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HERDSA2007 に参加して

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HERDSA2007 に参加して
Kobe University Repository : Kernel
Title
HERDSA2007に参加して
Author(s)
米谷, 淳
Citation
大學教育研究,16:93-101
Issue date
2007-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81006840
Create Date: 2017-03-30
HERDSA2007 に参加して
米谷
淳(神戸大学大学教育推進機構)
1.はじめに
大学教員の教育・研究・管理・社会貢献面の能力開発、あるいは資質向上のことを、
日本でもファカルティー・ディベロップメント(FD)と呼ぶようになっている。今、
日本の大学関係者の間ではその専門家、すなわち、ファカルティー・ディベロッパー
(以下、FDer と表記する。)の養成がホットな話題となっている。昨年3月に愛媛大
学で FDer のための本格的なセミナーが開催され、全国から 33 名の教職員が参加した。
カナダのマギル大学からウェストン教授を招き、愛媛大学の FDer である佐藤浩章氏
がファシリテーターとなって本格的なワークショップ型研修を行った。主催者・参加
者とも熱のこもった実のある研修であった。関西でも昨年関西 FD 連絡協議会が発足
して活動を開始している。2008年1月に立命館大学で学生授業評価に関するセミ
ナーを開催した。それはミニ講義とワークショップ形式の分科会を組み合わせたもの
であった。各大学で授業評価に携わっている教職員が集まって有益な情報交換・意見
交換をして交流を深めた。
HERDSA(Higher Education Researcher & Developer Society in Australia)はオ
ーストラリアの高等教育研究者と大学の FDer(オーストラリアではアカデミック・デ
ィベロッパーと呼んでいる)が一堂に会する年次大会である。HERDSA2007 はアデレー
ド市の中心にあるヒルトンホテルで2007年7月8日から11日までの4日間開
催された。私はそれに出席し、4日間オーストラリアの現職 FDer の発表を聞き、時
には参加者と議論をした。そして、FDer について考えた。4日間に聞いた講演・発表
をふりかえりながら、わたしがアデレードで感じたこと考えたことをまとめてみるこ
とにしたい。HERDSA2007 の報告に入る前に、私が参加することになった経緯を説明し
ておく。
2.HERDSA2007 に参加することになったいきさつ
神戸大学大学教育推進機構大学教育支援研究推進室では、昨年まで2年にわたって
文部科学省委託研究で国内外の大学を訪問して大学教育改革、とくに、教養教育の動
向を調査した。私と山内准教授は2006年3月にメルボルン大学とニューサウスウ
ェールズ大学を訪問して面接調査をした。2007年3月には大学教育支援研究推進
室の専任教員である私と川嶋教授と山内准教授の3人で香港中文大学を訪れた。その
他、川嶋教授は欧米英の先進大学の視察を行っている。 xlvi
昨年1月、メルボルン大学高等教育研究センターからケリー・リー・ハリス博士が
来て、授業評価とピアレビューに関する講演をした。そこで彼女は次のように話した。
オーストラリアでは、全国統一の学生授業評価(Course Experience Questionnaire;
CEQ)と卒業生調査(Graduates Destination Survey; GDS)がなされており、それが
個々の教員の評価から政府による大学評価(とそれに基づく予算の傾斜配分)までに
使用されている。最近、大学へのpeer review xlvii の義務付けが全豪教育担当副学長会
議で議論されており、キャリック・インスティチュート xlviii で基準作りが進められて
いる。
講演後、私はpeer reviewの全豪基準を作成しているキャリック・インスティチュ
ートのことが気になりだした。当時、神戸大学が全学的なWebによる学生授業評価に
踏み切ったところであった。また、ピアレビュー xlix が本学のFDの次なる課題として
研究会等で検討されていた。「オーストラリアのFDの趨勢は授業評価からpeer review
へ変わろうとしている」と話すケリー・リー・ハリス博士は学生授業評価についての
研究と実務に携わっている現場の専門家である。私も授業評価の開発・運用・実務に
携わってきており、学内外でピアレビューについて実践研究をしてきた。ケリー・リ
ー・ハリス博士の話では、キャリック・インスティチュートはできたばかりの組織で
あり、peer reviewの基準作りが今そこで進められているとのことであった。それは
どのような組織なのか。そして、全豪の大学が統一的に実施しようとしているpeer
reviewは具体的にどのようなもので、その目的は何か。こうしたことについて関係者
に直接会って話を聞くために、私は山内准教授と2007年6月に再びオーストラリ
アに行くことにした。
6月4日の夜に羽田を発って5日早朝にシドニー空港につき、出迎えのタクシーで
キャリック・インスティチュートに向かった。そこでデニス・チャルマー部長に面接
調査をした l 。所長のジョンストン教授とチャルマー部長と一緒にシドニー湾に面し
た眺めのよいレストランで昼食をいただいた。その席のことである。
「オーストラリアの高等教育の動向、とくに、あなた方が関心をおもちのFDの現状
を知りたいなら、ぜひとも7月にまた来てください。オーストラリアの各大学から多
くのアカデミック・デベロッパー li が集まる年次大会がアデレードであります。私も
そこでキャリック・インスティチュートのプロジェクトの報告をします。」
チャルマー部長のその一言で私は翌月のアデレード行きを思い立ち、さらに、帰国
後届いた彼女からのメールにより決心した。年次大会に参加することにより、オース
トラリアの FD の現状を把握するだけでなく、FDer たちと実際に会って話をしたい、
彼らの役割意識や葛藤や悩み等についても聞くことができればと思った。
3.HERDSA2007 報告
インターネット登録・会場
HERDSA はオーストラリア以外の大学教員や高等教育研究者も参加できる。参加申し
込みは HERDSA のホームページからできる。HERDSA の年次大会に参加するには、その
年の学会費と大会参加費をあわせて支払えばよい。ホテルの予約も大会ホームページ
からできた。私は交通の便を考えて HERDSA2007 が開催されるヒルトン・アデレード
を予約した。閉会式は帰りの便の都合で出席できなかったが、毎日 9 時から 5 時まで、
最終日(午前中のみ)も 9 時から 11 時まで、どれかのセッションに出席した。文字
通り 4 日間の大会期間中ホテルに缶詰めであった。大会では毎日、ビュッフェ形式の
ランチとクッキー付きのティーブレークがあったので、夕食を除けば全く外出する必
要がなかった。4 日間過ごしたヒルトン・アデレードは申し分なかった。大会では大
会議場から小会議室まで 10 室ある2階のフロアを貸し切りで使用していたが、設備・
サービスともに満足のいくものであった。泊まった部屋も快適でありレストランも素
晴らしかった。
写真1
HERDSA2007 の会場となったヒルトン・アデレード(後方のビル)
大会初日
7月7日、七夕の夜、関西国際空港からシドニーに向けて飛び、翌朝シドニー空港
で国内便に乗り換えアデレードに向かった。大会会場であるヒルトン・アデレードの
フロントでチェックインする際、大会事務局からの封筒を手渡された。それを2階の
大会受付にもっていき、プログラムと予稿集などが入った布製の手提げ袋を受け取っ
た。手提げ袋には HERDSA2007 のマークがプリントされており、国際学会に参加した
ような気分になった。それをもって大会議場に入ると、開会式が始まろうとしていた。
写真2
会議場で基調講演をまつ参加者たち
開会式に引き続き初日の基調講演があった。メルボルン大学のマーギンソン教授が
オーストラリアの高等教育の現状と課題を総括した。その趣旨をまとめる。知識経済
におけるこの 10 年間の成長を科学論文の数でみると、韓国(14.3 倍)、シンガポール
(6.3 倍)、台湾(5.7 倍)、中国(4.5 倍)、ブラジル(4.1 倍)が著しく、オースト
ラリアは 1.5 倍になったにすぎない。世界の大学ランキング 100 位以内の大学の数を
みても、米国(50 校)、英国(15 校)、日本(8校)より少ない。一方、オーストラ
リアの高等教育は、公的財源の縮小、基礎研究の余力の減少、奨学ローンの削減、オ
ーストラリア人大学生の減少、留学生の長期低落傾向など、大変厳しい状況にあり、
しっかりと対策を講じる必要がある。質疑応答では、マーギンソン教授が保守党と労
働党のいずれを支持するかを質問する者もいた。与野党が伯仲した11月のオースト
ラリア連邦議会選挙を前に、高等教育政策も論戦の俎上に上がっていたようである。
lii
写真3
大会初日のマーギンソン教授による基調講演の風景
大会事務局からのお知らせがあり開会式が終了した。それから別室でワインとチー
ズを囲むささやかなパーティーが開催された。見ず知らずの人々の間に恐る恐る入っ
ていき部屋の隅でワインを飲んでいると、何人もの参加者から声をかけられた。「日
本から来ました」「初参加です」と言うと珍しがられたが、気軽に話ができ、すぐに
懇親会の雰囲気になじむことができた。オーストラリア人らしい気さくさもあろうが、
同業者としての連帯感や仲間意識といったものを感じた。アットホームな雰囲気づく
りが初日にきちんとなされているところに大会運営者の技量の一端を見た思いがし
た。
2日目
初日の夜、プログラムと予稿集をめくりながら、2日目のスケジュールを決めた。
2日目は午前9時から基調講演があった。その後午前10時20分から午後5時
1
5分まで、すべての時間帯で9本立てでプログラムがびっしり埋まっていた。どれも
これも聞きたいものであったが、今回は初めてということで、テーマを Academic
development にしぼることにした。その結果、同じ部屋ばかりにいることになった。
2日目の基調講演では英国シェフィールドハラム大学のクレグ教授が高等教育研
究の動向について話した。高等教育研究も医学研究のように多様化し境界がどんどん
シフトしているという趣旨であった。その中で、学生の学び、盗作、競争と共生など
が取り上げられていた。
次に、sessional staff development、すなわち、非常勤講師として教壇に立つ大
学院生(sessional teaching staff)を対象とする FD についての発表を聞いた。ウ
ーロンゴン大学では最近、授業担当者全体に占める院生非常勤講師の割合が増えてい
る。これにより教育の質の低下を招かぬよう、FD をしっかりやることが必要とのこと
だった。また、メルボルン大学の FDer が新人チューターを指導するための効果的な
方法を紹介していた。学生の学びに焦点を絞ること、望ましい学習環境をつくりあげ
ること、フィードバック、参画など学生指導の要領を、FDer が新人チューターと交わ
す日常会話の中に埋め込ませることがポイントであり、相互参観、プレゼンテーショ
ン、グループワークを組み合わせた FD をしているとのことだった。昼食前に聞いた
もうひとつの発表では、ベルビンのチームロール理論を用いてグループセッションの
効果性を評価する方法が紹介されていた。集団力学が専門であり集団技法を得意とす
る私にとって興味深いものであった。また、参加者の反応からもオーストラリアの
FDer が集団技法に親しみ、よく研究していることが伺え、元気づけられた。
昼食後、academic developmentについての発表を 3 件聞いた。中でもリー教授らの
グループによる報告は注目すべきものだった。彼女らはHERDSAの研究プロジェクトと
してオーストラリアのacademic developmentの歴史を調べる作業 liii をこれから 1 年
間進め、来年の大会でその報告をするとのことだった。私はこれを聞いて、また来年
もHERDSAに来る必要があると思った。
3日目
大会3日目の9時から貴重な講演を聞くことができた。ベルギーにある欧州大学連
合から招待されたアンドレ・サーソック博士が、ボローニャシステムの最新の動きに
ついて話した。彼女によれば、国際標準化の焦点が学士課程から修士課程や博士課程
へと移行しつつあるとのことだった。米国のように過剰ともいえる競争原理の行使で
はなく、共生原理をもとに大学改革を進め、EU らしい共同の形を求めようとしている
という彼女の言葉には、紛争を乗り越え団結しようとしている EU ならではの気迫と
自信が感じられた。
写真4
欧州大学連合サーソック博士によるボローニャシステムについての講演風景
次は6月に会ったキャリック・インスティチュートのチャルマー部長による講演で
あった。それは「高等教育における教授・学習(teaching and learning)の質と測
定法」と題するものであり、全豪の大学を射程に収めた 5 年間の国家プロジェクトの
計画と 2 年目までの進捗状況が報告された。その中で、peer review の基準作りが進
められていることが確認された。チャルマー部長が「キャリックは皆さんとともにあ
る」と述べた言葉が印象深かった。組織もプロジェクトも HERDSA のメンバーのため
のものであり、ボトムアップのプロセスを重視しているという。確かに、キャリック・
インスティチュートは連邦政府の補助を受けているものの、国家機関ではなく、むし
ろ全豪大学連合付属機関のような性格をもつ。
オーストラリアでは FD が政府からのトップダウンでなくボトムアップである。連
邦政府は、高い国際通用性を保っていくため、すなわち大学の質保証のために、厳格
でフェアな評価を行うが、各大学の自由で多様な営みを生かそうと最大限の配慮をし
ている。個々の大学がそれぞれの事情に合わせて創意工夫している営みを一律に規制
し、基準に合わないから、すぐに結果が出ないからといってトライやチャレンジを断
念させずに、支え、励まし、じっくり見守ろうとしている。その役割こそがキャリッ
ク・インスティチュートのミッションなのだろう。
キャリック・インスティチュートのホームページをみると普及(dissemination)
という言葉が目に飛び込んでくる。各大学の良い点を検証し、優れたやり方があれば
普及させようとしている。キャリック・ファンデーションという制度がある。日本の
GP 制度のようなものかと考えていたが、その運営にかなり違いがあることがわかった。
HERDSA2007 では、その資金援助を得たプロジェクトの報告がいくつもなされていた。
それらを共通していたのは、どのプロジェクトも複数の大学(の FDer や高等教育研
究者)が参加しており、その計画や進捗状況について、フロアと真剣に議論をしてい
たことである。質疑応答ではプロジェクトリーダーからフロアに「皆さんの意見をぜ
ひともプロジェクトに反映させたいので、なんでも言ってください」という呼びかけ
がなされていた。HERDSA が、オーストラリアの高等教育政策、とくに、FD や質保証
について関係者が一堂に会して議論・提言する場であったのだ。大会3日目にしてよ
うやくこのことに気がついた。
全豪の大学を影に日向にサポートしているキャリック・インスティチュートの姿勢
が、「肝っ玉母さん」のような大柄で、いかにも包容力がありそうなチャルマー部長
の姿に重なって伝わってきた。弱くて発育の遅い子どもでも、温かく優しく見守りな
がら支え導き励まし伸ばそうとする母親の愛のようなものを感じた。たとえどんなに
大変でも、個々の存在を大切にし、あせったりあわてたりあきらめたりしない。それ
ぞれの生きる力を尊重し、伸びが悪いから、雑草みたいだからといって根絶やしにし
ない。キャリック・インスチチュートの熱く、温かい意気込みが彼女の講演からも、
ひしひしと伝わってきた。チャルマー部長の講演を聞きながら、私は、日本の FD、神
戸大学の FD、私の部署の取り組みについて、いろいろと考えた。
その後、午後5時過ぎまで6件の発表を聞いた。看護学生の研究能力向上、教員志
望の学生に理科の面白さを体験させる活動、大学教員としての発達をテーマとするも
のであり、日本と共通な点が多く認められた。
4日目
大会最終日となる4日目は、HERDSA 会長である西オーストラリア大学のデボウスキ
教授による基調講演から始まった。「高等教育の学問的発達についての批判的反省」
という副題をもつ講演では、オーストラリアの FDer が現在置かれた状況が伺えるも
のであり、私の調査目的にかなったものであった。現在、もはや 30 年前の FD(オー
ストラリアでは AD)の枠組みではうまくいかなくなった。米国は FD から research
development にシフトしている。オーストラリアでは FD を今後どのようにすべきか、
ふりかえりながら直面する課題に新たなチャレンジをしていかなければならない。こ
のように論じるデボウスキ会長からは FD を研究と実践の有機的な関係を保ちながら、
FDer どうしが協力して欧米にまさるとも劣らぬ水準にしてきたオーストラリアの高
等教育関係者の意志と自信が感じられた。日本の現状を思い起こし、私は少々羨望と
苛立ちを感じた。
デボウスキ会長の講演に感銘した後、3件の発表を聞いた。その中で、クイーンズ
ランド大学のオブライエン教授らによる「FDer の日常生活」と題するセッション(発
表と集団討議)では深く考えさせられた。3人の FDer がそれぞれ、ある1日の仕事
内容を時系列にまとめて紹介し、その後参加者どうしが各自の振り返りをもとに集団
討議した。FDer が他の教員よりも役割意識で混乱や葛藤を生じやすいこと、そして、
実際多忙であり、よほど時間管理をうまくしないとやっていけないことなど、共感す
る点が多くあった。一方、FDer が専門家として大学やオーストラリアの高等教育の改
革や発展に貢献しているという自信と、今後も実践研究をしながら外国に負けない水
準を保っていく意志や使命感が感じられ、久しぶりに FDer としての自分が励まされ
た気分になった。
4.おわりに
4日間のプログラムは盛りだくさんであり、参加者も常時 500 人以上は会場にいた
ように思う。プログラム変更が最終日にあったものの、全体的によく準備され、スム
ーズに運営されていた。この大会で私がとくにユニークと感じた点をあげるとすると、
2つある。ひとつはアクティビティーの高いセッションが多かったことである。ディ
スカッションセッションでは、必ず参加者が小集団で討議をしたし、講演形式のセッ
ションでも、発表を簡単に切り上げて、発表者がフロアの意見や質問を積極的に求め、
それをもとに説明を膨らませていこうとしていた。もうひとつは、各セッションで、
出席者の中から3名が評価シートを渡され、プレゼンテーションと質疑応答について
評価したことである。まさに、peer review が粛々となされていた。私も2回ほど評
定者となった。また、レフリー付き発表論文集(予稿集とは別売。CD-ROM 版もあった
が、私は印刷されたものを購入した。)にアクセプトされた発表にはプログラムにマ
ークが入っており、相応の扱いをされていた。もっとも、それ以外の発表も私が聞い
たものには雑なもの、水準の低いものはなかった。こうした大会運営の仕方に、オー
ストラリアの高等教育者の学生中心・学び重視の姿勢や、よい意味での評価文化を垣
間見た気がした。
どのセッションでもフロアと発表者の間で熱のこもった討論がなされていた。そこ
では、シニカルで悪意を感じるような失礼なコメントや相手をただ論破したいがため
の攻撃的な質問はなく、学びあい教えあいしながら、互いによりよいものをめざそう
とする姿勢が感じられ、とても温かく感じられた。同時に、科学性を重んじ、データ
に基づいて仮説を検証し、批判的思考をしながら論理的に結論を導き出そうとする研
究者らしい態度が伝わってきて大いに感心した。
形式主義や形骸化に陥らずに、実質的な質向上を続けていくには、プライドと連帯
感に基づいた切磋琢磨、相互批判、協調と共同が必要である。個々の組織や個々の成
員が自発的・能動的に、かつ、周囲と交流しながら支えあいながら、ともに成長し、
質を向上させ、高い水準を保っていこうとする風土こそが肝要である。オーストラリ
アの FDer の大会に出て、組織開発や人材開発をする上で最も大切なことを改めて確
認した。
xlvi
文部科学省委託研究「今後の『大学像』のあり方に関する研究−教養教育(学士
課程教育)−」報告書を参照されたい。
xlvii
同僚や専門家による授業評価のこと。授業参観だけでなく、シラバス、教科書、
教材、試験問題なども含めて総合的に授業の実施状況や教員の教授能力を評価するも
のであり、広義のピアレビューと言える。本稿ではpeer reviewと表記する。
xlviii
The Carrick Institute for learning and teaching in higher education
xlix
教員による授業参観、あるいは、相互授業参観のこと。狭義のピアレビューと言
える。本稿ではピアレビューと表記する。
l
キャリック・インスティチュートについての調査報告は改めて別な機会に行う。
li
オーストラリアでは英国同様、FDerをアカデミック・デベロッパーと呼んでいる。
lii
2007 年 11 月の選挙では、それまで 11 年間政権の座にあった保守党が破れ、労働
党が勝利し、ケビン・ラッドが首相になった。
liii
オーストラリアのFDerの第一世代の人々はすでに高齢になっているので、主要な
人物だけでもインタビューしておきたいということがプロジェクトの主な理由のひ
とつであるとのことだった。
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