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Co を添加した繊維状(Nd,Sm,Gd)-Ba-Cu-O の超
Co を添加した繊維状(Nd,Sm,Gd)-Ba-Cu-O の超伝導特性 池邉 由美子 坂 えり子 Superconducting properties of (Nd,Sm,Gd)-Ba-Cu-O filaments doped with Cobalt Yumiko IKEBE,Eriko BAN Abstract Filamentary (Nd0.33Sm0.33Gd0.33)1.18Ba2.12Cu3.09Oy (NSG123) precursors doped with 0.05at%Co were fabricated by a solution spinning method. Samples were OCMG processed at partial melting temperature of 1050 °C in 0.1%O2+Ar atmosphere gas and then cooled at various rate from 1050 to 910 °C. We have examined effects of Co doping and cooling condition on microstructure and superconducting properties of filamentary samples. The Co doped sample showed dense microstructure without pores. Although pure NSG123 filamentary samples cooled at 20-50 °C/h showed high Jc value of around 2×104 A/cm2 at 77 K and 0 T, the sample treated at fast cooling of 60 °C/h exhibited the Jc value of 3.0×103 A/cm2 at most. On the contrary, filamentary NSG123 superconductor with Co rapidly cooled showed high Jc value of 2.0×104 A/cm2. It was confirmed that Co doping was extremely effective in enhancement of Jc value and connectivity in microstructure for filamentary NSG123 sample heat-treated at fast cooling. Furthermore, we have also studied the field dependence of transport Jc at temperature ranging from 77 to 90 K for filamentary samples. The sample with Co cooled at 60 °C/h maintained high Jc value of 4.5×103 A/cm2 up to 17 T at 77 K. 1. はじめに 高温酸化物超伝導体の実用化には高い臨界電流密度 される.しかしながら,金属不純物の添加方法はほとん (Jc) が求められ,Jc 値を向上させるための試みが数多く どが固相の微粒子を添加するもので,添加物の分散性に なされてきた.なかでもナノメートルサイズのピニング 問題がある.それに対して,本研究で用いた溶液紡糸法 センターを人工的に導入することはJc 値向上に有効であ は化学的な溶液から出発するため,原子レベルでのピニ り,特に,金属不純物の添加効果については多くの報告 ングセンターを一様に微細分散させることが可能である. がなされている 1-2) .ピニングセンターを有効に作用させ 本報告では,溶液紡糸法により Co を微量添加した繊 るためには,添加する金属不純物の種類,添加量および 維状(Nd,Sm,Gd)123 超伝導体を作製し,Co 添加が試料の 添加物粒子の分散性,さらにはその挙動を知ることが重 超伝導特性に及ぼす影響を調べることを目的としている. 要であり, 最近の報告では, 添加する金属の種類により, ピン止めの働きが異なることも明らかになってきた.た とえば,Zn や Ni などは Cu と置換し,クーパー対を壊 2. 実験方法 すことで Tc 値が局所的に低くなり,その領域がピニング 3-4) .また,Zr や Sn などは BaZrO3 や 前駆体繊維試料は溶液紡糸法を用いて作製された. Nd, BaSnO3 などの化合物を生成し,これらがピニングセンタ Sm, Gd, Ba および Cu のモル比が(Nd0.33Sm0.33Gd0.33) : Ba : センターとなる 5) ーとなることで Jc 値が向上する .さらに,Pt や Sn はピ Cu = 1.18 : 2.12 : 3.09,また,Co の添加量が 0.05 at%とな ニングセンターとなるだけでなく,高温からの冷却時に るよう,それぞれの金属酢酸塩を秤量し,蒸留水に溶解 希土類元素などの拡散係数を向上させる効果もあるため させる.この水溶液に 2-ヒドロキシイソ酪酸,プロピオ 6-7) ,これらの金属を添加した超伝導体では包晶反応が進 ン酸および 7 wt% PVA(ポリビニルアルコール)水溶液 み,良好な超伝導相の結晶成長が促進されることが期待 を均一に混合させた後,エバポレータでの濃縮と粘度調 材料機能工学科 Department of Materials Science and Engineering 21 Co を添加した繊維状 (Nd,Sm,Gd)-Ba-Cu-O の超伝導特性 整を行い,紡糸ドープを作製する.これを乾式紡糸し, 名城大学理工学部研究報告 No.50 2010 (a) 前駆体繊維試料とした. A 紡糸後の前駆体試料は 100%O2 雰囲気ガス中で 950 °C, 15 分のパイロリシスの後,酸素濃度を厳密に制御した 0.1%O2+Ar 雰囲気ガス中で1050 °C, 30 分の部分溶融熱処 理を行い,引き続き,910 °C まで系統的に冷却速度を変 えて部分溶融凝固処理を行った.その後,100%O2 ガス (b) C 中で500 °C, 5 h および340 °C, 10 h の2 段階酸素アニール を行い,評価試料とした. 熱処理後の試料には,接触抵抗を軽減させるため,試 B 料表面の端子部分に Ag 蒸着を行った後, 電流端子に Φ = 100 μm,電圧端子に Φ = 75 μm の Ag 線を Ag ペーストで 接着し,直流 4 端子法で臨界電流(Ic)および Tc を測定 した.また,磁場中での Ic 測定を行うために,エポキシ 樹脂を用いて試料を基板上に固定し,測定温度 77-90 K まで温度を系統的に変化させてJc の磁場依存性について も評価した.さらに,XRD, SEM および EDXA を用いて 結晶相の同定,微細構造の観察および分析を行った. 3. Fig. 2 SEM photographs of fracture and polished surface on the longitudinal cross-section for (a) pure NSG123 sample and (b) Co doped sample. 超伝導体の実用化や,作製コストの削減を考えた場合, 短時間焼成下においても高いJc 値を得られることが望ま れる.本研究で高い Jc 値を得ることができなかった 60 °C/h 試料でもピニングセンターを導入することによ 実験結果と考察 り高いJc 値と良好な結晶性が得られることが期待できる. 繊維状超伝導体のJc 値および微細構造に影響を及ぼす 因子はいくつかあるが,はじめに,繊維状 NSG123 無添 加試料の部分溶融温度からの冷却速度と Jc(77 K, 0 T) の関係を検討した.その結果を Fig. 1 に示す.10-50 °C/h で冷却したいずれの試料も 104 A/cm2 を上回る Jc 値を示 し,20-40 °C/h で冷却した試料では 2.0×104 A/cm2 以上の 高い Jc 値が得られる.そのなかでも,40 °C/h 試料は最も 高い値 3.0×104 A/cm2 を示している.一方,冷却速度の速 い 60 °C/h 試料では 3.0×103 A/cm2 程度の Jc 値に留まって おり,この結果から,繊維状 NSG123 超伝導体の Jc 値は 部分溶融熱処理時の冷却速度に大きく依存することがわ NSG123 試料を作製し,60 °C/h の冷却速度で熱処理した 場合の超伝導特性を評価した. はじめに, 繊維状 NSG123 および Co を 0.05 at%添加し た NSG123 試料の微細構造を調べた.Fig. 2 は両試料の SEM 写真であり,それぞれ (a) NSG123, (b) NSG123+0.05 at%Co 試料を示している. 左列の破断面 SEM 写真より, 無添加試料では試料内に微細な空隙が生成されており, 結晶粒子は大きく成長しておらず,結晶相の結合性に乏 しい様子が観察される.それに比較して,Co 添加試料で は緻密な結晶相が生成されており,無添加試料に比べて 結合性が向上していることが確認される.また,右列の かる. 縦断面 SEM 写真で観察されるコントラストの明るい粒 3.5 J c at 77 K (×10 4 A /cm 2 ) そこで,これ以降は Co を 0.05 at%添加した繊維状 子 A および B は NSG211 相であり,無添加試料では 1-3 3.0 μm の大きさの異なる NSG211 相が生成されているが, 2.5 Co を添加すると NSG211 相が微細化すると同時に,0.5 2.0 μm 程度の極めて微細な CuO 相 C も析出している. Co2O3 1.5 を添加した Y123 バルク超伝導体では,Co が CuO チェ 1.0 ーンの Cu (1) と置換することが知られている 8).本実験 0.5 においても Co が Cu と置換し,液相中で過剰となった Cu が CuO として析出したものと思われる. 0.0 0 10 20 30 40 50 60 70 Coolig rate (°C/h) 次に,0.05 at%Co 添加した繊維状 NSG123 試料および 無添加試料の Jc 値,Tc 値および 100 K における電気抵抗 Fig. 1 Jc at 77 K and 0 T as a function of the cooling rate 率をまとめた.Table 1 にはその結果を示している.Co from partial melting temperature to 910 °C. 添加試料では無添加試料の 6 倍以上の Jc 値を示すが,Tc 22 Co を添加した繊維状 (Nd,Sm,Gd)-Ba-Cu-O の超伝導特性 名城大学理工学部研究報告 No.50 2010 Table 1 Superconducting properties for pure NSG123 sample 40 NSG123 NSG123+0.05 at%Co and Co doped sample. Jc (77K, 0 T) Resistivity at 100 K (A/cm ) (K) (mΩ・cm) NSG123 3,100 91.8 0.54 NSG123+Co 20,100 92.0 0.03 30 B irr (T) Tc 2 sample 20 10 値に有意の差は見られない.Co 添加試料では無添加試料 0 に比べて小さなサイズの NSG211 相が生成されており, そのため,酸素欠損が減少し,Tc 値は増加するものと思 われる.しかしながら,Co は Cu と置換し,Tc 値の低い NSGBa2Cu3-qCoqOy を生成する.従って,Co 添加試料の Tc 値は無添加試料とほぼ同等の値を示したものと考えら れる.また,Co 添加試料では電気抵抗率が大きく改善さ れており,これは,結晶の結合性が向上した結果である と思われる. さらに,試料に外部磁場を印加した場合の磁場の強さ B と Jc の関係について調べた.Fig. 3 は無添加および Co 添加試料の 77-90 K における Jc 値と外部磁場の関係を示 したグラフである.測定時に,試料と電極との接触部分 に発生する接触抵抗による発熱から試料が焼ききれるこ とを避けるために,Ic 測定は 0.3 A を上限とした.図中の 2 Jc (A/cm ) (a) 75 80 85 90 Temperature (K) Fig. 4 The relationship between the irreversibility field and temperature for pure NSG123 sample and Co doped sample. 矢印は Jc 値がその上限以上であることを示している.測 定温度が 77 K の場合,無添加試料では,磁場の増大に伴 って Jc 値が低下し 11 T 付近で超伝導性を失う.それに比 べて,Co 添加試料では,磁場が増大しても大きな Jc 値 の低下は見られず,17 T まで約 0.5×104 A/cm2 の Jc 値を保 持した. Fig. 4 は両試料の不可逆磁場 Birr と温度の関係を示した グラフである.Ikuta らは,バルク状 NSG123 超伝導体の 不可逆磁場と温度の関係が一次関数に極めて近い関係を 示すことを報告している 9).また,Murakami らは結晶の 4 10 c 軸に対する印加磁場の方向によって,グラフの傾きが 77 K 80 K 83 K 85 K 88 K 90 K 3 10 2 異なることを見出し,c 軸に対して磁場が垂直に印加さ れた場合にはイントリンシックピン止めの寄与が大きい ため,グラフの勾配は大きくなるが,平行に印加された 場合には,傾きは緩やかになることを報告している 10 10) . このことから,Co 添加試料では,結晶の c 軸に対してほ ぼ垂直に磁場が印加されたため,17 T を超える不可逆磁 場を示したものと思われる. 1 10 0 5 10 B (T) (b) 4 77 K 83 K 88 K これらの試料で最も支配的なピニングセンターの種 80 K 85 K 90 K 類を調べるために,ピン止め力 Fp/Fp, max (Fp= Jc×B)と換算 磁場 h = B/Birr の関係を検討した. Fig. 4 は両試料のスケー リングデータであり,図中の Fp は印加磁場 B とそのとき の Jc 値の積を,Fp, max は Fp の最大値を表している.(b) に 2 Jc (A/cm ) 10 15 示すCo添加試料の77-85 Kにおけるピン止め力と換算磁 3 10 場の関係を示したグラフは,88-90 K の不可逆磁場から 77-80 K の不可逆磁場を見積もり,その値を用いて h を 2 10 導出し,作成された.77 K における無添加試料のピン止 め力が極大を示す h の値 (hp) は 0.47 であり,Δκ ピン止 1 10 0 5 10 15 B (T) Fig. 3 Field dependence of transport Jc. (a) pure NSG123 sample and (b) Co doped sample. めが最も支配的であると考えられる 11).それと比較して Co 添加試料は hp = 0.37 を示し,Δκ ピン止めおよびノー マルピン止めがピニングセンターとして寄与している 11-12) . これらの結果から, Co を添加するとhp 値は減少し, 23 Co を添加した繊維状 (Nd,Sm,Gd)-Ba-Cu-O の超伝導特性 (a) NSG211 およびCuO の粒子が微細分散していた. さらに, 1.0 77 K における Jc-B 特性では,無添加試料が 11 T 付近で 77 K 83 K 85 K 88 K 90 K 0.8 Fp/Fp, max 名城大学理工学部研究報告 No.50 2010 0.6 超伝導性を失ったのに対して,Co 添加試料は 17 T まで 0.5×104 A/cm2 の Jc 値を保持した. 謝辞 0.4 0.2 0 本研究は,東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料研 究所の高均一20 Tマグネットを利用して測定実験を行なっ 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 h (b) たものであり,ここに感謝の意を表します. 参考文献 1.0 77 K 80 K 83 K 85 K 88 K 90 K Fp/Fp, max 0.8 0.6 0.4 1) K. Takahashi, H. Kobayashi, Y. Yamada, A. Ibi, H. Fukushima, M. Kobayashi, Y. Shiohara, T. Kato and T. Hirabayashi, Supercond. Sci. Technol., Vol. 19, pp. 924-929, 2006. 2) J. L. Macmanus-Driscoll, S. R. Foltyn, Q. X. Jia, H. Wang, 0.2 0 A. Serquis, L. Cival, B. Maiorov, M. E. Hawley, M. P. 0 0.2 0.4 h 0.6 0.8 1.0 Fig. 5 Volume flux pinning force Fp/Fp, max as a function of reduced field h = B/Birr for (a) pure NSG123 sample and (b) Co doped sample. Maley and D. E. Peterson, Nature Materials, Vol. 3, pp. 439-443, 2004. 3) B. Latha, H. Ikuta and U. Mizutani, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 43, pp. 970-975, 2004. 4) L. Zhang, Y. Z. Wang, Y. J. Cui, H. L. Du and H. Zhang, Supercond. Sci. Technol., Vol. 21, pp. 025008 (6pp), 2008. ノーマルピン止めの寄与が増大することがわかる.Co 添加試料では,無添加試料よりサイズの小さな NSG211 粒子と 0.5 μm 程度の CuO が微細分散していたため,ピ ニングセンターとして有効に働くサイズのノーマルピン 止めが増加しているものと考えられる.さらに,Co を添 加することによって NSGBa2Cu3-qCoqOy が生成されるた めに Δκ ピン止めも増加しているものと思われる.これ らのピニングセンターが有効に作用したために,Co 添加 試料は 0.4 付近の hp 値を示したものと考えられる. 4. まとめ 化学ドーピングにより Co を添加した繊維状 NSG123 超伝導体を溶液紡糸法で作製し,0.1%O2+Ar 雰囲気ガス 中で部分溶融熱処理を行った.Co の添加が繊維試料の微 細構造と超伝導特性におよぼす影響を調べた結果,次の ようなことがわかった. 60 °C/h で冷却した 0.05 at%Co 添加試料では 2.0×104 5) C. Xu, A. Hu, N. Sakai, M. Izumi and I. Hirabayashi, Physica C, Vol. 445-448, pp. 357-360, 2006. 6) T. Meignan and P. McGinn, Supercond. Sci. Technol., Vol. 10, pp. 576-582, 1997. 7) S. Marinel, I. Monot, J. Provost and G. Desgardin, Supercond. Sci. Technol., Vol. 11, pp. 563-572, 1998. 8) Y. X. Zhou, S. Scruggs and K. Salama, Supercond. Sci. Technol., Vol. 19, pp. S556-S561, 2006. 9) H. Ikuta, T. Yamada, M. Yoshikawa, Y. Yanagi, Y. Itoh, B. Latha and U. Mizutani, Supercond. Sci. Technol., Vol. 18. pp. S119-S125, 2005. 10) M. Murakami, N. Sakai, T. Higuchi and S. I. Yoo, Supercond. Sci. Technol., Vol. 9, pp. 1015-1032, 1996. 11) A. K. Pradhan, K. Kuroda, B. Chen and N. Koshizuka, Phys. Rev. B, Vol. 58, pp. 9498-9503, 1998. 12) D. Dew-Hughes, Phil. Mag., Vol. 30, pp. 293-305, 1974. (原稿受理日 平成 21 年 9 月 18 日) A/cm2 の Jc 値が得られ,無添加試料の 6 倍以上の Jc 値を 示した.この添加試料では,NSG123 マトリックス中に 24