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民間セクター開発/ 資源・エネルギー/ガバナンス

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民間セクター開発/ 資源・エネルギー/ガバナンス
活動報告◦課題別取り組み
民間セクター開発 /
資源・エネルギー/ガバナンス
開発途上国の持続的な成長と民主的で公正な社会の実現へ
活動報告
※MDGsの8つの目標のうち、該当するものを表しています。
また、国の根幹を支える法・司法制度の整備、行政
業振興/地域経済活性化、観光開発、鉱物資源開発な
の効率化や透明化、地方政府の行政能力向上、財政・
ど経済発展のエンジンとなる民間セクターの開発に資
金融の強化などの協力を通じてガバナンスの強化を図
する支援や、電力の安定的な供給、電力アクセスの改善、
り、開発途上国の持続的な成長を促進するとともに、
低炭素エネルギー利用の促進など、開発途上国の産業
民主的で公正な社会の実現に向けた支援を行っていま
基盤を整えるための支援に幅広く取り組んでいます。
す。
民間セクター開発
1. ビジネス環境改善のための政策・制度の整備
開発途上国の経済成長の原動力となるのが民間セク
境を実現し、開発を牽引する産業の発展につなげていく
ターです。中小零細規模を含むさまざまな分野の民間企
ことができるよう、政策・制度の整備を支援しています。
業がダイナミックに成長発展し、より高い付加価値を生
開発途上国が、民間企業がビジネスを実施しやすい環
(1)産業振興政策
み出すことで、強靭で包摂的な経済成長が実現すること
産業振興政策は開発途上国の国家開発の重要な柱です。
が期待されます。
JICAは各国が置かれた多様な状況に応じて、貿易・投
2013年に開催された第5回アフリカ開発会議
(TICAD
資促進、現地企業の競争力の向上、地域の経済・産業振
Ⅴ)で採択された「横浜宣言2013」では、「民間セクター
興等の産業振興政策の策定を支援しています。
主導の成長の促進」が大きく掲げられ、日本政府の支援
2014年度は、エチオピアで首相をはじめとする関係
策としても
「経済成長の促進
(民間セクター、貿易投資)」
者との「産業政策対話」を行い、産業政策の策定プロセス
が表明されています。
を継続的に支援しました。また、専門家派遣を通じて、
また、近年、世界経済における開発途上国の比重の高
東ティモールでは産業政策文書のドラフト作成を、カン
まりを受け、製造業をはじめ多くの日本企業が開発途上
ボジアでは中小企業振興政策の基本枠組みの策定を支援
国を有力な製造拠点や製品の販売市場と位置づけ、積極
しました。政策の実施体制の強化に向け、ミャンマーの
的な事業展開を進めています。JICAは、これら日本企
産業振興を担う行政官への研修なども実施しました。
業との連携を一層強化することで、より効果的な開発支
課題別取り組み
JICAは、貿易・投資促進、中小企業振興、地場産
(2)経済法・制度の整備
援を実現すると同時に、相手国とわが国の互恵的経済関
企業がビジネスを営むうえでの基盤となる企業法・競
係の強化にも資することを重視しています。
争法などの経済法、知的財産制度、基準認証制度(標準化、
認証、計量標準)、税務行政、金融関連制度などの整備
●課題の概要とJICAの取り組み
や運用の改善について支援を行っています。
民間セクターの開発のためには、マクロ経済の安定、
例えば、インドネシア、ベトナム、ミャンマーに専門
インフラの整備、基礎教育の充実など広範な要素が重要
家を派遣し、特許や商標などの知的財産を保護する体制
となります。JICAでは、主に①ビジネス環境改善のた
の強化に向けた支援を実施中です。
めの政策・制度の整備、②貿易・投資促進、③現地企業
の競争力の向上、④地域の経済・産業振興に取り組んで
2. 貿易・投資促進
います。
開発途上国が経済のグローバル化のメリットを享受す
ることを特に念頭に置いて実施しているのが貿易・投資
JICA年次報告書 2015
101
活動報告◦課題別取り組み 産業開発・公共政策
(2)貿易促進
促進分野の協力です。
(1)
投資促進
新興国・開発途上国の輸出入額が世界全体の貿易総額
2014年の全世界の直接投資のうち、55.5%が新興国・
に占める割合は、2013年には輸出額の40.3%、輸入額
開発途上国に流入しており、開発途上国は投資先として
の39.6%に達しており、開発途上国の経済開発のため
の存在感を年々増しています。また、開発途上国におい
に貿易は重要な役割を果たしています。
ても、外国投資を経済成長の原動力とし、外国企業との
貿易促進のためには、税関手続きなどの貿易関連手続
サプライチェーンの構築を通じて国内産業の振興に取り
きの簡素化や円滑化、開発途上国企業の海外市場へのア
組む動きがあります。
クセスの向上などが必要となります。
海外からの投資の誘致には、投資手続きの簡素化・投
JICAは、ベトナムやミャンマーでの税関近代化など
資阻害要因の解決といった
「投資環境の改善」
と、投資機
による貿易手続きの円滑化に向けた支援のほか、インド
会に関する情報の積極的発信などの「投資促進機能の強
ネシアの輸出振興庁の機能強化を支援。また、2014年
化」が求められます。JICAは、これらの取り組みを支援
度はエチオピアにおいて、競合商品との差別化を図るた
するため、アジア、アフリカ諸国を中心に投資促進分野
めに地元産品のブランド化に向けた支援も開始しました。
のアドバイザーを派遣しています。
また昨今、注目を集めているのが
「経済特区/工業団地
3. 現地企業の競争力の向上
整備」です。インフラの集中的な整備や入居企業への優
開発途上国の経済成長を支える現地企業、特に圧倒的
遇措置、各種サービスの提供により、魅力的な投資環境
多数を占める中小企業の競争力向上のために、「企業支
を備えた進出拠点を設ける取り組みです。2014年度は
援機能の強化」
「産業人材の育成」に取り組んでいます。
ミャンマーのティラワ経済特区管理委員会の能力向上支
(1)企業支援機能の強化
援や、バングラデシュの経済特区開発計画の策定と実施
企業の競争力を高めるためには、企業内の経営資源、
機関能力向上のための支援等を開始しました[➡
いわゆる「ヒト」
「モノ」
「カネ」
「情報」に対する支援が考え
下事例を
参照ください]
。
られます。主に中小企業を対象としたこれらの支援は、
インドなどにおいて、開発途上国政府の政策・制度の
公的機関や民間の組織から行われることが多いため、
改革・改善を目的とした開発政策借款を通じた投資環境
JICAの支援の多くはこれら支援機関による中小企業支
改善も行っています。
援機能の強化を目指しています。
事例
ミャンマー ティラワ経済特別区管理委員会能力向上支援プロジェクト
効率的なワンストップサービスによる迅速な投資手続きを支援
2015年秋の操業開始を目指すティラワ経済特別区(SEZ)。SEZにおける、投資
認可や建築、環境関連の許認可のための手続きのワンストップサービスと迅速化を
目指した取り組みは、進出企業から高い評価を得ています。
102
既に36社の投資認可手続きが完了
可が下りました。以来、既に36社が投
日本・ミャンマー両政府が官民一体で
資認可を授与され、11社が建設工事に着
開発を進めているティラワ経済特別区
手しています(2015年6月時点)。OSSC
(SEZ)において、JICAは海外投融資、
には関連9省庁より職員が派遣されてお
円借款、無償資金協力、技術協力等の多
り、各種許認可のための手続きが効率的
様なODAスキームを活用した総合的支
なものとなるよう整備を進めています。
援を行っています。
これまで投資認可については申請を受
そうしたなか、JICAは、2014年9月
理してから平均2、3週間程度で手続き
よりティラワSEZ管理委員会とワンス
を完了しており、会社登録、ビザ・滞在
トップサービスセンター(OSSC)の円滑
許可等についてもOSSCのみで完結する
な立ち上げと効果的なSEZ運営管理を目
受付・処理手続きが導入されています。
プサービスが実現しつつあり、日本企業
指したプロジェクトを実施。2014年11
これらの活動を通じてティラワSEZに
をはじめとする投資家から高い評価を得
月に日系中小企業に対し第一号の投資認
おける投資手続きの迅速化とワンストッ
ています。
JICA年次報告書 2015
第一号の投資認可が下りた企業の代表へ投資認可書
を授与
活動報告◦課題別取り組み 産業開発・公共政策
業振興を支援しています。
クの強化や、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モ
マラウイ、キルギス、コロンビア、ケニアなど多くの
ンテネグロのバルカン3カ国での中小企業「メンター」制
国で、農産加工品や手工芸品を生産する小規模な企業や
度の導入など、中小企業を支援する仕組みの構築を支援
組合などが、自立的にビジネスを発展させていくための
しました。インドネシアやフィリピンでは、産業クラス
体制づくりを支援しています。具体的には、基本的なビ
ターなどの企業グループに対する支援を通じて、能力の
ジネス知識(会計など)や、地域資源の発掘・活用、品質・
向上や連携の強化、業績の改善に貢献しました。
生産性の向上、食品衛生、包装・デザイン、マーケティ
日本が最も得意とする分野の一つである「カイゼン」
ング・販売などに関するさまざまな指導・助言を行う仕
(品質・生産性向上)活動の普及にも力を入れています。
組みづくりを支援することで、魅力ある商品の生産に貢
献しています。
を強化しており、2014年度はエチオピア、ガーナ、タ
観光分野では、モザンビーク、ボスニア・ヘルツェゴ
ンザニア、ザンビアへの協力を実施し、これら協力の相
ビナなどで、地域の持つ資源の特性を生かした地元に裨
互連携も推進しています。
益する観光商品の開発や、観光客向けの効果的な広告・
(2)
産業人材の育成
課題別取り組み
とりわけアフリカでは、TICAD Ⅴを踏まえて取り組み
活動報告
2014年度は、タイにおける中小企業支援ネットワー
宣伝などに官民で協働・連携して取り組むための支援を
産業人材の育成では、日本のノウハウを生かした企業
行っています。ヨルダンやエチオピアでは、地域の自然
競争力向上のための取り組みを重視しています。企業活
や文化、生活様式などを含めた観光資源を、地域住民と
動に必要な経営・生産管理、生産技術などのノウハウの
共に持続可能な方法で一体的に保存・展示・活用してい
獲得・向上を目的に、人材育成を行う行政機関や教育機
く考え方を取り入れ、そのための官民関係者の能力向上
関などへの協力を各国で展開しています。
や連携強化を支援しています。
これらの協力の成果は、途上国の産業振興とともに、
現地に展開する日本企業の活動にも貢献することとなり、
途上国と日本の相互の利益につながることが期待されま
資源・エネルギー
す。例えばインドでは、日本のものづくりの真髄を伝え、
資源・エネルギーは、開発途上国にとってのリスクで
同国の製造業の変革と持続的発展を担うリーダーの育成
あり、チャンスでもあります。安価で安定した資源・エ
を支援しています。先見性あるリーダーとしてインドの
ネルギーの確保は開発途上国の産業高度化の鍵を握り、
産業界の発展を牽引し、同時に、日本企業にとって日本
資源を保有する開発途上国ではその利用と管理のあり方
の考え方を理解するビジネスパートナーとなることで、
が、国の成長発展の道筋を大きく左右します。また、わ
両国のビジネスが拡大することが期待されます。
が国を含む国際社会全体にとっても、資源・エネルギー
産業人材育成の協力のなかでも特筆に値するのが日本
の適切な供給と低炭素化は、経済成長、地球環境、安全
人材開発センター(日本センター)です。JICAは、産業
保障にも関わる重要課題です。JICAは、「地球環境に優
人材育成の拠点として、日本センターをカンボジア、ベ
しい資源エネルギーの安定的かつ安価な供給への貢献」
トナム、ミャンマー、ラオス、モンゴル、ウズベキスタ
を念頭に、資源・エネルギーの課題に取り組んでいます。
ン、カザフスタン、キルギス、ウクライナに設置し、ビ
ジネス研修を事業の柱に、日本的経営・生産管理手法に
●課題の概要とJICAの取り組み
通じた人材の育成に取り組んできました。近年では、受
1. エネルギー
講生の同窓会が活発に活動し、現地産業人材のネット
途上国のエネルギー利用は、今後も大幅に増加すると
ワーク化を進めつつあります。長年培ってきたビジネス
見込まれており、同時に気候変動の要因となり得る化石
研修のノウハウやネットワークを生かし、現地の日系企
燃料の利用が大きなシェアを占めることは避けられない
業への支援や連携にも取り組んでいます。
と予測されています。また、途上国では、電化率の向上
が依然大きな課題ですが、電力へのアクセスの改善やよ
4. 地域の経済・産業振興
り安定的な供給を確保するためには、多大な投資が必要
開発途上国の経済成長が進むにつれて、国内の地域間
です。国際エネルギー機関(IEA)は非OECD諸国におけ
格差が大きな課題となる国が増えてきています。JICA
る2035年までの電力セクターへの必要投資額を10兆ド
は途上国の人々が広く経済成長の恩恵を受けられるよう、
ルと試算しています。
地域の特性・資源を有効に活用した、地域に裨益する産
このような状況の下、低廉かつ低炭素なエネルギーを
JICA年次報告書 2015
103
活動報告◦課題別取り組み 産業開発・公共政策
安定的に確保することは、途上国にとって社会経済の安
を含む幅広い層に届けることを可能にし、人間の安全保
定と持続的成長のため非常に重要です。しかし、多くの
障に寄与する支援となります。
国では必要な技術・ノウハウ、資金が不足しているうえ
(2)低炭素電源の導入促進
に、政策立案や実施を担う人材も不足しています。豊富
再生可能エネルギーであり、安定したベースロード電
な資金に加え、技術と蓄積された経験・ノウハウを有す
源である地熱発電の開発において、日本は世界トップレ
る先進諸国の協力は不可欠となっています。
ベルの技術を有しています。資源開発から地熱発電所建
これらの課題に対し、JICAは、
“3L”
ポリシー(Low-
設まで、インドネシアや、ケニアをはじめとするアフリ
Cost、Low-Carbon、Low-Riskの同時達成)を掲げ、
カ・リフトバレー(大地溝帯地域)諸国、さらには中南
以下の支援を展開しています。
米において地熱発電開発を展開しています
[➡
(1)ナショナルグリッドの増強を通じた電力アクセス・
安定供給の推進
P.49、55事
例を参照ください]
。今後も、技術面、インフラ面、政策面で、
総合的に支援を展開、強化していきます。
JICAは、開発途上国の国家基幹電力系統(ナショナル
また、大洋州を中心とした島嶼国では、電源の大半を
グリッド)の増強を通じて、電力へのアクセスと安定供
輸入燃料(ディーゼル)に依存していますが、恒常的に電
給の向上に長年注力してきました。近年では、民主化と
気料金が高く、燃料消費の削減によるエネルギーセキュ
経済成長が急速に進むミャンマーに対し、基幹電力系統
リティの向上が喫緊の課題です。ディーゼル発電の効率
の青写真づくり
(電力マスタープランの策定)
を支援しな
化と再生可能エネルギーの最適導入を両面から支え、電
がら、老朽化した電力設備のリハビリ、送配電系統の強
力安定供給と同時に燃料消費を削減する“ハイブリッド”
化、地方部への配電網の拡張などの支援を展開していま
な系統を整備することにより、低炭素かつ災害耐性強化
す。また、わが国の優れた技術力を活用し、バングラデ
にも資する協力を推進しています
[➡ 下事例を参照ください]。
シュにおける高効率石炭火力発電、ウズベキスタンにお
(3)エネルギー効率利用の推進
けるコンバインドサイクルガス火力発電への資金協力の
エネルギー需要側の効率的な利用促進(省エネ)
の分野
ほか、スリランカ、トルコでの揚水式水力発電導入へ向
では、ベトナム、バングラデシュなどで技術協力に取り
けた技術協力や調査などにより、基幹となる電源整備を
組むとともに、インドネシア、パキスタンの省エネ分野
支援する一方、サブサハラ・アフリカ諸国では送配電網
の政策立案を支援しています。また、送配電などの電力
の強化を支援しています。ナショナルグリッドの増強や
流通設備の増強に向けた資金協力や維持管理能力の強化
延伸は、低廉、低リスク、かつ安定した電力を、貧困層
に向けた技術協力を実施し、電力ロス率の低減を通じた
事例
大洋州 ハイブリッド・アイランド構想
日本の知見・技術を生かした島嶼国のエネルギーセキュリティ向上支援
大洋州の島嶼国では、発電に要する燃料費の変動リスクと低いエネルギー自給率
という課題を抱えています。JICAは、ディーゼル発電の効率化と最適規模の再生
可能エネルギー導入による
“ハイブリッド”
な系統整備を目指す支援を進めています。
104
日本の技術、関係者との連携が不可欠
による発電量の激しい変動のほか、過度
島嶼国の多くは、自国のエネルギー資
な導入は電力の質の低下や供給の不安定
源を持たず、地理的にも隔絶されていま
化につながります。
す。人々の生活の基盤となる電力は、輸
「ディーゼル発電への依存軽減と再生
入ディーゼル燃料による発電に依存して
可能エネルギーの活用をどのように両立
を活用し、ディーゼル発電の高効率運用
おり、高い電気料金や石油価格の変動リ
させるか」。この問題意識の下、JICAは、
のために、島嶼国の電力関係者の人材育
スクは地域の大きな課題となっています。
2015年5月の太平洋・島サミットに合
成を実施してきました。また、最近では
こうしたなか、近年、島嶼国でも再生
わせ、島嶼国のエネルギーセキュリティ
日本の最新技術を用いた系統安定化装置
可能エネルギーに期待が集まっています。
向上支援を目的とした、
“ハイブリッド・
の導入や、沖縄関係企業との連携も進ん
しかし、再生可能エネルギーも万能薬で
アイランド構想”を立ち上げました。構
でいます。今後も日本の知見や技術を基
はありません。エネルギー自給率の向上
想実現のためには、日本の関係者との連
に、島嶼国のエネルギーセキュリティ向
や燃料費の削減が期待されますが、天候
携が不可欠です。これまで、沖縄の経験
上のための支援拡充を図っていきます。
JICA年次報告書 2015
トンガに設置された太陽光発電施設
活動報告◦課題別取り組み 産業開発・公共政策
います。また、わが国では、経済産業省を中心として、
エネルギー効率化にも貢献しています。
JICA、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)
な
どが有機的・体系的な連携体制(海外鉱物資源確保ワン
資源ポテンシャルの高い開発途上国では、鉱物資源開発
ストップ体制)を取っており、このなかでJICAは、特に
は経済成長のエンジンとして他産業の育成・開発と比べ
開発途上国政府部門にターゲットを絞った技術支援や人
短期的に結果が得られるほか、インフラ整備、地域振興
材育成を展開しています。
などを伴い、社会、経済に非常に大きな影響を与えます。
JICAの資源分野の協力目標は、①開発途上国政府の
多くの国で鉱山開発が進展し、多様なチャンネルから持続
体制整備・周辺インフラ支援などのソフト・ハード面で
的かつ安定的に鉱物資源が確保されるようになることは、
の投資環境整備、②人材育成の二つです。人材育成では、
途上国のみならず世界経済の持続的発展にも不可欠です。
日本国内の大学との連携による本邦長期研修(資源の絆
このような背景から、資源ポテンシャルの高い開発途上
プログラム)を進めており、わが国との人的ネットワー
国では鉱業振興に強い意欲を持つ国が多くなっています。
クの構築、それを通じた資源国との関係強化を目指して
鉱物資源の探査から操業につなげるには、多くの資金
います[➡
と高い技術を要し、外国企業の参入を必要としています。
重点分野としています。
(1)
鉱山開発に不可欠な道路、鉄道、港湾、電力、水な
管理の知見に乏しく、鉱業政策・法制度や体制・基礎的
どの周辺インフラの整備、周辺コミュニティの開発
な地質情報・インフラの未整備などの課題があります。
支援。
政治的・社会的なリスク、治安・紛争リスク、鉱石輸出・
(2)
鉱業振興、適切な鉱物資源管理に向け必要とされる
操業においてさまざまな規制を課す「資源ナショナリズ
法制度、政策、実施体制、基礎情報整理など政府と
ム」と呼ばれる状況の高まりなど、開発途上国人材の積
しての計画・方針策定などの支援。
極的育成と雇用の促進が必須の課題となっています。ま
(3)
民間投資を呼び込み、持続的な鉱業開発・鉱物資源
た鉱業開発を国の開発にいかにつなげるか、広義の資源
管理を実現するための行政機能強化。具体的には探
管理の課題もあります。
鉱活動に必要な基礎情報の提供や管理体制整備に関
JICAは開発途上国の鉱業発展における上記の課題へ
する支援。
との互恵(Win-Win)関係の構築に資する協力を進めて
事例
課題別取り組み
下事例を参照ください]
。具体的には次の4分野を
しかし開発途上国の政府の多くは鉱業振興や企業活動の
の支援とわが国の資源確保の両面を念頭に、開発途上国
活動報告
2. 資源
(4)
日本の大学とも連携した鉱害対策技術の開発や鉱山
保安行政、鉱山環境行政への支援。
資源分野の人材育成プログラム(通称「資源の絆プログラム」
)
人材育成で日本と世界をつなぐ“絆”
2014年3月からスタートした「資源の絆プログラム」は、近年まで国内に多くの
鉱山を抱え、鉱害問題も乗り越えてきた日本の技術と経験を途上国の鉱業発展のた
めに生かし、資源の安定供給に貢献します。
日本の鉱物資源管理の経験を
途上国へ
鉱業開発をいかに国の開発につなげるか
豊かな鉱物資源を持つ開発途上国に
査・開発、保安、鉱害・環境対策、閉山
とって、資源開発は他産業の育成や開発
に至るまで、鉱物資源を管理する幅広い
に比べ、短い期間で成果が出る強力な成
能力が必要です。
長のエンジンとなります。
プログラムでは、日本の大学院での研
しかし、鉱物資源管理の体制が整って
究やインターンシップに加えて、鉱業政
いない途上国で開発を急ぐと、経済が資
策や鉱山経営などの講義と関連施設視察
源に頼りすぎてしまい、他産業の発展を
を合わせた「短期プログラム」への参加、
む世界への持続的かつ安定的な鉱物資源
遅らせ、貧富の差の拡大や、鉱害による
海外フィールド調査などを通じて、幅広
供給への貢献にもつながり、また、国内
地域の汚染等の負の影響が出てしまいま
い能力開発を目指しています。途上国に
の鉱業セクターの活性化や製造業の持続
す。鉱業による長期的発展のためには、
おける鉱業の発展への貢献は、日本を含
的成長のためにも役立ちます。
の視点のほか、法制度の整備から資源探
モザンビーク北西部のテテ州にある石炭鉱山
JICA年次報告書 2015
105
活動報告◦課題別取り組み 産業開発・公共政策
ガバナンス
事例を参照ください]
。
ガバナンスは、政府や行政における取り組みのみを指
持続可能な開発目標(SDGs)の設定に向けた議論も踏ま
すのではなく、国民や民間セクターも含めて社会が運営
え、2014年12月からコートジボワール司法省に司法ア
される仕組み全体に関わる課題であり、開発途上国の成
ドバイザーを新たに派遣し、司法アクセスの改善や刑事
長発展の基盤となるものです。JICAは、自由、市場経済、
司法分野の人材育成支援に取り組んでいます。
アフリカに対しても、TICAD Ⅴのイニシアティブや
法の支配といった普遍的価値の共有を通じた開発途上国
の民主的な成長発展を支援する観点から、法・司法、行
2. 民主的制度の整備
財政分野において、さまざまな能力開発の協力を行って
JICAは、公正な選挙の実施に向けた選挙管理委員会
います。
の能力向上、議会の機能強化、権力の監視機能となるメ
ディアの能力強化など、開発途上国における民主的統治
●課題の概要とJICAの取り組み
の基盤強化の支援に取り組んでいます[➡
1. 法・司法制度整備
さい]
。
JICAは1996年以降、市場経済化に向けた法制度の構
また、カンボジア政府からの選挙改革に向けた支援要
築・改善が必要とされている国や紛争終結国の法・司法
請を受け、支援実施可能性の調査と改善に向けた各種提
制度の再構築・人材育成に対する支援を、日本の法曹関
言を行いました。2015年に議会選挙を予定しているエ
係者の協力を得ながら
「Peer to Peer(同業者協力)」の
ジプトでは、選挙管理・運営能力の向上のため、高等選
アプローチにより実施しています。
挙委員会の委員を対象に本邦研修を実施しました。
2014年度は、中国とラオスで新たなプロジェクトを
ミャンマーやコソボでは、2015年度から開始予定の
開始し、基本法の整備や体系的で一貫した法令の起草、
メディアに関する支援に向けた準備を行いました。
運用のための支援と、ビジネス環境整備に直結する法整
このほか、ベトナムの国会事務局に対する支援を本格
備支援に注力しました。ベトナムでは、日越共同イニシ
的に推進するとともに、ミャンマー下院関係者を日本に
アティブ等との一層の連携を図りながら、2015年度か
受け入れ、日本の知見を提供するなどの協力を実施しま
らの次期協力のための調査などを実施しました。インド
した。ウクライナにおいても、日本の民主主義の発展に
ネシアでも知的財産法を含むビジネス関連法令の起草・
おける経験・実績、取り組み、課題を共有するとともに、
審査における整合性の向上と、知的財産保護体制の強化
自助努力を支援するための調査を実施しています。
下事例を参照くだ
を目指すプロジェクト実施のための調査を行いました。
このほか、ミャンマー、カンボジア、ネパール、モン
3. 公共安全分野
ゴルなどに対しても、法令整備、運用能力強化や調停制
JICAは、警察組織の民主化、市民との信頼関係を基
度普及、裁判実務改善等の支援を継続しています[➡ P.27
盤として犯罪予防・抑止を推進する交番/地域警察活動、
事例
南スーダン TV・ラジオ組織能力強化プロジェクト
紛争国における国民のための公共放送局化支援
JICAは、国営南スーダンTV・ラジオ局が公共放送局へ移行し、政府から独立し
た正確・中立・公正な情報を国民に提供するための支援を2012年度から続けてい
ます。
国内紛争中は周辺国で研修
2013年12月に勃発した武力紛争によ
106
と対応について議論し、公共放送局化に
向けたロードマップ案を作成したほか、
南スーダンTV・ラジオ局の取材の模様
れた番組も実際に放送されました。
また研修では、報道能力の強化のため、
り、2014年度は専門家が入国できない
「農業」や「民族融和」等、南スーダンの公
状況が続きましたが、JICAはケニアや
共的な利益に沿ったテーマを研修員が自
政府発表ではなく、情報源に対する取材
ウガンダなどの周辺国で研修を実施、プ
ら抽出して、番組提案の仕方から構成表
に基づいたニュース企画の提案や番組制
ロジェクトを継続しました。
の書き方、ロケーション撮影、編集等の
作の手法を学び、ニュース報道の質の向
研修では、公共放送局化に向けた課題
一連の作業を学びました。研修で制作さ
上を目指しました。
JICA年次報告書 2015
活動報告◦課題別取り組み 産業開発・公共政策
鑑識に代表される犯罪捜査技術など、開発途上国の治安
に向けた体制構築の支援や、ウクライナ向け民主化支援
向上のための支援を、警察庁と都道府県警察の協力を得
の一環として汚職対策セミナーを開催しました。
ながら実施しています。
(2)公共財政管理
国普及するためのプロジェクトを開始。インドネシア、
は、公共セクターの資金の流れに関係するあらゆる項目、
東ティモール、ホンジュラスでも、市民警察・地域警察
例えば予算計画、予算編成、歳入計画、国庫管理、会計・
の推進に向けた体制整備や人材育成の支援を継続してい
調達、内部統制・監査、財務報告、外部監査等、中央・
ます。シンガポールで実施してきた第三国研修「コミュ
地方政府の運営など国民生活維持の根本を支える分野で
ニティー・ポリシング戦略」コースは、20年目を迎えま
あり、開発計画から公共セクターのマネジメントのあり
した。
方まで、広く関係する重要な開発課題です。
このほか、鑑識技術
(フィリピン)
、警察幹部向けの日
2014年度には、英国のロンドン大学政治経済学院、
本警察の概要や人材育成の紹介
(コンゴ民主共和国)等の
シンクタンクであるODI(Overseas Development In-
研修や、国連警察と連携した警察官の基礎能力向上のた
stitute)、英国勅許公共財務会計協会本部、米国では国
めの現地研修
(コートジボワール)
、警察官に対する柔道
連、国際通貨基金、世界銀行、ハーバード大学などの機
訓練
(アフガニスタン、於:トルコ)
等を実施しました。
関でJICAのPFM分野における支援の取り組みを紹介し、
複数国対象の本邦研修では、国際捜査や薬物犯罪取締
意見交換を行いました。現地事情に配慮し、相手国のキャ
りに加え、サイバー犯罪分野の研修を新たに開始しまし
パシティ・ビルディングを重視したJICAの公共財政管
た。
理への取り組みについて、関係機関から高い関心が寄せ
また、チュニジアとモロッコに対して、テロ対策機能
られました。専門家養成研修などを通して、公共財政管
強化のための無償資金協力
(機材供与)
の協力準備調査を
理分野の知識の普及とJICA事業に携わる人材育成も積
実施しました。
極的に行っています。また、業績予算の導入(インドネ
課題別取り組み
公共財政管理(Public Finance Management: PFM)
活動報告
2014年度には、ブラジルで交番/地域警察活動を全
シア)、公共投資管理(ラオス、バングラデシュ、マラウ
4. 行政・公共財政・金融
行政・公共財政・金融は、一国の政策形成と実施、経
イ)、内部監査(モンゴル、タンザニア)、官民連携
(PPP)
(モンゴル)など幅広い支援を実施しています。
済運営の基礎にあたります。支援にあたっては、当該国
一国の歳入行政に大きな役割を持つ税務や税関分野に
の政治経済的な背景に十分注意を払い、短期的な成果を
対する支援にも継続的に取り組んでいます。貿易円滑化
求めるのではなく、中長期的な視点で改革プロセスを俯
推進を目的として2014年4月にベトナムの通関システ
瞰することが求められます。
ム導入を実現し、通関業務の大幅な効率化が図られまし
JICAは以下のような協力を行っています。
た。同様の支援をミャンマーでも開始しています。アフ
(1)
行政
リカ地域では、引き続き東部・西部・南部の各地域で国
公共セクターのサービス改善(バングラデシュ、ガー
境通過を円滑にするためのワン・ストップ・ボーダー・
ナ)、住民に裨益する公共サービス事業の提供を目指す
ポストの取り組みを進めています。
地方自治体の計画策定能力の強化(ブータン、タンザニ
(3)金融
ア、 ホンジュラスなど8カ国)に取り組んできました。
金融分野は民間セクター開発を支える重要なソフトイ
カンボジアでは、人口・経済センサスなど統計調査の実
ンフラです。 近年、 協力へのニーズが高まっており、
施に必要な技術や知識を移転し、統計局および州計画局
JICAの支援も増えています。ベトナムでは日本の経験
職員の能力強化を図っています。またバングラデシュで
も活用し、経済分野の最重要課題である国営企業改革と
は、 公務員向けの研修コースに総合品質管理(T o t a l
銀行の不良債権処理問題に取り組んでいます。ミャン
Quality Management: TQM)を導入し、日常の気づ
マーでは、中央銀行を対象に資金・決済システムの近代
きを業務改善につなげることで、公共サービスの質を向
化に向けた支援のほか、インターバンク市場育成や証券
上させる取り組みを行っています。2014年12月、「カ
取引市場の整備に関する支援など金融近代化の黎明期を
イゼン国際大会」が首都ダッカで開催され、研修受講者
支えています。モンゴルにおいても資本市場整備に向け
のなかから業務改善に大きな成果を上げた代表者による
た協力を行っています。
発表が行われ、人事省担当大臣から表彰されました。
汚職対策では、バングラデシュ政府内部の清廉性向上
JICA年次報告書 2015
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