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一遍の詩と表現の自由 抗議と日刊紙謝罪に指導者ら勇敢な行動

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一遍の詩と表現の自由 抗議と日刊紙謝罪に指導者ら勇敢な行動
一遍の詩と表現の自由 抗議と日刊紙謝罪に指導者ら勇敢な行動
インドネシアの西ジャワ州で、この八月にある文学作品が表現の自由を侵害
されるという事件があった。筆者はその渦中にあった文学者たちと一緒にいる
偶然に恵まれ、事件の推移を目の当たりにした。
事の始まりは一編の詩「天使」だった。州都バンドンで出版されている日刊
紙ピキラン・ラヤット(「民衆の思い」)紙の土曜日の文化・文芸欄に詩人シャ
イフル・バダールの三編の詩が掲載された。同紙は西ジャワ州を中心に約十五
万部を発行するインドネシアでも有数の地方紙である。掲載された三編の詩の
うちの一編が、イスラムを冒涜する詩であると指弾された。その攻撃的批判は
イスラム強硬派が管理するブログ上で開始され、またたく間に先鋭分子の抗議
行動を引き起こした。同日中に新聞社には強硬派が押し掛け、その詩を掲載し
た責任をとるよう要求した。翌日からは、電話、携帯メールなどで詩人個人に
対する恫喝が始まり、彼は身の危険さえ感じるようになった。
ピキラン・ラヤット紙はそれ以上に問題が大きくなることを恐れ火曜日の一
面に「謝罪文」を掲載するとともに、
「天使」の詩の掲載自体をなかったものと
するという声明を発表し沈静化を図った。一方、詩人本人はさまざまな脅しや
圧力からパニック状態に陥り、友人たちの薦めに従い、混乱を収拾したいとい
う一心からピキラン・ラヤット紙の読者欄に「天使」の詩はイスラムを冒涜す
る意図は決してなかったが、誤解を招くような表現をしたことに対して謝罪す
る旨の書簡を送った。その謝罪文は木曜日の読者欄に掲載されるが、奇妙にも
同じ読者欄にインドネシア・イスラム布教会議・西ジャワ支部の十項目からな
る詩と詩人に対する厳しい批判も掲載された。さらに同紙は文化・文芸欄の編
集長を解任するという決定を下した。
これら一連の動きに対して、西ジャワで活動する文学者、イスラム団体、ジ
ャーナリスト、知識人などからなる各種の団体が動きだした。翌週には十を越
える団体の代表者たちが一堂に会し、イスラム強硬派の偏った見方とピキラ
ン・ラヤット紙のとった一連の行動に対して抗議するという趣旨の記者会見を
行った。その声明文は同紙に届けられ、読者欄に掲載するよう要求された。二
日後には半分以下に割愛されたもののその声明は載せられ、一連の事件は収束
した。
後日、事件の背景には特定の個人の利害があり、
「天使」の詩自体を利用し、
イスラム強硬派を扇動してその目的を達成しようとしたことが判明した。イン
ドネシア社会には扇動されやすい層があり、ムスリムがかかわっている事件で
あっても、単純に宗教的な問題として片付けられない難しさがあることを実感
した。と同時に、多くの住民は良識あるムスリムであり、勇気ある行動をとる
指導者がいることに安堵した事件だった。
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