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講演スライド - どんぐり工房
今日のお話 Ⅰ.副作用機序別分類 医薬品の副作用チェックと 予防のための機序別分類 最後に 演習問 題をや ります よ。 Ⅱ.相互作用機序別分類 Ⅲ.DPP-4阻害剤の 機序別分類の実際 どんぐり工房 菅野 彊 プロローグ 症例 77歳 男性、高尿酸血症 月/日(1978年) 2/25 3/31 4/1 症例 4/6 4/15 4/28 77歳 男性、高尿酸血症 1 症例から薬剤師として学んだこと ①アレルギー性の副作用が予知できるとすれば、 それ以外の副作用の予知もできるはずである。 ②そうだとすれば副作用を科学的に分類すること が必要である。 ③アレルギー以外の副作用をどう分類すればいい のか? 方法論を探してみよう。 副作用機序別分類の現在の到達点 Ⅰ.副作用機序別分類 副作用機序 特徴 【薬理作用】 ①過剰発現 ②副次的作用 ③作用欠如 ・常用量でも発現 する場合あり ・頻度が大きい ・中断症候群あり 対策 ・投与量減量 ・緩和な他剤へ 変更 ・段階的に減量 ・投与量、投与期 ・投与期間中は ・様子をみながら 間の大きさに依 定期的に検査 投与継続 存する ・催奇形は前臨床 ・他剤に変更 ・肝、腎、血液、中 ・発癌性は前臨床 ・投与中止 枢神経系に負荷 および発売後に 疫学調査 【薬物毒性】 ①臓器毒性 ②催奇形性 ③発癌性 【薬物過敏症】 ・投与量、投与期 ①特異体質 ②アレルギー 1 チェック ・投与期間中は 常にチェック ・副次的作用の 発現に注意 間に依存しない ・6ヶ月以内発現 ・6ヶ月間は初期 症状の発現に 気をつける ・即時投与中止 ・同系他剤注意 ・ステロイド併用 薬理作用による副作用を起こす くすりの例 抗生物質 ・・・ 偽膜性大腸炎 αー遮断剤 ・・・ 起立性低血圧 カルシウム剤、ビタミンD3製剤 血糖降下剤 ループ系利尿剤 ・・・ 高カルシウム血症 ・・・ 低血糖 ・・・ 低カリウム血症 2 Prazaxa Blue Letter プラザキサの薬理作用 2011年8月 症例:75歳男、高血圧、心不全、心房細動 症例:80歳代女、心房細動 心房細動の抗凝固療法としてワーファリン(1mg/日) を3年間服用、効果不十分のためプラザキサに変更。 ・12日目、血痰・鼻出血を認める。 ・15日目呼吸困難、出血傾向を認め、救急外来へ搬送、 入院。プラザキサ投与中止。 ・BUN53.8mg/dL、S-Cr4.2mg/dL。血尿、肺胞出血、 呼吸不全、タール便を認める。 ・抗生剤、血液輸血酸素投与。PT-INR7.51.大量の血痰、 タール便、血尿持続し死亡。 (製薬会社報告) 患者さんからの聞き取り調査 ・INR 3.42 (ワーファリン手帳) ・INRは状況に応じて1.6~3.0が推奨されている。 ・75歳、尿蛋白(-)だが腎機能の自然低下がある。 ・推測CLcr 50%低下で50mL/minくらいか? 【重要な基本的注意】 ワルファリンから本剤へ切り替える際には、ワルフ ァリンを投与中止し、INRが2.0未満になれば投与可 能である」とされている。 内科処方 ワーファリン錠 2.5mg/日 皮膚科処方 プレドニン20mg/日 3日後内科処方変更 プラザキサカプセル300mg/日1日2回 「明日は納豆を食べてから、ワーファリンを中止して、プラザ キサに変更して下さい」と言われたとのことである。 「皮膚科から出ているプレドニンの影響でしょう」とのこと。 P#1 プラザキサによる出血の危険性 S 明日、納豆を食べてから、ワルファリンを止めて プラザキサカプセルに変えて下さい。 O INR3.2(1.6~2.5)、75歳男性 A ワルファリンの消失半減期約100時間であり 体内消失時間=100×5時間=約20日間 P 疑義照会の結果、変更を見送りワルファリンを 減量、7日後にINRが2.0を切ったことを確認、 プラザキサカプセル220mg/日に減量投与。 3 プラザキサ®カプセルの臨床検査 症例:Sさん、21歳女、神経症、うつ状態 薬・症状 デプロメール錠 H16 5/ 6/ H17 1/ 4/15 6/ 100mg 50mg パキシル錠 4/20 20mg 30mg 30mg ジプレキサ細粒 0.5mg めまい ふらつき 吐き気 多汗 手のふるえ 不安感 P#1パキシル錠中断による離脱症候群か? 薬理作用による副作用の服薬指導 S くすりが変更になって2~3日経ったら、汗が 出て震え、ものすごく違和感があって変だった。 ○ 主作用の過剰発現は頻度が高い副作用なので、 あ O パキシル錠30mgからデプメロール100mg錠 に変更。今回、パキシル錠30mgに戻した。 ○ 効いているから出てくる副作用なので、「やがて慣れ A 突然の中断により、パキシル錠の薬理作用が 欠如した。非線形のためか? 効力の違いか? P パキシル錠は忘れないで必ず飲むように指導。 2 らかじめ患者さんに伝えよう。 てなくなります」とお話しておこう。飲むのを止める と困るから。 ○ 副次的な薬理作用の過剰発現は見落としがちである。 計画的に観察していきたい。 ○ くすりを止めると起きてくる副作用もあるので、「勝 手に止めないで指示を守ること」を伝えよう。 臓器毒性を起こすくすりの例 クロフィブラート剤 ・・・ 筋肉障害 アセトアミノフェン ・・・ 肝機能障害 アミノグリコシド系抗生物質 ・・・ 腎機能障害 ビスフォスホネート剤 ・・・ 消化器障害 抗がん剤 ・・・ 白血球減少症 4 レザルタス配合錠LDは腎排泄? 肝排泄? 症例 Mさん、57歳男、慢性肝炎、高血圧 Rp) 1.グリチロン錠 3錠 毎食後服用 14日分 2.レザルタス配合錠LD 1錠 朝食後服用 14日分 Mさんは50歳時に慢性肝炎の既往がある。オル メティック錠で治療中だが、最近血圧が上がり、今 日レザルタス配合錠LDが加わった。どんな注意が 必要か? 尿中(未変化体)排泄率 肝・腎排泄型 オルメサル タンメドキソ ミル(オルメ ティック錠) 成分 腸管および肝臓あるいは血漿 において加水分解され、活性 代謝物オルメサルタンに代謝 される。オルメサルタンは12. 6%が尿中に77.2%が糞中 排泄。 代謝物が活性を もつ胆汁排泄型 薬物。代謝物の 多くは胆嚢を経由 して糞中排泄。 アゼルニジ ピン(カルブ ロック錠) 肝排泄型薬物。 主な代謝部位は小腸および 肝臓であり、CYP3A4により ジヒドロピリジン環が酸化され る。投与後7日で26%が尿中、 63%が糞中排泄。 P#1 肝炎既往のMさんに肝排泄型薬物併用 S 最近は肝機能の数値はいいですよ。もう、治ったような ものですね。 O グリチロン錠を長期服用中。 A レザルタス配合錠は肝排泄型薬物2種類の合剤なので 肝臓に代謝負荷がかかる。肝炎の再燃に注意。 P 血圧が下がるといいですね。食事気をつけて下さい。塩 分の多いものは避けて鶏肉などの脂肪が少ない良質の 蛋白をとるといいですね。 5 3 薬物毒性の服薬指導 ○ 投与初期から発現することは少ないので、最初か ら伝えることはしない。 ○ 投与量が多いほど、投与期間が長いほど発現しや すいので後になればなるほど注意する必要がある。 ○ くすりの通過点である肝臓と腎臓には負荷が避けら れないことを理解して貰う。 ○ 肝・腎・血液障害は検査をして見つかることが多いの で「定期的検査」を提案する。 薬物過敏症を起こすくすりの例 抗生物質 ・・・ 皮膚粘膜眼症候群 抗てんかん剤 ・・・ 中毒性表皮壊死症 抗甲状腺製剤 ・・・ 無顆琉球症 合成抗菌剤 ・・・ 急性腎不全 消炎鎮痛剤 ・・・ 重篤な肝機能障害・黄疸 無顆粒球症の発症時期 美甘義夫ら;医原性疾患;1969 薬物・検査 症例:Sさん、49歳 男性、高血圧、頸肩部痛 しばらく治療中断していたが、頸肩部痛がひどく、 治療を再開した。 Rp) 14日分 2.テグレトール錠100mg 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分 3.アムロジン錠5mg 0.5錠 1日1回 朝食後 アロフト テグレトール アムロジン ミノマイシン プレドニン ステロイド軟膏 トランスアミナーゼ 1.アロフト20mg 3錠 1日3回 毎食後 11/24 12/7 12/10 60mg 12/13 12/16* 12/20 120mg 300mg 200mg 2.5mg 200mg 30mg (肝炎ウイルス陰性) γ-GTP 800 600 ALT 400 200 14日分 AST 0 症例 Sさん、49歳 男性、高血圧、頸肩部痛 *皮膚科受診 6 症例:62歳男、急性間質性腎炎 P#1 テグレトールによる薬剤過敏性症候群の疑い S 一旦軽快した肝機能が再び悪化、入院。 O 顔に紅斑拡大、デルモベート軟膏、キンダベート 軟膏投与。肝機能数値不明。 A 薬剤性副作用ではないだろうか? P テグレトールによる薬剤過敏性症候群の病状 経過と一致する。 H17年 12月 胸痛発作、心筋梗塞にてステント挿入。 H18年 1月 パナルジン錠にて薬疹が出現し、プラビックス錠 に変更。 H18年 2月 S-クレアチニン上昇。造影剤の腎障害と診断。 H18年 2月 当院腎臓内科紹介され初診。 好酸球27.4%、 S-Cr3.52 mg/dL、BUN46mg/dLで薬剤性ア レ ルギー性間質性腎炎と診断された。プラビッ クス錠中止。プレタール錠200mg、プレドニン 錠25mgで治療開始。 H19年 1月 S-クレアチニン1.58mg/dL、BUN21mg/dL、 好酸球1.2%と腎機能障害は軽快した。 (千葉大学 上田志郎先生より) パナルジンとプラビックスの 化学構造の違い パナルジン (主にCYP2C19で代謝) P#1 パナルジンで薬疹出現の患者に プラビックス錠投与 プラビックス (主にCYP3A4で代謝) アレルギー性肝障害と肝毒性の区別 項目 アレルギー性肝障害 肝毒性 S 胸痛発作後、心筋梗塞発症。 O バルーン使用しステント挿入、血栓溶解剤と してパナルジン投与で薬疹発現。プラビック ス錠に変更後、腎障害発現。 A プラビックス錠によるアレルギー性腎障害では ないか? 化学構造活性相関の可能性あり。 P プラビックス錠中止し、プレタール錠に変更。 プレドニン錠投与。腎障害消失。 薬物過敏症と薬物毒性の区別ー腎障害を例に 項目 薬物過敏性腎障害 腎毒性 出現時期 投与開始後数日~4週位 投与開始後数ヶ月位 出現時期 投与開始後数日~4週位 投与開始後数ヶ月位 初発症状 発熱、発疹、掻痒感 食欲不振、吐き気 初発症状 尿量減小、浮腫(特に顔) 検査値 急激なAST・ALT上昇 AST・ALT上昇 検査値 急激なS-cr・BUN上昇、 蛋白尿、S-cr・BU 血清K上昇・Na低下 N・SーK値上昇 末梢血液像 好酸球・白血球増加 変化なし 感受性試験 陽性の率が高い 陰性 薬剤再投与 すぐに肝障害発現 すぐには出ない 尿量減小、浮腫、胸 水・腹水貯留 末梢血液像 好酸球・白血球増加 変化なし 感受性試験 陽性の率が高い 陰性 薬剤再投与 すぐに腎障害発現 すぐには出ない 7 薬物過敏症の服薬指導 ○ 「発熱、発疹、そう痒感などがあらわれたら、必ず 教えてください」と伝えておく。 ○ 特異体質による過敏症は比較的早く現れるし、薬 物アレルギーでは6ヶ月以内に現れるので、6ヶ月 間は副作用チェックを厳重に行う必要がある。 ○ もし発現したら、速やかにくすりを中止するのが 原則である。 SGD 演習問題1 誰でも今までの仕事中や個人的な経験でくすりの 副作用を経験していると思います。それでは、SGD で、経験した副作用を発表し、そのくすりの副作用は 1)薬理作用によるものか?、2)薬物毒性によるもの か? それとも、3)薬物過敏症によりものか? を判 断して下さい。 そして、「OOOによる△△△の副作用を経験した。 この副作用は機序別分類をすると、×××に分類さ れる副作用だと思います。」という報告をして下さい。 薬物相互作用機序別分類 Ⅱ.相互作用機序別分類 1.薬物相互作用により発現する薬物過敏症はない。 2.相互作用には、①薬理作用の相加・相乗、相殺と ②薬物毒性の相加・相乗による相互作用がある。 3.薬物相互作用は①相互作用の症例がある相互作 用と、②相互作用の発現を予測することから発せら れる相互作用がある。 ①臨床的に発現する可能性が少ない相互作用 ラニラビット錠に併用されたVD剤、Ca剤の併用 症例:Sさん、74歳女、発作性心房細動 〔A医院処方〕 1.ワーファリン錠 1.5mg ラニラピッド錠0.1mg 1錠 1日1回朝食後服用 14日分 2.サンリズムカプセル50mg 2C 1日2回朝夕食後服用 14日分 〔M病院処方〕 1. カルシタロール 0.25μg 2C アスパラカルシウム 2錠 1日2回朝夕食後服用 28日分 2.アクトネル 17.5mg 1錠 起床時服用 4日分 8 P#1 ラニラピッド服用患者にVD剤、 Ca剤の 併用投与による相互作用の心配 ②臨床的に発現することがあり得る相互作用 クロピドグレルとオメプラゾールの併用 S ラニラピッドを飲んでいるのですが、他病院からVD剤と クロピドグレル(プラビックス®錠)は体内に入りCYP 2C19で代謝され、活性代謝物H4に変換されて抗凝 固作用を発揮する。しかし、オメプラゾールはクロピド グレルの代謝酵素であるCYP2C19を阻害する。 従って、血栓予防のためクロピドグレルを使用して いる患者では、オメプラゾールを併用すると、代謝が 阻害され、クロピドグレルの薬効が十分に得られなく なる。(2009年3月19日、米国FDA発表) Ca剤が出ています。飲んでもいいですか? O Ca注射は原則禁忌、VD製剤、Ca経口剤は併用注意。 A 血清Ca濃度は9.3mg/dL(基準値8.2~10.0mg/dL)。相 乗効果の相互作用は起きにくいと思われる。 P VD製剤、Ca経口剤の服薬を薦めた。その後ラニラピッド錠は 0.1mg錠から0.05mg錠に変更になった。両剤を服用して3 か月経つが異常なく、 ラニラピッド錠は良く効いている。 3種類のPPIにおけるAUC(0-12h ng・hr/mL) の違い (Aoyana Nobuo.et al、Gastroenterology 2000) 疑義照会に対する医療機関の反応の違い 〔内科開業医〕 オメプラゾールを相互作用が起こりにくい PPI への変更を推薦したところ、直ぐに応じてくれた。 〔病院薬剤部〕 米国のことなので、日本の厚労省や製薬会社の正 式見解が出ない限り、こちらからは動けませんが、 もし機会があれば医師に伝えておきます。 (菅野彊、Credentials 2010、February) プラビックス錠添付文書改訂と厚労省安全性情報 〔添付文書の改訂(2010年4月)〕 相互作用の併用注意「オメプラゾールが本剤の作用を減弱 させ、プラビックス錠の活性代謝物の血中濃度が低下する」。 Ⅲ.DPP-4阻害剤の 機序別分類の実際 〔厚労省安全性情報No.269(2010年5月)〕 1)CYP2C19のPoor Metabolizer群においてクロピドグレル の血小板凝集抑制作用が低下した。 2)CYP2C19のPoor MetabolizerもしくはImideate Metaboli zerでは、クロピドグレル投与後の心血管系イベント発症率 の増加が警告されている 9 副作用機序別分類のStep Step1.薬理作用を確実に捉える(①主要な作用、②副 次的な作用、③作用欠如のとき)。 Step2.重大な副作用の機序別分類を行う。 Step3.その他の副作用の気になる点を探す。 Step4.最後に総合的に広く検証する(薬理作用が標 的臓器以外の場所に影響しないか? 未知な 副作用が現れる可能性はないか?)。 グラクティブ®錠を例にとり Step1:薬理作用を確実に捉える 【薬効薬理の作用機序】 GLP-1およびGIPはグルコース恒常性維持に 関わるホルモンである。シタグリプチンは、DPP ー4酵素を阻害し、インクレチンのDPPー4による 分解を抑制する。活性型インクレチン濃度を上 昇させることにより、血糖依存性にインスリン分 泌促進作用並びにグルカゴン濃度低下作用を 増強し、血糖コントロールを改善する。 グラクティブの作用機序 DPP-4 グラクティブ グラクティブ非投与 消化管症状は副次的な薬理作用 インスリン グラクティブ投与 Step2:重大な副作用の 機序別分類を行う。 1.アナフィラキシー反応⇒薬物過敏症 2.皮膚粘膜眼症候群、剥奪性皮膚炎 ⇒薬物過敏症 3.低血糖症⇒薬理作用 4.肝機能障害、横断? 5.急性腎不全? 6.急性膵炎? 7.間質性腎炎? GLP1には、消化管の蠕動運動を抑制し、幽門筋の 収縮力を高め、経口摂取された食物の十二指腸への 流入を遅延させる働きがある。そのためGLP1濃度が 高くなると、吐き気、腹部膨満、便秘などの消化管症 状が起こりやすくなる。これらはGLP1アナログ製剤で はよく知られた副作用だが、GLP1の分解を阻害する DPP4阻害薬でも起こる可能性は十分ある。いずれも 症状は軽微で飲み続けると消失するが、不快な症状 であるために勝手に服薬を止めないように事前に伝え るておいたほうがいい。 4.肝機能障害、黄疸⇒薬物過敏症。 1.重大な副作用は「死亡するか、後遺症が残る 副作用」である。従って重大な肝毒性を持つ場 合には承認されることは少ない。 2.エクア錠は1年間は少なくても3カ月毎、その後 も定期的に検査を求めらていることから代謝負 荷による肝毒性の可能性があるが、グラクティ ブは「ALT、ASTの著しい上昇を認めたら投与を 中止」という薬物過敏症を示唆する注意のみの 起債である。 10 DPP-4阻害薬グラクティブ錠は、腎排泄?肝排泄? 比較項目 尿中未変化体排泄率 油水分配係数 P Log P 肝排泄型・腎排泄型 投与間隔 消失半減期 投与間隔/消失半減期 定常状態の有無 定常状態到達時間 累積率 AUC 7日目/初日 グラクティブ錠 0.79~0.88 腎排泄型 24hr 11.4±2.4hr 2.1 有 2.4日間 5.急性腎不全⇒薬物過敏症 エクア錠 0.227 1.255 0.098 肝排泄型 12hr 2.41±0.7hr 4.98 無 1.01±0.114 6.急性膵炎は薬物毒性? 症例:50代、男性。グリメピリドにシタグリプチン 50mgが追加 投与された。投与6か月目に腰痛が発現し、救急外来を受診、 急性 膵炎と診断され入院した。グリメピリドは継続、シタグリプ チンは中止された。中止の3日後から症状が改善し始め、9日 目には症状が軽快、退院した (使用上の注意2011年1月)。 *DPP4阻害剤は終局的な作用点は膵臓であること から、膵臓に負荷をかけていることが考えられる。 Step2:重大な副作用の 機序別分類を行う。 症例:78歳女、糖尿病。オイグルコンからシタグリプ チンに変更した1カ月後、浮腫と尿閉が生じ、HbA 1cは6.4から8.1に上昇。オイグルコンとラシックス を追加したが、改善見られず、急性腎不全の診断で 入院。BUN 48.1mg/dL、血清クレアチニン 0.63 mg/dL。シタグリプチン中止。急性腎不全は軽快( 製薬会社資料)。 *腎不全発症までの期間が短いことから、アレル ギー性副作用と思われる。 7.間質性腎炎⇒薬物過敏症 症例:60代女性。シタグリプチン50mgの使用開始から数日 後に呼吸困難を自覚、徐々に進行し、33日目に検査のために 入院した。CTで肺野に明らかな間質性肺炎の像が認められた ため、ステロイドによる治療を開始し、シタグリプチンを中止し た。中止40日後に軽快した。他に降圧薬や漢方薬など3剤を 服用していた(使用上の注意改訂のお知らせ 2011年6月)。 *症状の発現が早く、ステロイドが奏功し、比較的早く 回復していることから薬物過敏症と考えられる。 Step3: その他の副作用の気になる点を探す。 1.アナフィラキシー反応⇒薬物過敏症 2.皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、剥奪性皮膚炎⇒薬物過敏症 3.低血糖症⇒薬理作用 4.肝機能障害、横断⇒薬物過敏症 5.急性腎不全⇒薬物過敏症 6.急性膵炎⇒薬物毒性 7.間質性腎炎⇒薬物過敏症 11 血管浮腫はアレルギー性? ○ DPPー4はサイトカイン(サブスタンスPなど)の分解 に関与⇒DPPー4阻害⇒サブスタンスP濃度の上昇 ⇒血管透過性亢進⇒血管浮腫 ○サブスタンスPはACEで分解⇒ACE阻害⇒サブスタ ンスP濃度の上昇⇒血管透過性亢進⇒血管浮腫 * 名城大学大津史先生:サイトカインのバランスが関 与する副作用としては、Stevenson-Johnson症候群 、剥脱性皮膚炎、蕁麻疹などがあり、投与開始3カ月 ごろまでに起こりやすい。 Step4:最後に総合的に 広く検証する。 身体の至る所にあるDPP-4を阻害してしまう ことで、何か不都合なことが起きないのだろう か? 当分の間、未知の副作用の発現に注意 する必要がある。 例えば、サイトカインの分解を抑制することで アレルギー性副作用が発現しやすくならない か? 免疫系に影響し感染症が発現しやすく ならないか? などなど。 DPP4阻害薬副作用機序別分類の結論 薬理作用 薬物毒性 薬物過敏症 主作用;低血糖 急性膵炎 副次的な作用 :胃腸障害(吐気、 腹部膨満、便秘、 下痢など) アナフィラキシ-反応 皮膚粘膜眼症候群 肝機能障害、黄疸 急性腎不全 間質性肺炎 血管浮腫 赤は重大な副作用 エピローグ 症例 Oさん73歳 男性、高血圧、 脳梗塞後遺症 夕方になると、足が“ぱんぱん”に浮腫んでくる。 『くすりのせいかなあ?』と思っている。 Oさんの処方 Rp) 《内科》 1.アダラートL錠20mg 2錠 パナルジン錠 2錠 内服 1日2回 朝夕食後14日 《整形外科》 1.テルネリン錠1mg 3錠 内服 1日3回 毎食後14日 2.セルタッチ 42枚 外用 1日2回 12 テルネリン錠で下肢浮腫が発現するか? 1)テルネリンは中枢性アドレナリンα2受容体刺激が 薬理作用の本質である。 2)従って、α1受容体遮断効果を有し、末梢血管を拡 張し血圧を下げる。 3)その結果として薬理作用の過剰発現として下肢浮 腫が起きることはあり得る。 4)承認時に下腿浮腫1例、顔面浮腫1例、市販後に下 肢浮腫1例、顔面浮腫1例が報告されている。 まとめ:『疑わしきは罰する』という薬物 副作用・相互作用文化の提案 医療チームの中で、患者さんに対す る薬の副作用の番人は薬剤師しかい ません。薬剤師として組織的に副作 用・相互作用を見張りましょう。『疑わ しきは罰する』を、合言葉にして。 機序別分類の演習問題 問題:プラビックス錠を例にして、 実際に副作用機序別分類 を行って下さい。 「Fresh Leaf2010年夏号」に寄稿 プラビックス錠添付文書副作用の記載項目 4.副作用 (1)重大な副作用 1)出血(頭蓋内出血、胃腸出血等の出血、吐血、下血、眼底出血他) 2)胃・十二指腸潰瘍(*2011.9) 3)肝機能障害、黄疸、 4)血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、 5)間質性肺炎 6)血小板減少、無顆粒球症、再生不良性貧血を含む汎血球減少症、 7)中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形滲出性紅班 8)横紋筋融解症 (2)その他の副作用 血液、肝臓、消化器、代謝異常、過敏症、皮膚、感覚器、精神神経系、 循環器、腎臓、呼吸器、その他 Step1:薬理作用を確実に捉える ①出血傾向は薬理作用の過剰発現 1.硫酸クロピドグレルの活性代謝物が、不可逆的に 血小板のADP受容体に作用し、ADPの結合を阻害 することにより、血小板の活性化に基づく血小板凝 集を抑制する。その結果抗血栓効果を発揮する。 2.この作用が過剰に発揮されるとどうなるのか? 当然、出血傾向が現れることになる。 13 Step 2:重大な副作用の機序別分類 ①TTP、無顆粒球症、重篤な肝障害等は薬物過敏症 1.添付文書では、重大な副作用として、これらの血栓性血小 板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤な肝障害等は “投与開始2ヶ月以内の早期に発現”しており2ヶ月間は2週 間以内の投与と2週間毎の血液検査を求めている。 2.つまり発現が比較的早期に現れ、2ヶ月以後のチェックに ついては言及されていないので薬物過敏症性副作用であ ることが推測される。 ③横紋筋融解症(2010年4月)は副作用機序不明 [製薬会社提示症例] 80代女、心筋虚血、狭心症でPCI(経皮的冠動 脈形術)を予定し、プラビックス錠300mgを負荷し、 以後75mg/日を15日間投与。投与4日目 PCI施 行投与16日目 頸部~両肩および下肢筋肉痛強く 入院CPK 3396IU/L、トロポニンT(-)より横紋筋 融解症と診断、 本剤投与中止。中止11日後 以後、自然に軽快。 CPK49IU/L。代用としてシロスタゾール200mg/ 日、サルポグレラート300mg/日開始。 重大な副作用機序別分類の結論 ①出血は薬理作用による副作用であり、常に注意すること。 ②出血を伴う胃・十二指腸潰瘍は薬物毒性と薬理作用の合併 であり、投与が長期にわたる場合は症状の発現に注意する こと。 ③薬物過敏症である肝機能障害、黄疸、TTP、無顆粒球症の 発現に注意し、2ヶ月間は2週間に1回血液検査をする。 ④間質性肺炎、汎血球減少症、皮膚粘膜眼症候群、多形滲出 性紅班、中毒性表皮壊死症は薬物過敏症であり、6ヶ月間は 厳重なチェックを行う。 ⑤ 横紋筋融解症は機序不明だが、使用中は常にチェックする 必要がある。 ②間質性肺炎および血小板減少以下の 血液障害はアレルギー性副作用 1.間質性肺炎は最初はその他の副作用にあって、偶然入っ た副作用と位置づけられていたが、その後症例の発現がい くつかあり、重大な副作用にあげられた。 2.プラビックス錠は薬理的な血球障害および薬物毒性である 骨髄抑制は証明されていない。従って血小板減少、無顆粒 球症、再生不良性貧血以下の血液障害は薬物過敏性副作 用である。 3.中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形滲出性 紅班は薬物過敏性副作用であると言われている。最近の知 見ではHLA遺伝子多型が示唆される報告もある。 ④胃十二指腸潰瘍は薬物毒性&薬理作用 発売当初胃・十二指腸潰瘍はその他の 副作用に分類されていたが、2011年9月 に出血を伴う胃十二指腸潰瘍として重大 な副作用に記載された。 胃十二指腸潰瘍は長期投与による薬物 毒性だが、“出血を伴う”は薬理作用の血 小板凝集抑制作用の影響である。 Step 3.その他の副作用の気になる点 の検索 1.血液に関する副作用が多く、主に出血傾向であり、薬理作 用によるものである 2.次いで多いのは血球減少であるが、その他の副作用との 位置づけからみて、十分薬剤耐性があるのだろう。 3.肝臓の副作用は代謝負荷であり、比較的軽度である。 4.血清脂質、血糖上昇がみられる。高脂質血症、糖尿病患者 には要観察が必要である。 14 Step 4.最後に広く検証する。 副作用機序別分類をして見えてくること。 1.重大な副作用が多いので“怖い薬”という印象あり。 1)薬理作用による副作用の出血傾向は症状検査で対処。 2)重大な副作用である肝機能障害、黄疸はアレルギー性 の副作用であり2か月以内に発現している。 3)その他の重大な副作用もアレルギー性の副作用であり 6カ月を過ぎるとチェックフリーになる。 2.以上から、プラビックス錠は6ヶ月間の副作用チェックを 終えると出血傾向と出血を伴う胃・十二指腸潰瘍、横紋筋 融解症のチェックのみで済み 比較的副作用管理がし易いく 副作用機序別分類を終えて 気がついたこと 1.出血傾向をもつくすりとの併用には注意が必要だろう。 2.オメプラゾールとの併用は要注意。特にCYP2C19のPoor metabolizer(日本人20%)は代謝が阻害されるプラビッ クスが効き難くなるので要注意。 3.肝機能低下者はプラビックスの代謝が遅れ効き難くなる ものと思われる。 4.横紋筋融解症は機序不明である。投与されている限り 要注意 すりに変わる。 機序別分類を応用して副作用 から患者さんを守りましょう。 15