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QX_JSCA.....x....No35 HP.p

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QX_JSCA.....x....No35 HP.p
No.35 2 0 1 1 ・10
JSCA
中 国
発行 譖日本建築構造技術者協会
中国支部事務局
TEL 082−504−4800
http://www.jsca-chg.com/
特集「耐震改修:中国五県の事例紹介」
常任顧問 橋本 健
はじめに
切であり、広く大きなコラボレイション(協同作業)と
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に
する事が望まれているので有り、それを実行しなければ
よる、「東日本大震災」から早や半年が過ぎようとして
ならないのである。
いる。これを機会に、JSCA中国支部:広報委員会が標
以下に紹介する中国5県の耐震改修の事例は、其々の
記の特集を企画したのは、誠に時宜を得たものと思われ
地域、敷地、建築物の諸事情を勘案し、良く考え抜かれ
る。
た建築計画・構造計画と成っている。又、設計と云う行
今回の震災は、複合的かつ広域的であり、理・工学、
為は、接合部などの局所を見る虫の眼と、建築物全体の
社会科学のみならず、政治・経済・社会全般に多大の教
バランス等を見る俯瞰的な鳥の眼が重要であるが、紹介
訓を残したと云える。阪神・淡路大震災以降は、法律に
事例は何れも「対局感」と「大局感」を持ち合せている
基づき各都道府県に耐震診断・耐震改修の為の、評価委
良い事例である。
員会等が設けられ全国的なネットワークが構築され、鋭
本特集がJSCA会員のみならず、広く「官・学・民」
意努力が成されて来た処ではある。
に亘り何らかの参考となれば、幸いであります。
東北地方太平洋沖地震について
然しながら、中国地方に於いてはその耐震化率は、5
年連続・5県揃って全国平均を下廻っているのが実態で
今回の超広域に亘る複合災害は、関東大震災、東京大
ある。
空襲や阪神・淡路大震災の数百倍の広さに亘っており、
耐震改修はややもすると、後ろ向きの消極的な仕事と
正に人智を超えたもので有り、自然の力の脅威と文明社
思われがちで有るが、バブル崩壊後の日本経済は、フロ
会の脆弱さを知らされた処である。
ーの経済からストックの経済へと移行している。又、世
地震の断層の規模は、東西約200km、南北約500kmに
界的に見ても、地球資源の有限性と地球環境の保全の為
もおよび、東北地方全体でその揺れは約6分間であり、
には、ストックの経済が重視されている処である。我々
震度4以上の揺れは約3分間続いたと云う。
建設に携わる者としては、今回の震災の地域防災の教訓
防災科学技術研究所
功刀:他(2008)による。
をも取り入れて、社会に良質なストックを残す責任と義
務が有ると考えるのである。この様な考えから、耐震改
修に関する情報を「官・学・民」の三者が共有し、此れ
を利用・改善・開発へと発展させて行く事が望ましいと
考えるのである。
耐震改修の技術は既往の技術の組合せ、或いは既往の
技術と新技術の組合せ等で有り、基本的には既存部材に
補強部材を接合する事である。この接合部が、充分に剛
に接合されていると云う前提で、計算が成されている事
の認識が重要である。即ち、接合部がしっかりしていて、
はじめて建築物全体の耐震性能が発揮できると云う事で
我が国は、歴史的に過去の地震災害に熱心に取り組ん
ある。従って、この接合部のディテールや補強架構全体
で来た。厳格な建築基準法、早期警戒システム、避難訓
が、充分にその耐震性能を発揮する為には、設計と施工
練等がそれである。今回の災害では、地震そのものによ
そして維持管理に於いて、実効性(普通に施工できる)
る死傷者の数は、津波に比べて極めて少ない事が特徴的
と信頼性(耐震性能が発揮できる)、そして経済性が重
である。又、木造家屋や非木造の中・低層の建築物に甚
要である。この様な意味で、耐震改修の技術は、正しく
大な被害をもたらす、地震動周期1∼2秒の所謂キラー
総合的な技術なのである。
パルスも、阪神・淡路に比べて少なく、現時点では建築
防災・避難施設としての学校建築は、学童・学生・一
物の被害は限定的と云われている。
般人の命を守る意味からも、「官・学・民」の協調が大
−1−
三陸沿岸および仙台平野は、歴史的に過去に幾度とな
く地震・津波の被害に遭遇して来ている。記録に残る最
東京大学
地震研究所
古村孝志教授
による。
古のものは、869年の貞観地震である。江戸時代には
1611年の慶長地震がある。今回の津波災害で、神社およ
び旧宿場街道と宿場街は、高台に位置していた為浸水を
免れたと云う事実がある。これ等は、震災の経験を教訓
とした先人達の立派な知恵である。
「安全・安心」と云う理想的な「想定」を掲げる事も
必要では有るが、人智に依る「想定」に自然は従わない
ものである。より現実的には、災害を少しでも減じる技
術面と、社会システム全体でのトータルな「減災」に徹
然しながら、RC造に於ける柱の剪断破壊やピロティ
する事が必要と思われる。今回の津波で、防波堤や防潮
階の層崩壊、鉄骨造に於けるブレースの座屈および接合
堤は破壊されたが、その勢いを減衰させた。岩手県宮古
部の破断、柱脚の破損等、従来と同じ被害が見受けられ
市田老町の防潮堤も、侵水域を162haから128haに、津
る事も事実である。
波の高さを15.6mから12.5mにそれぞれ抑えたとされて
いる。同県釜石市の湾口防波堤(最大水深63m)も津波
福島学院大学
宮代キャンパス
Y字型平面の2、
3階の層崩壊
(日経アーキテク)
を減衰させ、僅か6分間では有るが避難の猶予時間を与
え、犠牲者を半減させたと云う。つまり、立派な「減災」
の役目を果たした事になるのである。又、仙台東部自動
車道は、建設時に今村教授(東北大学)の提案に依り、
高架ではなく盛り土とした為、堤防の役目を果たし内陸
部の浸水被害を抑えたと云う。この事実を教訓として、
盛り土による国道と一体化した強固な、「スーパー堤防」
個々の建築物に於いては、阪神・淡路の折に中央防災
のアイディアが提言されている。
会議の提言に有る様に、「余裕のある設計」、「丁寧な施
今回の未曽有の震災から得られるで有りましょう、新
工」、「適切な監理」と云う事を設計・改修設計に当たっ
しい知見と教訓を「官・学・民」が共有して、我が国が
ては、今一度の教訓としなければならないのである。
一方、自然災害の多い我国にあっては、古来より自然
自然災害の災害大国で有ると云う現実を直視して受け入
の力を敬い、恐れ、畏敬の念をもって自然と接してきた
れ、自然の力とは畏敬の念をもって真摯に向き合い、世
のである。日本書紀にある様に、荒ぶる火の神を鎮める
界に誇れる災害にも強く、且つ、快適な「街創り」と
ために水神および土の神が、生みおかれたと云う神話が
「国創り」に其々の立場で、一丸と成って励もうではあ
りませんか。
ある。又、俵屋宗達の屏風絵ある様に、風神・雷神の絵
―以上−
もまた、自然に対する畏敬の念の表れである。土木・建
築に於ける地鎮祭もまた、その土地の神様を鎮め工事の
<引用文献>
安全を祈願するものである。
この様に、日本人は古来より自然と共に生きる、即ち、
・中国新聞 8/25
学校耐震化「公立小中全国調査」
マグニチュウド
・産経新聞 8/21、8/23
自然との共生関係を大切にし、自然と仲良く時には厳し
く付き合って来たのである。
−2−
迫りくる「M 9 」
広島県の耐震改修の紹介
(常任顧問 橋本 健 記)
安芸高田市立吉田中学校耐震改修
(5)軸組図(Y方向)
(両側が補強架構)
(PCに依る連結)
竣工写真(南西面:ダブル フレーム)
(1)建築物名称等
・名称 安芸高田市立吉田中学校
・所在地 広島県安芸高田市吉田町常友1018−1
・建築主 安芸高田市
・設計者 譁K構造研究所
(6)補強部分詳細図
(新旧接合部)
(2)建築物概要
・竣工年 平成23年3月末 ・構造 RC造、3階建
・軒高 11.07m
・延面積 3797m2
・基礎 300φ杭(既存)
、直接基礎(改修)
(3)材料の基準強度
*
既存部材
コンクリート
(3∼1)階 17.6N/mm2
①―1号棟:
①―2号棟:3階
17.6N/mm2
①―2号棟:2階
16.6N/mm2
①―2号棟:1階
16.3N/mm2
:2階
13.1N/mm2
:1階
10.3N/mm2
鉄筋(SR24) :
(全て) 294N/mm2
杭(300φ)
:
300kN/本
*
補強部材
コンクリート :
21N/mm2
モルタル
:
30N/mm2
鉄筋
:SD295A 344N/mm2
:SD345 395N/mm2
PC鋼棒
:SBPD 1275N/mm2
炭素繊維
:
3430N/mm2
直接基礎
:
300kN/m2
(4)標準階の構造伏図
(落下防止用方杖、立面・平面)
(PC鋼棒による一体連結、平面・断面)
設計基準強度
設計基準強度
推定強度
推定強度
ヤング係数
ヤング係数
割増強度
長期耐力
設計基準強度
設計基準強度
割増強度
割増強度
降伏点強度
設計基準強度
長期地耐力
(7)補強の概要と其の目的
①RC造増設ラーメン架構(ダブル フレーム)
X・Y両方向の耐力の向上、及び偏心率の改善
②PC鋼棒による一体連結
Exp.Jの改善、及び地震時の衝突の回避
③スラブ受け鉄骨造ブラケット
第2種構造要素の解消
④炭素繊維巻き立て柱、及び構造スリット
靭性の改善
⑤RC造後打ち増設壁
耐力の向上、
偏心率の改善、及び下階壁抜け柱の解消
⑥腰壁及び庇の撤去
荷重の低減
増設ダブル フレーム
− 3−1 −
(8)補強設計の特徴
①コンクリート強度、及びヤング係数について
・強度については、診断時に①―2号棟の3階に於
いて低強度コンクリートが存在していた事から、
各階に於いて追加調査を行っている。その結果、
低強度コンクリート階は解消されている。
・ヤング係数については、コンプレッソ メーター
により、σ―ε曲線が追加試験されている。この
試験結果によるヤング係数を用いて、剛性率、偏
心率、及び後施工アンカーの耐力が検証されてい
る。
②PC鋼棒による一体連結について
・①―1号棟と①―2号棟を連結しているが、この
時其々が独立しているとした場合と、一体連結の
場合を計算し、其々が目標値以上である事を検証
している。
③RC造増設ラーメン架構(ダブル フレーム)について
・既存架構との荷重の伝達は、増設スラブに依って
いる。ダブル フレーム間にはスラブが存在しな
いので、この間の荷重の伝達は水平ブレースに依
っている。
・増設フレームの負担耐力は、X方向で78∼70%で
あり、内フレームと外フレームの比は、3階では
約2:1であり、その他の階では3:1となって
いる。Y方向の増設フレームの負担は、各階で
50%となっている。
・Y方向の第2種構造要素の解消は、接続スラブで
増設柱に伝達可能であるが、2重安全装置として
鉄骨造の方杖を設けている。
・基礎の浮上がりに対しては、地耐力300kN/mm 2
が発揮できる層まで掘削し、底盤の厚みを充分に
採り、その重量で抵抗させている。
(9)工事写真
PC鋼棒
による
連結
増設架構
の大梁と
接合スラ
ブの配筋
増設架構
の基礎の
配筋
(9)耐震性能の比較
方向
X
Y
方向
X
Y
補強前
第2次診断法
Is≧0.75、q≧1.00
階
Is
q
3
0.42
1.59
2
0.33
1.25
1
0.36
1.37
3
0.44
1.62
2
0.36
1.37
1
0.42
1.59
F値
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
1.00
補強後(連結一体)
第3次診断法
Is≧0.75、q≧1.25
階
Is
q
3
1.03
3.85
2
0.81
3.07
1
0.85
3.22
3
0.99
3.11
2
0.82
2.44
1
0.88
2.62
F値
1.00
1.00
1.00
1.10
1.27
1.27
謝辞
本稿を纏めるに当たり、下記の関係者の方々のご理
解とご協力を頂きました。ここに記して、感謝と御礼
を申し上げます。
・安芸高田市および安芸高田市教育委員会
・安芸高田市立 吉田中学校
・譁K構造研究所
・広島県耐震診断等評価委員会(委員長:荒木 秀夫)
引用文献
・吉田中学校 校舎(棟番号①―1、①―2)耐震改
修・調査業務報告書(最終ダイジェスト版)
・同上:評価委員会・評価書
―以上―
− 3−2 −
福山市立神辺小学校 屋内運動場 耐震改修
西側立面図
(1)建築物名称等
・名称 福山市立神辺小学校 屋内運動場
(5)補強部分詳細図
・所在地 福山市神辺町大字川南 2912―11
・建築主 福山市
・設計者 譁K構造研究所
(2)建築物概要
・竣工年 不明(平成23年8月現在:仮設工事中)
・構造 RC造(屋根:鉄骨造)、2階建
・軒高 9.45m
・延面積 1506m2
・基礎 杭基礎(300φ、350φ) GL―9.0m
(3)材料の基準強度(単位:N/mm2)
既存部分
*
コンクリート(2∼1)階
22.0
17.6×1.25
地中梁
17.6
設計基準強度
鉄筋(SD30:全て)
344
割増降伏点強度
鉄骨(SS41)
235
降伏点強度
235
降伏点強度
補強部材
*
S造部分
鉄骨(SS400)
高力ボルト(F10T)
(F8T)
1000 引張強度
800
引張強度
接着系A-BOLT(SS400)
234
降伏点強度
接着系後施工(SD295A)
295
降伏点強度
無収縮モルタル
30
設計基準強度
(6)補強の概要とその目的
①ダイヤモンドトラス補強及び接合部補強
RC造部分
コンクリート
24
設計基準強度
無収縮モルタル
30
設計基準強度
剛床仮定の成立、荷重伝達及び耐力の向上
鉄筋(SD295A)
324
JIS規格の1.1倍
剛床仮定の成立、荷重伝達及び耐力の向上
接着系後施工(SD295A)
295
降伏点強度
剛性率・偏心率の改善
②S造水平トラス補強
③RC造壁新設
耐力の向上及び剛性率・偏心率の改善
(4)2階及び小屋面の構造伏図
④Exp.Jの拡幅
地震時の衝突の回避
⑤バルコニー部S造方杖
耐力の向上及び落下の防止
− 4−1 −
(9)解析モデルとその結果
(7)補強設計の特徴
①コンクリート強度について
圧縮試験に依るコンクリートの推定強度は、設計
基準強度を大きく上廻っていた為、採用強度は設計
基準強度の1.25倍を用いている。
②屋根面のダイヤモンド トラスについて
・屋根面トラスは、立体解析を行い鉛直および水平
荷重時の部材耐力および変位の検証を行ってい
る。水平荷重時の変位のクライテリアは、スパン
の1/500としており、余裕を持って許容範囲内に
納まっている。
・トラスとRC造部分の接合部は、後施工アンカー
の降伏耐力で決定し、脆性的な破壊が生じない事
を検証している。
③S造水平トラスについて
・トラスは、平面架構解析を行い部材耐力および変
位の検証を行っている。水平荷重時の変位のクラ
イテリアは、スパンの1/500とし且つ層の終局限
界変位以下として、検証している。
・トラスとRC造部分の接合部は、後施工アンカー
としているが、剪断滑り防止の髭筋を設けている。
・トラスが屋外に有る事から、部材は溶融亜鉛メッ
キ工法としHTBはF8Tを用いている。
④Exp.Jについて
・Exp.Jの拡幅は、靭性指標(F値)に依ってその必
要幅を算出している。
(8)耐震性能の比較
方向
X
Y
補強前
第2次診断法
Is≧0.70、q≧1.00
階
Is
q
2
0.30
0.46
1
0.34
0.52
2
0.44
0.67
1
0.25
0.47
F値
2.20
2.20
2.20
1.80
謝辞
本稿を纏めるに当たり、下記の関係者の方々のご理
解とご協力を頂きました。ここに記して、感謝と御礼
を申し上げます。
注)診断はゾーニングの手法による。ゾーニング中
・福山市および福山市教育委員会
の最小値を表記した。
方向
X
Y
補強後
第3次診断法
Is≧0.75、q≧1.00
階
Is
q
2
0.75
1.03
1
1.05
1.74
2
0.80
1.11
1
0.99
1.33
・福山市立神辺小学校
・譁K構造研究所
・広島県耐震診断等評価委員会(委員長:荒木 秀夫)
F値
2.50
2.00
2.50
2.50
引用文献
・福山市立神辺小学校 屋内運動場(棟番号22)耐震
改修・調査業務報告書(最終ダイジェスト版)
・同上:評価委員会・評価書
―以上―
− 4−2 −
岡山県の耐震改修の紹介
(譁ADO建築設計事務所 吉永 伸太郎 記)
岡山市立彦崎小学校体育館耐震改修
倉敷市立帯江小学校校舎耐震改修
本建物は、岡山市の南部に位置する彦崎小学校の体育
館である。1階が鉄筋コンクリート造、2階が鉄骨造で
ある。1∼2階妻面に鉄筋コンクリート造の耐震壁が設
置されている。竣工年昭和51年、延べ床面積567m2、軒
高さ9.3m、桁行方向がブレース構造、張間方向は、陸
屋根のラーメン構造である。
耐震診断の結果、2階鉄骨ブレース耐力不足により耐
震性能が不足しており、ブレースの取替えによる耐震補
強設計を行った。
鉄骨ブレースの設計に当り、楔デバイスを用いて座屈
現象を起こさず、完全弾塑性型復元力特性を有し、大地
震後の残留変形が生じないブレースである高松ブレース
(TB)耐震改修工法を採用した。(当時は特許権有り、
現在は認定工法として一般に普及している)
これにより、ブレース材の座屈現象がなく窓ガラスの
破損も防ぐことができる。
本建物は、倉敷市東部に位置する帯江小学校の校舎で
ある。鉄筋コンクリート造4階建て、竣工年昭和48年、
延べ床面積581m2、桁行方向がラーメン構造、張間方向
が耐震壁構造とラーメン構造の併用である。
耐震診断の結果、桁行方向の1∼3階で耐震性能が不
足していたため、枠付き鉄骨ブレース補強を行った。南
側は廊下に面しており出入り口を確保するためマンサー
ド形の鉄骨ブレース、北側は外付鉄骨ブレース耐震補強
工法を用いた。
桁行方向南面軸組図
ブレース詳細図
桁行方向北面軸組図
ブレース仕口上部楔デバイス写真
ブレース仕口下部写真
北面写真
−5−
山口県の耐震改修の紹介
(さくら設計譁
高山 淳 記)
宇部市立恩田小学校耐震改修
−デザインフィット工法による改修設計−
1) 建物概要
用途:小学校校舎
所在地:山口県宇部市
構造:鉄筋コンクリート造耐震壁付ラーメン構造
建築面積:1231.6m2
延床面積:3551.0m2
階数:地上3階
各階床面積:1階859.0m2、2階795.5m2、3階799.9m2
軒の高さ:12.20m
各階高さ:1階4.35m、2階3.85m、3階4.00m
スパン数:X方向25、Y方向2
デザインフィットフレームの配置(立面図)
5) 施工
鉄骨フレームを搬入するために開口部を撤去し、鉄骨
枠を固定後カバー工法により再取り付けを行う。
また従来デザインフィットフレームは上下で分割し現
地にてボルト接合するものであるが、本工事においては
1ピースにてフレームを嵌め込み補強を行った。
2) 診断結果
改修前
3階
2階
1階
X方向
Is
q
1.01
2.33
0.55
1.95
0.56
2.00
Y方向
Is
q
1.24
2.45
0.87
2.37
0.26
2.16
3) 改修方法
Is値が0.70を下回るためデザインフィット工法による
改修を行うこととした。
デザインフィット工法は次項に記載しているように、
既設RCフレーム内に鉄骨枠を設け、架構のせん断耐力
を向上させる工法である。
また、その他の改修方法として、既設壁にはスリット
を設け靭性を向上させる事と、開口閉塞を行い回転破壊
型の壁となるように改修を行う事で建物の耐震性能を向
上させている。
4) デザインフィット工法について
本工法はRCフレームに鉄骨フレームをアンカー筋で
固定し、周囲にグラウト(フィルグリップ)を充填する
ことにより既設建物と一体化、耐震性能を向上させるも
のである。
デザインフィット工法は、アンカー接合部にグラウト
を充填することにより鉄骨枠にシャコッターを形成さ
せ、アンカー筋とグラウトによるシャキー効果を期待す
るものである。
またシャコッター内部にはスチフナーを規定量配置す
ることで、コッター内に伝達されたせん断力がスチフナ
ーを介して鉄骨枠から鉄骨ブレースへと伝達されるよう
計画している。
上)デザインフィットのアンカー接合部
左)鉄骨枠の取付状況
6) 改修後
以上の工法により本改修工事において以下のような耐
震性能の結果を得た。
また教室内の鉄骨はフランジのエッジが鋭利であるた
め児童の安全を確保するためにシリコンゴム製のコーナ
ーガードを設けている。
改修後
3階
2階
1階
X方向
Is
q
0.76
2.04
0.72
2.00
0.74
2.58
Y方向
Is
q
0.99
2.29
0.79
1.83
0.87
2.00
7) 竣工写真
廊下側補強
デザインフィット工法の
鉄骨フレーム
−6−
教室内補強
島根県の耐震改修の紹介
(譌石倉保富建築構造設計 馬庭 和志 記)
松江市立八雲小学校 校舎耐震改修(RC3F)
松江市立乃木小学校 屋内運動場耐震改修
島根県の校舎は桁行スパン4.5mの物が多いが、本建
物は8.0mである。EXP.Jを設けず2期に分かれて建設さ
れ、階毎、工期毎の6区分のコンクリート強度 は11.4∼
14.3 N/mm2で半分の3区分で13.5N/mm2以下であった。
2次診断で、桁行方向Is=0.3程度、張間方向は1階が
極ぜい性柱のため0.48であるが、それを解消すればIs=
0.8以上の建物である。
島根県内の小中学校校舎の耐震補強は、柱梁架構面内
の耐震壁または鉄骨ブレースによる強度型の補強がほと
んどである。本建物も桁行方向は鉄骨ブレースの設置、
張間方向は、極ぜい性柱の解消もかねて既存壁の撤去、
再打設を行っている。
低強度コンクリートである事を考慮し、剪断耐力及び
靭性指標について、基準式で算定した値をさらに低減し
ている。また補強部材に用いる接着系アンカーの埋め込
み深さを10d以上としている。
島根県には、ギャラリーまでRC、それより上部が鉄
骨のRS1cタイプ(桁行ブレース構造、張間ラーメン構造)
の屋内運動場もS1タイプと同じくらい多い。桁行方向
のギャラリーから上の鉄骨ブレースは、設計時考慮して
いなかった、AiとFsおよび非保有耐力接合のため耐震目
標を満足しない場合がほとんどである。本建物も、既存
ブレースを撤去し、同じ位置に接合部を保有耐力接合と
なるよう補強し、ブレースを新設している。
張間方向は、上部鉄骨の耐力はあるが、ほぼピンに近
い鉄骨柱脚と、基礎の回転でメカニズムとなり、耐震目
標を満足していなかった。柱脚か基礎を補強することと
なるが、本件の場合、敷地に余裕があり建物の外に杭を
打設できたため、柱の外に壁・地中梁を設け杭を打ち、
基礎の回転耐力を増すことで目標値を満足させている。
また妻壁の1階部分に間柱があるが、地中梁もなく、
杭1本打であり面外方向に片持柱とならないため、ここ
にも杭を打ち補強している。
補強
鉄骨ブレース補強
鉄骨ブレース外観写真
張間基礎回転補強外観写真
鉄骨ブレース内観写真
張間基礎回転補強
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妻壁面外補強
鳥取県の耐震改修の紹介
(譌井手添建築設計事務所 井手添 誠 記)
鳥取県立倉吉農業高等学校 教室棟耐震改修
昭和34年に建設された鉄筋コンクリート3階建て、延
べ床面積1,323.90m2の普通教室棟である。コンクリート
強度は、設計時18.0N/mm2であり、コア抜き試験の結果
も設計強度を上回っており、良好であった。
診断時Isは、桁行き方向0.29∼0.54と全階で構造診断
判定指標0.7を下回っており、且つ、1・2階は、CTU・SD
についても0.3を下回っていた。梁間方向は、耐震壁が
設けられており、各階とも目標とする、構造診断判定指
標0.7、CTU・SD値0.3を上回っていた。
補強設計においては、桁行き方向の強度指標向上が必
要であった。この方向には、極脆性柱も存在していたた
め、鉄筋コンクリート雑壁を撤去し、内付け鉄骨ブレー
スを入れることで、極脆性柱の解消と、強度指標の向上
を図った。その後、構造診断判定指標に対して不足して
いる耐力を、外付け鉄骨ブレースを設置することで向上
させる設計とした。
外付け鉄骨ブレースは、鳥取県耐震診断等評定委員会
で示している「鳥取県外側耐震補強設計・施工の手引書」
のB−1型と呼ばれる「梁直接接合・柱間接接合」に依
った。
枠付き鉄骨ブレース架構を既存骨組みに柱内付け、梁
外付けで取り付ける工法である。
この工法は、鉄骨梁に直接アンカーボルトを締め付け
る工法であるため、最初に樹脂アンカーを既存躯体に施
工し、実測後、新設鉄骨梁に穴を開けるという施工精度
が求められる工事であった。アンカーボルト座金は、現
場溶接で止めている。
応力の集中するブレース交差部には、脱落防止のため
にPC貫通ボルトを設け、緊張力を導入して既存梁と増
設鉄骨梁の一体化を図っている。ただし、このPC貫通
ボルトの耐力は、接合部設計耐力には参入していない。
接着アンカー打設状況
アンカーボルト座金現場溶接状況
鉄骨ブレース詳細図
鉄骨ブレース建方状況
補強後全体写真
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(譁桑本総合設計 石倉 幸雄 記)
鳥取県立鳥取西高等学校体育館(講堂)耐震改修
構造・規模 鉄骨造1階 延面積 1482.73m2
軒高さ 9.55m
張間スパン 31.44m 桁行スパン 7.2m×6スパン
張間方向:柱・梁部材はアングルラチス・トラスの山形ラーメン構造
桁行方向 :アングルブレース構造(2層) 梁はトラス構造
接合方法:リベット接合
竣工年 昭和39年
診断結果 張間・桁行方向ともIs値は0.7以下 屋根面ブレースの荷重伝達能力無し
補強方針 張間方向は柱のラチス材接合部耐力が不足し、ラチス材も座屈耐力で柱のせん断耐力が決定しているの
で、柱のラチス部材を撤去し、弦材間にプレートを現場溶接にて取り付け、フルウェブの柱とした。
施工にあたっては、柱の片側のラチス材を仮溶接して、反対側のプレートを取り付ける方法として、施
工中の柱のせん断耐力をゼロとしない工法とした。
桁行方向及び屋根面については、鋼管ブレースを追加した。
柱補強詳細図
補強後の柱
桁行ブレース補強
屋根ブレース補強
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