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経皮吸収の基礎知識
経皮吸収の基礎知識 講演 1 杉林 堅次 城西大学 副学長 先生 薬効の評価が困難な薬物の投与設計に関しては、 薬物の血中濃度の推移に基づいて治療の適正化を図る治療薬 物モニタリングが実施される。 皮膚科領域で用いる外用薬についても、 安全性や有効性の確保が治療や製剤開発の 観点から重要であることはいうまでもなく、 主薬の皮膚透過性や皮膚中濃度に対する理解を深めることが肝要である。 薬物の熱力学的活動度と皮膚透過促進 経皮吸収と皮内動態 薬物を皮膚適用すると、製剤中の有効成分は基剤から 皮膚表面へ分配され、皮膚中での拡散を経て皮下に移行す 一般的に薬物の皮膚透過性は飽和状態で最も高く、薬 物の熱力学的活動度*が同じであれば基剤が変わっても ることから、薬物の皮膚透過性を検討するには分配係数と 皮膚透過性は変わらない。 拡散係数に注目する必要がある(図1)。我々は皮膚を2層膜 しかし、吸収促進剤を添加した場合は分配性や拡散性が と仮定し、皮膚透過実験から得られるパラメータを利用し 向上し、吸収性も上がる。また、近年、製剤の素材として、薬 て、皮膚中濃度を予測する公式を確立した。この公式を用 物を内部に封入したリポソーム製剤などが注目されている。 いてパラベン類の皮膚中濃度を算出し、実測値と比較する スフィンゴミエリンリポソームを作製し皮膚適用すると、リポ と、両者は1対1の相関を示し、皮膚透過性を測定すれば皮 ソーム自体は皮膚を通過しないが、スフィンゴミエリンが角 膚中濃度が予測可能であることが示された。 層に分配され、顆粒層でセラミドが合成された1,2)。 その他、 物理的に薬物吸収を促進させる方法を表に示す。 * 熱力学的活動度は活量ともいわれ、その系の居心地の悪さとして定義される。すなわち、 ある系での薬物の居心地が悪ければ活量は高くなる。例えば、揮発しやすい物質はその系 から分子が飛び出しやすいことを意味し、高い活量を示す。 経皮吸収経路と皮膚透過性 薬物の経皮吸収経路を図 2に示す。多くの薬物は角質 細胞や角層細胞間脂質を通過すると考えられているが、イ オントフォレシス適用時には汗腺や毛嚢を経由する経路も 図2 薬物の経皮吸収経路 無視できない。 経表皮 また、 ブタの皮膚を用いた皮膚透過試験の結果から、 水溶 細胞間経路 経孔 細胞内経路 汗腺経路 毛嚢経路 性物質は毛孔を通過し、 脂溶性が高まるほど角層実質を通過 することが示された。 さらに、 ラットの皮膚と毛孔のない三次元 培養皮膚モデルを用いて検討したところ、 分子量が大きいほ ど皮膚透過における毛孔の寄与が大きいことが示された。 角層細胞 毛乳頭 汗腺 図1 薬物の皮膚透過の駆動力 脂溶性薬物に重要 基剤から皮膚への分配 ● ● ● 基剤に溶けている有効成分 が皮膚表面に分配する平衡 現象 分配係数 を定義 化学物質の極性(水溶性、脂 溶性)が最大の決定因子 皮膚中の拡散 ● ● ● 皮膚バリア中を有効成分の 濃 度が 高い方から低い方に 移動 拡散係数 を定義 化学物質の分子量(分子容) が最大の決定因子 表 物理的吸収促進法を用いた薬物の皮膚への送達方法 方法 ● 分配性に比例 経皮吸収性 ● 分配性と拡散性の積に比例 原理 イオントフォレシス 電気反発を利用 外部エネルギー 低電圧の適用 エレクトロ ポレーション 電 気 穿孔による脂 超 短 時間、高 電 質膜への小孔形成 圧の適用 サーマル ポレーション 熱による角層への 熱エネルギー 小孔形成 フォノフォレシス 皮膚中濃度 水溶性高分子薬物に重要 キャビテーション 超 音 波 エ ネ ル 経皮吸収性が低い など ギーの適用 マイクロニードルに マイクロニードル よる角層への小 孔 アレーパッチ 形成 無針注射器 備考 リドカイン外用薬などに すでに応用済 電気浸透流を利用した ポンピングの併用効果あり インスリンの自己注射など ジェット流のキャリ ばね圧などを利 既に利用 ア効果 用したジェット流 外用薬というより注射薬?