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WritingReasonandContextofWar SFNovels KatsuyaShiratori

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WritingReasonandContextofWar SFNovels KatsuyaShiratori
戦争 SFの成立と背景
白鳥克弥
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-192(
1
)
戦争 SFの成立と背景
はじめに
││﹃宇宙の戦士﹄と﹃終りなき戦い﹄
れの時代の読者の戦争観が基本的には合致したとい
﹁宇宙の戦士﹂の作者、ロパ lト -A・ハインラ
うことを示すものであろう。
い。それらの作品をここでは戦争S Fと呼ぶことに
インは、次の紹介にもある通り、最も著名なS F作
S F小説の中には、戦争を描いた作品が非常に多
するが、そこで描かれる戦争は作者の戦争観を何ら
家の一人である。
ハインラインは、 一九三九年のデビュー以来この
かの形で反映したものになっている。言いかえれば、
戦争S Fを読み解くことは、作者の戦争観を理解す
三0年間、ほとんどつねに人気のトップにあり、
新しい話題と論議を提供しつづけてきた。文字通
このように、極めて評価の高い作家であるが、同
(
2
)
る一助になるのである。
戦争観には大別して、好戦と反戦との二通りの
りアメリカ S Fの第一人者であるばかりか、世界
作家といってもいいだろう。(﹁ロパ lト・ A ・
ハ
S F界においてもっとも優れた、もっとも大型の
パターンがあるが、その中でも、好戦的な作品と
してロパ lト・ A ・ハインラインの﹁宇宙の戦士﹂
インラインーーその人と作品﹂﹃世界S F全集ロ
(一九五九)が、反戦的な作品としてジョ l ・ホー
ルドマンの﹃終りなき戦い﹂(一九七四)が著名である。
るヒュ lゴl賞を獲得している。﹃宇宙の戦士﹄は
時に﹁話題と議論を提供﹂する問題作でも有名な作
ハインライン﹂一九七一年)
一九六O年、﹃終りなき戦い﹄は一九七四年の受賞
家である。﹃宇宙の戦士﹄もまた多くの議論を呼ん
この二つの作品は、最も権威あるS F読者賞であ
になる。ヒュ lゴl賞は、多くの読者に評価されて
だ問題作であった。
﹃{子宙の戦士﹂は未成熟な少年が、軍隊の訓練を
いることを証明するもので、この二つの戦争S Fが
選ばれたということは、それぞれの戦争観にそれぞ
-191-
通して、一人前の士宮へと成長していく様を描いた
宙兵ブルース﹂一九七七年)。
作品を誘発することにもなった(﹁訳者あとがき﹂﹃字
日本でも一九六七年の翻訳の発行に際して活発な
作品である。主人公のジユアン・リコ(ジヨニ l)
は富豪の跡取りであったが、ふとしたことから軍隊
訳者の矢野徹は、﹁訳者あとがき﹂に﹁アメリカ
議論が行われた。
れることになる。厳しい訓練を通してジユアンは兵
国内に於ける青少年非行を憤るハインライン中尉が、
に志願し、最も過酷な兵科である機動歩兵に配属さ
士として成長していく。折しも異星人の奇襲から戦
未来宇宙戦記に託したモラルの書﹂と作品を評価し
た。これに対して、評論家の石川喬司は﹁幼稚きわ
ンセンス・ギャグの積重ねの中で、反戦メッセージ
宙の戦士﹄やアシモフの﹃銀河帝国﹄をパロったナ
一九七三年)と批評されたり、﹁ハインラインの﹃宇
新兵訓練から異星人との戦争を描き出した作品であ
宙の戦士﹄を踏襲したかのような、一兵士の視点で、
ドマンは、除隊後、﹃終りなき戦い﹄を発表した。﹃字
他方、ヴェトナム戦争に従軍したジョ l ・ホール
(
3
)
争が勃発、ジユアンは実戦の中で成長していく。
作品の中で展開される過激な暴力肯定と軍隊賛美
否両論の様々な意見││異質な思想に対するS F読
まる哲学﹂と批判した。さらに、この石川の評価に
者としての在り方や、暴力、戦争についての是非な
対して﹃S Fマガジン﹄誌上で読者の投書による賛
前述の通り、読者からはヒュ lゴl賞を獲得する
からハインラインは、右翼的、ファシスト的といっ
ほどの評価を受ける一方で、﹁ハインラインの権力
どーーが寄せられた(﹃S Fの時代﹄一九六七年)。
た批判を受けることになる。
愛好癖は﹃宇宙の戦士﹄という長編のように生に
の太い筋を一本通し﹂たハリイ・ハリスンの﹃宇宙
るが、戦争観は対照的に反戦的なものである。
出ると、大失敗をすることがある﹂(﹃十億年の宴﹄
兵ブルース﹄(一九六五)といったパロディ的風刺
-190-
第2
2
号
文教大学言語と文化
戦争 SFの成立と背景
ンとの戦争に、 I Q一五O以上の優れた知性の持ち
主人公のウィリアム・マンデラは、異星人ト Iラ
るという構造を持ちながらも、その戦争観は正反対
新兵の訓練から始まり、異星人との戦争に身を投じ
﹃宇宙の戦士﹄と﹃終りなき戦い﹄は双方とも、
この違いは何に由来し、どのような相違点がある
主の男女を送り込む﹁エリート徴兵法﹂により従軍
による時間のずれにより、マンデラは過酷な戦争の
のか。それぞれの作品の主題を読み取ったうえで、
のものである。
中で様々なものを失いながら、終戦まで戦い続ける
比較して検討していく。
することになる。箪隊の強制や、長距離の星間航行
ことになる。
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なお底本は文庫版﹃宇宙の戦士﹄(ロパ lト
ハインライン/矢野徹訳早川書房一九七九年九
一方でこの作品は戦争を描いたことから﹁右翼的﹂
た作品であるが、実際には戦争の表現に対してはそ
﹃宇宙の戦士﹄はその攻撃的な内容から問題になっ
(
4
)
前述の通り、この作品はヒュ lゴl賞を獲得する
が、それに加えて一九七五年のネピユラ賞も獲得す
ルドマン/風見潤訳早川書房一九八五年十月)
月)と同じく文庫版の﹃終りなき戦い﹄(ジョ l・ホー
によった。
る。ネピユラ賞は一九六六年に開設され、作家や編
集者の投票によって決定される、ヒュ lゴl賞と並
という評価を下されたこともあったというが(﹁解
れほど熱心ではない。この作品は理想の軍隊や社会
ハインライン﹃宇宙の戦士﹄
ぶ権威ある賞である。読者の投票によるヒュ lゴl
賞と比べると、こちらは文学性を重視する傾向にあ
る
。
説﹂﹃終りなき戦い﹄一九八五年)、その主旨は明ら
を主題としたものなのである。
このように﹃終りなき戦い﹄は高い評価を受けた。
かに反戦的なものである。
-189-
では作品の中でどのように社会や軍が描かれてい
るのか見ていこう。
が失敗したのは、そのころの人聞が、お好みのも
のはなんでもただ投票さえすれば手に入ると信
じさせられていたからだ:::苦労もせず、汗も
わしには三十歳になる精神薄弱者が、十五歳の天
流しもしないで、涙もなしに、手に入るものとな。
想社会がどのように克服しているか、ということが
才よりも、いかに賢明に投票できるものなのか、
理想の軍隊
論じられる。その歴史上の過ちというのは二十世紀
どう考えてみてもわからない:;:しかし、それは
(﹃宇宙の戦士﹄悶頁)
アメリカ社会に集中しており、つまりはこの作品は
︿一般人の神聖なる権利﹀の年齢だったのだ。(﹃宇
(
5
)
この作品では、歴史上の人類の過ちを、未来の理
現実の現代社会を批判して、それに代わる理想社会
それに対して、軍隊を志願し、訓練を受け、そし
宙の戦士﹄都頁)
その理想社会の最大の特徴は、軍務を全うした退
て軍務を全うした退役軍人には次のような資質があ
を描き出したもの、ということになる。
役軍人のみが、投票権をはじめとした公民権を持つ
るため、﹁市民﹂に相応しいとしている。
われわれの機構の下では、あらゆる有権者および
﹁市民﹂である、ということである。それ以外の﹁民
間人﹂は、投票権に興味がなく、価値のないものだ
公務員は、個人の利益に優先してグループの福祉
ある。
この社会に対する行動力こそが﹁市民﹂の資質で
こなう人間なのだ。(﹃宇宙の戦士﹄初頁)
を考え実行するという困難な職務を自発的にお
と見なしている。
これは現実の民主主義が、市民に値しない者にも
投票権を与えてしまうと批判したものである。
この悲劇的な盲信こそ、二十世紀民主主義の堕落
と崩壊をもたらしたものなのだ。この崇高な実験
-188-
第2
2
号
文教大学: 言語と文化
戦争 SFの成立と背景
ていく、というものである以上、軍隊の訓練に由来
の一人息子が軍隊の訓練を通して立派な士宮になっ
その資質は、作品のプロットが富豪の﹁民間人﹂
が、この作品の主張である。
会の担い手となることが理想社会に繋がるというの
このように行動主義的で規律を遵守する軍隊が社
この軍隊の訓練とは、過酷なもので、時として懲
り、その過酷な訓練も現実的な戦闘のためというよ
養成する教育機関としての役割に特化したものであ
言いかえれば、作中の軍隊とは優秀な﹁市民﹂を
罰を伴ったものである。また、作中の一般社会にも
りは、精神修養を目的としたものなのである。
したものであるといえるだろう。
鞭打ちの懲罰は制度化されており、それにより社会
の治安と道徳規範が守られているという。
人権を守るためとし、忌避されていた。子どもは犬
会の成立という世界観を持っているわけだが、その
このように作品は、軍隊の貢献による理想的な社
建国期の理想
のように﹁怒鳴りつけて、鼻を床にこすりつけてや
軍隊が何をもって理想とされているのかを見ていこ
しかし二十世紀社会においては、体罰は子どもの
り、たたいて﹂やらなければ、道理を教えこむこと
、
司
ノ
。
まず、軍隊は人種的に平等な組織であるというこ
はできない。しかし、口先だけのきれい事から撲を
放棄したために、二十世紀社会の治安は少年犯罪に
より悪化したのだ、というのが作品の主張である。
懲罰であれ、子供たちに一生残る心理的な傷を与
出生、財産、性別、あるいは前科などでは制限さ
われわれの民主主義は、人種、皮膚の色、主義、
とが明言される。
えてしまう、ということが広く信じこまれていた
れてはいない。(﹃宇宙の戦士﹄却頁)
たたいたり、あるいは苦痛を伴うものは、どんな
んだ﹂(﹃宇宙の戦士﹄郷頁)
-187(
6
)
し、ラモン・マグサイサイを英雄視するフィリピン
主人公のジユアン・リコは、 タガログ語を母語と
針の中心にあると非難され、作者の考え方を強引
スタント)と呼ばれるアメリカ保守思想が編集方
反も始まっていた(たとえば第二次大戦に召集さ
にねじまげる強権的な編集姿勢に一流作家の離
この非アメリカ的な人物設定の意味は、当時のア
れて ASF誌を離れていたハインラインは、 S F
人の末商である。
メリカS F事情と比較すると、より鮮明となるだろ
界に復帰したあと、数えるほどの作品しか A S F
二O O 一年)
誌に発表していない。(﹃新・ S Fハンドブック﹄
こうした白人至上主義的なS F事情からすると、
アスタウデイン
グ・サイエンス・フィクション (ASF) 誌の編集
黄色人種の主人公が活躍するということの特異性は、
ベルにとっての人間の理想形、白人の、おそらく
(中略)もちろん、ここでの﹁人類﹂が、キヤン
利するという構図のもののみを採用したという。
伸びていく権利といったものを持っているのか
もっとあとになってからだが││人聞が宇宙に
全宇宙はおれたちに教えてくれるだろうーー
さらに軍隊は開拓者でもある。
(
7
)
。
っ
、 当時のS Fを主導していたのは、
キヤンベルは、 S Fに大きな貢献をした人物である
プロテスタントであったことは間違いないだろ
いないのかということを。
もつながるものである。
作中の軍隊の人種平等主義的特質を強調することに
長、ジョン・ W ・キヤンベル・ジュニアであった。
が、偏向があったことも事実であった。
また、キヤンベルは、人類と宇宙人との相克と
う。(﹁切断者の煉獄﹂一九九六年)
それまでのあいだは、機動歩兵が張り切って堂々
いった題材に関しては、人類の英知が結局、勝
WASP (ホワイト・アングロサクソン・プロテ
-186-
第2
2
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文教大学
戦争 SFの成立と背景
ない理想的な土地として、困難に立ちむかってい
備えており、銀河系のはずれのほうにはほとんど
それはこの世の楽園(パラダイス)となる条件を
デスティニ l﹂を思わせる意識も見ることができる。
神に認められた正当な行為だとする﹁マニフエスト
が語られることになるが、それに伴い、開拓行為が
このように、軍隊が宇宙開拓の先駆者であること
のだ。(﹃宇宙の戦士﹄矧頁)
と、わが種族の側に立って、字宙へと伸びてゆく
宙の戦士﹄却頁)
羊は決して面倒を起こしたりいたしません﹂(﹃宇
牧羊犬(シ1プドッグ)にしてしまえば、あとの
ます。攻撃的気質を持っている連中を切り放して
のだらしない急進派であるだけになってしまい
のでなければいけません:::さもなければ、ただ
家は、みずから進んで戦い命を捧げようとするも
レッシブ)であることを必要といたします。革命
ますから、不平ばかりではなく、攻撃的(アグ
﹁つまり、革命とは、武装して蜂起するのであり
H為政者である軍隊に
くだけの資質に欠けた原始的な生命形態の所有
﹁民間人﹂ではなく﹁市民﹂
つまり、革命に必要な﹁攻撃的気質﹂を持つのは、
あるというのである。
にまかせておくわけにはいかないということだ。
(﹃宇宙の戦士﹄捌頁)
争。と名のつくもの全般につきまとう妥協を許さ
.いていると思われるある種の信念ーーーおよそ。闘
いまなおアメリカ S Fの内意識に根強く住みつ
はアメリカS Fに共通したものであるという。
他のハインライン作品にも見られるものだが、これ
この攻撃性を革命と同一視して称揚する思想は、
このように、惑星の所有を、現住生物ではなく人
類自らにふさわしいものだとする意識も見せること
になる。
そして軍隊は、革命家でもある。
作中の社会が革命の起きない、安定した社会であ
るという理由について、次のように語られる。
-185(
8
)
がわかる。そして、﹃宇宙の戦士﹄で描かれる軍隊
もまた、独立戦争時代のアメリカのモチーフを踏襲
ぬ剛直な姿勢││のことである。(中略) つまり
絶対に守るべきは五口。ではなく。正義(﹄5 巴のゆ
したものとなっている。
作者のこの発言に今回はじめて気づいたとき、わ
実のところ、以前一読者としては見すごしていた
る概念でもある。人種平等は奴隷解放宣言、開拓は
要素を持つ。これらは建国期のアメリカを特敵づけ
以上のように軍隊は、平等、開拓、革命といった
)ψ
なのである。この確信めいた価値観を抜きにして
たしが思い出したのは、かのアメリカ独立戦争
西部開拓時代、草命は独立戦争などといった初期の
アメリカS Fを語ることはできまい。
と呼んでいるという事実だった。(中略)そのと
をアメリカ人自身は。革命(レボリュ lシヨン)。
は、本シリーズから、例えばハインライン﹁動乱
てはばからない古きよき時代のアメリカ的感覚
状との対比だった。その両者を同じ用語でくくっ
同時期に起きたフランス革命の血で血を洗う惨
や、前述の引用にもあった社会主義革命の手法で
の脱出と開拓を描いた﹁メトセラの子ら﹂(一九四こ
ンライン作品の多くに共通するものであり、宇宙版
ある。この建国期のアメリカに対する憧憶は、ハイ
建国期のアメリカの理想に基づいて描かれた存在で
つまりは﹃宇宙の戦士﹄における理想の箪隊とは、
(リヴォルト)2100﹂﹃月は無慈悲な夜の女王﹂
独立戦争を再構成した﹃月は無慈悲な夜の女王﹄
(
9
)
アメリカの歴史を彩る事柄と関連がある。
などにまでしっかり受け継がれていた。(﹁訳者あ
(一九六五)や﹁動乱2100﹂(一九四O) などに
きわたしの頭に浮かんだのは、それとちょうど
とがき﹂﹃銀河パトロール隊﹄二000年)
顕著である。﹃宇宙の戦士﹄もこうした方向性と同
軸上にあるといえるだろう。
このことから、アメリカS Fにおいて描かれる革
命とは、独立戦争をモチーフにしたものであること
-184-
第2
2
号
言語と文化
文教大学
戦争 SF
の成立と背景
人聞を非合理的な残虐行為に駆り立てる何らかの力
兵士は多くの戦争で、そうした残虐行為に駆り立
学が働いているように思われる。
ハインラインが理想を軍隊に投影して描いたのに
てられてきたが、それが特に問題となったのがホー
2. ホールドマン﹃終りなき戦い﹄
対して、ホールドマンは現実に根ざした軍隊と戦争
ルドマンの従軍したヴェトナム戦争だった。
る。ホールドマンは、その要因を軍隊による精神操
﹃終りなき戦い﹄はこの人間の残虐性を問題とす
を描いた。それはホールドマン自身が兵士として戦
場に立ったことと無関係ではない。
この作品の主題となるのは、戦争を巡る一兵士の
くまでフィクションであり、現実ではない。しかし、
は、﹁一五O以上の知能指数をもち、とぴぬけて健
元々、主人公のマンデラら、戦争初期の兵士たち
作としている。
そこで表現されていることは現実の戯画化であり、
康かつ頑健な肉体を持つ(﹃終りなき戦い﹄幻頁こ
基本的に人間の常識の上では、人聞を殺すことは
人工の憎悪
は兵士に偽りの記憶を催眠術で植えつけ、理性の底
いた性格ではないということでもあった。そこで軍
優れた知能の持ち主だった。同時にそれは兵士に向
(
1
0
)
喪失と戸惑いの感情の表現である。作品の戦争はあ
現実に根ざしたものである。
正しくないとされている。しかし、しばしば戦場で
の感情を操作して憎悪に駆り立てることで、闘争心
若者を徴兵する﹁エリート徴兵法﹂の適用を受ける
はそうした常識が通用しなくなる。敵兵の遺体への
を発揮させるようにし向けたのである。
兵士達は苦しむことになる。
その結果として行われた異星人に対する虐殺に、
冒涜的な行為や捕虜や民間人への虐待や拷問、虐殺
などは、あらゆる戦場で起きたことであり、あらゆ
る人聞がなしうる行為であった。戦場においては、
-183-
おれは長いこと、あのおびえきって潰走する生物
(中略)
だったからだ。
なぜなら、それは虐殺だったからだ。薄汚い虐殺
を戦争と軍隊は持つことになるのである。
憎悪﹂とでも言うべき、兵士の心理に対する強制力
にし向け、虐殺に駆り立てる。そのような﹁人工の
であろう。本来は憎む必要のない者を憎悪するよう
を嬉々として切りきざんだのはおれではない、と
ウラシマ効果
効果(命名は石原藤夫とも柴野拓美(小隅繋)とも
何度も何度も言いきかせた。(﹁終りなき戦い﹂山
おれは︿エリート徴兵法﹀により百しあげられ、
言われるが、詳細は不明。海外では﹁リップ・ヴア
この作品のS Fとしての価値の一つに、ウラシマ
殺人機械になるように教育された、平和を愛する
ン・ウインクル効果﹂と呼ばれる(﹃法則の辞典﹄
基づく現象である。超光速航法が発見されていない
(
l
l
)
頁)
真空溶接の専門家で物理の教師、だ。おれは敵を殺
二O O六年))を効果的に利用している、というこ
とがある。ウラシマ効果とは、物体の移動速度が上
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頁)
昇することで時間の進行が遅れていき、光速に近い
した。殺すのが好きなんだ。(﹃終りなき戦い﹄
このように主人公は自ら行為に苦悩することにな
軍隊とは、兵士にこのような倫理に反する行いを
作中世界では、別の惑星に移動するのに数十年、数
速度では殆ど静止状態になる、という相対性理論に
強制する存在として描かれている。現実には、これ
百年を要するにも関わらず、その問の体感時間はわ
る
。
は命令という形を取るであろうし、あるいはプロパ
ずかな時間にしかならない。
そのため、ある作戦に参加して帰還すると、銃後
ガンダ、組織の指向性、集団的熱狂といったものが
兵士に、このような行いを強いることにもなりうる
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文教大学
戦 争 SFの成立と背 i
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そのため、この作品は戦争S Fであると同時に、未
の社会は未来社会になっているということになる。
加頁)
人は、ひとりも残ってはいまい。(﹃終りなき戦い﹄
死んでしまっているのだから。おれに関係のある
る。そのため、両者が再会することは限りなく不可
としても、互いの時間の差は数十年から数百年にな
別々の任務に就くということは、仮に生還できた
来社会を描いた片道限定の時間旅行S Fでもある。
この時間旅行、というよりも未来への一方的な転
送は、兵士に様々な負担を強いることになる。
まず、未来に送られるということは他人と時間を
能に近くなる。
このようにして主人公は孤独に追い込まれていく
共有できないということであり、それは実質上の死
別に等しいものとなる。主人公のマンデラが体験す
ことになるが、その原因は任務を言い渡した軍隊に
単に恋人を失うということではない。メアリイゲ
のはただ軍隊だけ。跳ばなかったのは、軍がおれ
はない。痛みなどほんの一瞬の明るい閃光、失う
ホ
γ
イもおれもたがいに、一九八0年代、一九九0年
に対して決定的な勝利をおさめたからだ││長
(
12
)
る別れの最大のものは、戦友であり恋人であったメ
アリイゲイと別々の任務を言い渡されるということ
代の地球という本当の世界につながる唯一のき
。
。跳ばなかったのは、痛みや喪失が恐かったからで
ずなだった。おれたちが守ろうとして戦っている
めを刺したわけだ。(﹃終りなき戦い﹄郡頁)
きにわたって、おれの生活を規制し、ついにとど
であった。
査んだグロテスクな世界じゃないんだ。(﹃終りな
の原理である。しかし、天文学的な遠地に兵士を送
ウラシマ効果は軍の意図したものではなく、自然
もし生きて戻れば、さらに七百年がたつ。だから
り込むのは軍の命令であり、戦争に由来するもので
き戦い﹄捌頁)
どう、ということはない。メアリイゲイはどうせ
-181-
﹁どうも。で、いまでは、ごく珍しい:::わたし
﹁機能異常となった﹂とアルセヴァ lが言った。
また、 こうして未来に送られるということは、数
には、男と女がそんなことをしたがるなんて信じ
ある。
十年、数百年も先の価値観や風習の異なった社会に
られませんね﹂
﹁ちょっと異常なだけよ﹂ダイアナが寛大そうに
送り込まれるということでもある。
数百年後の世界において主人公は、男女関係は同
﹁そうだわ、マンデラ﹂ヒルボ lが言った。﹁そ
言った。﹁赤ん坊を食べるのとは、わけがちがう
﹁情緒の安定している人間だけが UNEFに入隊
のことで、あなたへの態度が変わるとは思えない
性愛が当たり前のものになり、逆に異性愛は異常者
できる。きみにとって、これが納得のいきにくい
わ
﹂
わ
﹂
ところだというのはよくわかる。しかし、異性愛
﹁そ、それはうれしいな﹂
(
13
)
ということになっている社会に戸惑うことになる。
者は情緒不全だと考えられているのだ。治療は容
か、まったくわからないってことがわかってきた
とんでもない││社会的にどう行動すればいい
だけだ。おれの。正常な。行為の多くは、性に関
易だがね﹂(﹃終りなき戦い﹄却頁)
のになっている。そこでは、異性愛は﹁赤ん坊を食
二四世紀の社会では、同性愛がごく当たり前のも
べる﹂よりは良いという次元の反社会的な異常性癖
なき戦い﹄加頁)
こうした社会や規範の急激な変化は、兵士にとっ
係した暗黙の礼儀作法にのっとっている。(﹃終り
て、故郷を異郷のように思わせるものである。当然、
ということになる。
﹁とにかく﹂と、 ムーア。﹁それは、 ほんの短期間、
この作品は S Fなので、この変化は数百年の時聞を
犯罪でした。 やがて、それは、 アl、治療可能な
-180-
第2
2
号
言語と文化
文教大学
戦争 SFの成立と背景
社会での疎外感といったものを、 S Fとしての合理
このように﹃終りなき戦い﹄は、現実の兵士が戦
性でもって、戦争を知らない読者にも納得できるよ
おいた合理的な変化として読めるようになっている。
ある帰還兵は次のように語る。
うに描いている。しかし、現実にはそのような合理
場と銃後の社会で体験した感情に根ざしたものに
僕が﹁この世﹂に帰ってきたのは、一九六九年の
性は存在しえず、催眠術無しに虐殺は行われ、ほん
しかし、兵士が故郷を異郷と思う感覚は、ヴェトナ
九月のことです。しかしそこはすでに、僕が出
の数年で社会からは居場所が失われた。そのなかで、
なっている。戦場での狂的な殺裁行為と、帰還後の
て行ったときとはちがう世界になっていました。
兵士が感じたであろう現実の感情は、作品の中で描
-179-
ム戦争帰還兵が感じた現実のものであった。
(
﹃
ホlムカミング﹄一九八九年)
かれたものに共通するものであろう。
ハインラインとホールドマンの戦争観
理想の担い手として軍隊を描いたハインラインに
対して、ホールドマンは現実の兵士の感情をS F作
品の中で描いた。この二人の戦争観は大きく異なっ
ている。
戦争観とは、突き詰めて考えれば、好戦か反戦か、
という単純な区分から始まり、戦争という最大の合
(
14
)
ホールドマン自身も帰還兵であった。必ずしも彼
が、この兵士と同じような感情を抱いたという保証
もないが、ヴェトナム戦争を巡る賛否は戦争初期と
後期とで正反対のものになっていったことは事実で
ある。そのため、出征前と帰還後とでは、兵士に対
する感情も大きく変化することになり、帰還後、社
会に拒絶され、居場所をなくす者も多かった。
そうした兵士の疎外感は極めて深刻なものである。
作品はそうした戦争に翻弄された兵士の現実の感情
を、戯画化されたS Fという枠組みを通して表現し
たものになっている。
3
絶対悪なのか、身を守るためなら敵を殺しても良い
れるか、という判断基準を問うものである。殺人は
法的殺人の中で、どのような条件でなら殺人が許さ
この敵対者となるクモ型異星人は﹁心理、経済の
阿責を覚える必要のない種族として設定されている。
会構造を持っており、彼らを滅ぼすのに何ら良心の
階級と、無個性な労働・戦闘階級とで構成された社
面からは蟻ないし白蟻に酷似している﹂としている。
のか、命令があれば殺しても良いのか、あるいは敵
対者は皆殺しにしても良いのか。
はほとんど見られない。作中の戦争は、理想の軍隊
﹃宇宙の戦士﹄における戦争には、政治的な主張
イメージは、多くの欧米の記者たちの間でも一般
巣にたとえた。(中略)それに比肩するアリ塚の
(実生活では天皇)に仕える騒がしいミツバチの
たとえばグル lは日本のことを、全員が女王パチ
この﹁蟻﹂﹁白蟻﹂という比職は、太平洋戦争にお
が強く、理想に忠実であることを証明するための舞
的なものだった。(﹃人種偏見││太平洋戦争に見
作品においてハインラインは職滅を無意識的に肯
台に過ぎない。構図は極めて単純化されており、味
いて日本人に対して、そして冷戦構造下において共
方は善で敵は悪、という明快な構図になっている。
る日米摩擦の底流﹄一九八六年)
定するが、ホールドマンは殺害を意識的に否定する
そこに戦争の葛藤や負の側面などは﹁空想的社会改
英米人が日本人の特徴としたものが、実は共産主
産圏に対して用いられた比轍と同一のものであった。
良家とか、気のいいネリ 1伯母さん﹂の戯言として
義者たちにいっそう当てはまることが不意にわ
(
15
)
ものである。
切り捨てられている。
これは、敵国民を人間以下の存在に庇め、根絶し
かったのである。(同右)
撃を発端とする、人類側にとって正当なものであっ
ようとする、虐殺にも通じる人種差別的な意識であ
戦争の物語上の位置付けも、異星人による奇襲攻
た。さらに敵対異星人の性質として、邪悪な指導者
-178-
第2
2
号
言語と文化
文教大学
戦争 SFの成立と背景
うことは先に見た通りだが、その他者認識は人種差
る、という人種平等の意図を持った作品であるとい
アンもまた、異星人の脅威に対する人類の戦友であ
る。﹃宇宙の戦士﹄はフィリピン人や日本人、インディ
うことで彼の軍人としてのキャリアは挫折すること
入隊後五年(一九二九1 一九三四年)で、結核を患
士宮学校を目指すほどの軍国少年であった。しかし、
一九O七年生まれのハインラインは、高校卒業後、
次世界大戦と太平洋戦争の聞の、ちょうどアメリカ
になる。このことから、ハインラインの軍歴は第一
この他者認識は、開拓時代において、﹁マニフエ
ラインにとっての軍隊観というものは、実戦の実感
が平時であったときに相当する。そのため、ハイン
別と同様のものとなっている。
ストディステイニ l﹂に基づき、原住民の土地を侵
(
16
)
略的に開拓していた時代にも見られたものであった。
ハインラインは﹃宇宙の戦士﹄の作中で、実戦経
を伴ったものではなく訓練中心のものであるという
革命と苛烈な攻撃性と関連することは先に見た通
験のない兵士は一人前でないとし、さらに実戦を経
自らは神に選ばれた民であり、原住民は人間以下の
りであるが、他の建国期の理想とする概念も、﹃宇
験しないで士宮になった者は﹁ぶらぶらしていたこ
ことが推測できる。
宙の戦士﹄においては、敵対者を人間以下の存在と
とは間違いない﹂と蔑む。それを平時に海軍中尉と
存在としていたのである。
して庇め、彼らを殺すことに良心の阿責を覚える余
なったハインラインが語るということは、自閉の一
もない。しかし、それは﹁過去の戦争で訓練を受け
地を持たないという他者認識に通じるものなのであ
このハインラインの単純化された好戦的な戦争観
戦闘に加わった人ならだれでも、ハインラインが
種であるか、現実の軍隊に対する批判とも取れなく
と、訓練重視の軍隊観は、彼の従軍経験とも関連が
対象を美化していることがわかる﹂(﹃十億年の宴﹄
る
。
あると思われる。
-177-
を批判するものとなっている。
ない﹂(矢野一九七七)は、結果的にハインライン
を嫌い、ファシズムを嫌っているものはほかにはい
士官兵にあって戦争を知った人間ほど、心から戦争
品解説に対して寄せられた批判に対する反論、﹁下
一九七三年)ものであり、訳者の矢野徹が自身の作
血を噴き出しているのが見える。両手で止血しょ
づく。下を見ると大腿部の動脈がポンプのように
まえ。そうすると、きみは脚の感覚がないのに気
た血でまっ赤になるのを見る。立とうとしてみた
グルが突然、煙で灰色になり、そして、飛び散っ
のこと) の も の と 同 じ な ら 、 き み は 緑 の ジ ャ ン
作品の主要なテーマとして、より深刻に取り組んで
それに対して﹃終りなき戦い﹄は戦争について、
みたいになっている。
え。ところが肩も役に立たない。生のハンバーグ
で拭えなくなる。それを肩で拭こうとしてみたま
だ。(﹃戦争S F刊のスタイル﹄一九七七年)
(
17
)
うとしてみたまえ、そうすると目に入った血を手
いる。
しかし、自分が戦争の学習者として落第してし
(中略)
軍しており、その体験が作品成立の最大の要因と
まったということだけは、心に浮かばない。きみ
前述の通り、ホールドマンはヴェトナム戦争に従
なっている。
の一九六七年から一九六九年にかけてヴェトナム戦
このようにホールドマンは実戦の中で重傷を負う
はもう二度と、戦争について客観的になれないの
争に従軍した。歩兵としての作戦中に、ホールドマ
ことになるが、彼の作品の方向性を決定づけるのは、
一九四三年生まれのホールドマンは、大学卒業後
ンは爆弾により重傷を負い、名誉除隊ということに
この負傷の体験が全てではない。それ以上に、戦争
の中で表出する人間の憎悪や敵意が、ホールドマン
なるが、その時の体験を次のように語っている。
もし、きみの体験が編者(筆者注一ホールドマン
-176-
第2
2号
言語と文化
文教大学
戦争 SFの成立と背 i
註
作中の戦争は誤解を発端とし、軍需複合体を思わせ
る利権集団が引き起こしたものだった。さらに人間
の主要な文学テl マである。
﹃宇宙の戦士﹄が異星人を、正義や個性といった
の持つ攻撃性が戦争を長期化し、その攻撃性から脱
先に見たように、この作品においては、軍隊の精
人間的崇高さを持たない人間以下の存在として表現
神操作により残虐性が引き出され、虐殺が引き起こ
却した人々の出現でようやく千年以上にわたる戦争
あたり一面、ト lランの血で赤くギラギラしてい
されるが、その残虐性が人聞が本来持ち合わせてい
したのに対して、﹃終りなき戦い﹄においては、人
た。神の子はすべて、ヘモグロビンを与えられて
たものであるということに作品は自覚的である。
が終結するのである。
いるのだ。(中略)ト l ランの内臓も人間のそれ
間と同質の存在として描かれている。
によく似ているように見えた。(﹃終りなき戦い﹄
うセリフは、非人道的な行為のいいわけとしては
二十世紀には。おれは命令に従っただけだ。とい
これはトlランも人間と同じ、血の通った存在で
不充分であったとされている。:::しかし、その
m頁)
あり、それを殺すことは殺人と同様に罪深い行為で
命令が、無意識という人形っかいから発せられた
ときには、どうするのか?
あるということを暗示している。
﹃終りなき戦い﹄における異星人に対する他者イ
とくにまずいのは、おれの行為はすべてが非人道
なら、べつに催眠衝動がなくとも、同じ人類に同
メージは人類と同等か、それ以上に平和的な高次の
トl ランは何千年ものあいだ、戦争というものを
じことをしただろう。
的というわけではない点だ。数世紀前のご先祖様
知らなかった。(﹃終りなき戦い﹄説頁)
おれは人類というやつにうんざりした。軍隊に吐
種族というものである。
それに対して、人間の持つ攻撃性が問題とされる。
EA
唱
(
'
i, 唱 E
広
u
a
目
命
は、おそらく戦場での体験から得てきたものであろ
こうしたホールドマンの攻撃性に対する人間不信
(﹃終りなき戦い﹄旧頁)
た Oi---ま、いつの世でも洗脳ってやつがあるさ。
つきあって生きていかねばならぬことに恐怖し
どの異質なものであるが、﹁戦争が終わったのが本
い。この未来像は主人公が居心地の悪さを感じるほ
性といった思考形式を捨てることもやぶかさではな
なものである。そのためなら、人間の持つ個我や個
や攻撃性を徹底的に否定した、過激な非暴力主義的
このようにホールドマンの戦争観は、人間の憎悪
去ることで平和な社会が成立する。
う。ヴェトナム戦争に限らず、多くの戦争で人類は
当なら、あとはなんでもかんでも信じることにする﹂
き気をもよおし、あと百年ばかりこんな自分に
虐殺を初めとした残虐行為を働いてきた。ホールド
のである。
的意識﹂により、ある種の集合知性を形成する。そ
﹃終りなき戦い﹄の最後では、人類が﹁クローン
のとして軍隊を描き出したのに対して、﹃終りなき
宙の戦士﹄が建国期のアメリカの理想を体現したも
以上のように二つの作品の戦争観の違いは、﹃宇
まとめ
れにより、異星人との相互理解が達成される。同
戦い﹄が現実のヴェトナムの戦場における体験に由
(
19
)
マンが戦場で何を体験したかは、具体的には明かで
ない。しかし、残虐行為を行う人間の攻撃性からの
脱却こそが人類の進歩の形である、という思想は、
様に﹃マインドブリッジ﹄(一九七六)でもテレパ
来しているという、理想と現実の対比にあったとい
﹃終りなき戦い﹄を含めた後の作品からも推測できる。
シー的な相互理解能力を得ることで、異星人に宇
えるだろう。
﹃宇宙の戦士﹄は、作品発表当時の社会に対する
宙進出を許されることになる。﹃終わりなき平和﹄
(一九九七)においては、人類全体が攻撃性を捨て
-174-
第2
2り
え官苦と文化
文教大学
戦争 SFの成立と背景
批判的意図を込めて、古き良き建国期のアメリカの
ある。
ということが最も価値のあることとされているので
この戦争観の相違は他者認識の違いにも繋がる
理想に基づいた軍隊を描いた。その主題の中では、
戦争は単純化されたものになり、善亙合一元論で語ら
同時に作品が理想化した建国期の理想は、それ自
ために殺しても構わない、とするものである。それ
戦争の相手は自分たちとは違う、劣った存在である
ものである。﹃宇宙の戦士﹂で示された他者認識は、
体が好戦的な傾向を内包するものであったことも、
に対して、﹃終りなき戦い﹄は他者を自己と同質の
れるものになる。
﹃宇宙の戦士﹄が好戦的な戦争観を持つ要因の一つ
ものとする価値観を持つものである。このことから、
戦争観とは異質な他者を如何にして受容するかとい
一九八五年一 O月
(
2
0
)
になったといえるだろう。
それに対して、﹃終りなき戦い﹄は、一兵士の感
うことが試される指標ということもできる‘だろう。
早川書房
ジヨ l ・ホールドマン/風見潤訳﹃終りなき戦い﹄
戦士﹄早川書房一九七九年九月
ロパ lト・ A- ハインライン/矢野徹訳﹁宇宙の
︿テクスト﹀
情の表現が主題となっている。戦争においては、生
る人間の攻撃性や残虐性といったものをとりわけ思
命の危機に曝されることよりも、戦闘の中で露見す
避するものである。
戦争を引き起こす根源には、人間の持つ攻撃性が
あり、そこからの脱却こそが人類の進化の在り方で
あるとしている。そのためには、人間の個を中心と
する思考形式からの転換も必要であるとしている。
過激な思想であり、作中でも居心地の悪いものとし
て疑問が呈されているが、それでも戦争が終わる、
-173-
第2
2
号
言語と文化
文教大学
︿参考文献﹀
ロパ lト・ A ・ハインライン ﹃世界S F全集ロ
ハインライン﹄早川書房一九七一年一月
B-w- オlルディス/浅倉久志酒匂真理子
小 隅 繋 深 町 民 理 子 共 訳 ﹃ 十 億 年 の 宴 S Fーー
一九九六年
ハリイ・ハリスン/浅倉久志訳﹃宇宙兵ブルース﹄
そ の 起 源 と 発 達 ﹄ 東 京 創 元 社 一 九 八O年一 O月
早川書房一九七七年六月
石川喬司﹁S Fの時代﹂双葉文庫
永瀬唯﹁切断者の煉獄﹂﹃現代思想﹄青土社
十一月
一九九六年七月
水鏡子﹁年代別S F史﹂﹃新・ S Fハンドブック﹂
早 川 書 房 二 O O一年
二O O六年九
E ・E- スミス/小隅察訳﹁銀河パトロール隊﹂
東 京 創 元 社 二 OOO年一月
山崎潤﹃法則の辞典﹄朝倉書庖
日
川
ジョン -W・ダワ l /斎藤元一訳﹃人種偏見││
太平洋戦争に見る日米摩擦の底流﹄ティピ l エス・
ブリタニカ一九八六年九月
ボブ・グリーン/井上一馬訳﹃ホ 1ムカミング﹂
文璽春秋一九九一年九月
ジョ l ・ホールドマン/岡部宏之他訳﹁戦争S F
mのスタイル﹄講談社一九七九年八月
υ
J
y
白
つz
:
(
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