の 計 算 な ど の 基 礎 的 な 計 算 問 題 と , その計算の背後にある数学的概念の理解を問う問 題 と が ,学 習 者 の 正 答 誤 答 の 反 応 デ ー タ に 関 し て 関連性が弱いという結果が得られており,分析 (1), (2) の結果と合わせて,計算手続きの意味を理解せ ず,形 式 的 な 手 続 き だ け を 暗 記 す る 暗 記 型 の 学 習 者の存在が確かめられたといえる. ま た ,ベ ク ト ル 空 間 の 抽 象 的 概 念 の 習 得 で の つ まずきに関しては,分析 (3) の結果から,次元や基 底 に 関 す る 問 題 や ,シュミット の 直 交 化 法 ,行 列 の対角化などの抽象概念に基づく計算問題につい て は ,こ れ ら の 問 題 と ,そ の 計 算 の 背 後 に あ る 数 学 的 概 念 の 理 解 を 問 う 問 題 と が ,学 習 者 の 正 答 誤 答の反応データに関して関連性が強いという結果 が 得 ら れ て お り,こ れ ら の 問 題 に 関 し て 概 念 理 解 のつまずきが計算手続きの習得を困難にしている ことが確かめられたといえる. 上記の分析結果から,線形代数の指導について, 次のような教育的示唆が得られる. 線形代数の標準的な1年間のカリキュラムでは, 後 半 に ,次 元 や 基 底 の 求 め 方 や ,シュミット の 直 交 化 法 ,行 列 の 対 角 化 な ど ,抽 象 概 念 に 基 づ く 計 算 手 続 き を 学 ぶ .こ れ ら は 前 半 で 学 ぶ 基 礎 的 な 計 算 手 続 き に 比 べ て 習 得・定 着 が 難 し い も の で あ る が,分析 (3) から,これらの抽象概念に基づく計算 手続きに関する問題と,基本変形や逆行列の計算, 連 立 1 次 方 程 式 の 掃 き 出 し 法 に よ る 解 法 な ど ,前 半に学ぶ基礎的な計算の意味理解に関する問題と が ,同 じ ク ラ ス に 属 し て い る こ と か ら ,抽 象 概 念 に 基 づ く 計 算 手 続 き の 習 得 と ,概 念 理 解 を 伴った 基礎的な計算手続きの習得とが関連性が高いこと が わ か る .こ の こ と は ,基 礎 的 な 計 算 手 続 き の 習 2011年度日本認知科学会第28回大会 得 段 階 か ら ,形 式 的 な 手 続 き の 暗 記 に と ど ま ら な い よ う な 教 育 を 行 う こ と が ,抽 象 概 念 に 基 づ く 計 算手続き習得のつまずきを減らす上で重要になる ことを示しているといえる. シュミットの直交化法は,ベクトルの内積の計算 を 用 い た 計 算 手 続 き で あ り,そ の 計 算 手 続 き の 複 雑さから,習得・定着が難しいものの1つとなって い る .分 析 (3) か ら ,実 数 ベ ク ト ル 空 間 に お い て , 内 積 の 計 算 の 習 得 と シュミット の 直 交 化 法 の 習 得 の間にはギャップがあることがわかり,また,多項 式 空 間 の 内 積 と 多 項 式 空 間 の シュミット の 直 交 化 法 は 実 数 ベ ク ト ル 空 間 の シュミット の 直 交 化 法 と 同 じ サ ブ ク ラ ス に 属 し て い る こ と か ら ,こ れ ら の 習 得 の 間 に は ギャップ が な い こ と が が わ か る .分 析 (2) か ら も ,実 数 ベ ク ト ル 空 間 に お い て は 内 積 の 計 算 の 習 得 と シュミット の 直 交 化 法 の 習 得 に は ギャップがある一方で,内積の計算とシュミットの 直 交 化 法 に つ い て は ,実 数 ベ ク ト ル 空 間 で の 習 得 が多項式空間での習得につながるという結果が出 て い る .こ れ ら の 分 析 結 果 は ,実 数 ベ ク ト ル 空 間 で の シュミット の 直 交 化 法 が 習 得 で き れ ば も う 一 方 も 習 得 で き る こ と を 示 唆 し て い る .一 般 に ,多 項 式 空 間 は ベ ク ト ル 空 間 と し て の 抽 象 度 が 高 く, その習得難易度において数ベクトル空間と大きな 差 が あ る と 考 え ら れ て い る が ,シュミット の 直 交 化 法 に つ い て は ,数 ベ ク ト ル 空 間 と 多 項 式 空 間 と で 習 得 難 易 度 に 差 は な く,実 数 ベ ク ト ル 空 間 で の シュミット の 直 交 化 法 を しっか り 指 導 す る こ と が , よ り 抽 象 度 の 高 い 多 項 式 空 間 で の シュミット の 直 交化法の習得につながることがわかる. 参考文献 [1] 大 阪 府 立 大 学 総 合 教 育 研 究 機 構, (2010)“文 部 科 学 省「 特 色 あ る 大 学 教 育 支 援 プ ロ グ ラ ム 」平 成 1 9 年 度 採 択 取 組「 大 学 初 年 次 数 学 教 育 の 再 構 築 」成 果 報 告 書”. [2] 市 原 一 裕, 芝 野 雄 大, (2010)“大 学 生 に お け る「 わ か る 」の 判 断 基 準 に 関 す る 研 究 –ゼ ミ 形 式 の 指 導 を 通 し て–”, 教 育 実 践 総 合 セ ン タ ー 研 究 紀 要, Vol. 19, pp. 67-74. [3] Dorier, J.-L. ed., (2000) “On the Teaching of Linear Algebra”, Kluwer Academic Publishers. [4] 川 添 充, 岡 本 真 彦, 高 橋 哲 也, (2010)“大 学 初 年 次 線 形 代 数 の 理 解 パ タ ー ン の 分 析”, 日 本 数 学 教 育 学 会 第 43 回 数 学 教 育 論 文 発 表 会 論 文 集, p.807-812. 334