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4.海難事例

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4.海難事例
4.海難事例
4.1 ナホトカ号の海難事故(1997 年 1 月 2 日)
4.1.
1 事故の概要
ロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」(13,157 トン、全長 177 m)は 1996 年 12 月 26 日に
19000 キロリットルの重油を積載して上海を出航し、カムチャツカ半島のペトロハバロフスクに向
かっていた。低気圧によって大荒れとなった山陰沖を航行中であったナホトカ号は 1997 年 1 月 2
日 2 時 50 分頃に島根県隠岐島の北北東約 106 km で船首から 50 m のところで船体が二つに折れ、
2 日 8 時 20 分頃に船体の後部が沈没した。海難の発生場所を第 4 − 1 図に示す。乗組員のうち 31
名は救命ボートに乗り漂流中のところを救助されたが、最後まで船内にとどまった船長は 26 日に福
井県の海岸において遺体で発見された。船体の後部は 2 日朝に海中に沈んだが、船首部は 7 日に越
前岬付近の海岸に漂着するまで重油をかかえたまま漂流を続けた。流出した重油によって島根県から
秋田県まで広範囲にわたる日本海沿岸が汚染され、除去に多大の労力と費用を要した。
42
°N
40
日本海海洋気象ブイロボット
日本海北西部
38
日本海西部
山陰沖西部
36
日本海中部
海難現場
山陰沖東部
及び若狭湾付近
経ヶ岬
34
130
135
140°E
第 4 - 1 図 海難事故発生現場、日本海海洋気象ブイロボットの位置及び海上予報区の名称
22
4.
1.
2 天気及び波浪の概況
1 日 3 時に黄海にあった低気圧は 15 時までの 12 時間で中心気圧を 16 hPa 下げるという急発達
を示しながら日本海を東北東に進んだ。1 日夜に低気圧に伴う寒冷前線が山陰地方を通過した後、
500 hPa で -37.9℃の寒気が入り日本海西部を中心に気圧の傾きが大きくなり強い冬型となったため、
2 日にかけて日本海側に大荒れの天気をもたらした。第 4 − 3 図に 1 日 9 時と 2 日 9 時の沿岸波浪
図を示す。1 日 9 時では日本海は広く 2 m を下回っていたが、2 日 9 時には日本海中西部で 4 m を
超えるしけとなり、能登半島の西で 7 m を超える大しけが見られた。3 日も冬型が続き、5 日に気圧
の谷がゆっくりと西日本を通過したため冬型は緩んだものの、6 日には日本海の低気圧の影響により
西日本で一時冬型が強まった。
第 4 - 2 図 1997 年 1 月 1 日~ 6 日の地上天気図
23
1日9時
2日9時
第 4 - 3 図 1997 年 1 月 1 日~ 2 日の沿岸波浪実況図
4.1.
3 海上予報・警報の発表状況
舞鶴海洋気象台で発表している地方海上予報・警報については3.
1.3で述べたとおりである。 ナホトカ号の海難現場である「山陰沖東部及び若狭湾付近」を対象として 1 月 1 日 19 時に発表され
た地方海上予報は以下のようになっており、大荒れの天気と高波を予報していた。
今日∼明日
風 南 35 ノット(18 メートル) 後 西または北西 50 ノット(25 メートル)
波 4 メートル 後 7 メートル
地方海上警報は 1 日 5 時 40 分に日本海西部を対象に海上強風警報が発表され、14 時 45 分に海上
暴風警報に切り替えた。その後暴風はピークを過ぎ、2 日 11 時 50 分に山陰沖西部のみ海上強風警
報に切り替え、2 日 17 時 40 分には日本海西部全域を海上強風警報に切り替えた。3 日の 17 時 40
分には山陰沖西部を海上風警報に切り替え、警報は解除に向かった。海難が発生した時刻には海上暴
風警報が発表されており、船舶に警戒を呼びかけていた。
24
4.
1.
4 波浪の状況
気象庁は 1978 年∼ 2000 年の期間、日本海に海洋気象ブイロボット(第 4 − 1 図、海洋気象
ブイと略)を設置していた。ここでは経ヶ岬波浪計、経ヶ岬灯台、海洋気象ブイのデータを使用し
て当時の波浪の状況を述べる。海洋気象ブイでは低気圧の接近とともに風が強まり、1 日 9 時には
11.7 m/s だったのが、1 日 24 時には 26.6 m/s となった。1 日 18 時から 21 時にかけて寒冷前線
の通過に伴い風向が南西から北西に変わるとともに 18 時には 2.9 m だった波高も高まり、事故の発
生した時刻(2 日 2 時 50 分頃)に近い 2 日 3 時には 7.9 m となった。経ヶ岬では、1 日 20 時から
21 時にかけて風向が南東から南西に変わり、21 時には 0.5 m だった波高も 2 日 6 時には 4.7 m に
高まった。3 日は冬型の気圧配置となったため、経ヶ岬及び海洋気象ブイでおおむね 4 m を超える
波高が続いた。
5 日には冬型が弱まって、経ヶ岬では波高は 1 m 近くまでになったものの、6 日には日本海の低
気圧の影響により西日本で一時冬型が強まったため、4 m を超える波高となり、海岸および海上で
の重油回収作業を困難にした。
第 4 - 4 図 海難発生前後の経ヶ岬および日本海海洋気象ブイロボットの風速、波高時系列
(坂元 賢治)
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