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精子の電子顕微鏡的研究

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精子の電子顕微鏡的研究
2046
精子の電子顕微鏡的研究
金沢大学医学部第皿解剖学教室(本陣良亭助教授指導)
亭 井 善 昭
rO8宛α乃∫ゐrかαピ
(昭和30年9月26日韓附)
緒
言
精子の構造に関しては,Schweigger−Seidel(1
理論的検索に止まったがためである.近時電子
865)の研究以後,Eilner(1874),Gibbes(1879,
顕微鏡を精子の研究に応用することにより,そ
1880),Jensen(1879,1886,1887), Retzius(18
の表面構造に関する吾々の知見は著しい進歩を
8L 1909), :Brunn(1884), Ballowitz (1891),
遽げた.しかし乍らその内部超微細構造特に頸
Hermann(1892), Meves(1899), Gatenby及び
部及び織糸の構造,中間部並びに尾主部被膜の
Woodger(1921),原(1943),松原(1943)等多
螺旋駄構造の存否に関しては超薄切片の観察が
数の研究者による光攣顕微鏡的研究が報告され
必要不可欠と考えられる.
ているが,構造の詳細に関しては甲論乙駁の観
私は十日鼠精子の超薄切片及び分離標本を電
がある.この論孚の原因は精子の微細構造の研
子顕微鏡で観察し新知見を得たのでここに報告
究が光学顕微鏡の可覗限界を越えることが出来
する.
ず,超微細構造に関しては軍なる推定若しくは
守瓜材料及び実験方法
材料は成熟廿日鼠副墾丸内の精子を用いた.十日越
精子分離標本は…欠のようにして作製した.開腹後,
を固定台に固定し,開腹後出来るだけ速やかに副睾丸
速やかに副睾丸の小片を0・9%食塩水と2%オスミウ
頭部及び体部の小片(2×1×1mm)を切取り,2%オ
ム内液の等量混合液に投じ,これを振博し精子を遊離
スミウム酸液と燐酸緩衝液(PH 7・4)とを等量に混
且つ固定する.20分後この浮欝液の1滴を「フォルム
合せる固定液に投じ,氷室にて4時聞固定し,次いで
バール膜を覆ったmesh上に滴下し,乾燥後電子顕微
水洗,「エタノール」を逓し,「ノルマルブチPルメサ
鏡で観察した.なおこの標本の一部には「クロームシ
クリレート」に包埋した.
ャドウ」を施行した(角度18・5度).電子顕微鐘はIIU−
超薄切片の作製には本陣による熱膨張式超薄切片用
9型(最良分解能30A)を使用した,顕微鏡写眞は直:
ミクロトーム」を使用した(本陣1955)・切片標本は
接倍率2000及び3000倍で撮り,精子各部の測定は原板
酷酸アミPル」及び「アセトン」により睨包埋して検:
を投影拡大器により20倍に拡大して行った.
鏡した.
霊 験 成 績
廿日鼠成熟精子を頭部,頸部,申間部,尾主
向を仮りに精子の腹側とし,その反対側を精子
部及び尾絡部に分つ(図工).頭部には嚇状の突
の背側として以下記述する.
起あり,轡曲して突出しているが,この突出方
1 頭 部
【164〕
2047
精子の電子顕微鏡的研究
第一・図
頭部は外方より (1)原形質膜,(2)アクロ
ゾーム,(3)頭布,(4)核幡,(5)核質の五つ
=鶴二
加。.
の部によって構成されている.
グ
原形質膜は「アクロゾーム」及び頭布の表面
む
を覆う繊細な膜で,約五〇〇Aの厚さを有してい
%ご。
老
老.
る.図1,:Fig.7.8に見られるようにこの膜
つ電.
は頭部ゆら頸部:及び申闇:部の方に連続的に移行
して詣る.一
「テラbジー云」には内,外の二つの暦を認
{o
1{
8
めることが出来る侭9,7.一8).「アクロゾー
1
徹紀
‘{
ム」は縦断面でほ略ヌ三日月歌,横断像では二
…
重笠歌を呈し,内,外論が重って核頂にのって
ワ
いる.その厚さは核頂部位において最:大で,背
側面を下方に進むに従って薄くなる.叉「アク
ロゾーム」は頭部尖端において背側より腹側に
曲り嚇尖状を呈する。外暦は内層に比し電子密
度大で,その厚さの最大値は約180mμである.
内記の厚さは約120mμで電子線に対し略ζ均
質な影像を示す.「アクロジーム」は主に核質背
・i
側面の上方輸こ存在し,背側面の中央部におい
て頭布に移行する(Fig.7).
彪肌R,
頭布は山主の膜様構造を示し,その各々は約
1
む
360Aの厚さを有する膜で核質外面を覆ってい
る.核質の背側面において「アクロゾーム」の
内,外の二暦に連続する.なおその背側面で頭
布は「ラクダ」の背瘤様の小突出を呈す(:Fig.
7↑印).
精子の分離標本の観察によると頭部腹側面の
上部において,頭布は側面覗において電子密度
小なる紡錘形の透明部を有している(Flg.1).
超薄切片標本について見.ると,この透明部は頭
布の内,外二暦の膜の間に包まれた電子密度小
なる境界明瞭な部位であることが明らかである
図1精子の側面視模型図
h.,頭部;iac・,内アクロゾーム」;mp・,申間部;
(Figl 7)∵一なお転義部は腹側面の中央部で清失
n.,頸部3nc・,核帽;oac・,外アクロゾーム」;
し,それ以下では再び頭布の両暦が相密接して
いる(:Fig.1,7).Fig.1に示すように頭部腹
pf・,頭部透明部;pm・,原形質膜;ten.,尾三部
裸出部;tes・,尾終部螺旋部;tmp・,昆圭部.
閲面の中央部より矛傑下方,即ち上記透明部の
に突出している.このものは一・般に核質部に比
直下において腹側方向に突出する小尖を認め
し電子密度小で,透明部よりは大である.腹側
る。このものは従来記載された腹側尖(ventral
尖はこの部の三布に明確な境なく連続し頭布の
pike)に相当する.腹側尖の先端部は槍先様
物質によって構成されているように思われる
S
【165】
2048
井
(Flg.1).核質腹側面の下孚部は極めて薄い頭
る.原形質膜は分離標本においても時として,
布により覆われている(Fig.7).
電子密度小なる薄膜として認められることがあ
核帽は核質の尖端部を覆う縦断面において三
る(Ffg.1↑印).
日月形を呈する部で,核質に比し電子密度小で
1[ 頸 部
ある.外面は「アクロゾーム」の内暦より梢ヒ
電子密度大なる部位を有し,これにより「アク
頸部は頭部と旧聞部の間に介在し,頭部との
ロゾーム」と区分される。しかし内方へは三三
の内部には電子密度大なる頸部小体あり,その
は漸次核質に移行しているように見える(:Fig.
表面を中闇部より上方に延長せる螺旋構造に覆
7).
われ,最:表層には頭部より蓮続せる原形質膜に
核質はFig.8に示すように通常均質性であ
覆われている.
聞には一種の関節1伏構造を呈する(図1).頸部
り且つ「アクロゾーム」及び弘布に比し電子密
頸部小体は尾部,申間部の申心を走る軸元の
度は大である.しかし乍ら,時として核質内に
根をなす小体で上端は大きく下端はこれに比し
電子密度大なる顯粒歌構造を示すことがある
徐々に細くなっている(Fig 8,10).上端は額
(Fig.7).核質は下端に近づくにつれて矛徹細
面位の縦断で見ると軽度の二叉歌の突起を出
くなり,頸部に面する下端部は種々の縦断面に
し,矢状面では円柱1伏に見える.即ち頸部小体
おける所見より,鞍ナ二面を呈し,頸部小体の鞍
上面は額面方向に鞍散溝を有する一種の鞍状面
歌面に面していると考えられる.両鞍二面は密
を有し,頭部核質下端面の凱歌方向に痴話溝を
接せずその間に電子密度極めて小な物質に満さ
有する鞍歌面に相対し,そめ間に電子密度小な
む
れた小隙(約280A)あり,両鞍1二面の周辺縁
る腔を有する.両鞍が犬面の外側縁は二布の延長
は頭布の連続と思われる電子密度比較的小なる
と思われる厚さ約330Aの膜様のものにより
膜によって繋がれている(:Fig.7,8).
結合されている.即ち頭部と頸部は一種の鞍欣
一般に,十日鼠精子頭部は扁雫な二二を呈
関節構造によって結合されている(:Fig.7.8.
し,頭部の尖部は頭布より形成された嚇歌の尖
10).換言すれぽ頭部下端部は頸部小休の滑車
端を腹側方向に突出している(Fig.1).この二
様溝に浅く陥入し且つ頸部小体に漏話が犬に乗っ
二部は核質部より電子密度小である.屡々:Fig.
ている.頸部小体下部よりは軸糸が下方に放散
1において見られるように二二部の稻ζ背側寄
りの部に,梶棒歌の突出物を認める.この突出
する.頸部小体上部の横径は約250mμ二叉歌
む
の各部分は約780∼900Aであり電子密度は極
物は長径約1・1∼1・2μ,横二二0・51∼0・52μ
めて大である.
を算する.突出物の遊離端部は基底部より梢ミ
頸部小体の外側面には中問部と同様な螺旋構
幅広く且つ球欣を呈する.固定分離標本で十日
造が明らかに存在し,油布の下縁に接している
鼠精子頭部の最大径を測定すると約2.5∼3.0μ
(:Fig.10).原形質膜は頭部及び申闇部におけ
の聞にある.他方頭部の厚さは超薄切片標本に
る原形質膜を繋いでいる.
よって測定すると,最大の部分で約0.3∼0.4μ
皿 中間部
中品部(結合部)は頸部と尾主部との闇に位
である.
分離標本においては頭部が明らかな境界なく
し(図1),長い円柱歌を呈する.超薄切片にお
頸部に移行しているように見えるが(Fig.1),
いては,同檬に略ζ円柱歌の尾主部とは次のよ
超薄切片で見ると,前述の如く核質と頸部小体
うな2∼3の特異点により区別出来る.(1)
の間に明確な境界をなす間隙あり,外縁を二布
叡聞部は尾主部に比して,厚く且つ短い(F五9.
よりの連続物質により繋がれている.しかし原
1,4,9,12).(2),中間部の螺旋構造は三主
形質膜は頭部から頸部に連続的に移行してい
・部のそれより複:雑である(:Fig.7,11,19)・
【166】
精子の電子顕微鏡的研究
2049
(3),中間部と尾主部の移行部に以前よりJensen
.ては外螺旋帯との闇に更に電子密度の小なる部
面輪と呼称されている絡輪を認め得る(Fig・4,
:分が存在する(:Fig・12)・
15).
外螺旋帯は容積の大なる糊融累旋で,頭側は
中闇部は次の四つの物質から構成されてい
頭部の下端部に接し,頸部を螺旋歌に包み尾
主部への移行部品明瞭に認めることが出来る
第 二 図
(Fig.7,10,15>.外螺旋帯は全長に亘り一徳
の太さの帯ではなく側面より見れば所々に絞れ
ア躍・
606季
∠泥
潔癖廼
眺 ④ 二
が見ちれる(Fig.7,12).他方外螺旋帯の横断
面では1回の回転に相当して略ζ等しい間隔を
0オ羨
おいて4箇所に浅い絞輪を有している(図2,
∠曜
Fig.7,20).側面像での絞れの部位はこの絞倫
α
働。
部位に一致する(Flg.7,12)・即ち外螺旋帯は
σ翠
選轟為
曜
各回転に夫々4個の絞れを有し,亭々念珠歌を
呈している一(図3,:Fig.12,14).外螺旋帯の
各回転の上縁は次位の回転の上縁と相接してい
るが,絞輪部においては聞隙が認められる(卜ig.
む
12).外螺旋帯の幅は1720∼1900Aであり,
む
絞れの部位では1260∼1410Aである.外螺旋
図2 精子中間部の横断面模型弓
回の横断面に見られる厚さは絞れのない部位で
・.,軸糸三三心;caF・,中心軸糸繊維;…b・,
む
雫均約1620Aである.
外螺旋帯絞輪;iaF・,内環三糸繊維;isb・,内螺
旋帯;つaf・,外出島田繊維; osb・,外螺旋帯;
内螺旋帯は外螺旋帯に包まれており,軸糸を
pm・,原形質膜.・
一定の晶晶をおいて規則正しく回転している周
第 三 図
辺:部が電子密度大で中央部が密度小な三富構造
/ニニ=ここ一一一一9震・
物である(図3,:Fig.11,17).これは外螺旋
帯よりはるかに細く且つ一横の幅を有し,外螺
z砥
旋…静に見られるような絞れを有しない.この螺
む 旋は横径約580A,厚さ約460Aである.各回
む
転は平均約1350Aの間隔を保って三糸を取雀
α.
7
∂蕨
いている。即ち内螺旋帯の各回転の中間部縦軸
む
上の週期は約1930Aである.
図3 精子中間部縦断面模型図
軸糸は頸部小体末端より起始し,中闇部及び
a・,軸糸;isb・,内螺旋帯;osb・,外螺旋帯;
尾主部を貫通して尾末端部に至る多数の細長な
pm・,原形質膜.
繊維から成る(図1,:Flg.2,5,9,10,14).中
る.(i),原形質膜,(ii),外螺旋帯,(iii).内
間部では軸糸が1本の中心繊維と,これを同心
螺旋帯,(iv),三糸.
性に取…巷いている内,外2個のi環朕繊維から成
原形質膜は:Ffg.7,12に示すように,外螺
るどとが明瞭に認められる(図2,:Fig.7,20)・
旋帯の表面を覆っている.その厚さは頭部のそ
内,外両環状繊維は各々9本の繊維より蔵る.
む
れと略ヒ同じく約100Aである.外螺旋帯の,
螺旋溝の部ではそれに一致して軽く内方に凹み
即ち軸糸は計19本の軸繊維から成る.中心繊維
は最:電太く,その直径は約510Aである.内
外面に螺旋様の溝を示すが,螺旋溝の部におい
む
環の9本の繊維は最も細く直径約220Aで中
【167】
2050
井
第 四 図
心繊維から等しい距離を保ち且つ互いに略ヒ等
心隔を保ちつつ尾部に向って走る管状構造を示
亡4.
している(:Fig.7).外心の9本の繊維は内心の
伽,
む
それより太く,直径約430Aで内環繊維の外
オ滋
。婦.
・舛,
方で,中心繊維と内環繊維を結んだ線の延長上
に略ヒ互いに等距離を保ち位置する(Fig・7,
肝
20).・中心繊維及び外i環繊維の各々は直径約80
む
Aの電子密度大なる心(core)を有している
(図2プE9.7,11).
脳4 精子尾孟部の横断面模型図
自画部と尾主部の移行部
移行部(Jense・氏輪)においてはFig・14,
C・,軸糸繊維心;Cαf.,回心軸糸繊維; iaF.,
16,17に示すように原形質膜及び軸糸は中間
内応継糸繊維; oaf・,止血軸糸繊維;pm・,原
形質膜;ts・,尾鞘;tsb・,尾骨部螺旋帯.
部から尾主部の方へ連続的に移行している.中
第 五 図
間部の外螺旋帯はFig.14,15,17に示すよう
磯講説一7二=謙
に移行部において著しく容積を減じ薄い膜様構
造の電のとなり尾主部の方に移行している.即
嘆’
ち中闇面外螺旋帯はこの部で尾主部の面出構造
郁,
に移行している.内螺旋帯も尾主部の螺旋帯に
図5 精子尾主部縦,断面模型図
a・,軸糸;mp・,原形質膜;ts・,尾鞘;tsb・,
尾主部螺旋帯.
移行しているのが尾主部に入るとその構造が梢
ζ変化する(Flg.14,15,17).精子分離標本
においては,移行部は絞れとしてその位置が認
次螺旋回より離れ旦っその厚さを増して相対す
められる(:Fjg.4).
るものが合して著明な隆起を作る.そのため,
IV 尾 部
尾主部は全体として稜線の梢ヒ丸味を帯びた菱
尾部は長い尾主部とそれに続く最末端部の比
柱状を呈する.隆起面は堤状の肥大した膜の隆
較的短い尾面部に分つことが出来る、尾主部は
起であるが,その内側において尾鞘と螺旋回と
その直径約0・54μ末梢に進むにつれ漸次径を
の闇,横断面で略ヒ三角形をした電子密度小な
減じ,尾主部末端部においては約0・3μを算す
る部分を形成する.叉隆起物の内側面は相対す
る.尾終部は更に径を減ずる.
る螺旋帯との間に矛徹電子密度大なる索歌物に
尾主部は次の四つの部分から構成されてい
より結合されている(図4,:Fig.19,20)・そ
る.(1)原形質膜,(2)尾鞘,(3)螺旋帯,
のため,結露部は他の尾鞘部に比し電子密度が
大きいように見える.
(4)軸糸.
原形質膜は尾主部の最外層の膜で中間部の原
螺旋帯は中間部内螺旋帯の延長で尾主部の軸
む
形質膜から連続している.約100Aの厚さを
糸を取巻く.尾主部の螺旋回は中間部のものと
有する(図4,5,:Fig.14,18,19,20).
はその走行が著しく異なる.即ち中闇部内螺旋i
尾鞘は原形質膜の内面に位置し尾主部の螺旋
帯に見られたような各螺旋回転の等間隔回旋は
帯の表面を包んでいる膜である(図4,:Fig・19,
この部では認められない.螺旋帯は略ζ一様の
20).尾鞘は全周一檬の講造を示すものではな
い.Fjg.19,20に見られるように交互に位置
太さの長い帯歌物で管”犬構造を呈し(Hg.9),
む ぐレ
その幅は約580∼590A,厚さは約450Aであ
する各2個の菲薄面と隆起面を有する.菲薄面
る.螺旋回は3個(時として4個)の:互いに相
は非常に薄く密に螺旋帯と接iラ話しているが,漸
密接する回転を示し(図5,Fig.3,9,13,14,
【168】
、
精子の電子顕微鏡的研究
2051
玉6,17,18),次に梢ζ義心齢し上位回転より分
及び9本の外環繊維には申間部軸糸におけると
離し略ζ一回転した後再び3個の相密接する回
同じく心(core)の存在が見られる(図4,Fig.
転を示す(Fig.13,16,18).かくて漸次この
19)。各繊維は訟訴部に近づくに従ってその径
ような変化を交互に繰返して末梢に進む。即ち
を減ずる(Fig.20).
尾主部螺旋幣では3個の回転から成る密回転と
尾絡部:尾主部は末端において径を減じ,尾
1個から成る粗回転とが交:互に存在している.
む
密回転部の幅は約1800∼2300Aであり,粗回
三部に繋がる.この部における尾可也の直径は
転部における螺旋回転聞に見られる間隙は最:も
む
広いと思われる部で略ヒ510∼540Aを示し
径を減じ末端近くで小結節が存在する.小結節
た.Fig.13,16↓印においては上位密回転よ
尾絡部を螺旋部及び裸出部に分ける。螺旋部は
約0.18∼0。24μである.末梢に行くに従って
直前の部でその径は約0・11μである(Fig・5)・
り下位密回転に向って粗面転部を斜走する螺旋
尾主部末端より小結節迄の間で長さは略ζ3.8
帯を明瞭に認めることが出来る.即ち尾主部の
μである.裸出部は小結節より末梢に放出され
螺旋帯は中間部内螺旋帯とは上記の周期的密
る・部でその長さは略ζ0・7へ0・8μである.螺
部,工部両回転によって作られる帯状構造の有
旋部は尾主部よりの移行部位において尾鞘を失
無により明確に区別することが出来る.
いて螺旋が一檬に軸糸を取雀いている(図1,
尾主部の軸糸は中聞部におけると同じく1本
Fig.5,6).この部位に原形質膜が存在するか
の中心繊維とこれを同心性に取巻く9本の内環
どうかは確定出来なかったが,Fig.5より推測
繊維及び9本の外点繊維より構成されている
するに原形質膜は存在していないように思われ
(図4,Fig・19,20》.このものはいずれも中間
る.末端の小結節は径約0・24μであり,裸出
部の軸糸繊維の延長である.しかし9本の内環
繊維はこの部では極めて細く中間部において見
部の根に相当する.裸出部においては継糸は上
述諸:部に見られた螺旋,原形質膜等の被覆物質
られたような明瞭な輪廓を示さず,外環繊維の
を失い各軸心繊維が裸出し,個々が分離し末梢
内側に接近して存在する(Fig.19).中心繊維
方向に束欣を呈して放散している(:Flg.5)・
綜括並びに考按
精子構造についての諸報告を検討するに,光
等による報告がある.かくて表面形態に関して
学顕微:鏡による研究はその分解能を超える超微
多くの新知見が得られた.しかし乍ら,現段階
構造に関しては全く推論に止まり,加うるに,
の電子顕微鏡によるとその電子の組織内透過度
精子が種を異にする動物闇において著明な形態
の点よりして,精子の内部構造は軍なる分離標
構造の差異を示すという:事実はこの問題を更に
本によって研究する場合には明確性を欠く.精
複雑化している観がある.電子顕微:鏡の発明と
子内:部の超微構造は超薄切片による電子顕微鏡
共に精子はいち早く研究課題として採り上げら
的観察に得たねばならない.
れ,Seymour及びBenmosche(1941),:Baylor,
1.頭部の構造について
Nalbandov及びClark(1943),Schmitt, Hall及
従来の光学顕微:鏡による研究によると,頭部
びJakus(1943),sanders(1948),βretschneider
核質は「アクロゾーム」及び頭布により覆われ
(ユ949∼1950),Randall及び:Friedlaellder(19
ているとせられているが,吾々は頭部最:外暦を
50),R6theli, Roth及びMedem(1950),安澄
覆っている薄い膜を見出し,これを仮りに原形
(1950),高島(1952),Jo61(1953), Watson(19
質膜と名付けることにした.この膜は無論「ア
52∼1953),Bradfield(1953),南野(1955 a,b)
クロゾーム」及び頭布の表面を包んでいるもの
【169】
r
’
2052
井
であり,中間部,尾主部の原形質膜と連続的に
いてはいずれもこのものの存在を否定してい
結合されている.Seymour及び:Benmosche(1
る.しかし乍ら:Baylor等;は鶏で, Randall及
941),Baylor,:Nalballdov及びClark(1943),
びFriedlaender(1950)は羊で,南野(ユ955 a)
:Bretschneider(1949),Randall及びFriedlaender
は「ラ.テ」においていずれも「アクロゾーム」
(1950),安澄(1950),高島(1952),Jool(1953)
を認めている.大型の「アクロゾーム」を有す
等の人,牛,山羊精子の義定分離標本における
る海魚及びrハムスター」の精子において既に
電子顕微鏡観察においても,未だこの原形質膜
光学顕微鏡的観察によりLenhoss6k(1898),
或いはこれに類似の薄膜に関する記載がない.
Gatenby及びWoodger(1921),1’eblond及び
これは恐らくこれら諸家の研究資料作成に際し
ClermOllt(1952)等は該動物精子の「アクロゾ
て,この膜が甚だ菲薄脆弱なため固定或いはそ
ーム」が内,外二暦から成ることを述べている.
の後の材料処理に際して豪雨されたか,存在す
今迄十日前の「アクロゾーム」は一心より成る
るも分離標本として輩に外表観察にのみ止まっ
とされていたが,吾々の研究によると内,外の
たがために見出し得なかったものと考えられ
二暦によって構成されていることが明らかであ
る.吾々も分離i標本の場合には殆んど原形質膜
る.その厚さは夫々0.12(・0・18μの聞にあり,
の存在を識別し得なかった.これに反し超薄切
この値は光学顕微鏡の分解能以下であるので,
片観察においては,頭部の最:外暦に明らかに一
従来の研究者はこの高論を別々に識別し得ず一
暦の膜としてこのものが認められる.Randall
面と見徹したものと考えられる」而も,該「ア
及び:Friedlaellder(1950)は羊精子頭部は,一
クロゾーム」は従来記載の如く箪なる細い棒朕
幅の薄い原形質鞘により包まれていると述べて
のものではなく三日月形をなし核質の背側面の
いるが,彼等の癸表した電顕写眞において,吾
上部3分の1を覆:い,頭部尖端を’まわって腹側
々はその存在を確認出来なかった.この原形質
面上方に及び,横断面では核質上部に二重笠歌
膜は南野(1955a)が「ラッチ」の精子形成にお
の構造を示している.
いて指摘した精細胞の細胞膜の変形せるものに
頭布が「アクロゾーム」と密接な関係を有す
相当すると考えられる. 、
ることは1・enhoss6k(1898), Duesberg(1909)
「アクロゾーム」に関してはWaldeyer(1901)
等により注目され,Leblond及びClermont(19
がその古典的研究において卵侵入時の穿孔器で
52),Cavazos及びMelampy(1954)等は組織
あると述べて以来注目され,:Bowen(1924)は
化学的見地から頭有が「アクロゾーム暗転より
受精時に作用する一種の分泌産物なりとし,近
生ずると述べている.塗布及びその内部に見ら
くはWlslocki(1949),E】ftma11(1950),:Leblond
れる透明部に関する従来の研究はその記述が種
及びClefmont(1950,1952). Cavazos及び
々雑多で研究者の個々により種:々の名称が与え
Melampア(1954)等はPA−FAS法による組織化
られている.Bretschneider(1949)がheadtunica
学的研究を行い,この反応が精子が成熟するに
と名付けたもの及びRanda】1及び:Friedlaender
従って減少することを明らかにした.Leblond
(1950)がpost−nuclearcapと称したものはい
及びClermontはこの所見から「アクロゾーム」
ずれも頭布の一部に相当すると考えられる.
が「セルトリー氏細胞からの精子の放出に関係
Watson(1952)が「ラッチ睾丸組織の電顕写眞で
ありと推論した.他面「アクロゾーム」は動物
核帽と記載しているものはその図より頭布に相
の種類によって著しい差異を示すかのようであ
当するものである.:Bretschneider(1949)は牛
る.Baylor, Nalbandov及びClark(1943),
精子において略々頭部の上牛部を白布が,下
:Bretschneider(1949),安澄(1950),Jo61(1953)
牛部を頭膜(headtun{ca)が包んでいると記載
等の人,牛及び山羊精子の電子顕微鏡検索にお
している.こ.れに反し,安澄(1950)は牛,山羊
【170】
精子の電子顕微鐘的研究 ⇒
2053
精子の三布は頭部全体を包み,その前乙部は頭
「アクロゾーム」より大で,核質より小なる部位
部より分離して存在するが,後牛部は頭部周辺
を認め,これを核帽と仮称した.Watson(1952)
部に密接するといい,他方:Baylor,:Nalballdov
のいう「ラッチ」精母細胞における核帽(nUClear−
及びClark(1943)達1は牛精子頭部は原形質様
cap)は前述の如く二布に相当するものである.
帽(protop】asmic cap)に包まれていると報告し
Rallda11及び:Friedlaender(1950)が「アクロゾ
ている.吾々の超薄切片の観察では若布は「ア
ーム」と核質表面の聞にあると記載した“inter−
クロゾーム」より起始せる回暦の膜様構造であ
mediate membrane”は吾々のいう三三と類似
ることが明白である.核質腹側面の上端部に近
の場所に存在するが,彼等の観察は固定分離標
い頭三内に見られる紡錘形の透明部はJe1〕sen
本に基いているので直ちにその異同を論ずるこ
(1887)の所謂‘‘Hakenst施chen,,,原(1943)の
とは出来ない.
銀染色による型染部に相当するものと思われ
核:質にはJensen(1887), Meves(1899)以来
る.恥b】ond及びClermollt(1952)はこの透明
種々の内部構造が推定せられた.安澄(1950)
部を“perForatorium”と呼称し, PA−FSA反応
は頭部は均質で不透明であるとなし,高島(19
は.・このper£oratoriulnの部では非常に弱いが「ア
52)は人精子頭部構造は穎粒歌の門門物質が相
ク・ゾーム」及び頭布では強く陽性を呈し,鉄
互に閉り合っていると報告している.廿日鼠成
ヘマトキシリン染色標本ではperfbratorillmは
熟精子における吾々の所見は分離標本では核質
響く染まるがfアクロゾーム」及び頭骨は殆ん
ど反応を示さないと報告している.吾々の所見
が可なり電子密度大なる均質物質から成ること
では透明部は「アク・ゾーム」及び二布に比し
あるが,時には若干の電子密度大なる顯糊犬の
て著明に電子密度が異なり,「アクロゾーム」及
ものを含むこともある.この穎粒歌物質は高島
を示している.超薄切片標本でも殆んど均質で
び頭布とは異なった物質により構成されている
のいう穎粒欣核檬物質に一致するとも考えら
ことを示している.核質腹側面下三部は一円の
れるが,固定時の人工産物を否定し得ない.
膜様のものにより覆われている.この膜は電子
Baylor, Nalbandov及びClark(1943),:Brets−
密度,厚さ及び核質との関係から頭布の二野構
chneider(1949)が牛精子で見たという「クロモ
造の内,内暦に一致するように思われる.この
ゾーム」の凝集像は認めなかった.頸部と接す
所見はJensen(1887),:Friend(1936),:Leblond
る核質の下端部はJensen(1887), BruDn(188
及びClermont(1952)等従来の記載に反する.
4),Meves(1899),原(1943), Leblond及び
この事は次の如く考えれば容易セこ理解出来る.
Clermollt(1952)等によると略ミ:李滑であると
即ち,上述の透明部のすぐ下方において腹側尖
いうが,Baylo「, Nalbandov及びClark(1943),
を認め且つこれは頭布と電子密度において略ヒ
:Bretschneider(1949),安澄(1950),高島(195
同一である.腹側面上牛部を覆っている二暦の
腹様構造のうち,外層はこの腹側尖を形成し背
2)等はこの部に陥凹が存在しここに頸部が陥
入していると記載している.廿日鼠成熟精子頭
側面の頭布に移行し,内層はなお腹側面下牛部
部下端部は頸部小体との間に二巴関節様構造を
を覆っているように思われる.Jensen(1887),
示しているしこの事は種々の部位及び方向にお
:Friend(1936), Leblo1=d及びClermont(1952)
ける二二切片所見より明白である.
一等が腹側面下牛部が頭布により覆われていない
吾々は分離標本の観察に際して頭部の背側面
と記載したのはこの部の二布が甚だ薄く光学顕
で頭尖部に近き部位において,二布と略ζ相似
微鏡の分解能以下であるがためである.
の電子密度を有している突出物を認めた.従来
二丁は今迄の二二には記載されていないが,,
の哺乳類精子に関する研究は全くこの突出物に
二二切片観察で核質尖端において電子密度が
ついてふれていない.唯僅かに安澄(1950),高
【171】
2054
井
島(1952)等は未熟精子頭部に細胞質の二二部の
(1949),Randall及び:Friedlaender(1950)等の
存在を記している.しかし吾々の十日鼠精子は
いう膜様物と同質性のものと考えられる,以上
副睾丸より採取したものであるから殆んど成熟
のように関節構造を示して接合する頸部と頭
していると考えられ且つ乱頭尖部に近く存在し
部は密着していないでその闇に若干電子密度小
ていることから未熟精子の細胞突出部とは考え
なる部位により隔てられている.この部分が
られない.
:Ba110witz(1886)の接合物質或いはJersen(188
2.i頸部の構造について
6,1887)の透明が犬物質に相当するかどうかは
頸部に関してはEimer(1874)による報告以後
分らないが,明らかに頸部小体と異なる物質よ
Ballowitz(1886), Jensell(1886,1887), Meves
り出来ていることが考えられる.頸部の表面は
(1897,1899),Hermann(1892),:Benda(1891∼
虚聞部の螺旋鞘及び原形質膜により覆われてい
1892)等の古典的研究がある.彼等は頸部に軸
る.この螺旋鞘は頭部下端部と密接して存在し
糸の出発点となる小体が存在するという点では
ている.頸部小体の下端からは軸糸が起始し且
略ζ一致しているが,頸部の微細構造に関して
つ尾部の方に走っている.このような所見は
は各人各様の所見を述べている.その後大した
:Fawcett及びPorter(1954)が哺乳類の額毛構i
進歩は認められなかったが,最:近分離標本によ
造について述べた基底小体と原繊維の相互関係
る二,三の電子顕微鏡的検索が報告せられた.
に類似しているように思われる.
:Bretschneider(1949)は牛精子の頸部が,8本
3.軸糸の構造について
の頭部基底の輪歌人と結合している繊維と1本
軸糸の微細構造についてBallowitz(1886)は
の頭部下端の噴火口歌窩に存在する中心体と結
哺乳類の軸糸が4本の“ElemeDtarfib7ille11”よ
合している中心性繊維より構成され,その表面
り構成され,中間部,尾主部を貫通し尾寸話で
は頭膜により覆われていると報じ,Randall及
露出していると記載している.この報告をめぐ
び:Friedlaender(1950)1ま羊精子の頭部と頸部
って烈しい論争がなされたが,電子顕微鏡の出
闇の結合は繊糸翻犬叉は膜様であると述べてい
現により軸糸の構造も漸次明らかとなりっつあ
る.安澄(1950)は頸部は2∼3条の繊維から
る.即ち分離標本についてSchmitt, Jakus及
成り,この軸繊維の上端部は山形の浸出を形成
びHall(1943)は入,牛,「ラッチ」精子の軸糸が
すると報告している.高島(1952)によるとこ
一枚の繊維様被膜に包まれた8∼11本の原繊維
の凸出部の前端には2個の電子透過性の弱い平
より構成されているといい,:Baylor, NalbaDdov
板があり,この早板の下端から細糸繊維が起始
及びClark(1943)は牛精子で6本以上の原繊
するという.しかし以上の諸家の所見は頸部を
維から成ると述べ,SaDders(1948)も亦多数の
全体として側面,而も分離標本作成という技術
原繊維より構成されていると報・歯した.軸糸繊
的見地からして限られた一側面からのみする観
維数に関しては13retschneider(1949)は牛精子
察に基くもので頸部構造の詳細特に頭部,頸部
で12本,Rδtheli, Roth及びMedem(1950)は
の結合構造は超薄切片による種々方向の断面所
魚類精子で9∼11本,Ra1〕da11及びFriedlaender
見によらねばならない.吾々の超薄切片所見に
(1950)は羊精子で12本,安澄(1950)は牛,山
よると廿日鼠精子頸部には上面に一種の鞍朕面
羊,人の精子で5∼10本,高島(1952)は人精子
を有する頸部小体が存在し,既述のように頭部
で9本,藤本及び高岡(1954)は「スナヤツメ
核質下端と一種の温温関節を形成している.こ
の鞍が犬面は額面断では二叉厭に見える.斯る閣
精子で8∼9本の原繊維より構成されていると
記載している.斯る原繊維数の差異は恐らく動
節面の外側は頭布の一部と思われる膜様のもの
物の種及び標本処理法の影響によるものとも考
により結合されている.これはBretsぐhneider
えられるが,上記諸家の行ったような軍なる分
【172】
精子の電子顕微鏡的研究
2055
離乾燥による観察では繊維の数及びその相互位
は螺旋様構造を:有し,その内に螺旋糸(Spiralfa−
置関係は明確にし得ない.超薄切片の断面観察
den)を有するとなした.これに反しBrunn(18
の必要性が張調される所以である.超薄切片品
84)及び原(1943)は漏斗知こならんだ穎粒より出
により,Watson l 1953),南野(1955 b)等は「ラ
来ていると見倣した.電子顕微鏡的研究として
ッチ」の軸比が1本の中心性繊維と9本の同心
はSeymour及び:Benmosche(1941)が初めて
性繊維か』ら成ると記載し,Bradffeld(1953)は.
人精子の中間部被膜が9∼12個の分節によって
牛精子で20本の原繊維から成ることを述べて
構成されていると報告し,SaDders(1948)も亦
いる・その上海胆の精子ではBrad5eld(1953),
これに賛成している.これに反し Schmitt,
コakus及びHa】1(1943)は中間部被膜は眞性の
A伽hus(1955)等は11本の原繊維より構成され
ていると記載している.吾々の威熟廿日鼠精子
螺旋より出来ている原繊維品品であると述べ,
の軸糸の超薄切片による観察により軸糸は1本
:Bretschneider (1950) セま虫累旋様被膜カミニ:重:虫累旋
の中心性繊維と,これを同心性に取恥く夫々9
本から成る内環及び塩魚繊維とから構成されて
より構成され,この二重螺旋の各々の帯は約
ロ
1700Aの幅を有するといい, Randall及びFrie・
いることが明らかとなった.即ち一糸は総計19
dlaender(1950)は螺旋’構造を有する被膜は八暦
本の繊維より構成されている.内鼠繊維は外焔
・より成ると考えた.安澄(1950>,高島(1952)等
繊維よりはるかに細く尾絡部に近づくに従って
は被膜の螺旋は人,牛,山羊精子においては8
中間部におけるより輪廓が不明瞭となるように
∼12画面を有すると述べている.しかし以上の
見える.吾々は外面繊維及び申心繊維が中央部
諸家の行った分離乾燥標本の観察では内部構造
む
に縦走する直径約80Aの電子密度小なる心を
の立体的相互関係はなお不明確であった.南野
有することを発見したが,このものの詳細な構
(1955b)は「ラッチ」精子において中間部被膜
造に関しては今後検索を進めたいと考えてい
が螺旋歌暦,中暦及び最外暦の3暦より構成さ
る.なお高島(1952),藤本及び高岡(1954)等;は
れると述べているが,個々の構造の詳細につい
軸糸の繊維は感冒欣の物質によって覆われてい
ては報告していない.:吾々の研究により中間部
ると述べているが,吾々の超薄切片の観察では
被膜は既に述べたような特有な構造を有する内
斯る顯粒を確認出来なかった.これは恐らく分
螺旋帯,外螺旋帯及び原形質膜の3暦より構成
離乾燥標本作成時に生じた人工産物と思われ
されていることが明瞭となった.Bretschneider
る.軸糸の繊維の太さに関しては,分離乾燥標
(1950)は中間部の内層は軸糸を包む薄膜であり
む
中品部は螺旋帯構造を示し,その幅は約1700A
本における観察でRandaU及びFriedlaender
む む
(1950)は約50∼100A安澄(1950)は約300A,
む
高島(1952)は約100Aであると報告している
比較すると,吾々の外螺旋帯の幅が約1700∼19
む
が,吾々の測定値は中心性繊維が約510A,外
む
00Aであるので彼のいう螺旋帯は吾々の二一
む ロ
i環繊維が約430A内環繊維が約220Aである.
であると記載しているが,これを吾々の所見と
・帳面に相当するように思われる・Bretschneider
この相異は実験動物の種の差によるか或いは標
は螺旋帯に二重螺旋構造を認めたというが,こ
本作成法の相違によるものと考えられる.
の二重構造は恐らく吾々の素話温帯と内螺旋帯
4.中間;部被膜;の構造について
とを側面覗により観察したため,二重螺旋構造
中台部被膜の構造は過去において論争の焦点
檬に見えたのではなかろうかと想像される.事
となった問題の一つである.Gibbes(1879.18
実吾々は分離乾燥標本において彼のいう二重構
80) JeDsen(1879.1887),P】atner(1885),Benda
造檬所見を得ているが,これは明らかに内,外
〈1891),」≧allowitz(1891), Meves(1899),Retzius
性質を異にする2種の螺旋帯から成るものであ
(1909)等は詳細な点では個々異なるが,被膜
る.
【173]
2056
井
光学顕微鏡研究においてJensen氏輪と呼ば
取雀く螺旋山,この螺旋帯を包む尾鞘及び原形
れる中聞部と尾主部の移行部は:Baア】or, Nal−
質膜より構成されている.螺旋帯は中間;部内螺
bandov及びClark(1943),Bretschne{der(1949),
旋回に繋がるものであるが,この部においては
Randall及び1耐edlaender(1950),高島(1952),
3回乃至4回相密接して回旋する密回転と梢ぐ
Jod(1953)等;により一・種の絞輪構造として碓i
斜走する粗回転を交互に繰返し末梢に走る故に
認されている.しかしその詳細に関しては報告
側面幌において密回転と粗回転により一種の縞
がない,僅かに南野(1955b)は超薄切片山で尾
を形成する.Jensen(1887), Ballowitz(1891)等
主部被膜の一二の非薄な膜が尾主部基底部の謡
歌の膨大部を越えて中門:部の細胞膜に移行しで
は恐らくこの縞を光学顕微鏡により観察したも
いると述べているに過ぎない.しかし乍ら吾々
はBretschneiderのthree−P汐或いはRandalI
の所見ではこの絞れば上聞部の外螺旋幣の容積
及び:Friedlaenderのtwo−plyではなく周期的
減少によって出来るものである.この部では外
のと思われる.即ちこの螺旋帯の構成螺旋数
・に粗回転を示す1本の螺旋から成るのである.
螺旋帯は罪薄となり,膜性構造を呈する尾鞘と
決:して南野(1955b)のいう如きi環歌体では.な
して移行部を越えて尾主部の螺旋帯を覆う.即
ちBaylor,:Nalbandov及びclark,高島, Jo61等;
い.尾主部螺旋帯の表面を覆う部分について
は,電子顕微鏡的にもRanda11及びFriedl−
の七輪,或いは Bretschueider, RandaU及び
aender(1950)が螺旋の外側に層をなす被膜が
:Friedlaender等のJeDsen氏輪は中間部の外螺
あると記するのみで詳細は不明であった.吾々
旋帯の最:経の回転に外ならない.
5.尾主部被膜の構造について
の所見によりこの部は中間部外螺旋帯の変形し
た膜様物即ち尾鞘と更にその表面を覆う原形質
JeDsen(1887)及びBa110witz(1891)は尾主
膜より成ることが明瞭になった.尾鞘は罪薄部
部の被膜に横二二の存在を記載し,このものが
と隆起:部よりなり,菲薄部は螺旋帯に密着して
中門部被膜の螺旋と似ているが,2∼3%苛性
いるが,隆起部は可なり厚くなり堤朕を呈し尾
加里液及び1%塩化金液を用いることにより申
主部螺旋帯の隙こ略ヒ三角形の電子密度小なる
下部の螺旋構造と尾主部の横紋理とを区別出来
部分があり,その申に隆起部と螺旋帯を結ぶ梢
ると述べた.電子顕微鏡的には13aylor, Nalban−
ζ電子密度大なる索歌物が見られる.これは南
dov及びClalk(1943),Sanders(1948),Joご1(19
野(1955b)の見た小結節に一致するものと思わ
53)等は尾主部被膜として輩に急雷を取丸く繊
れる.斯る小結甲状構造は中間=部の横断面では
維性若しくは原形質性の被膜が存在するとい
認められない.尾鞘の表面は薄い原形質膜に覆
い,:Bretschneider(1949)は二二を覆う内払の薄1
われている.この膜は南野(1955b)が尾主部被
膜が尾主部において螺旋となり3本の螺旋より
膜と記載した一暦の菲薄な膜に相当するものと
成る帯下構造(three ply)を呈すると記載し,
思われる.
RandaU及びFriedlaender(1950 Mま尾主部被膜
6.尾終部の構造に.ついて
は二暦の聞及び一麿の螺旋帯より構成され,螺
Retzius(11881),Brunn(1884),:Baliowitz(18
旋帯は2本の糸(two−Ply)から成ると報告して
91),Meves(1899)等は被膜のなくなって二二
いる,超薄切片所見として,南野(1955b)は尾主
が露出した部位を尾絡部と称した最近Baylor,
部が細胞膜より由来せる一門の菲薄なる膜に覆
Nalballdov及びClark(1943). Sallders(1948),
われ,この膜の内側に軸糸を帯歌に取巻く楕円
Bretschneider(1949),安澄(1950),高島(195
形の電子密度大なる環状体があり,環朕体の外
2),Jo61(1953)等により二子繊維が尾部末端
側に電子密度大なる小結節を認めたと報告して
部において刷子歌に分離していると報告され
いる.吾々の所見によれば尾主部被膜は軸糸を
た.これに反しRanda11及び:Friedlaender(19
【174】
精子の電子顕微鏡的研究
2057
50)によると六諭部の軸糸繊維は螺旋に包まれ.
のである.裸出部には螺旋は存在せず軸糸が東
その尖端は円くなった形をして論るという.吾
歌に分離している.この点は.:Baylor, Nalbandov
々は遺漏部を螺旋部と裸出部に分けた.螺旋部
及びClark(1943), Sanders(1948),Rretschnei−
においては劇論が消失し螺旋がその表面を取回
der(1949), Jo61(1953)等の記載と略ζ一一致す
いている、それ故に所謂尾終部は被膜が全く消
る.なお螺旋部と裸出部の問に見られる小結節
失しているというBrunn(1884),おallowltz(18
は螺旋末端がこの部で軸糸を画く取雀くことに
91),Meves(1899)等の推定は誤りである.尾
より形成せられたものと考えられる.
面部の一部分においてもなお螺旋が認められる
論
結
成熱十日鼠の副睾丸内精子を材料とし,その
と9本の外環繊維はその中央に電子密度小なる
超薄切片標本及び分離i固定標本につき精子各部
心を有している.
を電子顕微:鏡により観察し次の如ぎ成績を得
4) 中間部被膜は内螺旋帯,外螺旋帯及び原
た.
形質膜の3暦より成る.内螺旋帯は管1伏構i造を
1)頭部は原形質膜,「アクロゾーム」,頭布,
有する長い紐状の物質で一定の間隔をおいて規
核帽及び核質より構成されている.原形質膜は
則正しく軸糸の周囲を回旋している.外螺旋帯
最:表暦を覆う.ドアクロゾーム」は内,外二暦か
は幅及び厚さが大で内螺旋帯を包んで互いに相
ら成る.頭布も亦二層の膜よりなり「アク・ゾ
接して回旋している.横断面では各回転に夫々
ーム」の元暦に夫々蓮濾する.頭部腹側面の上
4個の絞れ有し側面像では軽度の絞れのある略
二部において内,外両頭布の闇に紡錘形の透明
ζ念珠状に近き像を呈する.外螺旋帯の表面は
部を認めた.透明部のすぐ下方において腹側尖
頭部から蓮卜している薄い原形質膜により覆わ
が外方に突出する.核帽は核質上部において
れている.中聞部と尾主部の移行部において中
「アクロゾーム」に密接して存し核質よりも電子
間部の内螺旋帯は尾主部の螺旋帯に連続的に移
密度は小である.核質は一・般に均質性電子密度
行し,外螺旋帯は尾鞘に連続する.
大である.核質の下端部は鞍欺面を呈し,頸部
5) 民主:部被膜は軸糸を取雀く螺旋帯とこれ
小体の上面に面している.
を包む涌出及び原形質膜より成る.螺旋帯は1
2)頸部小体は西洋梨欺を呈し,その上部は
下部より大で,上面に鞍状面を有し,核質鞍歌
本の螺旋が3回転(時として4回転)より成る
面との間に一・種の鞍状関節様構造を示す.頭布
糸を取雀く.螺旋帯は管刑講造を有する.尾鞘
密部と1回転から成る粗部を交互に繰返して軸
の下部は頸部小体の上外側縁迄延長しここに附
は横断面で菱形を呈する管状膜で螺旋帯と密着
着している.頸部小体の下部よりは軸糸繊維が
する二つの菲薄面と,螺旋帯から離れて次第に
起始し下方に走る.頸部の外側は中間部被膜と
厚くなり隆起する二つの隆起面を有する.この
同性質の被膜によって包まれている.
隆起面の部と螺旋帯の闇に電子密度小なる略ミ
3)軸糸は頸部小体より起始し1本の中心性
繊維とこれを同心性に取点く9本の外藩繊維及
旋帯の聞を結ぶ索状の梢ζ電子密度大なる索状
び9本の内環繊維より構成され,尾絡部面走る.
物質を認める.尾鞘の表面は原形質膜に覆われ
中間部においては外環及び内環の各繊維の輪廓
ている.
三角形の部位を形成し,この部位に隆起部と螺
は明瞭であるが,尾主部では9本の内環繊維は
6)尾終部は螺旋部と裸出部に分かたれる.
細くなり且つ輪廓は不明瞭になる.中心性繊維
螺旋部においては尾鞘及び原形質膜が消失し,
【175】
2058
井
螺旋のみが軸糸を取巻いている.裸出部は螺旋
賜わった恩師本陣助教授に深甚なる謝意を表します.
回から末端の部位で螺旋も浩失し軸糸繊維が束
家いで種々御援助を戴いた三下俊雄氏,電子顕激鏡室
状に分離iして放散している.
の野田慶吉氏,西村竹治郎氏及び谷口幸吉氏に深謝す
欄卜するに当り,終始御懇篤なる御指導と御感閲を
る. ’
献
文
Quart.」・Microsc・sci・,19;(1879),(∫ensen
1)Afzelius, P. A: Zeits. f. Zellforsch.,
42;134,(1955). 2)]Ballowitz, E=
1887による). 20)GibLes,]旺= Quart・
Anat. Anz., Jg.18863363,(1886). 3)
J.Microsc. sci・,20:(1880),(Jensen 1887に
Ballowi幅, E: Zeits. f. wiss. Zool.52:
よる). 21)原和一郎:.解剖学維誌,21:
217ク(1891). 4)Baylor,瓢. R. B., A.
623,(1943). 22)Herman11,:F:Anato・
〕Nalba而ov.&G。 L CIark::Proc. Soc.
mische Hefte, Abt 2.,2:201,(1892). 23)
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附 図 説 明
略 号 説 明
Plate 1
廿日鼠精子分離乾燥標本の電子顕微鏡
像.
a., 軸糸
丘9・1 精子頭部及び中間部. ×6,000・
ac・, アクロゾーム
丘9・2 精子尾興部.×6,000・
。り 軸糸繊維心
69・3 精子尾四部.螺旋構造を示す.
caf・,申心三糸繊維
×7,800.
cosb・,外螺旋帯絞輪
Plate 2 廿日鼠精子分離乾燥標本の電子顕微鏡
h・, 頭部
像・
ha.,頭尖部
丘9・4 精子申警部及び尾主部.×7,800・
hc・,頭布
69・5 精子尾主部及び尾琴弾.×15,600・
iac.,内アククロゾーム」
丘9・6 精子聖明部の螺旋部・「クロームシャー
iaf・,内野軸糸繊維
ド」を旋行す.×31,200・
isb・, 内虫聞旋帯
Plate 3 廿日鼠精子超薄切片標本の電子顕微鏡
∫・r・, 「ジエソセン氏輪
像・
mp・,中間部
丘9・7 頭部及び頸部の縦断像,申間部の横断
n・, 頸部
及び尉断像.×21,000.
nbり 頸部小体
f三9・8 頭部及び頸部小体の縦断像.×15,000・
nc・,核帽
ぞig・9 尾主部の維断像及び中閻部の尉縦断
ns・,核質
像. ×15,000.
oac・,外アクロゾーム」
Plate 4 廿日鼠精子超薄切片標本の電子顕微鏡
oaL,外環軸糸繊維
像.
osb・,外螺旋体
丘9・10頭部,頸部及び申間部の縦断像.
P。, 頭部突出物
×15,000.
pf・, 頭部透明部
丘g・11申間部烈縦断像.内,外螺旋帯及び軸糸
pm・,原形質膜
構造を示す.×12,000. し
telユ・, 命終部裸出部
丘9・12申闇部尉断像.×12,0CO.
tes・,尾終部螺旋部
丘9・13申間部:及び訟訴部の斜縦断像.両者の
tmp・,尾主部
移行を示す.×21,000.
ts・, 尾鞘
Plate 5 十目鼠精子賦払切片標本の電子顕微鏡
tsb・,尾圭部螺旋帯
像.
vs・,腹側尖
丘9・14申二部及び尾晶晶の縦断像.申間部と
【177】
2060
丘9.15
丘9.16
丘9.17
井
尾主部の移行及び尾圭部の螺旋帯を示
質膜を示す. ×12,000.
す.x12,000.
Plate 6 廿日鼠精子超薄切片標本の電子顕微鏡
申間部及び尾主部の尉縦断像.中間部
像.
外螺旋帯の終廻転を示す.×12,000・
丘9・18尾主部縦断像.尾主部螺旋帯及び原形質
尾主部縦断像及び申間部尉縦断像.’
膜を示す.×12,000.
間部と尾圭部の移行並びに尾圭部の螺
Hg・19尾圭部横断像.軸糸,尾鞘,螺旋帯及
旋帯を示す.×12,000・
び原形質膜を示す.×21,000.
申間部及び尾主部の斜縦断像.中間部
丘9.20申間部及び尾主部の横断像.並びに中
の内螺旋帯,尾主部の螺旋帯及び原形
間部の尉縦断像.×ユ2,000.
【ユ78】
平井論文附罰 (・)
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附
図
(4)
平井論文附図 (5)
平井論文附図 (6)
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