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開田村教育委員会
木 曽 の 麻 衣( 開田村 ) ― 麻 織 物 の 工 程 故 畑中 − たみさん(長野県無形文化財) ―開田村教育委員会― お ま 一、麻蒔き お ま 麻蒔きは八十八夜までにはすませなければいけ ないといわれており、たいがい 4 月 25・26 日頃 から 29 日までにはすませる。 畑は、家の近くの上畑(水はけのよい砂壌土) を使う。 .... 昔は、ませごえをたくさん入れて平蒔きにした が、今は配合の肥料を使って畝蒔きとする。麻は .. じっくり育てた方がいいので、そのためにはませ .. ごえの方がいいのだが今は馬を飼わんからそれが 麻種 ない。 少し厚めに蒔く。ヒネは発芽が悪いので必ず去 年の種を蒔く。 手入れとしては、草取りと間引きを田植前と田 植あとの二回くらいするだけでそれほど手はかか らない。 揃った麻を作るために、あまり長いものや、短 芽を出した麻 いもの、股になったものなどは間引きする。それ でも日当たりのよい外まわりのものはどうしても太くなりすぎてしまう。そのかわり う たて 中のものは、細くて、柔らかいので績みいいし、糸もいい(いい糸は経糸にする)。 雨が降ったり大風が吹いたりすると麻が曲ってしまい、すじょう(素生)が悪くな う って績みにくい。 「いい麻をとるも、とらないも天候次第。」 戦後は県知事の免許が必要になった お こ 二、麻扱ぎ お こ 麻扱ぎは、だいたい 8 月 20 日頃、花が咲き 終わったところでする。 数本ひとまとめにして根からこぎ取り、鎌 で葉を落とし、入れ違いに積み重ねておき、 あとで押切りで根をはなす(切る) 。このとき 太さと丈をそろえて径6∼9九寸の束にする が、この束が最後まで一つの単位として扱わ れる。 あとは、束をひらいて畑でよく乾かす。こ 麻扱ぎも近い(8月中旬) のときの乾し具合がいいほど白い麻になる。 雨にあわせると色が悪くなるばかりか糸も弱くなるので雨にあわせないようにする。毎 日夕方は軒下へ取り込む。忙しいときにはこれが大変な仕事である。 お天気がよければ 4 日くらいで乾し上がるがたいがい 7・8 日くらいはかかる。 麻扱ぎは花が咲き終わってから 押切りで根を切る 交互に積んでいく 畑で乾かす お は 三、麻剥ぎ 皮を剥ぎやすくするために、よく乾し上げたものを、 あらかじめ水に入れて日光で温めておいたナシヤブネ (麻槽)の中に浸し、ソバガラを敷いて作ったナシヤ (床)にナシコミ(寝し込み)上にまたソバガラをか ぶせる。こうすると熱が来て皮がうき、剥ぎやすくな る。 ソバガラの床にナシ込む 朝、ナシたものは夕方また出 してフネへ入れて水に浸し、再 びナス。このとき別の麻を朝ナ シたものの下へナシ込む。こう ナシャブネ(槽)に浸す することにより上積みのものか ら取り出して剥ぐことができる。朝、ナシ込んだものは翌日の夕方は剥げるようになる。 3回水に浸し、4回目に出したときには剥げるようになるのが普通であるが、それでも ぬか 熱がこないときは、4回でも5回でもやる。つき糠 を五寸位敷くと熱がきやすい。 とり出した麻は、茎を真中から二つに折って引くと剥がれる。細いものなら5・6本 (太いものは1・2本)をひとまとめにして剥ぐ。これを一筋という。 皮を剥ぐ作業 皮を剥ぐ 剥いだものは自分の左側に、表皮を 下にして円を描くように重ねていき、 1束分をひとまとめにして、ワラで一 か所しばっておく。これをツクネとい う。麻切りのときの1束が1ツクネと なる。1筋分とは、掌にのせて親指で 押さえることのできるくらいの巾(約 お か 3寸)で、それは次の工程である麻掻 きで一度に掻くことのできる巾である。 剥いだ麻をツクネにする ツクネ ツクネ(拡大) お か 四、麻掻き クソ(表皮)をうかして掻き取りやすくする ために、麻剥ぎのときと同じようにナシヤブネ に入れて浸し、ソバガラの床になす。 夕方、剥いでナシたものは明後日までナシて おき、一筋分ずつを「麻掻きのデー(台)」の上 へ表皮を上にしてのせ、「麻掻きのコ(子)」で クソを掻いで取る。 このとき麻掻きのコをあまり鋭角にあてると 麻がきれてしまう。 麻掻きの台には、ヒノキの二分位の厚さの板 を頭に枕にしてあててあり、掻くとき押える力 で板がしわるようにしてある。 ツクネをナス 麻掻き作業 麻掻き 麻掻きの子は、薄い鉄の板を曲げたもの。 麻掻きをして白くなった麻は、4筋を1掛 としてしばり、家の中のさおに掛けて乾す。 う 直接日光に当てるとこわくなり、績みにく くなるので一たん日陰ぼしにしたものを日な たへ出して乾し上げ、7∼8掛(1ツクネ分) を束ねてしまっておく。 ここまでの仕事を終えたところで秋の取り 入れになるので麻などかまっていられない。 あとは冬の仕事になる。 麻掻きのあとは家の中で乾す お う 五、麻績み 雪がくると、しまっておいた麻を取りだして、 一日湯にのばかし(浸し)夕方、ぬれたまま雪の 上にさらして凍らせる。このままにしておくと表 面だけ白くなって、雪に面した方が白くならない ので時々ひっくりかえす。雪にさらすほど白くな るので 10 日も、15 日もさらす。さらしたものは、 もう一度のばかして、かたくしぼり、外へ出して も 乾す。天気がよければあした揉める。 雪にさらす さらしたものをハゼにかけて干す よく揉んだものは、両端をもって縮めたり伸し たりしてほぐす。昔は棒にはさんで板の間にたた きつけたり、コソゲ棒(長さ4寸、幅5分の薄板 状に削った竹の棒)でこそげて柔らかくした。 う これから績むわけである。 柔らかくしたものは一束分をとり出しやすくま ふた あさす るめて、オンケ(麻笥)のカギゴ(蓋 )に入れ ておく。こうしたものをテガラという。 う 績んだものは順にオンケへ入れていく。2ツク ネ分でだいたいオンケ一杯になる。一杯になるに ... はつめてやっても5日も6日もかかった。 麻を績む 一杯になったらこれをあけて、裏返しのまま放 射状に別の麻でしばる。これをツヅネという。 はた たて 一機 (2反)織るのに、経 糸だけで4ツヅネ、 よこ ノキ(緯 糸)に2ツヅネ、合せて6ツヅネは要る。 麻で12束いる勘定である。 半分にサバいたものを更に半分にする う 績む順序は、まず一筋の麻に左手の薬指の 爪を差し込んで、これん半分にサバク(裂く)。 長いものは左足の親指の股へかけてサバク。 半分は膝にのせておき、他の半分を口にくわ え、同様に爪に差し込んではサバいて、その つどサバイタものは口にくわえておく。 糸の太さまでサバイタものの一方を2つに サバき、口にくわえている他の1本を右手で とってそれに挟み、右手の親指と人差指で手 糸の太さまでサバく よ 前にひねる、すると別々に撚りがかかるから、 次に左手の親指と人差指で手前にひねると両 方はつながる。一方の端は口にくわえたとき .. つばでぬれているからつなぎめがよくしまる。 イロリの灰をつけると撚りいいといって灰を う 指につけて績む人もいた。 ノキ(緯糸)は端でつないでもいいが、タ テ(経糸)は途中でつながないと織るときス ッコケル(切れる)から、モロッツオ(2本) で撚っていく。ノキは少し細めに績むときれ いだ。 糸の太さまでサバく オンケ一杯になったらしばってツヅネにする −手がらをまく− よその家へ用たしに行くときもテガラ (績むように柔らかくした麻)をもって 行き、話しながら績んだ。 気をきかして入れ物を貸してくれる家 はいいが、そうでないときは績んだもの を手に巻いてきた。これを「テガラマク」 といった。 テガラはそのまま指からはずして、オ ンケの中へ入れておく。 手がらをまく お よ 六、麻を撚る う 績んだ糸に、クルマ(糸車)を使って撚りをかける。 ツヅネをツツネコバチ(オンケを浅くしたもの)に 入れて、上から湯をかけて湿らせ、ツモ(ツム・錘) へタグ(菅・麻ガラを5寸位に切ったもの)を差し、 撚った糸をこれに巻きつけていく。 クルマの輪と輪の間にはボロ布をチドリに掛けてあ り、それにハヤ糸(ベルト)をかけ、ツモのギリへは、 ハヤ糸を一回よじって(捩る)掛ける。よじることに よってツモは輪と反対方向にまわる。ハヤ糸は左撚り になった(撚った)ものでなければダメ。 輪はダボでまわす。ダボはにぎりやすい木(桐など) まき の棒へ斜に槙 などの堅い木の棒をつけたもので、こ ツヅネコバチより糸を引き の棒を輪の穴へさしてまわす。 出しながら撚る 右手で車を右へ7回まわして、このとき左手を長く のばして糸に撚りをかける。つぎに左へ半まわしほど 返す。このとき左足の先をちょっと上げるようにする と、糸がツモの先からはずれる。ついでまたはじめの ように右へまわすと撚りのかかった分がクダに巻きつ く。クダに巻きつけるとき左足の先にはめた針金の輪 (糸はこの輪を通っている)を左右に動かすと紡錘形 になってきれいに巻かれていく。 タテ(経糸)は7回まわすとちょうどいい撚りにな クダからワク(枠)に移す り、ノキ(緯糸)は5・6回くらいの撚りがいい。 撚りがゆるいと、 「ヒラッツオ」といって、糸がクダについてしまってもどってこない。 こうなるとやり直しがきかない。 1ツヅネでクダが11、2本になる。 クダは、大きなワク(枠)に移す。ワクはウシ(枠 台)にはめて、左手でまわしながら、右手に持った ク ダの糸を移していく。昔は1つのワクに2ツヅネを移 したが、今は、次の工程であるヘル(綜る)関係でワ ク4つのときは一ツヅネ分を、6つのワクを使うとき は、クダ8つ分位を はた 移す。つまり一機 分 のタテ糸(4ツヅネ) を、4ないし6のワ クに均等に移すので ある。 クダからワク(枠)に移す ワク(枠)のまま干す はた へ 七、機を綜る お へ はた 今までの工程では、すべて 麻 であったが、このヘル(綜る)ことから 機 にな り、ここでは「ハタをヘル」という。 昔は、ヘバシ(綜箸)を使ってワク2つで、縦にヘタものであるが、今はワク6つな らべて、めいめいの糸を高い所へ吊った鈎にくぐらせて、お互いの糸がからまないよう に扱いやすくし、ヘバタゴ(綜機)に掛けてヘル。ヘバタゴは横にして人手が少なくて もヘルことができるようにくふうした。 ヘテいって最後のところで8字形の交又をつ くる。これを「エエテ(相手)をとる」というが、 これは機にかけるとき、チキリに巻いてカナ(綜 絖)を掛けるのにつごうよくするものである。 ワク6つを同時に使うことは、六目がオサ ひとて (筬)の一手だから1回で一手分をヘルことがで きるからである。 ワク4つでヘルこともあるが、これは3回で ( 二手になる勘定だし、昔のように2つなら3回 で一手ということである。 ヘバタゴは2本の角材を巾6尺(鯨尺)の間 隔に組んで、その角材に8本の棒を5寸6分の 間隔に植えたものである。この左右へ交互にタ はた テ糸をかけていくことによって一機 分(一機は 二反)のタテ糸をヘルことができるわけである。 ひと ヘバタゴ(綜機)を使ってヘル 鯨6尺の長さを一 エロ(尋)というが、ヘタ ら一反分、つまり下から六エロいったところ(ち ょうどまん中)と、上下の端から一エロいった ところへ、一エロズミといって大根の輪切りに 鍋墨をつけたもので、それぞれに織るときの印 をつけておく。ヘ上がったものは、もつれない ようにクサッテ(鎖型に編んで)ておく。 これで へた機をクサル(鎖) お 麻 から はた 機 になった。 これを吊るして乾かす 八、機をはる はた こわ 機 にのりをつけ、糸を強 ばらせて、 けばだたないようにするとともに、す べりをよくして織りよくするのである。 まず、 ハタをニル(煮る) 大鍋半分にソバ粉(粗いほうがよい) を飯茶碗に一杯半くらい入れてのりを煮 る。煮えたったらおろして、それへ機を 入れ充分にのりを浸透させる。 ソバ粉で糊を煮る 糊付ができた ハタを糊に浸す 次に外へ出し、ハゼ棒(稲架)にか けて、別の棒を通してよく絞る。絞り 終わったら、水分をとるとともにパラ パラになるようにするために機にソバ ヌカをふりかける。 しぼる作業 クサリをほどいて、ハゼ の高い所へひろげるように して掛ける。このとき糸が 縮まないように下へ棒を通 してそれにオセ(重石)を さげてピンと張って乾す。 機はりは、これ以上ない 上天気の日でないとダメ。 朝はったものは、日が落 ちて機が湿ったところでダ ゴル(取り入れる)。日の あるうちにいじると糸が折 れる。 くい 昔は、ハゼの縦の杭 5本 を使って機を横に長くのば してはったので、杭と杭の 間ごと(4か所)に重石を さげて同時に手を放して一 斉にピンとはらしたもので、 人手が少なくとも4人いる ことになる。そこで近所へ 「ハタはるでたのむ」とか 「オセとるでたのむ」など と言って互に労力を交換し あってやったものである。 ハゼにかけて乾かす 重石をのせて一ぷく はたご 九、 機 に掛ける 機をヘタとき、エエテ(相手)をとったが、 これを頭にして、このエエテがこぼれんよう にアゼを通して、一目に一つずつ輪になった ままオサ(筬)へ通す。これをモロッツオと いうが、粗い目の布を織るときはヒトツイレ といって輪を切って一本だけ通す。 オサは糸の太さによって目の数のちがうも のを使う。太い糸なら粗い目のオサ、細い糸 ハタを巻いたチキリ なら細かい目のオサ。 オサを通した頭をタキリ(千切)の取り付け棒へ通し、その棒をチキリへくって、オ サを先へ進めながら巻いていく。このとき、のりでくっついた糸を離してオサの通りを よくするためにハタグシ(トカシ櫛)でとかしながら巻く。巻きながら糸が互いにもつ れないようにハタグサ(うすく割ったヒノキやサクラの板棒)を入れていく。 次にカナ(綜絖・あすびとも言う)を掛 ける。これはウワッツオ(上糸)とヘッツ ひ みち カナをかける オ(下糸)とが交叉して杼 道 をあける役 目をする。 カナを掛ける棒は、太いすず竹の先を 2つに割ったもので、この先端に指4本 を並べた幅の長さの管をはさみ、この竹 の上へ細いすず竹の棒をのせ、タテ糸の 1本へかけたカナをこの棒へかける。こ のカナを掛ける棒が、カナ掛けの棒であ る。 最後にハタゴ(機)のオサゾカ(筬束) へオサを掛け、ヌノマキ(布巻)へカシ はた トリを巻き、その先へ棒を通し、機 のし まいの輪を順に通す。 ハタゴをかけカシをとる これで機に掛ったことになる。オサ の一目に順序よくタテ糸がはっている かどうかを調べて正し、カナ洩れを調 べ、洩れたのは仮カナをつける。 ハタゴにかかった織り口にシシをかけてある はた お 十、機を織る まず、水の中へ入れて、ぬらしたクダをヒ (杼)に通しておく。ノキ(緯糸)である。 藤の根を5・6寸に切って先をたたいて刷 毛状にしたもので織り口に水をつけながら織 る。これは布目をつけるためと織り口がけば だたないようにするためである。 まず、左足を踏み、ヒ道をあけてヒを通し、 足を踏みかえながらオサで2回たたき、ノキ をつめる。 こんどはヒを反対方向から通して、また足 を踏みかえながらオサでたたく。これをくり かえして織っていく。 織りながらほけて出たケバ(毛羽)を鋏で 切りとったり、タテ糸が切れると、ハタジネ (織りじまいの残り糸)でつないでいく。 織り元につけた水を乾かすために足もとに ハタを織る 火ばちを入れておくこともある。 普通は2日に一反位は織る。ヘルときは半分のところへスミをつけておいたが、ここ まで織ると一反であるから、ここで切る。一機(二反)続けて織ることは布巻が太くな って織れない。織り上げることを「織り落とした。」という。 タゴにかける織り口に水をつける 足をふみかえて ヒを通す オサを打つ の の 十一 、麻布 .. 織り落としたのの(麻布)は、煮え湯につ けてのりをうかし、平らな広い石の上にのせ、 ツチ(木槌)でたたいて、のりをとる。ボン コ(空きかん)で水をかけてはたたき、たた いてはかけてソバ粉ののりを抜く。 .. のりを抜いたののは雪のある年は雪の上に さらす。こうすると布が白くなり、また柔ら かくなる。一週間か、10日もさらせば立派 .. なののになる。 雪のない年は、のりをとったあと2・3日 乾して保存し、来年の春に雪にさらした。 しかし、来年まで待てないときもあって、 そのときは、水につけては乾しすることを何 水をかけながらツチでたたいてのり抜きをする 回もくりかえして仕上げたものであるが、ど うしても布が赤くなってしまった。 ハゼにかけて乾かす 仕上がった麻布