Comments
Description
Transcript
本文2
2.竜巻をもたらした現象解析 2.1 気象状況(総観場)* 2.1.1 総観場 5 月 6 日 9 時の 500 hPa では,日本海北部に は-27℃以下の寒冷渦の中心があり,その周りを 日本海西部にある 5,460 m 付近の気圧の谷と九 州にある 5,580 m 付近の気圧の谷がそれぞれ東 に進み,21 時には東北地方と東海地方に達した (第 2.1.1 図).この気圧の谷の接近・通過に伴 って東日本には日本海側を中心に-21℃以下の 寒気が流れ込み,21 時の館野上空では 4 月上旬 並みの-20.1℃を観測した. 第 2.1.2 図 5 月 6 日 9 時 L:低気圧,H:高気圧 地上天気図 850 hPa では,500 hPa での日本海西部の気圧 の谷に対応して日本海西部〜中国地方には寒気 の谷場があり,その東側にあたる東日本〜北日 本にかけては南西風が卓越し,館野上空は南西 風が 30 kt*1 吹いていた(図略). 地上では,沿海州には寒冷渦に対応した低気 圧があってゆっくり南下していた.また,6 日 明け方に日本海西部で発生した低気圧は,9 時 には能登半島付近にあって東北東に進んでおり (第 2.1.2 図),15 時には秋田沖に達していた. この低気圧に向かって関東地方には南海上から 湿った空気が流れ込んでいた. 数値予報による解析値では,950 hPa の比湿*2 をみると,朝から太平洋沿岸に湿った空気が流 れ込んでおり,12 時では強い南西風とともに南 海上から関東地方の内陸に向かって湿った空気 が入っている.このため,関東地方は非常に水 蒸気の多い状態となっていた(第 2.1.3 図). 2.1.2 高層観測および各種指数 館野のエマグラムでは,6 日 9 時,950 hPa 付 近には逆転層があるが,その上層に至るまでは 気温減率の大きい不安定な状態曲線となってい た(第 2.1.4 図).各種指数をみると,竜巻が発 生した前日(5 日)の 9 時には,SSI*2 は 3.98℃, 第 2.1.1 図 5 月 6 日高層天気図(500 hPa) 上図:9 時,下図:21 時 青点線:等温線,赤点線:-21℃の等温線, 黒 線:等高度線,黒太線は高度 5,400 m・5,700 m 茶 線:気圧の谷 * K-index*2 は 16.7℃と大気の状態は概ね安定し ていたが,当日(6 日)9 時では,CAPE*2 が 489.0 J/kg,SSI は-1.8℃,K-index は 26.2℃と不安定 な状態となっていた(第 2.1.1 表). *1 窪田 邦晃(東京管区気象台技術部気候・調査課) *2 ― 10 ― ノット:1 kt≒0.51 m/s 詳細は付録の用語集を参照 第 2.1.3 図 950 hPa の比湿 左:5 月 6 日 9 時,右:5 月 6 日 12 時,暖色ほど水蒸気が多い.矢印は風ベクトル. 第 2.1.1 表 㙚㩷㊁ 館野 高層気象台(館野)における 大気安定度に関する指数の経過 㪚㪘㪧㪜䋨㪡㪆䌫㪾䋩 CAPE(J/Kg) -㪄 㪎㪈㪌㪅㪇 715.0 㪋㪏㪐㪅㪇 489.0 㪇㪅㪈 0.1 㪌㪌ᣣ㩷䇭㪐ᤨ 5月5日 9時 5日 21時 䇭䇭㩷㪌ᣣ㩷㪉㪈ᤨ 䇭䇭㩷㪍ᣣ㩷䇭㪐ᤨ 6日 9時 6日 21時 䇭䇭㩷㪍ᣣ㩷㪉㪈ᤨ 㪪㪪㪠䋨㷄䋩 SSI(℃) 㪊㪅㪐㪏 3.98 㪄㪈㪅㪈㪈 -1.11 㪄㪈㪅㪏㪇 -1.80 㪏㪅㪏㪋 8.84 㪢㪄㫀㫅㪻㪼㫏䋨㷄䋩 K-index(℃) 㪈㪍㪅㪎㪇 16.70 㪉㪏㪅㪌㪇 28.50 㪉㪍㪅㪉㪇 26.20 㪄㪈㪏㪅㪋㪇 -18.40 㶎䌃䌁䌐䌅䈲㪈㪇㪇㪇䌨䌐䌡㕙䈱᳇႙䉕ᜬ䈤䈕䈢୯ ※CAPEは1000hPa面の気塊を持ち上げた値 しやすさを示す指数である「ストームに相対的 なヘリシティ」*3(以下,SReH と記述する.) は東京湾〜茨城県にかけて 400 m2/s2 以上と非 常に高く,EHI*3 も 4.0 と竜巻が発生しやすい 大気の状態を示していた(第 2.1.6 図). ᳇᷷ Ḩᐲ 2.1.3 衛星画像 衛星画像(可視画像)では,500 hPa の気圧 㔺ὐ᷷ᐲ の谷に対応した雲域が東北地方から近畿地方に かけて広がっており,水蒸気画像*3 では,この 雲域の後面にあたる日本海西部から中国地方に 第 2.1.4 図 5月6日9時 明瞭な暗域*3 が確認できる(第 2.1.7 図).一方, エマグラム(館野) 関東地方北部には気圧の谷に対応した明域に先 また,関東地方の LFC(自由対流高度)は 6 行する別の明域があって(図中赤丸),12 時〜 日 9 時の時点で概ね 3,000 m と高かったが,12 13 時にかけてこの明域は領域を広げ,茨城県な 時では 1,200 m と低く,EL(浮力が無くなる高 らびに栃木県で雲域が急激に成長拡大したこと 度)は 10,000 m を超えていたことから,積乱 がうかがえる. 雲が発達しやすい状態だった(第 2.1.5 図).さ らに,竜巻を発生させるスーパーセルの発生 *3 ― 11 ― 詳細は付録の用語集を参照 第 2.1.6 図 スーパーセルや竜巻の発生しやすさを 示す指数の分布図(5 月 6 日 12 時) 上図:SReH,下図:EHI, 両図共暖色ほど発生しやすい.矢印は風ベクトル. 第 2.1.5 図 解析図(5 月 6 日 12 時) 上図:LFC(自由対流高度), 下図 EL(浮力が無くなる高度), スケールは高度を表示, 暖色ほど高い.矢印は風ベクトル. 2.1.4 レーダー観測からの雨雲の様子 第 2.1.8 図は 6 日 9 時 30 分〜13 時 00 分まで のレーダーエコー*4 強度である.雲画像と同様, 気圧の谷に対応した雨雲が全体として本州に広 がっており,北東に進んでいた.レーダーエコ ーを細かくみると,三つのライン状に分布(図 中赤丸)している特徴がみてとれる.まず①の 赤丸に着目すると,北陸地方〜東海地方にかけ て広がってきたレーダーエコー域は 9 時過ぎ頃 から北東に進みながら次第に明瞭となり,12 時 過ぎには北陸地方〜甲信地方を通って東海地方 に達していた. 一方,①のレーダーエコー域の前面には②の 赤丸で囲んだ別のレーダーエコー域があって, 第 2.1.7 図 衛星画像 5 月 6 日 12 時,13 時 上図:可視画像,下図:水蒸気画像 竜巻の発生した 12 時〜13 時にかけて栃木県や *4 ― 12 ― 詳細は付録の用語集を参照 㽴 㽲 㽳 6ᣣ09ᤨ30ಽ 6ᣣ10ᤨ00ಽ 6ᣣ10ᤨ30ಽ 6ᣣ11ᤨ00ಽ 㽴 㽲 㽳 6ᣣ11ᤨ30ಽ 第 2.1.8 図 気象レーダー画像 6ᣣ12ᤨ30ಽ 6ᣣ12ᤨ00ಽ 6ᣣ13ᤨ00ಽ 5 月 6 日 9 時 30 分〜13 時 00 分(30 分毎) 第 2.1.9 図 レーダーエコー図(左図)と 850hPa の毎時大気解析(中図)およびWPR(右図) 上段から 11 時・12 時・13 時,黒鎖線はシアーライン. ― 13 ― 茨城県を通過した.このレーダーエコー域は 9 時 示したものである.5 月 6 日 12 時の地上天気図(第 時点で岐阜県〜愛知県にかけて南北に広がってお 2.1.2 図)では,日本海に低気圧があり,関東付 り,10 時〜11 時にかけて強弱を繰り返しながら長 近は,第 2.2.1 図のように低気圧に向かって南寄 野県〜山梨県を北東に進み,12 時には群馬県〜埼 りのやや強い風が吹いており,暖かく湿った空気 玉県に達した.その後,12 時過ぎから栃木県と茨 が入り込んでいる状態であった. 城県に差し掛かった段階で発達し始め(図中赤破 関東地方には,10 時の時点で 2 つのシアーライ 線丸②),12 時 30 分頃〜13 時にかけて栃木県真岡 ンが解析されていた.南からの暖かく湿った空気 市〜茨城県常陸大宮市や茨城県常総市〜つくば市, と内陸からの冷たい空気との間のシアーライン 茨城県筑西市〜桜川市をさらに強度を強めながら (第 2.2.1 図の①)と,南からの暖かく湿った気 通過していった. 流と海からの相対的に温度の低い東風との間のシ 第 2.1.9 図は,栃木県と茨城県でレーダーエコ アーライン(第 2.2.1 図の②)である. ーが発達し始めて通過した 11 時〜13 時のレーダ *5 ーエコー図と下層の毎時大気解析 とウィンドプ *5 10 時〜11 時の時点では,②のシアーラインはほ とんど停滞した.①のシアーラインは先行して群 ロファイラ (以下,WPR という.)の風の分布 馬県〜栃木県に抜けて行ったレーダーエコーによ である.この毎時大気解析および WPR をみると, る内陸の冷気の強まりに伴いゆっくり東進,11 時 上述の 3 つのライン状のレーダーエコー域にほぼ の時点で南からの暖かく湿った気流との間で明瞭 一致する形でシアーライン*5 が解析できる(図中 となり停滞した. 黒点線).まず,①のレーダーエコー域は,WPR このような状態の中,第 2.2.2 図のように気圧 高田-福井間の風向シアーラインが顕在化しはじ の谷に対応するレーダーエコー域の前面(第 めた段階で明瞭となっていた.また,赤丸②のレ 2.1.8 図の②)のライン状のレーダーエコーが東 ーダーエコーについても名古屋-静岡間ならびに 進してきた.このレーダーエコーが 12 時頃に埼玉 名古屋-河口湖間のシアーラインに対応しており, 県付近でシアーライン①に接近して発達を始める 栃木県〜茨城県で最もレーダーエコーが発達した とともにシアーライン①も強化され東進した.こ 12 時〜13 時には,このシアーラインの東側にあた のシアーライン①付近のアメダス古河の観測値グ る関東地方南部は朝よりも南の風が強まっていた. ラフ(第 2.2.3 図)をみると,11 時 58 分頃に風 向が南東から西に急激に変化しており,この時点 2.2 茨城県常総市〜つくば市及び茨城県筑西 市〜桜川市で発生した竜巻について 2.2.1 ** で,シアーラインが通過したものと思われる.竜 巻を発生させたレーダーエコーは,関東平野に入 レーダーエコー,アメダスデータ り発達を始めた.これは,関東平野に流入してい 及びウィンドプロファイラによる る暖かく湿った空気により,不安定度が増加し発 解析 達したものと考えられる.また,12 時以降は栃木 第 2.2.1 図及び第 2.2.2 図は,レーダーエコー 県のレーダーエコーも急速に発達している.シア とアメダスの風向・風速及び地上気温の等値線を ーライン①の東進によりシアーライン②と間隔が 第 2.2.1 図 レーダーエコー及びアメダス気温,風向風速分布図(10 時 00 分〜11 時 00 分) 茶色点線:地上風のシアーライン. *5 ** 詳細は付録の用語集を参照 小山隆夫・渡辺記秀(水戸地方気象台技術課) ― 14 ― 【竜巻被害発生地域 A 筑西市~桜川市 B 常総市~つくば市】 第 2.2.2 図 レーダーエコー及びアメダス気温,風向風速分布図(11 時 30 分~12 時 50 分) 気温 0.65℃/100mで高度補正,茶色点線:地上風のシアーライン. 狭まり,南から流入している暖かく湿った空気 の上昇が強まった可能性も考えられる. 第 2.2.4 図は,気象庁レーダーと国土交通省統 合レーダーを比較した図である.国土交通省統合 レーダーは,埼玉県付近を移動中のレーダーエコ ーの中に発達した複数のセル*6 を探知しており, 南側の 2 つのセルがそれぞれ筑西市〜桜川市及び 常総市〜つくば市で竜巻を発生させたものと思わ れる(第 2.2.4 図の橙色で囲んだ部分). 今回の事例では,気象庁レーダーは北側のセル はほとんど捉えられていない.要因としては,東 *6 第 2.2.3 図 詳細は付録の用語集を参照 ― 15 ― アメダス古河の最大瞬間風向風速,気温観測値 のグラフ(1 分値) 12 時 00 分~12 時 20 分 第 2.2.3 図 アメダス古河の瞬間風速・気温観測値の グラフ 12 時 30 分~12 時 50 分 第 2.2.4 図 気象庁レーダー(上段)と国土交通省統合レーダー(下段)の比較 赤線:竜巻被害発生地域 青丸:気象庁(東京)レーダーサイト. ― 16 ― 第 2.2.5 図 WPR から算出した SReH 時系列図(熊谷) 京レーダーに近い手前のセルにレーダー波を遮 られたためと思われる.このように降雨減衰の 可能性がある場合には,実況監視に国土交通省 統合レーダーも併せて使うことも有効である. また,第 2.2.5 図は,熊谷における WPR の 観測データから算出した SReH の時系列図であ る.10 時 30 分頃から SReH が 200 m2/s2 を超え る高い値を示しており,南北に連なるレーダー エコーが熊谷を通過する 11 時 30 分頃には 300 【竜巻被害発生地域 A 筑西市~桜川市 B 常総市~つくば市】 第 2.2.6 図 レーダー関連図 上段 左:東京レーダー反射強度[仰角 1.0] 右:東京レーダードップラー 速度分布[仰角 1.0°] 下段 左:合成レーダーの上段①-②間の断面図 右:上段③-④間,⑤-⑥間の断面図) m2/s2 を超える SReH が高い環境になった.この の常総市付近の対は,フック状のレーダーエコ ことから竜巻発生のポテンシャルが高くなって ーに対応しており,この断面図をみると,最下 いたことがわかる. 層に速度逆向きの領域があり,領域の端で速度 の極大がある(第 2.2.6 図下段右③-④断面図). ドップラーレーダー による解析 また,筑西市付近の対の断面図においても,同 第 2.2.6 図は,12 時 40 分のレーダー反射強 様の特徴がみられた(第 2.2.6 図下段右⑤-⑥ 度及びドップラー速度分布図である.ドップラ 断面図).これらのことから,下層に渦があると ー速度*7 は,暖色系が東京レーダー(図の下側 考えられ,メソサイクロン*7 の存在を示唆して に位置)から遠ざかる風の領域,寒色系が逆に いる. 2.2.2 *7 近づく風の領域を意味している. 上段左の東京レーダー反射強度では,常総市 2.2.3 まとめ 〜つくば市の竜巻被害発生地域付近で,フック 今回の竜巻について,レーダー,WPR,アメ 状をなしているレーダーエコーがみられた(第 ダスデータを解析した結果,竜巻が発生した要 2.2.6 図上段左の赤丸).このフック状のレーダ 因を考察すると,以下のことが挙げられる. ーエコーは,つくば市付近に広がっている強い ①関東平野に南から暖かく湿った空気が流入 レーダーエコーの南西端にある.また,このフ しており,埼玉県から栃木・茨城県境にかけ ック状のレーダーエコー付近の合成レーダーエ て温度傾度をもった地上のシアーライン(収 コー断面図をみると,高度 5 km 以下に周囲よ 束)が存在していた. り反射強度の弱い部分があり(第 2.2.6 図下段 ②南北に連なる雨雲が東進し,関東平野に達す 左の赤丸),スーパーセルにおいて特徴的な丸天 ると,関東平野に流入していた下層の暖かく 湿った空気により不安定度が増加し,積乱雲 *7 井の構造 がみられた. 上段右のドップラー速度では,渦の特徴的な が発達した. パターンである西側に寒色系,東側に暖色系の ③雲の東進とともに北西風と南風のシアーラ 対がみられる(第 2.2.6 図上段右の青丸).南側 インが東進し,海上からの東風によるシアー *7 詳細は付録の 3 を参照 ― 17 ― ラインに接近することで収束が強化され,下 層の暖かく湿った空気の上昇が進んだ. ④南北に連なる雨雲付近では,SReH が大きか った. なお,常総市〜つくば市及び筑西市〜桜川市 における竜巻の発生した付近で,メソサイクロ ンの存在が確認できた.また,常総市〜つくば 市の竜巻の発生した付近では,レーダー画像の 平面図においてスーパーセルの特徴であるフッ ク状のレーダーエコーがみられ,その断面図で は丸天井の構造もみられた.これらのことから, 特に常総市〜つくば市の竜巻を発生させた積乱 雲は,スーパーセルの構造を持っていたといえ る. 2 .3 第 2.3.1 図 観測所配置図 栃木県真岡市〜茨城県常陸大宮市で発 両観測所ともピークとなっている.この気温が 生した竜巻について*** ピークとなった後の 12 時 10 分に,小山観測所 2.3.1 レーダーエコーとアメダスデータ の東付近に上記の収束に対応したレーダーエコ による解析 ーの発生がみられた(12 時 00 分の図中黒丸). 第 2.3.2 図は 11 時 00 分〜12 時 30 分にかけ また,真岡観測所,下館観測所での 10 分間日照 ての,レーダーエコーとアメダスデータ(観測 時間の時系列を第 2.3.4 図に示した.両観測所 要素は気温・風向・風速,観測所の位置は第 とも 11 時頃までは充分日照があったが,11 時 2.3.1 図を参照)を示す.11 時 00 分では,等温 20 分以降真岡観測所では日照が少なくなって 線と風向からみると主に埼玉県で南西〜北東走 いる.このことから,等温線の集中帯の南東縁 行の等温線の集中帯が解析でき,集中帯の南東 に位置する下館観測所の気温上昇には,日照に 縁は 24℃付近で,北西縁は 19℃付近である(黒 よる加熱も寄与していた可能性がある. 丸内).小山観測所を含めた,この集中帯の南東 縁では風向は南よりとなっていて(赤丸内),こ の段階ではこの領域での風の収束はみられなか 2.3.2 レーダーエコーの二次元解析 レーダーエコーによる高度 1 km 面の CAPPI*8 (等高度面データ)を第 2.3.5 図に示す.12 時 った. その後 11 時 30 分には,24℃の等温線が 10 m/s 10 分〜12 時 30 分にかけて,小山市付近〜真岡 程度の南よりのやや強い風により埼玉県の東部 市付近へ移動したレーダーエコーが明瞭となっ 〜茨城県の南部へと流入し,等温線の集中帯は ていて(黒丸),12 時 30 分の黒丸内の反射強度 やや南北に立った状態となった.小山観測所で が 50 dBZ 以上だったレーダーエコーの形状は は 11 時 20 分頃に気温がピークとなっていて(第 フック状をしており,循環があると推測される. 2.3.3 図),11 時 30 分に風向が西南西に変わり このフック状のレーダーエコーは高度 2 km 面 等温線の集中帯の南東縁で南風との収束を形成 ではみられない. していた(11 時 30 分の図中赤丸).12 時には, 第 2.3.6 図は 12 時 00 分〜12 時 40 分にかけ 真岡観測所の風向も西南西となって(黒丸)収 てのレーダーエコー頂高度*8 で,小山市付近で 束が始まり,小山観測所付近の収束も継続して 発生したレーダーエコーは真岡市方面へと北東 いた.第 2.3.3 図は小山観測所,真岡観測所, 進しながら急速にレーダーエコー頂高度を高め つくば観測所,下館観測所の 10 時 00 分〜12 時 ている.このレーダーエコーは 12 時 10 分に発 30 分までの気温グラフで,この時のつくば観測 生していることから 30 分間でレーダーエコー 所と下館観測所の気温をみると,12 時 00 分に 頂高度が 14 km 以上に達したことになる. *** *8 石川治美(宇都宮地方気象台技術課) 詳細は付録の用語集を参照 ― 18 ― 11時00分 11時30分 12時00分 12時10分 12時20分 12時30分 第 2.3.2 図 レーダーエコーとアメダス気温,風向風速分布図(11 時 00 分〜12 時 30 分) 気温 0.65℃/100mで高度補正,実線は等温線,矢羽はアメダスの風 ― 19 ― 26 25 24 気 23 温 ( ) 小山 真岡 ℃ 22 つくば 下館 21 20 19 18 10:00 10:30 11:00 11:30 12:00 12:30 時刻 第 2.3.3 図 小山,真岡,つくば,下館観測所の気温時系列(10 時 00 分〜12 時 30 分) 注)真岡観測所のデータは雷災により 12 時 30 分は欠測. 12 ( 10 日 照 8 下館 真岡 ) 1 6 0 分 間 4 2 時間 第 2.3.4 図 真岡,下館観測所の日照時間時系列(9 時 00 分〜12 時 30 分) 注)真岡観測所のデータは雷災により 12 時 10 分〜12 時 30 分は欠測. 第 2.3.5 図 高度 1km 面の CAPPI(等高度面データ) 左図:12 時 10 分,右図:12 時 30 分. ― 20 ― 12:30 12:20 12:10 12:00 11:50 11:40 11:30 11:20 11:10 11:00 10:50 10:40 10:30 10:20 10:10 9:50 10:00 9:40 9:30 9:20 9:10 9:00 0 12時00分 12時10分 12時20分 12時30分 12時40分 第 2.3.6 図 レーダーエコー頂高度(12 時 10 分〜12 時 40 分) ― 21 ― 12時20分 12時30分 12時40分 第 2.3.7 図 レーダーエコー断面図(12 時 20 分〜12 時 40 分) 右図は左図の各時間A-B間の断面. 第 2.3.7 図は真岡市付近(第 2.3.2 図 12 時 付近で発生したレーダーエコーは真岡市に接近 30 分の黒丸内)のレーダーエコーで,12 時 20 しながら 10 分間の短時間で急速に強くなって 〜40 分にかけての断面図である.12 時 20 分の いることが分かる.12 時 40 分の断面では,レ レーダーエコーは発生した直後で,反射強度, ーダーエコーの進行方向前面で高度 2 km 付近 レーダーエコー頂高度の強まりや広がりは弱い. までは反射強度が弱く,その上空 7 km 付近に その後 12 時 30 分には CAPPI(高度 1 km 面) 強い反射強度がある.不明瞭ながら発達した積 のレーダーエコーはフック状となり,断面図で 乱雲内での丸天井の構造の形成が考えられる. は反射強度が強まり,高度も 8 km 程度まで上 昇した.このように断面図からみると,小山市 ― 22 ― 2.3.3 まとめ えられる. 真岡市や茂木町等に竜巻をもたらしたレーダ また,レーダーエコーの形状や断面図から, ーエコーは,等温線の集中帯の南東縁の小山市 茨城県常総市〜つくば市に被害をもたらした竜 付近で発生し(第 2.3.5 図),急速にレーダーエ 巻の積乱雲はスーパーセルの構造を持っており, コー頂高度を増し発達した(第 2.3.6 図).これ 栃木県真岡市〜茨城県常陸大宮市のそれもスー は,小山市付近が等温線の集中帯の南東縁にあ パーセルの可能性があることを確認した. たり,かつ南側で地上気温がピークを迎え,地 上風の収束が発現したタイミングに合致してい る.こうした地上での温度場や風の収束と,下 層での水蒸気の過多が積乱雲の発生や顕著な発 達に寄与していると考えられる. なお,この急速に発達した積乱雲はレーダー 画像の平面図において,フック状のレーダーエ コーが確認され,断面図では丸天井の構造も見 られたことから,スーパーセルの構造を持って いた可能性が高い. 2.4 現象解析のまとめ 5 月 6 日,東日本は寒冷渦の前面となって 9 時には館野の高層気象観測では,500 hPa の高 度で,-19℃と平年より 5℃程度低い寒気が流入 し,関東地方では大気の状態が不安定となって いた.下層への水蒸気の流入も第 2.1.3 図でみ られるとおり顕著で,950 hPa(高度約 500 m) において 10 g/kg 以上の比湿の高い領域は当日 の朝は房総半島付近までであったが,12 時には 関東地方の内陸部まで北上していた. 一方,甲信地方(関東地方の西側)では 10 時〜11 時にかけて雨雲が組織化し気圧の谷の 雨雲に先行した南北に連なる雨雲があった. さらにアメダス,レーダーなどを詳細に解析 したところ以下の特徴があった. ・関東地方沿岸部からの地上南風が卓越し埼 玉・栃木・茨城県境には温度傾度をもった 地上のシアーラインが存在した. ・雨雲の通過域付近では,大きな SReH など積 乱雲の発達しやすい状況であった. ・雨雲の東進とともにこのシアーラインが進み 海上からの東風領域に達し収束が強化した. 竜巻を発生させた積乱雲は,こうした気象状 況によって形成されたと推測できる.ただし, 栃木県真岡市〜茨城県常陸大宮市で竜巻をもた らしたレーダーエコーは栃木県小山市付近で急 発達しており,日照による気温上昇の影響も考 ― 23 ―