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変化の節目にある 「会社と社員の関わりあい」にせまる

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変化の節目にある 「会社と社員の関わりあい」にせまる
変化の節目にある
「会社と社員の関わりあい」
にせまる
服部 泰宏(経済学部講師)
私の専攻は経営学の一領域である組織行動論になります。
組織行動論は、心理学、経済学、社会学などの基礎理論に基
に履行を担保された契約
・・・・
ではなく、会社と社員との
づき、会社組織の中の人間行動や心理状態について明らか
間の書かれざる約束に過
にする学際的な研究領域です。私はその中でも、会社とその
ぎな かったということで
社員の「心理的契約」
という研究テーマを追い続けています。
す。日本企業においては、
平成不況といわれた1990年代以降、多くの日本企業が、成
このような法的拘束力を
果主義に代表される新たな人材マネジメント導入を検討し
持たない書かれざる約束
てきました。会社に長くいつづければ放っておいても給料・
が、長きに渡って守られ続
地位があがっていく、
という時代は過去のものになりつつあ
けてきたのです。
これが「心理的」契約の意味合いです。
「高
ります。会社で働く社員の意識もまた変化しています。
これま
いレベルの教育を提供してほしい」
という大学生の期待と、
では、会社の中で高い地位に登りつめることが、多くの社員
「そのかわり講義にしっかりと出席して真面目に学業に専念
にとって人生の「成功」を意味していました。
しかし今日では、
すべし」
という大学側の期待もまた、心理的契約の一例で
「自律的キャリア」
「働き方の個別化」などといわれるように、
しょう。同様に、夫婦や恋人同士、また友人関係においても
会社の枠にとらわれない自分らしいキャリア、自分らしい働
様々な心理的契約が成立しているはずです。私たちは日常
き方を多くの人が望むようになっています。
その結果、会社と
の様々な場面で様々な相手と心理的契約を取り交わしてい
社員との関わりあいも大きく変化していると言われています。
るのです。
こうした変化の節目にあって、
ここ最近にわかに注目されは
私は、
この心理的契約が、今日の日本企業で起りつつある
という概念
じめたのが、心理的契約(psychological contract)
問題を考えていく上で、非常に重要な視点だと考えていま
です。
す。先に述べたような会社側と社員側双方の様々な変化の
心理的契約とはなにか。大学の講義っぽく、
まずは定義か
結果、日本企業と社員との関わりあいが何かこれまでとは
らはじめましょう。カーネギー・メロン大学(米国)のデニス・
違ったものになりつつあるということ自体は、多くの人が認
ルソー教授は、心理的契約を「当該個人と他者との間の互恵
めています。
しかし、終身雇用が崩壊し、多くの企業に成果主
的な交換において合意された項目や状態に関する個人の信
義が導入された、現在の日本企業と社員との関わりあいの
念」
と定義しています。なにやら難しそうな定義ですが、要す
実態についてわかっていることは驚くほど少ないのです。日
るに、会社と社員とが、お互いに求め合っているものの具体
本企業は社員に何を期待していて、反対に社員は企業に何
的な内容(例えば「高い賃金」
「会社への忠誠」
)について合意
を期待しているのか。両者の期待にすれ違いは起きていな
していること、それが心理的契約になります。会社と社員との
いのか。
こうした点について明らかにしてくことが、私の当面
相互期待といったほうがわかりやすいでしょうか。
の課題です。加えて、一般にはまだよく知られていないこの
例えば、かつて多くの日本企業でみられた「終身雇用」がそ
概念を、日本の企業社会に広めていくことも、自分の役割だ
の典型例です。かつての日本企業は余程のことが無い限り社
と考えています。
員を解雇せず、社員もまた容易に他の企業に移ることはあり
ませんでした。面白いのは、
この終身雇用が文章化され法的
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