...

エジプト、ルクソール地区およびサッカラ地区の文化遺産の 保存修復

by user

on
Category: Documents
19

views

Report

Comments

Transcript

エジプト、ルクソール地区およびサッカラ地区の文化遺産の 保存修復
ASTE Vol.A19 (2010) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
エジプト、ルクソール地区およびサッカラ地区の文化遺産の
保存修復技術と活用に関する研究
研究代表者 近藤 二郎
(文学学術院 教授)
1.研究課題
研究代表者が所長を務める早稲田大学エジプト学研究所が中心となって調査を継続しているル
クソール地区およびサッカラ地区の遺跡の保存および修復のための技術の研究とその実践、そして
調査後の保存整備計画の策定を行うことを目的とする。
2.主な研究成果
2.1
王家の谷・西谷アメンヘテプ 3 世王墓調査
早稲田大学エジプト学研究所は、王家の谷・西谷でアメンヘテプ 3 世王墓、王墓の約 60m南に
位置する岩窟遺構(KV A)、およびその間の区域において 1989 年より調査を継続している。2000
年まで 15 回にわたる考古学的調査に引き続き、2001 年からはユネスコ世界文化遺産日本信託基金
の助成を受けて、エジプト政府最高評議会(SCA)と共同でアメンヘテプ 3 世王墓の修復に取り組ん
でいる。2006 年からは、これまでの調査で出土した遺物の詳細な記録と、修復が進んだ壁面の記
録調査を行っている。
出土遺物の記録については河合が担当し、土器の資料整理は高橋が担当した。埋葬時の副葬品の
組成をうかがい知る情報を入手することができた。アメンヘテプ 3 世王墓の内部では、埋葬室の壁
面に描かれている冥界文書「アムドゥアト書」の史料化に向けた現地調査が 4 期目を迎えた。これ
まで撮影用ライトで壁画を照らす方法を取ったが、今年度はストロボ光をアンブレラに照射し、壁
面に均等な光が拡散されるような改良を加えた。またデジタル画像の接合精度を高めるため、壁面
を同一地点から 2 度撮影することとした。このうち 2 度目の撮影では、画像の接合において基準点
となるレーザー・ホインターで示したドットを壁面に照射した状態で行い、さらにその測量を実施
した。これらの改良によって、「アムドゥアト書」を高精細の画像として史料化するための撮影方
法は完成したといってよい。今期は、このような方法で埋葬室の西壁、東壁、および南壁の一部を
撮影し、「アムドゥアト書」の史料化に用いる画像データを得ることができた。
以上の作業と並行して、ユネスコと共同で実施する予定のアメンヘテプ 3 世王墓壁画保存修復プ
ロジェクトの計画についての検討をおこなった。
1/3
ASTE Vol.A19 (2010) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
Fig.1 アメンヘテプ 3 世王墓のアムドゥアト書の壁画
2.2
ルクソール西岸・アル=コーカ地区調査
2007 年 12 月に開始されたアル=コーカ地区の調査は、新王国時代第 18 王朝アメンヘテプ 3 世
治世のウセルハト墓(第 47 号墓)の再発見と調査を目指した 4 年目の調査である。現在、第 47 号
墓は厚い堆積に覆われているが、第 4 次調査では前室奥壁の北側部分の天井崩落部分の砂礫の除去
作業を実施し、前室および奥室部分の天井がどのような状態で残存していくのかを確かめる作業を
実施した。これは来期以降、どのように第 47 号墓内部の調査を実施していくかの計画を立案する
ための作業である。発掘後に内部の観察を行い、天井の崩落の状況などを確認することができた。
更に、部分的ではあるが墓の前室および奥室の記録作業も行うことができた。また、第 47 号墓の
砂礫の除去作業によって、これまで不明であった墓の前庭部の南西コーナーが発見され、前庭部の
南北方向の長さが 12.5mとハワード・カーターが報告している 13mと近似した値であることが判
明した。これらの発掘調査の過程では、第 47 号墓の被葬者であるウセルハトの葬送用コーンなど
が発見された。
その他、第 47 号墓の周辺に位置する第 174 号墓、第-330-号墓でもこれまでの調査に引き続
き、碑文記録、測量、保存修復などの作業を実施した。加えて、第 174 号墓では、今後の作業に備
えて、内部床面の堆積砂礫を除去する作業を実施し、前室と奥室の 2 か所にシャフトを確認するこ
とができた。
Fig.2 第 47 号墓周辺地図
Fig.3 第 47 号墓遠景
2/3
ASTE Vol.A19 (2010) : Annual Report of RISE, Waseda Univ.
3.共同研究者
吉村作治(理工学術院・客員教授)
中川武(理工学術院・教授)
青木繁夫(サイバー大学・教授)
菊地敬夫(サイバー大学・准教授)
柏木裕之(サイバー大学・准教授)
河合望(理工学術院・客員准教授)
西坂朗子(サイバー大学・助教)
高橋寿光(総合研究機構・研究助手)
4.研究業績
4.1 学術論文・報告
近藤二郎、吉村作治、菊地敬夫、柏木裕之、河合望、西坂朗子、高橋寿光「第 3 次ルクソール西岸
アル=コーカ地区調査概報」『エジプト学研究』第 17 号、p. 45-63、2011 年.
4.2
学会発表
近藤二郎、
「エジプト新王国第 18 王朝アメンヘテプ 3 世時代の岩窟墓について」
『日本オリエント
学会第 52 回大会』2010 年 11 月 7 日.
近藤二郎、菊地敬夫、柏木裕之、河合望、西坂朗子、高橋寿光、
「テーベ西岸岩窟墓第 47 号(TT.47)
の調査」『日本オリエント学会第 52 回大会』2010 年 11 月 7 日.
菊地敬夫、「アメンへテプ 3 世王墓のアムドゥアト書について~王墓埋葬室の装飾としての視点か
ら~」『日本オリエント学会第 52 回大会』2010 年 11 月 7 日.
菊地敬夫、犬井正男、佐藤真知子、吉村作治、
「アメンへテプ 3 世王墓の埋葬室に描かれた壁画の
史料化に向けたデジタル画像化」『日本オリエント学会第 52 回大会』2010 年 11 月 7 日.
5.研究活動の課題と展望
アメンヘテプ 3 世王墓の埋葬室のデジタル記録作業は、北壁および南壁が課題として残されてい
る。今年度の調査における問題点を解決し、より精度の高い史料化を推進していきたい。また、2011
年度秋より本格的な壁画の保存修復作業を開始する予定であり、本研究における課題である保存修
復技術の研究が実践されることになろう。アル=コーカ地区における貴族墓の調査に関しては、調
査の主な対象である第 47 号墓の内部の状況がほぼ確認されたことを受けて、今後は墓の保護およ
び修復の方法を検討する必要があろう。
3/3
Fly UP