...

排出量取引マーケットレポート 2013.2.26

by user

on
Category: Documents
4

views

Report

Comments

Transcript

排出量取引マーケットレポート 2013.2.26
環境・社会・ガバナンス
2013 年 2 月 27 日
排出量取引マーケットレポート
全6頁
2013.2.26
欧州委員会による EU-ETS の構造改革案
環境調査部
主任研究員
大澤
秀一
[要約]

マーケットサマリー(2013/1/22~2013/2/25)
価格下落に歯止めがかからず過去最安値を更新

関連トピック
■
欧州委員会による EU-ETS の構造改革案
欧州委員会は、第 2 フェーズ(2008 年~2012 年)及び第 3 フェーズを通して積み上がると見込
まれる 15~20 億 CO2 トンの余剰排出枠に相当する需給ギャップを是正する構造改革に取り組ん
でいる。施策案として 6 つのオプションが提案されており、現在、様々な方面からパブリック
コメントを受け付けている。欧州委員会がどのようなオプションを選択するかが注目されてい
る。
■
電気事業連合会が 2020 年の削減目標設定を先送り
電気事業連合会は、日本経団連の温暖化対策における自主的取組みである「低炭素社会実行計
画」の中で、2020 年の削減目標の設定を先送りした。国のエネルギー政策が定められておらず、
原子力の稼働の見通しが立たない現状で、定量的な目標の策定は困難であることが理由である。
電気事業連合会の削減目標は、電力使用量が多い企業や業界の削減計画に大きな影響を及ぼす
ため、できるだけ早期に設定されることが望ましいと考えられる。
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目9番1号 グラントウキョウノースタワー
このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する
ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和
証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。
2/6
マーケットサマリー(2013/1/22~2013/2/25)
価格下落に歯止めがかからず過去最安値を更新
・ EUA は価格下落に歯止めがかからず、1 月 24 日にザラ場最安値となる€ 2.81 を付けた。また、1 月 31 日に
は終値としても最安値となる€ 3.42 を記録した。背景には米国一般炭の価格下落や市場参加者が相次いで
予測価格を引き下げたことなどがあるとみられる。2 月に入ると、“排出枠の後積み案(backloading plan)”の
介入期待から切り返し、2 月 13 日に€ 5 台を回復した。しかし、採決が先延ばしされることがわかると
再び€ 5 割れし、€ 4.57 でこの期間の取引を終えた。なお、1 月の EUA 出来高は過去最高の 5 億 4,527
万 CO2 トンだった。
図表 1 ICE における直近の EUA/CER 価格および出来高
EUA出来高(取引所取引)
(単位:百万CO2 トン)
(単位: € )
CER出来高(取引所取引)
80
6
2013年物EUA<右>
2013年物CER<右>
70
5
60
4
50
3
40
30
2
20
1
10
13/02/25
13/02/22
13/02/21
13/02/20
13/02/19
13/02/18
13/02/15
13/02/14
13/02/13
13/02/12
13/02/11
13/02/08
13/02/07
13/02/06
13/02/05
13/02/04
13/02/01
13/01/31
13/01/30
13/01/29
13/01/28
13/01/25
13/01/24
13/01/23
0
13/01/22
0
(出所)ICE(Intercontinental Exchange)公表データより大和総研作成
図表 2
EUA/CER 取引価格(1 トンあたり)
2013/1/22~2013/2/25
価格(単位:€)
取引所取引
先物取引
高値
安値
終値(2013/2/25)
CDM(CER)
CDM(CER)
EU-ETS(EUA)
EU-ETS(EUA)
EU-ETS(EUA)
2013年12月限
2014年12月限
2013年12月限
2014年12月限
2015年12月限
0.40
0.41
5.57
5.77
5.96
0.31
0.35
2.81
3.34
3.59
0.34
0.38
4.57
4.78
4.99
(出所)ICE(Intercontinental Exchange)公表データより大和総研作成
3/6
図表 3 EUA/CER 価格推移(1 トンあたり)
(単位:€)
2013EUA
2013CER
EUA・CER価格
2014EUA
12
10
8
6
4
2
13/02/18
13/01/19
12/12/20
12/11/20
12/10/21
12/09/21
12/08/22
12/07/23
12/06/23
12/05/24
12/04/24
12/03/25
12/02/24
0
(出所)ICE(Intercontinental Exchange)公表データより大和総研作成
EUA/CER 取引高推移
月間取引高
13/01
12/12
12/11
CER-取引所取引
12/10
12/06
12/05
12/04
12/03
12/02
EUA-取引所取引
12/09
600
560
520
480
440
400
360
320
280
240
200
160
120
80
40
0
12/08
(単位:百万CO2 トン)
12/07
図表 4
(出所)ICE(Intercontinental Exchange)公表データより大和総研作成
<用語解説>
◆EU-ETS(EU-Emission Trading Scheme):EU 排出量取引制度
◆EUA(EU Allowance):EU-ETS における初期割当量
◆CDM(Clean Development Mechanism):クリーン開発メカニズム。京都議定書で定められた京都メカニズムの 1 つ。先進
国が関与して開発途上国で温室効果ガス削減事業を実施し、その結果発行されるクレジットを先進国の京都議定書削減
目標達成のために用いることが可能。
◆CER(Certified Emission Reduction):国連に認証された排出削減量(CDM により発行されるクレジット)
4/6
関連トピック
■
欧州委員会による EU-ETS の中長期的な構造改革案
欧州委員会は短期および中長期で EU-ETS の構造改革に取り組んでいる。短期施策は冒頭のマーケット
サマリーで取り上げた“排出枠の後積み案(backloading plan)”である。第 3 フェーズ(2013 年~2020
年)の排出枠総量は一定のまま、2013 年から 2015 年にオークションされる予定の排出枠 9 億 CO2 トンを
2019 年と 2020 年に後積みし、供給排出枠を一時的に絞る措置である。中長期施策は、第 2 フェーズ(2008
年~2012 年)及び第 3 フェーズを通して積み上がると見込まれる 15~20 億 CO2 トンの余剰排出枠に相当
する需給ギャップを是正する措置である。余剰排出枠は 2011 年末までに 9 億 5,600 万 CO2 トンに達して
いる(図表 5)。
図表 5 EU-ETS の需給バランス(2008~2011)
供給排出枠
需要排出量
累積余剰排出枠
(単位:百万CO2トン)
2,500
2,000
1,500
956
1,000
506
500
0
221
▲24
▲ 500
2008
2009
2010
2011
年
(出所)欧州委員会資料より大和総研作成
中長期施策は欧州委員会の報告書1の中で 6 つのオプションとして提案されている。概要は以下の通り
である。
オプション a:2020 年の削減目標を 30%に引き上げる
削減目標を 20%から 30%に引き上げことに伴い、排出枠総量を減らす必要がある。その方法としてオプ
ション b とオプション c が挙げられている。b は排出枠をオークションにかける前に除却する方法で、c
は 1.74%の排出枠総量減少率を見直す方法である。試算によれば、約 14 億 CO2 トンの排出枠総量が減る
ことになる。
オプション b:第 3 フェーズの一定量の排出枠を除却する
オプション a を実行する選択肢の一つで、一定量の排出枠をオークションにかける前に除却する方法で
ある。
オプション c:排出枠総量減少率の見直し
1
欧州委員会ウェブサイト(http://ec.europa.eu/clima/policies/ets/reform/docs/com_2012_652_en.pdf)
5/6
排出枠総量減少率を早期に引き上げることで、早期に排出枠総量を減らしていく方法である。もともと
現在の減少率 1.74%では、2050 年までに 1990 年比で 80~95%の削減目標を達成することはできないと予
測されているため、2025 年までに見直されることになっている。
オプション d:ETS 対象セクターの拡大
欧州の債務危機問題に大きく左右されないセクターに対象を拡大し、排出枠の需要を増やす方法である。
ただし、具体的なセクター名は挙げられていない。
オプション e:国際クレジットの制限
第 4 フェーズ(2021 年以降)に国際クレジットの利用を制限もしくは禁止する方法である。事業者は
EU 域外とオフセットが出来ないため、EU 域内で低炭素投資を行うことになるが、途上国支援が滞るデ
メリットも考える必要がある。
オプション f:裁量価格管理メカニズムの導入
行政による市場介入策で、2 つのメカニズムが提案されている。一つはオークションに下限価格を設定
して価格の維持を図るメカニズムで、もう一つは現在の余剰排出枠を積み立てておき、価格が高騰した
ときは排出枠を放出し、価格が低下したときは排出枠を繰り入れるメカニズムである。
オプション a、b、c は供給サイドの効果を、オプション d は需要サイドの効果に着目している。中で
も b はすぐにでも実施できるオプションとして実現性が高いと考えられている。c は減少率が高ければ
事業者が EU 域外へ逃避する炭素リーケージのリスクを考慮する必要がある。f はボラティリティの緩和
策として機能することが期待されるが、経済のファンダメンタルズを正しく反映しない点で a~e とは本
質的に異なる是正措置である。
中長期施策は 2013 年 2 月末までパブリックコメントを受け付けている。その後、すみやかに利害関係
者と協議を行うことが予定されている。欧州委員会がどのようなオプションを選択するかが注目されて
いる。
■
電気事業連合会が 2020 年の削減目標設定を先送り
電気事業連合会(電事連)は、日本経団連の温暖化対策における自主的取組みである「低炭素社会実
行計画」2の中で、2020 年の削減目標の設定を先送りした。国のエネルギー政策が定められておらず、原
子力発電所の稼働の見通しが立たない現状で、定量的な目標の策定は困難であることが理由である。2011
年度は多くの原子力発電所が停止することとなったため、原子力発電電力量が 1,081 億 kWh(前年度比
▲62.5%)まで低下した。このため、電力事業による CO2 排出量は 4.09 億 CO2 トン(前年度比 29%増)増
加し、使用端 CO2 排出原単位3を 0.476 kg-CO2/kWh(前年度比 36%増)まで押し上げた(図表 6)。電事連
の削減目標は、電力使用量が多い企業や業界の削減計画に大きな影響を及ぼすため、できるだけ早期に
設定されることが望ましいと考えられる。
一方で、安倍政権は電力量に占める原発比率などを「10 年以内に確立する」としている。このため、
3 月にも本格的な議論が始まるエネルギー基本計画の中で、原発利用の方向性を打ち出すことは難しい
と考えられている。電気事業は国内排出量の約 4 分の 1 を占めるため、削減目標が無い状態が続けば、
低炭素社会実行計画全体の有効性が低下しかねない。
低炭素社会実行計画では、削減目標の設定に加え、消費者・顧客を含めた主体間の連携の強化、国際
貢献の推進、革新的技術の開発の 3 項目についても、参加団体ごとに実行計画が策定されている。これ
2
3
“経団連低炭素社会実行計画”2013 年 1 月 17 日、一般社団法人日本経済団体連合会
(http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/003_honbun.pdf)
使用端 CO2 排出原単位 = CO2 排出量 ÷ 使用電力量
6/6
らは、消費者・顧客の選考、途上国側の動向等、事業者側の努力のみでは実現できない面も多いが、事
業活動を通じて、世界規模での温室効果ガスの排出削減に取り組むこととなる。
電事連は、主体間の連携について、ヒートポンプ等の高効率電気機器の普及などで CO2 削減に尽力し、
スマートメーターの導入によって電気使用の効率化の実現を図る計画だ。電気通信事業者との連携によ
って近年増加している家庭や業務部門の排出削減を支援する取り組みとして重要である。国際貢献では
日本の電力技術を移転・供与し、世界全体の低炭素化を目指す計画である。石炭火力の依存度が高い東
南アジアへの移転が急がれるが、国際パートナーシップ(GSEP)4活動を通じてより多くの地域、国々へ
の移転が期待される。革新的技術開発では、電力需給両面および環境保全における技術開発に中長期的
に取組む計画だ。足元で開発が進む再生可能エネルギーの大量導入を可能にする電力系統制御技術や、
CO2 を地中に埋め戻す回収・貯留技術などに長期的に取組む計画である。
図表 6 電気事業からの CO2 排出量推移
(億kWh)
10,000
(kg-CO 2/kWh)
0.6
(億t-CO2)
5.0
使用電力量
9,000
0.5
8,000
使
7,000
0.4 用
使用端CO2排出原単位<右>
6,000
5,000
CO2排出量<右>
0.3
4,000
0.2
3,000
2,000
0.1
原子力発電電力量
端
C
O
2
排
出
原
単
位
C
4.0 O
3.0
2
排
出
量
1,000
0
0
2008
2009
2010
2011
年度
注:使用端 CO2 排出原単位および CO2 排出量はクレジットを反映した調整後の実績値
(出所)電気事業連合会資料から大和総研作成
4
「エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ」(GSEP:Global Superior Energy Performance Partnership)
は、産業部門の省エネ・環境対応を促進する国際イニシアティブとして日米政府主導の下、2010 年に発足した。
Fly UP