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呼吸器感染症起因ウイルスの遺伝子同時検出方法の検討 A

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呼吸器感染症起因ウイルスの遺伝子同時検出方法の検討 A
平成26年度 新潟県保健環境科学研究所年報 第30巻(2015)
67
呼吸器感染症起因ウイルスの遺伝子同時検出方法の検討
広川智香,加藤美和子,青木順子,出口晶子,田村務
A Study of Simultaneous Detection of Several Viruses Causing
Respiratory Tract Infection by SYBR Green real-time RT-PCR
Chika Hirokawa, Miwako Kato, Junko Aoki, Akiko Deguchi and Tsutomu Tamura
呼吸器感染症の原因となるウイルスには多くの種類があるが,ウイルス分離培養だけでは検出に限界があり,reverse
transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)等による遺伝子検出の併用が必要である.今回,複数の呼吸器感染症
起因ウイルスを同時に検出する方法として SYBR Green I を使用したリアルタイム PCR(SYBR-PCR)の有用性について,検出
頻度の高い RS ウイルスA(RSV-A),RS ウイルスB(RSV-B),パラインフルエンザウイルス1型(PIV-1),2型,3型,
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)及びヒトライノウイルス(HRV)の7項目を対象として検討を行った.SYBR-PCR での判定
の指標となる融解曲線分析では,全ての項目において特異的な PCR 産物であることを示すシングルピークを確認した.各ウイ
ルスの増幅効率は 72.7~98.8%と概ね良好であった.従来法である conventional PCR 法との比較では HRV の検出率が 20%と
低いこと,また RSV-B では非特異増幅が見られるなど,これらについては更に検討が必要ではあるものの,SYBR-PCR は従来
法に比べて大幅に時間が短縮でき,操作性にも優れた有用な方法であると思われた.
Keywords:呼吸器感染症起因ウイルス,同時検出,SYBR Green
1
は じ め に
している.その中でも SYBR Green I を使用したリアルタイ
ム PCR (SYBR-PCR)はターゲットごとに特別な蛍光標識プ
呼吸器感染症の原因となるウイルスにはインフルエンザ
ローブを用意する必要がなく,コスト的にも安価に検査を実
ウイルスや RS ウイルス(RSV),パラインフルエンザウイル
施することができる.当所では SYBR-PCR を用いた胃腸炎ウ
ス(PIV)などがあるが,近年ではヒトメタニューモウイル
イルスの検索について操作性や効率性を確認している6).こ
ス(hMPV)やライノウイルス(HRV)C,ヒトコロナウイルス
こでは呼吸器感染症起因ウイルスに SYBR-PCR を適用した結
(HCoV)- NL63,HCoV- HKU1,ヒトボカウイルス等新たなウ
果について報告する.
イルスが報告されている1-5).新しく見つかったこれらのウ
イルスは,ウイルス分離培養が困難であるため遺伝子検査に
2
材料と方法
より検出することとなる.また,当所では,MDCK,Caco-2,
RD-18S,LLC-MK2,Vero9013 及び A549 の6種類の細胞を用
2.1 ウイルス培養液と臨床検体
いて培養法を実施しているが,培養法による検出には限界が
2.1.1 ウイルス培養液
あり RSV や hMPV,HRV,HCoV では遺伝子検査による検出が必
検査対象ウイルスは RSV-A(genotype ON1,NA1),RSV-B
要である.以前は培養法によるウイルス検索のみを実施して
(genotype BA),PIV-1,PIV-2,PIV-3,hMPV(subgroup A,
いたが,2010 年度厚生労働科学研究事業の「重症呼吸器ウ
B)及び HRV(species A,B,C)とし,これらのウイルス培
イルス感染症のサーベイランス・病態解明及び制御に関する
養液を SYBR-PCR 条件の検討用試料とした.
研究」に参加したことをきっかけに,培養陰性検体からのウ
2.1.2 臨床検体
イルス遺伝子の検出に取り組んできた.これまでウイルス遺
感染症発生動向調査事業及び積極的疫学調査において
伝子の検出には対象ウイルスごとに conventional PCR 法で
2013 年1月から 2014 年 12 月までに上気道炎や下気道炎な
2nd PCR まで実施する方法(従来法)により検索を行ってき
どの急性呼吸器感染症の患者から採取された咽頭ぬぐい
た.しかし,この方法では PCR の回数が多くなり,そのため
液・鼻汁などのうち,ウイルス分離培養陰性で,検体から直
試薬調製や電気泳動による増幅バンドの確認など,作業が煩
接遺伝子を抽出して陽性となった 118 検体及びウイルス分
雑な上に判定までに多くの時間が必要であった.
離培養(PIV)陽性の臨床検体 17 検体の計 135 検体を,臨床
近年では,PCR での増幅量をリアルタイムにモニターし,
電気泳動が不要で迅速性に優れたリアルタイム PCR が普及
検体からの検出における検討に用いた.
2.2 核酸抽出
68
平成26年度 新潟県保健環境科学研究所年報 第30巻(2015)
ウイルス培養液及び臨床検体を 2,500rpm で 15 分間遠心し,
いき,蛍光シグナルをモニタリングする.はじめは PCR 産物
その上清 200μL を High Pure Viral RNA kit(Roche)で核
が二本鎖を形成し蛍光シグナルを発し上昇していくが,ある
酸抽出を行った.
一定の温度に達すると一本鎖に解離し,蛍光シグナルは急激
2.3 cDNA の作製
に下降する.この時の温度が融解温度(Tm 値)であり,増
抽出した核酸溶液は PrimeScript RT Master Mix(TaKaRa)
幅産物の配列に固有の値である.
今回は融解曲線分析を 65℃
を用いて,1チューブあたり 10μL の反応量で RT 反応を行
から 95℃まで slope 1%で温度を上昇させ,Tm 値を蛍光量
った.反応後に等量の DNase/RNase free water を添加し,
の一次微分値による融解曲線分析チャートから算出した.
cDNA 溶液とした.
2.4 SYBR-PCR と融解曲線分析
Table 1. Cycling Parameter of SYBR-PCR
SYBR-PCR は1ウェルあたり 20μL の反応量で実施した.
DNA polymerase
96 ウェルの反応用プレートを用い,検出するウイルス1項
3 step PCR
activation
目につき1ウェル使用した.Fast Universal SYBR Green
Master/ROX (Roche)を 10μL,検出ウイルスのプライマーミ
95℃
1min
ックス(1.25μM Forward プライマー/ 1.25μM Revers プ
Melting curve
35 cycles
stage
95℃ 15sec
start:65℃
55℃ 30sec
1% slope
72℃
end:95℃
1min
ライマーの混合)8μL,cDNA 2μL を混合し,ABI7500Fast
(Applied Biosystems)を使用して Table 1 に示した条件で
2.5 増幅効率の算出
SYBR-PCR を行った.検出ウイルスと使用したプライマーの
組み合わせは Table 2 に示した7-11).
各ウイルスの培養液から核酸を抽出して作製した cDNA を
DNase/RNase free water で 10 倍段階希釈し,100,10⁻1,10⁻2,
SYBR-PCR では,融解曲線分析により増幅産物の確認を行
うことができる.PCR 反応後に反応液の温度を徐々に上げて
10⁻3,10⁻4 の希釈液を用いて SYBR-PCR を行い,検量線を作成
しその直線性と増幅効率を調べた.
Table 2. Primers used in SYBR-PCR and conventional PCR
SYBR-PCR
Virus
Primer
Sequence(5'to 3')
RSVA1
GATGTTACGGTGGGGAGTCT
RSVA2
GTACACTGTAGTTAATCACA
RSVB1
AATGCTAAGATGGGGAGTTC
RSVB2
GAAATTGAGTTAATGACAGC
PIS1+
CCGGTAATTTCTCATACCTATG
PIS1-
CTTTGGAGCGGAGTTGTTAAG
PIV2-F1
GTTGCAGCATTTTCTGGGGAACTCC
RSV-A
RSV-B
PIV-1
PIV-2
PIV-3
hMPV
HRV
PIV2-OR1
GCATCATCATCCTGGGAGCCTCTGT
PIV3NF
GATCCACTGTGTCACCGCTCAATACC
PIV3NR
CTGAGTGGATATTTGGAAGTGACCTGG
MPVF3697F
GCAGGRATAACACCAGCAATATC
MPVF4164R
TCCTGTGCTRACTTTGCATGGG
HRV/HEV IS
ACCRACTACTTTGGGTGTCCGTG
HRV/HEV IAS
TCWGGHARYTTCCAMCACCANCC
Conventional PCR
Product
length
(bp)
Target gene
Reference
334
Nucleocapside
7)
183
Nucleocapside
7)
317
Hemagglutininneuraminidase
8)
716
Hemagglutininneuraminidase
9)
266
Nucleocapside
10)
468
541
Fusion
protein
Original
VP4-VP2
11)
2.6 臨床検体を用いた SYBR-PCR と従来法との比較
Primer
Primer
st
of 1
PCR
nd
of 2
PCR
RSVAB1
RSVA1
RSVAB2
RSVA2
RSVAB1
RSVB1
RSVAB2
RSVB2
PIV-1-OF1
PIV-1-IF1
PIV-1-OR1
PIV-1-IR1
PIV2-F1
PIV2-F2
PIV2-OR1
PIV2-R2
PIV-3-OF1
PIV-3-IF1
PIV-3-OR1
PIV-3-IR1
MPVF3670F
MPVF3697F
MPVF4201R
MPVF4164R
HRV/HEV OS
HRV/HEV IS
HRV/HEV OAS HRV/HEV IAS
Target gene
Reference
Nucleocapside
7)
Nucleocapside
7)
Hemagglutininneuraminidase
9)
Hemagglutininneuraminidase
9)
Hemagglutininneuraminidase
9)
Fusion
protein
Original
VP4-VP2
11)
2nd PCR は 55℃とした.
ウイルス分離培養陰性で従来法陽性の臨床検体を用いて,
従来法に対する SYBR-PCR の検出率を調べた.PIV について
3
結果と考察
は,ウイルス分離培養陰性で従来法陽性の検体が少なかった
ため,ウイルス分離培養陽性の検体についても検査を実施し
3.1 陽性及び陰性の融解曲線分析チャートについて
た.従来法は Table 2 に示したプライマーを用いて TaKaRa
各ウイルス培養液から核酸を抽出して作成した cDNA を用
Ex-Taq(TaKaRa)を使用し,各文献の反応条件に基づき 2nd PCR
いて SYBR-PCR を行い,得られたチャートと増幅産物の電気
まで行った.hMPV のアニーリング温度は,1stPCR は 53℃,
泳動像を Fig.1 に示した.7項目全てにおいて特定の温度
平成26年度 新潟県保健環境科学研究所年報 第30巻(2015)
69
a
a
b
b
Fig.1. Melting curves in SYBR-PCR for RSV-A, RSV-B, PIV-1,
PIV-2, PIV-3, hMPV and HRV positive samples. Numbers show
the melting temperature (℃) of each virus (a), and gel
electrophoresis showing specific bands of each virus
with marker (100bp-ladder) (b).
Fig.2. Melting curves with bimodal peak in SYBR-PCR for
HRV positive samples. Numbers show the melting
に1本の鋭いピークを示すチャートが得られた.確認のため,
temperature (℃) of each sample (a), and their gel
得られた増幅産物5μL を 1.7%アガロースゲルにて電気泳
electrophoresis with marker (100bp-ladder) (b).
動を行ったところ,目的サイズのバンドを確認した.PIV-2
のチャートではピークに肩があるような形を示し,電気泳動
像ではバンドがスメア状になっていた.バンドがスメア状に
なる原因の一つに,加えるテンプレートの量が多過ぎること
が考えられたため,テンプレートを希釈して測定を行ったが,
同じような肩のあるチャートが得られた.他の原因としては
DNA ポリメラーゼや dNTPs のバランスが悪いことが考えられ
た.また,HRV では検体によっては,二峰性のチャートを示
すものが認められた(Fig.2)
.電気泳動像では 50~150bp あ
たりにプライマーダイマーと思われる非特異バンドが認め
られ,また目的サイズである 540bp 近くにも非特異バンドが
認められた.このために二峰性のチャートを示したものと考
えられた.HRV では血清型が 100 以上存在し遺伝子の多様性
も高いため,使用したプライマーにミックス塩基が含まれて
いることも非特異バンド形成の原因と考えられた.HRV につ
いては,今後プライマーの設計を見直していく必要がある.
Fig.3. Melting curves of negative samples in SYBR-PCR.
一方,ほとんどの陰性検体では Fig.3 のようなチャートを
示し,若干のプライマーダイマーと思われる増幅が見られた
た.電気泳動像で確認すると各ウイルスに特異的なバンドは
が,ウイルス遺伝子の増幅による Tm 値とは区別することが
認められず,1,500bp よりも大きいサイズのバンドやウェル
でき,判定に支障はなかった.しかし,一部の陰性検体では
近くにスメア状のバンドが認められ,これらはウイルス遺伝
Fig.4 のような非特異増幅と思われるピークが見られた.こ
子が増幅しているのではなく,検体中に存在する何らかの物
れは7項目全てにおいてほとんど同じ形の融解曲線を示し
質が反応していると考えられた.
70
a
平成26年度 新潟県保健環境科学研究所年報 第30巻(2015)
Table 3. Melting temperature of positive samples in
b
SYBR-PCR assay
Virus
Genotype
Subgroup
Species
RSV-A
RSV-B
ON1
76.0
NA1
77.0
BA
76.3
76.3
76.4
76.7
76.3
76.5
0.3
77.0
76.6
77.1
81.2
81.1
81.4
79.5
79.5
2.2
PIV-1
75.2
75.5
75.2
75.3
74.5
75.1
75.1
0.3
PIV-2
79.7
79.8
80.0
80.1
79.9
79.9
79.9
0.1
PIV-3
76.7
77.2
77.1
77.2
76.8
77.0
77.1
0.2
A
80.6
80.0
80.0
79.1
0.9
B
78.7
77.8
78.5
78.9
78.6
78.5
A
77.5
79.0
79.7
78.3
78.9
78.7
B
78.5
78.6
78.8
79.3
1.1
C
81.2
79.2
80.4
81.5
78.7
80.2
hMPV
Fig.4. Nonspecific amplification in SYBR-PCR (a) and
Total
Avelage
SD
avelage
(℃)
(℃)
(℃)
Melting temperature
(℃)
HRV
negative results with smear pattern in gel
80.2
78.6
electrophoresis derived from some clinical samples with
marker (100bp-ladder) (b).
3.3 SYBR-PCR における増幅効率について
3.2 各ウイルスの Tm 値について
倍段階希釈し,これを用いてそれぞれの検量線を作成し目的
各ウイルス培養液から核酸を抽出して作製した cDNA を 10
SYBR-PCR で得られた各ウイルスの Tm 値を Table 3 に示し
のウイルス遺伝子が濃度依存的に増幅しているか調べた.
た.
RSV-A の genotype ON1 の Tm 値の平均は 76.3℃,
genotype
Table 4 に検量線の傾きから算出された増幅効率と,直線性
NA1 は 77.0℃,全体平均は 76.5℃,標準偏差(SD)は 0.3℃
の評価としての相関係数(R2)を示した.増幅効率の適正
で遺伝子型による違いは見られなかった.
範囲は 80~120%とされているが 12),この範囲内であったの
RSV-B の Tm 値の平均は 79.5℃(SD=2.2℃)で最高温度と
は,対象ウイルス7項目のうち RSV-A,PIV-1,PIV-2,PIV-3,
最低温度の差は 4.8℃と,genotype はすべて BA と同じにも
hMPV の5項目であった.RSV-B と HRV はともに 70%台と適
かかわらず,Tm 値が約 77℃と約 81℃の2パターンに分かれ
正範囲よりやや低い結果であった.
た.増幅曲線が閾値に達したときのサイクル数(Ct 値)を
増幅効率が低くなる原因としては,増幅産物のサイズやプ
見てみると,
Tm 値が約 77℃の2検体では Ct 値は 24 と 32 で,
ライマーの反応性などがあげられる.増幅産物のサイズは
Tm 値が約 81℃の3検体では Ct 値が 11~13 と違いが見られ
80~300bp が望ましいとされているが 13),増幅効率が 80%を
た(データは示さず)
.Ct 値は初期鋳型量の目安となり,Ct
下回った RSV-B は 183bp,HRV は 540bp である.増幅サイズ
値が小さい場合は鋳型量が多く,Ct 値が大きい場合は鋳型
が 716bp で7項目中最も大きい PIV-2 の増幅効率は 85.8%
量が少なかったと推測することができるが
12)
,Ct 値が小さ
と良好であり,RSV-B と HRV については増幅サイズが増幅効
かった3検体の SYBR- PCR 増幅産物を電気泳動したところ,
率の低下に影響を与えているとは考えにくく,プライマーの
いずれも目的のサイズである 183bp のバンドを確認したが,
反応性やアニーリング温度など他の要因が原因となってい
バンドは薄く増幅産物の量としては少ないと考えられた.こ
る可能性が考えられた.
のことから Ct 値が小さかった理由は目的の鋳型量が多いの
ではなく,プライマーダイマーあるいは非特異的な PCR 産物
R2 は 0.98 以上であることが求められているが 12),いずれ
もこれを満たしていた.
によるものと考えられ,今後更に検討が必要である.
PIV-1 の Tm 値の平均は 75.1℃(SD=0.3℃),
PIV-2 は 79.9℃
(SD=0.1℃)
,PIV-3 は 77.1℃(SD=0.2℃)と各型ともばら
つきが少なかった.
hMPV の全体の Tm 値の平均は 79.1℃(SD=0.9℃)で,
subgroup A の平均は 80.2℃,subgroup B の平均は 78.5℃と
subgroup A よりも低かった.
HRV-A の Tm 値の平均は 78.7℃,HRV-B は 78.6℃,HRV-C
は 80.2℃で,HRV-A と HRV-B に違いは見られず,HRV-C の Tm
値はこれらより高かった.HRV 全体の Tm 値の平均は 79.3℃
(SD=1.1℃)であった.
Table 4. Amplification efficiency and R2 value calculated
from standard curves
Virus
Amplification
efficiency(%)
R value
RSV-A
RSV-B
PIV-1
PIV-2
PIV-3
hMPV
HRV
81.0
72.7
95.6
85.8
98.8
87.6
76.6
0.992
0.985
1.000
0.995
0.999
0.998
0.997
2
各ウイルスの Tm 値は遺伝子型などの違いにより多少の差
が見られる場合があり,Tm 値で判定する際には,全体の平
均値±1.0~2.0℃を目安にすることが適当と思われた.
3.4 臨床検体を用いた SYBR-PCR と従来法との比較
SYBR-PCR における臨床検体からの各ウイルス検出状況を
平成26年度 新潟県保健環境科学研究所年報 第30巻(2015)
Table 5 に示した.従来法との比較で,検出率が最も高かっ
71
な方法であると思われた.
たのは RSV-B の 85%,次に PIV-3 の 83%,RSV-A の 79%,
hMPV の 76%という順であった.最も低かったのは PIV-2 の
本報文は,経常研究「複数の呼吸器感染症起因ウイルスの
0%,次に HRV の 20%,PIV-1 の 50%と低い検出率であっ
遺伝子同時検出方法の検討」(2013~2014 年度)の成果で
た.HRV で検出率が低かった原因としては,HRV には多くの
ある.
血清型が存在することや,増幅サイズが 500bp を超えていた
こと,プライマーの選定ミスなどが考えられた.PIV-1,PIV-2
文
献
及び PIV-3 については検査数が少なかったため評価が難し
いと考え,ウイルス分離培養陽性の臨床検体で検出率を求め
1)van den Hoogen B.G., de Jong J.C., Groen J., Kuiken
てみたところ,PIV-1 及び PIV-2 は 100%,PIV-3 は 80%と
T., de Groot R., Fouchier R.A.M., and Osterhaus
高い検出率であった.
A.D.M.E. : Nat. Med., 7, 719 (2001).
2)Lamson D., Renwick N., Kapoor V., Liu Z., Palacios
Table 5. Detection from clinical specimens by SYBR-PCR
G., Ju J., Dean A., St George K., Briese T., and
compared with conventional PCR or cell culture method
Lipkin W.I. : J. Infect. Dis., 194, 1398 (2006).
Comparison with
conventional PCR
Virus
3)van der Hoek L., Pyrc K., Jebbink M.F., Vermeulen-Oost
Comparison with
cell culture
Detection
No. of SYBR-PCR
ratio
samples positive
(%)
No. of
samples
W., Berkhout R.J.M., Wolthers K.C., Wertheim-van
Detection
SYBR-PCR
ratio
positive
(%)
Dillen P.M.E., Kaandorp J., Spaargaren J., and
Berkhout B. : Nat. Med., 10, 368 (2004).
RSV-A
24
19
79
-
-
-
4)Woo P.C.Y., Lau S.K.P., Chu C.M., Chan K.H., Tsoi H.W.,
RSV-B
13
11
85
-
-
-
Huang Y., Wong B.H.L., Poon R.W.S., Cai J.J., Luk W.K.,
PIV-1
2
1
50
5
5
100
PIV-2
1
0
0
7
7
100
PIV-3
6
5
83
5
4
80
Poon L.L.M., Wong S.S.Y., Guan Y., Peiris J.S.M., and
Yuen K.Y. : J. Virol., 79, 884 (2005).
hMPV
21
16
76
-
-
-
5)Allander T., Tammi M.T., Eriksson M., Bjerkner A.,
HRV
51
10
20
-
-
-
Tiveljung-Lindell A., and Andersson B. : Proc. Natl.
Acad. Sci., 102, 12891 (2005).
従来法では PCR 反応2回と電気泳動後の判定まで,1項目
あたり5~6時間かかり,項目ごと(RSV,PIV,hMPV,HRV)
に反応条件が異なるため4項目について検査を実施するこ
とになり膨大な時間と手間がかかった.また2回 PCR を行う
6)田澤崇,渡邉香奈子,渡部香,広川智香,田村務:新潟
県保健環境科学研究所年報,28,73 (2013).
7)国立感染症研究所:病原体検出マニュアル,RS ウイル
ス,p.21.
ため使用する消耗品の量も多くなる.一方,SYBR-PCR では
8 ) Echevarria J.E., Erdman D.D., Swierkosz E.M.,
96 ウェルのプレートを使用すれば,1ウェルごとに1項目
Holloway B.P., and Anderson L.J. : J. Clin.
使用するため1検体あたり7ウェル使用することになり,1
Microbiol., 36, 1388 (1998).
回の測定で陰性コントロール,陽性コントロール+10 検体
の測定が可能である.PCR 反応から判定までは約3時間と大
幅に時間を短縮することができる.また,従来法では判定の
9)Lam W.Y., Yeung A.C.M., Tang J.W., Ip M., Chan E.W.C.,
Hui M., and Chan P.K.S. : J. Clin. Microbiol., 45,
3631 (2007).
ために電気泳動が必要であったが,SYBR-PCR では Tm 値を指
10 ) Bharaj P., Sullender W.M., Kabra S.K., Mani K.,
標としたチャートにより判定を行うため,判定に迷う場合以
Cherian J., Tyagi V., Chahar H.S., Kaushik S., Dar
外は電気泳動の必要がなく,コンタミネーションの危険性も
L., and Broor S. Virol J., 6, 89 (2009).
低くなる.操作性においても簡便で迅速に結果が得られるこ
とから,更に検討を重ねた上で,日常検査に導入したいと考
えている.また,集団感染事例が発生した場合の迅速な原因
ウイルスの検索にも対応可能な方法と思われた.
11) Wisdom A.
, McWilliam Leitch E.C.
, Gaunt E.
, Harvala
H., and Simmonds P. : J.Clin.Microbiol.,47,
3958(2009).
12)タカラバイオ株式会社:リアルタイム PCR 実験ガイド
http://www.takara-bio.co.jp/prt/guide.htm(2015 年
4
ま
と
め
6月 23 日閲覧)
13)タカラバイオ株式会社:SYBR GreenⅠを用いたリアルタ
SYBR-PCR による呼吸器感染症起因ウイルスの同時検出方
法について検討を行った.各ウイルスの増幅効率は概ね良好
であった.RSV-B 及び HRV については更に検討が必要ではあ
るものの,それ以外の項目では増幅効率及び従来法との比較
において良好であり,SYBR-PCR は操作性にも優れた効率的
イム PCR の検討
http://catalog.takara-bio.co.jp/
product/basic_info.php?unitid=U100004190
(2015 年 2 月 19 日閲覧)
Fly UP