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福岡地区における海水淡水化プラント

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福岡地区における海水淡水化プラント
福岡地区における海水淡水化プラント
無津呂雄二(福岡市役所技術士会)
はじめに
福岡都市圏では,都市機能の増大や都市化の進展による人口の増加,生活レベルの向上等に伴う
水の需要に対応するため 1973 年 6 月に福岡地区水道企業団を設立し,地域外の筑後川からの取水
を行っていたが,更に近年の少雨傾向により渇水が頻発していたことから,天候に左右されない水
源として海水淡水化プラントを建設し,2005 年 6 月に供用を開始した。
本施設は,浸透方式による取水,UF膜を用いた前処理,高淡水回収率システム,濃縮海水と下
水処理水との混合放流など,特色ある新技術を数多く取り入れており,供用開始からこれまで順調
に稼働し,都市圈への水道用水の安定供給に力を発揮している。
本稿では,福岡地区水道企業団からの聞き取りと提供を受けた資料に基づき,主に施設に導入さ
れた新技術を中心に以下に紹介する。
1,事業概要
1.1 経緯
福岡県では頻発する渇水に対応するため1997年に福岡地域広域的水道整備計画が策定され,福岡
地区水道企業団が事業主体となって海水淡水化施設を建設することを決定した。
施設規模は国内最大の日量50,000m 3 であり,これは福岡都市圈25万人分の生活用水に相当する。
その後 1999 年 3 月に厚生省の事業認可を受け,同年 4 月に着手,総事業費は約 408 億円で 2005
年 6 月に供用を開始した。 海水淡水化施設の建設にあたっては生産水の水質的な安定性が十分確
保でき,建設費,維持管理費の低減化や操作性にも優れたものとするため,民間からの斬新なアイ
デアと最新技術を取り入れた提案を公募し,最も優秀な提案を決定する公募型技術提案評価方式を
採用した。
1.2 施設の概要
・施設名
・主要施設
海の中道奈多海水淡水化センター
取水施設,プラント施設
放流施設,混合施設,導水施設
・生産方式
逆浸透方式
・生産水量
最大
・事業年数
1999 年度~2004 年度
・事業費
50,000m 3 /日
約 408 億円(実績)
図-1 海の中道奈多海水淡水化センター
2,処理フローの概要
図-2に示すように,まず,原水となる海水は海底を掘削して設置された集水管より取水される。
ここで海水は海底の砂を浸透することにより夾雑物や粗大濁質分がろ過され,(図-3)清澄な海
水の取水が可能となる。 次に取水された海水は「海の中道奈多海水淡水化センター」へと導水され
る。
1
海水淡水化センターでは最初にRO膜処理の前処理としてのUF膜ろ過装置で数~数十nm程度
以上の微細濁質粒子がふるい分けられる。
図-2 システムフロー図
一般にRO膜を用いた海水淡水化
システムは,微生物が膜内で繁殖した
夾雑物 ,
粗大濁質
り,膜面に生物や濁質が蓄積し性能が
微細濁質
微細濁質
低下しないよう,砂ろ過設備等の前処
水
水
理で海水中の汚れを十分に除去して
おくことが重要である。 本施設は世
水
ほう素
ほう素
ほ う
塩
塩
水
水
ほう素
塩
界で初めて浸透方式の取水を採用し,
前処理をUF膜とすることにより十分
浸透砂層
に清澄な海水を得ることができ,安定
UFろ過膜
高圧RO膜
低圧RO膜
図-3 淡水化過程の模式図
運転を実現している。
次にRO膜へと前処理された海水が供給されるが,本施設のRO膜処理装置は1段目の高圧RO
膜で脱塩処理した後に,その透過水の一部を再度,低圧RO膜で処理する2段RO膜処理システム
を採用している。
その理由は水道水質基準のホウ素の除去が高圧RO膜では十分ではないため,
高圧RO膜処理水の一部を低圧RO膜でホウ素を除き,更に生産水と通常の陸水系の浄水をブレン
ドすることにより経済性と処理水質の両立を図るためである。
表-1に使用膜構成を示す。
表-1 使用膜構成
3,各プロセスの概要
3.1 取水(浸透取水)
取水は,玄界灘の沖合 640m,水深約 11mの地点から行っており,海底を掘削し底部に砂利を,
その上部に砂を敷き詰め,砂の下に穴の空いた集水管を敷設することできれいな海水を取水できる
ようにしている。
最大取水量は日量 103,000m 3 で,取水による砂の目詰まりを抑えるため砂層
のろ過速度を最大 6m/日となるように,取水面積を約 20,000m 2 という広さで取水している。
2
ポリエチレン製
φ 600 m m × 3600
図-4 浸透取水施設のイメージ図
図-5 取水管
この方式の採用により,砂層による緩速ろ過の生物処理効果が期待でき,清澄度が高い海水
(SDI値 2.5 以下)を安定して取水できる。 また,波と潮流の影響を受け,砂の表層部が自然
な状態で洗浄作用を受けることにより,砂のろ過損失は上がっておらず,現在まで殆ど目詰まりは
発生していない。
その他,海中に構造物が露出しないため漁業や船の航行の妨げや,強い波浪による構造物の被害
が避けられ,また,魚の卵や海草などを取水管に吸い込むことがなく,漁業や海洋生物の生態系へ
の影響を軽減できる,取水管内へ付着するフジツボやイガイの卵なども砂でろ過されるので,管内
の清掃作業などの維持管理が簡略化されるという多くの利点がある。
3.2
前処理(UF膜処理)
取水した海水の前処理には,一般に用いられる
砂ろ過装置ではなくUF膜を採用しており,通常
の凝集沈澱ろ過と比べ凝集剤が不要で,汚泥の発
生もなく,コンパクトで敷地面積も小さくてすむ
利点がある。
UF膜には,耐塩素性,耐薬品性に優れたポリ
フッ化ビニリデン(PVDF)製スパイラル膜を採用
しており,効果的な薬品洗浄が実施でき,清澄な
海水を逆浸透膜に安定的に供給することで逆浸
図-5 UFろ過膜
透膜のファウリングを抑えることができる。
3.3
逆浸透(高圧RO膜十低圧RO膜処理)
本施設では,逆浸透として高圧RO膜に加え低圧RO膜を使用する2段RO膜処理システムとし
ている。 建設当時,日本近海の塩分濃度で海水から淡水を取り出せる割合(逆浸透膜装置回収率)
は 40%が一般的であったが,本施設では回収率を 60%に向上させた。
この回収率は,現在でも
世界最高レベルであるが,これにより取水する海水量が少なくて済み,また前処理施設なども縮小
できるため,低コストにつながっている。
①高圧RO膜
高圧RO膜のユニットは 5 基あり,各 10,000m 3 /日の真水を生産する能力を有している。
3
使用する高圧RO膜は三酢酸セルロース製で大
型(φ10 インチ)膜エレメントであり,最大操作圧
力は約 8.2MPa である。 耐塩素性があるためバイ
オファウリング対策として 10 日間に 1 回程度の間
欠塩素処理で済んでおり,逆浸透膜の懸念事項であ
るバイオファウリングは,現在までのところ発生し
ていない。
これは,浸透取水による原水の取水と前処理とし
て U F 膜 を用 い る こ とに よ り 水 質的 に 極 め て安定
していることが効果を生んでいるものと思われる。
図-6 高圧RO膜
②低圧RO膜
高圧RO膜の処理水の一部は更に低圧RO膜で処
理しホウ素を除去している。
一般的に逆浸透膜に
より除去する物質の中で特にホウ素は中性付近で
分子状態で存在するため除去が困難である。
当施
設では高圧RO膜の後段でpHを高くし,ホウ素を
イオン状態にして高pHに耐える低圧RO膜によ
り除去している。
なお,低圧RO膜のユニットは5基あり,生産水
量,高圧RO膜透過水の水質に応じて,運転基数を
調整しており,更に低圧RO膜での濃縮水をUF膜
図-7 低圧RO膜
ろ過水槽に返送し,回収率の向上を図っている。
3.4
陸水との混合による配水
できあがった真水は,河川水を浄水処理した水と場外の施設で混合している。
この理由は,ミ
ネラル分や味を通常の水道水に近づけることがひとつと,陸水とのブレンドによりホウ素を水質基
準値である 1.0mg/L 以下にするためである。 これにより,生産水へのミネラル添加量を抑える
ことができるとともに生産水段階でホウ素を水質基準値以下とする必要がなくなるため,結果的に
低圧RO膜への透過水量を抑えることができ,コスト低減が図れている。
3.5
省エネ機器
本施設では,省エネ対策として高効率変圧器及び
高効率型電動機を採用しているほか,ポンプやファ
ンのインバーター化を図っている。
また,海水淡水化プラントの特徴的なものとして,
濃縮海水をそのまま海に放流するのではなく,濃縮
海 水 に 残 った 高 い 圧 力を 利 用 し ペル ト ン 水 車を回
転させ,高圧ROポンプの補助動力として利用する
ことで,高圧ROポンプで使用する電力の約 20%を
削減している。
(図-2 システムフロ-図)
図-8 ペルトン水車
4
3.6
濃縮海水の放流(博多湾の水質保全)
海水から真水を取り出した残りの濃縮海水は,取水箇所である玄界灘ではなく博多湾に放流して
いる。 この目的は,フレッシュな濃縮海水を常時博多湾に流すことで,閉鎖性海域である博多湾
の水質保全に寄与するためである。また,放流にあたっては近くの下水処理場で処理された放流水
と混合し,塩分濃度を薄めて放流することにより環境への影響を抑えるよう工夫している。
なお,現在,国の補助を受けて,当施設で放流濃縮海水と下水処理水との濃度差を利用した発電
の技術開発実験を大学,プラントメーカー,膜メーカーの共同で取り組まれている。
4,おわりに
RO膜処理による海水淡水化技術は従来の蒸発法に比べ,エネルギー消費が少なく,運転や維持
管理が容易で装置がコンパクトになるという特性から1990年代より急激に普及し,その技術開発も
急速に進んでいる。 当海水淡水化センターも2005年の供用開始時には世界でも大規模な施設の一
つであったが,現在では1日最大10万m 3 以上の規模の施設が数多く建設されている。
しかし,本稿で紹介した技術は今でも世界の中でも特色あるものが多く,今後の建設にあたって
十分,参考となるものと思われる。
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