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DYC を用いた EPS 故障時の操舵特性の改善 ○高山 真二 岡島 寛 松永 信智 川路 茂保 (熊本大学) 1 電動パワーステアリング (Electric Power Steering) は従来の油圧式に比べエネルギー効率,高性能化,軽 量化などの点で優れており,研究開発が進んでいる [1] .現行の EPS は ECU(Electronic Control Unit) に より故障要素を常時監視し,異常が発見された場合 はモータへの通電を回避し非アシスト状態に移行さ れるといったフェールセーフ機能が搭載されている [2] .しかし,このようなフェールセーフ機能ではパ ワーアシストが失われるため,走行軌道を維持する ために必要な操舵トルクが増大し,ドライバにとって 安全な故障対策とは言い難い.一方,故障直後に徐々 にアシストトルクを減じるテーリングと呼ばれる技 術があるが [2] ,これはドライバの慣れを期待した技 術であり,またモータ故障時には適用できない. そこで本論文では,ステアリングを行わずとも車両 の旋回制御が可能な直接ヨーモーメント制御 (Direct Yaw Control) を用い,EPS 故障時に失われたアシス ト力を代替する手法を考える.DYC を行うためには 左右の駆制動力を独立に制御する必要があるが,これ は各輪に直接モータを取り付けたインホイールモータ 構造により実現することができる.本論文では DYC により EPS 故障前後の操舵特性を改善するための制 御法を提案し,その効果をシミュレーションにより 検証する. 2 Np2 Mr θ¨p = Ti − Np2 Cr θ˙p − Np Fe はじめに EPS モデル 本論文では EPS モデルを Fig.1 に示す 3 慣性系の モデルと考える [4] .EPS 操舵系は,ドライバからの 操舵トルク Th とモータからのアシストトルク Tm が タイヤ角 δ に伝わり変動し,それに伴い発生する反 力 Fe によりタイヤ角は一定値に収束する. Ts = Ks (θh − θc ), Ti = Ki (θc − θp ) δ = rp θ p 各パラメータを Table.1 に示す.ここで Tm = Ka Ts と アシストトルク Tm は操舵トルク比例制御とし,EPS 故障である非アシスト状態はモータのアシストトル ク Tm = 0 とすることで表現する. Table.1: EPS パラメータ θh δ Tm Ti Jm Ch Cr Ki Np Ka 3 ハンドル角 タイヤ角 アシストトルク インタミシャフトトルク モータ慣性 ハンドル摩擦係数 ラック摩擦係数 インタミシャフト剛性 ピニオンギア比 アシストゲイン θc Th Ts Jh Mr Cm Ks Ng rp Fe このとき EPS の運動方程式は以下で表される. Jh θ̈h = Th − Ts − Ch θ̇h Ng2 Jm θ̈c = Ts + Ng Tm − Ti − Ng2 Cm θ̇c コラム角 操舵トルク トーショントルク ハンドル慣性 ラック質量 モータ摩擦係数 トーション剛性 モータギア比 ピニオン-タイヤギア比 タイヤ反力 車両モデル 本論文では,Fig2 に示すような一般的に用いられ ている等価 2 輪モデル [3] を使用する.このとき車速 V を一定と仮定すると,車両の運動方程式は以下で 記述することができる. mV (β̇ + γ) = 2Ff + 2Fr I γ̇ = 2lf Ff + 2lr Fr + M lf lr Á (2) (3) V Â À Ff Fr Fig.1: EPS の 3 慣性系モデル (1) Fig.2: 2 輪等価モデル ここで DYC を実現するための左右の駆制動力を正負 逆で等しくすることで,車両前後方向への影響が無 くなりヨーモーメント M (t) を制御入力として 2 輪モ デルに組み込むことができる.なお各パラメータを Table.2 に示す. また前後輪の横力 Ff ,Fr はタイヤモデルを線形と 仮定し,次のように置く. Ff = −Cf (β + lf γ V Fr = −Cr (β − lr γ V ) − δ) (4) 前節での操舵系の反力 Fe は一般にタイヤの横すべ 道から半径 100[m] の定常円とし,t = 10 で EPS が り角 (横力) に比例するとされており,次式のように 故障し Tm = 0 となり,0.1 秒後に DYC が作動する ものとする.ここでドライバモデルは 2 次予測モデル 置くことができる. を用いた.車速 V = 15[m/s] とし,シミュレーショ Fe = Kr Ff (5) ンで用いた EPS,車両パラメータ値は本稿では省略 する. Table.2: 車両パラメータ 4 横すべり角 入力モーメント 車両質量 横力 タイヤ重心間距離 γ V I Cf , C r Kr ヨーレート 車両速度 車両慣性モーメント コーナリングパワー 反力係数 5 steering torque[N] β M m Ff , F r lf , lr DYC による操舵特性制御 no assist with DYC 4 3 2 1 0 0 5 10 15 20 Time[s] ay (s) = GT (s)Th (s) + GTm (s)Tm (s) + GM (s)M (s) (6) (a) steering torque [Nm] 2 lateral error [m] EPS 故障によりアシストを失う場合,操舵トルク からタイヤ角までの特性が変化する.同時に操舵ト ルクから横すべり角,ヨーレートの車両特性も変化 するため,走行軌道の維持が難しくなる.そこで操舵 トルクからの車両特性を故障前後で等しくできれば ドライバにとって故障の影響が無くなると期待でき, 本節では上記実現ための DYC 制御則を導出する. しかし車両の走行軌道は式 (2) の積分値で表され, DYC で任意に制御することは困難である.そこで走 行軌道の微分値である横加速度 ay を一致させること を考える.横加速度 ay は式 (2) より ay = V (β̇ +γ) と 表すことができる.ここで操舵トルク Th ,アシスト トルク Tm ,入力ヨーモーメント M から横加速度 ay までの伝達関数をそれぞれ GT (s),GTm (s),GM (s) とおく.この場合,横加速度 ay までの伝達特性は no assist with DYC 1 0 -1 -2 0 5 10 15 20 Time[s] (b) lateral error [m] Fig.4: シミュレーション結果 Fig4 にシミュレーション結果を示す.(a) は操舵ト ルク,(b) は目標軌道と車両重心点との誤差である. DYC を用いない場合,EPS が故障すると操舵トルク, 軌道誤差が共に増大していることがわかる.DYC を 用いた場合は,EPS 故障後においても故障前とほぼ 同様の操舵トルクで走行軌道を維持しており,制御 の有効性が言える.故障直後の誤差の要因の一つと して DYC コントローラの初期値を 0 としていること が挙げれられ,最適な初期値を与えることで故障直 後の過度現象を抑えることができると考えられる. と表される.ここで EPS が故障するとパワーアシス ト Tm = 0 となる.そこで Fig.3 に示すように故障時 スイッチを切り替える場合,Tm = Ka Th の制御則を 用いヨーモーメント M を次式とすることで,操舵ト ルクから横加速度までの伝達関数は故障に関わらず 5 等しくなる. おわりに 本論文では EPS の故障としてパワーアシスト消失 (7) の故障対策を行うための DYC の制御則を導出し,シ ミュレーションによりその効果を検証した.今後の 以上のように,式 (7) の制御則を用いた DYC をパ 課題としては,ハンドル角を考慮した制御法,故障 ワーアシストの代替として用いることで,ドライバ の分析などが挙げられる. は故障前後で操舵トルクを変えることなく,所望の 横加速度の達成が期待できる. 参考文献 M (s) = GM (s)−1 GTm (s)Ka Th (s) [1] 光崎雄二:電動パワーステアリング (EPS), NSK Technical Journal,No.667,pp14-22(1999) [2] 宮一普・佐竹敏英:電動パワーステアリング安全性評価, 電気情報 通信学会,sss2002-16,pp13-16(2002) [3] 安部正人: ”自動車の運動と制御”, 山海堂 (2003) [4] 大川進・本田昭: ”自動車のモーションコントロール技術入門”, 山 海堂 (2006) 4.1 Fig.3: 制御ブロック シミュレーション 本節では作成した DYC コントローラを用いての走 行シミュレーションを行う.車両の目標軌道は直線軌 熊本大学大学院自然科学研究科 情報電気電子工学専攻 博士前期課程 高山 真二 E-mail:[email protected]