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食品温度の精密な管理・制御を
食品温度の精密な管理・制御を 3種類の熱物性値の同時推算方法を提案 東京農業大学生物産業学部 准教授 村松良樹 スーパーマーケットなどで購入される食材には多種 多様な調理操作が施されている。加熱操作は美味しさ の決め手となる重要な操作の一つであり、その温度は 精密に管理・制御しなければならない。そこで、我々 は最近、簡便かつ精度良く3種類の熱物性値(熱伝導 率、熱拡散率、比熱) を同時に推算できる新たな方法 を提案した。 熱の伝わり方に3種類 加熱操作ひとつをとってみても「煮る」、「茹でる」、 「蒸す」 、 「焼く」 、「揚げる」など多様である。いずれ の加熱操作方法においても、操作中に食材に熱が伝わ り、食材の温度は上昇する。物体内部において高温度 の部分と低温度の部分というように温度差が存在する とき、熱は温度の高いところから低いところへ移動す る。この熱の伝わり方には伝導伝熱(熱伝導)、対流 伝熱(熱伝達)、放射伝熱(熱放射)の3種類がある。 伝導伝熱は固体内部や静止している液体および気体 (液体と気体をまとめて流体という)の温度の高い方か ら低い方へ熱が伝わる現象である。対流伝熱は、動い ている流体とこれに接している固体間での熱の移動様 式で、伝えられる熱量は流体と固体表面の温度差およ び熱の伝わる面積に比例する。また、熱エネルギーが 中間物質には無関係に、赤外線や可視光線を含む電磁 波である熱線の形をとって伝達される伝熱様式が放射 伝熱である。放射による伝熱量も物体間の温度差に比 例して大きくなり、直火焼きやオーブン加熱が放射に よる伝熱例である。 どのような調理加熱法を採用するかによって主とな る伝熱様式は異なるが、多くの場合は、上記の三つの むらまつ よしき 1972年静岡県生まれ。東京 農業大学大学院生物産業学 研究科修了。東京農業大学 生物産業学部食品香粧学科 (品質制御学研究室)准教 授。 専門分野:ポストハーベス ト工学,食品工学,食品物 性学。 主な研究テーマ:輸送現象 および物性に関する研究。 主な著書:乳肉卵の機能と 利用(共著)アイ・ケイコー ポレーション。 伝熱様式が複合された形で食品に熱が伝えられる。例 えばガスコンロとフライパンを使ってステーキのよう な食材を加熱する場合、熱源であるガスの炎から調理 器具であるフライパンへ対流伝熱と放射伝熱の二つの 伝熱様式により熱が伝わる。フライパン内部およびフ ライパンから食材には伝導伝熱によって熱が伝わる。 さらに食材内部においては伝導伝熱によって熱が伝え られ、食材の温度が上昇し、やがて可食状態となる。 加工食品の熱処理操作 大規模な食品工場において加工食品を製造する場合 においても多種多様な熱処理操作が施されている。一 例として脱脂粉乳の製造工程の概略を 図1に示した。 このなかで殺菌、濃縮、乾燥が代表的な熱処理操作で、 殺菌は、脱脂乳を加熱して所定の温度で所定の時間保 図1.脱脂粉乳の製造工程 (阿久澤良造・坂田亮一・島崎敬一・服部昭仁編著:乳肉卵の機能と利用(2005) 、アイ・ケイコーポレーション、 pp.47) 新・実学ジャーナル 2010.5 1