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集団的行為主体と集団的利益 その実在性を巡って
集団的行為主体と集団的利益 その実在性を巡って 安藤 馨 (神戸大学) 集合的主体の実在 • 義務や権利の帰属先としての集合的主体 • そうしたものの帰属先となるために必要な条件はど のようなものか • 行為者であるということ 現出主義の困難 • 成員の有様が集合的主体の有様を決定する(集団の 成員に対する随伴性) • 成員である諸個人の性質ではないような「民族精神」 の想定と随伴性の齟齬 消去主義の過剰 • Popper的な方法論的個人主義の論拠はなにか? • 世界の説明に利いてこない「余計な」存在想定 • 背後にある「余剰因果の排除」による論法 消去主義の過剰 • 最も微視的水準での物理学以外の「特殊科学」 • 日常的物体 e.g. イス の実在性 • 因果的排除論法は過剰に消去主義的 • 集合的主体は原理的にイス程度にしか疑わしくない 日常の集合的主体 • 我々が自分をそうだと思っている「私」こそがそれ • それぞれが行為者である膨大な時間的切片たちの成 す集合的主体としての「私」 • 集合的主体の実在性は(哲学者以外は)既に誰もが 信じているような常識的真理 私法の個人主義 • 集団的所有について成員の持分をどう考えるかに応 じた分類 • 成員が個人レベルでどのような救済を求めうるかを 基底にして集団を考えている • 法の諸規定は、「集団の意志」を消去主義的に個人 の意志へと還元するための規定(全員一致・多数決) 非還元的集団主義 • まず集団が実在し、それが所有の主体である • 成員が求めうる救済に様々な様態がある理由? • 集団形成時の期待の保護であって、「持分」という 個人的利益の保護ではない • 適切な「後始末」の付け方は実情に応じて様々 契約と集団 • 契約も当事者が集合的主体を構成する営為では? • 契約関係は集合的主体における成員間の協調関係 • 契約も合同行為も同じ範疇に属する • 集合的主体の後始末の方式の違いに過ぎない 集合的利益の実在性 • 集合的主体の存在までは言えた(とする) • 集合的「利益」の存在は? • 時間的切片の利益の保護に還元できない、集合的主 体としての「私」の利益の保護 • 還元不能な「私」の権利(=利益保護) 集合的利益の実在性 • 時間的切片たちが「私」を構成しているようなそれ と同様の様態で結びついているそのような密な集合 的主体性がほかにあるだろうか? • その成員が自分のことは気にせず集団のことこそを 専らに配慮しているような「狂信的」集団 • 近代的諸制度は「個人」への「狂信」を保護・促進 しようとする制度である 集合的利益の実在性 • 時間的切片の利益と「私」の利益の関係が意識され ることがそもそも殆どない → これこそが集団的 主体を構成する成員の要件では? • 集合的利益と個人的利益の関係が気になる → こ の時点で既に集合的主体性があやしい 結論 • 集合的主体・集合的権利・集合的利益の実在性には 概念的になんら疑わしいところがないし、その日常 的実例が現に存在している。 • しかし、「人類」や「公衆」はそうした集合的主体 ではないし、集合的権利・集合的利益の主体でもな い。 結論への留保 • 「人類」や「公衆」の集合的利益がsui generisな実在性 を有し得ないだけで、還元主義的に各人の利益の集積とし て理解されることは妨げない。 • そもそも各人の利益の集積に対する保護が、各人の利益に 対する(私権的)保護の集積である必要はない。 • ロールズ主義もカント主義も維持可能 → 「理性的人格」は「万人」ではないので • 環境的利益・文化的利益・人間の尊厳には懐疑的 ご清聴いただき ありがとうございました