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食用きのこ栽培のコストダウン 技術に関する調査

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食用きのこ栽培のコストダウン 技術に関する調査
食用きのこ栽培のコストダウン
技術に関する調査
宮
要
(1)
川
昌次郎
旨:昭和 58∼60 年度(一部は 61 年度)にこの調査を実施したところ,次のことが明らかとなった。
シイタケ栽培用塩化ビニールハウスとガラス繊維強化アクリル板使用のハウスとについて,維持
管理および生産される生シイタケの品質等を調査した結果,建築単価は後者が前者の約 10 倍かか
るものの,風雪等の異常気象に強く,耐用年数も長く,維持管理の手間が少なくて済む。また,シ
イタケの品質も優れ,暖房時間も少なくて済む。
(2)
シイタケオオヒロズコガは県内全域で発生しているが,この防除法として処女雌による誘引を試
みた結果,有効と思われる。
(3)
シイタケ接種作業の省力のため,少数深孔接種を試験したところ,シイタケ発生は量的にも質的
にも多数接種と大きな差は認められなかった。
(4)
シイタケほだ木管理省力のため,ほだ木を鉄枠に数本固定して管理したところ,広い平坦地など
動力機械が利用できるところでは有効である。
(5)
1
マツタケ生産のための菌環周辺への散水は有効と思われる。
はじめに
この試験は全国 27 府県が参加し,林業普及情報活動システム化事業として昭和 58 年度から 60 年
度までの 3 カ年間に実施し,また一部は 61 年度に県単試験事業として継続実施したものであり,食
用きのこ栽培のコストダウンにつながる事例の調査および新しい発想に基づく技術開発試験である。
本県では次の 5 項目について調査および試験を実施した。
(1) シイタケハウス管理の省力化
(2) シイタケオオヒロズコガの発生と防除
(3) 種菌接種法改善
(4) ほだ木管理の省力化
(5) マツタケ発生林の土壌水分,地温の調節による安定多収穫技術の検討
−1−
2
調査および試験の内容
(1) シイタケハウス管理の省力化
シイタケ栽培規模の拡大化に伴い,栽培用ハウスが大型化している。
従来パイプフレームに塩化ビニールを被覆した,いわゆるビニールハウス(以下 V ハウスとい
う)が多かったが,最近になって,軽量鉄骨フレームに,ガラス繊維強化アクリル板を使用した大
型ハウス(以下 FRA ハウスという)が使用され始めた。
ガラス繊維強化アクリル板使用の大型ハウス外観
同ハウスの内部
そこでこれら 2 タイプのハウスを管理している徳島市内の専業的シイタケ栽培者の栽培事例を調査
した。
1)
調査事項
各ハウスの中央部 1 列のほだ木から同時期に発生収穫したシイタケの出荷規格別数量と,
暖房時間数,単位面積当たり建築単価,その他参考となる事項について調査した。
2) 調査結果
調査結果の詳細は表 1−1,表 1−2 のとおりであるが,要約すれば次表のとおりになる。
−2−
ほだ木 1 本当たりの収量は V ハウスが FRA ハウスより 40g 多くなっているが,FRA ハウ
スのシイタケは水分の少ない良品質のものが多かった。
本県の生シイタケ出荷規格は,100g ポリ袋包装の場合 2L(4∼6 個),L(7∼9 個),M(10∼13
個),S(14 個以上)であり,大とは,2L より大きいシイタケ 300g を大袋に入れたものである。
調査期間の 12 月から 2 月の生シイタケ平均単価を,出荷規格別に最高値の 2L を 100 とし
た場合,L および大は 88∼90 となる。
この高単価の 2L,L,大の出荷量比は,FRA ハウスでは V ハウスより 6,9%多く,品質
向上と粗収入の増大に役立っている。
次に暖房時間の総数では FRA ハウスが 78 時間少なく,わずかに省エネルギーが図られて
いる。
一方,建築単価は,FRA ハウスが約 10 倍高く,誰もが簡単には建てられないということ
が隘路になっている。
しかし,耐用年数が長く,風雪時に倒壊の恐れがなく,異常気象時にも安心して働けるこ
とや,常にハウス内の湿度が低く,商品価値の高いシイタケが採れること等を考えると,FRA
ハウスは,一時的負担は大きいものの,経済性,堅牢性,維持管理の省力化等のメリットが
大きいことが分かった。
−3−
表−1−1
シイタケ栽培のハウス管理実態調査
−4−
表−1−2
シイタケ栽培のハウス管理実態調査
(2) シイタケオオヒロズコガの発生と防除
この害虫については,昭和 48 年頃から徳島市などの主産地で発生が確認されていたが,最近
になって広く県内全域で発生している。
この幼虫による,ほだ木内菌糸の食害や,シイタケ子実体への穿入など,商品価値の低下が,
心配されたため,発生消長調査と防除方法について検討した。
1)
調査方法
害虫の発生消長および光源別集光性については,センター構内人工ほだ場内に展着剤を入
れた水盤を置き,その上 30cm のところに光源をつけ,水盤に落下した成虫の数を調査した。
また,県内の発生状況についても現地調査を行った。
防除方法は,薬剤防除を行わず,この調査期間中に愛知県が開発した,処女雌による誘引
を試みた。
−5−
2)
調査結果
成虫の集光性については前年予備試験で白色,赤色,青色電球の集光結果から,白色灯(普
通の電球)に最も多く集まる傾向があったため,この試験では白色灯の明るさ別および捕虫用
蛍光灯を使用した。
表−2 のシイタケオオヒロズコガ発生消長調査にみるように成虫発生のピークは,6 月と 9
月の 2 回の傾向が認められ,光源は 10W 白色灯が最も多く集まった。
調査ほだ場は,昭和 56 年に新設されたほだ場で,センター構内以外,周囲数 km の範囲内
にシイタケほだ場はない。
なお,調査ほだ場には昭和 56 年に搬入したほだ木以外,新しいほだ木を補給しなかった
ため,59 年にはほだ木が老朽化したためか,成虫の発生数が激減した。
59 年秋に腐朽廃棄した本数に見合うだけ,新しいほだ木を搬入したところ,60 年には再
び発生頭数が増加した。
61 年も 6 月,7 月は前年より多かったが,8 月以降は大幅に減少した。
表−2 シイタケオオヒロズコガ発生消長調査
−6−
県内でこの害虫の発生が確認された区域は図−1 に示すように,ほぼ全域にわたっている
が,古くからの産地や,風通しの悪いほだ場で多発する傾向が認められた。
図−1 シイタケオオヒロズコガ発生確認地域
図−2 シイタケオオヒロズコガの蛹
−7−
愛知方式の処女雌による誘引は,蛹の雌雄を図−2 によって分け,雌の蛹が羽化した直後にネット
に入れて粘着紙上に置いたところ,表−3 にみるように 1 夜当たり数頭から,最大 60 頭の雄の成虫を
捕殺することができ,誘殺効果が認められた。また,ほだ場で蛹を採集中に,蛹の寄生蜂や寄生蝿お
よび寄生菌で白く硬化した蛹などが観察された。
表−3 シイタケオオヒロズコガ処女雌による誘引試験
(3) 種菌接種法の改善
本県はシイタケ栽培の投資資金を早く回収するため,原木直径センチ数の 6 倍以上も多く接種
する多孔式栽培が広く行われている。ほだ木の使用期間は,生シイタケ地帯では接種後 1 年半か
ら 2 年と非常に短期間になっており,原木の消費が大きい。
多孔式栽培法は資金繰りを楽にする利点がある反面,労力,経費が増高する欠点も併せもち,
生木では菌糸が原木表面だけまん延し内部へ伸びない,いわゆる上ほだ化することもあり,材の
完全利用のためにも見なおしが必要と思われる。
そこで,材内部からのほだ化促進を図るため,接種孔を通常の 2 倍程度に深くし,接種孔数を
極端に減らした,少数深孔接種法を試みた。
1)
試験方法
接種孔の直径 12mm,深さ 4cm で孔数は,小径木 6,中径木 10,大径木 15 とした。
対照木は,孔径 12mm,深さ 2cm,孔数 20 および 40 とした。
2)
試験結果
表−4 にみるように供試木の接種後 120 日目のほだ付き状況は,少数深孔接種区が対照区
より劣っていたが,材内部からのほだ化が進んだのか,少数深孔接種区の方が対照区よりも
早くシイタケが発生した。
シイタケの昭和 61 年 9 月までの収量は,少数深孔接種区では原木 1m3 当たり 12.9kg から,
15.2kg で,対照区を上廻っている。
少数深孔接種も現行一般の方法と大差がないことが分かった。
−8−
表−4 接種作業の省力化試験
(4) ほだ木管理の省力化
生シイタケ栽培では,接種から収穫終了までに,ほだ木を動かす回数が約 20 回になるが,栽
培者はほだ木移動作業の省力のため,浸水から芽出しまでの作業をコンテナに詰め,ホイストク
レーン等の機械を使用して効果を挙げている。今回の試験ではコンテナ扱いを,本伏せから収穫
終了まで延長することとした。
1)
試験方法
接種後の本伏せを鉄格子枠(4 本枠,9 本枠,16 本枠,25 本枠)に固定して管理し,省力化
を図る。
2)
試験結果
天地返しは,鉄枠を 90 度回転することにより可能で,これを 4 回繰り返すと元の位置に
帰る。ほだ木の浸水は,鉄枠のまま水槽まで移動し,そのまま浸水ができる。
構内の人工ほだ場でのほだ木管理は平地であるため作業し易いが,それでも 25 本枠を 4
分の 1 回転させることは相当の重労働となり,傾斜地では作業が実施しにくいものと思われ
る。4 本枠,9 本枠は,1 人でも十分回転移動可能で,この程度の小型の枠なら,実用化でき
るものと考える。
シイタケ採取作業は,井桁積みよりは楽に実行できる。
(5) マツタケ発生林の土壌水分,地温の調節による安定多収穫技術の検討
マツタケは,アカマツ林の枯損面積拡大等により,次第にその発生地が狭められてきており,
発生量も年々減少の傾向にある。
そのため,この試験では,マツタケ発生に最も大きく関与する夏季の雨量を補うため,図−3
に示す位置に散水施設を設置して,その効果を調べた。
−9−
図−3 日開谷県有林内マツタケ試験地
1)
試験方法
日開谷県有林内のマツタケ発生が見込まれる 6 齢級の林分 2,600m2 を試験地に設定し,こ
のうち 1,870m2 を施業地,残る 730m2 を対照地として,未施業のまま残した。
施業地は,アカマツの立木密度を調整すると同時に,下層広葉樹は 1.5∼2m で摘芯し,下
枝を刈り払って傘状に枝を整え,通風を図った。施業地のうち 800m2 は,地表の Ao 層を除
去した。この試験地は水源が遠いので,20m2 のマットを敷いて雨水を 1m3 ポリタンク 2 基に
集め,これを主として 8 月に 2∼3 回,この試験期間中に確認したマツタケ発生地の周辺に
散水した。
7 月から 11 月に,試験地の気温,降水量を測定したほか,施業地,未施業地の地下 10cm
の地温も,隔測温度計によって測定した。
2)
試験結果
気象観測の結果は表−5 のとおりであり,地温は施業地(A)が,未施業地(B)の対照地より
平均して約 2℃高くなっている。つぎに試験地内に設けた定点のきのこの種を調査したが,
種の数も少なく,施業地,未施業地の間に,種の相違はみられなかった。
8 月から 9 月にかけて雨の少ない時期に,1m2 当たり 30∼70mm をマツタケ発生地の周辺
に散水したところ,昭和 59 年に 1 本,昭和 60 年に 3 本,昭和 61 年に 4 本のマツタケが確
認できた。
−10−
表−5 マツタケ試験地気象観測表
〈試験地に発生したきのこ名〉
(7 月)
モリノカレバタケ属,ホウライタケ,スジオチバタケ,キイロイグチ,ベニイ
グチ,チチアワタケ,ニガイグチ,テングタケ,ハツタケ,オオギタケ,チヤハリタケ
(8 月)
キクバナイグチ
(10 月) ヌメリイグチ,ヤマイグチ,テングタケ,クサウラベニタケ,フクロツルタケ,
ムラサキフウセンタケ,トキイロラッパタケ,シロラッパタケ,マツタケ
−11−
3
おわりに
食用きのこ栽培のコストダウン技術は,内容が広範多岐にわたり,本県で現在必要とされる 5 項目
だけを選び,試験を実施した。
短い試験期間だけで結論を出すことは早計に過ぎると思われるので,今後さらに検討を加える必要
がある。
参考文献
1)
加藤龍一:愛知県林業試験場報告
2)
加藤龍一:森林防疫
Vol.35
No.20
No.3,No.4
昭和 59 年
1986 年
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