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2012年 - 理工学術院総合研究所

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2012年 - 理工学術院総合研究所
ASTE Vol.A20 (2012) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
高品質ビームの発生及びその応用研究
研究代表者 鷲尾 方一
(理工学研究所・教授)
1. 研究課題
我々は非常に良く制御された高品質ビーム、ここでは電子ビーム・X 線ビーム・レーザービ
ーム等、を発生し、それを用いることによる応用研究を行っている。これらはエネルギーフロ
ンティアである高エネルギー実験用加速器施設のベースとなる技術であるとともに、非常に高
品質であるが故、様々な応用が可能である。これらのテーマの中から最近大きな成果のあがっ
ているものに関して記載する。
1 つ目の成果報告はフォトカソード高周波電子銃による極短バンチ電子ビーム生成に関する
結果、2 つ目としては、電子線プローブとしての極細電子ビーム生成に関する報告を記載する。
2. 主な研究成果
我々の研究プロジェクトでは喜久井町キャンパスに設置されているフォトカソード高周波電
子銃(RF-Gun)と呼ばれる電子ビーム発生装置が基幹となっている。この装置はすでに世界トッ
プレベルの高品質ビーム生成に成功しているが、より一層の高品質化を応用研究と並行して進
めている。RF-Gun ではレーザーの光を用いて電子を生成する。電子ビームには様々な品質が
あるが、この 2.1 節では時間方向、つまり進行方向の長さを圧縮したビームの生成に関する研
究について、2.2 節では電子ビームの横方向(進行方向と垂直方向)の密度をより高めるために非
常に収束された電子ビームの生成について報告する。走査型電子顕微鏡においても非常に良く
絞られた電子ビームを走査することで高分解能の顕微鏡イメージを得るが、この絞られたビー
ムをレーザー光のプローブとして用いることを考えている。
2.1 極短バンチ電子ビーム生成
バンチ長と呼ばれる電子ビームの進行方向長さは電子ビームを評価する上で非常に重要なパ
ラメータである。特に電子ビームからの放射を得ようとした場合、その光の波長よりもバンチ
長が短い場合には放射の光の位相は同位相で重なりあい、強めあうことで、バンチ内の電子数
倍(109~1010 倍)の放射強度を得ることができる。このような放射光は非常に有用であり、特に
テラヘルツ領域にこのようなコヒーレントな放射を得ることができれば、高強度なテラヘルツ
光源として応用利用が可能である。このような背景の下、昨年度より極短バンチの電子ビーム
を生成できる電子銃の設計を開始した。
以下に我々の設計した極短バンチ生成用電子銃(ECC-RF-Gun)の概念図とその計算結果を示
す。Fig.1 のような形状の電子銃を用い、ECC(Energy Chirp Cell)と呼ばれるセルにおいて線
形にエネルギー差をつけることによってバンチの圧縮が可能な電子ビームが生成できる。
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Fig.1:ECC-RF-Gun の構造
Fig.2:ECC-RF-Gun から得られる電子ビーム(計算)
ECC-RF-Gun から得られるビームを計算機シミュレーションによって確認した結果が Fig.2 で
あり、電子ビームを生成するカソードからの距離が 240cm 程度の時に 100fs を切る電子ビーム
が生成できることがわかっている。
このように設計した電子銃を製作し、試験した。製作した電子銃の外観を Fig.3 に示す。
Fig.3:製作した ECC-RF-Gun の外観
外観としてはあまりこれまでの電子銃空胴と変わらない形状であるが、ECC を付属した形を取
っており、製作後にビームを用いず電気的な性能評価試験を行った結果もほぼ設計値通りの性
能を確認できた。その後喜久井町キャンパスに設置している加速器施設に設置を行い、実際に
電子ビームを生成しての性能評価を行った。1ps を下回るような非常に短いバンチの計測は非
常に困難であるため、まずは電子ビームからの放射を確認することによって極短バンチが得ら
れていることを間接的に評価した。
以下に ECC-RF-Gun から生成された電子ビームから得られた放射光の計測結果を示す。図 4
にそのオシロスコープでの波形を、図 5 に加速位相を変化させた場合の放射光強度を示す。
Fig.4:ECC-RF-Gun から得られる電子ビーム波形(青線)と 0.1THz 光波形(赤線)
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100
30
0.1THz
25
20
60
Charge
15
40
10
20
0
Charge [mV]
0.1THz [mV]
80
5
40
60
80 100 120 140 160 180
RF phase [deg]
0
Fig.5:加速位相と電荷量・THz 光強度の関係
検出器としては 0.1THz の狭帯域検波器を用いることで、0.1THz の放射がどの程度得られてい
るかを計測している。この検波器の感度より、コヒーレントな放射が得られている場合のみ検
出が可能であることはわかっており、信号が得られている時には常に 0.1THz の光がコヒーレ
ントに得られていることを示している。図 4 及び 5 を見てわかるとおり、電子ビームと同期し
た信号が得られており、図 5 の位相に関する強度検出試験においても特にバンチ圧縮が可能な
左部の位相領域においてコヒーレントな放射、つまりはバンチの圧縮が確認できていることが
わかる。0.1THz の放射が得られるということは 1ps 程度のバンチ長が得られていることに相当
する。今後はこの ECC-RF-Gun の詳細計測及び THz 光の応用研究を進めていく予定である。
2.2 極細電子線プローブ生成
本節では電子ビームの進行方向と垂直方向(横方向)のサイズを非常に小さく収束した電子ビ
ーム生成に関して報告する。非常に細く収束した電子ビームを実現することで、コンプトン散
乱による大強度パルスレーザー光の直接プロファイル計測が可能となる。本研究では高品質な
電子ビームはもちろんのこと、非常に重要なコンポーネントとして電子ビーム収束用の磁気レ
ンズが必要である。まずはその設計研究を行った。磁気レンズとしてはソレノイド電磁石によ
る収束を採用し、電子ビームとしては喜久井町キャンパス設置の RF 電子銃を用いてシミュレ
ーションを行った。その結果を図 6・図 7 に示す。図 6 は生成した電子ビームのサイズの変化
を、図 7 は焦点におけるプロファイルを示している。
Beam Size [mm]
5
4
X
Y
3
2
1
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
Position [m]
1
Fig.6:収束電子ビーム生成の計算結果
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Fig.7:焦点における収束電子ビームのプロファイル(計算)
図 6 の 0.7m の位置に設計した磁気レンズを設置しており、それを通過した後、電子ビームが
収束されている様子がわかる。最適化した磁気レンズを用いることで焦点において 10μm を下
回る 9.5μm の電子ビームの生成が確認できた。これは走査型電子顕微鏡に比べるともちろん
大きなサイズではあるが、パルス電子ビームであるため、ピーク電流は A 以上を実現したまま
このような収束サイズが達成されており、これまでにこのような電子ビームが実現している報
告は我々の知るところではない。
このように設計した磁気レンズを製作した。図 8 はその外観写真である。磁極サイズを小さ
くすることで、全体的に小さいながら非常に強い磁場強度を実現しており、強集束が可能であ
る。
Fig.8:製作した磁気ソレノイドレンズの写真
この磁気レンズを用いて、収束した電子ビームのプロファイルを以下の図 9 に示す。
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Fig.9:ガフクロミックフィルムによって計測した収束電子ビームの焦点プロファイル
現時点では 30μm 程度の電子ビームの生成を確認している。計測にはガフクロミックフィルム
を用いた。計測する対象の電子ビームよりも厚い検出素子を用いてしまうとビームサイズが過
大評価されてしまうため、厚さ 6μm のフィルムを用いている。まだ電子ビームパラメータや
磁気レンズの設置精度・磁場強度などに調整の余地が残されており、今後改善してく予定であ
るが、30μm のサイズでも波長 10μm の CO2 レーザーであればプロファイル計測が可能であ
り、十分な成果であると考えている。
3. 共同研究者
篠原 邦夫 (理工学研究所・客員教授)
遠藤 彰 (理工学研究所・客員教授)
坂上 和之 (理工学術院・応用物理科・助教)
4. 研究業績
4.1 学術論文
“1ms Pulse Beam Generation and Acceleration by Photo-cathode RF gun and Super-conducting
Accelerator” Masao Kuriki, Hokuto Iijima, Seiichi Hosoda, Ken Watanabe, Hitoshi Hayano, Junji Urakawa,
Goro Isoyama, Ryuko Kato, Keigo Kawase, Ayaka Kuramoto, Shigeru Kashiwagi, Kazuyuki Sakaue, Jpn. J.
Appl. Phys., in press. (2013)
“Development of a three dimensional four mirror optical cavity for laser-Compton scattering” T. Akagi,
S. Araki, Y. Funahashi, Y. Honda, H. Kataoka, T. Kon, S. Miyoshi, T. Okugi, T. Omori, K. Sakaue, H.
Shimizu, T. Takahashi, R. Tanaka, N. Terunuma, J. Urakawa, M. Washio, H. Yoshitama, Nucl. Instrum. Meth.
A, in press. (2013)
“Construction of nanosecond and picosecond pulse radiolysis system with supercontinuum probe”, Yuji
Hosaka, Ryosuke Betto, Kazuyuki Sakaue, Ryunosuke Kuroda, Shigeru Kashiwagi, Kiminori Ushida,
Masakazu Washio, Radi. Phys. Chem., 84, (2013)pp. 10-13.
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”Design of high brightness laser-Compton source for EUV and soft X-ray wavelengths” Kazuyuki
Sakaue, Akira Endo, Masakazu Washio, SPIE Journal of Micro/Nanolithography, MEMS, and MOEMS
(JM3) 11(2), (2012)021124-1-7.
“First refraction contrast imaging via Laser-Compton Scattering X-ray at KEK”, K. Sakaue, T. Aoki, M.
Washio, S. Araki, M. Fukuda, N. Terunuma, J. Urakawa, AIP Conf. Proc. 1466, (2012)pp. 272-277.
「KEK におけるレーザーコンプトン散乱を用いた小型 X 線源の開発の現状とアップグレード計画」
日本加速器学会誌 第 9 巻 3 号 2012 年 福田将史、Alexander Aryshev、荒木栄、本田洋介、坂上
和之、照沼信浩、浦川順治、鷲尾方一
「L-band 常伝導 RF 電子銃による 1ms パルス長電子ビームの生成」日本加速器学会誌 第 9 巻 2 号
2012 年 渡邊謙、早野仁司、浦川順治、松本利広、福田将史、栗木雅夫、飯島北斗、坂上和之、倉
本綾佳、Mathieu Omet
4.2 総説・著書
なし
4.3 招待講演
なし
4.4 受賞・表彰
Kazuyuki Sakaue, 第 9 回日本加速器学会 Poster Award “極短バンチ生成用光陰極高周波電子銃開発
(Development of photocathode rf electron gun for ultra
ultra--short bunch generation)
generation)”
4.5 学会及び社会的活動
該当なし
5. 研究活動の課題と展望
本研究での基幹である高品質電子ビーム生成をさらに促進する。特に進行方向・横方向両面
の電子密度を向上させる研究に関して注力する予定である。今回の報告ですでに THz 光の生成
を確認しており、これは十分に応用研究が可能なレベルである。すでに THz 光の水への吸収さ
れやすさを用いた応用を始めており、今後実用レベルに昇華していく。また、横方向収束に関
しても非常に細く絞られた電子ビームが確認されており、より研究を進めていくとともにレー
ザープロファイル計測、DTEM(Dynamic Transmission Electron Microscope)への応用など検
討していく予定である。
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