Comments
Description
Transcript
米国の社会系イノベーション
12-NRI/p84-85 00.11.29 11:38 AM ページ 1 GLOBAL VIEW 米国の社会系イノベーション 齊藤義明 NRI アメリカ(ワシントン) インターネットを基盤として従 なソリューションであり、21世紀 ータル、シスコシステムズのB to 来のモデルを超える価値を構想 の政府モデルを探る試行錯誤であ B(企業間)ウェブのような政府 し、それを新しいパートナーシッ る、といえる。 調達、リナックスのような政策立 プにより実現していく。既得権や 米国の電子政府は、政府・市民 既存モデルのなかで価値の低いも 間関係のいわばG to C電子政府、 のは縮小し、場合によっては淘汰 政府・企業間関係のG to B電子政 され、置き換えられていく。 府、中央政府と地方政府を結び、 案コラボレーション、そのような 斬新なモデルが待望される。 民主政治のイノベーション この企業社会の変化と同様の衝 かつ立法機能と行政執行機能を結 インターネットを基盤とした民 撃度を持った変化は、非営利分野 ぶ G to G 電子政府、政府内事務や 主政治の変革(eデモクラシー) (社会モデル)にも起こりうる。 政策立案のためのイントラネット に対する関心も高まっている。 行政、政治、社会貢献、教育、コ やナレッジ共有など、総合的な広 ミュニティなど各分野における革 がりを持っている。 電子投票に関しては、セキュリ ティ、プライバシー、デジタルデ 電子政府をめぐる民間の動きも バイド(情報格差)などの問題が 活発である。伝統的システムイン あるため、大規模選挙への公式導 電子政府のイノベーション テグレーターだけでなく、電子政 入には至っていないが、アリゾナ 日本では、電子政府を行政情報 府ベンチャーも活躍している。彼 州やカリフォルニア州など地域レ のデジタル化と手続きのオンライ らは、電子政府を初期投資ゼロで ベルではすでに本格的な実験が始 ン化という次元でのみとらえては 迅速に立ち上げることを可能に まっている。 いないだろうか。そんなことなら し、市民からサービス料を得る成 また、eデモクラシーの鍵は電 日本の技術と集中力をもってすれ 果基準報酬型のビジネスモデルを 子投票だけではない。米国では、 ば、確かに2003年までに「完全実 組み立て、財政難に悩む地方政府 ①インターネットを活用して政治 現」するだろう。 の電子政府化を牽引している。 の透明化と有権者の情報力強化を 新の潜在的機会は多大である。 しかし、電子政府はそこで終わ だが、このようなダイナミック 図り、民主政治の質を高めようと りではない。米国では、電子政府 な動きでさえ、市民が持つ本来の する試み、②有権者の意思をネッ は1980年代以降続く行政改革の延 政府モデル改革への期待には程遠 トでまとめて政治家に伝え、政策 長上にあり、従来の行政モデルの い。たとえば、AOLやアマゾン・ への影響力を行使しようとする取 構造的疲弊を革新するための新た ドット・コムのような電子政府ポ り組み――などが進んでいる。 84 知的資産創造/2000年12月号 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright (C) 2000 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 12-NRI/p84-85 00.11.29 11:38 AM ページ 2 たとえば、ボーター・ドット・ は社会貢献の担い手としてIT(情 情・進展度に応じた教育、学習者 コムやスピークアウト・ドット・ 報技術)関連企業の存在感が大き 同士の相互触発の活用、教育サー コムなどのベンチャー企業のサイ くなってきている。彼らは、儲か ビスのオンライン供給、これらを トには、AP通信やCNNの政治関 ったから社会に還元するといった 仲介し学習を高度化させていく教 連ニュース、政治アナリストによ “ゆるゆる”の考え方はしない。 師やスタッフの役割、そのすべて る選挙・政策分析、候補者の側面 ビジネスの世界で投資するのと同 を再構築する教育事業者、どの点 別比較、ビデオアーカイブ、カス 様の考え方で、社会に対して戦略 をとっても現在の教育モデルは古 タマイズされた電子メールニュー 的に投資しようとする。 く、革新の余地が大きい。 スなどの機能が盛り込まれてお 日本の「教育改革」の進行をみ すなわち、どの分野であれ、 り、有権者の政治判断力を強化す ①成果の上がらない社会活動には ていると、教育システムが中心部 る役割を果たしている。 投資しない、②成果の上がりそう から自己変革しうるとは思えな また、あらゆるテーマに関して なプランに投資する、③成果を上 い。むしろ、民間が周辺から新た 市民の賛成・反対意見を収集し、 げるために社会貢献組織(NPOな な教育モデルを提起・推進してい その結果を関係する政治家や議会 ど)にインターネット型の経営革 くことが期待される。 委員会に送信することにより、選 新を持ち込む、④必要ならNPOの 挙時だけでなく、常時双方向の民 マネジメントにも関与する――と 主政治モデルを実現しようとする いったことを始めている。 ボート・ドット・コムのようなベ ンチャー企業もある。 社会貢献のイノベーション 今後NPOは、ベンチャー投資の 携帯電話やパーム(携帯情報端 原理とインターネットの活用によ 末)などのユビキタス技術は、街 って新しい経営・協働形態へと変 における人々の行動、街の仕組み、 化する可能性を持っている。 街の新陳代謝速度を変えていく可 ワシントンDC周辺のベンチャ ー支援コミュニティの1つにマリ 地域コミュニティの イノベーション 能性を持っている。たとえば半径 教育のイノベーション 1kmポータルは、10分以内で行 オ・モリノ氏が主催する起業家交 教育分野ではユーネクスト社や ける喫茶店、本屋、病院などの情 流会がある。このモリノ氏は、ベ ペンセア社が、スタンフォード大 報を詳細にリアルタイムで入手す ンチャー企業支援では飽き足ら 学、ハーバード大学などの既存有 ることを可能にし、人々と街との ず、非営利の社会貢献分野にもベ 名大学を横串に突き刺した民間の 相互作用を活性化させる可能性が ンチャーキャピタル・モデルを持 新しいeラーニングプロバイダー ある。都市計画や街づくりにも新 ち込んで、社会貢献の世界を革新 として登場している。 しい発想が必要であろう。 しようとしている。 現在の教育システムは産業化時 こうした考え方(ベンチャーフ 代のそれである。ネット時代には ィランソロピー)は、モリノ氏独 学習者主体の教育モデルへの転換 りのものではない。最近、米国で が必要である。個々の学習者の事 齊藤義明(さいとうよしあき) NRIアメリカ・ワシントン支店上級研究 員 米国の社会系イノベーション 85 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright (C) 2000 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.