Tailor-made tricalcium phosphate bone implant directly fabricated by
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Tailor-made tricalcium phosphate bone implant directly fabricated by
●第 45 回日本人工臓器学会大会 論文賞(広領域)受賞レポート Tailor-made tricalcium phosphate bone implant directly fabricated by a three-dimensional ink-jet printer 東京大学大学院医学系研究科感覚・運動機能医学講座口腔外科学 井川 和代,望月 学,杉森 理,清水 康太郎,山澤 建二,川口 浩,中村 耕三, 高戸 毅,西村 亮平,鈴木 茂樹,安斎 正博,鄭 雄一,佐々木 伸雄 Kazuyo IGAWA, Manabu MOCHIZUKI, Satoshi SUGIMORI, Koutaro SHIMIZU, Kenji YAMAZAWA, Hiroshi KAWAGUCHI, Kozo NAKAMURA, Tsuyoshi TAKATO, Ryouhei NISHIMURA, Shigeki SUZUKI, Masahiro ANZAI, Uung-il CHUNG, Nobuo SASAKI 一方,コンピュータ技術の進展により,立体的構造物を 1. 緒 言 作製する技術が飛躍的に発展した 5) 。その一つである三次 高齢化社会において,骨の加齢性疾患は社会的に大きな 元積層造形法は,1980 年代に登場した新しい成型の手法で 問題であり,骨再生医学への期待が高まっている。骨欠損 あり,ある構造物の Computed Tomography(CT)画像など の対処法として,患者本人から自家骨を採取して補填・再 から得られた三次元 Computer Aided Design(CAD)データ 建する自家骨移植方法がゴールドスタンダードであり, を基に,これをきわめて薄くスライスした平板としてデー 。しかし,自家骨を タ化し,それを積み上げることにより立体構造物を造形す 採取する際の外科手術に伴う健常部への侵襲,疼痛,二次 る技術である。この方法は,三次元構造物を正確かつ大量 感染や採骨量の制限などが大きな障壁となるため,自家骨 に造形できることなどの理由から,様々な工業製品などの 。欧米では同種骨 設計や試作品などに幅広く用いられている。三次元積層造 が用いられているが,日本国内では入手の困難性や感染な 形法の 1 つであるインクジェット技術は,高速,高精度に どの危惧もあり普及していない。このような状況下で,人 インクを打ち出し,高解像度に対象物を印刷することが可 様々な症例において実施されてきた 1) に替わる材料の開発が進められてきた 2) 工骨の材料への社会的期待は高く,開発が進められてきた。 能なため,近年,バイオテクノロジーや医療分野での応用 人工骨の材料として,従来,セラミックス,高分子化合物, が期待されている。そこで,3D インクジェットプリンター 金属などが用いられてきたが,1980 年代になると骨塩に近 を用いることで,CT 画像を基に骨欠損部位と一致した形 い組成であるハイドロキシアパタイト(HAp)を中心とし 状の人工骨の作製を可能とし,さらに新生骨の形成が有利 たリン酸カルシウム系材料が,生体親和性に優れ,骨伝導 となるような内部構造をデザインすることで,自家骨への 能を有するなどの理由から注目を集め,幅広く臨床応用さ 置換を促進し,理想的な人工骨が作製できると考えた。 れるようになった 3) 。初期は非吸収性緻密体のブロックや 顆粒が開発され,近年は多孔体のような高機能を付与した 材料,生体に吸収され骨に置換する材料,自己硬化型のペー スト人工骨などが実用化されるようになってきた 4) 。しか 2. 目 的 CT 画像データを基に,α型リン酸三カルシウム(α-TCP) 粉体を 3D インクジェットプリンターを用いて直接積層造 しながら,これまでの人工骨は三次元的な形態の自由度, 形したテーラーメイド人工骨「CT-Bone」を作製し,大動物 精度は満足のいくものではなかった。そのため,形態適合 (ビーグル犬)の骨欠損モデルにおける安全性と有効性を 性や操作性,その結果として治癒が犠牲になっていた。 3. 方 法 ■著者連絡先 東京大学大学院医学系研究科感覚・運動機能医学講座口腔 外科学(〒 113-8655 東京都文京区本郷 7-3-1) E-mail. [email protected] 14 評価した。 1)動 物 11ヵ月齢∼ 2 歳 10ヵ月齢(平均 1 歳 10ヵ月齢)の健常な 人工臓器 37 巻 1 号 2008 年 図 1 3D インクジェットプリンターでの造形方法 ビーグル犬 7 頭(雄 3 頭,雌 4 頭)を実験に供した。体重は 9.3 した後,頭蓋骨表面を露出し,外後頭隆起を基準にノギス ∼ 14.8 kg(平均 11.8 kg)で,実験に先立って行った身体検 で正確に長さを測定しながら,ラウンドバーで位置決めし, 査,血液検査,および血液化学検査で全頭とも異常は認め サジタルソーで骨を切除し,骨欠損部位を形成した。生理 られなかった。 食塩水で骨欠損部周囲と人工骨を洗浄し,右側に CT-Bone 2)人工骨の作製 を,左側に対照として HA を移植した。その後,側頭筋,そ まず,鎮静下で,手術前の各ビーグル犬の頭部をスライ の上層の薄い筋層,皮下織,皮膚を縫合した。 ス厚 1 mm,120 kV,180 mA という条件で CT 撮影した。 4)一般所見の検討 骨欠損モデルの大きさは 1 辺 15 mm の正方形と決め,部 術後の一般状態は臨床的に評価した。触診や歩行状態と 位は外後頭隆起を基準に水平方向 25 mm,左右 15 mm の いった全身状態を検査するとともに,CT-Bone 移植に伴う 位置を中心として設定した。得られた CT データを三次元 異常の出現を検査する目的で血液検査を実施した。血液検 CAD データに変換後,欠損作成予定部位のデータを切り 査 は 4 週 ご と に 行 い,全 血 球 算 定,血 液 化 学 検 査(TP, 出した。CT-Bone の内部構造として,直径 2 mm の円柱状 GPT,ALP,BUN,クレアチニン)および電解質(Na,K, のマクロ連通孔を吻尾側方向に 3 本,またそれに直交する Cl)を測定した。また,術後 1 週ごとに CT 撮影を行い,術 方向に 3 本,計 6 本設計した。これらのデータを基に 3D 後 24 週(n = 7)に標本採取を行い,組織学的変化について インクジェットプリンターを用いて,CT-Bone を造形し 検討した。 た(図 1)。用いた粉体はα -TCP であり,硬化剤はコンド ロイチン硫酸 4%,コハク酸−コハク酸二ナトリウムを 12%,蒸留水 84%混和液である。一方,対照として用い 4. 結 果 1)人工骨の作製 た人工骨は多孔性焼結ハイドロキシアパタイト(HA)(ア CT-Bone はもともと,形状が欠損部とよく一致している パセラム ®,ペンタックス)であり,これを徒手切削加工 のみならず,手術中もラウンドバーなどによる切削整形で した。 容易に微調整でき,欠損部への適合もスムーズに実施でき 3)骨欠損作製と移植方法 た。また手術中の操作のための強度も十分であった。しか すべての実験犬に対して,頭部に左右 2ヵ所の骨欠損部 し HA は厚く,またその硬さゆえ,欠損部に適合させるた を形成し,右側に CT-Bone,左側に対照として HA を移植 した。動物を腹臥位に保定し,頭頂部皮膚,側頭筋を切開 めの術中の切削整形は困難であった。 血液検査では,臨床的異常値は見られなかった。 人工臓器 37 巻 1 号 2008 年 15 2)CT 所見 CT 所見の変化に関しては,いずれの CT 像においても, 6. 独創性 CT-Bone のマクロ連通孔の縮小が徐々に進行したのに対 人工骨に求められる要件として,①生体親和性があるこ し,HA ではほぼ一定した所見で,大きな変化は見られな と,②細胞の伝導性のあること,③骨欠損部形状の再現性 かった。また,CT-Bone では 3 週目以降で骨断端との間に が高いこと,が挙げられる。 骨性架橋を形成するものが認められたのに対し,HA では ①生体親和性が高い材料として,HAp や TCP が報告され ている。そこで,生体活性な HAp 前駆体で,生体内で吸収 骨断端との架橋は見られなかった。 CT 値の変化に関して,CT-Bone では,いずれも移植後か 置換されて自家骨に置き換わるα-TCP を材料として,イン ら上昇し,24 週には約 300 ∼ 600 HU 上昇した。一方,HA クジェット技術を用い,直接,三次元積層造形することを については移植後ほとんど変化を示さなかった。 思いついた。②吸収性人工骨は,埋植初期には生体内であ 3)組織学的所見 る程度の力学的強度を有し,速やかにリモデリングを受け CT-Bone では,人工骨周囲に広汎な膠原線維の増生が認 ながら,ホスト由来の骨組織へと置換されるものが理想的 められた。さらに,血管の侵入が見られ,TRAP 染色で人 である。そこで,人工骨の気孔率を維持しながら,細胞の 工骨周囲に TRAP 陽性細胞が認められた。骨断端と人工骨 伝導能を増加させるために多孔間の連通性を改善させるデ の接合部では,連通孔内に膠原線維が侵入し,その一部は ザインを人工骨に施した。③ X 線 CT 画像から骨欠損部の 骨化され,骨髄組織の形成も認められた。連通孔内では, 形状を三次元 CAD で作成するため,骨欠損部形状と同一 膠原線維に加えて,骨組織ならびに骨髄組織が形成されて の外部形状を得られる。 いた。さらに骨髄組織からは CT-Bone 実質内に骨組織や膠 以上 3 要件を満たす理想的な人工骨を,3D インクジェッ 原線維などの組織が大量に侵入しており,巨核球と赤芽球 トプリンターで直接造形できることは,世界的に見ても独 が認められた。他方,HA では,HA の多孔構造内に膠原線 創的な研究である。さらに,生体材料を変えることで,他 維を主体とする組織が侵入する島状の組織が認められた。 臓器にも応用できる可能性があり,医歯学,生物学,工学 この部位の TRAP 染色では,膠原線維が人工骨実質と接す 全体に与える影響は大きい。 る部位の一部に TRAP 陽性細胞の活性が認められた。また, 膠原線維と人工骨の間にわずかながら骨形成も認められ た。 5. まとめ インクジェット方式で作製した CT-Bone は,骨欠損部位 にほぼ完全に合致する形態で人工骨を作製することがで き,従来の人工骨のような徒手切削を必要としない。さら には,連通孔などの内部構造も自由に付与することができ る。また,粉体を焼結していないため,吸収・置換にも優 れていた。現在の強度から,四肢などの荷重部への移植に はさらなる材質の改善が必要であるが,頭蓋骨や顔面骨な ど,本来の骨形態への修復が重要な部位への移植には最適 であり,今後の臨床応用が期待される。 16 文 献 1) Tessier P, Kawamoto H, Matthews D, et al: Autogenous bone grafts and bone substitutes ̶tools and techniques: I. A 20,000-case experience in maxillofacial and craniofacial surger y. Plast Reconstr Surg 116 (5 Suppl): 6S-24S; discussion 92S-94S, 2005 2) Eppley BL, Pietrzak WS, Blanton MW: Allograft and alloplastic bone substitutes: a review of science and technology for the craniomaxillofacial surgeon. J Craniofac Surg 16: 981-9, 2005 3) Ambard AJ, Mueninghoff L: Calcium phosphate cement: review of mechanical and biological proper ties. J Prosthodont 15: 321-8, 2006 4) Kenny SM, Buggy M: Bone cements and fillers: a review. J Mater Sci Mater Med 14: 923-38, 2003 5) Yeong WY, Chua CK, Leong KF, et al: Rapid prototyping in tissue engineering: challenges and potential. Trends Biotechnol 22: 643-52, 2004 人工臓器 37 巻 1 号 2008 年