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英語教育における異文化の扱いについて(2) 一クラックホーン
英 語 教 育 におけ る異 文 化 の扱 い につ いて(2) 一 ク ラ ックホー ン ・モ デル による文 化の普遍的特性 一 土 屋 澄 男 HOW SHOULD CULTURES BE TAUGHT IN THE ENGLISH LANGUAGE CLASS ? SUMIO In the deal previous with gested foreign that between but behavior. describe by using universal of analyzing we will be able, cultural ing awareness their own I hope, I discussed in the English pay attention also to universal In the the Kluckhohn atic means of 1995, cultures we should cultures human could article TSUCHIYA language not only article, features underlying model, which a particular to instill value of how class to different features present hidden I will discuss all provides culture's under all how we a system- value system. tools the as features us with them orientation sug- cultures a sense with and to human in our students by providing cultural problems well Thus of cross- of identifyas those of others. 1.ク ラ ッ ク ホ ー ン ・モ デ ル 文 化 人 類 学 者 ク ラ ッ ク ホ ー ン(FlorenceR.Kluckhohn)は 年 代 は じ め 、 同 僚 ス トロ ッ トベ ッ ク(FredL.Strodtbeck)と 一51一 、1950 共 にア 文教大学 言語と文化 第9号 メ リカ南 西 部 地 域 の住 民 に お け る価 値 志 向 性(valueorientations)に 関 す る研 究 を行 っ た 。彼 らの 選 ん だ 地 域 は 文 化 的 に異 な る5つ の 集 落 が 半 径40マ イ ル 以 内 に 点 在 して お り、 そ れ らは1)ナ ン集 落 、2)ズ ー ニ ー ・イ ンデ ィ ァ ン集 落 、3)ス 人 集 落 、4)モ ル モ ン教 徒 集 落 、5)テ 者 集 落 で あ っ た(2:p.49)。 ヴ ァホ ・イ ン デ ィ ア ペ イ ン語 圏 ア メ リ カ キ サ ス と オ ク ラ ホ マ か らの 入 植 ク ラ ッ クホ ー ン らは 、 そ れ ら の 集 落 か ら の デ ー タ を分 析 した 結 果 、 そ れ ぞ れ の 文 化 の 価 値 志 向 性 に は 一 定 の 変 異 が 見 られ る こ とが 分 か っ た 。 さ らに、 そ れ らの 価 値 志 向 性 を分 類 し、 変 異 の種 類 を調 べ て い る う ち に 、 その 根 底 に次 の3つ の 基 本 的前 提 が 想 定 され る こ と を発 見 した(2: p.10)。 第1に 、す べ て の 人 間 集 団 に常 時 解 決 を求 め られ る 幾 つ か の 限 られ た数 の 共 通 の 問 題 が 存 在 す る こ と。 第2に 、 そ れ らの 問 題 の 解 決 法 には 相 違 が 見 られ るが 、 そ の 相 違 は決 して 無 限 で も無 作 為 で もな く、 あ る 一 定 の 可 能 な 解 決 法 の 範 囲 に収 まっ て い る こ と。 第3に 、 す べ て の 社 会 に は常 に 問題 解 決 に対 す るあ ら ゆ る 選 択 肢 が 存 在 す る の で あ るが 、 ど れ を選 択 す る か の 好 み が 異 な る こ と。 さ ら に 、 そ の 選 択 の好 み に は一 定 の順 序 が あ る こ と。 以 上 の よ うな基 本 的 前 提 に立 っ て 、 ク ラ ック ホ ー ン ら は すべ て の 人 間 集 団 に共 通 す る5つ の 問題 を取 り上 げ 、 これ らを 集 団 の価 値 志 向 性 の 分 析 の項 目 と した(2:p.11)。 1)人 間 の 本 性 を ど うみ る か 。 〈人 間 性> 2)人 と 自然 と の 関係 を ど うみ る か 。 〈自然 観> 3)過 去 ・現 在 ・未 来 の 時 の ど こに 焦 点 を置 くか 。 〈時 感 覚> 4)人 間 の 活 動 様 式 は どの よ うか 。 〈活 動 様 式> 5)他 者 との 関 係 の様 式 は どの よ うか 。 〈人 間 関 係 〉 一52一 英語教 育におけ る異文化 の扱い につ いて(2) 一 クラ ックホー ン・ モ デルによる文 化の普遍的特性一 以 下 にそ れ ぞ れ の項 目に つ い て変 動 の 範 囲 を示 す 。 (1)人 間性 す べ て の 人 間 集 団 は 自己 お よ び他 者 の 人 間性 を ど うみ るか につ い て特 定 の志 向 性 を形 成 して い る 。 ク ラ ッ ク ホ ー ン ・モ デ ル は 人 間の 本 性 に つ い て 、 まず 悪 、善 悪 、 善 の3つ に 区分 す る。 さ らに 善 悪 につ い て 、 人 間 の本 性 は善 で も悪 で もな い とす る 中立 の 見 方 と、 善 悪 の 混 合 で あ る とい う見 方 を 区別 す る 。 ま た悪 、 善 悪 、 善 の3つ の 範 畴 につ い て 、 そ れ ぞ れ 可 変 的 、 不 変 的 の 下 位 区分 をす る。 (2)自 然 観 す べ て の 人 間 集 団 は 人 間 と自然 との 関 係 に つ い て 特 定 の 志 向 性 を形 成 して い る 。 す な わ ち 自然 ま た は 自己 を取 り巻 く世 界 を ど うみ るか の 問 題 で あ る 。 ク ラ ック ホ ー ン ・モ デ ル は こ れ を 自然 へ の服 従 、 自然 との 調 和 、 自然 の征 服 の3つ (3)時 に 区 分 す る。 感覚 す べ て の 人 間 集 団 は 過 去 ・現 在 ・未 来 の 時 に 関 心 が あ る が 、 い ず れ の 時 に重 点 を 置 くか は 文 化 に よ っ て 異 っ て い る 。伝 統 を重 視 す る文 化 は過 去 の 時 に 、 今 の 状 況 を重 視 す る 文 化 は 現 在 の 時 に 、 目標 志 向 的 文 化 は 未 来 の 時 に 焦 点 を 当 て る とい うこ とが 言 え る 。 (4)活 動様式 す べ て の 人 間 集 団 は活 動 また は 存 在 の様 式 に一 定 の 志 向 性 が 見 られ る 。 ク ラ ッ ク ホ ー ン ・モ デ ル は 人 間 集 団 の活 動 の仕 方 に影 響 を与 え 、 そ れ を 支 配 して い る 志 向 性 を 「在 る」(being)、 一53一 「成 る 」(being-in-becoming)、 文教大学 言語と文化 第9号 「す る」(doing)の3つ の 様 式 に分 類 す る 。 厂在 る」 の 様 式 とは 、 個 人 の 達 成 や 業 績 に は あ ま り重 点 を置 か ず 、存 在 す る こ と 自体 に価 値 を 見 出 す こ とで あ る 。 これ に対 して 「成 る」 の 様 式 は 自己 の 内的 な 向 上 や 発 展 を 重 視 す る 。 「す る」 の 様 式 は文 字 通 り何 か をす る こ と に 価 値 を置 く もの で 、 そ こ で は 個 人 の努 力 や 業 績 が 高 く評 価 され る 。 (5)人 間関係 す べ て の 人 間 集 団 は他 者 と の 人 間 関 係 を どの よ う に保 つ か に 関 心 が あ り、 そ れ に つ い て の特 定 の 価 値 志 向 性 を有 して い る。 ク ラ ック ホ ー ン ・ モ デ ル は こ れ を 「た て」(1ineality)、 「よ こ 」(collaterality) 、 「個 人 主 義」(individualism)の3つ の様 式 に 区 分 す る。 「た て 」 の 様 式 は 主 従 関 係 の よ う な権 威 主 義 的 様 式 が 支 配 的 で あ る場 合 、 「よ こ」 の 様 式 は 人 を い ち お う個 人 と して み な す が 、 同時 に特 定 集 団 の メ ンバ ー と して そ の集 団 の 決 定 に従 わ な け れ ば な ら な い とす る様 式 で あ る 。 「個 人 主 義 」 は す べ て の個 人 が 社 会 にお い て 平 等 に扱 わ れ 、 個 人 の 自律 性 が 尊 重 さ れ る様 式で ある。 ク ラ ッ クホ ー ン らが 提 案 した 以 上5つ の価 値 志 向性 と そ れ ぞ れ の 項 目 で予 想 され る 変 動 の 範 囲 を一 覧 に して示 す と表1の よ う に な る(2:p. 12)0 表1ク ラ ッ ク ホ ー ン ・モ デ ル 志向性 変 動 範 囲 人間性 悪 中立/善 悪 混合 善 自然観 自然へ の服 従 自然 との 調 和 自然へ の服従 時感覚 過去 現在 未来 活動様式 人間関係 在る 成る する たて よこ 個 人主義 一54一 英 語 教 育 に お け る 異 文 化 の 扱 い につ い て(2) 一 クラ ッ クホ ー ン ・モ デ ル に よる文 化 の 普 遍 的 特 性 一 2.ク ラ ッ クホ ー ン ・モ デ ル に よ る 日米 文 化 比 較 ク ラ ック ホ ー ン ・モ デ ル を用 い て世 界 に 存 在 す る そ れ ぞ れ の 文化 の 特 徴 を記 述 す る こ とが 可 能 で あ り、 ア メ リ カ 文 化 を対 象 と し た コ ー ル ズ (L.RobertKohls)の 記 述 は そ の 一 例 であ る 。 ま た そ の よ う な記 述 に 基 づ い て 複 数 の 文 化 の 特徴 を比 較 す る こ と も可 能 で あ る 。 こ こで は 比 較 的 に研 究 が よ くな され て い る 日米 文 化 に焦 点 を 当 て る こ と に す る 。 米 国 と 日本 は第2次 大 戦 後 きわ め て 親 密 な 関係 を保 っ て きた が 、 文 化 の 点 で は異 な る 点 が 多 く、 時 に対 照 的 で さ えあ る。い ま ク ラ ックホ ー ン ・ モ デ ル に よ っ て これ ら2つ の 国 の 文 化 の 特 徴 を概 観 して み よ う。 た だ し、 こ こ で記 述 対 象 とす る ア メ リカ 文 化 は 、文 化 的 に 最 も優 勢 と見 な され る 白人 ミ ドル ク ラ ス の 文 化 で あ る 。 (1)人 間性 について コー ル ズ に よれ ば 、 ア メ リカ 人 は 一 般 に 楽 観 的 で 人 を信 用 しや す い (3:P.22)。 とい う こ とは 、 人 間 は 本 来 的 に 善 で あ る とい う前 提 に立 つ 。 そ して す べ て の 人 間 に あ らゆ る 可 能 性 が 秘 め られ て い る と考 え る。 した が っ て 人 間 の基 本 的 善 を 引 き出 す た め に は 、 そ れ に マ イ ナ ス に作 用 す る 環 境 的 条 件 は 直 ち に排 除 また は変 革 す べ きだ と信 じて い る(3:p.23)。 そ うい う わ け で ア メ リカ 人 は社 会 変 革 を常 に歓 迎 す る 。最 近 の 日米 貿 易 交 渉 に お け る ア メ リ カ側 の 苛 立 ち は 、 日本 側 の対 応 の な まぬ る さ と変 革 の お そ さ に あ る と言 っ て よい で あ ろ う 。 人 間 の 本 性 に つ い て の 日本 人 の 見 方 は ア メ リ カ人 の そ れ と は明 らか に 異 な る。 コー ル ズ に よれ ば 、 日本 人 は 人 間 の 本 性 を 善 悪 の 混 合 とみ る (3:p.26)。 この 分 析 は わ れ われ 日本 人 の 経 験 と も一 致 す る 。 わ れ わ れ に と って 生 まれ つ きの 悪 人 もい な け れ ば 、 全 くの 善 人 もい な い の で あ る 。 一55一 文教大学 言語と文化 第9号 「氏 よ り育 ち」 と言 う よ う に 、 人 は 生 ま れ て か ら後 の 環 境 や 教 育 に 影 響 され る と こ ろ が 大 きい と考 え る 。す べ て の 人 は本 来 的 に善 と悪 とが 混 在 して お り、 よほ ど特 別 な 訓 練 や 修 業 を経 験 しな い 限 り、完 全 な 人 格 は期 待 で き ない の で あ る。 した が っ て 日本 人 は ア メ リ カ人 の よ うに 他 人 を容 易 に信 頼 す る こ とが な い 。 (2)自 然観 につい て ア メ リ カ 人 は 人 間 と 自然 と を 明確 に 区別 す る。 自然 は物 理 的 、 物 質 的 世 界 で あ り、 そ こ に精 神 や た ま しい の 存 在 は認 め ない 。人 間 は 自然 界 に お い て き わ め て 独 自 な存 在 で あ り、 自然 に ま さ る存 在 で あ る 。 した が っ て 、 ア メ リ カ 人 に と っ て 自然 は征 服 す べ き対 象 で あ り、支 配 す べ き もの で あ る 。 近 年 に な って 環 境 保 護 の立 場 か ら 自然 的 資 源 の保 存 を求 め る 人 も現 わ れ だ した が 、 多 くの ア メ リカ 人 は 、 自然 の提 供 す る さ ま ざ ま な資 源 を個 人 や 社 会 の 利 益 の た め に利 用 す る こ と を、依 然 と して 正 しい と考 え て い る。 自然 を支 配 す る こ と は 、 人 間 と社 会 の 向 上 ・発 展 の た め に必 要 不 可 欠 な こ とな の で あ る 。 これ に対 して 、 日本 人 に とって 人 間 は 自然 の一 部 で あ り、 周 りの 自然 と 調 和 的 に生 きる こ とが最 善 と考 え られ てい る。 この 見 方 は 日本 だけで な くオ リエ ン トに広 く見 られ る もの で 、ア メ リカの原 住 民 であ った ア メ リカ ・イ ン デ ィア ンの 多 くの部 族 に も共 通 した見 方 であ る。 一 般 に古 代 人 は 、 自 然 現 象 に対 す る素 朴 な畏 敬 の念 を もってお り、 自然 界 には 人 間 の 支 配 の 及 ば な い霊 や 魔 術 や 神 秘 的 な力 が 存 在 して いる と信 じて い た 。 人 間 は む しろ 自 然 に支 配 され てい る と考 えてい たので ある 。近 代 科 学 の発 達 に よっ て 、 人 間 が 自然 に従 属 して いる とい う見 方 は少 な くなった と思 われ る。 しか し人 間 を 自然 の一 部 とみて それ と調 和 的 に生 きる ことを選 ぶか 、 あ る い は 人 間 を 自 然 よ り も優 位 な 存 在 とみ な して そ れ を支 配 す る こ とを 選 ぶ か は 、 これ か 56一 英語教育 における異文化 の扱 いについて(2) 一 クラ ックホー ン・ モデ ルによる文化の普 遍的特性一 らの 人 類 の 将 来 を も左 右 す る 大 問 題 と な っ て い る。 (3)時 感覚 につい て ク ラ ック ホ ー ン ・モ デ ル に よれ ば 、 あ らゆ る文 化 は 過 去 ・現 在 ・未 来 の 時 を扱 うが 、 そ れ らの 強 調 の度 合 い 、 ま た は強 調 の 順 序 が 文 化 に よ っ て 異 な る とい う。 ア メ リ カ人 は一 般 に過 去 や 伝 統 へ の 関心 が うす い 。 そ れ は ア メ リカ 人 の 多 くが ヨ ー ロ ッパ や他 の 大 陸 か らの 移 住 者 で 、 過 去 の 伝 統 か ら 自 ら を切 り離 そ う と した 人 た ち 、 また は そ の よ う な生 活 を余 儀 な くさ れ た 人 た ちで あ っ たか らで あ ろ う。 彼 らは概 して未 来 に対 して 楽 観 的 で 、 未 来 を信 じて い る 。 した が っ て 現 在 に対 す る 関心 も低 い 。 今 日 は よ りよ い 明 日へ の 一 里 塚 にす ぎな い の で あ る 。 日本 人 は ア メ リ カ 人 と 同様 に過 去 ・現 在 ・未 来 を一 直 線 に 延 び る道 路 の よ うに線 的 に と ら えて い る が 、 過去 に こ だ わ る とい う点 で 大 き く異 な る 。現 在 が 未 来 に至 る一 時 点 で あ る こ と は知 っ て い る が 、 未 来 に関 す る 計 画 の 際 に まず 意 識 され る の が 過 去 の 前 例 で あ り、 前 例 の な い 事 柄 を決 断 す る場 合 に は大 き な勇 気 を必 要 とす る の で あ る。 こ れ は 恐 ら く先 祖 崇 拝 とい う長 い 歴 史 と関 係 が あ る と思 わ れ る 。 わ れ わ れ の現 在 は過 去 あ っ て の現 在 で あ り、 未 来 は過 去 と現 在 か ら切 り離 して は存 在 し得 ない の で あ る 。松 本 青 也 は ア メ リ カ 人 の 「楽 観 志 向 」 に対 して 日本 人 の 「悲 観 志 向」 を特 質 の一 つ に挙 げ て い るが 、 こ れ は 時 の 見 方 に 由 来 す る とこ ろ が 大 きい で あ ろ う(6:p.133)。 (4)活 動 様式につ いて ア メ リ カ社 会 に お け る活 動 様 式 が 「す る」 の様 式 で あ る こ とに異 議 を と な え る 人 はい な い で あ ろ う。 人 が何 をす る か 、何 を達 成 す る か が 彼 ら の 関 心 事 で あ り、 人 は そ れ に よっ て 評価 され る 。 人 々 は絶 え ず 自分 た ち 57一 文教大学 言語と文化 第9号 が 評 価 に価 す る 人 問 で あ る こ と を証 明 しな け れ ば な らな い 。 そ れ も外 的 な基 準 に よ っ て測 定 で きる 目に 見 え る業 績 が 要 求 さ れ る の で あ る 。 そ う い う わ け で ア メ リ カ人 は常 に 活 動 的 で あ り、 絶 えず 動 き まわ る 。 じ っ と して い る の は怠 け 者 で あ り、 怠 惰 は 悪 魔 の な せ る わ ざ で あ る 。"ldle handsarethedevil'sworkshop."と い う こ と わ ざ が そ れ を よ く表 し て い る 。 こ れ は恐 ら くア メ リカ に お け る プ ロテ ス タ ン ト倫 理 が そ の背 景 に あ る の で あ ろ う。 日本 にお い て も勤 勉 は 尊 ば れ 、 「す る」 の 活 動 様 式 が 好 ま れ る 。 しか しア メ リカ 人 の よ う に業 績 一 辺 倒 で は な い 。 た と え ば人 の採 用 に際 して の 重 要 な 評 価 項 目 に 「人 柄 」 とい うの が あ り、 ど ん な に業 績 が あ っ て も この 項 目に 問 題 が あ る と採 用 さ れ な い の が 普 通 で あ る 。 そ れ は 日本 の社 会 が 人 の 「和 」 を大 切 にす る こ と と関 係 す る で あ ろ う 。集 団 の 和 を乱 す 恐 れ の あ る者 は 敬 遠 され る の で あ る 。 また 日本 に お い て は禅 の 「心 を静 め る こ と に よ って 得 られ る 高 次 の 宗 教 的 内 面 的 体 験 」(広 辞 苑)の 考 え方 へ の 共 感 が あ る 。 瞑 想 に よ っ て 自 己 の 内 面 を 向 上 させ る こ と に憧 れ を もつ 人 は 多 い 。 コ ー ル ズ は 日本 文 化 の特 質 の 一 つ と して 「成 る 」様 式 と 「す る 」 様 式 の 混 在 を挙 げ て い る (3:p.26)0 (5)人 間関 係につ いて ア メ リ カ文 化 の 一 大 特 徴 は個 人 主 義 で あ る 。 ア メ リ カ人 は 自己 を一 個 の個 人 とみ な し、 自他 を明確 に 区別 す る。 幼 い 頃 か ら 自律 性 が 尊 重 され 、 自分 自身 の 頭 で 考 え 、 自分 自身 で 判 断 す る よ う に訓 練 さ れ る 。 自分 自身 の 問題 を解 決 す るの も通 常 ひ と りで行 う。 時 に他 人 に忠 告 を 求 め る こ と もあ る が 、 そ れ に頼 る こ とは しな い 。最 終 的 判 断 は 常 た 自 己 の 責 任 で行 う。 この よ う な 個 人 主 義 的 態 度 は 、 ア メ リ カ 人 は 普 通 の こ と と考 え て い 一58一 英語教育における異文化の扱いについて(2) 一クラックホーン・ モデルによる文化の普遍的特性一 る が 、 時 に 自 己 主張 の 強 い傲 慢 な ア メ リカ 人 とい う印 象 を他 国 の 人 に与 え る 。 と もか く、 自己 ま た は個 人 が ア メ リ カ文 化 の核 で あ り、 ア メ リカ 社 会 は そ れ を軸 に して 動 い て い る の で あ る 。 人 間 関 係 に 関 して 日本 文化 は ア メ リ カ文 化 と対 照 的 で あ る 。 松 本 に よ れ ば 、 ア メ リカ 文化 の 「個 人 志 向 」 に対 して 日本 文 化 は 「集 団志 向 」 で あ る(6:p.38)。 日本 人 は 群 れ たが る 人種 で あ り、 皆 と 一 緒 に い る 時 に こそ 安 定 す る の で あ る 。 これ は 日本 の社 会 が 人 種 的 に も言 語 的 に も比 較 的 に 同質 で あ り、 皆 と同 じこ と を して い れ ば安 全 だか らで あ ろ う 。 し た が っ て 、 日本 で ア メ リ カ人 の よ うに 自分 の 権 利 や 自 由 を 主 張 す る と、 厂あ い つ は 個 人 主義 だ 」 と悪 口 を言 わ れ る こ と に な る 。 日本 で は 個 人 主 義 は利 己 主 義 と同 一 視 され て い る か らで あ る。 上 記 の こ と と関 連 して 、 日本 文 化 は ア メ リ カ の 自律 的 文 化 と対 照 的 に 非 自律 的 文 化 で あ る と言 う こ とが で き る。 松 本 の用 語 に よれ ば 「依 存 志 向 」 の 文 化 で あ る(6:p.59)。 そ れ は また 土 居 健 郎 の 「甘 え 」 と い う 日本 特 有 の用 語 に よ っ て の み 記 述 が 可 能 な文 化 で あ る 。 そ こで は人 々 が 互 い に寄 りか か り合 い な が ら生 きて い こ う とす る 。 した が っ て そ こ で 尊 重 され る徳 目は 「義 理 」 や 「人 情 」 で あ り、 尊 重 され る性 格 特 性 は 「優 し さ」 で あ り、 「思 い や り」 で あ る 。 自己 主 張 は 「我 が ま ま」 と して 嫌 わ れ る。 可 能 な 限 り対 立 を避 け 、対 立 しそ う に な る と 「ま あ まあ 」 で 曖 昧 に して し ま う 。そ れ で 世 の 中 う ま くま とま っ て 、 波 風 立 た ず に過 ぎて 行 くの が よ い と考 え る の で あ る 。 ま た 、 ア メ リ カ社 会 が 少 な くと も表 層 の レベ ル で は 「よ こ社 会 」 で あ る の に対 して 、 日本 社 会 は しば しば指 摘 され る よ う に 「た て 社 会 」 で あ る 。 家 族 に お け る親 の権 威 は 日本 で も急 激 に低 下 して し ま っ たが 、学 校 や 会 社 に お け る 人 間 関 係 は依 然 と して 「た て 」 の 様 式 が 支 配 的 で あ る 。 学 年 が 一 つ で も上 で あ れ ば常 に 「先 輩 」 で あ り、死 ぬ ま で 「先 輩 」 で あ 一59一 文教大学 言語 と文化 第9号 り続 け る。 一 方 で 日本 は 「集 団 志 向 」 の社 会 で あ る か ら、 家 族 の きず な だ け で な く、 同 窓 の よ しみ 、 同 じ会 社 の 社 員 で あ る とい う 同族 意 識 が 非 常 に強 い 。 私 は 「○ ○ 大 学 の わ た し」 で あ り、 「○ ○ 物 産 の わ た し」 な の で あ る 。 ク ラ ック ホ ー ン ・モ デ ル で 言 え ば 、 日本 文 化 は そ の 人 間 関 係 の 様 式 に お い て 「非 個 人 主 義 」 で あ り、 「た て 」 と 「よ こ 」 の 二 面 性 を 有 する文化 であ る。 表2ク ラ ッ クホ ー ン ・モ デ ル に よる 日米 文 化 比 較 志向性 ア メリカ文化 人間性 善/楽 観的 善悪 混合/悲 観的 自然 観 自然 の征服 自然 と の調 和 時感覚 未来志 向 過去志 向 活動様 式 「す る」 様 式 「成 る」 様 式 人 間関係 個人 主義 3.ク 日 本 「た て 」 十 文 化 「よ こ 」 関 係 ラ ッ クホ ー ン ・モ デ ル と文 化 の 普 遍 的 特 性 人 は先 祖 か ら受 け継 い だ 自分 の 文 化 を ふ だ ん 意 識 す る こ と は ほ と ん ど な い 。文 化 は わ れ わ れ の 現 実 の 一 部 に な っ て しま っ て い るの で 、 現 実 そ の もの が あ るべ き姿 だ と思 い 込 んで い る 場 合 が 多 い 。 そ こで 自分 の 文 化 と異 質 な文 化 に 出合 う と、 「変 な文 化 」 と感 じて しま う。 世 界 に存 在 す る多 様 な 文 化 的 変 異 を考 慮 す る こ とが で き ない か らで あ る 。文 化 人 類 学 者 ホ ー ル は 次 の よ うに 述 べ て い る(1:p.54-55)。 "Untilrecently ,mandidnotneedtobeawareofthestructure ofhisownbehavioralsystems,because,stayingathome,thebehaviorofmostpeoplewashighlypredictable.Today,however, manisconstantlyinteractingwithstrangers,becausehis .1 英語教育 における異文化の扱い につ いて(2) 一 クラ ックホー ン・ モデル による文化の普遍的特性一 extensionshavebothwidenedhisrangeandcausedhisworldto shrink.Itisthereforenecessaryformantotranscendhisown culture,andthiscanbedoneonlybymakingexplicittherules bywhichitoperates." (最 近 ま で 、 人 は 自 分 自 身 の 行 動 体 系 が ど ん な 構 造 を な し て い る か を 意 識 す る 必 要 が な か っ た 。 自分 の 国 にい れ ば 、 た い て い の 人 々 の 行 動 を予 測 す る こ とが で きた か らで あ る 。 しか し、 今 日、人 は絶 えず よ そ か ら来 た 人 々 と交 流 して い る 。 人 の 行 動 範 囲 が 拡 大 した た め に 、世 界 が縮 小 し た か ら で あ る 。 そ こ で 人 は 自 分 自 身 の 文 化 を 超 越 す る 必 要 が 生 じて き た 。 そ して そ れ は 、 そ こ に働 くル ー ル を 明 らか にす る こ と に よ っ て の み 可 能 と な る 。) 21世 紀 を迎 え よ う と して い る 今 日、 わ れ わ れ は ます ま す 自分 自 身 の 文 化 を超 越 す る こ との 必 要 性 を 感 じて い る。 ク ラ ック ホ ー ン ・モ デ ル に よ って こ の 問 題 を 以 下 に考 察 す る 。 (1)人 間性 について い か な る社 会 に お い て も善 人 と悪 人 が 共 存 して い る とい う現 実 に 目を 向 け る な らば 、 人 間 の本 性 が 善 で あ る か 悪 で あ るか とい う問 題 は決 して 実 践 的 な議 論 と は な り得 ず 、 ど う して も観 念 的 な もの とな る 。 ク ラ ッ ク ホ ー ン も この 点 に 関 して す べ て の 文 化 を 善 、 悪 、善 悪 混 合 な どの範 畴 に 明確 に 区 分 で きる わ けで は な い こ とを 示 唆 して い る(2:p.12)。 たと え ば ア メ リ カ に お い て は 、 ア メ リ カ大 陸 に 最 初 にや っ て 来 た ピュ ア リ タ ンた ち は 人 間 の本 性 を基 本 的 に悪 で あ る と した 。 しか し多 くの 文 化 人 類 学 者 た ち は こ の 見 方 は もは や古 い と見 て い る 。今 日の ア メ リカ 人 は 人 間 の 本 性 を善 悪 の 混 合 とみ な して お り、 善 は絶 え ざ る努 力 と 自制 に よ っ て 一61一 文教大学 言語と文化 第9号 達 成 で き る とい う見 方 が む しろ一 般 的 で あ る。 ま た 、 コ ール ズ の よ う に そ れ を善 で あ る とす る見 方 を肯 定 す る 人 も多 い と思 わ れ る(3:p,23)。 日本 人 は す で に見 た よ うに 人 間 の 本 性 を善 悪 の 混 合 とみ る。 こ の 点 で 現 代 の ア メ リ カ 人 と さ ほ ど変 る と こ ろ は な い 。 しか し 日本 人 の 特 徴 は 、 人 間 が生 まれ つ き善 な の か 、悪 な の か 、 そ れ と も善 悪 混 合 なの か 、 あ る い は18世 紀 の 啓 蒙 思 想 家 ル ソ ー が 主 張 した よ う に 人 間 は 本 来 善 で も悪 で もな い の か 、 と い う よ う な議 論 を好 ま な い こ とで あ る 。 そ の よ うな 問 題 を議 論 して も何 も得 る と こ ろが な い と考 え る か らで あ る 。 難 しい 問 題 は 黒 白 を明 確 にせ ず 、玉 虫 色 にす る とい う のが 日本 人 の 国民 性 な の で あ る。 い ず れ にせ よ、 ク ラ ッ クホ ー ン も示 唆 す る よ う に、 人 間 の本 性 が 不 変 的 に 悪 で あ る とか 善 で あ る とい う よ うな 文 化 は存 在 しな い の で は な い か 。 す べ て の 文 化 は そ の 両 極 の 問 に あ り、 そ の 多 くは 中 立 ま た は善 悪 の 混 合 とい う中 間 の座 標 に位 置 す る と思 わ れ る。 この 点 で 地 球 上 の 人 間 は互 い に理 解 し合 え る可 能 性 が あ る 。 た だ恐 ろ しい の は宗 教 的 な ドグ マ で あ る 。 (2)自 然 観 に つ い て ア メ リカ 人 が 自然 を征 服 す べ き対 象 とみ るの に対 して 、 日本 人 は 自然 と人 間 との 調 和 を 求 め る とい う記 述 は歴 史 的 に は正 しい で あ ろ う。 ア メ リ カ の歴 史 は 未 開 の土 地 を切 り拓 く とい う文 字 通 りの 自然 との 闘 い の 歴 史 で あ り、 彼 らの文 化 は そ の 中 か ら生 まれ た の で あ る 。 そ れ に対 して 日 本 の文 化 は 豊 か な 自然 の 中 で の 農 耕 の歴 史 か ら生 まれ た もの で あ る 。 し か し今 世 紀 に お け るす さ ま じい テ ク ノ ロ ジ ー の 発 達 は 日本 文 化 を も否 応 な しに変 え て しま っ た 。 産 業 化 と都 市 化 の 波 は 日本 国 土 の 隅 々 に まで 波 及 し、 至 る所 に 道 路 が は し り、鉄 道 が 敷 か れ 、橋 が 架 け られ た 。 自然 と 人 間 と の調 和 は 日本 人 の 生 活 の 中 心 的 な思 想 で あ る と考 え られ る が 、 い 一62一 英語教育における異文化の扱いについて(2) 一クラックホーン・ モデルによる文化の普遍的特性一 まそ の 調 和 が破 られ る こ と に多 くの 人 々 が 危 機 意 識 を も っ て い る。 こ の よ うな 危 機 意 識 は 日本 だ け で は な く、幸 い に して 、 ヨー ロ ッパ 諸 国 を 中心 と して 世 界 に 広 が りつ つ あ る 。 自然 との 調和 の 思 想 は 中 国 に も 古 くか ら存 在 す る もの で あ り、世 界 の そ れ ぞ れ の 文 化 が こ の 点 か ら点 検 さ れ 、見 直 され る こ とが 望 ま れ る 。 また 同 時 に 、 世 界 各 国 に お け る環 境 教 育 が い っ そ う研 究 され 、実 行 され る こ と も期 待 され る 。 わ れ わ れ の英 語 教 育 も環 境 保 護 や 公 害 問 題 の題 材 を い っそ う深 く取 り上 げ る こ と に な るで あ ろ う。 (3)時 感覚につ いて 言 語 が すべ て 過 去 ・現 在 ・未 来 に対 応 す る文 法 形 式 を所 有 す る わ け で は な いが 、 す べ て の 文 化 は こ れ ら3つ の 基 本 時 制 に関 す る概 念 を 所 有 し て い る 。 ク ラ ック ホ ー ン に よ れ ば 、 違 って い る の は どの 時 を重 視 す る か で あ る(2:p.14)。 た と え ばス ペ イ ン語 圏 ア メ リカ 人 は 入 間 を 自 然 界 の 力 の犠 牲 者 とみ な し、現 在 の 時 を中 心 に考 え る 。 そ こ で は過 去 に起 っ た 事 柄 は 無 視 さ れ 、 未 来 は漠 然 と して い て予 測 不 可 能 とみ な さ れ る 。 こ れ に対 して 中 国 や 日本 の 文化 は祖 先 を崇 拝 し、伝 統 を重 ん じる文 化 で 、 概 して過 去 を他 の 時 に優 先 さ せ る文 化 で あ る 。 イ ギ リス や ヨ ー ロ ッパ の 古 い歴 史 を もつ 国 々 に お い て も同様 の 傾 向 が 見 られ る 。 一 方 「よ り大 き くよ り良 く」(biggerandbetter)を 期待 す る アメ リカ人 は 未 来 を重 く見 る 。 過 去 や 現 在 を考 え な い わ けで は な い が 、過 去 は 過 去 に す ぎず 、 現 在 は よ り良 き未 来 の た め に あ るの で あ る 。 この 考 え は 物 事 は絶 え ず 変 化 す る とい う前 提 に立 つ 。 自己 も社 会 も変 化 す る もの で あ り、変 化 こそ が 生 の基 本 な の で あ る 。 しか し、時 に 関 す る この よ う な文 化 の違 い は 、 昨今 判 然 と しな くな っ て きて い る 。 日本 や 中 国 の 文 化 は 、か つ て は、 た しか に過 去 の伝 統 を重 一63一 文教大学 言語と文化 第9号 ん じる 文 化 で あ り、そ の傾 向 は 現 在 も変 ら な い 。 しか しか つ て の 家 系 と い う よ う な家 族 の 伝 統 に しが み つ く文 化 は 徐 々 に 失 わ れ つ つ あ る 。 多 く の 日本 人 は 依 然 と して 先 祖 の墓 参 りに行 き はす る が 、 ふ だ ん 自分 の 家 族 の 伝 統 を意 識 す る こ とは少 な い 。 そ れ よ り も、昨 今 の す さ ま じい 国 際 化 と情 報 化 の あ ら しは 、人 々 の 関 心 を否 応 な く明 日へ と向 け る 。 ア メ リカ 人 の よ う に未 来 を よ り良 い もの と見 る か 、 そ れ よ り も悲観 的 な もの と見 る か の違 い は あ る が 、 現 代 は 人 々 の視 点 を過 去 よ り も現 在 や 未 来 に移 さ せ ず に は お か な い で あ ろ う。 か つ て の よ う に 、現 在 に起 る こ とは 過 去 に 起 っ た こ と の繰 返 しで あ り、 未 来 に お い て 何 も新 しい こ と は起 ら な い と い う信 念 は 確 実 に 崩 れ つ つ あ る 。 (4)活 動様式 につい て ク ラ ッ ク ホ ー ン ・モ デ ル の 活 動 に 関 す る3つ の様 式 は い か な る 文 化 に も存 在 す る もの で あ る。 日本 人 は 「成 る」 の 様 式 を好 む と言 っ て も 、 す べ て の 日本 人 が そ う とは 限 ら な い 。 中 に は ア メ リ カ人 以 上 に 「す る」 様 式 を好 む 人 もい る 。 同様 にす べ て の ア メ リカ 人 が 「す る」 様 式 を好 む わ け で は な い 。 ク ラ ック ホ ー ンの 言 わ ん とす る の は 、 そ の 文 化 に お い て ど の 様 式 に最 も価 値 を置 くか とい う こ とで あ る 。 した が っ て ア メ リ カ 人 の 中 で 「す る」 以 外 の 活 動 様 式 を好 む 人 は 、 ア メ リ カ にお い て は 変 わ り者 と見 られ 、 そ の 人 の 真 価 が 認 め ら れ な い か も しれ な い 。 日本 で も、 最 近 、 ア メ リ カ な どか らの 帰 国者 の 中 に 、 日本 は 住 み に く い と言 う人 た ち の こ と を耳 にす る 。 ア メ リ カ文 化 の 中 で 「す る」 の 活 動 様 式 を身 に つ け 、 常 に活 動 的 で 自分 の 意 見 をは っ き り と主 張 す る 人 は 日 本 の社 会 で は 受 け入 れ られ な い の で あ る 。 自己 主 張 は 自 己 表 現 の 一 様 式 で あ り、 「個 人 主 義 」 と相 ま っ て 「す る」 様 式 の 一 つ の 典 型 的 な 現 れ で あ る 。 そ の よ うな 文 化 は 日本 にお い て は 依 然 と して 異 質 な の で あ る 。 一64一 英語教育における異文化の扱いについて(2) 一 クラックホーン・ モデルによる文化の普遍的特性一 興 味 が あ る の は 、 世 界 に お け る これ か らの文 化 交 流 の 中 で 、 どの 活 動 様 式 が 最 も普 遍 的価 値 を もつ か とい う こ とで あ ろ う。 人 間が あ るが ま ま に受 け入 れ られ る 文 化 が 理 想 の よ う に も思 え る が 、 人 間 の意 志 や 努 力 が ます ます 尊 重 され る競 争 社 会 に お い て は 、や は り 「成 る」 や 「す る 」 の 様 式 が 好 ま れ る で あ ろ う。 しか し攻 撃 的 な 自己 主 張 に価 値 を 置 く文 化 が 最 善 で あ る と も思 え な い 。 そ れ は そ うで ない文化 を地球 の 片 隅 に追 いや っ て し ま う危 険性 が あ る か らで あ る 。 (5)人 間 関係 に つ い て 「個 人 主 義 」 と 「集 団志 向 」 と い うア メ リ カ人 と 日本 人 の対 比 は、 両 文 化 の違 い を最 もよ く表 して い る よ う に思 わ れ る。 しか し これ も程 度 の 問 題 で あ る 。 い か な る 時 代 に お い て も、個 人 の 自律 性 を 完 全 に封 じて し ま う よ うな社 会 は存 在 し な か っ た で あ ろ う し、 現 在 も存 在 しない で あ ろ う。 も しあ っ た と して も、 そ の よ う な社 会 体 制 は長 続 き しな か っ た で あ ろ う 。一 方 で 個 人 の 自律 性 を最 大 限 に制 限 し よ う と した 国 家 は こ れ まで い く らで も存 在 した し、 こ れ か ら も存 在 す る可 能 性 は あ る。 ま た 、個 人 は社 会 や 国 家 の ほ ん の 一 要 素 に す ぎな い の だ か ら、社 会 や 国 家 の利 益 の た め に個 人 を犠 牲 に す る こ と を よ し とす る考 え方 もあ り得 る 。 国家 の命 令 で 戦 地 に送 られ る 兵 士 た ち は常 に この 問 題 に直 面 す る 。 「個 人 主 義 」 の 国 に住 む ア メ リカ 人 が 他 国 で 行 わ れ る 戦 争 の た め に 命 を 落 と し、 「集 団 志 向」 の 日本 人 が そ れ を見 物 して い れ ば よい と い うの は何 と も皮 肉 な 光 景 で あ る 。 ア メ リカ に は 、想 像 以 上 に愛 国者 が 多 い の で あ る。 「個 人 主 義 」 と 「集 団志 向 」 は どち らか の文 化 が す ぐれ て い る とい う こ とで は ない よ うに 思 わ れ る 。 人 間 は す べ て 個 人 で あ る と共 に 集 団 の 一 員 だ か らで あ る 。個 人 に とっ て 問 題 な の は 、個 人 で あ る こ と と集 団 の 一 員 で あ る こ と と どの よ う に 調 和 させ て い くか に あ る 。 個 人 の 自律 性 を前 一65一 文教大学 言語と文化 第9号 面 に 出す な らば 、 個 人 の権 利 や 自由 を最 大 限 に拡 張 す る とい う方 向 に 向 か うで あ ろ うか ら、集 団へ の 順 応 性 は失 わ れ 、 集 団 の 結 束 性 は弱 め られ る 。 集 団へ の 順 応 性 を優 先 す る な ら ば 、集 団 の結 束 性 は 強 め られ る で あ ろ うが 、個 人 の 権 利 や 自由 は失 わ れ るで あ ろ う。 最 近 の ア メ リ カ と中 国 との 人 権 問 題 をめ ぐる対 立 に は こ う した 文 化 の根 底 にあ る 考 え方 の相 違 を見 る こ とが で きる 。 しか し人 類 とい うマ ク ロな 集 団 を 考 え る時 、 わ れ わ れ は そ れ ぞ れ の 文 化 に ど ん な 変 化 を期 待 した ら よい で あ ろ うか 。 わ れ わ れ は一 概 に 中 国 ま た は ア メ リカ の 肩 を もつ わ け に は い か ない 。 そ の 意 味 で 、 人 権 問 題 は 教 育 の場 面 に お い て 最 も扱 い の 難 しい 問 題 の 一 つ で あ る 。 わ れ わ れ は、 こ こ で 、 も っ と新 しい グ ロ ーバ ル な価 値 の 創 造 を 考 え ざ る を得 な い の で あ る 。 4.む す び 一 普 遍 的 価 値 の 追 及 とグ ロー バ ル 文 化 の 創 造 国 際 平 和 調 査 研 究 所(オ ス ロ,1959年)を 設 立 し た ヨハ ン ・ガ ル ッ ン グ教 授 は 最 近 の イ ン タ ビ ュ ー の 中 で 次 の よ う に語 っ て い る(4:p.6)。 "lnever -wideningcirclesintheworld ,tobemonoglotislike beingilliterate,aconditiontodosomethingabout." (世 界 の 中 の 交 流 の 輪 が ど ん ど ん 広 が っ て い く 中 で 、 ひ と つ の 言 語 しか で き ない 人 は 文 字 を知 らな い 人 み た い な もの で 、 何 とか し な け れ ば な ら な い 状 態 な の で す 。) イ ン タ ビュ ー の 中 で 、教 授 は さ ら に 、他 の 文 化 の基 本 につ い て の 知 識 の な い こ と は ま こ と に困 っ た こ とで 、矯 正 を必 要 とす る 「悪 い マ ナ ー」 で あ る と述 べ て い る 。 この 記 事 を読 ん で 、 私 た ちが 英 語 は なぜ 必 要 か 、 外 国 語 は何 の た め に学 ぶ の か 、 とい う よ うな 議 論 を呑 気 にや っ て い る時 ・ ・ 英語教育における異文化の扱いについて(2) 一クラックホーン・ モデルによる文化の普遍的特性一 代 は 過 ぎ た の で は な い か と感 じた 。 だ い い ち 、 「外 国 語 」 と い う よ う な 言 葉 そ の もの が古 色 蒼 然 と して 、21世 紀 に は も は や 古 語 と な る の で は な い か と さ え思 わ れ る 。 21世 紀 に は 日本 人 が 日本 語 と英 語 を使 うの は 当 然 の こ と で 、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン まで とは い か な くて も、他 の2,3の 言語 を知 って い る こ と は常 識 とな るで あ ろ う 。 なぜ な ら 、次 の世 紀 に人 類 が 生 き延 び る た め に は 、 わ れ わ れ は 多 文 化 ・多 言 語 の 共 存 す る グ ロ ーバ ル な 文 化 を創 造 す る こ とが 必 須 だ か らで あ る 。 そ れ に失 敗 した 時 、人 類 は 間 違 い な く滅 亡 へ の 道 を歩 む こ と に な る。 多 文 化 ・多 言 語 の グ ロ ーバ ル 文 化 を創 るた め に は 、 す べ て の 人 間 が 地 球 市 民 と して の 教 育 を受 け な け れ ば な ら ない 。 厂グ ロ ー バ ル 教 育 」 とい う こ とが西 側 諸 国 で 発 展 しつ つ あ る 。 わ が 国 の英 語 教 育 も、次 の世 紀 に 日本 人 が い か に して 自分 自 身 の 文 化 を超 越 す るか とい う課 題 に真 剣 に取 り組 まね ば な らな い 。 参 考文献 1. Hall, Edward T. Beyond Culture. Anchor Books Edition, 1977. 2. Kluckhohn, Florence R. & Fred L. Strodtbeck. Variations in Value Orientations. Row, Peterson and Company, 1961. 3. Kohls, L. Robert. Survival Kit For Overseas Living. 2nd Edition. Intercultural Press, 1984. 4. McInnis, Donna J. "An Interview with Johan Galtung." The Language Teacher 20 : 11 ( 1996) : 6-8. 5. Orturio , Marian M. "Cross-Cultural Awareness in the Foreign Language Class : The Kluckhohn Model. The Modern Language Journal 75, iv (1991) : 449-459. 一67一 文教大学 6.松 本 青 也 『日米 文 化 の特 質 言語 と文化 第9号 文 化 変 形 規 則(CTR)を 研 究 社 出 版,1994. ・: め ぐっ て 』