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高速列車用光空間通信システムにおける CMOSカメラを使った追尾手法
高速列車用光空間通信システムにおける CMOS カメラを使った追尾手法 森 康祐 † 春山 真一郎 †† 金子 晋丈 † † † 寺岡 文男 † † † † †† 慶應義塾大学大学院理工学研究科 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 ††† 慶應義塾大学理工学部 概 要 筆者らは高速列車に広帯域なインターネット環境を提供するために赤外線を使用した光空間通信システムを開発している.筆者ら が開発した既存の通信装置は QPD (Quadrant Photo Diode) を利用して相手通信装置を追尾するが,QPD の性質上高速なハンド オーバが実現できなかった.そこで本稿では QPD の代わりに CMOS カメラを粗追尾に利用する手法を提案する.CMOS カメラに より相手装置の画像上での座標を得ることが可能となり,ハンドオーバ時に素早く相手装置の追尾を開始できる.提案手法を既存の 通信装置に実装し,最高 120km/h で走行する自動車と地上間でのハンドオーバを含む通信性能を測定した.その結果,提案手法で最 短約 40ms でハンドオーバできることが分かった. キーワード 光無線通信,赤外線,ハンドオーバ,追尾 1 はじめに 䜲䞁䝍䞊䝛䝑䝖 近年,情報ターミナル装置の開発や高速通信インフラの 整備が進んできている.特に携帯電話を中心としてモバイ ⥺㊰ἢ䛔䛾 ㉥እ⥺㏻ಙ⨨ ษ䜚᭰䛘 ル通信環境は広く行き渡り,高速な通信インフラを屋外で 使用できるサービスも増加してきた.携帯電話事業者は無 㧗㏿ิ㌴ୖ䛾 ㉥እ⥺㏻ಙ⨨ 線 LAN アクセスポイントを設置するなどして,データ通 信のオフロードを図るなどの対策をしている.現在の新幹 ิ㌴ ิ㌴ 300km/h 図 1: 列車地上間光無線通信の概略 線では携帯電話網を使用することで各利用者が個別にネッ トワークに接続することが可能である.しかし,多くの利 用者が新幹線の中で携帯電話網を使っている場合,基地局 る.光空間通信は様々なものが提案されてきている [2][3][4]. 間との切り替え (ハンドオーバ) がその利用者の数だけ一斉 しかしビルの屋上間などの固定間 [5],もしくは 1 対 1 の衛 に起きることになってしまう.ハンドオーバの集中により 星間 [6] ではよく行われてきたが,移動しながらつぎつぎに 通信の切断や品質・速度の低下が予想され,よって新幹線 対向装置を切り替える方式は他に見られない.列車と地上 内のネットワーク利用者が個別に携帯通信網などを使用す 間で赤外線通信を行う際には,高速に移動する列車上の通 るのは不適切と考えられる.また,東海道新幹線では列車 信装置が地上側の装置を切り替えて通信を継続することが と地上間の通信に漏洩同軸ケーブルから漏れる電波を利用 求められる.筆者らが開発した既存の通信装置ではおおま しているが,帯域は列車 1 編成あたり下りが 2Mbps, 上り かな追尾 (粗追尾) に広角 QPD (Quadrant Photo Diode) が 1Mbps と非常に低速である. を,正確な追尾 (精追尾) には望遠 QPD を用いていたが, 後述する QPD の特性上,高速なハンドオーバの実現が難 そこで筆者らは,列車と地上間の通信方式として赤外線 しかった. レーザを用いた光空間通信システムを提案している [1].提 案システムの概要を図 1 に示す.提案方式においては地上 本稿では粗追尾に CMOS カメラで得た画像を使うことで 側の通信装置と列車側の通信装置は対になり,1Gpbs 程度 より高速なハンドオーバを図り,既存の通信装置を改造し の通信が可能となっている.乗客の端末は列車に設置された た.また自動車のテストコースにおいて最高 120km/h で走 無線 LAN アクセスポイントに接続し,この無線 LAN アク 行する自動車でのハンドオーバ実験を行い,高速なハンド セスポイント群は列車に取り付けられた通信装置に接続す オーバを確認した. 1 ㉥እ⥺⨨ ᑐྥᶵ 䝡䞊䝁䞁ග C D VA VB VC VD 図 4: QPD の概念図 ㉥እ⥺ ㏦ಙ㒊 吪呎吊呉 ㏦ಙ㒊 データ送信用赤外線レーザは,波長 750nm,クラス 1M1 , 出力は 10mW である.ビーコン用赤外線は波長が 850nm 䝥䝸䝈䝮 であり,周波数は移動局は 45kHz,地上局は 30kHz である. ㉥እ⥺ ཷಙ㒊 ビーコン光を検出するために,本装置では広角 QPD と ᗈゅQPD 望遠 QPD を用いている.広角 QPD を使用して相手通信 ᮃ㐲QPD 㥑ື Linux 䝪䞊䝗 B ฟຊ㟁ᅽ ㉥እ⥺ : 785nm 䝡䞊䝁䞁 : 850nm 2㍈䝭䝷䞊 A 装置を大まかに捕らえ (粗追尾),次に望遠 QPD に制御を 移して相手通信装置を高精度に追尾する (精追尾).QPD と QPD䛛䜙䛾䝣䜱䞊䝗䝞䝑䜽 は,1 チップ上で直径 1mm の受光面を 4 分割したフォトダ 図 2: 従来通信装置 イオードである.4 分割されたそれぞれの面に対して,入 射光の強さに応じた電圧をそれぞれ独立に検知することが 可能である. QPD の概念図を図 4 に示す.ビーコン光は広角もしくは 望遠レンズを通過して QPD 上に結像する.QPD の 4 つの 出力を基にして水平方向と鉛直方向の出力差分 D1 ,D2 を 求め,式 1,式 2 のようにして角度調整を行う.ここで ∆θ は調整角度を,V は図 4 における 4 つの受光部の出力電圧 を,P は制御用の定数を表す. 図 3: 従来通信装置外観 ∆θx = P × D1 = P × {(VA + VC ) − (VB + VD )} (1) ∆θy = P × D2 = P × {(VA + VB ) − (VC + VD )} (2) すなわち,出力差分を入力とした比例制御によりミラーの 角度制御を行い,ビーコン光の結像が QPD の中心に来る 従来の追尾方式 2 ように水平方向・垂直方向の2軸でミラー角度を操作する ことで追尾する. 本章では,筆者らが開発した従来の通信装置について,追 尾方式とハンドオーバ方式について述べる. 2.2 2.1 Linux ボードによる 2 軸ミラー駆動制御 通信装置内には Linux ボードが組み込まれ,広角 QPD お 従来通信装置の構成 よび望遠 QPD の出力電圧を入力として 2 軸ミラーを制御 図 2 に従来通信装置の全体の模式図を示し,図 3 にその している.図 5 にハンドオーバ検出を含めた追尾アルゴリ 外観を示す. ズム全体のブロック図を示す.移動局は基本的に広角 QPD 提案システムでは同じ構成の通信装置を対向で使用する. での粗追尾の後,望遠 QPD での精追尾へと移行する.一 列車に設置した通信装置を移動局,地上に設置した通信装 方地上局は移動局を捕捉したらそのまま追尾し続け,移動 置を地上局と呼ぶ.通信装置は,データ送信用赤外線レーザ 局からのビーコン光がとぎれるまで追尾を続ける. 送信器と LED を使用したビーコン用赤外線送信器の 2 種類 の赤外線送信器を有する.相手通信装置が発するビーコン 用赤外線を 2 軸ミラーで追尾することにより,データ送信 用赤外線レーザを赤外線受信部に受けるようになっている. 1 JIS C 6802 で規定されるレーザ光の安全基準.クラス 1 からクラス 4 まで 7 段階あり,クラス 1M は最も安全なクラスから 2 番目. 2 㛤ጞ yes no 表 1: CMOS カメラの仕様 センサのテクノロジ 0.18CIS-P1M6 ᗈゅ䛷᳨▱䠛 ᮃ㐲䛷᳨▱䠛 ᮃ㐲䛷᳨▱䠛 ᗈゅ䛷㏣ᑿ ᗈゅ䛾ᕪศ䛜 ୍ᐃ್௨ୖ䠛 ᮃ㐲䛷㏣ᑿ ᮃ㐲䛷㏣ᑿ 画素数 512 × 480 ピクセルサイズ 30 μ m × 30 μ m チップサイズ 7 mm × 7 mm フレームレート 20 fps 出力データ 14bit ミラー角度が,現在の角度からどの方角にあるのかという ᮃ㐲䛷㏣ᑿ 情報しか得ることができない.よってわずかに目標方向に ୍ᐃ㛫⤒㐣䠛 ミラーを駆動しては QPD のセンサの出力を確認すること ᗈゅ䛷㏣ᑿ を繰り返さざるを得ず,結果としてハンドオーバ時間が長 くなってしまう.従来通信装置でのハンドオーバ時間はお よそ 60 ms[1] である.一般的に,Skype のようなインタラ 図 5: 従来方式のフローチャート (文献 [1] からの引用) クティブな音声通信は通信途絶時間に対する要求が厳しく, 2.3 Skype の場合,IP レベルでのハンドオーバ時間を 20ms 以 下にする必要がある [7]. 従来方式によるハンドオーバ 次に,改良前の方式を用いたハンドオーバの方法につい て説明する.ハンドオーバ直前から直後までの,QPD 上に 改良方式 3 入射したビーコン光と QPD 出力の変化を追って考えてい く.始めはまだハンドオーバ先のビーコン光が検知されて 粗追尾に広角 QPD を使用したハンドオーバ処理は,QPD おらず,広角・望遠どちらの QPD の中心部にもハンドオー では目標とするビーコン光の方向のみしかわからないこと バ元のビーコン光が入射している.そのため両方の QPD から高速化に限界があった.そこで改良方式では,CMOS ともに4つの出力は安定している.このとき,移動局は望 カメラを粗追尾に用いることで対向装置のビーコン光の位置 遠 QPD による精追尾を行う.次に列車が移動し,ハンド を取得しハンドオーバ処理の高速化を図る.本章では,ビー オーバ先のビーコン光が広角 QPD に入射する.すると望遠 コン光を画像として得る方法,精度を上げるための画像処 QPD 出力は安定したままだが,広角 QPD の出力値が安定 状態から外れる.広角 QPD の水平または鉛直の差分信号 の絶対値を閾値判定することで,新しい基地局のビーコン 光の検知,つまりハンドオーバの検知を行う.ハンドオー バ検知後は広角 QPD による粗追尾を行う.するとビーコン 光の強度差から,ミラーはハンドオーバ先の基地局のビー コン光の方向に移動し,最終的にハンドオーバが完了する. 理について述べ,最後にそれらを使った追尾手法およびハ ンドオーバ手法を示す. 3.1 改良通信装置の構成 図 6 に CMOS カメラを搭載した通信装置の模式図を示 す.改良通信装置では,広範囲においてビーコン光のおお まかな位置を捕捉する粗追尾に CMOS カメラを使い,狭い 2.4 範囲の正確な精追尾に望遠 QPD を使う.CMOS カメラは 従来方式の問題 その表面に光を読み取る極小サイズのセンサが並んでおり, 従来の追尾システムには大きく分けて 2 つの問題が存在 それぞれのセンサの位置と読みだした光量から画像データ する.1 つ目はビーコン光の位置と数が識別できないこと が作られる.図 7 に CMOS カメラを搭載した通信装置の外 である.QPD はビーコン光の強い方向を示すのみであり, 観を,表 1 に今回使用した CMOS カメラの仕様を示す. 光源が複数ある場合は光量の合計のみ検出し,区別できな い.また次のハンドオーバ先の通信装置の位置を検出でき 3.2 ないため,予測による制御やネットワークへの通知もでき TOF センサを利用したビーコン光の捕捉 改良通信装置では TOF (Time of Flight) センサを利用し ない. てビーコン光を捕捉し,その強度と位置を測定する.これ 2 つ目はハンドオーバ時間がかかることである.これは 粗追尾も精追尾も QPD を使用しているため,目標とする はビーコン光は太陽光など背景光からの影響を減らすため 3 通信装置 ㉥እ⥺⨨ ᑐྥᶵ ㉥እ⥺ : 785nm 䝡䞊䝁䞁 : 850nm ㉥እ⥺ ㏦ಙ㒊 吪呎吊呉 ㏦ಙ㒊 CMOSカメラ視点 図 8: ビーコン画像 䝥䝸䝈䝮 CMOS䜹䝯䝷 ㉥እ⥺ ཷಙ㒊 0 2㍈䝭䝷䞊 ᮃ㐲QPD ゅᗘㄪᩚ ⏬ീฎ⌮⏝ PC Linux 䝪䞊䝗 理想的なビーコン画像 実際に得られた画像 QPD䛛䜙䛾䝣䜱䞊䝗䝞䝑䜽 図 6: 改良する通信装置 3 3 CMOS䜹䝯䝷 2 2 2 2 2 2 2 2 1 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 図 9: 囲まれた部分の補完 る.図 8 に列車上の通信装置から地上側を見た光景と理想 的な画像および実際に得られる画像を示す.比較すると,実 際に得られる画像ではビーコン光の中央部分が検知できて いない.これはビーコン光の中央部の光強度が非常に強く, 図 7: CMOS カメラを搭載した通信装置 に変調されており,CMOS センサでは捕捉できないからで ある.TOF センサはセンサ本体に内蔵した近赤外 LED か ら照射される赤外光が対象物に反射して,センサで観測さ れるまでの時間を計測することで距離を計測するものだが, 改良通信装置ではこの本来の使い方はせず,TOF センサが 感応する波長をビーコン光の波長に設定することで,ビー コン光強度を観測できる.また各 CMOS 素子に TOF セン サが対応付いているため,ビーコン光強度画像 (=変調光強 度画像) を取得でき,ビーコン光の位置も捕捉できる. 3.3 画像処理によるビーコン光の位置特定 改良通信装置では CMOS カメラを用いて画像上におけ るビーコン光の位置を特定する.しかし得られる画像が理 想的なものでないため,画像処理による補完が必要である. 以下では予め,変調光強度画像を境界値で 2 値化して考え 4 CMOS カメラのセンサが飽和しているためだと思われる. またビーコン光の円周部分の一部が切れることもある. 実際に得られた画像を理想的な画像に近づけるために,ラ ベリングとピクセル補完の 2 つの画像処理を施す.まず 8 近傍 (横・縦・斜め) で隣接するピクセルは同じラベルに属 するものとみなし,ラベリング処理を行う.次に上下もし くは左右がもし同じラベルで囲まれている区間があるなら ば,その区間も同一ラベルで補完する.図 9 の赤い矢印が 上下もしくは左右が同じラベルで囲まれている部分の一例 を示す. 以上の画像処理の結果が図 10 である.ラベリングするこ とでそれぞれのビーコン光強度をピクセル数で表すことが 出来るようになり,ピクセル数が多いものは近く,少ない ものは遠いという判断が下せるようになる.また本稿では 3 ピクセル以下のものはカメラのノイズであるとして除去 するようにしている. 0 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 d2 = 2 m / tan(8.5°) d1 = Vtrain× (1 / 20 fps) m = 13.8 m 1 2 2 2 2 2 2 2 m 8.5° 2 2 2 2 2 θ 列車の速さ : Vtrain! フレームレート : 20 fps θ = tan-1(2 m / (d1+d2)) 図 11: 移動する装置と地上装置の位置関係 256 pixels 図 10: 画像処理完了後 中心 8.5° 3.4 フレーム間のラベル同定 θ P m! ラベルは 1 フレームごとに更新されるので,現在どのビー コン光を追尾しているのか,もしくはどのビーコン光はす でに追尾し終えたかを記憶しておくことはできない.そこ 図 12: 画像上の 1 フレームに動く最大ピクセル数 で本稿ではフレーム間で位置が近いラベルは同じものとみ なすこととし,1 フレーム間に画像上で何ピクセルまで移動 しても同一扱いするのかを以下のように計算する.図 11 に 角内のビーコンの速度や移動の変化については特に考慮し 移動局と地上局の位置関係を示す.ここで列車は 100km/h ていないが,列車のカーブはそれほど急ではないことに加 で走行するものとする.CMOS カメラの視野角は 17 度程 え,CMOS カメラ 1 フレームにつき時速 300km/h の列車 度なので,中央から左右 8.5 度までに存在する地上局を見 でも 2.7m 程度しか進まないことから,それほど影響は少な つけることが出来る.視野の端に存在する地上局の方が視 いものと考えられる. 野の中央付近に存在する地上局より画像上での移動量が大 きくなる.ここで地上局が CMOS カメラの視野ギリギリに 3.5 現れたとすると,移動局が進む直線上における,1 フレー ム前と後での装置間の距離 (d2 および d1+d2) を求めるこ 画像処理によってビーコン光の識別が可能となったので, とが出来る.図 11 にその計算結果を示す.またこの結果か 次はその位置にミラーを向ける手法を考える.その際,画像 ら,CMOS カメラ上での 1 フレーム後での地上装置の角度 上のビーコン光座標とミラー角度の対応関係を事前に行っ を表すことが出来る (図 11 中のθ).ちなみにここでは移動 たキャリブレーションによって計算する.ミラーは 2 軸で 局から見た角度と画像上の位置の差は単純な比例関係にあ 動くので,それぞれを X 方向と Y 方向として図 13 と図 14 るとしている.次に地上局が 1 フレーム後に画像上で移動 にキャリブレーションの結果を示す.図の横軸は画像上で する最大ピクセル数 Pm を概算する.図 12 にその様子を示 の座標を表し,縦軸は横軸が表す座標へミラーを向けるた す.地上局は始めは視野の端にいたのだから画像中央から めに駆動装置に入力する電圧値である.グラフの縦軸であ 8.5 度の位置.1 フレーム後は図 11 のθを計算して,画像 中央から約 7.5 度の位置に存在することになる.画像は水 平半分が 256 ピクセルで,これが視野角である 8.5 度に相 当するので,1 フレームあたりの移動ピクセル Pm は, P m = 256 × (1 − 7.5/8.5) = 30.117... ビーコン光座標とミラー角度の対応付け るミラー制御用 D/A 変換値は,Linux ボードから送られて D/A コンバータによってミラーを動かす電圧になるもので ある. キャリブレーションは以下のように行った.まず望遠 QPD で相手通信装置を追尾した状態を維持し,通信装置を上下 あるいは左右に回転し,CMOS カメラで捉えたビーコン光 座標とその瞬間の D/A 変換値を対応付けた.キャリブレー ションでは X 方向と Y 方向それぞれを往復させてデータ をとったが,図 13 や図 14 のように回転する方向によって 異なる曲線を描いている.これはミラーに取り付けられた (3) とおよそ 30 ピクセルであることがわかる.そこで,画像上 の移動量がこの値以下のラベルはフレームをまたがっても同 じビーコン光とみなすこととする.ただしいつも 100km/h で移動する実験が出来るわけではないので,環境に応じた 境界をその都度設定している.今回カーブの走行による,画 5 16000 電源ON ※赤線は平常の遷移を示す 14000 QPDがビーコン発見 12000 ミラー制御用 D/A変換値 QPDで追尾開始 何も見えない 10000 8000 タイムアウト CMOSがビーコン発見 タイムアウト - CMOSで追尾開始 - 6000 タイムアウト待ち 1 4000 2000 0 50 100 150 200 250 300 350 画像上でのX座標(pixel) 400 450 500 QPDがビーコン発見 QPDで追尾開始 図 13: 画像上ビーコン光座標とミラー角度の対応(X 方向) タイムアウト待ち 2 CMOSがビーコン発見 CMOSで追尾開始 ビーコン発見を待つ QPDがビーコン発見 QPDで追尾開始 QPDがビーコン発見 ハンドオーバ条件を満たす QPDで追尾開始 CMOSで追尾開始 16000 ハンドオーバ チェック 14000 ミラー制御用 D/A変換値 CMOSで追尾開始 CMOSで追尾 CMOSがビーコン見失う 18000 CMOSがビーコン発見 12000 10000 CMOSがより強いビーコン発見 QPDがビーコン見失う ハンドオーバチェック開始 ビーコン発見を待つ QPDで追尾 8000 ハンドオーバ条件を満たさない 6000 QPDで追尾開始 4000 2000 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 CMOSがビーコン見失う 画像上でのY座標(pixel) QPDで追尾続行 図 14: 画像上ビーコン光座標とミラー角度の対応(Y 方向) 図 15: 改良方式での状態遷移図 衝撃緩衝材が履歴効果をもたらしているからと考えられる. Btmp : 現在のビーコン番号 今回はこのキャリブレーション結果を最小二乗法で一次式 Bnew : 最新のビーコン番号 ※赤線は平常の遷移を示す 何も見えない に近似して使用する. 3.6 CMOSがビーコンを発見 Btmpを最大面積 ビーコンに更新 Btmpと違い、かつ 今まで使っておらず、かつ Btmpよりも面積が大きいような ビーコン番号Bnewが存在する BtmpをBnewに更新 Linux ボードでの状態遷移 続いて Linux ボード上での制御について述べる.図 15 に Linux ボードで動く制御プログラムの状態遷移図を示す.列 車の走行に伴って起こる可能性のあるビーコン光を見失う などのイベントや,すぐにビーコン光を発見し直すなどの イベントにも対応している.基本的に望遠 QPD で追尾し, ハンドオーバ時のみ CMOS カメラでの捕捉および追尾を一 瞬だけ行なっている.図 16 に画像処理でビーコン光に割り 当てた番号の管理方法に注目した状態遷移図を示す.図が複 雑になるのを避けるため,一瞬ビーコン光を見失うという イベント関連の状態は省略した.現在追尾しているビーコ ン光の番号を保持しておき,ハンドオーバ時に最新のもの に更新するということを繰り返している.またハンドオー バ時には誤って近い地上局から遠い地上局にハンドオーバ しないように,ビーコン光番号の小さい方から大きい方へ 必ずハンドオーバするようにしている. 精密な追尾は望遠 QPD によって行われる.追尾中ビー コン光は QPD の 4 つのセンサの中央に結像し,各センサ の出力はほぼ等しくなっているはずである.仮に望遠 QPD の検出範囲外にビーコン光が出ても,CMOS カメラの検出 範囲に存在する限りは CMOS カメラがビーコン光を捕捉し 6 CMOSで追尾 QPDがビーコン発見 Btmpを最大面積ビーコンに更新 CMOSがビーコン発見 QPDで追尾 CMOSがビーコン見失う 図 16: ビーコン光番号管理に注目した状態遷移図 続ける.望遠 QPD で追尾している場合でも常に CMOS カ メラでビーコン光の捕捉とラベリングおよび番号付けを行 なっている.よって本システムでは 2 つ以上のビーコン光 を検出した場合でも,移動局の最も近くにある地上局を見 分けることが可能である. 次にハンドオーバ処理を開始するタイミングについて考 察する.出来るだけ移動局と地上局が真っ直ぐ向かい合っ た状態で通信したいので,次のビーコン光を検知したとし てもすぐにはハンドオーバを開始しない方がよい.ハンド オーバする条件は新しいビーコン光が以下の条件を満たす ときとする. • CMOS カメラの画像上で中央付近まで来ている • 現在追尾中のビーコン光番号より大きいビーコン光番 移動局 地上局 䜲䞊䝃䝛䝑䝖䜿䞊䝤䝹 ග䝣䜯䜲䝞 PC (㏻ಙ┦ᡭ䝜䞊䝗) 䝇䜲䝑䝏 ᆅୖᒁ ᆅୖᒁ 100m ᆅୖᒁ 100m ⛣ືᒁ ⏬ീฎ⌮⏝PC PC (⛣ື䝜䞊䝗) 図 18: 車上実験の概略 図 17: 車上実験の様子 号を持つ • 現在追尾中のビーコン光のピクセル数に比べてピクセ ル数が多い (=近い) 以上の条件をすべて満たしたならば,ビーコン光の到来角 度にミラーを一気に駆動する.到来角度は,あらかじめキャ リブレーションによって取得した CMOS カメラ画像上のピ クセル位置とミラー制御用の電流の対応関係から計算する. 望遠 QPD がビーコン光を検出したら望遠 QPD での追尾に 移行する. 4 実験による性能評価 図 19: 時速 10km でのハンドオーバ CMOS カメラを粗追尾に使用した改良通信装置のハンド オーバ性能を評価するため,最高 120km/h で走行する自動 車と地上間でハンドオーバ実験を行った.図 17 に実験の様 子を,図 18 に実験の概略を示す.地上側には基地局となる 通信装置を 3 台設置し,車両側には移動局となる通信装置 を 1 台設置した.移動局は 100m 間隔で並んだ地上の基地局 との通信を次々にハンドオーバする.今回は装置開発の関 係上,地上側の最もスタート地点に近い基地局はビーコン 光送信器のみが有効で通信能力がない.ハンドオーバ性能 測定の際,車両の速度は 10, 30,60,90,120km/h の 5 通 りを,それぞれ 2 回ずつ実験し,結果の良い方を使用した. 測定項目は,2 軸ミラーの角度,PLL (Phase Locked Loop) の状態,通信装置の追尾モード,の 3 種類である. 2 軸ミラーの角度は,ミラーの裏に赤外線を当てた際の反射 による強度変化をセンサで測った値であり,ミラーの傾きを 示す無次元の量である.PLL は対向する通信装置のデータ 通信用赤外線レーザを受信部が受信し,双方でクロックの同 期が取れているかを示し,ON のときは通信可能,OFF の ときは通信不可能である.通信装置の追尾モードとは,通信 7 装置が望遠 QPD による精追尾を行なっているのか,CMOS カメラによる粗追尾を行なっているのか,もしくはビーコ ン光が 1 つも見つからないのか,の 3 状態である. 図 19 から図 23 までにテストコースでの測定結果を示す. 横軸は時間 (秒) である.左側の縦軸はミラーの角度であり, 赤いプロットがミラーの角度を表す.右側の縦軸は PLL の 状態および追尾モードである.緑のプロットは PLL の状態 であり,1 は ON,0 は OFF を表す.青いプロットは追尾 モードであり,1 は精追尾,0.5 は粗追尾,0 は追尾を行っ ていない状態である.ハンドオーバ時間は PLL が OFF に なっている時間とした. まず図 19 と図 23 の PLL の変化に注目すると,時速 10km の際はハンドオーバ時間が約 160ms だが,時速 120km の 際はハンドオーバ時間が約 40ms と,高速なほどハンドオー バにかかる時間が短くなっている.これは高速なほどハン ドオーバの際に 2 軸ミラーが駆動すべき角度が小さくなり, ハンドオーバ時間も短縮しているからと考えられる.改良 図 20: 時速 30km でのハンドオーバ 図 22: 時速 90km でのハンドオーバ 図 21: 時速 60km でのハンドオーバ 図 23: 時速 120km でのハンドオーバ 通信装置では画像中央付近に存在するハンドオーバ前の通 の,PLL が不安定になることはなかった. 信装置から,画像端に新しく現れたハンドオーバ先の通信 また,今回 ping を用いたハンドオーバ時間の測定も行っ 装置に向かって一気に 2 軸ミラーを駆動する必要がある.車 た.図 24 から図 27 に ping を用いて測定したハンドオーバ 両が高速であるほどハンドオーバ先の通信装置は速く画面 時間を示す.120km/h の場合は測定不能のため結果はない. 中央に向かうので,ハンドオーバ前後のミラー角度の変化 ping は 1ms ごとに送信し続けており,得られた結果のうち が小さくなる. もっとも ping が届かない時間が長かったときをハンドオー 次に時速 120km/h 以外の場合 (図 19∼図 22) でも PLL バとする.PLL・ping それぞれで測定したハンドオーバ時 に注目すると,粗追尾から精追尾に移行した後に数十 ms か 間と,改良前のシステムでのハンドオーバ時間をまとめた かってからハンドオーバが完了しており,この区間がボト ものを表 2 に示す.もっとも短い場合は,60km/h の 21ms ルネックとなっている.可能であるならば望遠 QPD の係 であった.ここで PLL で計測できるハンドオーバ時間より 数を大きくしてミラーの駆動を高速化すべきだが,現状の ping での場合の方が短くなっており,PLL の精度が高くな 装置ではこれ以上の高速化はミラーの振動を起こしたため いことがわかる.これは装置からログとして出力する PLL 困難であった.これにより,粗追尾から精追尾に移るまで の値が実際のものより遅れているなどが原因と考えられる. の時間が 10km/h 以外ではほとんど変わらかなくなってし 改良通信装置は最短でハンドオーバ時間が約 21ms であ まっていると考えられる.低速な場合 (図 19 等) はミラー り,最も通信途絶時間に対する要求の強い音声通信の品質 の振動は少なく,高速になるにつれ大きくなっていくもの を全く損なわないほど高速なハンドオーバではなかった.従 8 来通信装置のハンドオーバ時間は最短 51ms[1] であり,ハ 表 2: 改良前後のハンドオーバ時間比較 ンドオーバ時間の短縮が確認できた. ping (0=down, 1=up) ハンドオーバ ㏿ᗘ PLL ࡛ࡢ ᐃ 160ms 27ms 51ms 30km/h 124ms 23ms 67ms 60km/h 108ms 21ms 90km/h 88ms 31ms 120km/h 40ms ᐃኻᩋ ㏿ᗘ 䝝䞁䝗䜸䞊䝞㛫 1 40km/h 60km/h 0 ᨵⰋ๓䛾䝅䝇䝔䝮 54600 54800 55000 time (s) 55200 55400 ping䛷䛾 ᐃ 10km/h ᥦ䝅䝇䝔䝮 図 24: ping による時速 10km/h でのハンドオーバ 5 ping (0=down, 1=up) ハンドオーバ まとめ 本稿では,地上と列車間での光空間通信において,粗追尾 1 に CMOS カメラで得た画像を使う方式を提案した.CMOS センサから得た変調光強度画像を処理することでビーコン 0 光の位置と数を検知することで高速な捕捉と追尾を目指し, 12200 12400 12600 12800 time (s) 13000 実装した.自動車のテストコースにおいてハンドオーバ実 13200 験を行った結果,約 40ms から 160ms のハンドオーバ時間 を観測した.通信装置の位置関係から移動局が高速なほど 図 25: ping による時速 30km/h でのハンドオーバ ハンドオーバ時間が短くなっている.望遠 QPD での精追尾 に制御が移ってから PLL が ON になるまでに時間がかかっ ているものの,安定したハンドオーバを確認し,改良方式 ping (0=down, 1=up) ハンドオーバ が地上列車間通信における追尾方式として有効であると考 えられる.今後は,CMOS カメラで得た画像の複数フレー ム間の差分から車両の振動による画像のブレを補正する等 1 の改良をすることで,さらに高速化を目指す. 0 5000 5200 5400 5600 time (s) 5800 参考文献 6000 [1] H. Urabe, S. Haruyama, T. Shogenji, S. Ishikawa, M. Hiruta, F. Teraoka, T. Arita, H. Matsubara, and S. Nakagawa. High data rate ground-to-train freespace optical communication system. Optical Engineering, Vol. 51, No. 3, pp. 031204–1–031204–9, March 2012. 図 26: ping による時速 60km/h でのハンドオーバ ping (0=down, 1=up) ハンドオーバ 1 [2] K. Kiasaleh. Performance of APD-Based, PPM Free-Space Optical Communication Systems in Atmospheric Turbulence. IEEE Transactions on Communications, Vol. 53, No. 9, pp. 1455–1461, September 2005. 0 3000 3200 3400 3600 time (s) 3800 4000 図 27: ping による時速 90km/h でのハンドオーバ 9 [3] V. W. W. Chen. Free-Space Optical Communications. Journal of Lightwave Technology, Vol. 24, No. 12, pp. 4750–4762, December 2006. [4] K. Kazaura, K. Omae, T. Suzuki, M. Matsumoto, E. Mutafungwa, T. Murakami, K. Takahashi, H. Matumoto, K. Wakamori, and Y. Arimoto. Performance Evaluation of Next Generation Free-Space Optical Communication System. 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