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膵管癌の上皮内癌部におけるp53遺伝子変異の検討 学位論文内容の要旨

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膵管癌の上皮内癌部におけるp53遺伝子変異の検討 学位論文内容の要旨
博士(医学)高木智史
学 位 論 文 題 名
膵管癌の上皮内癌部におけるp5
3遺伝子変異の検討
p53 Gene Mutation in Carcinoma in Situ of Pancreatic Adenocarcinomas
学位論文内容の要旨
【背景と目的】
膵 管 癌は ,予 後の 悪い 癌と して 知ら れて いる ,症 状出現時には,手術不能であるこ
とが 多 く, たと え手 術が 可能 であ った とし ても その 5
年生存率は5%未満と報告されて
いる,長期生存に寄与する最善 の方法は,早期発見による癌組織の外科的完全切除と考
えられるが,症状が出現する前 に発見することはきわめて困難である.膵管癌の発癌機
序 の 解 明 か ら , 早 期発 見 に 役 立 つ 手 が か り が 得 られ る 可 能 性 が あ る .
癌 遺 伝子 であ るK−rasの変 異は ,膵 管癌 にお いて 高頻度に認められることは,以前
よ り 知 ら れ て い る . 癌 抑 制 遺 伝 子 で あ る p53遺 伝 子の 変異 の頻 度は 38
.4%か ら76%
としゝう報告まで様々である, これらの幸胎のなかで膵管癌の浸潤癌部については詳細に
報告されているが,浸潤癌にい たる前癌病変については,十分に検討されていない,膵
管癌においても他臓器癌と同様 に多段階的に発癌にいたると考えられており,過形成か
ら, 異 型性 を伴 った 過形 成, 上皮 内癌 (c
arci
noma in s
it
u,C
IS
)を経て浸潤癌にいた
ると さ れて いる .先 にも 述ぺ たよ うに p5
3遺 伝子 変異 につ いて は浸 潤癌 では 検討され
てい る が, 上皮 内癌 部に おけ るp53遺伝 子変 異に つい ては 十分 に検 討さ れて いない.
こ の 研 究 の 目 的 は , 膵 管 癌 の 上 皮 内 癌 部 の p53遺 伝子 変異 を検 討す るこ とで ある .
【方 法と 結果 】
対 象 は 21症 例 で , 男 性 10症 例 と 女 性 11症 例 で あ り , 平 均 年 令 が 66.0歳 く 34-84
歳)であった.外科切 除膵管癌を対象とし,ホルマリン固定,バラフィン包埋 された標
本を 用い て検 討し た, He
matロxyl
en−eosin (HE
)染 色にて,上皮内癌部を認 め,浸潤
癌 部 が 近 接 し て い る 切 片を 選択 した , これ らの 症例 は, 1
976年か ら1998
年 まで 新潟
大学 医学 部第 一病 理学 教室 にお いて 通常 型 (
soli
d ty
pe)
の膵管癌と診断され た症例か
ら 選 ば れ た . p53に 対 す る モ ノ ク 口 ナ ー ル 抗 体 Pab 1801を 用 い て p53免 疫 染 色 を行
っ た 後 , microdissection法 に よ り DNAを 抽 出 し , PCR-SSCP法 を 用 い て Qく く m5か
らexo
n8まで の p
53遺伝 子変 異を 検索 した ,
上 皮 内 癌 部 で p53蛋 白 の 過 剰 発 現 を 認 め た の は , 21症 例 中 7症 例 (33.3% ) で あ
り , 浸 潤 癌 部 で p53蛋 白 の 過 剰 発 現 を 認 め た の は 21症 例 中 10症 例 (47.6% ) で あっ
た ,上 皮内癌 部で の陽性 例は ,浸潤 癌部 でもす ぺて 陽性を 示し た.
p53遺 伝 子 異 常 は , 21例 中 6例 (28.6% ) に 認 め ら れ た . こ の う ち p53蛋 白 の 過
剰 発 現 を 認 め た 7例 中 4例 (57.1% ) に p53遺 伝 子 異 常 を 認 め た , P53蛋 白 の 過 剰 発
現 を 認 め な か っ た 14症 例 中 2症 例 (14.2% ) に p53遺 伝 子 異 常 を 認 め た ,
上 皮 内 癌 部 と 浸 潤 癌 部 で 共 に p53蛋 白 の 過 剰 発 現 を 認 め , 上 皮 内 癌 部 に p53遺伝
子 異 常 を 認 め た 症 例 に おい て ,DNA
シ ーク エン スを 行っ た とこ ろ, 3
力 所の 上皮 内癌
部 の う ち の 1力 所 で の み 遺 伝 子 異 常 が 明 ら か と な っ た .
【考案】
今回 の検 討で ,上 皮内 癌部 にお い て, p
53蛋白 発現 と遺 伝子 異 常が 合致 した例が21
例 中 16例 に 認 め ら れ た, 蛋 白陽 陸, 遺伝 子異 常を 認め た4例 は, 変異 型p53
と なり ,
p53蛋 白 を 分 解 に 導 く MDM2の 誘 導 が 行 わ れ な い た め , p53が 核 内 に 蓄 積 し , 免 疫
染 色に より 検出 され たも のと 考え ら れた ,p53
蛋 白の 過剰 発現 を のみ を認 め,遺伝子
異 常 を 認 め な か っ た 3例は ,そ の原 因と して ,野 生型 p53
蛋 白が 蓄積 した ,免 疫染 色
と 実際 にmicr
odis
sect
ionを行 った 部位 とは ,切 片上 異な るた め ,正 確に その性状を
反映していなかっ た,遺伝子検索をした他の部位に変異があった,ことな どが考えられ
た .蛋 白の 発現 がな く, 遺伝 子異 常 を認 めた 2
例 は, 蛋白 構造 を 維持 でき ないフレー
ムシフト変異など の変異をきたしているものと考えられた.
p53遺 伝 子 異 常 を 検 索 す る の に , 免 疫 染 色 法 と microdissectionに よ り 抽 出し た
DNAを 用 い て , PCR← SSCP法 に よ り 検 索 し た . 免 疫 染 色 法 は , 簡 便 で 迅 速 な 方法 で
あ る が , 抗 体 と し て p53モ ノ ク ロ ナ ー ル 抗 体 Pab 1
801を用 いた 場合 ,蓄 瞶し た蛋 白
が野生型か変異型 かはその判別は不可能である.また,フレームシフト変 異などの変異
を き た し , 蛋 白 の 構 造の 変 異を きた した 場合 も検 出す るこ とが でき ない .し かし .
PCR-SSCP法 の み の 検 索で は ,他 の部 位も 含め た検 討も 必要 とな る場 合が あり ,相 補
的に用いるのが有 用であると考えられた.
DNAシ ー ク ェ ン ス を 施 行 し た 症 例 は , 上 皮 内 癌 部 で は , p53免 疫 染 色 に お いて ,
ぴ陸I生の過剰発現を示し同等の染包態度を示 していたが,実際に遺伝子変異を検索して
み た と こ ろ , p53遺 伝 子 異 常 を 指 摘 で き た の は , 3
力 所 の上 皮内 癌部 のう ちの 1
力所
のみであった.同 一瑚重瘍内で染色態度が同じであっても,実際に遺伝子変異を検索して
み ると he
tero
gene
ityが認 めら れた .蛋 白蓄 積が 認め られ ても , 野生 型で 蓄積する場
合と変異型で蓄積 する場合があると考えられた.
今 回 の 検 討 か ら , あ る 症 例 に お い て は 早 期 の 段 階 (CIS)か ら p53遺 伝 子 変 異が 一
部 に起 こり ,癌 化に 関与 する 場合 が ある こと が判 明し た. P
53遺 伝子 変異 をきたした
膵 管癌 は予 後が 悪い とい う報 告が あ るが ,上 皮内 癌の 段階 でp53遺伝 子変 異をきたし
た 場 合 , ZE,I| 生 度 が 高 く , 容 易 に 浸 潤 癌 に 移 行 す る 可 能 陸 も 考 え ら れ た .
【結諭】
膵 管 癌 の 上 皮 内 癌 部 に お け る p53遺 伝 子 異常 を検 討し たIp53
遺 伝子 変異 が早 期 の
段 階 か ら, 膵 管 癌 の 癌 化 に関 与 す る 場 合 が あ るこ と が 示 さ れ た.
p53遺 伝 子 変 異 は , 免 疫 染 色 法 , PCR-SSCP法 の 両 法 を 用 い て 検 索 す る 必 要 が あ
る . 膵 管 癌 の 癌 化 に 際 し , 上 皮 内 癌 の 一 部 に 早 期 の 段 階 (CIS)か ら p53
遺 伝子 異 常
が関与している場合があり,上皮 内癌間には悪I
生度の差異が存在することが明らかにで
きる可能性がある,
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 浅 香 正
博
副 査 教 授 細 川 眞
男
副 査 教 授 加 藤 紘 澄 之
学 位 論 文 題 名
膵管癌の上皮内癌部におけるp53
遺伝子変異の検討
p53 Gene Mutation in Carcinoma in Situ of Pancreatic Adenocarcinomas
膵 管 癌は 、 悪 性腫瘍の 中でも 予後の悪 い癌と して知ら れている 。長期 生存に寄 与す
る最善の 方法は、 早期発 見による 癌組織 の外科的 完全切除と考えられるが、症状が出現
する前に 発見する ことは きわめて 困難で ある。膵 管癌の発癌機序の解明から、早期発見
に役立つ 手がかり が得ら れる可能 I
生 がある。
膵 管 癌は 、 病 理組織学 的な研 究より、 過形成 から異型 性を伴っ た過形 成、上皮 内癌
(
ca
rc
in
om
ains
it
u,CI
S
)、浸潤癌にいたると考えられている。癌抑制遺伝子であるp
5
3
遺伝子の 変異につ いては 、浸潤癌 では詳 細に検討 されているが、浸潤癌にいたる上皮内
癌につい ては、十 分に検 討されていない。この研究の目的は、膵管癌の上皮内癌部のp
53
遺伝子変 異を検討 するこ とである 。
対 象 は 、 男 性 10例 と 女 性 11例 の 外 科 切 除 膵 管 癌21例 であ り 、 平均 年 令 が 6
6.0歳
(
34一 8
4歳 ) であ っ た 。ホ ル マ リン 固 定 、バ ラフ イン包埋 された 標本を用 いて検討 し
た 。 上 皮 内 癌 部 を 含む 切 片 を 選択 し 、 p
53モ ノク 口 ナ ール 抗 体 P
ab18
01を 用 いて p53
免 疫 染 色 を 行 っ た 後 、 micrO出 ssection法 に よ り 上 皮 内 癌 部 の DNAを 抽 出 じ 、
PCR ̄ SSCP法 を 用 い て Qく く ) n5か ら Qく く 冫n8ま での p53
遺 伝 子 変 異を 検 索 した 。
p53免 疫 染 色 陽 性 で あ った の は 、上 皮 内 癌部 で 21
例 中 7例( 33.3% ) で あり 、 浸
潤癌 部 で は21例 中10例 (47. 6
% ) で あっ た 。上皮 内癌部で の陽陸 例は、浸 潤癌部 で
もすぺて 陽性を示 した。
p53遺 伝 子 変 異 は 、 21
例 中 6例( 28.6% ) に認 め ら れた 。 免 疫染 色 陽 性 であ っ た
7
例 中 4例( 57.1% ) に、 免 疫 染色 陰 性 であ っ た 14
例 中 2例( 14.2% )にp5
3遺伝 子
変異を認 めた。
蛋 白 陽性 、 遺 伝子 異 常 を認 め た 4
例 は 、 変異 型 p53
蛋 白 が 蓄積 し 、 免疫染 色によ り
検出 さ れ たも の と 考え ら れ た。 蛋 白 の発 現 がな く遺伝子 異常を認 めた2例は、 フレー
ムシフト 変異など の蛋白 構造を維 持でき ない変異 をきたしたため抗体により認識されな
かっ た と 考え ら れ た。 p53
蛋 白 の 過剰 発 現 のみ を 認 め 、遺 伝 子 異常 を 認めな かった 3
例 は 、 そ の 乖 離 の 原因 と し て 、野 生 型 p
53蛋 白が 蓄 積 した こ と 、免 疫 染 色と 実 際 に
m
icr0
出 sse
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nを 行 った 部 位 とは 切 片 上 異なる ため正確 にその 性状を反 映して いな
か っ た こ と 、 遺 伝 子 検 索 を し た 他 の 部 位に 変 異 があ っ た こと な ど が推 定 さ れた 。
p53遺 伝 子 変 異 は , 免 疫 染 色 法 , PCR-SSCP法 の 両 法 を 相 補 的に 用 い て 検索 す る
の が有 用 で あっ た 。 上 皮内 癌 の 一部に 早期の段 階から p
53
遺伝 子異常 が関与し ている
場合が あり、 上皮内癌 間には 悪性度の 差異が存在することが明らかにできる可能性があ
ると考 えられ た。
公 開 発表に 際し、副 査の細 川教授か ら、症例 の頻度 と膵管癌 の進展 の仕方に ついて
質問さ れた。 申請者は 、膵管 癌は通常 、膵管上皮から発生すると考えられており、発育
進展に 伴い膵 管上皮を 破壊し 浸潤癌に いたる場合が多いと述べた。また新潟大学医学部
第 一病 理 学 教室 に お い て、 197
6年 か ら1998
年 ま で に通 常 型 膵管癌 と診断さ れた症 例
は 約400例あ る が 、 上皮 内 癌 を含 む症 例で標本 の保存 状態が良 好で遺 伝子解析 が可能
で あっ たの は5
0例前後 であり それほど 頻度は高 くない と説明し た。続 いて、副 査の加
藤教授 から、 膵上皮内 癌部に ついて他 の遺伝子について検索していないかとの質問があ
っ た。 申 請 者は 、 p16
遺 伝 子 の免 疫染 色を試み たが、 評価に値 する結 果が得ら れなか
っ たと 述 ぺ た。 最 後 に 、主 査 の 浅香教 授から、 将来的 に膵管癌 のp5
3遺伝子治 療が行
われる とした ら、効果 はどう 推定され るかという質問があった。申請者は、今回の検索
か ら 膵 浸 潤 癌で は p5
3遺 伝 子 変異 を き たし て い る症 例 の 頻度 が 約 5
0% 程 度で あ る た
め箸効 は期待 できない のでは ないかと 答えた 。
本 研 究 では 、 膵 管 癌の 一 部 につ いては p
53
遺 伝子変異 が早期の 段階か ら関与し てい
ること を明ら かにし、 今後膵 管癌の発 癌機序の解明並びに遺伝子治療等の臨床応用に寄
与して いく可 能I
生が期待された。以上より、審査員一同は、この研究を高く評価し、大
学院課 程にお ける研鑽 や取得 単位など も併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに
充分な 資格を 有するも のと判 定した。
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