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中国山東省における日系小売業の人材マネジメント――青島イオンの

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中国山東省における日系小売業の人材マネジメント――青島イオンの
中国山東省における日系小売業の人材マネジメント――青島イオンの分析
論文要旨
周 佳
消費市場の存在感が高まるアジアでは、外資系小売業の進出が急速に増えている。特に
中国においては、消費市場の拡大につれ、2008 年以降、沿海部に加えて内陸部への展開が
加速しており、日本小売業も積極的に出している。
小売業は典型的な労働集約産業である。中国すべての産業において、小売業の人材流動
性が一番高い。「採用できない」、「退職してしまう」などいろいろな事態が起こっている。
また、労使紛争が多く、賃金に不満でストライキを行う事件も頻発している。2012 年 7 月、
ウォルマート(中国)投資有限公司深圳配送センターで昇給を求めて、ストライキが起こっ
た。2012 年 9 月、現地で発生したデモにより青島イオン「ジャスコ黄島店」が被害を受け
た。
今まで小売業の人材マネジメントの研究はウォルマートなどの欧米企業を対象として行
なわれてきた。ウォルマートは従業員を尊重することを原則として確立し、コミュニケー
ション手段を提供、従業員の権利を保護することができ、生産性も引き上げた。日系小売
業中国への出店は他の外資小売業より遅くはなかったが、発展は遅れている。これは、日
系企業の海外進出方針が、一つの店舗が利益を出すまで次の出店をしないというもの であ
ったためである。また、イオンは他国の外資小売業と違って、不動産賃借ではなく、基本
的に店舗の所有を方針としており。これも進出が遅くなる原因と考えられる。
中智調査によれば、中高管理者と専門者の人材供給は需要を下回り、ブルーカラーとサ
ービス業従業員の供給も需要を下回り、特に小売業では人材不足の現状が続いている。だ
が、大学生とホワイトカラーは供給超過である。全産業では 31%の新卒者は一年以内に離
職し、小売業の離職率は最も高い。20%前後の人材流失率は一般的であるが、昇給が遅い
外資小売業で 50%となることもある。人材流動性を低い水準に維持し、新卒人材を定着さ
せることが小売業の一番大事な課題と考える。
本論文では、事例として山東省における日系小売業の人材マネジメントを現地調査によ
り分析した上で、日系小売業が山東省だけでなく全国へ進出し、長期的な発展を実現する
ために、どのような人材管理が必要かを明らかにしていく。
本論文は 6 章から構成されている。第1章は、山東省における外資小売業の現状を明ら
かにする。2012 年外資小売業新店の数は前年より 27%減少した。日系小売業の発展も順調
ではなかった。不調の主要原因はコストの上昇である。コストの上昇は第一に人件費であ
る。第二のコストの上昇は貸し賃である。コスト以外にオンラインショッピングの発展も
影響している。また大都市を中心に発展している外資小売業にとって、国内小売業との激
しい競争と中小都市消費市場の形成はもう一つの原因である。 イ オ ン は 日 系 小 売 業 の 代
表 と し て 、87 年 香 港 を は じ め 、中 国 市 場 へ 進 出 し 始 ま っ た 。96 年 に 山 東 省 へ 進 出 し た 。
山東省は中国最大の農林畜漁業生産地域である。インフラは大変良い、日本語学科を設置
する大学も多い、対日感情も非常に良い。日本から技術者を招いて研修を行ったり、技術・
製造部門で優秀な人材を日本に派遣する企業もある。又、山東省の場合、労働者は比較的
定着度がよい。青島永旺東泰商業株式会社は、日本最大の小売業者であるイオン株式会社
と青島市購買販売協同組合資産オペレーションセンターの共同出資によって設立され、国
家国務院が承認した大規模な商業小売パイロット企業である。現在山東省内で9店舗を保
有している。また調査の概要を述べる。
第 2 章は、青島イオン人事制度を明らかにする。イオンではグローバル化や少子高齢化
などに伴い、イオンの従業員の多様な「働き方」に応えることを基本としている。「国籍・
年齢・性別・従業員区分を排し、能力と成果に貫かれた人事」と「継続成長する人材が長
期にわたり働き続ける企業環境の創造」という 2 つの方針に基づいた人事制度を設けてい
る。日本本社と青島イオンの資格等級の数が違う。一つの理由は本社の規模が大きいため
と考えられる。もう一つの理由は、青島イオンの場合、J 職に対して M 職が相対的に多い
ことが考えられる。青島イオンの社員を評価する目的はイオンの経営方針を意識させるこ
と、社員の能力を伸ばす、育成することである。青島イオンの人事考課は年に 1-6 月と 7-12
月二回行っている。現在採用している評価制度は KPI(Key Performance Indicator),つ
まり重要業績評価指標である。青島イオンの人事制度の特徴は、年功序列より個人の能力
や業績を優先する昇進評価である。青島イオンには年 2 回昇進チャンスがある。一回目は
毎年春に社内テストを行い、テストの結果を根拠として、出勤率と人事考課の結果を考え
昇進昇給を行う。二回目は毎年秋(10 月頃)、欠員状況により、上司の推薦で、社内面接
を受けて昇進を行う。人事考課の結果を根拠に、昇進昇格を行って、昇給を決める。青島
イオンでは外部登用と内部昇進を併用している。
第 3 章は、賃金制度と労働時間を説明する。青 島 イ オ ン 一 般 従 業 員 の 雇 用 形 態 は 、 正
社 員 、非 全 日 制 従 業 員 、実 習 生 、兼 職 生 四 つ に 区 分 さ れ て い る 。中国では、企業は国と
省が決めった社会平均給料を参考に、自社の賃金を決める。青島イオンは構成賃金制度を
採用している。給料計算公式は、基本給+資格給+能力給+特殊職手当である。基本給は山
東省の最低賃金よりやや高く、能力給は面接と人事考課の結果で決まり、特殊職手当は特
定職位に限定している。中国は「労働法」(1995 年 1 月 1 日施行)及び「従業員の労働時
間に関する規定」(1995 年 5 月 1 日施行)に基づき、1995 年 5 月 1 日から労働者の労働時
間を 1 日 8 時間、週 40 時間とする標準労働時間制を実施している。青島イオンの労働時間
は法律に従って、年間で 2000 時間、月 166.7 時間と決められている。毎月の最低休暇日数
は 6 日と明示している。そのため、青島イオンは残業なしで、時間内で効率的に仕事を終
わらせることを提唱している。
第 4 章は、現行の福利厚生制度を明確にする。現在山東省内多くの会社は五険一金(養
老保険,医療保険,失業保険,労働災害保険,生育保険と住宅公積金)を実施している。少数
の会社は三険一金にとどまっている。青島イオンの場合は、正式的に労働契約し、五険一
金を採用している。有給休暇制度は日本本社と違って、入社一年後、 1 年ごとに毎年一定
の日数が与えられる。だが、有給休暇は正社員にしか与えられない。 生活や家庭に密着す
る小売業であるイオンにとって、女性の視点は不可欠であるとの考えから、女性の雇用・
登用を積極的に推進している。中国女性は結婚・出産後も仕事を続けるのが普通であり、
労働時間も男性とあまり変わらない。女性が活躍している青島イオンは人材を確保するた
め、女性従業員に対する法律を厳しく実行しなければならない。 青島イオンはまだ若い企
業(1996 年~)であり、定年退職者はわずかしかない。早期退職金制度については、まだ
導入されていない。
第5章は、教育訓練制度を検討する。小売業従業員の流動性が非常に高いが、永旺(中国)
従業員の流動性は相対的安定している。イオンは多様な人材育成システムを通じて、人材
を育成することに努めている。青島イオンによる訓練は仕事に就きながらの訓練であるOJT
と仕事を離れての訓練であるOff-JTに大別される。入社後にスタートする基礎研修では、
全ての新人が十分にイオンの企業理念を理解した上で、仕事の基本技能を習得できる。ま
た“イオン中国商学院”では、社員に専門知識を習得できる環境を提供している。“イオ
ン清華学院”は、将来の幹部を育成するプロジェクトである 。また、2013年よりイオン中
国から優秀な人材を日本に派遣する2年間の研修プロジェクトを始める。従業員は自己学習
を通じて、最終学歴を更新する。
第 6 章は、結論として日系小売業人材マネジメントの課題である、人材を定着させる方
法を考える。
《2010-2011 年小売業人的資源管理藍皮書》は人材不足の原因を指摘した。小
売業の発展は速く、大量の人材がいるが、大学で育成した大学生たちは実践能力を全く持
っていない。また小売業の仕事は大変であり、待遇も相対的に低い。 青島イオンは人材流
動性を相対的に低い水準に維持するために、人事制度、賃金制度、福利厚生、教育訓練制
度に独自の工夫を行ってきた。青島イオンおよび日系小売業の人材マネジメントの改善方
法の1つは、昇進を早めて定着させることである。中国の労働市場は転職しやすく、再就
職しやすい環境にある、他社からの引き抜きの現象もよくある。この現象を防ぐため、従
業員、特に管理者を目指す大卒に対して昇進昇給を早めて定着を図る事が必要である。 も
う1つは、教育訓練の充実である。企業と大学の連携を深め、専門的な大学生を教育訓練
する必要がある。従業員の確保のために、特定の専門学校との人材あっせん契約を締結し
たり、人材紹介会社を活用したりする必要がある。 また、企業文化を浸透させ、若年意識
を変えることを考える。
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