齋藤 悟 - 電気通信大学

業務報告
旋盤に依る，ねじ棒の加工
22014 年度ものつくりセンター機械設計工作部門・黄銅のねじ
2.
切り
被削材の黄銅は，規格番号 C3604 番で快削黄銅二種とも
いい切削性に優れた材質です．φ35mm の丸棒から，図 1 に
示す図面をもとに，写真 1 の様にねじ棒を 8 本製作した．
悟
（学術技師）
satoru SAITOU †a)
†
4
3
旋盤加工に於ける黄銅（ 真鍮）の小径長尺ねじの 加
C0
12
M8
.5
工例を報告する．
キーワード 黄銅，ねじの呼び名，ハーフナット
1. まえがき
10.5
あらまし
102
Design
φ29
ものつくりセンター・機械設計工作部門
Manufacturing & Design Center for Education and Research, Machine
Devision.
a) E-mail: [email protected] 東４号館 219 室，内線 5441
107
M12×1
齋藤
†a)
図１.図面
JIS 規格に於ける黄銅は合金番号 C0000 の記号で表され，
展延性・深絞り加工性に優れ，めっき性がよいとされている．
ま た， 機械 加工 は比 較的 に容易 であ り， 耐食 性に 優れた
も のや強 度の高 いもの もある． 用途も 幅広く 自動車 用ラジ
エーター，カメラ，まほう瓶，光学機器や精密機器などで多
用されている．
表 1．JIS 規格に於ける黄銅の一覧
合金番号
C2600
名称
黄銅
展延性・深絞り加工性・めっき
性がよい．スナップボタン，カ
メラ，まほう瓶，自動車のラジ
エータ，配線器具など．
C2680
快削黄銅
展延性・絞り加工性がよい．浅
絞り用など．
強度が高く，展延性がある．打
ち抜いたまま又は折り曲げて使
用する配線器具部品，ネームプ
レート，計器板など．
特に被削性に優れ，打抜性もよ
い．
時計部品，歯車，製紙用スク
リーンなど．
特に打抜性に優れ，被削性もよ
い．
時計部品，歯車など
すず入り
黄銅
対応力腐食割れ性，耐摩耗性，
ばね性がよい．
アドミラ
ルティ黄
銅
耐食性，特に耐海水性がよい．
厚物は熱交換器用管板，薄物は
熱交換器，ガス配管用溶接管な
ど．
C2720
C2801
C3560
C3561
C3710
C3713
C4250
C4430
参考
展延性・深絞り加工性に優れ，
めっき性がよい．自動車のラジ
エータなど
耐食性，特に耐海水性がよい．
厚物は熱交換器用管板，薄物は
船舶海水取り入れ口用」など
C4640
（C4621 はロイド船級用，NK 船
級用，C4640 は AB 船級用）．
1.1.
注：C0000P の様に記号番号の後ろにアルファベット
記号が付く場合は形状を表します．
C4621
ネーバル
黄銅
写真１.製品と既存部品（中央）
2.1.
メートル並目ねじの表わしかたと基準山形及び公式
JIS 規格に於けるメートルねじの呼び名は，M○○×P○○
エム
の様に表す．M ○○は，おねじの外径 D を mm 単位で示し，
P○○は，ねじの一山と一山の間隔をピッチ（ピーとも言う）
と呼び mm 単位で示す．
例，M16×P2
製図では M16×2 の様に P を省く．
また，メートル並目ねじでは，×P2 も省き M16 と表す．
基準山形，基準寸法の公式は理論式であり，この数式か
ら求めた数字でおねじとめねじを作っても隙間が 0 なので噛
み合わない．実際にねじを切るときには，ねじのはめあい区
分，等級，許容限界寸法及び公差を用いて計算された数字を
使う．現場作業においては，計算表などを用いておねじの外
径と谷の径，めねじの内径 (下穴径)と谷の径を判断し，切り
込み深さとし，噛み合うまで山の幅を削る．文面上基準山形
及び公式などは割愛する．
2.2.
おねじの外径削り
旋盤で円筒削りを行う際は，被削材の材質と外径，刃物
の材質と形状，チャックの保持力などを考慮し切削条件を決
める． また，荒削りか仕上げ削りかで主軸回転速度 rpm，
刃物の切り込み量，送り量などを変える．機種にもよるが，
縦送りの自動送り量は主軸一回転につき 0.02～0.7mm 往復台
が移動する量であり，送り量が小さければ切削表面粗さが細
になる．主軸回転速度が遅い場合は，往復台の移動速度もつ
られて遅くなる．時間効率を考えると刃物と切削速度の選定
が非常に重要になる． 始めに写真 2 の様に，片刃バイトで
M8 長さ 15mm の 部 分 をおね じ の外 径を P/10 小さ い≒φ
7.85mm に仕上げ，C1.5 で面取りを施す．
C
教育研究技師部 20XX 年度業務報告書 No. 1 ○
国立大学法人電気通信大学教育研究技師部
1
教育研究技師部 20XX 年度業務報告書
この時に M12 の部分も外径を 0.5mm 削り代を残し，長さ
5mm 程度の段付きにする．これは，ねじ切りバイトが工作
物と回転センタに干渉しないようにする為である． ( 図 ４ ―
①参照)
写真２. M12 の部分の外径削り
No. 1
2.4. M8×1.25 のおねじを切る
旋盤のねじピッチ表から P1.25 になる歯車設定にし，おね
じの外径φ7.85mm にバイトの刃先を合わる．写真 2-①の様
に切り初めの位置まで往復台を動かし，横送りハンドルの目
盛を 0 に合わせる．
ねじ部の長さが短いので，ハーフナットを外さない方法で
ねじ切りをする．
1 回目 は軽 く線が 引け る程度 にね じ切り を行 い，ピ ッ チ
ゲージでねじピッチを確認する．
バイトの最終切り込み深さは凡そ P/2≒0.65～0.7mm とす
る．
2.3. 旋盤の親ねじとハーフナット
図２．ねじ切りバイトの切り込み方
写真３．往復台及び，親ねじとハーフナット
写真 3 に示す様に，旋盤には「親ねじ」と呼ばれるねじ棒
と「ハーフナット」と呼ばれる親ねじに噛み合うナットを半
分にした物が往復台の内側に施されてある．ハーフナットは
それぞれ上下に動き，ハーフナット掛け外しレバーの操作で
親ねじと噛み合わせることで，往復台が移動して任意のピッ
チでねじ切りができる．
親ねじのピッチが 6mm であるならば，親ねじが１回転す
る間に主軸が３回転する歯車の組み合わせにする事で，工作
物の外径に関係なくピッチ 2mm のねじ切りが可能になる．
親ねじのピッチに対して工作物のピッチが公約数であるな
らば，往復台の位置に関係なくハーフナットを噛み合わせれ
ば，必ず同じ谷にバイトが入る．それ以外のピッチの場合は，
ねじ切りダイヤルで親ねじの回転位置のタイミングを合わせ
る必要があり，時間効率が悪くなる．
ねじ長さが短い場合や回転速度が速い場合は，ハーフナッ
トを一度噛み合わせたなら，任意の位置までバイトを進め，
ブレーキを軽く踏みモーターの電源を切り，惰性で目標の位
置までバイトを進め，その時点で横送りハンドルを手前に引
いてブレーキを深く踏み込み，バイトが加工物に当たる手前
で止める．次に，起動スイッチを逆転に入れ，切初めの位置
まで戻し，ブレーキを踏み停止させる．これを繰り返した方
が時間効率は良くなる．インチねじなどの場合も同様である．
2
ねじ切りバイトでねじを切る際の重要なポイントはバイト
の切り込み方である．図 2 に示すバイトの切り込み方を斜進
法と言い，図 2-①に示す様に，1 回目は必然的にねじ切りバ
イトの刃先の両側で切削することになる (黒の太線)．しかし，
図 2-②に示す様に，2 回目から切り込み深さ 0.7mm までは，
横送りの切り込み 1 に対して刃物台の切り込みを 1/2 切り込
む．これにより，バイトの刃先の片側で削ることになり，切
削抵抗を低減させ切削性を向上させる事ができる．
この他に左右に振り分ける方法もあり，ねじ切りの一般常
識となっている．
切り込み深さまで切り終わったら，図 2-⑤に示す様に，反
対の山を仕上げる．ここまで終わったら，図 3-④に示す様に，
現物のめねじと噛み合わせてみる．
噛み合わない時は，図 2-⑥に示す様に，左右どちらかの山
の幅を削る．1 回につき切り込み深さは変えないで刃物台を
0.05mm 切り込んで削る．
めねじが噛み合ったら，図 3-⑤に示す様に、センタドリル
でセンタ穴を開ける．
図 3-⑥に示す様に、加工物を切り落としまで加工できる最
短の長さで咥えなおし，M12×１の外径に仕上げる．
図 3-⑦に示す様に，M12×１のねじ切りを，M8 のねじと
同様の手順で現物のめねじと噛みまで切削する．
ねじ切りが終わったら残りの部分の加工を施し，突っ切り
バイトで切り落とし，ねじを傷めないように咥えなおして，
端面仕上げを施す．
図３．ねじ切りの工程
3.
むすび
この度，一般的な黄銅のねじ棒の作製を取り上げたのは，技
術継承を文面で残す為である．また，機械工作初級者などが
見ても解る様に簡単な方法を取り上げました．
文献
[1] JIS
ハンドブック
[2] 監 修 者
本田巨範
東京都
1982,4,15
ねじ
1996.
旋盤マニュアル
工具・加工編
大河出版